苗「えっと…ここの結び目に、これを通して…」 霧「いい年の男が編み物、ね。ジェンダー差別は嫌いだし、あなたの趣味に口を出すつもりはないけれど…」 苗「じゃ、その物言いたげな目線は何なのさ」 霧「…別に。最近美味しい料理も作ってくれないし、飲みに誘っても断るし」 苗「いや…夜中の三時に誘われても、飲みに行く気にはならないから」 霧「私をほったらかして何をしているのかと思えば、手芸に熱中していた…なんて」 苗「もしかして、構ってほしいの?」 霧「……失礼な言い草ね。私が、苗木君に構ってあげているの」 苗「それはいいんだけど、暇だからって僕のこと三つ編みでぺチぺチ叩くのはやめてね」 苗「霧切さんも趣味の一つや二つ、見つけなよ」 霧「私はいいのよ。あなたで遊ぶのが趣味だから」 苗「そんなんじゃ、いい人も出来ないよ?」 霧「……余計な、お世話よ」 苗「あはは…えっと、次はこっちの毛糸を…」 霧(……ホント、どの口が…) 翌日 霧「…珍しいわね。あなたの方から、私の家に訪ねてくるなんて」 苗「そうかな。まあ…女の人の家って、なんか気軽に入れないんだよね」 霧「……今日は、編み物はいいのかしら。私に構っている暇なんて、ないんじゃないの」 苗「あれ、もしかしてお邪魔だった? 今忙しいなら、すぐ帰るけど」 霧「……」 苗「これ、渡したくてさ」 霧「……紙袋?」 苗「プレゼント」 霧「開けていいの?」 苗「うん。そのために作ってきたんだから」 霧「……これ、」 霧「毛糸の手袋…手編み、って、もしかして…」 苗「本格的に寒くなる前に渡せて、よかったよ…明日から雪が降るみたいだし」 苗「なんか霧切さんがいつもしてる手袋、寒そうだったからさ」 苗「あ、でも…気に入らなかったら返して。僕が使うからさ」 霧「…返さないわ。あなたが作ったものは私のもの、よ」 苗「理不尽な…まあ、受け取ってもらえるのならよかった」 霧「……あの、…ありがとう…」 苗「……熱でもあるの?」 霧「相変わらず失礼ね…厚意に感謝を忘れるほど、礼儀知らずじゃないわよ」 苗「じょ、冗談です…」 苗「さて、じゃあ僕、帰るね」 霧「え、もう…?」 苗「霧切さん忙しそうだし」 霧「そん、な…忙しいって、程でも……」 苗「あまり長居しても迷惑だろうし。次ウチ来る時は、ちゃんとメールしてね。…あ、夜中の三時とかはダメだけど」 霧「ま、待って…」 苗「ん、何?」 霧「今日くらい、久しぶりに二人、で……」 霧(……苗木君、目の下にクマ…) 霧(もしかして、明日雪が降るからって、徹夜で…?) 霧「……ゴメンなさい。なんでもないわ」 苗「そう? じゃ、帰るね」 霧「ええ…おやすみなさい」 霧(……寒くなる前に、ね) 霧(…明日から雪も降り始めるという割に、今日はずいぶんと顔が熱い…) 苗(霧切さん…照れた時に目をそらす癖は、相変わらずだな) 苗(…実は僕とおそろい、だなんて、僕の方が恥ずかしくて言えなかったけど……) -----