wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「たとえば、愛」で検索した結果

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  • たとえば、愛
    たとえば、愛 たとえば、愛 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-17) たとえば、愛 (1979年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) たとえば、愛 (1963年) (世界ミステリシリーズ) 題名:たとえば、愛 原題:Like Love (1962) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:井上一夫 発行:ハヤカワ文庫HM 1979.11.15 1刷  くすぐったくなるような邦題がついているが、シリーズ中にはこんなタイトルだってたまにはありだろう。例えば『バレンチナ、わが愛』というのが『マフィアへの挑戦』シリーズにあったものだ。チャンドラーだってパーカーだって『愛』の文字くらい年中使っているではないか。しかし、さすがにディック・フランシスにはなかった。  原題は《Like Love》。『愛の如く』と訳した方がストーリーにむしろ忠実だろう。その...
  • さらば、愛しき鉤爪
    さらば、愛しき鉤爪 題名:さらば、愛しき鉤爪 原題:Anonymous Rex (2000) 作者:Eric Garcia 訳者:酒井昭伸 発行:ヴィレッジブックス 2001.11.20 初版 価格:\860  実際ハードボイルドほどさまざまな進化の形を見せてくれるジャンルというのは、他にないのじゃないだろうか。それだけ多くの人に愛され、印象に残った、文学上のエポックであるのだと言えるし、どれほど突き放したような文体で固ゆでの顔をしてみても、あくまで人間のハートに食い込んで放さない鉤爪のように、ぼくらには胸の奥深くで、あまりに近しい感覚を得ているのに違いない。  ハードボイルドは時には喜劇の形を取ることだってある。パロディ。ブラックユーモア。もっと笑い飛ばすような形に進化することだってある。恐竜が鶏に進化したのかもしれないように、ハードボイルド...
  • たとえ傾いた世界でも
    密猟者たち 題名:たとえ傾いた世界でも 原題:The Tilted World (2013) 著者:トム・フランクリン & べス・アン・フェンリイ Tom Franklin Beth Ann Fennelly 訳者:伏見威蕃 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.08.15 初版 価格:\1,800  1927年にミシシッピ川流域でアメリカ史上最大の洪水が起こったことはとても有名な史実であるにも関わらず、米国民の大方からは忘れられているという。その時代、その災害のさなかで密造酒作りを稼業に選んだ夫を持ったディキシー・クレイは、幼い子を洪水で失い、今では自ら密造酒作りの日々を送っている。  そこに一家惨殺の生存者である赤ん坊をひょんなことから連れ歩いていた密造酒取締官インガソルが現れ、ディキシー・クレイのもとに神の子を授ける。それが皮肉な運命の...
  • たとえ天が墜ちようとも
    たとえ天が墜ちようとも 題名:たとえ天が墜ちようとも 原題:The Heavens May Fall (2016) 著者:アレン・エスケンス Allen Eskens 訳者:務台夏子 発行:創元推理文庫 2020.09.25 初版 価格:¥1,180  状況設定が凄い。前作『償いの雪が降る』では、若き大学生ジョー・タルバートの眼を通して、ヴェトナム戦争を引きずる余命幾ばくもない三十年前の殺人事件の容疑者の真実を探るという作業のさなか、ジョー自身やそのガールフレンドであるライラ・ナッシュを襲うハードな運命と歴史の闇が彼らに試練と経験を与えることになった。  前作でも登場の刑事マックス・ルパートと弁護士ボーディ・サンデンは、彼らがダブル主人公として実に印象深い活躍をする本作に限らず、その後のアレン・エスケンス作品にはおなじみのメンバーともどもそれぞれレギ...
  • エド・マクベイン
    ...1962 井上一夫 たとえば、愛 1962 井上一夫 10プラス1 1963 久良岐基一 斧(おの) 1964 高橋泰邦 灰色のためらい 1965 高橋泰邦 人形とキャレラ 1965 宇野輝雄 八千万の眼 1966 久良岐基一 警官(さつ) 1968 井上一夫 ショットガン 1969 井上一夫 はめ絵 1970 井上一夫 夜と昼 1971 井上一夫 サディーが死んだとき 1972 井上一夫 死んだ耳の男 1973 井上一夫 われらがボス 1973 井上一夫 糧(かて) 1974 井上一夫 血の絆 1975 井上一夫 命果てるまで 1976 久良岐基一 死者の夢 1977 井上一夫 カリプソ 1979 井上一夫 幽霊 1980 井上一夫 熱波 1981 井上一夫 凍った街 1983 井上一夫 稲妻 1984 井上一夫 八頭の黒馬 1985 井上一夫 毒薬 1987 井上一夫 魔術 ...
  • エリック・ガルシア
    エリック・ガルシア Eric Garcia 鉤爪シリーズ さらば、愛しき鉤爪 2000 鉤爪プレイバック 2001 鉤爪の収穫 2003 その他、長編 マッチスティック・メン 2002 レポメン 2009
  • 鉤爪の収穫
    鉤爪の収穫 題名:鉤爪の収穫 原題:Hot And Sweaty Rex (2003) 作者:エリック・ガルシア Eric Garcia 訳者:酒井昭伸 発行:ヴィレッジブックス 2005.08.20 初版 価格:\980  『さらば、愛しき鉤爪』『鉤爪プレイバック』に続いての第三弾。またまたフィリップ・マーローにあやかったタイトルかと思いきや、今回は何故かハメットの『赤い収穫』『血の収穫』のもじり。原題を無視して翻訳向け編集者のこだわりを見せるタイトルにも何故か共感を感じてきた読者としては、何故かとの興味が先走ったが、一読すれば、なるほど納得。まさにハメットの原作を思わせる設定の本書。  対立する二つの組織を行き来することになるわれらがラプトル探偵、ヴィンセント・ルピオ。今回の舞台はマイアミ。ハワイ、マイアミと落ち着くところのないシリーズなが...
