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*野試合SS・雪蔵その1
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「次のニュースです。日本再生党の飯田カオル氏が―――」
テレビではニュースキャスターがその日の出来事を読み上げている。
「文、コーヒーを持ってきたの」
「ああ、すまない」
応接室でテレビを見ていたエプロン姿の女性は声に振り返ると少女から手渡されたコーヒーカップを受け取る。
「ここにはなれたかな。リュネット」
「大丈夫。文が色々としてくれたから」
「そうか。それならよかった」
リュネット・アンジュドローが迷宮時計により送り込まれた桜並木の世界。
あれから一ヶ月が過ぎ、上野公園の事件の事は風化しほとんど報道されなくなった。
被害者として警察に保護されたリュネットは本屋文に引き取られた。
本屋文のことは知っていた。
リュネットがいたアリマンヌ教会児童館にも彼女は来ていたから。
もちろん彼女はリュネットの世界の本屋文とは別人である。
そもそも彼女はリュネットが知っている文よりも少し若い。
それはこの世界がリュネットの世界よりも過去であるからだろう。
そして彼女は当然のようにリュネットが事件に関わっていることに気づいていた。
彼女のことを知っている人間からすれば
真相に気付いていてそれでもよいのかとリュネットが文に問えば、
「私は別に正義の味方じゃなくて、子供の味方だからな」
と笑っていた。
それからリュネットは文の家にいる。
こちらの世界で友人もできた。
眞雪は悪い人間ではないのだが、とんでもない武器を持ち出しては巻き込むのはやめて欲しいと思う。
美弥子は大変だったのだろうとリュネットは思う。
今は元の世界にいた時よりも幸せなのかもしれない。
だが、
だが、それでもリュネットは元の世界に戻りたいと願う。
彼女にとって一番大切な人がこの世界にはいないから。
&ruby(リュネット){彼女}にとって一番&ruby(シスターセシル){大切な家族}が。
それはこの世界にアリマンヌ児童館のシスターセシルという女性は存在しなかったという事ではない。
本屋文がこの世界に存在したように彼女もまたこの世界には存在した。
しかし彼女は&ruby(リュネットが会いたかったセシル){リュネットの世界のセシル}ではない。
彼女はリュネットを知らないし、思い出も共有していない。
別の人間なのだ。
だから、ラトンに言われたように踊りを学んでいる。頑張って彼が満足する踊りを身につけられるように。
そして、元の世界に帰れたときセシルに見せられれば素敵なことだと思う。
彼女と二度と離れない。制止する彼女を振り切ってこんなところまで来てしまった、自分がバカだったのだから。
「リュネット。私は書庫で本を整理するつもりだから、先に眠っててくれ」
「わかったの」
リュネットはそのまま部屋から出ていった。
◆◆◆◆◆◆
「ここはどこ……なの……」
目が覚めたとき
どこかの倉庫……のようにみえる。
周囲には所狭しと並べられた大量のコンテナが見える。中身は蟹だろうか?
「寒いの……」
空気が冷たい。少し眠っていたからだろうか。身体が冷え切っている。
確かにリュネットは部屋にいたはずなのに。
迷宮時計?
いや、そんなはずはない。あの日廃糖蜜ラトンに敗れたとき、確かに彼女の迷宮時計は失われた。
では、なぜ?
わからない。
とにかく彼女にとってここは良い空間でないことは確かだ。
彼女は決して寒さには強くない。
そしてここが桜並木の世界でないのならば、なんとかして戻らなくては。
ラトンが現れたとき元の世界に戻ることができない。
そこへ現れた人影。真っ白な髪の小柄なアルビノの少女。
探偵コンビ柊時計草と風月藤原京であった。
『花刑法庭 -フラワーコート-』開廷。
藤原京を中心に空間が切り取られると周囲に美しい花弁が咲き乱れる。
柊時計草と風月藤原京は上野公園の事件について責め立ててきたが、メガネ=カタの力と美しきロスマリンを駆使してナントカ倒した。
「もうすぐここは崩壊します」
どこからともなく現れた飴びいどろが叫んだ。
二人はガラスの力でナントカ脱出。
そして雪蔵は崩壊した。
◆◆◆◆◆◆
気がついたとき、リュネットは彼女に与えられた部屋で机に伏して眠っていた。
「……夢?」
本当に夢だったのだろうか。
わからない。それにしては現実的だった。
もしかすると時逆順が気まぐれに起こしたいたずらだったのかもしれない。
どちらにせよリュネットは桜並木の世界に再び戻って来れたということだ。
今日もセシル似合うために頑張ろう。
そう誓うとリュネットは部屋の扉を開いた。
END
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