「指名手配」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

指名手配 - (2019/05/18 (土) 10:23:28) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*指名手配 #amazon(4488115071,right,image) 題名:指名手配 原題:The Wated (2017) 著者:ロバート・クレイス Robert Crais 訳者:高橋恭美子訳 発行:創元推理文庫 2019.5.10 初版 価格:¥1,360  この作家は女性の描き方がうまい。訳者もあとがきでそう言っている。そう。実に巧いのだ。主要登場人物のみならず、ワンシーンのみ登場するだけの脇役に至るまで、こと女性に関しては個性が際立っている。作者はよほど女性から痛い目に遭っているのかもしれない。あるいはとても優しくて女性にもてる作者の人間観察力がそうさせるのかもしれない。  さて、ともかく。スコット&マージという捜査犬シリーズを離れ、いよいよエルヴィス・コール&ジョー・パイクという作者のメイン・シリーズである。ぼくには初読である。しかも新作。二人の単独シリーズとしては何と19年ぶりとなるらしい。何故? Why? 無論、『容疑者』『約束』と、捜査犬マージの大活躍により、本シリーズのこちらも再会に至ったのだ。読者も読者だし、作者も作者である。何より、マージ様々なのだ。  女性の描写は際立っている。それに比して、コール自身はあまり色のない、地味で堅実な私立探偵である。スペンサーみたいに料理は上手だけど、恋愛中の女性は、前作『約束』で知り合った超多忙の大物警察官であり、電話二本の通話という形でしか、ここでは登場しない。食事を一緒に、という約束をして、それが仕事で流れたくらいだから、まだ深い恋愛関係にはないのかもしれない。  代わりにと言ってはなんだが、コールは猫と一緒に暮らしている。不機嫌な猫。名前すら与えられていないみたい。「猫」というように「私=コール」は描写する。その突き放した関係が、何とも独身男と猫のリアリズムである。コールにはまた、別れた妻とその子供が、ルイジアナのバトンルージュにいる。遠い。別れた妻とはうまく行っていないものの、子供は時に一緒の時間を過ごすらしい。家のテラスで、テコンドーとカンフーを組み合わせた技を、二人で伝授し合うシーンが少しだけある。コールの愛すべき人間性だ。  さて本作の事件。「悪党」としか登場人物表で紹介されていない二人のでかい男のコンビが、全編を通して暗躍する。そう、「悪党」。彼らは窃盗犯の若者トリオを捜していて、次々と関係者から情報を絞り出しては殺してゆく。残忍極まりないが、二人の道中は不思議な対話に満ちている。タランティーノ映画とも違う。もう少しフリークな感じで。病気な感じで。どこか、心底怖くなるような二人。  逃げ回る窃盗犯若者トリオのうち一人が彼らに追われる。残るは少年と少女。コールは少年の母親から捜索依頼を受けたのだ。少年の母親の個性も際立っている。強い。怒りを秘めている。少年への愛に溢れ、張り詰めてている。さらに少女アンバーの個性が凄い。アンバーの母も姉も強烈である。これでは、世界は、女たちによって振り回されているんじゃないかと思ってしまう。作者の手を離れ、暴れ出しているようにしか見えない女性たち。それを遠慮がちにガードしてゆくコール&パイクという図。  彼女らを、暴力で虐げようとするのが、件の悪党二人。勧善懲悪ならわかりやすいのだけど、コールが保護する少年少女も多重窃盗犯で破れかぶれの身なのだから、警察の出る番はほぼない。闇の中を逃げ回る者とそれを追う者、それを解決しようとするコール&パイク。三つ巴の回転木馬が回る。法の裏側で。これまた女性警察官カセットをなだめつつ、だまくらかしつつ。  からっとして残酷でタフなLA産ハードボイルドである。それでいて心が熱くなるヒューマンな物語でもある。コール独自のルールで解決に導くやり方と、覚悟。完璧に近い探偵の印象は、前作でも感じさせてくれた。過去作品にも手が出したくなる、これは実に厄介なシリーズである。  次作はまたコール&パイクらしい。しかし主人公はパイクの方のようだ。いつも暴力の側を分担する寡黙でストロングな相棒の。アメリカではこの6月に上梓されるとのこと。コールたちの世界を縦横に走り抜ける自由闊達な女性たち。彼女たちとの再会や、新しいじゃじゃ馬との出会いが、何よりも楽しみな気がしてならない。  本作では、最も壊れていながら何よりも生命感を感じさせ、終始元気だった少女アンバーに、最優秀インパクト賞を! (2019.05.18)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: