「第一回戦SS・氷河その1」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

第一回戦SS・氷河その1 - (2014/10/17 (金) 00:47:35) の編集履歴(バックアップ)


第一回戦SS・氷河その1


モノローグ「いつの世にも果てぬ好事家達の欲望。

時空移動魔人が、動物達が人間の危険を知らない時代へ跳び、

捕獲した過去の生物を希少動物愛好家へ売りつける。

《超時間密漁》

その実態を探るため俺は氷河期へとワープした」

『来た』『はじまった』

ジジジ、ジジ、ジジジジ……

乱れた画面が一転クリアになる。
鍵付きコミュニティで時空を越えて生放送が開始される。
一面の銀世界。

画面に割り込んでくる黒いグラスに目元を覆われた赤・橙・黄色の覆面。

カメラが少し引き全身が映る。
『おつ』『わこつ』『お、きたね』グラス内側にコメントが流れる。
炎と雷の意匠とゴテゴテとした手甲とレガースを備えたヒーロースーツを纏う男。

平和の守り手ブラストシュートだ。

「アブソリュートポジションN215 W448 E265 S73。ポジション確認。

アブソリュートタイムD1583226年51時49分01秒。

西暦変換すると紀元前102014年10月17日5時59分。

無事タイムワープに成功した。コードナンバー514338。調査を開始する」

パーパラパー♪流れ出す音楽、流れだすナレーション

ナレーション「魔人ヒーロー・ブラストシュート。

あらゆる時代にワープしながら時空を越えて名もなき人々を時空犯罪の魔の手から救う。

TIME SAVE HEROである!」

パーラーラー、ダダッダダッ、ダダッダダッダーン!

モノローグ「紀元前約10万年。氷河期の地球。

比較的生物の豊富なこの辺りに密猟者が現れるという情報をキャッチした俺は張り込むことにした」
『仕込みはおk?』『つーかこれいつも思うけど何基準に同期してるの』『やばい迷宮時計やばい』
俯瞰映像。遠く険しい雪山を背景にもつ一面の銀世界に伏せるブラストシュート。

「この時代の動物にとって俺は時空を越えた存在だ。彼らにとって俺は宇宙人のような存在だ。

俺自身の介在によって歴史を変える恐れが有り得る。よって特殊な潜入術を用いる。

それについては極秘事項のため見せることは出来ないが今回も無事成功した」

伏せたブラストシュートの足先に、白い毛に覆われた鼠に似た小動物が戯れる。
『あれ紐で繋いでるんだっけ?』『そうそう動きがちょっと不自由そう』
『懐いてる』『特殊な潜入術ェ…』『洗脳・・・いや動物に?』
『……罪もない動物を巻き込むなんて』『出たA子』『良い子ちゃんだねー』
しばし何事も無く時は過ぎる。
『私は相手を嘘の犯罪者に仕立てることにも納得してない』『じゃあヒーローに私闘させる?』『……』
照りつける太陽が氷河に反射して煌く。
『のどかだね~』『大丈夫?計画変更なし?』『焦るなって』
と、錆付いた巨大な鉄板を軋ませたような、高いような低いような深くて重い音が響く。
『ktkr』
「今の音は……早速向かってみよう」

カメラが切り替わり、身を起こし低い姿勢で走り出すブラストシュートが大きく映しだされる。

「やはり思った通りだ。」

ブラストシュートが指差す方へカメラが向くとそこには立ちのぼる雪煙。

その前には小さな人影。
『よっし予定通り』
雪煙の中に巨大なマンモスの姿が見えてくる。再び響くあの音。マンモスの雄叫びだ。
『公開版だとただのツーショットに血とか足すんだっけ』『A子あとで編集よろしく』
マンモスは体のあちらこちらから血を流し人影から逃げていく。
実際には暴れていないしそれによる雪煙もない。マンモス生息域で偶然成立したツーショットだ。
「幸運なことに密猟の現場に遭遇することが出来たようだ。」
『うはwww発見してからわざわざ離れたくせにwwwwww』
密猟者へズームしていくカメラ。
『警察関係者からの情報だと何でも斬れる剣と不死身のチンコの二択だっけ?』
徐々にその姿が明らかになってくる。
『ペニスを剥くと剣。剣を根元からなぞるとペニス』
ショートヘアの女性。バニースーツ。燕尾服。毛皮のコートを羽織っているが前は閉じていない。
『剣持ってなかったら不死身で凍死も防げる可能性』『こっちの活動限界考えると持久戦やばい』
「現在の気温は0.8℃。あの格好は無理して気取っているのか高い耐久力の表れか……」

