wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「あした蜉蝣の旅」で検索した結果

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  • あした蜉蝣の旅
    あした蜉蝣の旅 あした蜉蝣の旅 下 (集英社文庫) あした蜉蝣の旅 上 (集英社文庫) あした蜉蝣の旅 (新潮文庫) あした蜉蝣の旅 題名:あした蜉蝣の旅 作者:志水辰夫 発行:毎日新聞社 1996.2.25 初版 価格:\1,950  最近は純文学畑の短篇集にすっかり落ち着いて、たまに出すハードボイルドもわりと小ぶりのものばかり、かつての『飢えて狼』『裂けて海峡』『背いて故郷』の頃の志水節が懐かしくって懐かしくってたまらない、というのは、ぼく一人に限った話ではあるまい。おそらく多くのかつて志水節に酔った読者たちが、こういう読み応えのある志水版冒険小説の再来を待ち望んでいたのではないか。  列挙した三作ほどのパワーは正直言って今の志水辰夫にはないみたいだし、それだけの若さをもった主人公はもう書きにくくなっているのかもしれないが、志水ワールド本来の...
  • 志水辰夫
    志水辰夫 長編小説 飢えて狼 1981 裂けて海峡 1983 あっちが上海 1984 散る花もあり 1984 尋ねて雪か 1984 背いて故郷 1985 狼でもなく 1986 オンリィ・イエスタデイ 1987 こっちは渤海 1988 深夜ふたたび 1989 帰りなん、いざ 1990 行きずりの街 1990 花ならアザミ 1991 夜の分水嶺 1991 滅びし者へ 1992 冬の巡礼 1994 あした蜻蛉の旅 1996 情事 1997 暗夜 2000 ラスト ドリーム 2004 約束の地 2004 負けくらべ 2023 時代小説 青に候 2007 みのたけの春 2008.11 つばくろ越え 2009 引かれ者でござい 蓬莱屋帳外控 2010.8 夜去り川 2011 待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控 2011 疾れ、新蔵 2016 新蔵唐行き(とうゆき)2019 短編集 カサブランカ物...
  • 書物の旅
    書物の旅 書物の旅 (講談社文庫) 題名:書物の旅 作者:逢坂剛 発行:講談社 1994.11.30 初版 価格:\1,700(本体\1,650)  途中で、逢坂剛を読んでいるのか、逢坂剛描くところの現代調査研究所の岡坂神策が述べる意見を聞いているのか、わからなくなってきた。それほど、逢坂剛の趣味 ---- つまりスペインと古書趣味 ---- が詰まったエッセイ集。逢坂ファンには興味深いところだと思う。  ただやたらめったらいろいろなところから集めてきたエッセイ集だけあって、ときには業界誌、ときには文庫解説などからの一文まであり、ちょいと興を削がれる感じもあった。楽しいのは、西部劇趣味と書評のコーナー。逢坂剛がいかに本が好きであり、「自分が書く本は自分にとって面白い本」という一点にこだわる作家であるかがわかる。  副業作家としての最大のメリッ...
  • ラスト・ドリーム
    ラスト・ドリーム ラストドリーム 題名:ラスト・ドリーム 作者:志水辰夫 発行:毎日新聞社 2004.09.30 初版 価格:\1,700  志水辰夫は自分に制限をかけなくなったな、と本書を読んでつくづく思った。その分だけ書きたいという方向性が主体的にになった。読者におもねるのではなく、自分が小説を書くことで創り出しつつ、思念を紡いでゆく方向。面白い小説を書く作家から、最近では花村萬月に近いわがままさが出てきた。これを歓迎すべきか否かは、読者次第だということだろう。  本書からは、新聞小説ならではのゆったり感もあるだろうがそればかりではなく、作者の側でのリズム、つまり思念の空気のようなものを嗅ぎ取ることができる。無理に形に収めようというのではなく、ある程度自由な時間の流れを人の通常の思念のように行き来し、全体像は終わったときに見えてくるという形である...
  • まどろむベイビーキッス
    まどろむベイビーキッス 題名:まどろむベイビーキッス 作者:小川勝己  発行:角川書店 2002.9.30 初版 価格:\1,500  なるほどこう来たか。『葬列』という鮮烈な(別に韻を踏んでいるわけではないです)デビュー作を読んでいる人には、こういう歩の進め方もありかなと思える着地ポイント。  携帯メールのBBSやチャットというとこのフォーラムでも昔話題になったことのある乗越たかお『アポクリファ』を思い出させられる。前編これリアルタイム会議のログ仕様という驚天動地の小説であったのだけれど、当時インターネットもまだ存在せず、パソコン通信と口にしただけで奇異な目で見られたような時代にああしたスタイルの小説を作る冒険というのはなかなか評価できることだったし、何よりも物語がウェットでホラーで良かった。ここの常連だった時代の馳星周に「俺、泣いちゃったよう」...
