概要
発達障害とは、一般的には、発達期に現れた認知、運動感覚コミュニケーションなどの障害を総称するもので、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが含まれます。
なお、法律上(発達障害者支援法)では、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの」とされています。
発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。
発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を活かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。
発達障害は、生まれつき脳の働き方に違いがあるという点が共通しています。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。
発達障害に共通する特徴
●障害自体が完治するものではない
先天的な脳や神経系の障害であるため、特性自体が大きく変化したり、障害自体が完全に治るものではありません。
●発症は乳幼児期~小児期
発症は乳幼児期~小児期であり、通常低年齢で症状があらわれます。成人になってからその症状に気づき、診断を受ける場合もあります。
●発症の原因は完全にはわかっていない
明確な原因は解明されていませんが、遺伝的要因を含む複数の要因による影響があると考えられています。
しつけや育て方、努力不足などが原因で発症するものではありません。
●複数の障害が併存することもある
発達障害のうち、いくつかの障害が併存することがあり、知的障害を伴う場合もあります。
●二次的な障害が併発することもある
特性を理由とした様々な困難により、精神疾患を発症したり、行動面に障害が起きるなど、二次的な障害を併発することもあります。
各発達障害の診断基準の概要
自閉症スペクトルラム症(ASD)
注意欠陥・多動症(ADHD)
他の障害との比較
ほかの障害と比較して、身体的な障害や、多くの場合、知的な遅れもないことから、周囲から「障害」と思われにくく、現れる行動が「親のしつけが悪いから」、学習が進まないのは「本人の努力が足りないから」、動き回るのは「子どもがふざけているから」などのように、誤解を受けやすい障害といえるでしょう。本人の努力不足や親の育て方に問題があると「指摘」されてしまうことが多いので、 ほかの障害のような「見えやすい障害」とは異なった「生活のしづらさ」、あるいは「生きにくさ」がある障害といえます。
これにより、本人や家族は非常にストレスの多い状態におかれたり、いじめにあったり、不登校になったりするなど、本人の抱えている障害というよりも、周囲の無理解、誤解、偏見差別、いじめなどにより、さまざまな生活上の問題を呈するようになり、生活のしづらさが増幅されます。
自閉症の研究者ハウリン(Howlin,P.)は、「もし皆さんが自分の周囲で起きていることの意味がよく分からず、その状況の推移への見通しを立てることもできず、さらに自分の要求を十分に訴えるための言葉を持たないで、その上その苦境を脱出するための想像力もはたらかないとしたら、皆さんは自分がどのように反応を示し行動をとることになると思いますか」と発達障害のある人の「生活のしづらさ」の理解を求めています。
発達障害者の生活ニーズ
発達障害のある人の「生活のしづらさ」は、コミュニケーションなどに障害があるとすれば、それを周囲の人の理解や支援によって補うことにより、生活のしやすさを確保していくことが重要になります。発達障害のある人が、自分の発達障害との付き合い方をマスターし、周囲の人は、その人との付き合い方をマスターすることが可能になったとき、発達障害は限りなく個性になるといえます。発達障害は「理解と支援の必要な個性」であるといわれています。
発達障害の支援
発達障害の支援には、主に心理社会的なサポートと、薬物治療があります。
●薬物治療
自閉症スペクトラム障害(ASD)や限局性学習障害(SLD)の中核症状への治療薬はありませんが、注意欠如・多動性障害(ADHD)には、多動性・衝動性・不注意といった中核症状への効果が認められている薬があります。ただし、症状を根本から治すものではなく、一時的にやわらげるものであり、心理社会的なサポートと併用していく必要があります。
●心理社会的なサポート
ご本人に対する療育・支援としては、
行動面:応用行動分析
認知面:認知行動療法
対人関係:ソーシャルスキルトレーニング などがあります。
ご家族に対しては、障害や対応方法の理解を支援する、ペアレントトレーニングなどがあります。
支援の例
発達障害のある人々の障害を情報処理の機能が弱く、情報の洪水のなかで生活しているようなものであると推測すると、その介護的対処とは、以下のように整理することができるでしょう。
①できるだけ情報量を減らし、同時に、二つ以上の情報を出さないことが考えられます。構造化というのもこの延長線上にあります。
例えば、手を握りながら話すことは、一般には親和的で好ましいやり方ですが、発達障害のある人の場合、握られた手の知覚だけでいっぱいになり、言われたことは全く耳に入らない場合もあります。
②変化への不安から抵抗があるとすれば、変化はできるだけ避け、変化についてはあらかじめ明示しておく必要があります。予定であれば変更は極力避け、どうしても変更が必要なときは必ず予告を行うように心がけます。毎日変わる介護職で不安定になる場合には、特定の介護職による支援の必要性も出てきます。
③概念化や抽象化が苦手であれば、具体的に、あるいは絵を見せるなどの手段を用いて説明する必要があります。「うまくやって」などの言葉も、本人にとっては、何を、どのように、どのくらいやったらよいのかわかりません。何を、どのように、どのくらい行うかを例示することが必要です。
④見通しを立てることが困難である場合には、スケジュール化が必要です。行うことに見通しをもってもらうために、直線上にならべて、行ったことはチェックして、残っているスケジュールが何かを確認できるようにしておくことも考えられます。達成を確認するためには、耳からの情報だけでなく、メモや絵にして視覚的にわかりやすく行う必要があります。
⑤感覚過敏の場合も多く、それが対人関係を困難にしたり、パニックの原因になったりしている場合もあります。環境に配盧し、雑音の多い場所を避ける必要もあります。パニックを起こす場所など、その要因を分析して、それを起こさせない手だてをあらかじめ考えておくことも大切です。
最終更新:2023年04月21日 06:51