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    <title>43</title>
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    <description>
      **43

もう会わない――そう決めたつもりだった。
なのに、きくいちに行かない日々が三日、五日と経っていく内に、僕は伊吹君の事ばかり考えるようになっていた。
僕にはもう関係ない筈なのに。いや、関係ない、関わらないって思わなきゃいけないのに。
だけど、僕は気が付けば伊吹君の事を考えていて、我に返るとやっぱり伊吹君が好きなんだと実感してしまう。

いつものちょっと怖い顔も、時々見せる笑った顔も。
低く物静かな声も、僕をからかう時の楽しげな声も。
掴まれた腕の痛み、抱き締められた時の体温、僕を好きだと言った時の真っ直ぐな眼差しも。
全て鮮明に思い出せる。その度に美咲との思い出が薄れていく。

こんなの駄目だ、僕は美咲を忘れては駄目だ。
僕が美咲の事を忘れたら、美咲が僕のためにしてくれた事、そして僕の所為で命を落とした事が全て無駄になってしまう。
なかった事になんか出来ない、それが真実だから。

伊吹君の所為じゃない、きっかけは伊吹君かもしれないけれど。
僕の心が揺れ動くのは僕が弱い所為だ。
幻想の中で美咲はいつも僕に微笑みをくれる。だけど、温もりは与えてくれない。
温かく満たされたいと僕が願うから、それを与えてくれる伊吹君に心が動くんだ。
強くなりたい――なれない。だから、こんなにも苦しい。



僕はきくいちに行かなくなってから、スーパーのお総菜とかコンビニ弁当ばかり食べるようになっていた。
前もそういう物ばかり食べていたけれど…、何故かあまり美味しいと感じない。
勿論きくいちのラーメンや伊吹君が作ってくれたご飯の方が美味しくて、酷く寂しい気持ちになる。
それでも、きくいちには行けないし、伊吹君にも会わないと決めていたから。

そして、今日もご飯を買いにコンビニに入る。
出版社に行った帰りだから、いつものコンビニとは違う少し家から離れたコンビニだった。
そのコンビニはお弁当やお総菜、デザート類が美味しいとネット上で評判のコンビニ。家の近くにもあると良いのに…。
自動ドアが開いて、明るい店内に入る。

「いらっしゃいませー、あーっ！！」

聞いた事がある声、間延びしたような口調。そして、叫び声に僕は声の主を見た。
そこにいたのは見覚えのある男の子――そうだ、伊吹君の友達の東堂漣君だ。彼が驚いたように、だけど少し嬉しそうな顔で僕を見つめていた。

「瀬野っちじゃん、久しぶりー」
「と、東堂君…」
「家、この辺？見た事ねーけど。最近きくいち来ねーじゃん。毎日来て、きくいちの売り上げに貢献しろっつっただろ」
「うん…、ごめん…」
「やー、謝るほどの事じゃねーけど。で、何買いに来たの？」
「え？お腹が空いたからお弁当を…」

この子と話してる気後れしてしまう。苦手というほどじゃないけど、得意なタイプではないかな…。
伊吹君とは全然違うタイプだけれど、高校時代から付き合いがあるって事は仲が良いんだよね…。
何だか不思議…、違うタイプだからこそ一緒にいるのが楽しいって事なのかなぁ…。
東堂君は僕の顔をじっと見つめて何かを考えているようだった。

「あのさ、これから時間ある？」
「…え？あ、うん、暇だけど」
「俺さ、あと三十分ぐらいでバイト終わりなんだ。あそこで飯、付き合ってくんない？」
「え…」

あそこ、と東堂君が指を指したのは、このコンビニの向かいにあるファミリーレストランだった。
確かステーキがメインのレストランで、この町にも何店舗かあるチェーン店だ。僕の家の近くにはないけれど…。

「どーせべんとー買うつもりだったんだろ？あそこ、結構美味いよ？」
「…うん、別に良いけど…、どうして僕と？」
「だって、家帰っても一人で飯だしさー。あんたもだろ？誰かと食った方が楽しいし、美味いじゃん。それに…」
「それに？」
「話したい事、あっから」

そう言った東堂君は妙に真剣な顔をしていた。
話したい事――伊吹君の事だ。それ以外に彼から話したいなんて言われる節は思い当たらなかった。
僕が伊吹君を避けてきくいちに行かないからだろうか？それとも…、伊吹君から何かを聞いたんだろうか…？
そう思ったら一気に血の気が引いていく。逃げ出したい、と素直に思ってしまった。

「ダメなのー？俺の事嫌いなのー！？」
「い、いや、嫌いじゃないよ。そんな事、全然」
「じゃあ、いーじゃん。決まりね。先に行って待っててよ、後三十分くらいだから」
「う、うん…、分かった」

結局、東堂君は僕に断る隙を与えず、勝手に決めてしまった。
自分勝手と言えばそれまでだけど…。この場合、断る事が出来なかった僕が悪いのかもしれない。
僕は結局、何も買う事なくコンビニを後にした。

それから、向かいのレストランに入った。
お冷やを運んできたウェイトレスにコーヒーだけ注文し、連れが来たらまた注文します、と伝える。
どうして待っているんだろう…、そう思いながら僕は東堂君を待った。
怖い、帰りたい…。向こうが勝手に決めたようなものだ、帰ったって僕はきっと悪くない。
でも、嫌だったなら断れば良かったんだし、そう出来なかったのは僕の悪いところだと思う。
ここは腹を括って、東堂君の『話したい事』を聞くしかない。

それから、長い長い三十分と少し。私服に着替えた東堂君がやってきた。

「おー、ちゃんといるじゃん」
「…え？」
「帰ったかと思った」
「だ、だって、君が…」
「うん、でも帰ったかと思ってた」
「どうして？」
「ただの勘。待ってないような気がしたの」

そう言って、東堂君は何食わぬ顔で僕の向かいに腰を下ろした。
それって…、帰っても良かったって事？…いや、違う。きっと言葉通りだ、彼は僕の心情を読み取って僕が待ってないような気がした、と言ったんだろう。
勘が鋭い子なのかもしれない…。気を付けないと。

「あの、話って…」
「まず食おーぜ、俺腹減った！」
「あ、そうだね…。何にしようかな…」

東堂君に言われて、僕は初めてメニューを開いた。
メニューを見てみれば、割とリーズナブルな値段で安心した。そういえば、お金の事とか全く考えてなかったな。
東堂君はステーキのセットを、僕はハンバーグのセットをウェイトレスに注文した。

「で？最近どうよ？」
「ど、どうって？何の話？」
「いや、仕事の事とかさー。あんた、作家さんなんだろ？ちゃんと仕事してんの？」
「い、いやあまり…。元々そんなに売れてないから…」
「そんなんで食ってけんのかよ、だいじょぶなのー？つか、顔色あんま良くねーけどちゃんと寝てんの？」
「そ、そんなには寝れてないかな…？」

注文した物が来るまでの間、東堂君は普通の世間話を始めた。
あまりにも普通の話題で、僕は戸惑いつつも東堂君の問いかけに答える。
話ってこんな話じゃないよね、きっと…。
やっぱりご飯を食べ終わるまで話を切り出さないつもりなんだろう。

ステーキとハンバーグが運ばれてくると、東堂君は殆ど無言になった。
食べるのに集中しているみたいだ。がつがつとした食べっぷりが微笑ましい。

「…何笑ってんだよー」
「え？いや、良い食べっぷりだなぁって思って」
「腹減ってんのー。瀬野っちもとっとと食え！沢山食わないから顔色も良くねーんだよー」
「は、はい」