  • 瀬名秀明
    瀬名秀明 長編小説 パラサイト・イヴ 1995 Brain Valley 1997 八月の博物館 2000 虹の天象儀 2001 デカルトの密室 2005 短編小説集 あしたのロボット 2002 ハル 2005 第九の日 随筆、エッセイ、評論、対談集、その他 小説と科学 1999 ミトコンドリアと生きる 太田成男共著 2000 「神」に迫るサイエンス(角川文庫 ) Brain valley研究序説 2000 ロボット21世紀 2001 ハートのタイムマシン!―瀬名秀明の小説/理科倶楽部 2002 科学の最前線で研究者は何を見ているのか 2004 知能の謎  認知発達ロボティクスの挑戦 2004 心と脳の正体に迫る成長・進化する意識、遍在する知性 おとぎの国の科学 2006 境界知のダイナミズム 2006 ミトコンドリアのちから 太田成男共著 2007
  • 森 詠
    森 詠 燃える波濤 燃える波濤 第一部 1982 燃える波濤 第二部 1982 燃える波濤 第三部 1982 燃える波涛 明日のパルチザン 第4部 1988 燃える波涛 冬の烈日 第5部 1989 燃える波涛 烈日の朝 第6部 1990 キャサリン・シリーズ さらばアフリカの女王 1979 風の伝説 1987 陽炎の国 1989 横浜狼犬(ハウンドドッグ)シリーズ 青龍、哭く 1998 横浜狼犬(ハウンドドッグ) 1999 死神鴉 1999 警官嫌い 横浜狼犬エピソード〈1〉 2000 砂の時刻 横浜狼犬エピソード〈2〉 2001 オサム・シリーズ オサムの朝(あした) 1994 少年記―オサム14歳 2005 革命警察軍ゾル 革命警察軍ゾル〈1〉分断された日本 2006 続 七人の弁慶 七人の弁慶 2005 続 七人の弁慶 2006 長編小説 黒い龍 小説...
  • 鉄道員(ぽっぽや)
    鉄道員(ぽっぽや) 題名:鉄道員(ぽっぽや) 作者:浅田次郎 発行:集英社 1997.4.30 初版 1997.5.30 2刷 価格:本体\1,500  先日出張で稚内へ一人出かけた。サロベツの常宿《あしたの城》に今年三度目の宿泊をし、利尻に沈む、宿主によれば今年一番の夕焼けを見て、翌朝、稚内へ行き仕事を済ませて札幌へと南下した。  音威子府蕎麦というのはそれなりにこのあたりでは有名で、町らしき町とも言えない音威子府の駅に、ぼくは立ち食い蕎麦を食べに寄った。昔、ホームで暖かい蕎麦を食べて、そこで蕎麦を作っていたオバサンに「ここの蕎麦はいやにおいしいね」と言うと「ここの蕎麦はつなぎを使っていないからねえ」と自慢げに微笑みを返してくれたものだった。  音威子府の駅舎はそののち、やたらきれいでウッディなデザインとなり、記念写真を撮ってゆく観光客の姿...
  • 神々のプロムナード
    神々のプロムナード 題名:神々のプロムナード 作者:鈴木光司 発行:講談社 2003.04.25 初版 価格:\1,900  いやあ、中途半端な作品! というのが読後の印象。エンターテインメント方向に少し帰ってきてくれたのかと思いきや、何だか人生ドラマに落ちてしまうのか、しかもそう突っ込んだものでもない底の浅いものに……。この作家がかつてあの『リング』シリーズで見せた天才的創作能力は一体何だったのだろう?  この作品には八年もかかったのだそうである。相当難産だったみたいだ。基本的にはカルト集団を描いたものなのだけれど、書き始めた途端にオウムの事件があったので軌道修正したのだそうだ。初期の構想とは全然別方向を向いたのだそうだ。そういうことがあとがきで作者によって語られている。  小説そのものに集中力がないように見えるのも難産だったせいなのか。長...
  • 興奮
    興奮 原題:For Kicks (1965) 著者:ディック・フランシス Dick Francis 訳者:菊池 光 発行:ハヤカワ文庫HM 1976.4.30 初版 1991.11.30 17刷 価格:\520(本体\505)  フランシス三作目でありながら早めに翻訳されたのがこの作品だった。類推されるのは、この本が版元にとっても自信作であったろうということ。フランシスの目玉商品であったのだろうということである。薄々感じられたその予感は、読み進むうちに否応なく納得させられていった。  オーストラリアの牧場主が英国障害レースの理事に依頼されて渡英、馬丁に身をやつして馬の異常興奮に絡む八百長事件を捜査する。本書もコンゲーム的トリック付きなので、言わば、ミステリー色が強いほうだと思う。それでいながら、主人公の「内なる血が騒ぐ」あたりは英国冒険小説のエッセン...
  • 君たちに明日はない
    君たちに明日はない 題名:君たちに明日はない 作者:垣根涼介 発行:新潮社 2005.3.30 初版 価格:\1,500  今年の長者番付でサラリーマンがトップを獲った話題に関してTVでかまびすしい。年間所得が百億円と、半端ではない数字ゆえに、メディアの取り扱いに対する熱心さも、国民のおそらく平均感情よりはるかに、際立っているみたいだ。  当たり前のことをやっていては決して獲得できない所得を、人並みではない方法により、目の付け所を変えて稼ぐ以外に、サラリーマンがのし上がる可能性は、あまりないだろう。だから、百億円の所得を得るというところに関心があって当たり前だというのが、TV側の言い分なんだろう。  しかし、それ以前にノースーツ姿のホリエモンが、ああしたオタッキーでもてない男との典型みたいな坊ちゃん面を曝け出しながら、野球球団やメディア会社...
  • 過去を失くした女
    過去を失くした女 過去を失くした女 (文春文庫) 題名:過去を失くした女 原題:FLESH AND BLOOD (1989) 作者:THOMAS H. COOK 訳者:染田屋茂 発行:文春文庫 1991.1.30 初版 価格:\600(本体\583)  『熱い街で死んだ少女』と同年発表。なるほどな、と思わされる。クックの過去への旅路である。それとともに、現状に幻滅し、別れを告げてゆくクレモンズが歯がゆいのだが、人の矛盾さはこうであると思う。都合よくいかない歯がゆさが、クレモンズの生真面目さに繋がっているし、手抜きのできない性格、人と調子を合わせて上辺だけをかすりながら生きて行くことのできないクレモンズの容赦のなさを、ぼくはハードボイルドのストイシズムに連結させて読むことができた。多分多くの読者が嫌悪を持って眺めるクレモンズの方に、ぼくは近いような気がしてしまっ...
  • 警官嫌い
    警官嫌い 警官嫌い (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 13‐1)) 題名:警官嫌い 原題:Cop Hater (1956) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:井上一夫 発行:ハヤカワ文庫HM  <87分署>シリーズ。なぜ、今までこうしたシリーズがあることに思い至らなかったのだろうか。ファンの方々のやり取りを拝見させていただきながら、いつか自分も読んでみようとは思っていたのだけど、ここまで縁がなかった。しかし一作目に手をつける。なるほど。まさに、これはぼくの趣味ではないか。  まず一つ。マクベインの描写技術がたいへんに巧いのだ。  それはどういったことかというと、ニ種(あるいは三種、あるいはそれ以上)の異なる文体を使い分けて、ある柔かなリズムを生じさせることができる。それがメリハリとなって、読者を引き寄せる流れのようなものを作...
  • 蒸発した男
    蒸発した男 蒸発した男 (角川文庫 赤 シ 3-2) 蒸発した男 (1977年) (角川文庫) 題名:蒸発した男 原題:The Man Who Went Up In Smoke (1966) 著者:マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー Maj Sjowall and Per wahloo 訳者:高見浩 発行:角川文庫 1977.5.30 初版 1993.11.10 8刷 価格:\560(本体\544)  読みやすい文体だと思ったら英訳版の重訳であったわけね。だんだん原版の癖や個性が削がれて、どんどん読みやすくなるのかな、重訳って。ま、それはともかく……。  一作目に較べると何だかとても冒険小説みたいで、先に解説など読むと、作者が「フォーサイスは特別な人を、自分たちは普通の人を描こうとしている」みたいなインタビューがあり、この言葉自体が本書のミ...
  • メタボラ
    メタボラ 題名:メタボラ 作者:桐野夏生 発行:朝日新聞社 2007.05.30.10 初版 価格:\2,000 「メタボラ」というタイトルの「メタボ」から想像されるのがメタボリック症候群だから、また肥り過ぎの女が美を求めて狂って行くタイプの狂気シリーズかと思っていた。最近の桐野夏生には異常な女主人公が果てしなく逸脱し、暴走してゆく物語が多いものだから、つい。  しかし、この作品は、そういう知ったかぶりの読者の全く意表を完璧に突いたものだったのだ。小説家とは、いつでも読者の予想をどんな形であれ裏切らねばならないというのは、職業的宿命だと思っているけれど、本書は従来の桐野観をまたもや覆すような新機軸の作品となっている。  ノン・シリーズでは徹底して女性を描いてきた桐野夏生がこの作品で取り上げたのは、沖縄を舞台にした男性主人公のストーリーであ...
  • 僕を殺した女
    僕を殺した女 題名:僕を殺した女 作者:北川歩実 発行:新潮ミステリー倶楽部 1995.6.20 初刷 価格:\1,400  小説にはいろいろな面白さと言うのがあるけれど、やっぱり最初から思い切り人の関心を引っ張ってしまうというのは、エンターテインメントの鉄則と言ってもいいのかもしれない。  朝起きると自分が違うなにものかになっている、と言えばカフカの『変身』、もっと遡ればガリバーの時代からの衝撃のスターティングなのだが、最近では北村薫『スキップ』などはその亜流として記憶に新しいところ。もっとも刊行時期はこちらの方が少しだけ古いか。  この小説では主人公の少年が朝起きてみると美女になっている。しかも五年という時間が経過している。謎を詰めてゆくと自分が他にいることがわかる。単純に言えばこういうとんでもない話である。確かに殺人や謀略はその陰にあ...
  • 自由に至る旅
    『自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ』 自由に至る旅 ―オートバイの魅力・野宿の愉しみ (集英社新書) 題名:自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ 作者:花村萬月 発行:集英社新書 2001.06.20 初版 価格:\740  萬月氏と一度だけ話をしたとき、自然に北海道の旅の話になった。彼は野宿をしながらバイクで日本中を旅する人だってことがわかっていたし、作品からも、北海道にこの種の旅をした人でなければわからないような記述があって、それなりに北海道ファンとしてはそのあたりの共鳴音を聴いていたのだ。同席していたファンが、ぼくも昔ボーイスカウトをしていて……などと話を合わせようとしてくるのが実に鬱陶しかったのを覚えている。  バイクと登山という違いはあれ、自前のプラン(あるいはノープラン)で独り旅を愉しむということに関しては、気が合う、合わ...
  • マンチュリアン・リポート
    マンチュリアン・リポート 題名:マンチュリアン・リポート 作者:浅田次郎 発行:講談社 2010.09.17 初版 価格:\1,500  『蒼穹の昴』という大作の直後に『珍妃の井戸』という軽いイメージのミステリーが続いたのは、それが、大作の語りつくせなかったもの、否、おそらく敢えて語り残したものを、大作の重たい世界が齎した読書的疲労感を優しく癒すかのようにマイルドに奏でる役割を担ったからに違いない。  そして今、歴史は繰り返す。『中原の虹』というさらなる大作の終了後、それらの歴史劇の最終ポイントと、その痛ましき歴史の音を叙情というオブラートにくるんで奏でるかのように本書『マンチュリアン・リポート』はぼくらのもとにこうして届けられる。  浅田次郎の中国史の執着ポイントはレールのポイント切り替えの軋み音で始まった。そこには暗躍する関東軍の影があっ...
