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    <title>46</title>
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    <description>
      **46

長い間、寝顔を見ていた気がする。
あれから瀬野さんは安心したのか、疲れたのか直ぐに眠ってしまった。
俺は瀬野さんをベッドに運び、ずっとその傍にいた。
どうしてなのか、眠くはならなかった。ずっと見ていたかったんだ、傍らで眠るこの人の顔を、ずっと。

瀬野さんはやっと本当の事を言ってくれた。ずっと心の奥底に仕舞っていた本当の気持ちを。
みさきさんに置いていかれた事、置いていかれたくなかった、一緒に連れていって欲しかった、そうすればずっと幸せだったのに、と。
きっとみさきさんは置いていったつもりなんかない。瀬野さんの気持ちを考えて、連れていく事なんか出来なかったんだ。
無償の愛――それを瀬野さんに注ぐ事が出来たみさきさんは、本当に素敵な女性だったんだろう。

だけど、瀬野さんにはそれを受け入れる事が出来なかった。
瀬野さんは本当にみさきさんを愛していたんだろう。こんなに長い間想い続け、置いていかれたという事実を悲しみ、他人を拒絶しまうほどに。
瀬野さんは純粋なんだ。自分にはこの人だと決めたなら、その人しか受け入れられなくなるほど純粋な人なんだ。

今の世の中に、そう出来る人がどれだけいるんだろう。普通だったら、好きな人に振られたら次へ、死んでしまった人の事だっていつかは忘れ、自分の幸せを求めるだろう。
だけど、瀬野さんはそれをしなかった、出来なかったんだ。
好きになった人をいつまでも想い続ける、それがけして報われなくても――そんな事が出来る人はそういないと思う。

だからなんだろうか、俺はほんの少しだけ迷いがあった。
みさきさんから瀬野さんを奪って良いのか、あんな純粋な人からその想いを奪って良いのか。
本当は俺が忘れさせるなんて、大それた事を思ってる訳じゃない。忘れられないなら、それでも良いと思っている。
だけど、傍にいたい。代わりでも良いんだ、瀬野さんの傍にいれるなら。
だけどそう思う事すら、俺は間違っているんじゃないだろか。

瀬野さんを幸せにしたい。心からそう思う。
だけど、瀬野さんを幸せに出来るのはみさきさんだけなんじゃないだろうか。

勿論こんな事、今更瀬野さんに言える筈がない。俺は瀬野さんと生きようと言ったんだから。
そう決めたんだから、絶対に言わない。だけどこれから先、常にこんな迷いが付    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:13:16+09:00</dc:date>
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    <title>45</title>
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    <description>
      **45

伊吹君が言ったんだ。
美咲の気持ちが分かるって。美咲の立場だったら同じ事をするって。
その言葉が突き刺さるように胸が痛んだ。
伊吹君も同じなんだ、僕を置いていなくなってしまうんだ。
僕は伊吹君に抱き締められて、ほんの一時だけれど幸せだった。なのに…、僕はいつかその幸せを失ってしまうんだ。

永遠なんてない、そんなものを信じられるほど僕は子供じゃない。
だけど、僕が欲しかったのは永遠なんだ。これから先、ずっと変わらず共にいる人――僕はそれを求めていた。
だけど、伊吹君はやっぱり違うんだね。ずっと僕の傍にいるって約束してくれないんだね。

美咲と伊吹君が違う。伊吹君は生まれつきの病気を抱えている訳じゃない。
だからと言って、いつまでも一緒にいられる事にはならない。突然病気になってしまうかもしれないし、事故に遭ってしまうかもしれない。
突然いなくなってしまうかもしれない――それは当たり前の事だ。
伊吹君は少しもおかしい事を言っていない。永遠なんてものを求めた僕がおかしいんだ。
そう思ったら、もう伊吹君の腕の中にはいられなくて、僕は伊吹君の腕からするりと抜け出して背を向けた。

「瀬野さん…？」

伊吹君が僕の名前を呼ぶ。優しい声。
だけど、それを聞くのも今日で最後にする。
何も始まらなかった恋だった。だけど、僕は伊吹君を好きになって、一時だけどその腕の中にいられて幸せだったよ。
だけど、もう終わりにしよう。

