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ms3_898-902

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ms3_898-902 - (2013/06/07 (金) 14:35:04) のソース

雨の日は嫌いだ。 
あの重く垂れこめる、鉛色の空を見ただけで気が滅入る。多分、誰だってそうだろう。 
そんなことを考えながら、ボク―苗木誠―はため息を吐いた。 
窓から外を眺めても、目に入ってくるのは雨模様の空だけ。 
せっかく作ったてるてる坊主は、なんの役にも立ってくれなかったみたいだ。 
そのこともまた、ボクの気分を沈ませる。 
「おはようございます、苗木君」 
不意に、背後から聞き覚えのある声がした。 
「あ、おはよう。舞園さん」 
その声の主―舞園さんの方を振り向き…思わず、ギョッとした。 
「えっと…どうしたの?ずぶ濡れだけど…」 
そう。舞園さんは、その綺麗な青髪の先から足の先まで、水が滴りそうなほどにずぶ濡れだった。 
「大したことじゃないですよ、ちょっと傘を家に忘れてしまっただけで……」 
鼻声混じりで、彼女はそう答える。…普通、梅雨の時期に傘を家に忘れるだろうか? 
まぁ…舞園さんはたまに天然なところがあるし、仕方ないのかもしれない。 
「とりあえず体拭いたほうがいいんじゃない?風邪ひいちゃうかもしれないよ」 
「それは…そうなんですけど…」 
舞園さんは困ったように目を伏せる。 
「…もしかして、タオルとかハンカチとかも家に置いてきた…?」 
「はい。だからちょっと困ってて…」 
「じゃあ、ボクの使う?まだ使ってないからさ」 
バックからハンドタオルを取り出し、舞園さんに差し出す。 
「本当に、わざわざすみません…」 
「いや、別にいいよ…大したことしてないし」 
「ありがとうございます。ちゃんと、洗ってから返しますから」 
そう言うやいなや、舞園さんはボクの手からハンドタオルを取り、足早に駆けて行ってしまった。 
…雨で濡れた舞園さん、色っぽいなぁ… 

昼を過ぎても雨脚は収まらず、結局雨は[[放課後]]まで降り続いた。 
ボクは日誌を書いていたせいで、他の皆よりも少し校舎を出るのが遅れてしまった。 
急いで脱靴場へ向かったところ、そこでは不安げな顔をした舞園さんが空を見上げていた。 
「あれ?どうしたの、舞園さん?」 
「いえ…傘を忘れちゃったので、雨が止むのを待ってるんです」 
あぁ…そうだった。だから、今朝はあんなにずぶ濡れだったんだ。 
…でも『雨が止むのを待ってる』って、確か今日は終日雨の予報じゃなかったっけ? 
「ねぇ、舞園さん。だったら、一緒に帰らない?ボクの傘結構大きいし、舞園さんスマートだから、二人くらいなら何とか入ると思うんだけど…」 
「え?い、いいんですか?」 
「うん。もし舞園さんが良ければ…」 
「もちろん大丈夫です!実は、もしもこのまま雨が止まなかったらどうしよう、って思ってたんですよ」 
舞園さんはそう言うと、いそいそと近づいてきた。 
―そこで気づいた。 
『ボクが傘を持ったら、舞園さんは窮屈なんじゃないだろうか?』 
悲しいことに、ボクは舞園さんよりも5cmほど身長が低い。 
普通はそこまで気にならない差だけど、傘という密室の中では、それは致命的な差になるんじゃ…? 
かと言って、舞園さんに持たせるのも…男子としてどうかと思う。 
「そうですね…じゃあ、二人で持ちましょうよ」 
「え?」 
驚くボクをよそに、舞園さんは続ける。 
「ですから、二人で傘を持ちましょう、って言ったんです」 
たまに彼女は、少し常識はずれなことを笑顔で言う。 
でも今回は、その常識はずれがありがたい。 
「うん。じゃあ、行こっか」 
「はい!」 
ボク等は二人仲良く、傘を握って歩き出した。 

