wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「じっとこのまま」で検索した結果

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  • じっとこのまま
    じっとこのまま 題名:じっとこのまま 作者:藤田宜永 発行:中央公論社 1995.3.7 初版 価格:\1,600(本体\1,553)  『鋼鉄の騎士』を書いた同じ作者が、こういうまったく方向の違った短編集を一方で書いているというのが、まず第一に驚きである。そしてその出来具合が長篇も良かったけれど、さらに心に残るような珠玉の名短編集といった味わいで、素晴らしい。個人的には今年のベストの一冊に入れたくなった。  よくまとまった短編集で、すべてが港区白金界隈を舞台にしている。白金と言っても表通りの洒落た区画ではなく、一本裏通りに入った古い東京で、懐かしさがいっぱいのような小さな街。そして手に職を持ったそこに住む商店主のオジサンたちが主人公を勤めている。そして短編に絡んで来るオールディズのナンバー。  自分自身東京の一角で生まれて、ほとんど幼い時代...
  • 求愛
    ... 言わば、これまで『じっとこのまま』に代表される彼の名短編集の空気を長編に持ち込んだような作品であるのだ。肩に力を入れず、いたすらおとなの筆致で技巧を尽くして描いた印象であり、それなりの読み応えを感じる。  どう見てもアンバランスな恋……その綱渡り的な二つの人生の交錯が最後にもたらすもの。この物語の中に仕掛けられたシーソー・ゲームであり駆け引きであるもの。ずしりとくる彼らの人生と、その行方。軽いストーリーでありながら読みごたえを感じた。かなり切り口を変えてくる作家であることがわかっているだけに、この次の藤田宜永の挑戦の方向がまた読めなくなる。常に期待を持たせる作家の一人なのである。 (1999.02.11)
  • 鼓動を盗む女
    ...あると思っている。『じっとこのまま』は志水辰夫もかなわない佳品集だと思っているし、相良治郎シリーズは、もうハードボイルドを書かなくなってしまった矢作俊彦の次代を担う私立探偵小説だとさえ思う。買いかぶり過ぎかもしれないけれど、短編できちんとしたプロットと締めの一文を用意するということは、すごく難しいことだろうし、実際思いどおりの本がそう多くはないからこそ、いい短編集は価値が高いのだ。  さてここまで誉めておきながら、本書はというと藤田宜永短編集の中でも、とりわけ亜流である。日本短編集の中でもとりわけ亜流かもしれない(^^;)。幻想小説集とでも言おうか、本来モダンホラー部屋扱いになるのかもしれない本である。そういう意味では中島らも型短編集と言った方が正解かもしれない。「かもしれない」三連発をしてしまったが、まあそれほど異常に戸惑う本ということで。  とにかくこんなカラフル...
  • 藤田宜永
    ...作短編) 1993 じっとこのまま 1995 巴里からの伝言 1995 鼓動を盗む女 1997 ぬくもり 1998 金色の雨 1999 壁画修復師(連作短編) 1999 はなかげ 1999 艶めき 2000 女が殺意を抱くとき(ショートショート集) 2002 女(ファム) 2003 左腕の猫 2004 恋愛事情 2006 前夜のものがたり 2006 エッセイ 男らしさを鞄につめて 1990 夫婦公論(小池真理子共著) 1995 深夜の少年 1996 恋愛不全時代の処方箋 2006 トーク集 愛に勝つ1(アン)・2(ドウ)・3(トワ)―輝く女性たちに聞いた恋のひみつ・愛のかたち

  • ...った不思議な短編集『じっとこのまま』なのだが、昨年の『転々』と言い、冒険小説の雄編『鋼鉄の騎士』と言い、この『虜』と言い、ぜひともFADV者には目を光らせていていただきたい作家の一人なのである。短編も中編も大長編でも何でもござれの作家でもある。  本書はそんな彼の平均的な長編。逃亡者とその妻との関わりを、葉山の別荘を舞台に描いてゆく奇妙な味わいの小説。不思議な時間。どんどん美しくなってゆく妻への未練。巻き戻せない時計。何よりも孤独。人間の弱さ。そして最後に愛(誇り)。  何とも素敵で悲しい物語。電線に引っかかってしまう凧というのが、主人公の運命を象徴しているようでもあり、作中いい小道具になっていて物悲しくも印象的だった。一見、畑違いのようだが、実のところフィルム・ノワールのタッチで映画化していただきたいような作品でもある。  渋く素敵なラストシーンのある物語と...