  • ゆりかごで眠れ
    ゆりかごで眠れ ゆりかごで眠れ 題名:ゆりかごで眠れ 作者:垣根涼介 発行:中央公論新社 2006.04.10 初版 価格:\1,800  垣根涼介の作品には、いつもロマンがある。切羽詰った逆境に目を凝らすとき、特に南米奥地、文化の往来の見込めない場所で、人間の逞しさを描いているときの彼のペンは、生き生きと跳ねて見える。  知略を凝らした犯罪の奥底にもまた、紳士的ルールがある。対して仁義を持たぬ者たちとの間で葛藤が渦巻き、そこには常に名誉の問題、人間としての矜持の問題が、高く大きくそそり立つ。  そうした意味で欧米の冒険小説が持つエッセンス、生き様、誇り、気位、沽券といった意識を強く持った物語の、この作家は数少ない書き手であると言っていいのかもしれない。  騎士道精神のアンチテーゼが常に世界に存在することを、彼の物語力学は決して忘れない。騎...
  • gohst
    ぼくが愛したゴウスト 作者:打海文三 発行:中央公論新社 2005.4.25 初版 価格:\1,400  打海文三は、主人公が子供であっても、容赦なく、非情に、過酷に彼を叩きのめす。完膚なきまで厳しく、彼を、彼の心を、鋭く打ち据える。そうした修羅の中に、いつも味方がいる。味方らしき人がいる。仲間がいる。切なく、暖かい、焦がれがあり、包み込んでくれる大きな存在が、どこかで彼を見守っている。  読み始めて驚いたのは、作者らしからぬSFファンタジーかと見誤る。軽いイージーな読書をさっと終えてしまおうか、とため息をつく。作者への軽い失望、読者への裏切りとなるかもしれない。不安要素いっぱいのストーリー展開に、当惑する。  しかし、打海文三の方向は、甘い方向に逸れてゆくことはついになかった。思いもかけぬ展開のなかで、不思議な作中人物たちとの、夢のような、幻覚のよ...
  • 愛はいかがわしく
    愛はいかがわしく 題名:愛はいかがわしく 原題:Love Is A Racket (1998) 作者:ジョン・リドリー John Ridley 訳者:雨海弘美 発行:角川ブック・プラス 2000.11.30 初版 価格:\1,000  ジョン・リドリーは、かちっとタイトで面白い。そのイメージだったのだが、本書でそいつはがたっと崩れ落ちる。脚本家らしく起承転結がはっきりした、エンターテインメントの堅い基盤に根を下ろしたような『ネヴァダの犬たち』『地獄じゃどいつもタバコを喫う』とは、本書は全然違っている。どちらかと言えば、作家と作品との間の距離感をあまり感じさせない、自己主張の強い駄弁り口調の小説、と思えるところがある。チャールズ・ブコウスキーのアフロ・アメリカン系ハリウッド版スタイル、とでも言おうか。  いきなり指2本を担保に、博奕で擦った借金を返せ...
  • さらば、カタロニア戦線
    さらば、カタロニア戦線 さらば、カタロニア戦線〈上〉 (扶桑社ミステリー) さらば、カタロニア戦線〈下〉 (扶桑社ミステリー) 題名:さらば、カタロニア戦線(上・下) 原題:THE SPANISH GAMBIT ,(1985) 作者:STEPHEN HUNTER 訳者:冬川亘 発行:ハヤカワ文庫NV 1986.12.15 初刷 価格:各\420  『真夜中のデッド・リミット』で超極上のエンターテインメントを提供してくれたS・ハンター。『真夜中・・・・』は彼の4作目になるらしいが、他にはその後デビュー作『クルドの暗殺者』が同じ新潮から出ただけで、なかなか新しい出版の話が出てこないでいる。この『さらば、カタロニア戦線』は逆に、『真夜中・・・・』より前に邦訳されハヤカワから出ていた作品。しかし、今、書店でハヤカワ文庫のリストを手に取ってもこの作品の名は見当たらない...
  • joya
    浄夜 作者:花村萬月 発行:双葉社 2005.09.30 初版 価格:\1,800  本書カバー帯に「純」文学と書かれているが、恐れることはない。花村作品は、何文学でもない花村文学なのであり、他の何者でもない。本書も、例によって、純文学と呼ぶにはあまりにもおちゃらけた会話、つまり数多くの駄洒落や、軽妙トークに満ちており、このあたりは花村作品すべてにおける共通項のようなもの。彼の書く軽いエッセイなどに通じる諧謔と遊び心がリズミカルに展開してゆくのも、いつもどおり。  作品がどこに向かってゆくか想像しにくいのも、もちろんいつも通り。最初は乗りが悪い感があるが、それも一見無縁とも見える、男女二人の主人公が交互に、勝手に自分の世界に没し切っているからだ。そのあたりだけ見ると、萬月史の中で中だるみに近い時期の作品を想起させ、やや心配になる。  だが、『欝』以降...