  • 丘の上の賢人 旅屋おかえり
    丘の上の賢人 旅屋おかえり 題名:丘の上の賢人 旅屋おかえり 作者:原田マハ 発行:集英社文庫 2021.12.25 初版/2022.6.6 5刷 価格:¥580  元キュレーターで美術の造形が深い作者であるが、この旅屋という稀有な職業のヒロイン丘えりかのシリーズは、ぼくは作者を知らず先にドラマで見てしまい、安藤サクラがはまり役だなあと気に入ってしまった。秋田編と高知編を満喫したのだが、さらにドラマは長野編と兵庫編が製作中とか。  一方で原作の方もこうして番外編としてであれ、わが北海道が舞台となる本書が出版されていたので、遅ればせながら読むことにしてみた。原作とドラマはもちろん異なるけれど、丘えりかというヒロインの妙に明るい三枚目的魅力はあまりドラマとの違和感もなく、随所に感じられる旅情ともども魅力的な物語を奏でてくれる。  さらに丘えりかは...
  • 老いた殺し屋の祈り
    老いた殺し屋の祈り 題名:老いた殺し屋の祈り 原題:Come Un Padre (2019) 著者:マルコ・マルターニ Marco Martani 訳者:飯田亮介 発行:ハーパーBOOKS 2021.02.20 初版 価格:¥1,300  どこかかつて観た記憶のある映画のシーンが、深い水の底から浮き上がってくるような感覚。それが本作のいくつかのページで感じられたものである。語り口や物語の進め方が上手いのは、この作家が初の小説デビューにも関わらず、映画の脚本家としてならした経歴の持ち主だからだろう。  作家が自分の物語として作り上げた「老いた殺し屋」オルソのキャラクター作りだけで既に小説を成功に導いているように思えるが、やはり彼の旅程を彩る派手なバイオレンス、また、彼が救い出す母子との交情の陰と陽のようなものが、この作品に、とても奥行きを与えているよう...
  • nijiressya
    虹列車・雛列車 作者:花村萬月 発行:集英社 2003.06.30 初版 価格:\1,400  短編集である。しかも旅の短編集。紀行で作家になった萬月の原点である。ここに来て原点かよ、と首を傾げたくもなるが、原点もまた楽し。日本冒険小説協会十周年記念イン熱海という企画、ホテルの一室でベッドにごろごろして満月氏と北海道の放浪めいた旅の話をしたことがある。作家でもなんでもなく旅の道連れみたいにぼくは感じた。もちろん萬月氏にとってはぼくはただのうるさい一ファンだ。でも北海道の旅の話をしてマニアックなローカルな地域に話題が及べば、そこでは職業は消え去る。それが旅。  短編集である。どれにも花村という作家が登場する。一見私小説。でも微妙におかしい。時代設定も年齢も無茶苦茶である。私小説という実名入りの形式を敢えて楽しんでいる萬月氏がこの本の向こう側に立っているような気...
  • 少女七竈と七人の可愛そうな大人
    少女七竈と七人の可愛そうな大人 題名:少女七竈と七人の可愛そうな大人 作者:桜庭一樹 発行:角川書店 2006.06.30 初版 価格:\1,400  女性作家だからだと思うけれど、どこかに少女漫画的な気配が残る。  小説なのに、漫画、というと御幣があるかもしれないが、少女漫画とは、少年漫画よりも、遥かに小説的で散文的なのではないだろうか。少女漫画家は、絵とセリフとで表現し、桜庭一樹は文章で少女漫画を表現する。  文章で少女漫画を表現するというのは、ある意味、とても大変なことだ。なぜなら少女漫画は、少年漫画よりも、ずっとずっと豊かな表現力を駆使しているように思うからだ。漫画という形式でしか表現できない、静と動のバランス、沈黙や間、心の内面を表現するページ構成や、背景、小道具の数々。そうした表現力のすべを駆使した漫画という手法を、文章のみで...
  • ネルーダ事件
    ネルーダ事件 題名:ネルーダ事件 原題:El Caso Neruda(2008) 作者:ロベルト・アンプエロ Roberto Ampuero 訳者:宮崎真紀 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.5.15 初版 価格:\1,700  南米チリについて、正直な話、ぼくは何一つ知らない。  ぼくの勤めていた医療機器メーカーが、チリで大地震が起こるたびに医療物資の援助を行う日本赤十字社から特別オーダーを受けた特需景気にボーナスが加算された。太平洋の向う岸で惨事が起こると喜ぶこの会社なんてまるで死の商人だね、と同僚と皮肉を交わした覚えがあるくらいだ。  そのチリに、1973年には、軍事クーデターの嵐が吹き抜けたのだそうだ。ニクソンの支援を受けたピノチェト将軍による軍事独裁政権は17年の長きに渡って続くことになる。そんなことすら知らない日本人のぼくは平均...
  • 聞いてないとは言わせない
    聞いてないとは言わせない 題名:聞いてないとは言わせない 原題:Dust Devils (2007) 作者:ジェイムズ・リーズナー James Reasoner 訳者:田村義進 発行:ハヤカワ文庫HM 2008.06.15 初版 価格:\680  原題のダスト・デヴィルズとは、アメリカ西部で頻発する荒野の小さなつむじ風。一瞬空に向けて砂塵が舞い上がり、竜巻のように天に向けて立ち上がったかと思うと、あっという間に、崩れて消え去ってしまう、とても儚い自然現象のことである。こうした原題であるが、邦題は「聞いてないとは言わせない」。  主人公の青年は、自分を捨てた母への復讐の旅に出るが、母と思われた女性は、母に成り済ましていた銀行強盗一味の中年女性だった。青年は、彼女の元で働き手として雇われるうちに恋に落ちるが、かつての強盗団仲間が彼女の命を狙い始めた途端...