「伊吹君、僕はやっぱり君を受け入れる事は出来ない」
「どうして…、俺が男だからですか？」

僕は伊吹君の問いかけに首を振った。
最後だから…、正直に全てを話してしまおうと思った。

「君が美咲と同じ事をするって言ったからだよ」
「…え？」
「大切な人に…、心から愛した人に置いていかれた僕の気持ち、分かる？…分からないよね、分かっていたら絶対そんな事言わないんだ」
「……………」
「僕は美咲が死んでから何度も思ったよ、『いっその事、一緒に連れていってくれれば良かったのに』って」

ゆっくりと振り向くと、伊吹君は驚いたように目を見開いて僕を見ていた。
僕の事、おかしいって思ってるの？だけど、これが僕の本当の気持ちだよ。
僕は美咲が望むなら、この命を捨てたって良かった――いや、美咲が    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:21:08+09:00</dc:date>
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    <title>44</title>
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    <description>
      **44

その日の瀬野さんは何だか変だった。
俺の顔を見るなり泣きそうに顔を歪めて…、だからなのかもしれない、俺は思わず瀬野さんの身体をきつく抱き締めてしまった。
もう必要以上に触れない、あんな事をしてしまった後だしきっと怖がらせるだけだから――そう心に決めていたのに。
そんな俺に瀬野さんは何も言う事なく、抵抗する事なく俺の腕の中に収まっていた。
何かがおかしい。もっと抵抗したり、帰ってだとか僕は会いたくなかっただとか言われると思っていたのに。

「…瀬野さん？」
「……………」
「抵抗されないとこのまま先に進んじゃいそうなんですけど」
「……………」
「嫌だったら嫌って言って下さいよ」

瀬野さんはやっぱり何も言わない。
それはこのまま先に進んでも良いって事だろうか。…いや、そんな訳ない。
少なくとも雰囲気や相手の態度に流される人ではない。意思が弱そうに見えるけどな。
…何かあったんだろうか？聞きたいけれど、聞いて答えてくれるとは思えないし…。

このまま抵抗されないと、本当に先に進んでしまいそうだ。
もう二度と取り返しのつかない事をする訳にはいかない。そうなる前に、俺は瀬野さんの身体を離した。

「駄目ですよ、そんなんじゃ。俺を拒みたいなら強い意思がないと。流されてとんでもない事されますよ？」
「……………」
「あんた、力なさそうだし…力ずくで、なんて簡単だと思うんで」
「……………」
「今日はこれで帰りますね、顔見たかっただけだし…。皆心配してますから、また店に来て下さいね」

どうしてそんな事を言っているのか、自分でも分からないけれど…。流されてくれれば、それはそれで楽なのに。
そうだよな…、俺は馬鹿かもしれない。だけど…、この人が俺に流されて行為に及んだとしても、俺は嬉しくないと思う。
やっぱり俺が欲しいのはこの人の全てなんだ、身体だけなら手に入らない方が良い。
きっと余計に虚しくなるだけだから。

瀬野さんに背を向ける。名残惜しいと思う気持ちを抑えて。
それが出来る分、今日の俺は理性的だ。
それなのに足を踏み出した途端、俺は足を止めた。何かに引っ張られて。
振り向くと、瀬野さんが俺のＴシャツを掴んでいた。震える指先で。
その指先に驚いて、俺は瀬野さんを見た。瀬野さんはぽろぽろと涙    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:19:39+09:00</dc:date>
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    <title>43</title>
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    <description>
      **43

もう会わない――そう決めたつもりだった。
なのに、きくいちに行かない日々が三日、五日と経っていく内に、僕は伊吹君の事ばかり考えるようになっていた。
僕にはもう関係ない筈なのに。いや、関係ない、関わらないって思わなきゃいけないのに。
だけど、僕は気が付けば伊吹君の事を考えていて、我に返るとやっぱり伊吹君が好きなんだと実感してしまう。

いつものちょっと怖い顔も、時々見せる笑った顔も。
低く物静かな声も、僕をからかう時の楽しげな声も。
掴まれた腕の痛み、抱き締められた時の体温、僕を好きだと言った時の真っ直ぐな眼差しも。
全て鮮明に思い出せる。その度に美咲との思い出が薄れていく。