『痴女だ』『自意識過剰なブスだろ』『スイーツw』

密猟者は刃渡り120センチはある長大な剣を右肩に担ぎ、

左手に持ったバナナを食べながら余裕綽々といった様子でマンモスを追っていく。

『スイーツは違うくない?』

「あの剣でマンモスを狩る気か。なんてムゴイ!早く倒したいが環境への影響を考えると、
『正義の味方・炎雷系の必殺技って設定がフィールドと噛み合ってないな』
炎系の大技は控えなければならない。ひとまず雷系の技で捕獲を試みる!」
『引きが悪いの誰?』『祥勝』『祥勝』『祥勝』「A子」『祥勝』『祥勝』『祥勝』『祥勝』
宣言して飛び出していくブラストシュート。
『満場一致で祥勝!』『相手はあの戦闘破壊学園のOBで魔人警官や自衛官にコネがあるんだろ』
「『魔人ヒーロー・ブラストシュート』参上!残酷卑劣な密猟者め、裁きの雷を受けろ!」
『あっちもこっちの手の内知ってる想定』
『名乗った!』『さすがヒーロー!』『正義の味方もつらいよね』
『彼女警備会社で犯罪者相手に違法な戦闘してるんでしょ?』『でも警察からはお目こぼし』
ブラストシュートに気づいた密猟者がバナナの皮を捨てて振り向く。
『似たもの同士か』
「……へえ、不意打ちすれば良いものをヒーローさんもつらいねぇ……

けどその甘さが命取りだ。あんたの手口はお見通しだぜ有名人さん!」
『手口ってどっちの意味?表の?裏の?』「(小声で)手が出しづらい……」
女性らしからぬ、だがそれゆえ犯罪者らしいとも言える荒い口調で挑発する密猟者。
『てゆか密猟者って言われたの否定しないの?』『乗ってくる?』『余裕のつもりかムカツク』
抜き身の剣を左腰に佩くように沿わせ刃の根元に左手を添えて半身になる。居合いじみた構え。
『どうせ編集・加工されるって知ってるからじゃね?』
だが1・2歩の踏み込みで剣が届くような距離ではない。

手から炎や雷を撃ちだせるブラストシュートの有利な間合いだ。

『撃っちゃえ撃っちゃえ!』『犯罪者なんて殺せばいいのに』

じりじりと密猟者の左手側へ回り込むブラストシュート。
「(小声で)こうも乗ってこられると手が出しづらい……」『様子見で何か撃ってみよう』
追従する密猟者。

上空カメラからのコンパスじみて円を描く二人の映像が挟まれる。

『いかにもそれっぽい雰囲気』『緊張感あるね』

再び二人を横から捉えた映像へ切り替わった瞬間。

「サンダーショット!」

ブラストシュートの左手が閃き、密猟者に向かって稲妻が放たれる!
左手が懐に隠した拳銃を取り出し射撃する。『相変わらずの早撃ちだね』
だがしかし!密猟者の右手が閃き同時に体が右回りに一転!翻るコート!

再び居合いの姿勢に戻った密猟者には僅かにも傷ついた形跡はない。

モノローグ「俺は自分の目を疑った。密猟者の剣をまったく捉え切れなかったのだ」
『ギェェェェェ』『ちょ、普通に剣技で防いじゃう!?』『不死身能力要らないじゃん!』
残像すら生じない超高速の斬撃。

「なかなかやるな!」立て続けにサンダーショットを放つブラストシュート!

だが密猟者がクルリクルリと旋回すると、その度に高速の稲妻が掻き消える!

『おおおおおおおお』『居合い?』『最速技が追いつかん!』『雷って切れるのか!?』
『剣でこれだけ防御できるなら小技でとか悠長なこと言ってられん』『いったん仕切り直そう』
「必殺サンダーブラスト!」右手を添えられた左手から一際大きな稲妻が撃ちだされる!
手甲上部が開き銃口が露出。散弾が発射される。
しかし再び密猟者の右手が閃きその身がクルリと回ったとき、

そこにはやはり無傷で居合いを構える密猟者の姿が……消えた!
『面の攻撃すら防ぎきるかよ!』
氷河に積もった雪が爆発的に舞い、密猟者が一息に距離を詰める!