  • キッドナップ
    ...よく似合う。短編集『じっとこのまま』は大切な宝箱のような作品集で忘れられない。そこにこの『キッドナップ』という長編は積み重ねられる。切なく、決して忘れられることのなさそうな作品。読んで良かったと心の底から思うことのできる作品。読書経験の模範のような調和感。  心の琴線をくすぐり、そして地味ながらしっとりとした行間の淡い間合い。ひりひりするような憧憬に溢れる異性への焦がれ。屈折と出会い。さりげない身近な風景と存在感のある町。多くの個性たち。少年のひと夏を描いて、これほどたっぷりと切なさが味わえる物語はないだろう。一人でも多くの人にこうした本を読んで欲しい。とりわけ読後感の情趣をたっぷりと味わいたい方々に。 (2003.12.07)
  • 転々
    ...ない。  『じっとこのまま』は地味だが『鉄道員(ぽっぽや)』以上に感銘を受けた短編集だし、本書『転々』は浅田の『天国への100マイル』に類似の雰囲気を漂わせながらも、少々ペッパーの効いた、より大人むけのファンタジイとでも言いたくなるほど素敵な作品であった。こういう作品を書ける作家がいて、こういう作品を読み終え閉じるときに、本という世界の持つインナースペースの拡がりを温もりとともに感じることができる。  スケールは小さくてもとても大きな冒険小説が書けることの見本のような珠玉の一冊だ。 (1999.10.28)
  • 理由はいらない
    ...。  以前『じっとこのまま』という洒落た短編集に感動して、藤田宜永の巧さ、良さをつくづく知った。そう、ぼくはこの人の作品は長編から入ったのだけれども、実は短編のすっごい名手なんである。そういう短編の名手であれば、いや短編作家なんかでなくても、一人のハードボイルド作家は、自分なりのこれはという私立探偵を抱えておきたいのではないだろうか。矢作のマンハッタン・オプや二村も然り、大沢の佐久間公も然り、原りょうの沢崎、逢坂剛の岡坂神策、稲見一良の猟犬探偵然りだろう。  『理由はいらない』の主人公・相良次郎はまさにそういうイメージの探偵である。しかも藤田宜永という作家を代表する主人公としての探偵になってゆくだろう。そのような予感がするのは、一つ一つの短編が断片として良いからという理由ばかりではなく、この相良次郎のキャラクター造形に思いの他、力が入っているように感じられるからだ。 ...
  • 明日なき二人
    明日なき二人 明日なき二人 (Hayakawa novels) 明日なき二人 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:明日なき二人 原題:Bordersnakes (1996) 作者:James Crumley 訳者:小鷹信光 発行:早川書房 1998.8.31 初版 価格:\2,200  クラムリィがとことん好きである。文章の一行一行をこよなく愛読してしまう。昔、ハードボイルドというものに初めて触れたときのこの贅沢感。忘れていた読書時間。クラムリィはいつもこいつをぼくに思い出させてくれる。  ミロとシュグルー。物語の向こうではいつもこの二人は互いの存在を意識し合っているくせに、読者の前にはついぞその姿を見せることがなかった。前作『友よ闘いの果てに』で一瞬のすれ違いを見せはしたものの、それぞれに違うストーリーを生きていることには代わりはなかった。『さらば甘...
  • 天国の扉
    天国の扉 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:天国の扉 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア 作者:沢木冬吾 発行:角川書店 2006.01.31 初版 価格:\1,900  骨のあるクライム・ノヴェルである。……1970年生まれの若手作家であることが信...
  • トカジノフ
    トカジノフ 題名:トカジノフ 作者:戸梶圭太 発行:角川書店 2002.08.10 初版 価格:\1,500  戸梶作品は全部読んでいるのだが、この本が出たときには短編集だと知って、初めて、ああ、買わなくてもいいやという気持ちになってしまった。戸梶が年に何冊も作品を量産していて、ほとんど「これが」と思える小説がなくなり、ほぼ一定レベルで落ち着き、もうこれ以上のものがないなと、ぼくとしてはある程度見切ることのできる段階に到達したイメージがあったからだ。  ある程度売れ、もともとそう肩に力の入った作家ではなく、ユーモア系のスプラッタ・パンク作家であることから、量産もできるだろうし、楽しくこのまま遊び心いっぱいに出版文化を楽しんでいって欲しいとの戸梶観もぼくのなかでできあがりつつあった。  だけど作家はときには短編が凄い、という場合がある。オッ...
  • クレイジーヘヴン
    クレイジーヘヴン クレイジーヘヴン 題名:クレイジーヘヴン 作者:垣根涼介 発行:実業之日本社 2004.12.15 初版 価格:\1,600  『サウダージ』で見られたような反骨も意地もあるブラジル出身者の滅びと恋。あれに近いという印象だが、一方では馳星周あたりが書きそうなノワールの気配もある。少しずつ変異する垣根ワールドの、もう一つの屈折面がここに出現したのかもしれない。  『サウダージ』の強烈なデカダンスは、いわゆるゴダールの『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』に繋がるネガティブ・エネルギーの発露みたいな部分があった。根底にあるニヒリズムは、自分が世界から認められないことに対する存在の証。  本書の主人公はブラジル出身でもなければ、泥棒業界に入門しようという色気もない。ただの旅行代理店のサラリーマン……といえば処女作『午前三時のルースター』へ...
  • はめ絵
    はめ絵 はめ絵 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-27) はめ絵 (1980年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:はめ絵 原題:Jigsaw (1970) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:井上一夫 発行:ハヤカワ文庫HM 1980.04.30 1刷  本シリーズもやっとこれで2ダースを読破。しかしまだ1ダース以上を残している。ぼくと<87分署>は生まれた年が一緒で、本作出版当時、ぼくはまだ十四歳。この本でさえ二重年も前の物語なのだ。1970年。ビートルズは既に解散。ベトナムに戦火は燃え盛り、ぼくはあのころ映画やロックに夢中になり始めていた。心のなかはまだ幼くて、躰ばかりがぐんぐんと大きくなっていった大人への過渡期。そんな風にぼくがまだ中途半端であった時代、マクベインはいち早く壮年期に達したシリーズを世に出しえいた。そしてこの本にぼくが出く...