東堂君に怒られて、僕はフォークを口に運ぶ。
彼が言った通り、このレストランのハンバーグは結構美味しかった。
だけど、伊吹君が作ってくれたご飯の方がずっと美味しかったな…。
…やっぱりふと伊吹君の事を考えてしまう。諦めないといけないのに。

食べ終わって、皿を下げに来たウェイトレスにコーヒーのおかわりを頼んだ。
コーヒーのおかわりは東堂君が食後に頼んだアイスティーと一緒に運ばれてくる。
ごゆっくりどうぞ、と言われ去って行ったウェイトレスを見送ると、東堂君は僕の顔をじっと見つめてきた。

「で、話だけど」
「うん…」
「分かってると思うけど、こーちゃんの事」
「こーちゃん…」
「あ、伊吹の事ね」
「うん…」

やっぱり…。そうだよね、他に話をするような事なんかない。
伊吹君は彼にどこまで話したんだろう…。

「ごめん、聞いちゃった。こーちゃん、あんたの事好きなんだってね」
「…どこまで聞いたの？」
「こないだ告ってー、押し倒しちまったとこまで？」

うわあ、何でそんな事まで言うんだ。凄く恥ずかしい。
僕は顔を隠すように両手で顔を覆った。頬が熱くなっている、きっと赤くなってるに違いない。

「いーじゃん、別に。未遂だったんだろ？」
「良くない…っ。僕は凄く恥ずかしい…」
「その反応ってさー、あんたこーちゃんの事、やっぱり好きだったりする？」

東堂君の問いかけに、僕ははっと顔を上げる。
そんな事まで知ってるの？それは困る、否定しないと。

「ち、違うよ！そんなんじゃな…っ」
「いや、別にいーじゃん？あんたがこーちゃんを好きでもさ。俺、別にこーちゃんに言ったりしねーよ？」
「そんなんじゃないってば！どうしてそんな事言うの！？」
「でも、事実なんだろ？こーちゃん好きなの…」
「ちが…っ」
「だから俺が言いたいのはー、こーちゃんを好きだけど、付き合う付き合わないは瀬野っちにとって別問題なんでしょって事」

東堂君に図星を指されて、僕は言葉を失った。
そうなんだ、僕は伊吹君が好き。でも、恋人になる事は出来ない。だって、美咲はもういなくても、僕は美咲の事を忘れてはいけないから…。

「あんた、過去に何かあったんだろ？それを聞く気はないけど…」
「……………」
「こーちゃんを好きなら付き合えって強制するつもりもないんだけどー…、言いたいのは一個だけ」
「な、に？」

何を言うつもりなんだろう。僕は内心怯えながら東堂君を見つめた。
すると、東堂君は綺麗に、幸せそうに微笑んだ。
それはいつもの彼から想像出来ないような優しくて、本当に綺麗な微笑みだった。

「人を好きになってね、その人に好きになってもらうのって超幸せなんだよ」
「……………」
「なんかふわふわしてね、あったかいの。すっげ気持ちいーんだよ」

そう言った東堂君は本当に幸せそうで。
きっと彼は今幸せな恋をしてるんだろう。彼の言葉通り、ふわふわして温かくて気持ち良くなるような恋を。
そう思ったら、彼が羨ましくなった。僕はそんな気持ちを味わう事はないんだ――もう二度と。



東堂君と話をして、余計に寂しさが募った。伊吹君に会いたくなった。
彼の言っていた通り、人を好きになってその人に想ってもらうのはきっと幸せなんだろう。
いや、好きだと思った人に『好きだ』と告げるだけできっと…。
何だか泣きたくなった。慰めてくれる人が欲しい、なんて自分勝手な事を思ってしまう。

だから…、レストランを出て家に辿り着いて伊吹君の姿を見つけた時、僕は抑えていた気持ちが溢れ出しそうになったんだ。

「こんばんは」
「……………」
「ごめんなさい、来ちゃいました。きくいちに顔を出さないから皆心配してます」
「……………」
「…嘘です、俺が心配だったんです。会いたかったんです」
「……………」

僕はきっと相当情けない顔をしていたと思う。
だけど、かける言葉も見つける事が出来なくて…。来ないでとか、僕は会いたくなかったなんて嘘をつく事すら出来なくて。
伊吹君は僕の腕を掴んで引き寄せた。力強く抱き締められて、身動きも取れない。…抵抗する力も今の僕は持っていなかった。

「ごめんなさい、どうしても会いたかったんです」

抵抗しない僕の耳元に、伊吹君は静かに声を注ぎ込む。
僕は伊吹君の腕の中で、東堂君の言葉を思い出した。

――人を好きになってね、その人に好きになってもらうのって超幸せなんだよ。

それは望んで手を伸ばせば手に入る事を、本当は僕も知ってるんだ。

----
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    <dc:date>2012-02-23T01:17:08+09:00</dc:date>
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    <title>41</title>
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    <description>
      **41

どうしてこんな事になったんだろう。
伊吹君に押し倒されてシャツを引き裂かれた時、ただ驚く事しか出来なかった。
本当に分からなかったんだ。伊吹君がどうしてこんな事をするのか、伊吹君がどうして美咲の事を知りたがっているのか。
そして、どうして美咲の名前を知っているのか。

伊吹君の気持ちを軽く見ていた…かもしれない。それは確かに伊吹君の言う通りだと思う。
伊吹君は僕を好きだと言った。それはさゆりちゃんが僕に抱いた恋心と、伊吹君がさゆりちゃんに抱いていた想いと同じだと思っていた。
だから、憤りを感じたんだ。美咲を忘れさせてあげる、なんて…。
そんな簡単なものじゃない、美咲の存在は僕にとってそんな簡単なものじゃないんだ。

だけど、違うの？伊吹君は本当に美咲の事を忘れさせようとしたの？
美咲を忘れさせようとするほど、伊吹君は僕を好きなんだろうか。
そして…、こんな事するほど僕が欲しいんだろうか。
だって、こんな事をしたら誰も幸せになれない。僕はきっと伊吹君に二度と会わなくなる。
二度と会えなくても良い――そう思っているの？

伊吹君が僕の首筋に唇を付ける。
その感触が僕を現実に引き戻した。

「嫌だっ、止めて！お願い、こんな事しないで！」

僕は必死で伊吹君の身体を押し返そうとした。
だけど、伊吹君の身体はびくともしない。押し返そうと伊吹君の胸に触れた手は、簡単に掴まれて床に押し付けられる。
抵抗しても無駄で、身動きも取れなくて僕は恐怖を感じた。
本気なんだ…、伊吹君は本気で僕に抱こうとしている。
男同士だからとかこれからの事とかそんなの関係なく、本当に無理やりするつもりなんだ。
そう思ったら涙が溢れて、目尻を伝って床に零れ落ちた。

本当は嫌な訳じゃない。
伊吹君が好きだと思ったから。こんな事されても、やっぱり好きだから…。
だけど、伊吹君にはこんな事して欲しくなかった。こんな事をする人だと思いたくなかった。
好きだから、思いたくなかったんだ。

「な、んで…。こんな事しても、誰も幸せになんかなれな、い…っ」
「…だったら、どうすれば幸せに出来るんですか？」
「い、ぶきく…っ」
「あんたを幸せにするためなら、俺はどんな事でも出来るのに…。あんたがみさきさんを忘れてくれるなら、何だってやるのに…！」

伊吹君が苦しいくらいの激情を僕にぶつける。
その気持ちを僕は受け取る事が出来ない。
僕は美咲を忘れる事が出来ない。忘れられないんじゃない、忘れてはいけないんだ。
美咲を殺したのは僕だ。僕は一生その罪を背負っていかなければならない。
一生かけて償いをする――それが美咲を殺してまで僕が生きる意味なんだと思う。
だから、伊吹君の気持ちは受け入れられない。例え、僕が伊吹君を好きだとしても。

僕は今凄く酷い事を言おうとしている。伊吹君を傷つける、きっと絶対に僕を許してはくれないだろう。
それでも、他に方法が思いつかないから…。

「分かった…、好きにしてい、いから…」

両腕で顔を覆う。伊吹君の顔を見ながら言えそうになかったから。
それでも、伊吹君が息を飲んだのが分かる。
そして、伊吹君は動きを止めた。

「伊吹君の、好きなようにして良いから…。だから、それで諦めて」
「な…」
「伊吹君のしたいようにして。その代わり二度と会わない。きくいちにはもう行かない。伊吹君もここにはもう来ないで…」

最低だ、と自分でも思う。諦めさせるために、自分の身体を差し出すなんて…。
伊吹君は僕の気持ちに気が付いていない。好きでもない相手に身体を差し出していると思っている。
そうじゃない、でも言う事が出来ない以上、同じ事なんだろう。
だけど…、それでも。

僕の言葉は僕自身に言い聞かせているようだった。
これが最初で最後だ、だから諦めなきゃいけない、と。
諦めなきゃいけないのは伊吹君だけじゃない、僕もだ。
抱いてはいけない感情を抱いてしまった。だから…。
どんな事をしてでも自分を止めないといけない。

「…最低だ、あんた」
「………っ…」
「諦めさせるために、身体を差し出すんですか」
「ご、めん…っ。でも、僕にはこうする事しか出来ないから…」
「本当に最低です。…それでも、俺はあんたが好きです」

伊吹君の言葉にはっとして、顔を覆っていた両腕を外す。
伊吹君はまだ怒っているようだったけれど、僕の腕を引いて身体を起こしてくれた。
そして、肌けたシャツを合わせる。
それはもう何もしないと言っているようだった。

「俺が今あんたを抱いたら、俺はあんたを諦めなきゃいけない。それなら…、抱かなければ諦める理由はないですね」

…え？
それは確かにそうかもしれない。僕が言った理屈ではそうなるんだろう。
だけど…、諦めてくれないのは困る。だって、僕にはどうする事も出来ないから。
僕が伊吹君を好きでも、それは叶う事がない。
好きになった事自体が罪なんだから。

「どうして…？」
「俺は絶対にあんたを諦めません。あんたがそれをどう思おうと、諦めたりしません」
「だから…、好きにして良いって言ってるのに！」
「あんた、本当に分かってない。俺の気持ちをそんな簡単に見ないで下さい。一時、身体だけでもなんて思えるくらいなら言う前に諦めてます」
「……………」
「俺はあんたが欲しいんです、あんたの心も身体も全てを。あんたが抱えてるもの全てを知りたい。傷があるなら癒してあげたいし、忘れられない事は忘れさせてあげたい」

伊吹君が真っ直ぐに僕の目を見つめて言う。
この澄んだ瞳が僕は苦手だった。全てを見透かされいる気になる。
だけど、その瞳に見つめられたら、僕はもう目を逸らす事なんか出来ない。

「困っているなら助けます。みさきさんの代わりにしたいなら代わりになります。それが嫌だとは思いません」
「どうして…、そんなのおかしいよ…」
「言ったでしょう、俺はあんたがみさきさんを忘れてくれるなら、どんな事でも出来ます。おかしくないです、それが好きだって事だと思います」

そう言って、伊吹君はもう一度僕の頬を撫でた。
愛おしいというように、そっと。
さっきまであんな事をしていたとは思えない。そして、あんな事を言った相手にする事じゃない。
そんなに…僕が好きなの？
そう思うと、顔が熱くなるのが分かった。

「…そういう顔をするって事は脈ありだと思って良いんですか」
「…え！？」
「顔、真っ赤ですよ」
「は！？み、脈なんてないよ！諦めてもらわないと困るって言ったでしょ！？」
「あんたが困っても諦めません」

そう言って、伊吹君は立ち上がる。
帰るのかな…。僕は何だか寂しいような気持ちになって、伊吹君を引き留めたくなった。
だけど、引き留める事は出来ない。伊吹君に僕の気持ちが分かってしまう。
それに、美咲の事を考えたら、僕は諦めなくちゃいけないんだから…。

「今日は帰りますね、また来ます」
「…もう来ないで」
「嫌です」
「伊吹君…！」
「お邪魔しました」

何事もなかったかのようにそう告げて、伊吹君は帰っていった。
僕が何を言っても聞いてくれなかった。
諦めて、困るからと何度も言ったのに。好きにして良いからとまで言ったのに。
それでも好きだ、諦めないと伊吹君は言った。
好きだと思った人にこんなにも愛されている事を、僕は不謹慎にも幸せだと感じていた。
そんな彼がやっぱり好きだと思う――それでも美咲の事を考えると…。

美咲の事を思うと、僕は今でも胸が痛くなる。罪悪感でいっぱいになる。
美咲を殺したのは僕だ。だって、僕と結婚しなければ美咲は今もきっと生きていた。
僕が安定した収入を得られる職業についていれば、今も美咲は僕の隣で笑っていたかもしれない。
そう考えたら、やっぱり美咲を殺したのは僕なんだ。

僕は美咲に償うためだけに生きていて、だから伊吹君の気持ちに応える事は出来ない。
どんなに彼に想われていても、どんなに彼が好きでも。
再び涙が込み上げてくる。僕は一人取り残された部屋の中で、声を上げずに泣いた。
伊吹君が触れた所が熱くて、その反面身体が冷えていた。
ぎゅっと自分の身体を両腕で抱き締める。

いっその事、抱いてくれたら良かったのに。
好きにして良いと言ったんだから、伊吹君の好きなように抱いて欲しかった。
そうしたら、僕はこの気持ちに諦めがついた。
最初で最後の、しかも幸せな行為ではないかもしれないけれど、一時でも彼のものになれば、それだけで諦められたのに。
だけど、伊吹君は抱いてくれなかった。伊吹君の言葉は優しいようで残酷だ。
僕は結局捨てきれなかった想いを抱える事になった。

ねえ、伊吹君。本当は僕も好きだよ。
美咲との事がなければ、彼の手を取る事に迷いなんかなかったのに――

----
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    <dc:date>2011-12-04T01:44:08+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/28.html">
    <title>ログ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/easter630/pages/28.html</link>
    <description>
      **プロローグ
[[side：A]] / [[side：K]]


**本編
[[01]] / [[02]] / [[03]] / [[04]] / [[05]] / [[06]] / [[07]] / [[08]] / [[09]] / [[10]] / [[11]] / [[12]] / [[13]] / [[14]] / [[15]] / [[16]] / [[17]] / [[18]] / [[19]] / [[20]]
[[21]] / [[22]] / [[23]] / [[24]] / [[25]] / [[26]] / [[27]] / [[28]] / [[29]] / [[30]] / [[31]] / [[32]] / [[33]] / [[34]] / [[35]] / [[36]] / [[37]] / [[38]] / [[39]] / [[40]]
[[41]] / [[42]] / [[43]] / [[44]] / [[45]] / [[46]]　
　    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:25:49+09:00</dc:date>
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  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/63.html">
    <title>45</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/easter630/pages/63.html</link>
    <description>
      **45

