305 苗木君と霧切さんは寄宿生ってことで 有り得たかも知れない過去の一風景を。 「霧切さん、ここの数値なんだけど……」 「ここはこっちの数値と比例しているから、平均値を取れば……後は分かるわね、苗木君」 「んっと、この平均値が比例で……そうか、分かったよ。ありがとう、霧切さん」 物理の実験で宿題として出された、実験のレポート作成。 霧切さんと同じ班で実験していた苗木は、どうせ実験結果が共用のものなのだからと、霧切を自室に呼んで一緒にレポート作成をすることにしたのだった。 「これで実験結果は終わりだし、後は考察と感想か。ちょっと一息入れようか、霧切さん」 「そうね。あまり根を詰めすぎてもいい結果にはならないし」 「じゃあ僕、何か飲み物買ってくるよ。霧切さんは何がいい?」 「苗木君に任せるわ」 「わかった。じゃあちょっと待っててね」 そう言って部屋から出て行く苗木。 一人になり、レポートも一段落。霧切は何となく苗木の部屋を見渡すぐらいしか、することがなかった。 「これが、苗木君の部屋……」 強いて言えば、特徴の無いのが特徴、とでも言うべきか。最近流行っているグループのCDに、話題になったゲーム。名前ぐらいは誰でも聞いたことがあるだろう漫画。 見れば見るほど、同年代の男子の平均値を集めたような部屋だった。 しかしそんな苗木の部屋であっても、霧切にとっては面白いというもの。 故に、超高校級の探偵である霧切の目にそれが見つかるのは、当然といえば当然なのかもしれなかった。 「? 何かしら。この額縁……妙に厚みが」 ドサッ 壁から不自然に離れた額縁。表面的には部屋に備え付けの名も知らぬ絵画だし、おそらく普通の人ならば気づかないであろう違和感。 しかしそれに気づいて調べてしまった霧切。その結果額縁の裏から落ちてきたのは 306 「これは? ……!!?」 まあ高校生男子なら当然の持ち物ではあるのだが、それはいわゆる、いかがわしい書籍だった。 表紙にはダイナマイトバディーな女性の裸体。そして、巨乳特集の文字。 それを手にとって見てしまった霧切は、羞恥からか、それとも別の感情か、はたまたその両方なのか、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。 「ただいまー。霧切さん、午前の紅茶とリプトソ、どっちがい…い……」 帰ってきた苗木の目に付いたのは、あったはずの厚みが無くなった額縁と、その前でぷるぷる震えている霧切だった。 「き、霧切さん何してるの!? いや、というかこれは違」 「苗木君……」 「は、はい!」 霧切の呼びかけに、言い知れぬ恐怖と圧迫感を感じて、思わず直立不動になる苗木。 その苗木を、霧切は真っ赤な顔のまま睨みつける。 「……最低ね。もう金輪際話しかけないで」 それだけ言って涙まで部屋から走り去っていく霧切。 もちろんのこと、それを止める術を苗木は持っていなかった。 「はぁ、弱ったなぁ。霧切さん、こういうえっちなの嫌いそうだもんなぁ……」 苗木はそう一人呟いて、どうやって霧切に謝ろうかという悩みで眠れぬ夜をすごすことになるのだった。 ――その頃、霧切は―― (苗木君のバカ! 苗木君だけは胸で女性を選ばないと思っていたのに!) 苗木の想像とは少し違ったベクトルで怒っていたとか何とか。