*聖なる酒場の挽歌 #amazon(4576861506,text) 題名:聖なる酒場の挽歌 原題:WHEN THE SACRED GINMILL CLOSES ,1986 作者:LAWRENCE BLOCK 訳者:田口俊樹 発行:二見文庫 1986.12.30 初版 1990.10.25 4版 価格:\540(本体\524) 前作『八百万の死にざま』からまたも4年の時が経過しての作品。マット・スカダー・シリーズはシリーズにしてはなかなか途切れ途切れだ。しかし大量生産よりも質の高い作品を世にきちんと出すという意味では、このスタイルの方がよほど読者にとってはいいのかもしれない。質の高い作品を多量に出してもらう方が本当は一番いいのだけど(^^;) 前作ではスカダーは酒に関する内的葛藤をひたすら繰り返し、そのために事件に積極的に関わろうとしていたが、この作品はその続編でありながら、過去の事件を回想形式で振り返って語っている。この様式が実は本書に思いもしない郷愁深さを与えてくれていて、本作はこのおかげでほとんど素晴らしく成功した作品になっている。 前作のようにドラマティクな幕切れとかクライマックスの感動とかは用意されていないのだが、逆に静かな倦怠(アンニュイ)とか都会の感傷とリリシズム、センチメンタルな男たちの酒に寄せるレクイエムといったものをふんだんに感じさせてくれる。まさに酒以上に酒飲みを酔わせてくれる小説であったのだ。 なお本書のタイトルは作中でアームストロングの店のバーテンダー、ビリー・キーガンがマットに聞かせてくれる曲、デイヴ・ヴァン・ロンクの『ラスト・コール』の一節。アカペラで大変酒飲みの飲まずにいられない心情をいやというほど表わしてくれる曲だ。ロンクのこと作中でもキーガンがマットに説明しているのだが、付け足すとトム・ウェイツを思わせるがらがら声で、赤ら顔の太った酔いどれ男であるそうだ。そのシーンを開きながら曲を実際に聞いてみると、この本をさらに立体的に味わうことができる。涙が出るほどこの作品によくフィットした、陰影の濃い曲である。 (1991/11/04)