  • 優しいおとな
    優しいおとな 題名:優しいおとな 作者:桐野夏生 発行:中央公論新社 2010.09.25 初版 価格:\1,500  イラスト入りの本であることが珍しい。小説とイラストが完全にマッチしていることも珍しい。読売新聞土曜日版に連載されていたらしい。そのときのイラストをふんだんに使ってくれたのかな。いずれにせよ、とてもいい。  時は近未来。経済も文化もどこかで破綻してしまっているらしい日本。荒廃した渋谷エリアを舞台に、浮浪児の自分探しの旅を描いた、少し緊張感のある小説である。ちょうどオーストラリアあたりでは、マッドマックスが暴走族集団を血祭りに上げている頃なのかもしれないし、アメリカでは人工臓器を回収するレポメンたちが支払未納者の腸を抉り出している時代なのかもしれない。マンハッタン島は全体が刑務所として封鎖されている時代なのかもしれないし、北陸ではハル...
  • tabiwo
    たびを 作者:花村萬月 発行:実業之日本社 2005.12.20 初版 価格:\2,800  まるで弁当箱。1000ページの著者最大長編作品が登場した。執筆は中断を挟んで9年半、編集担当者は四人を数えるという小説作成としては相当のスケールを持つ作品である。  一言で言うならロード・ノベル。著者が小説デビューに前旅専門誌に紀行文を寄せるライターであり、かつバイク乗りであることはよく知られているが、その著者の生身の原点に迫った作品としての渾身の書きっぷりからすると、本書はある意味でこの作家の金字塔であり、なおかつ亜流でもあるのかと思われる。  著者はバイオレンスとセックスの描写でエキセントリックな人であり、それを展開する土壌としてミステリ畑やノワールな風土に、著者の本意ではなくても結果的に顔が知られた人である。そうした過激さが売りである著者が、自分の体験...
  • 5枚のカード
    5枚のカード 題名:5枚のカード 原題:Grory Gulch (5 Card Stud) (1967) 作者:レイ・ゴールデン Ray Gaulden 訳者:横山啓明 発行:ハヤカワ・ミステリ 2005.10.20 初版 価格:\1,000  《ポケミス名画座》が当初の予定である10冊で終わらず、今も続いている。何か賞でも貰わない限り、翻訳されにくい現在の海外ミステリ市場にとって、これはこれで光が当たる機会の一つであるから、古い古い作品が日の目を見る、そしてそれを手にして読むことができるそのときに、今の翻訳市場では到底味わえない、ある過ぎ去った時代の、郷愁に満ちた気分をぼくらは、ここで再現することが叶うわけである。アメリカのある時代に書かれ、そして読まれたミステリに、今この時代に改めて出会うことに、ささやかな喜びを覚える大切な時間を味わう。思えばとても贅沢...
  • サバイバー
    サバイバー 題名:サバイバー 原題:Survivor (1999) 作者:チャック・パラニューク Chack Palahnuik 訳者:池田真紀子 発行:早川書房 2001.1.31 初版 価格:\1,900  ある意味、難物である。厄介なしろものだと言ってもいい。何せ、最初のページが324ページで始まる。以下ページを繰るにつれ、323、322、321……。何せ最初の章が47に始まる。以下、46、45、44……。最後のページは無論1ぺージだ。こういう具合に、パラニュークはまたもやってくれる。  パラニュークのこれまでの3作品すべてが、衝撃の結末からスタートしている。何とも予断の許さない状況を読者に突きつけておいて、そこから物語は、思いもかけぬ方向へとねじ曲がってゆくのだ。本書も、誰もいない旅客機、四つのエンジンがすべてフレームアウトして、ひたす...
  • 仏陀の鏡への道
    仏陀の鏡への道 題名:仏陀の鏡への道 原題:The Trail To Buddba s Mirror (1992) 作者:Don Winlow 訳者:東江一紀 発行:創元推理文庫 1997.3.14 初版 1999.6.18 8刷 価格:\880  当然ながらこれを読んで初めて『高く孤独な道を行け』における中国でのプロローグの意味がわかった。やはりシリーズ物は順番どおりに。  ニール・ケアリー・シリーズの二作目は重厚感。何が重厚といって中国現代史の重厚が凄い。アメリカ人の作家でここまで中国の歴史に凝った人というのはあまりいないのではないだろうか。地理的説明も歴史的背景も独特のブラックな語り口で切り裁いてみせるが、ある意味でニールのこの種の彷徨の過程をディテールから描写してゆく作法は、このシリーズに共通したものかもしれない。  一作目がロンド...
  • ウィンストン・グレアム Winston Graham
    ウィンストン・グレアム Winston Graham 長編 夜の戦いの旅 1941 大庭忠男訳 罪の壁 1955 三角和代訳 マーニィ 1961 田中西二郎訳 幕が下りてから 1965 隅田たけ子訳 盗まれた夜 1967 岡本浜江訳
  • 天切り松 闇がたり
    天切り松闇がたり  第一巻 闇の花道 題名:天切り松 闇がたり 作者:浅田次郎 発行:徳間書店 1996.7.31 初版 価格:\1,500  留置場の味が懐かしくなって、わざわざここの夜を過ごしに来たかつての大泥棒が、語る5夜の悪漢連作物語。もはや悪漢小説では定評があるこの作者だが、これはどちらかと言えばドタバタ喜劇の乗りではなく、『地下鉄(メトロ)に乗って』のような、これまた作者特有のノスタルジィの方を前面に押し出した佳品。  今の世間に対比して語る大泥棒の少年時代、時は大正デモクラシィ。花の東京の風物が素晴らしい描写力で読者を異次元の旅に連れ出してくれ、そこで展開される作者十八番の浪花節感動篇の数々。しみじみ楽しい作品集だなあと感じさせてくれる。  三人称による大正の物語と、留置場での現代の大泥棒の江戸弁のリズミカルな語り口とが、フラッ...
