**よんた藩国屋台 ---- ***出展物 +1牛モツ煮込みラーメン +2季節フルーツのクレープ ---- ***屋台紹介文 幸せは食べ物からやってくる よんた藩国の口伝 よんた藩国での屋台設営は、さながら国家総動員法が出されたように国ぐるみで執り行われた。 藩国食堂のお姐さんまでが駆り出されて、自国はもちろん各国からの観光客の舌を満足させるべく、文字どおり汗水たらして奮闘している。 もっとも、参加者の多くが『いやぁ、美味いもの食べてもらって喜んで貰うってなぁ気持ち良ぃからねぇ』と利益無視でお祭り騒ぎに興じているのも、この国の国民性というものであろう。 見上げた空は初夏の高く澄んだ青、風は汗ばむ肌を労わるように爽かに流れていた。 「マップいみ・ねー」 湾岸公園に設置された屋台広場の鳥瞰図と眼下に広がる光景を見ながら槙はつぶやいた。 わんこさんだらけ。ねこさんまみれ。 いまや知類で濁たる状況の屋台広場。 潮風にのってくるソースとチーズの焼ける芳ばしい香りがぎゅっと胃を刺激する。 「槙さん、槙さん、ほら早く行かないと全部回りきれませんよ~」 屋台リストが閉じられたバインダー片手に、可愛らしい。というよりは可憐な少女が弾んだ声で言う。 「あぁ、うん。しっかし、アレだねぇ。衛生管理保守見回役ってのも大変かもねぇ」 人だかりを目にしながら言う槙。ショルダーバッグには除菌薬剤一式が詰まっていた。 「まぁまぁ。折角なんだから、食べ歩きながらってのも良いじゃないですか~、今回の為に色々新メニューを出してるお店もあるらしいですし!」 そういって、鼻息も荒くリストをババァーンと開く。 あきらかに楽しんでるよね。ゆー。と思いながら槙は笑って歩き出した。 たまにはこんなデートも悪くないと、そう思った。 #ref(yata-i.png) ---- 「さぁ、らっしゃい。らっしゃい!モツ煮込みらぁめん。モツ煮込みらぁめんだ!ぷりっぷりのモツのコラーゲンがお肌ぴちぴちのもっちもちをお約束!カプサイシンが発汗作用を促すよ!」 #ref(ra-men3_08.jpg) 説明には『カリカリに焼いた板状のオコゲ、ぷりぷりの牛モツ、たっぷりのニラ、シャキシャキのキャベツ、特産の小麦を使った自家製麺、ショウガ、唐辛子など香味野菜が効いた醤油ベースのあんかけスープをたっぷりと加え、お好みでニンニクベースの辛味ダレや紅ショウガをのせて胃の底までカッ喰え!』とある。 「も…つ?」リストに『済』を記入しながら不思議そうに首をかしげる助手君。 「ありゃ、食べたこと無い?」水周りをチェックしつつ槙。 「はい。何なのです?ずいぶんと大盛況のようですけど」 「ふぅん。あ、ニイちゃん。牛モツ2つ頂戴。麺はバリ硬と普通で」 運ばれてきた『牛モツ煮込みらぁめん』助手君は一口目をおそるおそる口に運ぶと、文字どおり開眼したように目を開き、あとはもう旺盛な食欲を余すところ無く発揮して食べ始める。 麺を食べ終えた所で、端からスープの浸みた板状のオコゲを崩し入れて、食べ始める。カリカリとした食感が楽しい。もちろん、スープに浸してオジヤ風にしても楽しめる。 「おふぁわり!」オコゲ最後のひと欠片を咀嚼しながら助手君。 「いやいや、お客さん詰まってるし。仕事があるから」 「ご無体なー」 ---- 「えーと、ここで最後ですね」 「ソウデスネ・・・袖も気持ちいいくらい軽くなったしね・・・」 (まさか、全て食べるとは助手君の胃はコスモか)前の店で買った薄荷パイプが妙に目にしみて、槙は心の中でルールーと泣いた。 