wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「イノセントゲリラの祝祭」で検索した結果

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  • イノセントゲリラの祝祭
    イノセントゲリラの祝祭 題名:イノセントゲリラの祝祭 作者:海堂 尊 発行:宝島社 2008.11.21 初版 価格:\1,500  海堂尊の世界も、東城大を越えて、厚生労働省に舞台を移し、いつの間にかスケールの大きな医療小説になってきた。  『極北クレイマー』とは完全に順序を逆にして読んでしまったが、やはり先にこちらで次に『極北』だったろう。こんなに壮大な構想を『チーム・バチスタの栄光』からこっちまで考えていたわけではなかろうが、医療システムに関する独自の世界観を持っている作者が、厚生労働省がアリバイ稼ぎのようにやっているパブリック・コメントなどよりも、小説のほうがよほどパブリックで広大な影響を与えられると決断し、娯楽小説という大海へ漕ぎ出したのだということがよくわかる。  それほど小説の背後に大志を抱えているために、本来の小説の醍醐味以上に主...
  • 海堂 尊
    海堂 尊 東城大シリーズ チーム・バチスタ・シリーズ チ-ム・バチスタの栄光 2006.02 ナイチンゲ-ルの沈黙 2006.10 ジェネラル・ル-ジュの凱旋 2007.04 イノセント・ゲリラの祝祭 2008.11 アリアドネの弾丸 2010.09 ケルベロスの肖像 2012.07 桜宮病院シリーズ 螺鈿迷宮 2006.11 輝天炎上 2013 創始者シリーズ ブラックペアン1988 2007.09 プレイズメス1990 2010.06 スリジエ・センター1991 2012.10 帝華大シリーズ ジ-ン・ワルツ 2008.03 マドンナ・ヴェルデ 2010.03 東城大/帝華大シリーズ外伝 夢見る黄金地球儀 2007.10 医学のたまご 2008.01 ひかりの剣 2008.08 モルフェウスの領域 2010.12 ナニワ・モンスター 2011.04 玉村警部補の災難 2...
  • ひまわりの祝祭
    ひまわりの祝祭 題名:ひまわりの祝祭 作者:藤原伊織 出版:講談社 1997.6.13 価格:本体\1,700  そこそこの作品を書く作者だなとの印象。この作品もそれなりに楽しく読み進めるし、文章もその作者の経験なり年輪なりにこなれて熟成している。プロットに凝っているし、ある意味でのパーフェクトさを持った、商品価値のある一冊であると思う。  でも、最近このレベルの本、このレベルの作者って多いな……と感じる。適度な独自性、適度な面白さ、それでいてのめりこむほどの求心性を持っているわけでもない。商品価値は認めるけれど数年も覚えていられる本とも思えない。そこまでは面白くもないし、共感もない本、本、本……。  そうでない特殊な本に多く親しんだぼくが、この手の本に特別な親和性を感じ取り抱くことができないのは、ぼくのせいばかりではないと思う。時代のニーズ...
  • ハーラン・コーベン Harlan Coben
    ハーラン・コーベン Harlan Coben 長編小説 唇を閉ざせ 2001 佐藤耕士訳 ノー・セカンドチャンス 2003 山本やよい訳 イノセント 2005 山本やよい訳 ステイ・クロース 2012 田口俊樹訳 偽りの銃弾 2016 田口俊樹+大谷瑠璃子訳 ランナウェイ 2019 田口俊樹+大谷瑠璃子訳 マイロン・ボライター シリーズ 沈黙のメッセージ 1995 中津悠訳 偽りの目撃者 1996 中津悠訳 カムバック・ヒーロー 1996 中津悠訳 ロンリー・ファイター 1997 中津悠訳 スーパー・エージェント 1998 中津悠訳 パーフェクト・ゲーム 1999 中津悠訳 ウイニング・ラン 2000 中津悠訳 マイロンシリーズ・スピンオフ:ウィン・シリーズ(?) WIN 2021 田口俊樹訳 森から来た少年シリーズ 森から来た少年 2020 田口俊樹訳 ザ・マッチ 202...