伊吹君が言ったんだ。
美咲の気持ちが分かるって。美咲の立場だったら同じ事をするって。
その言葉が突き刺さるように胸が痛んだ。
伊吹君も同じなんだ、僕を置いていなくなってしまうんだ。
僕は伊吹君に抱き締められて、ほんの一時だけれど幸せだった。なのに…、僕はいつかその幸せを失ってしまうんだ。

永遠なんてない、そんなものを信じられるほど僕は子供じゃない。
だけど、僕が欲しかったのは永遠なんだ。これから先、ずっと変わらず共にいる人――僕はそれを求めていた。
だけど、伊吹君はやっぱり違うんだね。ずっと僕の傍にいるって約束してくれないんだね。

美咲と伊吹君が違う。伊吹君は生まれつきの病気を抱えている訳じゃない。
だからと言って、いつまでも一緒にいられる事にはならない。突然病気になってしまうかもしれないし、事故に遭ってしまうかもしれない。
突然いなくなってしまうかもしれない――それは当たり前の事だ。
伊吹君は少しもおかしい事を言っていない。永遠なんてものを求めた僕がおかしいんだ。
そう思ったら、もう伊吹君の腕の中にはいられなくて、僕は伊吹君の腕からするりと抜け出して背を向けた。

「瀬野さん…？」

伊吹君が僕の名前を呼ぶ。優しい声。
だけど、それを聞くのも今日で最後にする。
何も始まらなかった恋だった。だけど、僕は伊吹君を好きになって、一時だけどその腕の中にいられて幸せだったよ。
だけど、もう終わりにしよう。

「伊吹君、僕はやっぱり君を受け入れる事は出来ない」
「どうして…、俺が男だからですか？」

僕は伊吹君の問いかけに首を振った。
最後だから…、正直に全てを話してしまおうと思った。

「君が美咲と同じ事をするって言ったからだよ」
「…え？」
「大切な人に…、心から愛した人に置いていかれた僕の気持ち、分かる？…分からないよね、分かっていたら絶対そんな事言わないんだ」
「……………」
「僕は美咲が死んでから何度も思ったよ、『いっその事、一緒に連れていってくれれば良かったのに』って」

ゆっくりと振り向くと、伊吹君は驚いたように目を見開いて僕を見ていた。
僕の事、おかしいって思ってるの？だけど、これが僕の本当の気持ちだよ。
僕は美咲が望むなら、この命を捨てたって良かった――いや、美咲が望まなくても死んでしまえば良かったんだ。

「僕が君を受け入れて、また同じ事が起きたら…僕は今度こそ間違いなく、死を選ぶよ」
「瀬野さん…」
「僕にはもう耐えられない…、それが間違っていたとしても、美咲が…君が望まなくても」
「瀬野さ…」
「ねえ、僕を置いていって、僕が平気でいられるって思った？僕を置いていくのはそんな簡単な事？」
「違う、瀬野さん！」
「何が違うんだよ！事実、君は僕を置いていったじゃないか！ずっと一緒にいようって約束しただろ！約束を破ったのは君の方だ！」

伊吹君のシャツを強く掴んだ。
美咲と伊吹君が重なって見える。その所為か、美咲の事を伊吹君の事のように伊吹君を責めた。
理不尽だと分かっていても、止められそうになかった。

「僕は美咲といられて幸せだった。きっと美咲と一緒に死んでも僕は幸せだったよ…。一人で置いていかれるより、一緒に連れていってくれた方が何倍も幸せだったんだ…！」
「瀬野さん…」
「…僕がおかしいって思ってる？生きる方が幸せだって？君はもういないのに？…だから、僕を置いていったの？」

伊吹君の顔を見つめる。伊吹君は困っているような顔をしていて、僕ははっと我に返った。
伊吹君は何も悪くない、美咲の事は伊吹君には関係ないのに…。

「ごめん…。伊吹君の事じゃないのにね、何言ってるんだろ…」
「……………」
「でも、分かったでしょ？僕は君を受け入れられない。君は悪くないんだよ、僕がおかしいんだ」
「……………」
「もう会わないから、ここには来ないで。きくいちにももう行かないから…」

掴んでいたシャツを離そうとしたけれど、強く掴んでいた所為かなかなか指が動かない。
やっとの思いで離した指先を、今度は伊吹君に掴まれた。
そのまま引かれて、また抱き締められる。

「は、離してよ」
「嫌です」
「離して…、僕が言った事分かったでしょ？」
「分かりました、でも離しません」
「どうして…、離してってばっ」
「嫌だ！」

強く言われて、言葉に詰まる。
それでも、腕を振り解こうと足掻くと、苦しいくらい強く抱き締められた。
息苦しさに息が漏れる。それに伊吹君は少しだけ力を緩めてくれた。
だけど身体は離してくれなくて、僕は内心ドキドキしながら喜びを感じていた。
こんなの駄目だ…、触れ合えば触れ合うほど離すのが辛くなるのに…。


「俺の話、聞いてくれますか？」
「嫌だ…、聞くのが怖い…」
「それでも聞いて。あんたがおかしいなら、多分俺もおかしいです」

伊吹君の言葉に、僕ははっと伊吹君の顔を見た。
その言葉の意味が理解出来るようで、理解出来ない。
だって僕がおかしいって言ったのは、美咲と一緒に死にたかったって事で…。
それは伊吹君が美咲の気持ちが分かる、自分も同じ事をするって言った事と真逆の事で。

「確かに俺はみさきさんの気持ちが分かると思いました。俺が病気で死にそうだったら、同じ事をするだろうって」
「…僕はそんな事、望んでいない」
「はい。だけど、俺はあんたが望んでも望まなくても、あんたを置いていく事は出来ない」
「………え？」
「俺だって耐えられません、あんたを置いて一人でいくなんて…。一人になるくらいなら、あんたを殺して俺も死にます」

伊吹君が僕の髪を撫でる。思わず身体が震えた。
怖かったんじゃない、優しい指先に幸せを感じで身体が震える。
だけど、伊吹君は辛そうに、泣きそうに顔を歪めていた。

「確かにそれは間違っているのかもしれない。みさきさんのした事が正しいんだ。でも、俺には耐えられません」
「伊吹君…」
「あんたがいない世界で生きる事も、死んであんたがいない世界にいく事も俺には出来ません」
「………っ…」
「俺はあんたを一人にはしません。それはあんたのためじゃない、一人は耐えられない自分のために」

もう流し尽くしたと思っていた涙が頬を伝って落ちていく。
少しずつ、少しずつ凍り付いた心が溶けていく。伊吹君の言葉で、瞳で、体温で。
僕はずっとこう言って欲しかったんだ。一人にはしない、一緒にいこうって。
だけど、美咲はそう言ってくれなかった。美咲は本当に僕を好きでいてくれたんだろうけれど、それでも僕の気持ちを分かってくれなかった。
伊吹君は言ってくれた――この人を離したくないと思った。

「ほんと…？」
「はい」
「本当に死ぬ時は一緒に連れていってくれるの…？」
「はい…、でも死ぬ時の約束であんたを縛りたくない。俺はあんたと生きたいから」

一緒に生きましょう――そう言って伊吹君は僕の唇にキスした。
涙の味がしたキス――それは誓いのキスだったんだ。

----
#center(){[[Pre&gt;44]] | [[Next&gt;46]]}    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:21:08+09:00</dc:date>
    <utime>1322929268</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/62.html">
    <title>44</title>
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    <description>
      **44