こんなの駄目だ、僕は美咲を忘れては駄目だ。
僕が美咲の事を忘れたら、美咲が僕のためにしてくれた事、そして僕の所為で命を落とした事が全て無駄になってしまう。
なかった事になんか出来ない、それが真実だから。

伊吹君の所為じゃない、きっかけは伊吹君かもしれないけれど。
僕の心が揺れ動くのは僕が弱い所為だ。
幻想の中で美咲はいつも僕に微笑みをくれる。だけど、温もりは与えてくれない。
温かく満たされたいと僕が願うから、それを与えてくれる伊吹君に心が動くんだ。
強くなりたい――なれない。だから、こんなにも苦しい。



僕はきくいちに行かなくなってから、スーパーのお総菜とかコンビニ弁当ばかり食べるようになっていた。
前もそういう物ばかり食べていたけれど…、何故かあまり美味しいと感じない。
勿論きくいちのラーメンや伊吹君が作ってくれたご飯の方が美味しくて、酷く寂しい気持ちになる。
それでも、きくいちには行けないし、伊吹君にも会わないと決めていたから。

そして、今日もご飯を買いにコンビニに入る。
出版社に行った帰りだから、いつものコンビニとは違う少し家から離れたコンビニだった。
そのコンビニはお弁当やお総菜、デザート類が美味しいとネット上で評判のコンビニ。家の近くにもあると良いのに…。
自動ドアが開いて、明るい店内に入る。

「いらっしゃいませー、あーっ！！」

聞いた事がある声、間延びしたような口調。そして、叫び声に僕は声の主を見た。
そこにいたのは見覚えのある男の子――そうだ、伊吹君の友達の東堂漣君だ。彼が驚いたよう    </description>
    <dc:date>2012-02-23T01:17:08+09:00</dc:date>
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    <title>42</title>
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    <description>
      **42

瀬野さんの家を出て、俺は走った。まるで逃げているようだ、と思った。
走って走って、走り続けて、瀬野さんの家が見えないところまで辿り着いた時、振り返る。見えないところまで来てから振り向いたところで何にもならないのに。

まさか、と思った。
まさか自分がこんな事をする人間だったなんて。こんな事が出来るなんて思わなかった。
好きだと思った人を押し倒すなんて…。
勿論東堂に言われて、押し倒した訳じゃない。そういうつもりで瀬野さんに会いに行った訳じゃないけれど。
でも、実際はやってしまった訳で…。瀬野さんにどう思われても、東堂やさゆりさんに責められても仕方がないな…。

それでも、どうしても我慢出来なかった。あの人があまりにも分からず屋で。
俺の気持ちを受け入れられないなら、それは仕方がない事だ。それでも俺は知りたい。
この気持ちにピリオドを打つために、あの人の大切な人がどんな人なのか知りたいだけだ。

俺は少しも間違った事を言っていないと思う。俺が嫌いだとか気持ち悪いと思うなら、俺は納得して諦めないといけないと思うけれど。
あの人の答えは『忘れられない人がいるから』だったんだから。

…ただ、その後にした事は確かに間違っていた。冷静にならなければ、出来ない話もある。
だったら、どうすれば良かった…？どうすればあの人はみさきさんの話をしてくれただろうか。
それはあの人の傷を抉じ開ける事になるんだろう。それはきっと痛い。出来れば傷つけたくないんだけど…。
…いや、傷つけてでも知りたい。どうしても俺はあの人を諦めきれない。好きなんだ…。

俺は俺が思っていた以上に瀬野さんを好きになっている事に気が付いた。自分でも驚くほどに。
それを考えると、学生の頃に付き合っていた女は好きではなかったんだな、と思う。心に残る思い出も、顔さえも今では思い出せないから。

さゆりさんの事は…好きだったけれど、それは本物じゃなかった。諦める事が出来たし、上京するような事にならなければ告白だってしなかった。多分憧れに近いものだったんだろう。
だけど、瀬野さんの事は…。

瀬野さんの事を思うと、今までに芽生えた事がない感情が芽生える。
痛々しい表情をする事が歯痒くて、どうにかしたいのにどうにも出来なくて…。

大切にしたい、守りた    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:16:41+09:00</dc:date>
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    <title>41</title>
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    <description>
      **41