  • 狩人は眠らない
    狩人は眠らない 狩人は眠らない〈上〉 狩人は眠らない〈下〉 狩人は眠らない〈上〉 (角川文庫) [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:狩人は眠らない 上/下 作者:森 詠 発行:角川書店 1989.04.30 初版 価格:\1,223  森詠はノンフィクション・ノベル集...
  • 蝶舞う館
    蝶舞う館 蝶舞う館 題名:蝶舞う館 作者:船戸与一 発行:講談社 2005.10.26 初版 価格:\1,900  ヴェトナム。船戸与一の年齢ならば、朝鮮戦争からこの方、米軍がアジアで戦争を起こす際の前線基地として日本が機能していた時代を、60年安保という直截な空気で呼吸していたに違いない。当然ながら、彼の同時代、文学も音楽も、とにかく文化全体がヴェトナムの影響を受けていたことだろう。  ぼくは70年安保にさえ遅れをとってきた世代である。むしろ、二、三級上の先輩たちが警察に引きずられていったり、内ゲバの脅威に晒されている状況を、まるで他人事のように、わずかな緊張感だけを握り締めて傍観していた。  ぼくらの世代は何の根拠もなく、排他的な大人たちによってただ暴力的に、三無主義と呼ばれた。無気力、無関心、無責任と評され、大人たちの団結に意義を唱えることに...
  • 天国への階段
    天国への階段 題名:天国への階段 上/下 作者:白川道 発行:幻冬舎 2001.3.10 初版 2001.3.25 5刷 価格:各\1,700  北海道浦河町、絵笛。   ぼくはこの本を浦河への旅行に携行して行った。馬に乗り、牧柵越しに仔馬たちを見て、風と陽光とを感じた五月。小川のきらめきがあった。海の青があった。空の広さと、牧草のなびきを感じた。絵笛というこの物語の核を成す美しい土地はそこに実在していたし、ぼくはその空気の中を通り抜けて来た。深々と風景と物語とを呼吸し、味わう確かな時間の奥行きがそこには存在するかに思えてならなかった。  これは、牧場を乗っ取られ単身上京した少年の一生を賭した壮大な復讐劇である。現代版レ・ミゼラブルと帯に書かれている。白川道は『流星たちの宴』で自身の経験に基づいて栄光と失墜を描き、凄まじいまでの欲望とエ...
  • わが心臓の痛み
    わが心臓の痛み 題名:わが心臓の痛み 原題:Blood Work (1998) 著者:マイクル・コナリー Michael Connelly 訳者:古沢嘉通 発行:扶桑社 2000.4.30 初版 価格:\2,095  5月の連休が明けた頃、突然ぼくは健診センターで肝機能障害を告げられ、「命に関わる障害の可能性」と促され、病院に通い検査を重ね始めた。そんな中で肉体の「試練」そのものを軸にしながらの犯罪捜査を描いたこの小説は、ぼくの肉体の不調を訴える信号に少なからず同期しながら、実にリアルに一つの優れた人間ドラマとして、その当時不安に苛まれていたぼく自身を少なからず勇気づけ、鼓舞したものだった。ぼくにとっては忘れられい作品である。  それにしてもデリケートなプロットである。心臓移植を受けた直後の元FBI捜査官が挑む犯罪。それは自分の移植された...
  • 天使たちの場所
    天使たちの場所 天使たちの場所 (集英社文庫) 天使たちの場所 題名:天使たちの場所 作者:香納諒一 発行:集英社 1998.02.28 初版 価格:\1,700  今夜は帯広郊外にある十勝川温泉のホテルの一室にて本書を読み終え、これを書いている。露天風呂やビールの日々が続いているし、先週は道北への二度の往復でウニ、カニその他を食べまくっている。なのに痛風の薬を切らしているので再発発作に脅えながら今日もエビを食べ、ビールを飲んで、今宵の至福にだけ賭けている思い。まあそんな環境でこの短編小説集を読んだのだと思っていただいて構わない。  こんな環境が明日も明後日もその後もずーっと続くわけもなく、今宵一夜の充足は今宵限りのものでしかない。それが旅であり、非日常的な落ち着きのない、あるぼくの断片なのだ。  この小説集は、どれも海外でのそうした断片を捉え...
  • 心では重すぎる
    心では重すぎる [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:心では重すぎる 作者:大沢在昌 発行:文藝春秋 2001.11.30 初版 価格:\2,000  変なタイトルだとつくづく思う。  佐久間公のシリーズについては、ぼくは『雪蛍』しか読んだことがないけれども、...
  • 新参者
    新参者 題名:新参者 作者:東野圭吾 発行:講談社 2009.9.18 初版 価格:\1,600  日本橋の商店街を背景にした下町ミステリー。描写手法として、主役を町の商店主や看板娘などで、短篇ごとに変えてゆくが、扱っている事件は、一人の女性が自分の部屋で絞殺された同じ事件。事件に関わる何かでそれぞれが繋がっているが、それをさらに広げて次の作品へと繋げてゆくのが、名探偵ならぬ名刑事・加賀恭一郎である。  他の刑事たちとは異なり、独りでリラックスした格好で町に溶け込むように訪れ、飄々とした会話で相手を引き込み、事件の真相に最も早く近づいてゆく男である。どの短篇でも、主役ではないのに、とても存在感のあるのが彼である。 事件の捜査は、日本橋界隈の商店街を中心に動いてゆく。舞台劇にしやすそうな設定である。その上会話、表現、人々、その個性、その活き活きとし...
