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D.O.D.ダイス・オア・ダイ - (2007/09/30 (日) 12:38:59) の編集履歴(バックアップ)


D.O.D.ダイス・オア・ダイ




題名:D.o.D.(DICE OR DIE)
作者:沢井 鯨
発行:小学館 2002.9.20 初版
価格:1,100

 ぼくはこの作家が好きである。何故かというと、やはり昔山などをやっていた血が騒ぐというか、異郷や辺境へ向かってしまう内部システムというのは、通常の日本人にはあまりないわけで、それが最初からどこかに備わっていて、その行動原理ゆえに普通ではない世界へ飛び込んでゆくというのは、やはりぼくは好きなのだ。

 この人はきっと滅多に本を書かなくても何とか食って行っているのだろうし、辺境を彷徨えるうちにこういう本を書くことによって、日本にどこかの部分で繋がっていたいというようなこともあるのかなとも思えないでもない。いわゆる漂流しそうになる船があくまで錨を下ろしておく場所としての作品。

 ぼくにはこの作者のような友人が多い。ぼくの山の同志というのは実はあまりまともな奴はいない。チュニジアの砂漠を放浪に行ったあげく、パリのプランタンでアルバイトをしているうちにモンマルトル辺りで永住を決め込んでしまった奴。ネパールでトラッキングガイドをやっているうちにシルクロードの怪しげなペルシア絨毯を日本に売り込んで現在商社マンという奴。中国で日本語教師をしている奴。アフリカで青年海外協力隊に入ってついでにキリマンジャロを登った娘。アメリカで日本語教師をしている奴とそれを追いかけて行って今では個展を開いている娘。この夏日中友好女子合同登山隊にまぎれ込んでチョオユーの八千M峰を登頂してしまった女性山岳ライター等々。

 だからこういう深夜特急めいた作者の実体験をふんだんに活かした小説というだけでぼくは、こういうのって好きだなあってしみじみ思ってしまうのだ。ましてや前作『P.I.P.』は何と実際にカンボジアで拘留された経験を元にしているというではないか。パキスタンで軍隊の検問を何個も突破したぼくの友人二人のようではないか(まったく!)

 そんなわけで今回は場所を移してフィリピン。そして拘留はないけれど、前作の主人公がすべて巻き上げられて第二の冒険に踏み込んだという荒技。後半には最早船戸与一ばりの冒険小説としてハチャメチャな活劇アクションあり、ロマンありとやりたい放題の作品なのだが、何より、ぼくはこの作者のこのバイタリティと、行間から紛々と匂ってくるエネルギッシュな活力を何よりも愛してしまうのである。多くのぼくの友人たちのおかげと言ってもいいかもしれない。

(2002.11.12)