その日の瀬野さんは何だか変だった。
俺の顔を見るなり泣きそうに顔を歪めて…、だからなのかもしれない、俺は思わず瀬野さんの身体をきつく抱き締めてしまった。
もう必要以上に触れない、あんな事をしてしまった後だしきっと怖がらせるだけだから――そう心に決めていたのに。
そんな俺に瀬野さんは何も言う事なく、抵抗する事なく俺の腕の中に収まっていた。
何かがおかしい。もっと抵抗したり、帰ってだとか僕は会いたくなかっただとか言われると思っていたのに。

「…瀬野さん？」
「……………」
「抵抗されないとこのまま先に進んじゃいそうなんですけど」
「……………」
「嫌だったら嫌って言って下さいよ」

瀬野さんはやっぱり何も言わない。
それはこのまま先に進んでも良いって事だろうか。…いや、そんな訳ない。
少なくとも雰囲気や相手の態度に流される人ではない。意思が弱そうに見えるけどな。
…何かあったんだろうか？聞きたいけれど、聞いて答えてくれるとは思えないし…。

このまま抵抗されないと、本当に先に進んでしまいそうだ。
もう二度と取り返しのつかない事をする訳にはいかない。そうなる前に、俺は瀬野さんの身体を離した。

「駄目ですよ、そんなんじゃ。俺を拒みたいなら強い意思がないと。流されてとんでもない事されますよ？」
「……………」
「あんた、力なさそうだし…力ずくで、なんて簡単だと思うんで」
「……………」
「今日はこれで帰りますね、顔見たかっただけだし…。皆心配してますから、また店に来て下さいね」

どうしてそんな事を言っているのか、自分でも分からないけれど…。流されてくれれば、それはそれで楽なのに。
そうだよな…、俺は馬鹿かもしれない。だけど…、この人が俺に流されて行為に及んだとしても、俺は嬉しくないと思う。
やっぱり俺が欲しいのはこの人の全てなんだ、身体だけなら手に入らない方が良い。
きっと余計に虚しくなるだけだから。

瀬野さんに背を向ける。名残惜しいと思う気持ちを抑えて。
それが出来る分、今日の俺は理性的だ。
それなのに足を踏み出した途端、俺は足を止めた。何かに引っ張られて。
振り向くと、瀬野さんが俺のＴシャツを掴んでいた。震える指先で。
その指先に驚いて、俺は瀬野さんを見た。瀬野さんはぽろぽろと涙を流しながら、俺を見ていた。


暫くの間、俺は瀬野さんと見つめ合っていたと思う。
驚いて声が出なかったんだ、瀬野さんがそんな事するとは思わなくて。
震えるその指先と涙にどんな意味があるのか、分からなくて。
どうして良いのか分からない――だけど、瀬野さんが泣きながら声を上げた時、俺ははっと我に返った。

「…泣かないで」
「………う、」
「…帰らないで欲しい？」
「………っ…」
「あんたがそう望むなら帰りません」

こんな言い方、ずるいだろうか…。
でも、俺はこの人のために今日は帰ろうと思ったんだし、それでもこの人が俺を引き留めようとするなら。
言って欲しかった、行動だけじゃなくて言葉で俺を引き留めて欲しい。
俺はもうとっくに瀬野さんのものなんだ。瀬野さんが自分で求めれば、俺は拒む事なんて出来ない。
それを分かって欲しいんだ、だから、俺を求めて。

俺は泣いている瀬野さんをただ見つめていた。
それからまた沈黙が続いて、やがて瀬野さんは消え入りそうな小さな声で、

「行かない、で」

そう言った。
俺は再び瀬野さんを抱き締めずにはいられなかった。
だって、瀬野さんが俺を求めてくれたのは初めてだったんだ。



それから、瀬野さんは俺を家の中に迎え入れてくれて。
俺達は暫くの間、抱き締め合っていた。
何があったんだろうか、聞きたかったけれど瀬野さんが泣いている内は聞きづらくて、俺は黙って瀬野さんの頭を撫でる。
そういえば、こんな風に頭の撫でられて瀬野さんに怒った事があった。
あの時は腹が立ったな、子供扱いされているようで。だけど今はそんなつもりはないし、あの時の瀬野さんだってそんなつもりはなかったと思う。

暫くして瀬野さんは泣き止んだのを見計らって、俺は話を切り出した。

「…何かあったんですか？」

瀬野さんは何も言わずに首を振った。俯いていたから表情は分からない。
何もないのに、どうして泣くんだ…？

「じゃあ、どうして泣くんですか？」
「…分からない、でも苦しくて…」
「…どうして？」
「……………」
「言ってくれないと分かりません」

瀬野さんはやっと顔を上げて、俺を見た。
その瞳はまだ赤く潤んでいたけれど、俺から視線を逸らさない。
その姿は何かを決意したように見えた。

「伊吹君は…どうして僕を好きだって言うの？」
「理由が欲しいんですか？」
「だって僕は困るって言ってるのに…。どうして好きだって言うの？」
「気持ちに理由なんかないですよ。ただ俺はあんたが好きなんです、あんたが困っても」
「お願いだから…、これ以上僕の中に入ってこないで…。僕を惑わせないで…！僕は一生美咲に償わなきゃ…」
「『償う』？」

俺は思わず瀬野さんの言葉を聞き返した。
償う――それはつまり相手に何かをしたから、それに対してお返しをしなきゃいけないという事だ。
それが『忘れない』って事だとしたら…。そうだ、この人はあの日確かに言った、『忘れられないんじゃない、忘れないんだ』だって。
だとしたら…、みさきさん対して何か罪を犯したんだとしたら…。

「どうして償わなきゃいけないんですか？」
「美咲は…僕の妻だった人だよ」
「……………」
「僕が殺したんだ」

ようやく知る事が出来た瀬野さんの秘密に、俺は目を見開いた。
妻だった――それは何となく分かっていた。
家に仏壇があって、遺影はないけれどそれが家族のものであるのは間違いないだろうし、結婚もしていないのに左手の薬指に指輪をしている。
おそらく妻だった人、そして亡くなってる事までは予想していたけれど…。
瀬野さんが殺した――いや、まさか言葉通りじゃないだろう、そんな事をする人じゃない。
だけど、この人はそう思っている。『自分が殺した』と。

それから、瀬野さんはぽつりぽつりと小さな声で、みさきさんの事を話してくれた。
大学のサークルでみさきさんに恋をした事、告白して付き合うようになって半年で学生結婚をした事、生活は苦しかったけれど幸せだった事…。
作家になっても生活は苦しく、みさきさんをパートの仕事を増やす事になった。

「その時はまだ知らなかったんだ、美咲が心臓を患っていた事…」

みさきさんはおそらく瀬野さんにわざと言わなかったんだ。言ったら引き離される、苦労をしても離れたくないと思ったんだろう。
そして、みさきさんは無理が祟って倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

「僕が作家なんて夢を捨てていれば、美咲に苦労をかける事はなかった。無理をしなければ、美咲は今も僕の隣で笑っていたかもしれない」

それはそうかもしれない。だけど…、きっとみさきさんは…。

「美咲は死ぬ間際に言ったよ、『幸せだった』って。でもそんな筈ない、苦労して倒れて…、幸せだった筈ないんだ」
「いや、それは…」
「幸せにするって約束したのに…、僕が美咲を殺したんだ…！作家なんて辞めてしまえば良かったのに！」
「瀬野さん！」