その足にはピンヒール。とてもそうは思えない確かな足捌きで氷河を踏みしめ剣を一閃。
『ふざけた格好のくせに強いな』『やっぱり余裕ぶってんじゃね?ムカツク』
ブラストシュートは後ろへ身を引くが長大な剣の生む間合いを読みきれず腹部が浅く斬られる!

『ブラストシュートー!』『やばい。負傷は久しぶりだ』
『今まで下調べと不意打ちで圧倒してたから怪我は久々だね』『たまにはピンチも美味しいけどね』
「ハッハー!どうしたどうしたヒーローさん!」

さらに詰め寄る密猟者にブラストシュートは雷を纏った左手を向けるがそこには既に敵の姿はない!

『ブラストシュート後ろ後ろ!』『うしろー』『後ろ!後ろ!』
『祥勝後ろ!』『後ろだ避けろ!』
リプレイ映像。地面すれすれに倒れこむような姿勢でブラストシュートの背後に回りこむ密猟者。

モノローグ「凄まじい足首の柔軟さと強靭さ。

ピンヒールを履いて雪上でこれだけの動き。犯罪者でなければ賞賛に値する。

だが冷静に密猟者の動きを読んだ俺は身をかわし相手の捕獲を試みる」

「パラライズボルト!」左手から放たれる緑の稲妻。
左の手甲下部からワイヤーネットが射出され密猟者に覆いかぶさる。
だが剣を二振りしただけで稲妻は掻き消され、さらなる追撃を受けるブラストシュート。

再び浅く捉えられながらも後ろに跳んで距離をとったブラストシュートの足元に亀裂が走る。

それはたちまち辺りに広がり降り固められた雪の下に隠れていた巨大なクレバスが姿を現す!
ブラストシュートが小さな塊を地面に叩きつける。たちまち辺りは煙幕に包まれる。
そしてブラストシュートは……その暗闇へと飲み込まれた……
その隙に離れた雪溜まりに伏せて小さく畳まれた白い布を広げて被る。
『ブラストシュートー!』『ブラストシュート!!』『ガチでやばくない?』『ブラストシュート!』

暗転する画面。
『追ってこない?』『仕切りなおし成功!』

『A子予定通りクレバス落ちでよろしく』『水落ち・崖落ちで仕切りなおすのは特撮の伝統だしね』

『分かったぜ』『何が?』『居合いのタネだよ』『もったいぶるな馬鹿』

『コートが翻ったとき背中側のレオタードがボロボロだった。居合いのフリしてチンコに戻してたんだ』
再び画面が光を取り戻す。とはいえ両側を氷壁に挟まれて薄暗いそこはクレバスの中。
『抜刀の動作で剣をなぞってたのか!』『そそそ左手を添えなければ剣のまま斬撃』
ブラストシュートは地上を目指してクレバスを登っている。
『でもそれが分かってどうなるさ』『結局防御は不死身だよりだってこと』『?わからん』
上部から光が差し込んで明るさが増してくる。
『剣では攻撃を捌ききれないってことだよ!』『それ分かっても不死身能力が消えるわけじゃないし』
ついに地上に戻るブラストシュート。
『いや待った。先に剣で攻撃させてカウンターを狙えばいける』『そういうこと』
モノローグ「ようやく地上に戻った俺は見失った密猟者を探すべく移動することにした」
『同じモーションからの絶対防御と絶対切断の二択の対応は結局面倒けど……』『でも勝機は見えたか?』
上空からの俯瞰。地上を併走。屈んで雪面に目を凝らすブラストシュートを中心にパン。
『とりあえずストーキングして、仕込んだポイントのどれかで仕掛けよう』「了解」
次々に映像が切り替わる。
『本物の密猟者なら逃げることもできるけど時計所持者はそうはいかない。実際あいつも攻めてきてた』
モノローグ「ついに俺はやつの痕跡を発見した。そう遠くはないようだ」
『こっちに気づかせてからわざと隙を見せて攻撃を誘おう』
画面が切り替わり、一面の銀世界の中、すっくと立つブラストシュート。
『偽居合いに惑わされたけど結局は事前に検討したとおりか』『手品なんて種に気付けばちょろい』
モノローグ「もう一度逃がせば今度は別の時代に逃げてしまうかもしれない。