  • 日輪の遺産
    日輪の遺産 題名:日輪の遺産 作者:浅田次郎 発行:青樹社 1993.8.30 初版 1995.4.15 2刷 価格:\1,800  そろそろアトランタ・オリンピックも終わると、毎年8月の終戦特番でテレビは賑わい始める。そうした時期にぜひ手に取って欲しいのがこの一冊。他の浅田次郎作品とはかなり毛色が異なるのだけど、文体、会話体はいつもの流暢さなので、ぼくは文字どおり一気読みしてしまった。  作者初のシリアスな作品で、なおかつ冒険小説的要素、ミステリー要素の色濃い作品。現代と太平洋戦争末期を行き来する物語に、戦後と原題との不確定な境界のありさまを感じさせられる、少しばかり重い主題。  この作者はいかなる作品においても、その時代時代における世相を背景にして、弱者たちの誠実な生きざまを描こうとしているように思えるのだが、この作品も例に洩れず、そう...
  • 無理
    無理 題名:無理 作者:奥田英朗 発行:文藝春秋 2009.09.30 初版 価格:\1,900  奥田英朗は『最悪』でインパクトを残したものの、続く『邪魔』で見切りをつけられた。しかし頭のいいこの作家は『邪魔』の失敗に自らも見切りをつけ、がらりと路線を変えた精神科医・伊良部シリーズによって、いきなり一般大衆受けするヒット作の連発という道を選んだ。 それ以来、文芸商品という意味においてはエンジンがかかったこの作家、出版界も読者もそれでいいのかい? というぼくのような読者の疑問をそのままに、勝手に売れ筋路線であるシリーズにこだわり、それが映像化され、万人受けする価値あるものだとして、当時あの傑作『最悪』を書いた作家であることなど、どこかに置き忘れたかのようにして、機関車は忠実にレールの上を走り出したのだった。  そこに罪悪感がないわけがない。ぼくの...
  • ガラスの鍵
    ガラスの鍵 題名:ガラスの鍵 原題:THE GLASS KEY ,1931 作者:DASHIELL HAMMETT 訳者:大久保康雄 発行:創元推理文庫 1960.5.20 初刷 1991.2.15 27版 価格:\480(\466)  ほんとうは全部小鷹信光訳で読みたいハメット作品だけど、ハメットが自作中最も気に入っている作品であり、ハードボイルド作品としての評価も結構高い(この作品をベストに押す人も多い)『ガラスの鍵』をこのまま捨て置いて、次に移るわけにはいかないな、と思い、30年も前のままの翻訳本を買ってきて読んでしまった。翻訳のリズムはやはり小鷹訳から移ると少しまだるっこしい(というか古臭いのね)部分があるが(訳さなくてもいいカタカナで済むような部分を強引に漢字ひらがなで訳すとそういう現象が起こる)、まあそれでも会話文主体のハメットの文章だから、非...
  • 闇の中から来た女
    闇の中から来た女 闇の中から来た女 題名:闇の中から来た女 原題:WOMAN IN THE DARK,1933 作者:DASHIELL HAMMETT 訳者:船戸与一 発行:集英社 1991年4月25日 初版 定価:\1,200(本体\1,165)  白状しますが、ぼくはハメットの作品はこれまで読んでいない。ジュニア版で『マルタの鷹』を読んだのは中学生になり立ての頃のことだが、当時はアイリッシュのスリラーやカーやクイーンの推理小説の方が面白く、ハードボイルドは少しも面白く感じなかった。しかし二十歳を越えるとさすがにチャンドラーやスピレインの虜となった。虜となりながら、チャンドラー、スピレインでさえ、十分古臭さを感じているのに、ハメットではさらに古典だからかび臭いんだろうな、という意識が強く、そのまま読む機会を逸してしまっているのだ。  だからこの作品はぼ...
  • 金門島流離譚
    金門島流離譚 金門島流離譚 (新潮文庫) 金門島流離譚 (Asia noir) 題名:金門島流離譚 作者:船戸与一 発行:毎日新聞社 アジア・ノワール 2004.03.20 初版 価格:\1,800  船戸与一とノワールという言葉は、ぼくの中では正直なところ結びつかない。しかいノワールの定義について考えて見るときに、純粋な意味での殺人への意思や、破滅への方向性ということを考えると、政治的背景という情報小説的なメッセージ性を船戸から取り除けば、そこには飽くまで荒み、打ち棄てられた絶望しか、末期には残らない。そういう意味で、情報小説の性格の薄い、短編や主張性よりも娯楽性に偏った作品はノワール的な薄ら寒さを感じさせるものが元々強い作家なのだと思う。  ただ船戸を読む読者はきっとノワールの読者というよりも、国際冒険小説や活劇の読者であるだろうから、二つの言葉は重...
  • 受験生は謎解きに向かない
    受験生は謎解きに向かない 題名:受験生は謎解きに向かない 原題:Kill Joy (2021) 著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson 訳者:服部京子 発行:創元推理文庫 2024.1.12 初版 価格:¥800  昨年読んだピッパ三部作の後に、すべての前日譚とも言える本書が書かれるとは、さすがに想像外である。解決していない事件を夏休みの自由研究課題の題材として選んでしまったところから始まる三部作と、そのヒロインである推理能力に抜群のセンスを発揮する若きヒロインの女子高生ピッパの物語は、始まったところから話題性に富む外連味たっぷりの小説であったように思う。  その後の三部作はいずれも連続して読むべき物語であり、途中参加はあまりオススメできない。それぞれの作品を通して人間関係がいろいろ変化を遂げたり、その間のやりとりが前後の関係性をけっこ...