俺は瀬野さんの言葉を遮るように、瀬野さんの名を叫んだ。
そんな俺に瀬野さんは驚いたような顔して、それから顔を歪める。
俺が自分を責めると思っているんだろうか？
責めたい訳じゃない、ただ救ってあげたいと思った。そのためにはどんな言葉をかければ良いだろう？
俺がみさきさんと同じ立場だったらどうだろう？俺が生まれつき身体が弱かったら…。それでもこの人を好きだったら。

「みさきさんは…多分幸せだったと思います、僅かな間だけでもあんたの傍にいれて」
「どうして…、そんな事」
「病気の事をあんたに言わなかった気持ちも分かります。病気だって知れば、あんたは実家に帰して静養させるなり、入院させるなりしたでしょう？それか、作家になる事を諦めていたかもしれない」
「そうだよ…。作家になる事が美咲の命より大切だとは思えない。知っていたら、美咲を楽にさせてあげる事は出来たんだ」
「だから、みさきさんは言わなかったんです。あんたの夢を叶えるために、そのためだけに生きた。俺はそれが間違っているとは思いません」
「どうして…っ、僕はそんな事望んでないのに…！」
「あんたの事が好きだからですよ。そして、あんたの書く小説が好きだったんだ。きっと誰よりも楽しみにしてたんですね」

多分間違っていない。みさきさんの気持ちはこんなところだろう。
会った事もない人だけど、俺は誰よりも分かり合えそうな気がした。
俺は瀬野さんの小説を読んだ事がないから、憶測も含まれているけれど。

「そんな事…伊吹君に分かる訳…」
「分かります、俺がみさきさんの立場だったら、きっと同じ事をしたと思います」

しっかりと瀬野さんの目を見てそう言うと、瀬野さんははっと目を見開いた。
瀬野さんが何に驚いたのかは分からないけれど。
これだけは断言出来る。

「あんたはみさきさんを殺してなんかいません」

そう、殺してなんかいない。
みさきさんが選んだんだ、瀬野さんといる事を。
例え命を落とす事になっても、離れない事を。

----
#center(){[[Pre&gt;43]] | [[Next&gt;45]]}    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:19:39+09:00</dc:date>
    <utime>1322929179</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/60.html">
    <title>42</title>
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    <description>
      **42

瀬野さんの家を出て、俺は走った。まるで逃げているようだ、と思った。
走って走って、走り続けて、瀬野さんの家が見えないところまで辿り着いた時、振り返る。見えないところまで来てから振り向いたところで何にもならないのに。

まさか、と思った。
まさか自分がこんな事をする人間だったなんて。こんな事が出来るなんて思わなかった。
好きだと思った人を押し倒すなんて…。
勿論東堂に言われて、押し倒した訳じゃない。そういうつもりで瀬野さんに会いに行った訳じゃないけれど。
でも、実際はやってしまった訳で…。瀬野さんにどう思われても、東堂やさゆりさんに責められても仕方がないな…。

それでも、どうしても我慢出来なかった。あの人があまりにも分からず屋で。
俺の気持ちを受け入れられないなら、それは仕方がない事だ。それでも俺は知りたい。
この気持ちにピリオドを打つために、あの人の大切な人がどんな人なのか知りたいだけだ。

俺は少しも間違った事を言っていないと思う。俺が嫌いだとか気持ち悪いと思うなら、俺は納得して諦めないといけないと思うけれど。
あの人の答えは『忘れられない人がいるから』だったんだから。

…ただ、その後にした事は確かに間違っていた。冷静にならなければ、出来ない話もある。
だったら、どうすれば良かった…？どうすればあの人はみさきさんの話をしてくれただろうか。
それはあの人の傷を抉じ開ける事になるんだろう。それはきっと痛い。出来れば傷つけたくないんだけど…。
…いや、傷つけてでも知りたい。どうしても俺はあの人を諦めきれない。好きなんだ…。

俺は俺が思っていた以上に瀬野さんを好きになっている事に気が付いた。自分でも驚くほどに。
それを考えると、学生の頃に付き合っていた女は好きではなかったんだな、と思う。心に残る思い出も、顔さえも今では思い出せないから。

さゆりさんの事は…好きだったけれど、それは本物じゃなかった。諦める事が出来たし、上京するような事にならなければ告白だってしなかった。多分憧れに近いものだったんだろう。
だけど、瀬野さんの事は…。

瀬野さんの事を思うと、今までに芽生えた事がない感情が芽生える。
痛々しい表情をする事が歯痒くて、どうにかしたいのにどうにも出来なくて…。

大切にしたい、守りたい、慰めたい、変えたい、壊したい――そんな矛盾したような感情を抱いてしまう。
多分本物なんだ、この気持ちは。

瀬野さんは今頃、少しは考え、悩んでくれているだろうか。俺の気持ち、俺が犯した過ちの意味を。
考えてくれているなら、意味はあったと思う。あの人の中に俺の痕を残せたなら。
…また会ってくれるだろうか。会いに来てくれるだろうか。
無理矢理でも会いに行くつもりだ…けど。
そうだ、『もう会いたくない』と言われてそうですか、なんて言える気持ちなんかじゃない。
どれだけ拒絶したって、俺は手を伸ばし続ける。あの人に触れられるまで。
そう決めたんだ。



次の日。
今日もきくいちは昼食時を終えると、閑古鳥が鳴いている。それは割といつもの事だが、そろそろ何か考えた方が良いと思う。
まあ、それはひとまず置いておくとして、暇だからこそ東堂とさゆりさんの視線が気になるんだが…。

「…煩いんですけど」
「ま、まだ何にも言ってないよー？ね、漣君」
「うん、まだ何にも言ってねーもん。なー、さゆり」
「視線が煩いって言ってるんです。聞きたいならはっきり聞けば良いじゃないですか」

『まだ』って何だ。つまり聞くんだろう。だったら、さっさと聞いてくれれば良いのに…。
二人が聞きたい事は分かってる、昨日の事だ。
別に隠すつもりはないし…、隠してまた瀬野さんの口から言われてもな…。

「じゃー、聞いちゃおっかなー。どうだったの！？」
「押し倒した？押し倒した？」
「もー漣君はどうしてそういう事ばっかり…」
「…押し倒しましたよ」
「「はああ！？」」

二人の声が重なって、店内に響く。
まあ、予想通りの反応だ。誰もいないからって、店内で大声を上げるのはどうかと思うけど。
さゆりさんはともかく、東堂でさえ俺がそんな事をするとは思ってなかったらしい。
そりゃそうか、東堂の方が付き合いが長い。高校の頃からの俺を見ていれば、そんな事するとは思えないだろう。

「嘘でしょ！？何で！？」
「こーちゃんサイテー。ゴーカンって犯罪じゃね？」
「漣君が変な事ばっかり言うから悪いんでしょー！？」
「俺の所為かよ！あんなの、ただの冗談だろ！だって、まさかこーちゃんがそんな事すると思わねーだろ！？」
「「もー、どうすんの！？」」

…相変わらず息の合ったコンビだな。さゆりさんが上京すればこれも見られなくなるんだな…。
それはともかく。

「未遂です、一応」
「何だー、未遂かよ…」
「未遂なら良いってもんでもないでしょ！？何でそんな事したのよー！男ってやっぱそういう事しか考えてないのー？」
「それだけじゃねーけど、７０パーそれじゃね？」
「もうっ、漣君は黙ってて！伊吹君は違うと思ってたのにー！」
「いや、別にそういう事をしようと思ってた訳じゃなくて…」

