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模倣犯 - (2007/05/27 (日) 23:07:17) のソース

*模倣犯 

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題名:模倣犯 上/下
作者:宮部みゆき
発行:小学館 2001.4.20 初版
価格:各\1,900

 5年がかりの大力作だそうで、確かに分厚い。長い。細かい。重い。書きに書かれたディテールの数々。登場人物の多さ。視点の数々。テーマの遍在。

 事件そのものは連続女性殺人事件。それもかなりにサイコっぽいものなのだけれど、そこは日米の違いと言うか、映画『セブン』のサイコパスのようなモンスターではなく、本当に新聞の一面を騒がせそうな、どこにでもいる青年とでも言いたくなるような、普通の日常から産み落とされた犯罪者の中に生まれ出たモンスター性の狂気。

 犯人はあるところで読者側には明かされる。むしろ読者にはことの様々な真相がディテールに渡るまで種明かしされてしまう。そうシンプルな真実ではないけれど、だからこそ狂気に流れてゆく流れが怪しく不気味である。

 真相である第二部を第一部と第一部がサンドイッチした形で、事件に関わる人たちの人生が描かれてゆくのだが、この部分に作者が投下した物語の比重が、常識の殻を打ち破るくらいに重く丹念で、かつ大きい。首をひねりたくなるくらいに多くの雑多な人々の日常までをチェイスしてゆく手法は、87分署シリーズを思い起こさせるような作者の俯瞰的なまなざしを感じさせる。日本小説ではあまりない視点と思う。

 犯人、彼の犠牲者、マスコミ、警察、目撃者、目撃者に関わる人々……と事件の影響が如何に裾野を広く持ってしまうかということに作者は渾身を傾けているように見える。奇しくも白川道『天国への階段』でも事件は当事者だけではなく、周囲のものに広範囲にいつまでも長く影響を及ぼすという記述があった。犯罪への同じ視点を違う作家が違う場所で同じように持って書いたということになる。

 過去の凡百の推理小説や犯罪小説から離れて、事件そのものよりも事件に関わった人間たちの切なさ、悲しみ、傷痕という部分を、それも一人だけではなく多くの人間の多様な傷痕を描くということ。宮部みゆきの優しさと残酷さが混在したかのような神の視点は、そうした地平にあまねく降り注がれているかに見える。

 それだけに読み応えのある大作になったし、凡百のミステリーを退ける凄みのある作家になった宮部みゆきを実感してしまった。

(2001.6.28)