  • 空白の時
    空白の時 空白の時 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-16) 空白の時 (1979年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 空白の時〈87分署シリーズ〉 (1962年) (世界ミステリシリーズ) 題名:空白の時 原題:The Empty Hours (1962) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:井上一夫 発行:ハヤカワ文庫HM 1979.01.15 1刷  おっとこの本は変だぞ、表紙折り返しの登場人物紹介がないぞ、と思いきや、なんとこれはシリーズでは珍しい中編集なのである。考えてみれば、いつも<87分署>を手に取るときに、ぼくはまず登場人物紹介を見るのであった。えーと、今回の話ではどの刑事が活躍するのかな、刑事以外のわき役的人物などの名前などはないかな? などというチェックをまずは済ませるのだった。  ハードカバーに比べて文庫本の読み...
  • ガダラの豚
    ガダラの豚 題名:ガダラの豚 作者:中島らも 発行:実業之日本社 1993.3.25 初版 価格:\2,000(本体\1,942)  とっても分厚いハードカバー。この本は、このまま武器として使えるかも知れない。抽象的な意味ではなく具体的にそのくらい重みと硬さのある本である。二冊に分けて欲しいとの声も高いのではないだろうか?  んで中身はというと、本の体裁がそのくらいなわけだから、やっぱり中身もすごいのである。重厚壮大で、前に読んだ『今夜すべてのバーで』からは創造もつかないくらいの冒険小説である。本当にいろいろな要素の混在したジャンル分け不明の国際面白恐怖アクション小説なのだ。  絶対にこの本は話題になるべきであるとも思う。『マークスの山』がなければ、この小説を今年のナンバー1に押したいほど、と言ってしまう。ううむ、絶賛してやるのだ。 ...
  • ジェンダー・クライム
    ジェンダー・クライム [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:ジェンダー・クライム 著者:天童荒太 発行:文藝春秋 2024.01.15 初版   価格:¥1,700  ずっと家族の軋轢をテーマに描き続けてきた作家・天童新太の久々の新作を手にする。デビュー当時の作品に一時のめり込ん...
  • わらの女
    わらの女 題名:わらの女 原題:La Femme De Paille (1954) 著者:カトリーヌ・アルレイ Catherine Arley 訳者:橘明美訳 発行:創元推理文庫 2019.07.30 新訳初版 価格:\1,000  偶然にも生まれる前の小説を続けざまに読んでいる。こちらはピエール・ルメートルの訳者・橘明美による新訳がこのたび登場。古い作品ほど、新鮮に見えてくるこの感覚は何なのだろう?  1960年代にフレンチ・ノワールが日本の劇場を席巻したのも、下地としてこのように優れた原作があったからなのだろう。少年の頃に劇場や白黒テレビで触れたそれらの映画を、大人になって改めて映画、小説などでノワール三昧の一時期を送ったものだ。本書はノワールでありながら、それだけではない。言わばノワール・プラス・アルファな作品なのである。ノワールの特徴である...
  • 黒い絵
    黒い絵 題名:黒い絵 著者:原田マハ 発行:講談社 2023/10/30 初版   価格:¥1,700  作家には、既存のレールから離れた作品を書きたいという欲望があるのだろうか? 本書はタイトルの通りノワールである。本書は、著者のカラーである美術ミステリーを基調にしながら、人間の影の側の部分である欲望や暴力、死や暴力などネガティブな側面への、いわゆる異常と呼ばれる志向をテーマに綴られた短編集である。  欲望には様々なものがあるが、そればかりを集めて綴る短編集とは、まさに危険物そのものである。欲望とそれを実行すること。エゴの極致問いも言える暴力とそこへの憧憬。消えてしまいたい。消してしまいたい。殺されてもいい。殺したい。なぶりたい。忍耐ではなく快楽へ。モラルではなくブレーキのない世界へ。暴力へ。そんなものばかりを集めた黒い美術館とさえ思わせる一冊であ...
  • リアルワールド
    リアルワールド 題名:リアルワールド 作者:桐野夏生 発行:集英社 2003.02.28 初版 価格:\1,400  この作家に関してぼくはあまり熱心な読者とは言えないのだが、エンターテインメントの能力はけっこう抜きんでているのに、作家としてのスタンスをけっこうふらふらさせてしまうことで損をしているのではないかという印象がどうも強い。  『柔らかな頬』はぼくの好きな作品であるが、その落とし前のつけかたに関しては、どう考えてもエンターテインメントというジャンルに背を向けたように見えたものだった。『光源』ではもうはなからエンターテインメントから距離を置いたところで書き始め、そのまま静かに進みゆく美しい人生小説、という風にぼくには受け取れてしまい落胆させられた。  神保裕一と言い、高村薫と言い、文章表現が美味くなってゆくことで、エンターテインメ...
  • ネヴァダの犬たち
    ネヴァダの犬たち [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:ネヴァダの犬たち 原題:Stray Dogs (1997) 作者:ジョン・リドリー John Ridley 訳者:渡辺佐智江 発行:早川書房 1997.07.31 初版 価格:\1,600  簡単に言えば映画『Uターン...
  • パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない
    パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない (ロマン・ノワールシリーズ) 題名:パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない 原題:Billy-Ze-Kick (1974) 作者:ジャン・ヴォートラン Jean Vautrin 訳者:高野 優 発行:草思社<ロマン・ノワール>シリーズ 1995.08.01 初版 価格:\2000  昨年『グルーム』ではじけた感のあるジャン・ヴォートラン邦訳第一作目がこの作品。四ヶ月後には『鏡の中のブラッディ・マリー』も同じ草思社の<ロマン・ノワール>シリーズとして発売されるのだが、その後、昨年の文春文庫<パルプ・ノワール>シリーズで『グルーム』が世に出るまでは、大きく取り上げられたとは言えなかった。当時はまだ暗黒小説の地位が今以上に低迷していたのかもしれず、ぼくが知らないだけかもしれないが、...
  • 死にざまを見ろ
    死にざまを見ろ 死にざまを見ろ (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-14) 死にざまを見ろ (1961年) (世界ミステリーシリーズ) 死にざまを見ろ (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:死にざまを見ろ 原題:See Them Die (1960) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:加島祥造 発行:ハヤカワ文庫HM 1978.11.30 1刷  マクベインはまたも手を変えてきた。何とも戯曲風の作品に仕上げてきたのだ。なぜなら、作品のほとんどの展開がある特定された街角でなされてゆくからだ。ここからストーリーが離れることは滅多にない。離れてもすぐにここに戻ってくる。そして全体のストーリーは、早朝から昼くらいまでの実にわずか数時間。これは戯曲やシナリオに展開しやすいだろうな、と思われる。街角に起こった大騒動の物語なのだ。 ...
  • アナン、
    アナン、 題名:アナン、 上/下 作者:飯田譲治/梓 河人 発行:講談社文庫 2006.02.15 初版 価格:各\695  北上次郎という読書の鉄人が、本書の巻末解説を担当している。彼はこの作品を読むまでは、飯田譲治という人について全然知らなかったのだそうだ。映画やTVドラマに興味があればまだしも、『アナザヘヴン』、『ナイトヘッド』などで、飯田譲治がそれなりに印象的な映像作家であることを知ることはあっただろう。  また飯田譲治の原案を文章に焼き付けている梓河人という豊かな表現者に関しては、飯田譲治という人を介してしか、なかなか接することができない。梓氏は縁の下の力持ちでありながら、プロの仕事を確実にこなしている。映像化されたものと小説として書かれたものの感動の重さが同質である辺りにも、彼の役割の重要性は、充分に垣間見られる。  ホラーとも...
  • 赤朽葉家の伝説
    赤朽葉家の伝説 題名:赤朽葉家の伝説 作者:桜庭一樹 発行:東京創元社 2006.12.28 初版 価格:\1,700  現代を語ろうとする時に、その方法はいく通りだって考えられると思うが、おそらく桜庭一樹のこの小説のような方法というのは、誰も考えつくことはないだろう。  桜庭一樹という作家の小説作法を考える時、彼女の閉塞的少女時代の内面志向に基づいた世界構築、ということを前提にしないと何も始まらないのではないかと思われる。それほどに精神世界の内部が豊かに過ぎ、それゆえに独特の世界観を豊饒なまでに構築してしまえる。それが桜庭小説の最も研ぎ澄まされた特徴であるように思う。  世界構築として、本書で行われるのは、中国地方の地方都市に息づく製鉄会社の昭和である。それは日本や世界の歴史の影響を大きい意味では受けながらも、社会史というよりは、より深い...
  • スカーペッタ 核心
    スカーペッタ 核心 題名:スカーペッタ 核心 上/下 原題:The Scarpetta Factor (2008) 作者:パトリシア・コーンウェル Patricia Cornwell 訳者:池田真紀子 発行:講談社文庫 2010.12.15 初版 価格:各\857  このシリーズに4年ほどの不在期間を置いてしまった。そのおかげでシリーズというものが呼び起こすインタレスティングの多くを自ら損なわせてしまったように思う。シリーズの際立った特徴や、独特の、陰性の空気感などは忘れ難いものの、細かい心理描写に重きを置くこの小説シリーズのデリケートな側面については、過去の流れを取り戻すのに時間がかかった。ただでさえ手こずることの多い精緻な作品シリーズであるのに、自ら、検屍官ケイ・スカーペッタ宇宙への浸透の難しさを増やしてしまった。シリーズは5作ほどこの後に行列...
  • トーキョー・バビロン
    トーキョー・バビロン 題名:トーキョー・バビロン 作者:馳 星周 発行:双葉社 2006.04.20 初版 価格:\1,700  馳星周が、完全に一皮剥けた。  満足感とともに巻を置きながら、そう確信して憚らなかったのがこの作品。  実のところ、『生誕祭』以前と以後で作風ががらりと変わったと、ぼくは見ていた。それまでの、陰惨で救いのない物語から、むしろ弾けるばかりの生命の貪欲さと、若さの持つ無鉄砲を題材に、よりバイタリティ溢れる世界へと馳ワールドは変わりつつあるように思い、期待を込めていた。  同じノワール的時代環境に展開するストーリーでありながら、そこを生き抜く人間たちの魅力のあるなしによって、その作品への好悪の感情は左右される。『不夜城』は若きヒーローの恋と生存との葛藤を物語の中心に据えたからその作品が生きたのであり、同じヒー...