  • 人形とキャレラ
    人形とキャレラ 人形とキャレラ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 13-23)) 人形とキャレラ〈87分署シリーズ〉 (1966年) (世界ミステリシリーズ) 人形とキャレラ (1980年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:人形とキャレラ 原題:Doll (1965) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:宇野輝雄 発行:ハヤカワ文庫HM 1980.04.15 1刷  ブライアン・デ・パルマ風に、血の惨殺劇から本書は始まる。切り刻まれる母親の悲鳴を聞きながら、隣室で人形を抱え蹲る女の子。そしてこの人形こそが、本書の謎を解く鍵となり、そのことはそのままタイトルによって匂わされている。(原題は《Doll》)  キャレラはつくづくついていない刑事だ。これまでに殺されかけて病院に重篤患者として担ぎ込まれたことが二度。ここでは残酷な監禁状態...
  • 再起
    『再起』 題名:再起 原題:Under Orders (2006) 著者:ディック・フランシス Dick Francis 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ・ノヴェルズ 2006.12.15 初版 価格:\1,900  競馬シリーズ全作品を、二文字熟語タイトルにはいつもその苦労が偲ばれる。その最終選択には、結果として感心し続けてきた気がする。しかし、それにしても、本書、このタイトルほどに、感慨深い思いを迫られる邦題タイトルが、あったろうか。フランシス・ファンならずとも、この心憎く意味深いタイトルの価値は、伝わってゆくのではないか。  ディック・フランシスという作家は、ことサービス精神には事欠かない人なのだが、本書では6年ぶりの復活を遂げると同時に、起用した主人公が何とあのシッド・ハレーである。職業は元チャンピオン・ジョッキーでありながら、負傷に...
  • 蒼ざめた眠り/「虚国」改題
    蒼ざめた眠り/「虚国」改題 題名:「虚国」改題 → 蒼ざめた眠り 著者:香納諒一 発行:小学館 2010.03.03 初版 → 小学館文庫 2012.12.11 初版 価格:¥1,800 → ¥733 題名:虚国 → 改題:蒼ざめた眠り 著者:香納諒一 発行:小学館 2010.03.03 初版→小学館文庫 2012.12.11 初版 価格:¥1,800 →¥733  2010~2012年の頃は、人生の一大転機という諸事情により、新刊本を多く読み残してしまっている。買っていながら何度もの引っ越しによって新旧の棲家を転々とする運命となったこの時期の<積ん読本>を、今になって書棚から取り出して読んでいるのは、現在のぼくを取り巻く新たな諸事情が、その頃の読書ブランクを取り戻す機会を与えてくれているのだ、と思うことにしている。  本書はハードカバ...
  • ジウ1
    ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT] ジウ―警視庁特殊犯捜査係 (C・NOVELS) 題名:ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT] 作者:誉田哲也 発行:中央公論新社 C・NOVELS 2005.12.15 初版 価格:\1,000  『アクセス』では携帯、パソコン、ネットを使ったホラーを、『疾風ガール』ではロック少女を主人公にしたミステリーを、本書では警察小説を、と精力的に様々なスタイルに挑んでいる若手作家である。どの作品でもまず見られるのは、成功しているかどうかはともかく、面白い小説を書こうという姿勢である。若手作家の時代にしか試すことのできないことを、遠慮なく引き受け、荒っぽいながらも疾走してやれ、という心意気が感じられる。  まだまだ下手だ。文章も大したことがない。手離しで人に勧めようとも思わない。でも何かがある。『疾風ガール』は、この作家にして一番しっく...
  • 凍れる森
    凍れる森 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:凍れる森 原題:Winter Kill (2003) 作者:C・J・ボックス C.J.Box 訳者:野口百合子 発行:講談社文庫 2005.10.15 初版 価格:\781  素晴らしい! の一言に尽きる一篇。たとえ『このミス...
  • しのびよる月
    しのびよる月 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) しのびよる月 (1) 御茶ノ水警察シリーズ 題名:しのびよる月 作者:逢坂剛 発行:集英社 1997.11.30 初版 価格:\1,600  ぼくの場合、逢坂剛という作家の短編にはそれなりの思い入れがあって、しかも特にスペインを題材にし...
  • 逃亡
    逃亡 題名:逃亡 作者:帚木蓬生 発行:新潮社 1997.8.15 第4版 1997.5.30 初版 価格:\2,300  ----後半のみ【ネタバレ警報】  重い題材というのは、簡単に言ってしまうとドストエフスキィ的なものとトルストイ的なものとに大別される。ぼくの一つの判別法である。そして帚木蓬生という作家のめざすものは常にトルストイ的なヒューマニズムであるように見える。ぼくの趣味から言えば、この作者の作家的感性に少し古臭さを感じる。またぼくには、正義感というものに対するある種の反抗的な精神があって、いつも素直には肯定できない類いの重さを感じるのである。  この本で書かれていることは、教科書や一般書ではなかなか見つけられない歴史の襞の奥の真実であると思う。この一時代への興味と関心というすべてでもって、この本をぼくは手に取る。五味川純平...
  • 探偵、暁に走る
    探偵、暁に走る 題名:探偵、暁に走る 作者:東 直己 発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2007.11.15 初版 価格:\2,000  『ライト・グッドバイ』で、もしかしこれにて、ほぼ終わっちまったのか、と思えたのが、本シリーズへの不安だった。三つのシリーズを交錯させて終焉を迎えさせた感のあるサイコ事件、そして道警腐敗神話。もうすべて終わっちまったんだな、という印象が。  しかし畝原シリーズも本シリーズも、この2007年という同年に、新たな形で世に出してしまった東直己。かつての一作産むのに苦労していた時代とは違うのか。誰がどう見てもペースの速まっているように見える彼の創作態度に、著しい昨今の変化を感じないものはいないだろう。  娯楽小説としての手抜きのあり方を覚えたというのもあるのかもしれない。手抜きというと語弊があるが、ある程度、別ジ...
  • もぎりよ今夜も有難う
    もぎりよ今夜も有難う 題名:もぎりよ今夜も有難う 著者:片桐はいり 発行:幻冬舎文庫 2010/8 初版 2014/8/5 文庫化 2022/2/25 4刷   価格:¥540  原田マハ『キネマの神様』文庫本の巻末解説を書いているのが、この本の著者・片桐はいり。ご存じの個性派女優だが、この方が映画館育ち(元もぎり嬢、ちなみに原田マハもそうだったらしい)とは、知らなかった。それにこんなに文章が上手くて語りが面白くって、などということもぼくは全然知らなかった。  そんな元もぎり嬢であるばかりか今もボランティアでもぎりチャンスがあれば映画館に繰り出してしまうという皆様ご存じの本業は女優である片桐はいりによる、映画愛溢れる名エッセイ集。シネコンの現在ではシネチッタ銀座として知られる元・銀座文化というシアター(当時はシネコンではなく名画座という種類の愛すべき...
  • rnoie
    Rの家(ノベルズ化に当たって「ロビンソンの家」へ改題) 作者:打海文三 発行:マガジンハウス 2001.01.25 初版 価格:\1,800  打海文三の小説作法は基本的に独創的な人物の造形に尽きると思っていたのだが、それも散文化を極めすぎると、こういう自由構成のような脱線現象となる、ということなのだろうか。アーバン・リサーチという枠組みによるシリーズの締めつけから解放され、独立したものという見方よりはむしろ、ハードボイルドという寡黙な技法から離れ、ずっとずっと饒舌に語られ始めようとしたときに、この『Rの家』という無味乾燥な作品ができあがったのかもしれない。 たとえば寡黙な技法であるなら、ストーリーを回してゆくしかない。人物を次々と行動に走らせ、そのパターンを冷たく距離を置いて描写してゆくしかないのだ。しかし饒舌技法でいいのならば、ストーリーなどは不...
  • 義八郎商店街
    義八郎商店街 義八郎商店街 題名:義八郎商店街 作者:東 直己 発行:双葉社 2005.2.25 初版 価格:\1,700  どちらかと言えば寡作家であったこの作家も、最近ではコンスタントな仕事をきちんとするようになっているみたいだ。コンスタントな仕事そのものの是非は別として。  日本の作家が職業的にコンスタントに仕事をしようとすると、大抵は月刊文芸誌に短編を掲載し始める傾向になるみたいだからだ。かくしてどの作家も短編集ばかり沢山出すようになる。短編がそこそこ面白い作家であれば問題はないが、そうでもない作家が、長編の代わりに月決めで、予め要求された原稿枚数を入稿するようになると、世の中にやたらと氾濫してゆくのが、連作短編集という形式。  このスタイルにしても、得意とする作家ならばそのほうがいいのかもしれないが、本来の長編作家としての魅力を、雑誌社のほ...
  • 純愛小説
    純愛小説 題名:純愛小説 作者:篠田節子 発行:角川書店 2007.05.31 初版 価格:\1,400  これは俗に中編小説集、というのか。昔から、短編と中編の区別がつかない。実際のところ厳密に何ページを越えると短編が中編になってしまうのか、というようなことは聴いたことがない。だからもちろん中編と長編の境目も定かではない。出版社が、中編といえば中編なのかな。短編といえば短編なのかな。  そんな定義はどうでもいいことのようだが、やはり短編と中編の間には、読者の側にも何となく、短編らしいという手ごたえもあれば、少し中編としての複雑さが感じられるものなど、どことなく違いは感じ取ることができる場合がある。その意味では、この作品集は、まぎれもなく中編小説集なのだと思えなくもない。  作品そのものが、短編小説の長さでは描ききれない部分までを照準に収め...
  • 忘れたとは言わせない
    忘れたとは言わせない 題名:忘れたとは言わせない 原題:Rotvälta (2020) 著者:トーヴェ・アルステルダール Tove Alsterdal 訳者:染田屋茂 発行:早川書房 2022.8.31 初版 価格:¥2,200  スウェーデン南部オンゲルマンランド地方クラムホシュ。主人公の若き女性警察官エイラ・シェディンが暮らす町である。  深い森や峻嶮な峡谷を、海に流れ出る川のうねりが削る場所。河岸の古い巨大工場の跡地には、麻薬やフリーセックスに夢中になる若者たちの痕跡が残される。  憂鬱になるほど暗く寂しい地方の片田舎で、13年前に発生した少女行方不明事件。その少女を殺害した容疑で刑務所に入れられた孤独な若者ウーロフ。彼が出所するとほぼ時を同じくして、ウーロフの父親が殺害されて発見される。ウーロフには無実の可能性があり、シェディンは1...
  • 歓喜の島
    歓喜の島 題名: 歓喜の島 原題: Isle of Joy (1997) 作者: Don Winslow 訳者: 後藤由季子 発行: 角川文庫 1999.9.25 初版 価格: \952  クリスマスは過ぎ去ってしまったけれども、クリスマスに読みたい本というのが確かにある。たとえばこの作品。クリスマスを軸にストーリーが展開する話でありながら、クリスマス前後の描写がひたすら美しいこと。それがぼくのクリスマス小説の条件。こういうのを満たすのは、ぼくは今まではエド・マクベインの『ダウンタウン』だったのだけれどこれを機会に、宗旨替えをしようと思ったくらいだ。 (ちなみに装丁にごまかされて村上春樹の『ノルウェイの森』を読んではいけない、あれは暗い小説なのだ)、  でも、『87分署』でバート・クリングがクレアとデートしたシーンのように、街中でウォルター...
  • 神の街の殺人
    神の街の殺人 題名:神の街の殺人 原題:Tabernacle (1983) 作者:Thomas H. Cook 訳者:村松 潔 発行:文春文庫 2002.4.10 初版 価格:\638  トマス・H・クックと言えば、最近ではすっかり<あの記憶シリーズの作家>として定着している観がある。ぼくはこの人の比較的旧い作品も好きなので、三作目にあたる本書はデビュー作『鹿の死んだ夜』に続いての今になって翻訳された作品であり、クック・ファンとしてはそれなりに垂涎ものといったところに位置する作品でもある。  ユタ州ソルトレイクシティと言えば、まず想起するのがモルモン教の街である。死刑囚ゲイリー・ギルモアの恐るべきあのドキュメント『心臓を貫かれて』の街でもある。多くの戒律に縛られた街で生じる連続殺人事件。  主人公であるトム・ジャクソンは、フランク・クレモン...
  • 東京奇譚集
    東京奇譚集 東京奇譚集 題名:東京奇譚集 作者:村上春樹 発行:新潮社 2005.9.18 初版 価格:\1,400  作者自らの不思議体験から、唐突に始まる。人生には不思議な偶然が時折り、訪れる。「偶然」とは、確率論という意味で言えば、非常に希少な発生比率なのに、それでもそれが起こってしまったときにその不思議さにぎょっとして口にする単語ではないだろうか。  怪談・奇談の類ではなく、本書はそうした確率論的偶然を物語のコアに描いた、少々あり得べからざる「偶然」の物語。時には「偶然」は「寓話」の領域にまで間口を広げるのだが、これも作者がメタファーの駆使を糧とする作家・村上春樹なのだから、読者には予め許容範囲というところではないだろうか。  例えば、二十日間の記憶のない失踪。例えば、ファム・ファタールとの出会いへの確証のない確信。例えば何と言うことのない...
  • ポリティコン
    ポリティコン 題名:ポリティコン 上/下 著者:桐野夏生 発行:文藝春秋 2011/2/15 初版 価格:¥1,571  ぼくにとっては不可思議な作家というジャンルでトップ3に入るのが、桐野夏生である。読んでみないと面白いのかつまらないのか、わからない。最初は探偵・村野ミロのシリーズでエンタメ界に登場したものの、徐々にシリーズ外作品での独自性を見せ始める。その切り替えスイッチとなったのは、まぎれもなく『OUT』だったと思う。 かつてのぼくの桐野評。『ぼくがリスペクトしたいと思うクリエイターは、どちらかと言えば、馴れ、という領域を逸脱しようと、常にチャレンジする精神を維持し続けている部類の作家である。』 もう一つ。『通り一遍の評価を受けることで満足することなく、次から次へと異色の作品を出し続け、いい意味で読者の予想を裏切り続ける女流作家として...
  • 隠蔽捜査
    隠蔽捜査 題名:隠蔽捜査 作者:今野 敏 発行:新潮社 2005.09.20 初版 2006/01/30 5刷 価格:\1,600  何故、この作家の追跡をやめてしまっていたのか、自分ではよくわからない。一つには作家の方向性という意味で、今ひとつ焦点が絞り込めなかったせいだろうか。ある作品ではそこそこ楽しめるのに、他のある作品では、自分の求めているものとは少し違ってきているように見えた。  そんなことは、他の多くの作家にも同じことが言えたはずだ。それでもどうしても解決できないなにかが、この作家に対する印象として、滞留してしまった気がする。  それは、今になって思えば、一作の重みということであったと思う。そこそこに面白い作品を世に生み出しながらも、どこかで決定的なインパクトに欠けている。  FADVで最も話題となったのは、『蓬莱』だ...
  • 光あれ
    光あれ 題名:光あれ 作者:馳 星周 発行:文芸春秋 2011.08.30 初版 価格:各\1,400  ますますもともとの馳星周イメージから離れている。  作者名にマスクをしたら、これが誰の作品なのだかわからないだろう。 ハードボイルドでもないし、ノワールでもない。同窓会を起点にした青春回顧小説(つまり中年小説)という無理矢理のジャンル付けをするしかないだろう。鳴海章の『凍夜』という作品に類する。『凍夜』は帯広に戻ってきてクラス会に出て青春のあれこれをつなぎ合わせる物語だ。それに類するが、どちらかといえば、ぼくは鳴海章の『凍夜』や『風花』ほどには、馳の本書は長く心に残らないだろうなとの読後感がある。  馳星周が、なぜ原発のある街をテーマに書いたのか、あるいはなぜ北海道の泊ではなく、敦賀を舞台にしたのか、作家と題材の繋がりの希薄さを感じざるを得...
  • 第三の時効
    第三の時効 題名:第三の時効 作者:横山秀夫 発行:集英社 2003.02.10 初版 価格:\1,700  警察小説で話題の横山秀夫による連作短編集。ぼくは初めて読む作家だがなぜ人気なのかというあたりがよくわかる気がする。警察内部のじくじくとした人間模様を、他の作家のようにしめっぽく追求するわけでもなく、あくまでビジネス・ライクにからりと描いていて、必要以上な暗さ、重さといったものを徹底的に排除しているように見えるのだ。 もしかしたら短編集だからそう感じるのかもしれない。長編はもっとずしりとした手応えがあるのかもしれない。だからと言ってこの短編集が手応えがないというわけではない。ただほとんど、人間臭さを人情劇の方向にはずれ込ませずに、ただただ事件展開やストーリーの面白さのほうに転換して利用しているのだ。そう、人々の性格や刑事たちの妄念のようなもの...
