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帰らざる荒野 - (2007/05/27 (日) 20:24:37) の編集履歴(バックアップ)


帰らざる荒野




題名:帰らざる荒野
作者:佐々木 譲
発行:集英社 2003.04.30 初版
価格:\1,500



 すっかりこの作家の書く一つのジャンルとして定着した観のある北海道開拓ウェスタン。五稜郭戦争に端を発して、敗走した侍のその後から始まり、昨年は怪傑黒頭巾伝説に新解釈を持ち込んでの、蝦夷を舞台にした時代劇ヒーローまで創り上げた。

 本書は、より開拓史に根ざそうという意図があったものか、五稜郭戦争から明治大正にかけての三代に渡る牧場主一家の物語を、年代記風にではなく、連作短編活劇という形で編み合わせた一冊である。

 馬を使った商売を生業として函館から徐々に蝦夷の奥地へと移動してゆく牧場主の次男。旅は当時馬によるものが多く、鉄道も一部開通する。砂金取りや、流れ者が、あまり機能しているとは言えない法のゆるみを狙って、蝦夷の地に到来し、牧場主親子も銃で防備する。

 アメリカのフロンティア・スピリットをそのまま蝦夷という場所に持ち込み、馬と銃の文化を背景に、必ずクライマックスを銃撃戦にもってゆくという、往年の西部劇ファンには小気味良いストーリー。違うのは、アメリカの西部劇が征服者の側に立っており、佐々木ウエスタンはあくまで支配者や資本主義経済の亡者共に向けられるという視点だろう。

 前作の黒頭巾伝説ほどには、征服者たちの暴力は目立たないけれども、市井の無法な治安や牧場経営に纏わる搾取、駅逓を中心にした道内移動とそこに集まる詐欺師や馬喰たちのなど、開拓時代の北海道文化を背景にして、あまりに身近な土地、身近な現代史として展開される、江戸時代とはまたがらりと変化した男たちの闘いの記録が、タフで、情感があって、そして儚い。

 出てくる土地のほとんどに覚えがあるため、ロマンとリアルを重ねた物語に思いを馳せる楽しみが、実に味わい深いものである。北海道人・佐々木譲にしか書くことのできないこのジャンルを、ぼくはずっと追いかけてゆくだろう。

(2003.06.27)