  • ブート・バザールの少年探偵
    ブート・バザールの少年探偵 題名:ブート・バザールの少年探偵 原題:Djinn Patrol on the Purple Line (2018) 作者:ディーパ・アーナパーラ Deepa Anappara 訳者:坂本あおい 発行:ハヤカワ文庫HM 2021.4.25 初版 価格:¥1,280  この6月は、ふと気づけば各種国籍の本を読んでいる。スペイン、イタリア、スウェーデン、デンマーク、そしてインド。英語圏なし、とは驚きである。翻訳ミステリもいつの間にかこんな国際色豊かな時代を迎えるようになったのだね。  さて、本書は、今とても評判のインド版少年探偵団の物語。インド小説というだけでも気になるけれど、ここ数年、子どもが主人公の翻訳作品が続出していること、そのどれもが、例外なく読んで後悔のない優れた作品であること、などの事情を考えるに、非英語圏諸国の小説...
  • ホワイト・ジャズ
    ホワイト・ジャズ 題名 ホワイト・ジャズ 原題 White Jazz (1992) 著者 James Ellroy 訳者 佐々田雅子 発行 文藝春秋 1996.04.01 初版 価格 \2,600(本体\2,524)  やっと辿り着いた。思えば壮大な物語であったこのLA四部作。作者がどの種のエネルギーを持ち合わせていれば書けるのかと思わせるほどの世界一パワフルな小説。それがLA四部作だと思う。悪を描くことにかけてはこれ以上の作家はいない。エルロイは、もはや現代のドストエフスキーと呼んでいいだろう。  前二作の解決のつかないロス警察内の軋轢がまだるっこしくて待っていた読者だろうが、これを笑い飛ばすかのように、エルロイはテンポを一気に変えた。新しい主人公の視点でこれまでと同じロス警察内外の暗闘を描いたのだ。それも徹底的に破壊された文体で...
  • 荒野
    荒野 題名:荒野 作者:桜庭一樹 発行:文藝春秋 2008.05.30 初版 価格:\1,680  ファミ通文庫より2005年と2006年に出ている『荒野の恋』第一部と第二部に、書き下ろしの第三部を付け足して、ソフトカバーとして改めて纏められた一冊。桜庭のニュー・ファンとしてはファミ通文庫の二冊を買ったり読んだりしていなくて幸いである。一気に読んだ方が、きっと座りのいい作品だから。  一部は、少女・山野内荒野12歳、中学一年の入学式の朝に始まる。二部は、13-14歳、中二から中三。三部は15-16歳で高一から高二。一人の少女の12歳から16歳。子供から大人になりかけてゆく、多分人生で最大に多感で微妙な時間を、切り取って永遠に焼きつける作業、というのが桜庭一樹がこの小説で(いや、この小説でも)やりたかったことなのではないだろうか。  北...
  • ララバイ・タウン
    ララバイ・タウン 題名:ララバイ・タウン 原題:Lullaby Town (1992) 著者:ロバート・クレイス Robert Crais 訳者:高橋恭美子 発行:扶桑社ミステリー 1994.07.30 初版 価格:¥620  25年前の翻訳。27年前の原著。エルヴィス・コール・シリーズ第三作。自分もコールも三十代だよ、WAO!  今年邦訳された『指名手配』は純粋なシリーズとしては物凄く久々だったとは聴いていたが。アマゾンで古い作品をかき集めてはみたもののすべてが揃ったわけでもない。近隣の図書館の蔵書目録にも出てこない。なのにこの高質で香り高きハードボイルドのホンモノの作品群。  知れば知るほど、ずっとこのシリーズを見逃していた自分がハードボイルドファンとして失格だと確信することになるこのところの日々である。  本書を読んで思ったこと...
  • 日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年
    日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年 題名:日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年 著者:田口俊樹 発行:本の雑誌社 2021.2.20 初版 価格:¥1,600  田口俊樹翻訳作品で自分の読んだ本を数えてみたら54作であった。特に翻訳者で本を選んでいるわけではないのだけれど、ぼくの好きな傾向の作家を、たまたま多く和訳して頂いているのが田口俊樹さんということであったのだと思う。特に、完読しているローレンス・ブロック作品は、ほぼ全作田口さん訳なので、ぼくのように読書歴にブロックのあの時代があったミステリー・ファンは、少なからず田口俊樹訳で読んでいることになるのです。  他に田口訳作品でお世話になったところでは、フィリップ・マーゴリン、トム・ロブ・スミス、最近の(パーカーBOOK版になってからの)ドン・ウィンズロウ。いずれも大変な作家揃い。  ...
  • クレイジー・イン・アラバマ
    クレイジー・イン・アラバマ 題名:クレイジー イン アラバマ 原題:Crazy In Arabama (1993) 作者:Mark Childress 訳者:村井智之 発行:産業編集センター 2000.6.15 初版 価格:\1,600  今年のベストには絶対に入れようと思っている、ぼくとしてはかなりお気に入りの作品。  ルシールおばさんと少年ピージョーとの二つの物語が同時進行するブラックでヒューマンで何ともアメリカな物語であるのだけれど、何と言っても1965年のアラバマが舞台ってところが味噌。マーティン・ルーサー・キング牧師とアラバマ州知事ジョージ・ウォ-レスとの演説対決のシーンもあれば、夫を殺してその首を持ち歩きならがもハリウッド女優を目差しているルシールおばさんの『じゃじゃ馬億万長者』出演風景もある。  どちらかと言えばジョン・グリシ...
  • 嗤う猿
    嗤う猿 題名:嗤う猿 原題:The Fifth To Die (2018) 著者:J・D・バーカー J.D.Barker 訳者:冨永和子 発行:ハーパーBOOKS 2020.03.20 初版 価格:¥1,236  猿のシリーズは三部作だったとは知らなかった。これは三部作の二作目なので、はっきり言って前作を読まずにこれだけ読んでも意味がわからないと思う。否、前作を読んでも本書の意味はわからないかもしれない。今秋に最終作が発表されるとのことで、巻末に最終話の最初の数ページがサービスで紹介されていたりもする。今の心境。このまま最終作を読むまで、本書で新たなに開示された謎を解くことができないことが辛い、の一言。  本作では、第一作『悪の猿』に続く少女連続誘拐監禁事件を違うバージョンで見させられているイメージである。しかしどうも本作では、一作目の事件から四か月...
  • 世界でいちばん長い写真
    世界でいちばん長い写真 題名:世界でいちばん長い写真 著者:誉田哲也 発行:光文社 2010.8.25 初版 価格:1,300  タイトルそのままの「世界でいちばん長い写真」を作るだけの小説なんだが、この本のいいところは、ずばり、主人公が中学生の男の子であるというところだ。もちろん「世界でいちばん長い写真」のギネス認定を受けている人はいるんだそうだ。その事実をもとに、作者は、中学生を主人公にした青春小説を書こうと決めたみたいだ。そうして、『武士道シックスティーン』に始まる武士道三部作という女子小説とは一味違った男子の方の物語も書こうとトライしたのだと思う。  そのトライはいい意味でとても成功していて、やっぱり想像力に長けている、小説家という職業は、女の子であれ男の子であれ、その世代、その時代の、ヒューマンな心の機微というところにかけては、やっぱり優れ...
  • 盗まれた貴婦人
    盗まれた貴婦人 題名:盗まれた貴婦人 原題:Painted Ladies (2010) 著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:加賀山卓郎訳 発行:早川書房 2010.11.15 初版 価格:¥1,900  ロバート・B・パーカーが2010年に他界して以来、作品に手をつけていない。翻訳作品のほぼ全部を読んでいる。残すは4冊。とりわけパーカーのファンというわけではない。最高の作家とも考えていない。主人公にのめり込んでもいない。むしろ相手の方から距離を置くタイプの主人公たちが多いように見える。素っ気なく気取って、しかもタフガイであったりする。もしかしたら平和ボケした日本の片隅で読むストーリーではなかったのかもしれない。  しかし名作と言われる『初秋』で、スペンサーは男をある意味で定義づけ、少年に示して見せる。あの時間と風...
  • 秘めた情事が終わるとき
    冷めた情事が終わるとき 題名:秘めた情事が終わるとき 原題:Verity (2018) 作者:コリーン・フーヴァー Colleen Hoover 訳者:相山夏奏 発行:二見文庫 2020.01.15 初版 価格:¥1,180  ロマンス小説のように見えるタイトルとカバーに騙されてはいけない。これは二重三重の罠の張り巡らされたサスペンスであり、上質なミステリーである。なぜならこの作品は、作家の際立った文章力がなければ完成されるとこはないからだ。  交通事故で全身麻痺状態となった人気女流作家のシリーズの続きを書くために雇用されたローウェンは売れない作家。人づきあいが下手で、孤独で、自信もなく、ただ生活のためにライターとして生きようとしているところに転がり込んできたチャンスは、その後の彼女を暗闇の世界に引き込む招待状のようなものだった。  ローウ...
  • 闇に問いかける男
    闇に問いかける男 題名:闇に問いかける男 原題:The Interrogation (2002) 作者:トマス・H・クック Thomas H. Cook 訳者:村松 潔 発行:文春文庫 2003.7.10 初版 価格:\619  記憶シリーズにピリオドを打ってからのクックは、新しい形でのミステリ、より娯楽的なミステリに向けて手を広げているように見える。前作『神の街の殺人』は、『熱い街で死んだ少女』以来の、孤立する主人公とその葛藤を描いて秀逸だった。  そうした前作に比べると一見、デッドエンド型ミステリに仕立て上げて、まるでアイリッシュ(ウールリッチ)みたいな愉しいサスペンスを創り上げてくれたのかと思わせるような本書であるが、実のところ、クックのあの暗黒面の深さ、ダークな色合いは相変わらず健在で、全体的にはとてつもなく地味な一冊なのである。やはりこ...
  • 黒い瞳のブロンド
    黒い瞳のブロンド 題名:黒い瞳のブロンド 原題:The Black-eyed Blonde (2014) 作者:ベンジャミン・ブラック Benjamin Black 訳者:小鷹信光 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.10.15 初版 価格:\1900  熱心なチャンドリアンではないまでも、フィリップ・マーロー・シリーズの後日談と言われて食指が動かないわけもない。この世の文学の中で最も信奉するハードボイルドの根っこの一つみたいな存在であるチャンドラーを、現代に蘇らせようという人がいるならば、せっせとその火事場に駆けつけたいという野次馬根性もしっかり持ち合わせている限り。  チャンドラーはハードボイルドと言われるが、ハメットやヘミングウェイに比べるとやはり饒舌と言われる。もっともハメットのサム・スペードやコンチネンタル・オプに比べ、マーローは明らかに...