  • ジウ3
    ジウ III 新世界秩序[NWO] ジウ〈3〉新世界秩序 (C・NOVELS) 題名:ジウ III 新世界秩序[NWO] 作者:誉田哲也 発行:中央公論新社 C・NOVELS 2006.8.25 初版 価格:\1,000  通常であれば、これほど破天荒な物語をぼくは敬遠している。松岡圭祐の『千里眼』シリーズは三作くらい読んだ挙句、放り出した。使い捨てのアクション。刹那的なスリル。泡のように消え去る興味。分厚い本の骸だけが後に残り、それはCGを駆使したハリウッド映画鑑賞後の空しさにも似ていた。  この『ジウ』シリーズだって、ともすればその虚構の刹那的快楽の罠に陥りかねない。言ってしまえば巨大な法螺話の域を出ない寓話に過ぎない。どんどん膨らんでゆく陰謀のコミカルぶりを、どう料理し、現代という平和な戦場に大人たちの関心を呼び込んでみせるのか。そのあたりが、こうした...
  • それでも、警官は微笑う
    それでも、警官は微笑う 題名:それでも、警官は微笑う 作者:日明 恩 発行:講談社 2002.6.20 初版 2002.8.7 3刷 価格:\1,900  探偵やハードボイルドの世界で、いわゆるアンチヒーローが席巻し始めたのはいつ頃のことだろうか? アンチヒーローであっても能力が高いというのではなく、もっと本格的に駄目なアンチヒーローのこと。駄目だけれども持てる能力の何倍もをその努力によって補うという種類の。ドン・ウィンズロウがそうだろうか。アンドリュー・ヴァクスの世界もそうだろうか。花村萬月は破滅的だし、馳星周となるともっと破滅的だ。  しかし警察小説となると、アンチヒーローには日本ではそうお目にかからない。アメリカのよれよれの警官(たとえばウォルター・マッソーやバート・ヤングに演じて欲しいような種類の)がいかにも日本にはいそうもないし、...
  • ボーダーライン
    ボーダーライン 題名:ボーダーライン 作者:真保裕一 発行:集英社 1999.9.10 初版 価格:\1,700  ハードボイルドと最も縁のない作家だと思っていた。どちらかというと優しさ方面ばかりが目立つそんな真保裕一が真っ向から挑んだ正統ハードボイルドの雄編。  真保らしさと言えば、舞台をアメリカに持って行った上で銃を所持するための法的条件、そして探偵ライセンスを所持するための論理的展開、このあたりのリアリスムへの周到な準備と言ったところだろうか。日本作家でも有数の準備調査作家である真保の真保たる由縁が作品のこうしたところにある。  作品へのきめ細かなそうした愛情は相変わらずで好感が持てる。何よりも舞台を真保らしからぬアメリカに持ち込んでメキシコ国境地帯のきな臭い土地に、銃をぶっぱなすことに抵抗や違和感を覚える日本人調査員を立たせたという、...
  • 鎮火報
    鎮火報 題名:鎮火報 作者:日明 恩 発行:講談社 2003.1.20 初版 価格:\1,800  今日は日明恩『鎮火報』を読み終えたのだが、日本の小説をひさびさに読んだせいかどうも甘ったるくてべとべととしていて、辛気くさくて、理屈っぽくって、ストーリーがなくって、文体が時代に媚びていて、それでいてハードカバーで値段が高いというのには、実にまいった。図書館から借りてきてよかったとつくづく思った。もっと正直に言えば、借りてこなければよかったとも。  日本の小説は最近は特に概して寿命(賞味期限?)が短いように感じる。目先の興味に走るものが多く、専門性という隘路に入り込んでしまって説明調になってしまうものが多いのだ。だから、一過性の小説といったものが平気で文学賞を取ってゆくような傾向にあって作家の寿命すらあまり長持ちするとは言えない。  海外の半...
  • 白夜の警官 BLACKOUT
    白夜の警官 BLACKOUT 題名:白夜の警官 BLACKOUT 原題:Myrknaetti (2012) 著者:ラグナル・ヨナソン Ragnar Jonasson 訳者:吉田薫訳 発行:小学館文庫 2019.03.11 初版 価格:¥770   読み始めたら止まらないというのも、北欧ミステリの特徴なのかもしれない。本シリーズはアイスランド語から英語に訳されたものを日本語に訳した後、ようやく、ぼくら日本人の手に渡るという経路を辿るが、英訳化した出版社が、何とも頼りないことに、キンドル首位として有名になった作品から英語訳してしまったために、第一作→第五作→第二作と順番を前後させてしまい、シリーズとしての面白さを著しく損ねている。アイスランド語翻訳者が日本では希少なため、英語版からの邦訳となるから、英語圏出版社の通りの順番で書店に出回っているのが現状。作者...
