k2_214

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k2_214 - (2011/07/15 (金) 13:12:13) のソース

 ――最初は、ほんの少しからかってあげようと。 
 ただそれだけのつもり、だったのに。 

「――だって、霧切さんが笑った顔って、すっごく、かわいいんだよ!? 
  だから、隠すなんてもったいないよ! 笑った方が絶対にいいって!」 
  
 何を言っているのだろう、この少年は。 

 彼が、苗木君が無理をしているのは、すぐにわかった。おそらく本人は私をだましているつもりなのだろうけど。 
 苗木君がかわいい、という言葉を発した時、ほんの一瞬だけ、彼の目線が床へとそれた。それを私は見逃さない。だって私は、超高校級の――、 

 ……ええと、なんだったかしら。 

 とにかく、彼はウソをついている。ひどく稚拙で、くだらない、見え見えの、苗木君らしい、――でも苗木君らしくない、ウソ。 
 私が年頃の少女のように、……たとえばあの朝日奈葵のように頬を染め、恥じらうなどと思っているのだろうか? まさか、そんなこと。 
 でも、そうだとするなら本当に。 
  
 ……私は笑った方が良いのかもしれないわね。あなたが、本当に。そんな馬鹿げたことを信じているのなら。 

 だから、少しだけ。ほんの少しだけ気になったのだ。 
 彼がどんな反応をするのか。どんな言葉を私に向けるのか。 
 だから私は、からかってみようと思って。 

「きゅ、急に…何を言ってるのよ……か、かわいいなんて…いきなり…そんな風に言われても…」 
  
 彼のお望みどおり頬を染めて、それこそただの高校生のように振る舞ってみる。 
 感情を押し殺して表情を隠してしまうより、嘘でもなにかを装う方がずっと簡単。 
 苗木君。さあ、どう? 
 ひっかかったね、霧切さん。そんな風に言う? それとも? 

「…………」 

 でも。 
 私の予想は、……いえ、それはほとんど確信に近かったのに。 
 それはあっさりと打ち砕かれたのだ。 
  
「…………ほら、」 

 苗木君は、少し呆けたような表情をして。ああ、その時点で私の予想は大ハズレ。 
 それで、苗木君は、 

「ほら、霧切さん。……やっぱり、もったいないよ」 

「え? ……え?」 

 かわいいよ、と。ヒトを安心させるような顔でにっこり笑って。何故だか彼も頬を染めて。 
 ぽりぽりと頬を掻くその仕草は、確かにただの高校生で。 
「えっと、……その、えと、……苗木、くん?」 
 そして、簡単なはずの演技さえできなくなった私も、ただの高校生だった。 

「どうしたの? 霧切さん」 
  
 ああ――、 

「……あ、ありがとう」 
  
 どうやら私は、超高校級の、ただの女子高生だったらしい。

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