そうなればもはや見つけ出すことは不可能だ。俺は多少手荒でもここで決着を付けることにした。」

キッと顔を上げた先、10数メートルの所にあの密猟者がすでに例の構えをとっている。

『決着』『あれ出しちゃう?』『もう決め技?』『効くのか?』

右手を腰溜めに構えるブラストシュート。その拳が赤黒い光を纏う。

「シューティングボルケーノ!」

叫びと共に突き出された右拳から放たれた赤黒い光弾は、しかし密猟者を外れて背後の雪面に着弾する。
突き出した右手に注目を集めておいて、こっそり左手に握られた小さなスイッチ。
遠すぎて狙いが定まらなかったか?だが一拍の後、密猟者の背後で地面が幾つも盛り上がる。
スイッチに掛かった親指が押し込まれ、
ただならぬ気配に背後を窺う密猟者。そして、隆起が爆発!マグマを噴出する!!
迷宮時計に召還されてすぐに仕込んでおいた仕掛けのひとつ。雪中に埋めた爆弾が爆発する。
『違ったか』『派手にやるな』『環境への影響とか言ってなかったっけ』

時間差で密猟者の側にも隆起が生まれ爆発!さらに手前で爆発!爆発!!!!!

『やったか!?』

中の様子は窺えない。だが黒煙と高熱による大気の揺らぎを割って駆け抜けてくる人影!
『爆発背負って走るとかむしろあっちがヒーローっぽいな』『ちょっとまずかった?』
黒く煤け、所々を火傷に赤く腫らしながらも剣を左腰に構え怒涛の勢いでジグザグに距離を詰める密猟者。
『やっぱり無傷か』『予定通りだし問題ない』
だがブラストシュートは既に次なる技の準備に入っている!

胸の前で構えた右腕には炎、左腕には雷が龍のごとく纏わりつき徐々に大きさを増していく。
爆発が起こっている間に雪下から掘り起こしたガトリングガンを両手で保持するブラストシュート。
『キター』『やはりか』『炎雷両属性合わせ技!』『みんな行くぜ!!!!!!』

腕と同等の大きさへ育った龍は手のひらの先へとその身を移し、互いに連なり円環を形成。

高速で回転しながら急速に圧縮。その姿を消した。

静寂。

そして……

「悪党よ!己の罪にその身を喰われろ!究極!必殺!」

『究極!必殺!』『究極!必殺!』『究極!必殺!』『究極!必殺!』『究極!必殺!』『究極!必殺!』

『究極!必殺!』『究極!必殺!』『究極!必殺!』『ウィー! アー! チャンプ!』『究極!必殺!』}

「ウロボロス・エグゼキューション!!!!!!!!」

『氏ね>チャンプ』『チャンプ氏ね』『チャンプ死ね』『氏ね』『氏ね』

 &color(gray){『チャンプ氏ね』『氏ねチャンプ』『いや、チャンプは悪くない』『市ね』}

『チャンプは空気読まない』『氏ね』『市ねチャンプ』『チャンプうぜえ』

ブラストシュートが一際声高く力を込めて叫んだ瞬間。

ゆるく曲げられた両手のひらの間から炎と雷の巨大な、

たやすく人を飲み込むほど巨大な二重螺旋が敵に向かって迸る!
ガトリングガンが唸りを上げて滝のごとく弾を吐き出す。
『チャンプwwwww』『wwwwww』『なんか巻き込まれとるwwwwww』

&color(gray){『 とばっちりwwwwww』『チャwwwンwwwwプwwww』『チャンプwww』}

『チャンプ!』『wwwww』『チャンプ』『ヤンプwww』『チャンプwwwwwww』

&color(gray){『チャンプかわいそうwwwwwww』『氏wwwねwwww』『チャwwwンwwwプwwww』}

『tヤンプ』『wwwww』『やばいwwwチャンプwwww』『wwwwwww』

密猟者はあっという間もなく炎と雷に飲み込まれ姿を消す。

だが、二重螺旋がその姿を細くしていくとともに、

それに向かって両の足を踏ん張り怒涛の連撃を繰り出す密猟者の姿が現れる。
『剣に比べりゃ軽くて小さいチンコ振り回してるだけだもんな。そりゃあ速いし剣が見えるわけもない』
さすがに威力の余波を消しきれないか衣装こそボロボロになっていくが本体は無傷である。
『決め技で盛り上がったところで申し訳ないけどいったん落とす!』『ここで通用しないのは布石』
そして炎と雷が完全に消え、力の反動に硬直するブラストシュートを認めた途端、
弾の尽きたガトリングガンがカラカラと空転するのを見るや否や、
密猟者はすかさず飛び出し斬りかかる!「これで終わりだ似非ヒーロー!」
『居合いのカラクリに気づいてないフリ、と』『気付いてることに気付かれてても単調な流れに慣れさせる』
危うしブラストシュート!!