どうしてこんな事になったんだろう。
伊吹君に押し倒されてシャツを引き裂かれた時、ただ驚く事しか出来なかった。
本当に分からなかったんだ。伊吹君がどうしてこんな事をするのか、伊吹君がどうして美咲の事を知りたがっているのか。
そして、どうして美咲の名前を知っているのか。

伊吹君の気持ちを軽く見ていた…かもしれない。それは確かに伊吹君の言う通りだと思う。
伊吹君は僕を好きだと言った。それはさゆりちゃんが僕に抱いた恋心と、伊吹君がさゆりちゃんに抱いていた想いと同じだと思っていた。
だから、憤りを感じたんだ。美咲を忘れさせてあげる、なんて…。
そんな簡単なものじゃない、美咲の存在は僕にとってそんな簡単なものじゃないんだ。

だけど、違うの？伊吹君は本当に美咲の事を忘れさせようとしたの？
美咲を忘れさせようとするほど、伊吹君は僕を好きなんだろうか。
そして…、こんな事するほど僕が欲しいんだろうか。
だって、こんな事をしたら誰も幸せになれない。僕はきっと伊吹君に二度と会わなくなる。
二度と会えなくても良い――そう思っているの？

伊吹君が僕の首筋に唇を付ける。
その感触が僕を現実に引き戻した。

「嫌だっ、止めて！お願い、こんな事しないで！」

僕は必死で伊吹君の身体を押し返そうとした。
だけど、伊吹君の身体はびくともしない。押し返そうと伊吹君の胸に触れた手は、簡単に掴まれて床に押し付けられる。
抵抗しても無駄で、身動きも取れなくて僕は恐怖を感じた。
本気なんだ…、伊吹君は本気で僕に抱こうとしている。
男同士だからとかこれからの事とかそんなの関係なく、本当に無理やりするつもりなんだ。
そう思ったら涙が溢れて、目尻を伝って床に零れ落ちた。

本当は嫌な訳じゃない。
伊吹君が好きだと思ったから。こんな事されても、やっぱり好きだから…。
だけど、伊吹君にはこんな事して欲しくなかった。こんな事をする人だと思いたくなかった。
好きだから、思いたくなかったんだ。

「な、んで…。こんな事しても、誰も幸せになんかなれな、い…っ」
「…だったら、どうすれば幸せに出来るんですか？」
「い、ぶきく…っ」
「あんたを幸せにするためなら、俺はどんな事でも出来るのに…。あんたがみさきさんを忘れてくれるなら、何だってや    </description>
    <dc:date>2011-12-04T01:44:08+09:00</dc:date>
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    <title>40</title>
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    <description>
      **40

瀬野さんが涙を流す。
頬を伝って流れ落ちる涙が瀬野さんの胸元に吸い込まれていくのを俺はただ見つめていた。

「お願いだか、ら」
「瀬野さん…？」
「これ以上、僕の中に入ってこ、ないで…」

その言葉にどんな意味があるのか、俺には分からない。
俺が瀬野さんの中に入っていく――瀬野さんの、心の中に？
俺の言葉や行動が瀬野さんを惑わせるくらいの影響力があるというんだろうか。

瀬野さんは誰にでも同じように接する。誰にでも優しく、平等に。
そして、誰にでも同じように笑う。まるで人形のように、綺麗に。
それは誰もが瀬野さんにとって同じだからだ。自分以外の人は『他人』という一括りにされている。友達も知り合いも通りすがりの人も皆、同じなんだ。
俺もそうだと思っていた。少しは親しくしていても、少しは頼りにされていても所詮は同じ『他人』だと。
だけど、そうじゃない？俺は瀬野さんの中に入っていける？
もしかしたら瀬野さんを変える事が出来る…？

…いや、それは自意識過剰だろ。
変えたいとは思っている。だけど、俺が変えられるかは話が別だ。
それでも、瀬野さんが俺の所為で泣いているのには変わりない。
泣かせたくないのに――俺は瀬野さんの頬に手を伸ばした。

「触らな、いで」

その手はその頬に触れる事なく、瀬野さんに振り払われた。
力はなかった。でも、俺にとっては凄く衝撃的で振り払われた手が痛む。
そして、それ以上に心がずきりと痛んだ。