あの人があまりにも分からず屋で、何とかしてあの人に俺の気持ちを分からせたくて。
どうにかしてあの人の心に入りたくて…。それが痛みになっても憎しみになっても構わなかったんだ。
好きになってもらえなくても、何か残したかったんだ。
未遂で終わらせたけれど、一応目的は達成した…と思う。
むしろ未遂で良かった。これで俺があの人を諦める理由はない。

「じゃあ、何ー？なんか理由があるのー？」
「ありますけど…、言えません」

あの時の瀬野さんの事、みさきさんの事は人には言いたくなかった。瀬野さんの気持ちを考えると言えなかった。
何か事情があると察してくれた二人は、その事にはそれ以上触れてこない。それに少しほっとした。

「で？押し倒して、瀬野さんの反応は？」
「…身体を差し出されました」
「「は！？」」
「『好きにして良いから、それで諦めて』って」
「「はああ！？」」

だから、大声出すなよ…。客は相変わらずいないけれど。
そろそろ二階に自宅で静養してる店長が怒鳴り込んでくるかも…。
でも、確かにそんな反応だよな…。俺だってそうだったよ。
諦めさせるために自分の身体を差し出すなんて。自虐的にもほどがある。
どうしてそんな事を言ったのか、俺は今でも分からないんだけど。

「やっぱり瀬野さん、伊吹君の事が好きなんだね」
「…はい？」
「だってさ、好きでもない相手にそんな事言えると思う？一回だけでもさー。漣君は言える？」
「好きでもない人に？ムリ！とりあえずぶん殴る！」
「だよねー。私だってそんな事されそうになったら、殴って蹴って、泣いて暴れてでも逃げるもん」

…そういうものだろうか。いや、確かにそうかもな。
俺だって好きでもない人と身体を繋げる事なんか出来ない。無理矢理だって何だって、無理なものは無理だ。
でも、あの人は逃げなかった。一度だけ、身体だけは受け入れようとしたんだ。
…やっぱり少しは望みがあるのか。

「漣君、修一さんにそういう事されたらどうする？」
「絶対しねーけど、『好きにしていーよ』って言う。デヘヘ…」
「やらしー想像しなくていーの！ほらね？こういう事よ、やっぱり瀬野さんは伊吹君の事が好きなのよ」
「うん、間違いねーよ？」
「……………」
「難しく考えないで。瀬野さん、過去に何かあったって気が付いてるでしょ？その所為だと思う。伊吹君を好きでも、好きだって言えないの」
「そこんとこ、こーちゃんが変えてかなきゃなんねーんじゃね？」

俺が瀬野さんを変える。本当に出来るんだろうか、そんな事。
でも、少しでも望みがあるなら…。いや、望みなんかあってもなくても、俺は諦めないって決めたんだ。だから。

「伊吹君、絶対諦めちゃ駄目だよ。瀬野さんを変えられるのは多分伊吹君だけだから」
「…諦めるつもりはありません」
「その意気だぜ、こーちゃん！諦めなかったら、きっといつか報われるって！」

二人の言葉に、俺は強く、深く頷いた。
この二人に知られて少し困っていたけれど、こんな風に応援してもらって少なからず救われている。
同性の恋人がいる東堂はともかく、さゆりさんには同性愛に偏見があってもおかしくないのに。
諦めるつもりは毛頭ない。それでも二人に背中を押されて、俺は勇気づけられていた。
とりあえず差し当たっての問題は、次に瀬野さんに会うための口実を作る事だが…。

「…あのさ、『好きにして良い』って言ったのってさ、瀬野っちがとんでもねー淫乱ちゃんだって可能性は、」
「「ない」」

珍しく俺とさゆりさんの声が被って、俺は思わず笑みを浮かべた。

----
#center(){[[Pre&gt;41]] | [[Next&gt;43]]}    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:16:41+09:00</dc:date>
    <utime>1322929001</utime>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/64.html">
    <title>46</title>
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    <description>
      **46

長い間、寝顔を見ていた気がする。
あれから瀬野さんは安心したのか、疲れたのか直ぐに眠ってしまった。
俺は瀬野さんをベッドに運び、ずっとその傍にいた。
どうしてなのか、眠くはならなかった。ずっと見ていたかったんだ、傍らで眠るこの人の顔を、ずっと。

瀬野さんはやっと本当の事を言ってくれた。ずっと心の奥底に仕舞っていた本当の気持ちを。
みさきさんに置いていかれた事、置いていかれたくなかった、一緒に連れていって欲しかった、そうすればずっと幸せだったのに、と。
きっとみさきさんは置いていったつもりなんかない。瀬野さんの気持ちを考えて、連れていく事なんか出来なかったんだ。
無償の愛――それを瀬野さんに注ぐ事が出来たみさきさんは、本当に素敵な女性だったんだろう。

だけど、瀬野さんにはそれを受け入れる事が出来なかった。
瀬野さんは本当にみさきさんを愛していたんだろう。こんなに長い間想い続け、置いていかれたという事実を悲しみ、他人を拒絶しまうほどに。
瀬野さんは純粋なんだ。自分にはこの人だと決めたなら、その人しか受け入れられなくなるほど純粋な人なんだ。

今の世の中に、そう出来る人がどれだけいるんだろう。普通だったら、好きな人に振られたら次へ、死んでしまった人の事だっていつかは忘れ、自分の幸せを求めるだろう。
だけど、瀬野さんはそれをしなかった、出来なかったんだ。
好きになった人をいつまでも想い続ける、それがけして報われなくても――そんな事が出来る人はそういないと思う。

だからなんだろうか、俺はほんの少しだけ迷いがあった。
みさきさんから瀬野さんを奪って良いのか、あんな純粋な人からその想いを奪って良いのか。
本当は俺が忘れさせるなんて、大それた事を思ってる訳じゃない。忘れられないなら、それでも良いと思っている。
だけど、傍にいたい。代わりでも良いんだ、瀬野さんの傍にいれるなら。
だけどそう思う事すら、俺は間違っているんじゃないだろか。

瀬野さんを幸せにしたい。心からそう思う。
だけど、瀬野さんを幸せに出来るのはみさきさんだけなんじゃないだろうか。

勿論こんな事、今更瀬野さんに言える筈がない。俺は瀬野さんと生きようと言ったんだから。
そう決めたんだから、絶対に言わない。だけどこれから先、常にこんな迷いが付き纏うような、そんな気がした。

そっと瀬野さんの傍を離れる。
寝室から抜け出してリビングに行くと、カーテンを締め忘れた窓から眩しいくらいの朝日が差し込んでいた。
眩しさに手を翳す。少しずつ視界がクリアになっていくと…、そこには一人の女性が佇んでいた。
誰もいない筈だった、この家には俺と瀬野さん以外、誰も。
他に人の気配なんかしなかったし、俺が来てから誰かが訪れた様子はない。

俺に背を向けて佇んでいる女性、白いワンピースに長い黒髪――俺は何故かその人がみさきさんだと思った。
幽霊なんか信じていない、見た事もない、だけど不思議なほどその人がみさきさんである事に納得している自分がいた。

「みさきさん…ですか？」

そっと名前を呼ぶと、彼女は俺に振り向いた。
その顔はホラー映画に出てくるような恐ろしいものではなく、綺麗な顔をした女性だった。
まるで生きている人間と変わらない、本当にそこに存在しているようだ。
よく幽霊は足がないというけれど、その人は足までしっかりと見えている。
本当にみさきさんなのか…？でも、じゃなかったらこの人がここに佇んでいる事はあり得ない。
俺は一晩中起きていたし、人が入ってきた形跡なんてなかったから。

