ss-09 終着点──諜報員ト少女ニ──
『───目 標 ノ 殲 滅 ヲ 最 優 先 ト ス ル───』
女神が、言葉を吐いた。
紅い紅い複数の眼で睨まれたナイトレーヴェンは、少しながら動くことに躊躇った。
「何、が……」
ガトリングを向け、なんとかトリガーを引く。
しかし、既にアルテミスはその場にいなかった。
「後ろか…ッ」
振り返って陽電子砲を放つが、AURAの神々しい光がそれを遮断する。
「な、に…?」
≪攻撃兵装、アトラディション、展開≫
アルテミスとは違う女の声と同時に、アルテミスが、右腕のビームブレードを投げ捨て、突然構築された巨大な剣を構える。
「チィッ」
その薙ぎ払いを軽快な動きで避け、ガトリングで牽制する。
左腕のショットガンを投げ捨て、アトラディションを両腕で構え、その表面で受け止める。
「な…クッ」
『喰らえ…!』
合成音と同時に、再び大剣が一閃。
「がッ…」
左腕のエアインテークを切り裂いた。
「き、さま…!」
ガトリングを振り回すが、射撃兵装では鈍器以下だ。
「チィッ」
大剣の上から蹴り飛ばし、跳びあがって銃を乱射する。
『その程度で…』
瞬間移動を思わす機動性を叩きだし、左に避けるアルテミス。
≪攻撃兵装、ブリッツライフル、展開≫
何も装備していない左腕には長い銃身のライフルが装備される。
ドン、ドン、と2発の弾が放たれる。しかし、ナイトレーヴェンは簡単に交わして見せる。
(対応策は…)
≪回避機動は私に任せて、アルテミスは攻撃に集中してください≫
(…、了解)
「そろそろ、終わりにさせてもらうッ!」
変形。
一直線にこちらに向けて突貫してくる。
(落ちつけ…)
(狙えば、当たる)
左腕を動かし、ブリッツライフルを発砲する。
ドォ、と音が鳴り、弾が発射される──が、斜めになった傾斜装甲で弾かれた。
(…ッ)
≪アルテミス≫
(……)
斬り払う。
ショートレンジに入る瞬間、右腕を大きく動かし、横なぎに一閃する。
バキ、と、敵機の右腕がブレードを受け止めるが、鋭さがそれを許さず、切り裂いた。
女神と鴉。
悪魔軍と天使軍。
アルテミスと、ナイトレーヴェン。
距離は無かった。
重い大剣を振り払うと同時に、手を離す。
左腕を強引に動かし、零距離から狙う。
敵機も、左腕をこちらに突き出していた。
『……』
「……」
互に笑う。
言葉もなく、互に。
どちらからということもなく、動いていた。
───ヴァンガード様。
彼女の中で、何かが開放された気がした。
目を覚ましたのは、薄暗い場所だった。
「起きたか」
「ヴァンガード…様……?」
彼女の全身は、既に従来のカラーに戻っており、今はBSが外され、寝かされている状態だった。
「無理しやがって。あんな機構、俺は作った覚えはないぞ」
「…すみません」
「いや……。謝ることでもないけどな。お前はよくやってくれたよ」
褒められるのがうれしくて。
あの時聞こえたあの声は、本当に“アストラエア”のものであったのかは解らない。
音もなく、アルテミスは上半身をあげる。
「おい、無理すんなよ」
「アルテミス、これから…」
「ヴァンガード様ぁっ」
言い終わる前に、泣きついたように、飛び付かれた。
(いや…。抱きつかれた、か)
コレだけを見ると、身体は大きくとも、まだ小さい少女だった。無理をさせた。
ヴァンガードの忠実なる戦闘兵として生み出された彼女。彼女自身はそれを知らないだろうが、これからも生きていきたいと思うのか。
「……アルテミス、これから」
「ヴァンガード様と、一緒に居ます」
「……。そうか」
嫌だとは、思わなかった。自分が言おうとしたことでもあった。
これから色々なことがあるだろう。もちろん、辛いことも。
──それでも、二人ならば耐えられる気がした。
ss-Epilogue.
惑星シャーオックドルグ基地、一人の男が座っていた。
その中に、入ってくる別の男。
「よう、お疲れ様だなぁ?」
最初に座っていた男──デルファイター=アビアティックは、入ってきた男に声をかけた。
「……。さてな」
目を細めながら、入ってきた男──デルファイター=ヴァンガードは、アビアティックに声を返す。
ヴァンガードを裏から操ってきた男、アビアティック。
ある時は敵に協力者として忍び込ませ内側から壊滅させ、ある時は裏切り者を排除する。
現在は、その報告会と言う形である。
「結局、処分はしなかったのかよ」
「…ああ」
従来、アルテミスは戦闘を終えると、処分される予定だった。が──
「なんでだ?」
「……」
「ハハッ、お幸せにな」
「…黙れ」
全てお見通しとでもいうかのように、アビアティックは笑いながら喋る。
「危なかったな、あれは」
ヴァンガードが、沈黙を破る。
「ナイトレーヴェン、だっけか?」
「ああ。…流石、自分が最高の技術を用いただけはあった」
「自惚れんじゃねぇよ」
「五月蠅いな」
(ヴァンガードか。よくやったものだ)
彼は、手駒だった。
手駒である彼は、実に忠実に働いてくれていた。
「そうだな」
静かな空気。唐突に、アビアティックが口を開く。
ヴァンガードが顔を上げ、こちらを見る。
「“諜報員”と」
アビアティックは皮肉な笑いを上げながら、言葉を続ける。
「なんというべきなんだろうなぁ?」
言葉と同時に、ヴァンガードは目を細めながら、静かにこちらを睨めつけてくる。
(見え見えだっつんだよ。俺様にはよぉ)
「──“少女”に」
手駒であっても、せめて、二人の未来を想うことくらいは、許されるはずだった。
[了]
最終更新:2011年12月07日 17:32