「な、んで…？」
「瀬野さん…」
「何で僕なんか…。伊吹く、んにはもっと可愛い女の子がに、あうよ…」

瀬野さんが涙に声を詰まらせながら、言葉を紡いだ。
必死に笑おうとしている。無理をしているのが分かる。
それは見ていて痛々しくて、俺は瀬野さんを抱き締めたくなった。
どうせ泣くなら俺の胸で泣いて欲しいなんて…、俺にはそんな事を思う権利もないけれど。

「でも、俺はあんたが良いです」
「どう、して…」
「理由なんかないです。瀬野さんが好きなんです。俺は自分に嘘をつくような真似はしたくない。…あんたがそれをどう思おうと」
「こま、る…っ」
「どうして困るんですか？」

ずっと疑問に思っていた。俺の気持ちを告げたら瀬野さんは困る。それは分かっていたけれど、で    </description>
    <dc:date>2010-03-21T20:10:11+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/57.html">
    <title>39</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/easter630/pages/57.html</link>
    <description>
      **39

伊吹君が僕を好きかもしれない。
さゆりちゃんと東堂君との会話で生まれた仮定は、僕にとっては到底信じられるものではなかった。
そんなまさか…。でも、あの時の伊吹君は確かに変だったし、あの時は意味が分からなかった言葉。
あの言葉は僕を好きだから言った言葉だとしたら？
僕は伊吹君に好きだと言われたら困るし、さゆりちゃんに振られたのにあまり落ち込んでなかったのは、他に好きな人が出来たからだとしたら…。

…いや、やっぱり考えすぎだ。きっと何か別の理由があったんだ。
そうじゃないとおかしいじゃないか。…男同士だし。
同性間の恋愛に偏見がある訳じゃない、個人の自由だと思う。
だけど、伊吹君はさゆりちゃんという可愛い女の子を好きだったんだから。
それはもう過去の事かもしれないけれど、それでも次に好きになるのも女の子だろう。
だから、大丈夫。

そう思うのに、何だか不安で。
そんな訳はないと思うのは、何だか自分に言い聞かせているような気がする。
大丈夫だと思う事で、伊吹君の不自然な行動や言動を考えなくても良いようにしている。
それは…、もし本当だったら困るから――どうして？もしそれが本当でも、断れば良いだけなのに。
伊吹君を拒むのが怖いから？…拒めないから？

僕は大混乱中で、暫くの間伊吹君には会わない方が良いと思った。
会っても昼間みたいな変な態度を取ってしまいそうだし、時間を置いたら分かる事があるかもしれないし…。
きくいち以外の繋がりなんてない人だから、僕がきくいちに行かなければ会う事もない。そう思っていたのに。

伊吹君が再び僕の家を訪れたのは、その日の夜の事だった。
伊吹君は普段と変わらない真っ直ぐ視線を僕に向けて、僕の前に立っていた。

「伊吹君…」
「こんばんは、瀬野さん」
「どう、したの？」
「さゆりさんがこれ、返して来いって」

そう言って、差し出してきた伊吹君の掌には僕が置いていった七百円が乗っていた。
僕が一口も食べずに店を出た、醤油ラーメンの代金だ。
でも、注文はしたんだし、きくいちに落ち度があって食べなかった訳じゃないし…。
僕が受け取れずにいると、伊吹君は僕の手首を掴んだ。
何をするんだ。僕はびくり、と身体を強ばらせながら、伊吹君を見た。
伊吹君は僕の掌にお金を乗せて    </description>
    <dc:date>2010-03-20T18:15:04+09:00</dc:date>
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  </item>
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    <title>38</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/easter630/pages/56.html</link>
    <description>
      **38

久しぶりにきくいちに来て、何も食べずに帰って行った瀬野さん。
瀬野さんが去って行った後にはまだ温かな湯気を出している醤油ラーメンと、カウンターに置かれた七百円だけが残っていた。

『何でもない！』
『用事思い出したから、今日は帰るね…』

それは明らかに嘘で、その嘘には何が隠されているのか、俺は考えていた。
瀬野さんは多分本気で困っていた。いつものあの笑顔を忘れるくらい、本気で動揺していた。
何があったのか、なんて…。そんなの、この場にいた者にしか分からない筈で。
俺が呆然としているさゆりさんと東堂に振り返った時、二人はびくりと身体を強張らせた。
…今の俺はよっぽど人相か悪いらしい。いつもだって良いとは言えないのは、俺自身がよく知っている。