  • 死ぬまでにしたい3つのこと
    死ぬまでにしたい3つのこと 題名:死ぬまでにしたい3つのこと 原題:The Six Wicked Child (2019) 著者:ピエテル・モリーン、ピエテル・ニィストレーム Peter Mohlin Peter Nystom 訳者:加賀山卓朗 発行:ハーパーBOOKS 2021.3.17 初版 価格:¥1,440  この作品の不思議なタイトルを見て、不思議に思ったので、まずはネットで検索してみたのだが、『死ぬまでにしたい100のこと』『死ぬまでにしたい10のこと』がヒット。ミステリーではないみたいだが、ドラマ化されたり、推奨行為として実践されたりしているようである。本書を読むまで、死ぬまでにしたいことのリストアップをぼくはちなみに考えたことすらない。  でもこの物語の少女は、『死ぬまでにしたい3つのこと』のタトゥーを片腕に入れてから、しっかりと行...
  • ゴルディオスの結び目
    ゴルディオスの結び目 題名:ゴルディオスの結び目 原題:Die Gordische Schleife (1988) 作者:ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink 訳者:岩淵達治、他 発行:小学館 2003.08.20 初版 価格:\1,714  ワールド・カップやその他の国際試合でドイツ代表の試合を見ると、とにかく細かいテクニックではなく、気力と体力で闘志を剥き出しにした勝負強さというのが目立つ。ブラジルあたりと対戦すると、片や人間離れした技術力で魅せに魅せるというブラジルに対して、ドイツは常に無骨な力業で勝負を挑み、それでいて結構な戦績を挙げている。  ベルンハルト・シュリンクがゼルプ・シリーズのようなハードボイルドや本書のような冒険小説に挑むとき、ぼくはやはり、ははあドイツ人だなあ、って微笑んでしまいたくなることが多い。 ...
  • 8017列車
    8017列車 題名:8017列車 原題:Treno 8017 (2003) 作者:アレッサンドロ・ペリッシノット Alessandoro Perissinotto 訳者:菅谷 誠 発行:柏櫓舎 2005.9.25 初版 価格:\1,600  カルロ・ルカレッリの三部作に続いて、柏櫓舎が送り出すイタリア捜査シリーズ第二段。もちろん聞いたこともないない作家による聞いたこともない小説なのだが、翻訳者の選択権が働いているのだろうか、この作品もまたイタリアの共和国時代に材を取っている。  第二次大戦直後の混乱期1944年3月に実際に起こった列車事故を取り上げつつ、その3年後に勃発する鉄道員連続殺人事(もちろんこちらは創作)件の謎を追う。  底辺の生活から名誉を取り戻すために行動を開始する元鉄道員の主人公が、何と言っても存在感を持つ。誤解によって旧体制の...
  • 冒険の蟲たち
    冒険の蟲たち 題名:冒険の蟲たち 【新装版】 作者:溝渕三郎・與田守孝・長篠哲生共著 発行:白山書房 2018.6.25 初版 価格:¥1,700-  登山の好きな者ならば、誰もが憧れの場所を持っている。憧れの山やルート。胸のうちに育て、その山行をを実現するために、日常生活の中では密かにその夢という卵を暖め、少しずつでもその準備を進めてゆこうと思うだろう。  その夢の困難度やスケールは、人によって違っていい。自分を取り巻く状況。自分にフィットした計画。例え難しかろうと、実現が不可能ではなく、手繰り寄せることのできるもの。  また、それが、若いうちであればどうだろう。時間と体力はあるが、金や恐怖心はない。そんな充実した青年期であればどうだろう。その時期にしか見られない夢。実現させるべき夢。それらを大切に抱えて、残りの人生を生きて行ける礎...
  • 堕落刑事
    堕落刑事 題名:堕落刑事 マンチェスター市警エイダン・ウェイツ 原題:Sirens (2017) 著者:ジョセフ・ノックス Joseph Knox 訳者:池田真紀子 発行:新潮文庫 2019.09.01 初版 価格:¥940  イギリス生まれのノワール、というのが意外だ。誰かが本書をレビューして馳星周のようだと書いていたが、なるほど日本でのノワールだって他所の国の人には意外と思われていたかもしれない。ノワールは出所は、フレンチ、やがて大西洋を渡り、アメリカではジム・トンプソン、ジェイムズ・エルロイへと受け渡されてゆく。そのエルロイにべた惚れし、その文体やリズム感を受け継いで才能を開花させたのが馳星周だということは、作家以前の彼から惹き出したぼくの私的類推。  さて、そうした流れとはきっと何の関係もなく、一匹狼のマンチャスター市警の警察官が、ヤクザ組織に...
  • 過ちの雨が止む
    償いの雪が降る 題名:過ちの雨が止む 原題:The Shadows We Hide (2018) 著者:アレン・エスケンス Allen Eskens 訳者:務台夏子 発行:創元推理文庫 2022.04.28 初版 価格:¥1,260  『償いの雪が降る』に続くジョー・タルバートのシリーズ第二作。前作では少女暴行殺人罪で有罪となった過去を持つ末期がん患者をインタビューする大学生として、過去の事件の真相に取り組む姿を見せていた主人公ジョーだが、彼を取り巻く過酷で特殊な家族環境は、作品に重厚感と心震わせるヒューマニティを与える独特なスパイスであった。  本書でもそれら家族の問題を取り上げるばかりか、見知らぬ父が被害者となった殺人事件を息子が追う、しかも家族の過去を掘り出しつつ、現在の再生を願うというタルバートの第二の決定的な時期と事件と取り上げて、家族と言...