  • 沈黙の橋
    沈黙の橋(サイレント・ブリッジ) 沈黙の橋(サイレント・ブリッジ) (ハルキ文庫) 題名:沈黙の橋(サイレント・ブリッジ) 作者:東 直己 発行:ハルキ文庫 2000.2.18 初版 価格:\619  『探偵くるみ嬢の事件簿』では、実はまるで砂漠に突如現れたラスベガスのように、旭川のちょっと北に突如風俗の街<来内別市>というものを出現させてしまう。全住民の70%が18から35歳の女性だという娯楽の市であり、全国から引きも切らずこの街に男共は遊行に来るのだ。  そういう突拍子もない設定を当たり前に書いてしまうところが既に東直己しているのだけれども、この作品は、のっけから日本が、日本民主主義人民共和国(北日本)と日本共和国(南日本)という二つの国家に分断している。そればかりか、札幌が南北陣営に分かれており、二つの国境としての壁がある。そう、あの冷戦時のベルリンを...
  • ファミリー・ポートレイト
    ファミリー・ポートレイト 題名:ファミリー・ポートレイト 作者:桜庭一樹 発行:講談社 2008.11.20 初版 価格:\1,700  出た! って、感じの、銃口桜庭ワールド。「重厚」って書こうと思ったところ誤変換してしまったのだが、むしろこのままでいいような……。  まさに読者に向けられた銃口を覗いているような作品……だから。  まずはこの1000枚の大作が書き下ろしであることが嬉しい。この本を出すために書いたのだという小説は、雑誌刊行の都度、途中発表を余儀なくされる長篇小説が多い中で、とても読者のために誠実であるように感じられるからだ。そしてこの手の集中力を要する作品は、作品そのものの創作過程のためにこのような書き下ろしという形態が最良である。  それゆえに生まれるアンバランスさ、作者の側の自由度というものが何よりも嬉しい。自...
  • セメントの女
    セメントの女 題名:セメントの女 原題:The Lady In Cement (1961) 作者:マーヴィン・アルバート Marvin Albert 訳者:横山啓明 発行:ハヤカワ・ミステリ 2004.04.15 初版 価格:\1,000  博打でまきあげたクルーザーに暮らし、ダイビングを楽しむ私立探偵トニー・ローム。舞台はマイアミ、きちんと事務所も用意しているのに、とてもラフな遊び人探偵。そんな陽気な明るい雰囲気のシリーズは、現代でも通用しそうなくらい、テンポのいい軽ハードボイルドの傑作だった。  事務所で大人しくしているタイプではなく、本当にじっとしていられないたちの探偵だということがわかる。負けず嫌いで、へそ曲がりであり、へらず口を叩くよりも手が出ているタイプなのだろう。若いし、体力もあり、よく走り、よく泳ぎ、よく殴られる。満身創痍の体を引きず...
  • 南冥の雫 満州国演義8
    南冥の雫 満州国演義8 題名:南冥の雫 満州国演義8 作者:船戸与一 発行:新潮社 2012.06.20 初版 価格:\2,000  最終巻が近いな、と思わせるショッキングなラストシーンであった。敷島四兄弟の運命もそろそろのっぴきならぬところまでそれぞれが追い込まれているように見えてくる。それぞれがこの大作小説の初期段階において、満州に住み移っている。三郎は日本に家族を残し、太郎は身から出た錆で日本に家族を帰すことになった。それぞれ帰るべき祖国はありながら、祖国そのものが明らかに滅びようとしている今、彼らの漂流の旅はどこへも向かうことがなさそうに思える。日本そのものと運命を共にする以外にないあの時代の彼らだ。日本そのものが有史以来最大の危機を迎えている。  戦争は人災である。明らかに天変地異ではなく、人が故意に起こす災害である。権力を持つ者が多くの兵...
  • 追いつめられた天使
    追いつめられた天使 題名:追いつめられた天使 原題:Stalking The Angel (1989) 作者:ロバート・クレイス Robert Crais 訳者:田村義進 発行:新潮文庫 1992.2.25 初版 価格:¥480  翻訳ミステリだけに絞っている読書生活であるにせよ、続々出る新刊に追いかけられる強迫観念は決して消えない。かつて、よまずに積ん読本を老後の楽しみとか言っていたが、今は十分老後みたいなものではないか。なのに積読が増えるのも辛い。新刊を読み逃すのも辛い。老後の楽しみなんて、話が違う。  それでも新刊の合間に古本を読まねば積読本が消化できないのである。えてして積読本は兼ねてより期するところがある作品が多い。いつかは読む。死ぬまでには読む。でもこのままだと、という延々と新刊ラッシュに追いかけられる生活に反省を感じ、時には古本を引っ張...
  • ファイナル・ツイスト
    ファイナル・ツイスト 題名:ファイナル・ツイスト 原題:The Final Twist (2021) 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 発行:文藝春秋 2022.6.30 初版 価格:¥2,600  コルター・ショー・シリーズ三部作の、いよいよ待ちに待った大団円。このシリーズの特徴は、何と言っても常に動き回り続け、父譲りのサバイバルのテクニックを駆使して悪と対決するという主人公の個性である。  ディーヴァー作品の代表格、アームチェア・ディテクティヴの主人公リンカーン・ライムとは、まさに真逆である。それでいながらライムもコルター・ショーも、極端なまでの個性で娯楽小説の王道をゆくように事件に向き合ってゆくというキャラクター造形で、読者をとことん楽しませてくれる。  三部作の一・二作目は、それぞれに独立...
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