「…な、何にもしてないよ？ね、漣君！」
「うん、何もしてねーよ？普通に話してただけだってば」
「…何もしてないのに、どうして帰るんですか？頼んだラーメンを食べずに、お金だけ払って」
「そんなの、俺らが聞きてーって！なー、何の話してたっけ？」
「えー？だからさー、女の子が好きな男を落とす時のテク………そうだ、伊吹君！」

女が男を落とす時のテク…？何だ、それ。
さゆりさんは話の途中で何かを思い出したように声を上げて、俺を手招く。
何なんだ、と思いながらさゆりさんの近くまで行くと、東堂には聞こえないように耳打ちされた。

「大変よ、伊吹君。ライバル出現」
「は？」
「だから！瀬野さんを狙う女の子が現れたのよ」

…ますます分からない。どういう事なんだろうか。
瀬野さんを狙ってる女がいる、と瀬野さんが言ったんだろうか。その話をしていた…？
それで、どうして瀬野さんが動揺するんだ…？瀬野さんがその女に気があるって事か？
…それはない気がするけれど。だって、瀬野さんは今も想ってるんだろう、みさきさんという人の事を。
だとしたら、さゆりさんの時と状況は同じだ。
…考えれば考えるほど分からない。

「…話が見えません」
「あのねー？瀬野さん、誰かに『慰めて』って言われたんだって。でもその人、落ち込んでる訳じゃなかったらしいのよ」
「……………」
「それで瀬野さん、悩んでてね。『どうしてそんな事言ったのかな？』って私達に聞いてきたってわけ」
「……………    </description>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/easter630/pages/55.html">
    <title>37</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/easter630/pages/55.html</link>
    <description>
      **37

僕には伊吹君が何を言っていたのか、全く分からなかった。
良い人だって褒められた事に照れていたんだろうか？それにしては言動が不自然だった気がして。

『俺さゆりさんに振られたけど、あまり落ち込んでないです』
『俺がして欲しい事を言ったら、あんたは困ると思います』

落ち込んでいないなら、どうして『慰めて』なんて言ったの？僕が困る事って何？
前にも同じような事言っていたっけ。でも聞いたら、本当に困りそうで聞けなかった。
やっぱり本当に困る気がするんだけど…、何だか気になるな。知りたい…かもしれない。
きっと伊吹君に聞いても教えてくれないんだろうな。

何となく寂しいような、虚しいような気分だった。
最近、伊吹君が何を考えているのか、よく分からなくて。
前だって分かってた訳じゃないけどさ。
それでも、僕に嫉妬したり真っ直ぐで正直なところとか、今よりは少し分かっていた気がしたんだ。
もしかして分かっている気になっていただけ？見せかけだったのかな？
…伊吹君はそんな子じゃないって思いたいけれど。

何となく寂しい気分になるのはどうしてだろう。
関係ないじゃないか、僕は一人で生きていくと決めたんだ。
だったら、他人の事なんか気にしなければ良いのに。
どうして気になるんだろう、伊吹君の事だから？
そう思ったら、左手の指輪が締め付けられるように痛んだ。
美咲が怒ってるみたいに。



次の日、僕はきくいちに来ていた。
暫く行くのはよそうかなって思っていた矢先だけれど、やっぱり伊吹君の事が気になったから。
さゆりちゃんと会うのは何となく気まずいなぁって思うんだけど…。
店の戸を開けると、さゆりちゃんの元気な声が聞こえてくる。

「お客さんには元気良く接するのよ。だけど、丁寧にね！」
「はーい」
「ちょっと漣君、やる気あるのー？あんた、看板娘になんだからねー？」
「かんば…って娘になるつもりはねーよ！俺は単なる助っ人なのー！」
「何言ってんのよ！私の代わりなんだからね？看板娘でしょー？」
「…自分で看板娘とか言ってて恥ずかしくねーの？」
「煩いわね！」

さゆりちゃんと漫才のようなやり取りを繰り返しているのは、お祭りの時にきくいちの助っ人をしていた東堂漣君だった。
会話から察すると、彼がさ    </description>
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