「ふぅ…久しぶりに、二人っきりでお話出来ますね」 
「久しぶりだっけ?ボク、舞園さんとは結構喋ってるつもりだったけど…」 
「なかなか、『二人っきりで』っていうチャンスはありませんからね…お互い、忙しいですし」 
今朝も二人っきりだったような気がするけど…わざわざそんなことを言って、このいいムードを壊すのも嫌なので言わないでおいた。 
「あ、そうえいばこの前、舞園さんが出てた番組見たよ」 
「本当ですか!?嬉しいです…」 
「ああいうの見ると、やっぱり舞園さんって雲の上の人なんだなぁって実感しちゃうね…」 
「む…雲の上の人なんかじゃないですよ…私はちゃんと、ここにいますから」 
舞園さんの傘を持っていない方の手が、ボクの手を握りしめてくる。 
「うわっ…ちょ、ちょっと、舞園さん!?何するの!?」 
「私を雲の上の人、って言ったことへの"オシオキ"です」 
拗ねた顔つきで、彼女は平然とそんなことを言い張る。 
【超高校級のアイドル】にこんなことをして貰えるとは、ボクの【幸運】も捨てたもんじゃないのかもな… 
「あはは…ごめん、もう言わないからさ」 
「…もう、次そんなこと言ったら、もっとヒドいことしちゃいますよ!」 
『ヒドいこと』って何をするんだろう…その時のボクには、そんな好奇心と良心との葛藤があったけど…勝ったのは良心だった。 
ということで、それからの帰路は雑談を楽しんだ。 

翌日―天気は曇天。 
どうやらここに来て、てるてる坊主がちょっとだけ仕事をしたみたいだ。 
それに加えて今朝の占いが1位だったので、ボクは昨日よりちょっとだけいい気分で、学校に向かうことができた。 

「あ、苗木君!おはようございます!」 
「あぁ、舞園さん。おはよう」 
朝イチから舞園さんの笑顔が眩しい。ベタな比喩だけど、本当に輝いているみたいだ。 
「これ、昨日はありがとうございました!」 
そう言って、舞園さんはカバンから白い布を手渡してくる。昨日ボクが貸したハンドタオルだ。 
…もちろん、しっかり洗ってあるのだろう。 
手渡されたそれを受け取り、何の気なしに舞園さんのカバンを見てみると… 
「あれ?もしかして舞園さん、新しいストラップ付けた?」 
「あ、気づいてくれましたか?昨日、自分で作ったんですよ!」 
「へぇ~、上手だね!」 
「そうですか?…そうだ!これもう一つ余分に作っちゃったんですけど…良かったら、いりませんか?」 
「え、いいの?じゃあ、貰っちゃおうかな」 
舞園さんはボクがそう答えるのを待ち構えていたかのように、瞬時にカバンの中からお手製のストラップを取り出した。 
どうぞ、と手渡されたそれをよく見て、ボクの頭にある疑問が浮かんだ。 
「ねぇ、舞園さん…このストラップのてるてる坊主、何で上下逆になってるの?」 

「あぁ…それにはいろいろ理由があるんですけど…苗木君は、雨の日って好きですか?」 
唐突に投げかけられた質問にちょっと面食らったが、その問いには正直に答えることにした。 
「え…?う~ん…嫌い、かなぁ。ジメジメしてて、気分が落ち込んじゃうからね。舞園さんは?」 
「私は、結構好きですよ。晴れの日とは違う良さがあるっていうか…何より、苗木君と相合い傘ができますから」 
「…もしかして、それでストラップのてるてる坊主は逆さまなの?」 
「はい。そうですけど…よく分かりましたね!エスパーですか?」 
ホントにこの人のアプローチは積極的だ。…ボクが消極的すぎるのかな? 
まぁどちらにせよ、嬉しいってことだけは確かだ。 
「そんなわけ無いでしょ…これ、ありがとう。大事に使わせてもらうね」 
舞園さんの視線を感じながら、ボクはバックにそのストラップをつけた。…しっかり、上下を逆さまにして。 
『どうか雨を降らせてください』っていう祈りを込めて。 

ついさっきまで雨の日は嫌いだったけど…あんなこと言われたら、好きになるなって方がどうかしてる。
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