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「大魔城学園卓SS『星を見る』」(2018/12/31 (月) 00:15:34) の最新版変更点
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彼女には全てがあった
不可能が無い訳ではない
望むもの全てを手にしていたというだけだ
彼女には全てがなかった
手に入るものが無い訳ではない
望むものがなかっただけだ
彼女には多くのものがあった
優しい母がいた
素敵な父がいた
誇れる血があった
欲しいものはなんだって買ってくれた
解けない問題はあんまりなかった
人間関係も悪くなかった
それでも
彼女──私は満たされなかった
──────
────
──
12歳の春
&color(#FF9900){「んー? あれ おかしーなー」}
私はこの奇妙な小動物と対面していた
そいつは私に向けて手鏡のようなものを向けて、首を傾げている
&color(#FF9900){「あっ うわぁ……おまえも へんなやつ!」}
&color(#9900CC){「随分と失礼な小動物ね」}
つい本音が出てしまった
私は今、所属する寮を決める組分けの真っ最中だ
&color(#FF9900){「アトはアトだぞ」}
少し不機嫌そうになった小動物を見下ろす
この小動物は"アト・ランダム"、固有名詞なのかどうかは知らない、同類を見たことないし
&color(#FF9900){「それより ううーん」}
組分けの方法は簡単だ
大ホールの壇上で一人ずつ、この小動物の前に引きずり出される
それからこの小動物に鏡を向けられ、そこで一つの問いかけをされる
その問いかけは四寮と呼ばれる四つの寮に結びついたものであるらしいが……
&color(#FF9900){「おい きいてるのか!」}
&color(#9900CC){「聞いてないわ」}
いつの間にか呼ばれていたらしい
気付かなかったのはどれもこれもこの小動物が悪い
&color(#FF9900){「はーーーーーーーっ」}
溜息を吐かれた。生意気ね
&color(#FF9900){「おまえの こころを みせてもらった」}
あの手鏡がそういう類の魔道具なんだろう、というのは把握している
だから、特に驚いた様子は見せなかった
&color(#FF9900){「おまえの こころは よるのいろ だ!」}
──夜?
私は小動物の言葉に首を傾げてみせる
&color(#FF9900){「さいしょは まっくらで こわれたのかと おもった}
&color(#FF9900){ だけど ちがった。 これは よるだ」}
なんとなく、大ホールで会話に花を咲かせている入学生達を一瞥してから小動物に視線を戻す
&color(#FF9900){「おまえの こころには なにもない}
&color(#FF9900){ せいぎも! こうふくも! けついも!」}
ビシッ、と効果音でも付きそうな感じに私の事を指さしてくる
&color(#FF9900){「だけど かすかに あおがあった。 あおは ろまんのいろ だ!」}
──ああ、そうか。私は──
&color(#FF9900){「でも その"あお"も すごく よわい}
&color(#FF9900){ すぐに かききえて しまいそうなくらい」}
この小動物は感傷に浸る暇はくれないらしい
&color(#FF9900){「だから アトは といかけで きめることにした!」}
すぅ、と息を吸って、吐き出しておく
私が何かに答える時の小さな癖
&color(#FF9900){「リィン・フィルレイン=アンサラー! おまえが ほしいものとは なんだ!」}
&color(#9900CC){「星よ」}
用意された問いに、用意しておいた答えを告げる。それだけだった
何か不満でもあるのか、問いを投げた側の小動物がじっと見つめてくる
少しして首を傾げられ、私も同じように首を傾げて
それから、小動物の口が開かれた
&color(#FF9900){「……それだけ?」}
&color(#9900CC){「それだけ。」}
もっと仰々しい口上でも求められていたのだろうか
確かにそういう事を言う人間も居たが、簡単な答えだけで組分けを終えた人間も多かったはず
&color(#FF9900){「もうちょっと くわしく」}
&color(#9900CC){「星よ」}
詳しくと言われたって、その答えしか用意していないし
&color(#FF9900){「……むむっ むむむむむむ」}
考え込んでしまった
私が悪かったのだろうか、それにしても考える時間を与えなかったのはあっちだ
&color(#FF9900){「おまえは よくわからない}
&color(#FF9900){ わからないけど わかることがある」}
小動物が両手を腰に当てて、語り始める
少しだけ変わった雰囲気に、私も少しだけ姿勢を正す
&color(#FF9900){「おまえには ほしいものが ある}
&color(#FF9900){ それは せいぎでも こうふくでも けついでもない}
&color(#FF9900){ おまえが ほしいもの おまえが もとめているもの}
&color(#FF9900){ それは ゆめ とか ろまん とか そういったものだ」}
彼は一息にそこまで言い切ると、息を吸い直して
&color(#FF9900){「ことばで しめすのは せいかくじゃない}
&color(#FF9900){ でも おまえは ルミナスコインだ!」}
断定口調で語られるのは好きじゃない
それでも、不思議と嫌な感じはなかった
それは私の性質を示していたから
自分でもそうだと納得できる答えだったから
私は彼に小さく頷くと、壇上を後にする
階段を降りきってから振り向くと、彼は既に次の生徒を見ているところだった
────私は
中断された思考を再び巡らせる
僅かな時間ではあったが、問いかけによって得られた答え
その答えに辿り着いたのは私だけではないのが癪だけど
──"求めるもの"を求めていた
不可能に挑み、自身の理想を貫きたかった
可能性を追いかけていたかった
届かないものに手を伸ばしたかった
『星を見る』
それだけが私の願い
&color(#9900CC){「だから私の心の在り処は、ここにある」}