  • 新宿鮫 VII 灰夜
    新宿鮫 VII 灰夜 題名:新宿鮫 VII 灰夜 作者:大沢在昌 発行:光文社カッパノベルス 2001.2.25 初版 価格:\838  主人公鮫島がキャリア組を追われ新宿署に配置替えになった理由は、この鮫シリーズでは未だにきちんと語られていない。その当時、唐突な鮫島への圧力の直接的な原因となった同期キャリア組・宮本の自殺と真相を綴った手紙があるという。鮫島はその手紙を握ったまま新宿署へ飛ばされた。内容は、未だに誰にも明かされていない。もちろん読者にも。  その宮本の七回忌の案内を受け、郷里の土地へ鮫島が訪れるところから本書はスタートする。いよいよ鮫島のキャリア失格のコアに迫るのかと思わせぶりなスタート地点。舞台は九州のどこかであるらしい。あちらにあまり土地鑑のないぼくには少し想像できない。いつもは新宿とその周辺ということでかなり地名をあらわにして...
  • 帰郷者
    帰郷者 題名:帰郷者 原題:Die Heimkehr (2006) 作者:ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink 訳者:松永美穂 発行:新潮クレスト・ブックス 2008.11.30 初版 価格:\2,200  ベルンハルト・シュリンクの年齢は、本書を書いている時点で、62歳。円熟というべき作家年齢である。43歳『ゼルプの裁き』で作家デビュー、51歳『朗読者』で世界的名声をものにした。遅咲きの作家であればこそ、戦争の影を引きずる。  この作家が純文学であろうが、ハードボイルド作家であろうが、実のところそれは小説スタイルの問題であって、この作家を読もうとする場合、ある意味あまり重要ではない。書かれようとしている主題は、ホロコーストの罪悪を引きずる戦後ドイツ、世界の中心となってぐらりと動いた東西統合時のドイツなのだから。すべてが大戦の...
  • 上司と娼婦を殺したぼくの場合
    上司と娼婦を殺したぼくの場合 (「あんな上司は死ねばいい」へ改題 ) 題名: 上司と娼婦を殺したぼくの場合 原題: Cold Caller (1997) 作者: Jason Starr 訳者: 大野晶子 発行: ソニー・マガジンズ 1999.9.25 初版 価格: \1,600  ダグラス・ケネディの『仕事くれ。』はいわゆる失業サスペンスだった。国内でも藤原伊織が企業転職ハードボイルドとでも言うべき『てのひらの闇』を書いており、どちらも秀逸の出来。かつての企業小説と言うと夢も何もないビジネスマンのための参考書ミステリーみたいなからっとしたものが多かったのだが、ビジネスの世界も今では十分に娯楽性を与えられて生き生きと描かれるものが多くなった。  もっともそうした傑作ビジネス冒険小説(と呼んでしまう)には悩める主人公、生きのいい上司や同僚といった...

  • 罪 題名:罪 原題:Sluld (1998) 作者:カーリン・アルヴテーゲン Karin Alvtegen 訳者:柳沢 由美子 発行:小学館文庫 2005.6.1 初刷 価格:\600  スウェーデン作家というだけで珍しいが、『喪失』で描かれた女性ホームレスの印象が強く、ミステリとしても極上の味を持っていたため、その反響を待って、デビュー作である本書も邦訳の光を浴びる結果になったのだと思う。  驚いたのは、二作目である『喪失』以上に、本書の完成度の高さと、人間の心を抉るメスの切れ味といったところか。  今でも記憶に新しい、警察が訴えをまともに取らなかったゆえに発展してしまった上尾市のストーカー殺人。そのケースに酷似した被害者の側の、食い荒らされる日常の描写は凄まじい。贈られて来るプレゼントが、足の小指で、それはストーカーが自分の指を自ら...
  • 夜も昼も
    夜も昼も 題名:夜も昼も 原題:Night And Day (2009) 作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:山本 博 発行:早川書房 2010.07.15 初版 価格:\2,000  パーカーの訃報を聞いて以来、一冊もパーカー作品が読めなくなっていた。死後に翻訳された新刊が続々書店に顔を見せるたびに必ず手に取り買い込んで来たのだが、もうこれで終わりなのかと思うと、それらを読んでしまい、終わりにする気になれなかった。  でもいつまでもくよくよ嘆いている場合ではない。一期一会だ。今、ここにある本を読まねば。今日は、躊躇う手を書棚に泳がせた結果、ついに一年も経ってようやくパーカーの作品に再会したのである。  本書はジェッシー・ストーンのシリーズ。パラダイスという田舎の警察署長というシリーズでありながら、本書は...
  • クレイジーヘヴン
    クレイジーヘヴン クレイジーヘヴン 題名:クレイジーヘヴン 作者:垣根涼介 発行:実業之日本社 2004.12.15 初版 価格:\1,600  『サウダージ』で見られたような反骨も意地もあるブラジル出身者の滅びと恋。あれに近いという印象だが、一方では馳星周あたりが書きそうなノワールの気配もある。少しずつ変異する垣根ワールドの、もう一つの屈折面がここに出現したのかもしれない。  『サウダージ』の強烈なデカダンスは、いわゆるゴダールの『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』に繋がるネガティブ・エネルギーの発露みたいな部分があった。根底にあるニヒリズムは、自分が世界から認められないことに対する存在の証。  本書の主人公はブラジル出身でもなければ、泥棒業界に入門しようという色気もない。ただの旅行代理店のサラリーマン……といえば処女作『午前三時のルースター』へ...
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