「国立第七初等学校。課外授業の一環だそうです」 「メヌーは、何ですのん?」 「国内産果物をふんだんに使用した…クレープ全256種類です!」 #ref(kure-p.png) 「BETUBARAキター」膝から崩れ落ちる槙。 クレープ屋には人だかりが出来ていた。小学生が作ってるんじゃないのか?という疑問が槙の頭をよぎる。 「うーい、35番さんお待ちー、イチゴミルフィーユスペシャリテ・プチシュー載せね」 威勢の良い、聞き覚えのある声が響く。 「先生?!」助手君が驚きの声を上げる。 「んあ、彩と、槙センセじゃん。なに?デート?彩が卒業してまだ5年も経ってないだろ、いいのか?公序良俗とか」 「「いいんですよ」」 「ふーん、ま、幸せにしてるなら文句無いけどね。で、何?あぁ、衛生チェックね。うぉーい、オメェら。この冴えない男と、釣り合ってないほど可愛い俺の教え子を裏に案内してやんな」 「はーい」 「はんざいのにおいします?」 「でもながいものにはまかれたい」 「おらー、アルコールで手を洗って綺麗になってしまえー」鞄から洗浄液を取り出して配達役の子供たちと、作成係の子供たちを再洗浄する。 きゃあきゃあ、冷やっこいと騒ぎながらも手を洗う生徒たち。 「いい生徒さんですよね~」ほややんと笑いながらいう助手君。 「そうだろう。そうらろう。」そう言って銀のミニボトルを傾ける教師。 「…食道の消毒は検査項目に無いですよ?」 「麦茶だ麦茶、琥珀色してるだろーが、それより彩。何か喰っていけ。代金はその男に着けといてやるから」 「じゃぁ・・・・全部ください!」 「ぉぉ、太っ腹だねぇ槙君」 「すいません。その麦茶ください」うな垂れながら槙。 「256個も喰えんでしょー」 「ええ、これは子供たちにご褒美です~」 わぁぁと沸き返る子供たち。 「……その理由は卑怯だなぁ」 苦笑して、槙はクレープに噛り付いた。 シャキシャキとした林檎の歯ごたえ。続いて煮込んだ林檎のトロリとした上品な甘さが口いっぱいに広がる。イチゴの酸味がアクセントとして加わり、新鮮な生クリームとしっとりとした薄黄色の生地が全てを包み込んで 一言で言えば、抜群に美味かった。 ---- 「ところで、あの『もつ』って何だったんです?」 「あー、あれはね…」(ひそひそ 「槙さん、私………キャトルミューティレーションの理由が解った気がします!」 「美味いからなぁ。モツ」 「世界中・・・というか、先ずはオリオンアームの人たちにも食べて欲しいですよね」 「美味いは、万国共通だからねぇ。いいんじゃない?うまいもの外交」 「槙さん、わたし昔お母さんから、『幸せは食べ物からやってくる』って言われたんですよ」 「うん」 「それで、今日いちにち色んな人にあって、いろんな美味しいものを食べて、それをおいしそうに食べてくれる人たちを見て、あぁ、お母さんの言ってた事は本当だなぁと思ったんです」 「それが本来この国の形だからね」 「だから、上手くいえないんですけど、守って行きたいんです。この幸せの形を」 槙は一度、目をつぶるとゆっくり言った。 「その願いは守られるでしょう」 その日。美味しそうに、幸せそうに料理を食べる人々を見て、この国の大人たちは思い出したのである。 本来、この国が守るべき幸せを。 そうして、また思うのだ。全ての知類にこの幸せを享受する権利があると。 悲しみを終わらせる為の悲しみを量産しながら、それでも求めずにはいられないのだ 全ての知類に幸あれ。と。 ---- 槙 昌福@よんた藩国 小野青空@よんた藩国 竿崎 裕樹@よんた藩国