「DZ(ディーズィー)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

DZ(ディーズィー) - (2007/12/10 (月) 00:15:02) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*DZ(ディーズィー) #amazon(4043705018,left,image) #amazon(4048732277,image) 題名:DZ(ディーズィー) 作者:小笠原慧 発行:角川書店 2000.5.10 初版 価格:\1,500  今年の横溝正史賞は、受賞作二作ともに新人離れした面白さ。中でもこの『DZ』(応募時には『ホモ・スーペレンス』のタイトル)は、一度の審査ですんなり受賞が決まったという剛腕作品である。  どちらかと言うとホラーのジャンルに入れてもいいような作品だが、手法としてスケールの大きい国際スリラーを狙ったようにも見える部分もあり、犯罪とその追跡者が主軸になっている部分もあるので、ぼくとしては、あくまで冒険小説の範疇に加えておきたい。  さて遺伝子、進化と来ると『パラサイト・イヴ』『らせん』などのホラー系イメージが強いのだが、本書では、現役精神科医によって描かれた医師たちのリアルな職業価値の模索、また、登場人物たちの抱える個別の葛藤など、実に人間的ディテールの描写が勝れているために、作品は多岐の要素を孕んで、何とも奥行きを持っている。  突然変異した進化の遺伝子を持つDZ(二卵性双生児)の兄妹のその謎めいた出生からスタートし、やがてペンシルバニア州で発生した連続変死事件へと繋がってゆく下りはなかなかスリリングでスピーディーである。事件を直感で追ってゆく執念の老刑事の孤独な闘いはそれだけで一本の別の物語のようだし、療養所での難病と闘う患児たちや彼らのために尽くすスタッフの奔走する姿は、また一方でとても印象深い。  そしてラストへと収斂するあたりがこの作品の真骨頂で、まるで『ブレード・ランナー』のレプリカントの凄味を思い起こさせる。血も涙もない殺戮と暴力の連続。『白夜行』を想起させる長い年月に渡る下積み的犯罪がその土台になっている。遠くに離れた兄妹同士。彼らの目指す進化の方向がとても怖い。  さて作中、ぼくは若干疑問点があって、実はこれらの矛盾や問題点が、作品のイメージをある意味で台無しにしている気がする。いずれにせよストーリーに触れずには語れないがために、 以下  【ネタバレ警報】 発令! 未読の方はご注意ください。  強引と感じられるのは、ペンシルバニアの夫婦によるグエンへの虐待。なぜ虐待するために孤児をもらい受けたのか? あるいはなぜ養父母が子供を人目に触れさせないように育てねばならなかったのか? すべて説明が足りないと感じたしあまりにも不自然だった。    また審査員も書いているけれど、これほどの突然変異種が、主たるストーリーとは全く別のところで、他に二人もいたなんていう落ちは少し許しがたいものがある。せっかくの作品なのに、ひどい落ちと感じた。とりわけヒロインである涼子がホモ・スーペレンスであったという設定は、これ以上ないほど安っぽく、作品全体の価値を徹底して貶めた気がする。滅びた種を存続させるという恐怖の結末をどうしても付け加えたかったのならば、ヒロインは巻き込まずに、他の方法を選択した方が無理がなかったろう。  またグエンに対してサヤの生涯が行き当たりばったり的でおろそかに思える。単に子宮を貸し与えるためだけの存在として描かれているようにも見えれば、涼子の善意(後でこれは逆転するのだけれど)を強調させるための道具としての存在でしかないようにも見える。サヤにとうとう主体性が見られなかった部分が残念であるし、同じ患児同士の友情(愛情?)はそのまま置き去りにされてしまった感がある。これだけ内容がいいためになんとも歯がゆかった。 (2000.08.08)
*DZ(ディーズィー) #amazon(4043705018,left,image) #amazon(4048732277,image) 題名:DZ(ディーズィー) 作者:小笠原慧 発行:角川書店 2000.5.10 初版 価格:\1,500  今年の横溝正史賞は、受賞作二作ともに新人離れした面白さ。中でもこの『DZ』(応募時には『ホモ・スーペレンス』のタイトル)は、一度の審査ですんなり受賞が決まったという剛腕作品である。  どちらかと言うとホラーのジャンルに入れてもいいような作品だが、手法としてスケールの大きい国際スリラーを狙ったようにも見える部分もあり、犯罪とその追跡者が主軸になっている部分もあるので、ぼくとしては、あくまで冒険小説の範疇に加えておきたい。  さて遺伝子、進化と来ると『パラサイト・イヴ』『らせん』などのホラー系イメージが強いのだが、本書では、現役精神科医によって描かれた医師たちのリアルな職業価値の模索、また、登場人物たちの抱える個別の葛藤など、実に人間的ディテールの描写が勝れているために、作品は多岐の要素を孕んで、何とも奥行きを持っている。  突然変異した進化の遺伝子を持つDZ(二卵性双生児)の兄妹のその謎めいた出生からスタートし、やがてペンシルバニア州で発生した連続変死事件へと繋がってゆく下りはなかなかスリリングでスピーディーである。事件を直感で追ってゆく執念の老刑事の孤独な闘いはそれだけで一本の別の物語のようだし、療養所での難病と闘う患児たちや彼らのために尽くすスタッフの奔走する姿は、また一方でとても印象深い。  そしてラストへと収斂するあたりがこの作品の真骨頂で、まるで『ブレード・ランナー』のレプリカントの凄味を思い起こさせる。血も涙もない殺戮と暴力の連続。『白夜行』を想起させる長い年月に渡る下積み的犯罪がその土台になっている。遠くに離れた兄妹同士。彼らの目指す進化の方向がとても怖い。  さて作中、ぼくは若干疑問点があって、実はこれらの矛盾や問題点が、作品のイメージをある意味で台無しにしている気がする。いずれにせよストーリーに触れずには語れないがために、 以下  【ネタバレ警報】 発令! 未読の方はご注意ください。  強引と感じられるのは、ペンシルバニアの夫婦によるグエンへの虐待。なぜ虐待するために孤児をもらい受けたのか? あるいはなぜ養父母が子供を人目に触れさせないように育てねばならなかったのか? すべて説明が足りないと感じたしあまりにも不自然だった。    また審査員も書いているけれど、これほどの突然変異種が、主たるストーリーとは全く別のところで、他に二人もいたなんていう落ちは少し許しがたいものがある。せっかくの作品なのに、ひどい落ちと感じた。とりわけヒロインである涼子がホモ・スーペレンスであったという設定は、これ以上ないほど安っぽく、作品全体の価値を徹底して貶めた気がする。滅びた種を存続させるという恐怖の結末をどうしても付け加えたかったのならば、ヒロインは巻き込まずに、他の方法を選択した方が無理がなかったろう。  またグエンに対してサヤの生涯が行き当たりばったり的でおろそかに思える。単に子宮を貸し与えるためだけの存在として描かれているようにも見えれば、涼子の善意(後でこれは逆転するのだけれど)を強調させるための道具としての存在でしかないようにも見える。サヤにとうとう主体性が見られなかった部分が残念であるし、同じ患児同士の友情(愛情?)はそのまま置き去りにされてしまった感がある。これだけ内容がいいためになんとも歯がゆかった。 (2000.08.09)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: