ダンガンロンパ トゥルーエンド サイドB

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ダンガンロンパ トゥルーエンド サイドB - (2011/06/16 (木) 20:23:30) のソース

 関係を迫らないと、「苗木君は鈍感です」と言われた。 
  関係を迫ると、「私の方から言いたかったのに…」と言われた。 

  たびたび部屋を訪れると、「もう、何度も来すぎです…///」と言われた。 
  あまり部屋を訪れないと、「もう来てくれないんですか…?」と言われた。 

  流行りのカッコいい服を着ると、「カッコよくて、素敵です」と言われた。 
  流行りのカッコいい服を着ないと、「いつも通りの方が、落ち着きます」と言われた。 

  話を聞きながら発言すると、「相槌打ってくれるから、話しやすいんです」と言われた。 
  話を黙って聞いていると、「黙って聞いてくれるんですね」と言われた。 


  それは。 
  失われたはずの記憶、なんだろうか。 

 ――――― 

 「お、お墓を作る、ですって…?」 
 「…ふん、いいんじゃないか」 
 「遺影は…あの写真で、いいべ。みんな笑ってんだし」 

  この学園を後にする前に、と提案した僕に、みんなは賛同してくれた。 

 「…いいでしょ、霧切さん」 
 「…反対はしないわ。やり残したことがないように、という点には共感するから」 

  墓と言っても、立派なものじゃない。 
  例の、遺体が保管されている生物室。 
  そこに、植物園で摘んだ花と、遺影を飾るだけだ。 

  いずれこの学園も、終わる。 

  電力供給が無くなれば、少しずつ、彼らの体は時間に溶けて腐っていく。 
  建物が倒壊すれば、こんな寂しいちっぽけな墓なんて、跡形もなく崩れ去ってしまうだろう。 


  それでも。 

 「僕達は、クラスメイトだったんだ。記憶が無くたって、それは変わらない」 

  お別れを済ませなければ、後ろ髪を引かれてしまう。 
  前に進めなくなってしまう。 

 「ちゃんと、弔ってあげたいんだ」 

  そんな僕の言葉を、思う所あってか、みんな聞き入ってくれた。

――――― 

  待ち合わせに遅れる度に、「大丈夫です、私も今来たところだし」と言われた。 
  けれども自分が遅れると、「私から誘ったのに、ごめんなさい…」と言われた。 

  やきもちを焼くと、「ふふっ…苗木君、かわいいです」と言われた。 
  やきもちを焼かないと、「ちょっとくらい、妬いてくれたって…」と言われた。 

  そうだねと賛成すると、「やっぱり、苗木君もそう思いますよね?」と言われた。 
  それは違うよと反対すると、「苗木君がそう言うなら…」と言われた。 


  愛しているよと言うと、「私の方が愛してます」と言われた。 
  大好きだよと言うと、「私だって…大好きです」と言われた。 




  その幻は果たして、真実だったのか。 

  学園を出ると決めた数日前に、うなされるようにして見た、酷く現実味のある夢。 
  夢の中の僕達はとても楽しそうなのに、それを見ている間の僕は、酷く苦しかった。 
  まるでいつか、記憶を思い出しかけた、あの夜のように。 

 ――――― 

  その翌日。 
  一つの決心とともに、僕達はそれを行動に移した。 

  パソコンで引き延ばした一人一人の顔写真を、遺体の保存されているその扉に貼り付けていく。 

  いつものお調子者がウソみたいに、葉隠君は辛そうな顔をしていた。 
  大神さんの遺影を貼る時、朝日奈さんの肩は震えていた。 
  霧切さんは顔色を変えなかったけれど、お父さんの遺骨を大事そうに抱えていた。 


  そして、僕も。 


 「…苗木君」 

  後ろから、声をかけられる。 

 「…辛いなら、私がやるわよ」 

  そっけない台詞と裏腹に、彼女の声は慈愛に満ちていた。 


  けれど、これだけは。 

 「…ううん、大丈夫。ありがと、霧切さん」 

  他の人には譲れない。

 僕達は、たぶん恋人だった。 
  記憶が無くなっても、それは変わらない。 

  だって、体が、心が、覚えている。 

  そうじゃないと、これほどまで悲しいのはおかしい。 
  そうじゃないと、勝手に涙が出てくるのはおかしいんだから。 


 「苗木っち…」 
 「…みんな、行くわよ」 
 「で、でも、霧切ちゃん…」 

 「…一人に、させてあげて。こんな時くらいは、せめて」 

  霧切さんがみんなを部屋から出して、辛そうな顔で僕に歩み寄る。 

 「お別れを、言ってあげなさい。特別に大切な人だったんでしょう」 
 「…ありがと、霧切さん」 
 「…別に。あなたがしてくれたことを、返すだけよ」 

  ロビーで待っている、三十分経っても来なければ呼びに来る。 
  そう告げて、自身も部屋から出て行った。 
  その後ろ姿に、心の中でお礼を言って、 

  僕は舞園さんがいるであろう、一つのその安置箱の扉に、肩を持たせかけた。 


  目を、つぶれば。 
  僕の知らない、舞園さんとの記憶がよみがえる。 


  同じ高校に入学して、同じクラスになって。 
  勉強会と称して集まったり、二人で買い物に出かけたり。 

  大事な時期にマネージャーさんが急病で、代役を買って出た、なんて一大イベントだってあった気がする。 
  風邪を引いたら看病してくれたし、その逆もあった…んだと思う。 

  好きだ、と告げたのはどっちからだっけ。 
  最初のキスは…上手くいかなかったような。 

  おぼろげで不鮮明な記憶ばかりだけど。 
  まだ、ちゃんと思い出せていないけれど。 


  その直感に良く似た記憶は、 

 『エスパーですから』 

  きっと本物なんだろうな、と、僕は信じた。

「…このまま、ここに残っちゃおうかな」 

  舞園さんのいるその扉に、頭をつけてひとりごちる。 

 「そうすれば、ずっと一緒だよね」 

 「ダメですよ、苗木君」 

 「どうして?」 

 「苗木君は、私の分も生きてください」 

 「…無理だよ。誰かの分も生きるなんて、現実には出来っこない」 

 「…そんなこと言うの、苗木君らしくないですよ」 

 「一緒に生きるのが無理なら。一緒に…」 

 「無理じゃないですよ」 

 「一緒に、」 

 「――苗木君なら、出来ます。だって、私が好きになった人なんですから」 




  ぼたぼたぼた、と、水音が地面を叩く。 

  涙を拭うことはしなかった。 
  その行為すら、余計なものに思えた。 


 「…ふっ、ひぐっ……!」 


  肺の奥が痙攣するように震えて、 

  僕は、 


 「うっ…うぁ、あぁああ」 


  子供みたいに、みっともなく泣きだした。 




  僕は泣いているのに、 

  記憶の中の君は笑っている。





「…行かなきゃ」 

  泣きやんで時計を見れば、三十分なんてとっくに過ぎていた。 
  誰も呼びに来なかったのは、単にめんどくさかったから…なんてことは、ないだろう。 

  押しつけていた頭を離して、僕は立ち上がる。 

 「――もう行くね、舞園さん」 
 「――行ってください、苗木君」 

  振り返らないで、悔やまないで。 
  怖がらないで、どうか元気で。 

  たしか、きっと、彼女の好きだった唄。 
  それを口ずさみ、僕はゆっくりと歩き出す。 

  僕は歌う、歩きながら。 
  いつまで君に、届くかなぁ。 

  涙と引き換えに。 
  記憶と引き換えに。 



 「「――ありがとう」」 



 「…、苗木君」 
 「もういいのか?」 

  みんなは、ホールに集まっていた。 
  各々が、最小限の荷物だけ持っている。 

 「大丈夫、苗木君…?」 
 「…大丈夫、じゃないけど。でも」 


  一緒に生きていくことが出来ないなら。 
  一緒に死ぬことも出来ないなら。 

  僕は前だけ見て、思い出をまるごと引きずっていく。 

  それが彼女の言う、『誰かの分も生きる』ということになるんだろう。 


 「もう、振り向かないって…決めたから」 
 「…そう」 

  人よりちょっとだけ前向きな、それだけが取り柄の僕を。 
  そんな僕を好きと言ってくれたのも、紛れもない彼女の声だったから。 


 「――さあ、行こう」

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