だが!

「ウオオオオオオォォォォォラアアァアァァア」

気合一発ブラストシュートの足から炎が噴き出し、その身を高く打ち上げる。
レガースに仕込まれたロケットが着火。
なんとか剣の餌食になることは避けたが、突風に流されバランスを崩し剥き出しの氷面に叩きつけられる。
細かく制動を行いあらかじめ決めた目的地点を目指す。
「グバハッ!」

衝撃で肺の中の空気を吐きだしゴロゴロと転がっていくブラストシュート。

フラフラと頭を振って立ち上がりどこまで飛んできたか確認する。

ブラストシュートの顔の横から撮られた主観映像風のアングルでぐるりと一周していく。

と、回転がピタリと止まる。

一面のモザイク。

モザイクの下には、雪であろう白の中に数え切れないほどの赤い何かが散らばっているのが窺える。

『モザイクキターwwwww』『死体?』

モノローグ「そこにあったのは無数の斬殺された動物の死体だった。

ペンギンに似たその動物はおとなしくて無害。

また数の多さと捕獲のしやすさからマニアにとっての価値は低い。

密猟者にとって殺さなければならない理由などない。

つまり奴は楽しみか鬱憤晴らしかそんなくだらないことのために多くの無垢な命を奪っていたのだ。」
『俺らにはただの銀世界に祥勝がボーっと立ってるだけだけどA子がちゃんと頑張れば盛り上げ所になるぜ』
キッと顔を上げた先、密猟者は逃げもせずに追ってきている。

己の強さ、勝利への確信ゆえか気負うことなく余裕の表情を浮かべている。

「お前は絶対に許さない!」

モノローグ「俺は莫大なエネルギーを喰っていたスーツの局地用生命維持機能をOFF。

これであとは3分しかこの環境に耐えられない。

浮いたエネルギーは全て身体強化機能に回す。

次の技は正真正銘の全力だ。本来の身体強度では耐え切れずに技を放つ前に死んでしまうのだ」

『新技か?』『奥の手ってやつ?』『死亡フラグ?』

「フィジカルバージョンアップ! 」

ブラストシュートのスーツが左から黄色主体の直線的なデザインに変化。

天から雷が降り直撃。画面が黄色い光に染まる。ブラストシュートに帯電。
雪下から機関銃を取り出し右手に構える。
「RISING!(ライジン!)」

ブラストシュートのスーツが右から赤主体の曲線的なデザインに変化。

足元の地面が割れ炎が噴出。画面が赤い光に染まる。ブラストシュートは赤熱。
雪下から散弾銃を取り出し左手に構える。
「ENDING!(エンジン!)」
『雷神&炎神』『だ、駄洒落にしても苦しい』
再び左からの変化が始まり中心で停止。右に炎、左に雷を纏った姿になるブラストシュート。
『これまでと違って2種の射撃に意識を分散させる!』『と見せかけて本命は手首に仕込んだブレード!』
2種の異なるエネルギーがぶつかり、弾け、ブラストシュート自身を焼く!
『弾切れ後に銃を捨てて隙を見せる。斬りかかってきたら逆に懐に入る!』
「ハッハ!いまいちよく分からんが掛かってこいよ!」
『ここまで使ってない近接系に対処できるもんかよ?!』
徹底して変わらない構えをとる密猟者。
ブラストシュートの両手の銃が火を噴き、密猟者が旋回し防いでいく。
腰溜めに両手を構えるブラストシュート。
『ここは大技一発で決める流れだから射撃の動作は消して、相手もちょっと前の構えの映像をループね』
反発しあっていたエネルギーが徐々に統合されていく。
機関銃の射線が相手の急所をなぞり、時折散弾が面の攻撃を仕掛けるがまったく効いていない。
方向性を揃えられた力はかえって今まで以上の激しさで暴れ狂う。
そうする内にまず散弾が尽き、ついには機関銃も弾が切れる。
二人の間で高まる緊張感。
ブラストシュートは次に備えるように銃を捨て、隙を晒してみせる。
そして、ついに……
そして、ついに……
「ハァァァァァッァァ!!!!!」

爆発的に飛び出す密猟者!迎え撃つブラストシュート!

「あの世で罪を贖え!天獄!セレスティアルインフェルノ!!!!!!!」

ブラストシュートの纏うエネルギーが一気に両手に収束。

爆発的閃光。

真っ白に染まった画面の中。一瞬で交差する両者のシルエット!