  • 風よ遥かに叫べ
    風よ遥かに叫べ 題名:風熱都市 作者:香納諒一 発行:徳間書店 1994.07.31 初版 価格:\1,800 風熱都市  第一作は粗削りであったが、その中に一筋の輝きを見せた香納諒一。一作毎に腕を上げているのは確かだと思うが、この流れがどう取られるかは読者次第ということか。ぼくは、このように面白く、読みやすさを優先させた作品というのが、エンターテインメント小説の基本だと思っている。そういう意味じゃ高村薫『照柿』はペケなんだ。 高村薫でぼくが好きなのは『マークスの山』『黄金を抱いて翔べ』。うだうだやっちゃう純文学に傾斜したようなのは、ペケなんだ。  だからこういう『風熱都市』のような作品は、まず日本の小説が持つべきなのにこれまであまり持っていなかった<面白さ>というベースを最初に持っているということだけでも、ぼくは高く買う。そういう意味では船戸与一や逢坂剛...
  • 捜査官ガラーノ
    捜査官ガラーノ 題名:捜査官ガラーノ 原題:At Risk (2006) 作者:パトリシア・コーンウェル Patricia Cornwell 訳者:相原真理子 発行:講談社文庫 2007.08.10 初版 価格:\619  パトリシア・コーンウェルの小説にしては薄い本だ、という第一印象。巻末の訳者解説によれば、ニューヨーク・タイムズ・マガジン(という雑誌がタイムズ日曜版別冊として存在するのだそうだ)への3ヶ月ほど短期連載されたそうだ。同じ文芸欄にはマイクル・コナリーや、スコット・トゥローなどの重鎮も名を連ねているとのことで、同じコンパクト・サイズの作品を、これらいずれも長編作家たちが珍しく書いているのだと思えば、どれも読んでみたい、という好奇心が疼く。  さて、どちらかと言えば、サブ・ストーリーとしてのホーム・ドラマやラブ・ロマンスにも力を入れ、...
  • yamori
    守宮薄緑(やもりうすみどり) 作者:花村萬月 発行:新潮社 1998.3.25 初版 価格:\1,400  第3短編集だって、ほんとうなのか? 本をいっぱい出している作家であるのに、短編集は三冊目? 『ヘビイ・ゲージ』と何だっけ。『わたしの鎖骨』か。『ゲルマニウムの夜』『笑う山崎』『渋谷ルシファー』などの連作短編集は別勘定というわけか。思えば300ページ足らずの軽長篇小説(失礼な言い方かもしれないが)がほとんどであったのかもしれない。あの長いトンネルの時代にそのほとんどの軽長篇(やはり失礼か)を書きなぐり続けてきて(これも失礼かもしれないんだが)、ぼくはずいぶんその間我慢してともかくも萬月という作家だけは追いかけてきたんだ。  その頃には萬月も多作を批判されていたのだが、その渦中にある彼は、あとがきの中で多作で質を落としているわけじゃない、と吠えたことがあ...
  • 失踪
    失踪 題名:失踪 原題:Missing New York (2014) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:中山 宥 発行:角川文庫 2015/12/25 初版 価格:\1,320  さて、異例の『報復』と同時発行、しかもUS本国での出版をさておいてドイツと日本で先行発売という作品のこちらは片割れだ。『報復』が、『犬の力』に似た活劇用のリズミカル文体で綴られた戦闘アクション復讐劇という大スケール作品であったのに比して、こちらはハードボイルドの一人称形式によってどちらかと言えば地道に描かれた失踪人捜査のドラマ。  通常の警察小説と異なるのは何よりも主人公だろう。失踪事件が起こったネブラスカ州警察署のフランク・デッカーの異常なまでの責任感と捜査への執念が何よりも、他の類似小説群の追随を許さない。何しろ警察が匙を投げかけたと見るや、警察を辞...
  • 真実の行方
    真実の行方 真実の行方 (福武文庫) 題名:真実の行方 原題:Primal Fear (1993) 作者:William Diehl 訳者:田村義進 発行:福武文庫 1996.9.10 初版 価格:\890  かつてはディールが新作を出すと、周囲ではそれなりに大騒ぎして喜ぶ姿が多々見受けられたのだけれども、かく言うぼくでさえ、こうした作品が一年以上も前に出版された事実すら知らないでいた。デビュー作以来、ディールは角川、というイメージがあったので、このシリーズの福武・徳間というめまぐるしい版権の移行は、日本人読者にとって意表を突かれただろうし、ディールにとってもこのマイナーな版元への移行は不遇だったと思う。  もともとディールという作家は、スパイ・冒険小説方面での大家である。その中で『シャーキーズ・マシーン』『フーリガン』の二作だけはかろうじて警察小説だっ...
  • 新ニッポン百景1
    新ニッポン百景 衣食足りても知り得ぬ[……礼節……]への道標として』 新ニッポン百景―衣食足りても知り得ぬ「…礼節…」への道標として 題名:新ニッポン百景 衣食足りても知り得ぬ[……礼節……]への道標として 作者:矢作俊彦 写真:太田真三 発行:小学館 1995.8.10 初版価格:\1,800  1990年代に『週刊ポスト』を手に取ったことのある人ならば、比較的長期にわたって連載されていたこのコラムには覚えがあるだろう。ひときわ目を引く写真と、都度都度の気になるタイトルによって、それなりに印象的なグラビアページであった。もし矢作ファンであれば、既に抑えておられることだろう。むしろ今さら、旧く、絶版になってしまった本書を手にしているぼくの方が、似非矢作ファンと言われても仕方のないところかもしれない。  10年以上も前に書かれたコラムと写真。どれもが、今では大...