「…みさきさん、ですよね？」

もう一度問いかける。だけど、彼女は返事をしない。
ただ微笑むだけ。否定も肯定もしない彼女に、俺はその人をみさきさんだと思い込む事にした。
怖いとは思わなかった。みさきさんじゃなかったら、逆に怖いだろう。

「…もしかして、瀬野さんを連れていくために出てきたんですか」

今更瀬野さんを連れていこうとしているのか。…俺が現れたから？
今までは瀬野さんの心にはいつもみさきさんがいた。だけど、そんな瀬野さんの想いを脅かす存在である俺が現れたから、瀬野さんを連れていこうとしているんだろうか。
だけど俺の問いかけに、彼女は困ったように少しだけ顔を歪める。

「俺は…瀬野さんを幸せにします。俺と瀬野さんは必ず幸せになります」
「瀬野さんに貴女の事を無理矢理忘れさせようとしてるんじゃないんです。忘れられないならそれで良いと思います」
「だけど、俺は瀬野さんといたい。貴女の事も含めて、俺は瀬野さんを愛していきます」
「俺だって貴女の事は忘れません。ずっと心の中にいると思います、瀬野さんを愛する者同士として」
「だから…、」

だから…何なんだろう？成仏して下さい、と言うのは違う気がする。
一人でベラベラと喋って、俺は何が言いたいのかよく分からなかった。
彼女は何も言わない、幽霊って喋れないのか…？
俺が言葉を失うと、彼女は優しく満面の笑みを見せた。
そして、唇が動く。

あ　り　が　と　う。

そう唇が動いた、声は出ていなかったけれど。
唇を閉じた彼女の優しい微笑みを見た時、強い朝日が差し込んで俺は思わず目を閉じた。
それから俺が目を開くまで数秒もかからなかったと思う。目を開くと、視界にはいつもと同じ瀬野さんの家の居間が広がっていて彼女の姿はどこにもなかった。

何だったんだろう…。夢でも見ていたんだろうか…。それとも、俺が見た都合の良い幻…？
いや、違う。あれは本物だ。本物のみさきさんだ、と俺は何故か確信していた。
俺にありがとう、と言ってくれた。俺を認めてくれたんだろうか。
それとも、俺の迷いを叱咤するために出てきたのかもしれない。

そうだとすると、礼を言うのは俺の方だ。
みさきさんに会った事で、俺は不思議なくらい迷いがなくなっていた。
彼女は俺の背中を押してくれたんだ――迷う事なんかない、幸せになって、と。
俺が都合の良いように捉えてるんじゃない。あの微笑み、言葉、それがみさきさんが許してくれた事を物語っている。

ありがとう、みさきさん。
俺は瀬野さんを必ず幸せにします。約束します。
だから、いつまでも見守っていて下さい、瀬野さんと俺の事を。
いつか再会出来る、その日まで。



「伊吹君…っ」

瀬野さんが慌てたように寝室から出てきたのは、その数分後の事だった。
酷く焦っていた瀬野さんは、俺の姿を見つけるなり安心したように微笑んだ。

「帰ったのかと思った…。あれ？変だね。ずっと一人だったのに…、一人でいるくらい何でもない事な、のに…っ」
「瀬野さん…」

瀬野さんは微笑んだままのその顔で、涙を一筋流した。
そんな瀬野さんを俺は強く抱き締める。強く強く、離れていかないように。

「一人じゃ、もう駄目みたいだ…。おかしい、ね…」
「…おかしくなんかない」
「一人にし、ないで…っ」
「俺はずっとあんたの傍にいます」

やっと心からそう言えた。
俺はやっと心から瀬野さんを抱き締める事が出来た。
みさきさんのおかげで。

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    <title>メニュー</title>
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      **メニュー
-[[トップページ]]
-[[First]]
-[[登場人物]]
-[[ログ]]
-[[執筆場所&gt;http://www.nikkijam.com/user/134610/]]
-[[Web拍手&gt;http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=easter630]]


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**リンク
-[[後書き日記&gt;http://www.nikkijam.com/user/145461/]]
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    <title>トップページ</title>
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      &amp;italic(){僕の空は明ける事なんかない。}
&amp;italic(){ひたすら歩き続けてる、終わりも始まりもない暗闇の中を。}
&amp;italic(){だって、僕は太陽を失ってしまったんだ。}
17話　瀬野暁視点より


こちらはオリジナルBL小説「君と僕を繋ぐもの」のログサイトです。
ＢＬ、同性愛、同人などが苦手な方、お嫌いな方はご注意下さい。
初めての方はまず、Firstをご覧下さい。

管理人　春伽    </description>
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    <title>First</title>
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      **はじめに

こんにちは、ご観覧ありがとうございます。
こちらはnikkijam内で書き綴っているオリジナル小説、「君と僕を繋ぐもの」のログサイトです。
この物語は男同士の恋愛を描いた小説となっております。
ＢＬ、同性愛、同人などが苦手な方、お嫌いな方はご覧にならないようご注意下さい。

下町のラーメン屋で繰り広げられるほのぼのストーリーを予定していましたが、暗いお話になっています。
ギャグ要素も殆どなく暗い内容なので、そういう小説が嫌いな方はご覧にならないで下さい。
とは言っても、エロやグロ要素はありません。メンタル的にも酷い表現はないと思いますが…（エロは途中で入るかもしれません）
何があっても、最終的にはハッピーエンドの予定です。

感想など頂けたら嬉しいです。web拍手からお願いします。
誤字脱字も教えて頂けると嬉しいです。
その他、何かありましたら、メールでも構いません。
また、誹謗中傷にはお返事しません（管理人は打たれ弱いので勘弁して頂けるとありがたいです）。

大して上手な作品ではありませんが、それでも著作権は管理人、春伽にあります。
文章の無断転載や自作発言はけしてなさらないで下さい。


**簡単なあらすじ

売れない新人作家である瀬野暁は、家の近所で小さなラーメン屋「きくいち」を見つけて以来、きくいちの常連になった。
そのラーメン屋には気風の良い美知子おばちゃんと看板娘の雨宮さゆり。そして、何故か瀬野を嫌う青年、伊吹康生がいた。
何故嫌われているのか分からない、だけど気になる彼に会うため、瀬野はきくいちに足を運んでいたのだけれど…。

というようなところから話が始まります（これってあらすじじゃない…）
主人公は瀬野暁と伊吹康生の二人。
奇数番号は瀬野視点、偶数番号が伊吹視点で書いてます。


**舞台設定

架空の町ですが、あまり都会ではない下町という感じの町です。
昔ながらのお店が並ぶ商店街があります。大型スーパーやコンビニもあるようですが、あまり数は多くありません。
名物になるような物もなく、若者には寂れた町という印象を受けるらしく、都会に憧れる者が多いようです。そのため人口も多くありません。
夜になると街灯も少なく、「夜道は危険」という認識からあまり出歩く者も少ないようですが、その割に治安は悪くありません。
唯一の名物は年に一度のお祭りくらい。しかし、地元の人しか知らないような小さなお祭りです。
それほどド田舎という訳ではないんですが都会でもない、そんな中途半端な町です(笑)

ラーメンきくいちは商店街から少し離れた所のあります。
テーブル席が三つ、カウンター席が七席の小さな店です。
メニューはラーメン三種とライス、飲み物のみです。

途中で変更、追加になる部分があると思います。ご了承ください。
　
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    <dc:date>2011-12-01T13:10:59+09:00</dc:date>
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