光が落ち着き少し離れて背を向けあう両者が映る。

1秒。

2秒。

「ゴバッ!」

がくりと膝をつき血を吐くブラストシュート!しっかと立つ密猟者!

3秒。

4秒。

突如爆発四散、塵と化す密猟者!

『おおおおお』『うおおおおおおおおおおおお』『勝った!』

『なんかわかんないけど勝った!』『よっしゃああああああああ』

『おめでとう!!』『おおおおおおおおおおおお』『おめ!』

モノローグ「こうして俺はようやく超時空密猟者を退治することに成功した。

だが時空間犯罪者はまだまだ多い。俺には休んでいる暇などないのだ。

次の犯罪が行われる時空間絶対座標を特定すべく俺は現代へ帰還することにした」

「コードナンバー514338。ブラストシュート。アウトする」

プツンと映像が消え真っ黒になる。

流れだすエンディングテーマ。

真っ黒な画面に文字が流れる。

《その後の調査によると密猟者に狙われていたマンモスは、

つがいとなる雄を見つけ多くの子供にも恵まれ天寿をまっとうした》

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
後日。

「なるほど、これが公開されたバージョンってわけだ……」

先ほどまで正味30分弱の動画が流れていたパソコンのモニターから目を上げて、

浅尾は『無縁双生児(ツインズ)』に確認する。

さすがに今はバニースーツではなく、透け感のある白のシャツに黒のホットパンツ。

中身は男のくせになんかエロイがまあ常識の範囲内の格好だ。

「よく出来てる。いわば『出演者』の俺だって完全には加工部分が見分けられないな。

っていうか裏を知ってると虚実入り混じってワケわかんねーし。

まあ、あいつ俺のことなんか本当の意味では見てなかったし、

あいつと戦ってた気がしなくてまともに記憶に残ってないんだけどな」

「「ふ~ん、で、私たち裏を知らないんだけど最後はどうやって倒したのよこれ」」

「あー、さすがにつまんなくなってきたし、何か狙ってるのは分かったからちょちょいと奥の手で」

渋い顔で目をそらす浅尾。

「「出た。私たちにも秘密の奥の手!いつもはぐらかすけどいい加減に教えてよ!」」

ますます渋い顔になる浅尾は(そろそろ完全なだんまりは限界だぞ)と覚悟を決める。

「いやあ、そんなに大層なことじゃないんだけどこういうのは一応隠すものだしな。

……1回しか言わないぞ?まっすぐいって左ボディでぶち抜いた。それだけだ」

それを聞いた『無縁双生児』はきょとんとしたあと顔を赤くして地団駄を踏む。

「「わかんないわかんないわかんなあああああああああい!それがなんで奥の手なのよ!!」」

すごい剣幕に浅尾は慌てて話を逸らす。

「ま、まあともかく、ブラストシュートが生き残ったことにした以上、

中の人を変えれば《ブラストシュート》は続けられるわけだ。ふん『ヒーローは永遠に不滅なり』ってね」

そう言って顔をしかめる浅尾に、

大声で叫んで少しだけ発散できたらしい『無縁双生児』は腰に手を当て肩をすくめてみせる。

「「いいんじゃないの!?」」

「そうだよ、別にいいんだ。偽善も善なりってね。

それにここまでして続けたがる黒幕さんは案外本当の善意なんじゃないかって気もするさ」

(だからかな、なんだか何かに妬けるのさ)そんなことを思う浅尾。

「「でもこれであんたは世間的には犯罪者なんだけど?茶番好きとはいえどうかと思うよ」」

少しばかり怒ったような表情になる『無縁双生児』

身内に犯罪者がいるとなれば希望崎学園同窓会にとっても嬉しいことはない。

「大丈夫だよ。ブラストシュートは戦闘に限っては生放送をしない。

その時点で純粋な正義のヒーローだと信じてるのは一部の信者だけだ。

ネットをちょっと漁ればわりと真実に迫った情報も転がってる。

それでも人々はヒーローを求めてる。たとえ高みの見世物としてでもね……」

「「うぇぇ皆わかっててヒーローごっこに乗ってるわけ?結局一番怖いのは普通の人間かぁ」」

浅尾はパソコンの電源を落として立ち上がり『無縁双生児』に背を向け部屋の出口へ向かう。

「だから茶番だ。ぜ~んぶ茶番だ」




※裏側を見たい方は全体を選択状態にしてください。