  • stone cold
    影に潜む 影に潜む (ハヤカワ・ノヴェルズ) 題名:影に潜む 原題:Stone Cold (2003) 作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:菊池 光 発行:早川書房 2004.3.31 初版 価格:\1,900  アメリカの犯罪を扱った小説を読むと、銃文化の影響で日本よりもずっと軽く人を撃ち殺す傾向があるなということが、少しばかりリアルさを伴ってわかるようになる。ナイフで殺すことと銃で殺すこととの間には、天と地との差があるようにさえ思える。自分の手を汚すナイフと違い、銃は離れた人間を軽い一握りのグリップで殺傷することができる。  とりわけそのありさまを三人称のクールな文章で描写された日には、射殺者の感情については類推するしか手がないわけで、逆にこうした犯罪者に対する憎悪は複雑な心境に彩られることになる。このあたりを小説...
  • 楽園の眠り
    楽園の眠り 題名:楽園の眠り 作者:馳 星周 発行:徳間書店 2005.09.30 初版 価格:\1,600  元々は書評家・坂東齢人であり、エッセイスト・佐山アキラであり、FADVにあってはバンディーダというハンドルの、オフ&チャット好きのパンク青年であった彼は、『不夜城』のヒット以来、作品そのものの価値よりもずっと、馳星周というノワール作家ブランドの方に、居心地のよさを見出してしまったみたいだ。駄目だなあ、といつも彼を見ていて思った吐息が、今も継続してぼくの口から洩れる。立派かもしれないけれど、それじゃあ駄目だよ……と。  自分で構築した有名作家という名の防壁に囲繞され、出口なしの戦いを強いられて抜け出せないでいるようにも見える。転がる石を山頂に向けて際限なく持ち上げているシーシュポスだ、まるで。  彼がまだ、ぼくの近くにいて、酒を浴...
  • ルパンの消息
    ルパンの消息 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:ルパンの消息 作者:横山秀夫 発行:光文社カッパ・ノべルス 2005.5.25 初版 価格:\876  売れっ子・横山秀夫でいきなりノベルスとは珍しい。と、思ったら、この作品、サントリーミステリー大賞を逃したデビュー前の佳作に手...
  • 検屍官
    検屍官 題名:検屍官 原題:POSTMORTEM 著者:PATRICIA DANIELS CORNWELL 訳者:相原真理子 発行:講談社文庫 92.1,15 初版 1992.8.11 第9刷 価格:\680(\660) 上質のサイコ・スリラー。人気があるのも肯けますが、人間重視のこのフォーラムでは男性諸君にイマイチ受けないのがこの『検屍官』の女性主人公であるようです。検屍官なんておどろおどろしい職業に付いている理科系の頭脳的なヒロインが、職業的な女性の自由や権利を振りかざしながら事件に当たるのだから、まあ世の男たちに可愛げのない女と見られるのも当然の話で、そのこと自体は、ぼくはまあ仕方のないものだと思うし、それを抜きにしたらけっこう事件としては面白い話であったとは思う。犯人はなんだかなという意見もあり、やはりそういう点では「レッド・ドラゴン」みたいな犯人小...
  • 餌食
    餌食 題名:餌食 原題:Certain Pray (1999) 作者:ジョン・サンドフォード Jhon Sandford 訳者:北沢あかね 発行:講談社文庫 2003.2.15 初版 価格:\990  ミネアポリス市警警部ルーカス・ダベンポートのシリーズ最新作。初作である『サディスティック・キラー』が新潮文庫から出版されて話題になったのは1993年の話。シリーズはその後、早川書房に移り、ハードカバーという痛い価格帯でばたばたと続編が出たのだが、これがさほど話題に登らず、ついに文庫書き下ろしに戻した形で『一瞬の死角』が登場。間を置いての復活だったせいか、それを最後に姿を消したと思いきや、シリーズ数作品未訳で飛ばされたまま、講談社文庫がこのような形で再登場したということになる。  このシリーズをそれなりに楽しみに追ってきた身にとっては、前作、前々作あたり...
  • 殺気!
    殺気! 題名:殺気! 作者:雫井脩介 発行:徳間書店 2009.09.30 初版 価格:\1,600  次に何を書くのだろうか? とこちらがいくら考えても、なかなか予想のつかない作家である。予想したとしても外れると言おうか。正直、まだ正体が掴めない、と言っていい。せっかくのミステリ畑での当たり作『犯人に継ぐ』は、映画化されたもののあまりのアホらしさで原形をとどめなくなってしまったし、誰もがこの作家の本当の姿をまだ見極めていないんじゃないか、と思う。  それでいて『クローズドノート』のような繊細さを散りばめた美しい感動作を作ることもできる。まさかこの作家に泣かされるとは、それまでは思いもしなかった。なので、次の作品、次の作品、と予想してゆくのも難しく、まるで軟体動物のように形の定まらない作家。それが雫井脩介だ。  しかしこの作家、安心して読める。文章...
  • 神奈備
    神奈備 題名:神奈備 著者:馳 星周 発行:集英社 2016.06.10 初版 価格:\1,600-  『蒼き山嶺』の原点はこちら。二年前の作品で山岳小説としては粗削りだが、『蒼き山嶺』のように国際冒険小説というのではなく、薄幸な少年の眼を通して神様の宿ると言われる山岳信仰の山・御嶽山のみが救いのように見えたというところに本作品の出発点がある。  彼を取り巻く環境はおとぎ話のように薄幸でたまらないけれども、そういう家庭もあるのだろうなという想像は容易につくから、想像上だけの出来事でもないと思う。  現実に涸沢にボッカしている時中学生くらいの独り旅の男の子に会って、何も装備していない事情などを聴いて説教したことがあるけれど(現実にはぼくではなく女子の先輩が心配してあれこれ問い詰めたのだが)、なぜこんな少年が穂高なんかに来てしまっているんだろうという...
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