  • コンセント
    コンセント 題名:コンセント 作者:田口ランディ 発行:幻冬舎 2000.6.10 初版 2000.7.25 7刷 価格:\1,600  つくづくわからないのはベストセラー。何故この本が一般大衆に購入されるのだろうか。あるいはこの本を買うのはどういう購買層なのだろうか。多くの人はこの本を読んでどう思うのだろうか。この『コンセント』は発売後一ヶ月半で7刷というほど増刷されている。著者が有名というのでもない。内容がわかりやすいというものでもない。  そう。内容はとても難解なものなのだ。兄の死。暑さの中で飢えて倒れて自主的に自然に死んでゆく死。生きるのをやめてしまっただけという死。敢えて積極的に選んだのではなく結果的に訪れてしまった緩慢な死。妹は、その死の謎をただただ追う。死の謎と言ったって、この本はミステリーではない。兄は確かに一人でゆっくりと生きるのを...
  • 藤原伊織
    藤原伊織 てのひらの闇シリーズ てのひらの闇 1999 名残り火 てのひらの闇 II 2007 長編小説 テロリストのパラソル 1995 ひまわりの祝祭 1997 てのひらの闇 1999 蚊トンボ白髭の冒険 2002 シリウスの道 2005 中・短編作品集 ダックスフントのワープ 1987 雪が降る 1998 ダナエ 2007 遊戯 2007
  • セント・メリーのリボン
    セント・メリーのリボン セント・メリーのリボン 題名:セント・メリーのリボン 作者:稲見一良 発行:新潮社 1993.6.20 初版 価格:\1,400(本体\1,359)  ハードボイルドとは何ぞや? の質問に対して、 必ず入れておきたい答の一つが「頑固なやつらの小説であること」であると思う。この作者は頑固極まりない男だと思う。だからこの作者の小説はどれもこれも頑固者でいっぱいなのである。  『ダック・コール』という本は短編集のくせに山本周五郎賞を受賞した。短編集で受賞というのは珍しいどころか、一つの快挙だと思う。でも『ダック・コール』にしろ、本書『セント・メリーのリボン』にしろ、なぜ彼の短編集が多くの賛辞を集めるのか、一読して理解できる。こんな風に短編で人の心を捕まえる作家というのはあまり多くはないと言えるからだ。  山本周五郎...
  • 雪が降る
    雪が降る 題名:雪が降る 作者:藤原伊織 発行:講談社 1998.6.15 初版 価格:\1,600  ぼくは比較的短編集というのが好きだし、ある意味で追っていこうと決めた作家であれば、その短編集も蔑ろにしたくない。追っていこうという意味においては『テロリストのパラソル』当時は迷いがあったものの、『ひまわりの祝祭』でその実力を認めざるを得なくなった作家が、ぼくの中での藤原伊織。  デビュー作でやたら鼻についた団塊の世代への執着が、他の作品ではそれほど疎ましく思えなくなってきたことがその一つの理由である。もちろん作家の年齢と言うのはその作品に付き纏うかなり大きな要素ではあるものだし、完全に自分の世代や環境を払拭するする必要などは全くない。問題なのはその作家が持つ固有の世代を、他の世代である読者たちの大多数に普遍化できるかどうかなのだと思う。  ...
  • アメリカン・デス・トリップ
    アメリカン・デス・トリップ 題名 アメリカン・デス・トリップ 上/下 原題 The Cold Six Thousand (2001) 著者 ジェイムズ・エルロイ James Ellroy 訳者 田村義進 発行 文藝春秋 2001.9.15 初版 価格 各\2,381  『アメリカン・タブロイド』から6年。USAアンダーワールド三部作の第二作が漸く到着した。待ちに待たれたエルロイ、久々の長編。  JFKという名の祝祭に終わった前作。ダラスの熱い一日。葬られた者。悪と秘密を抱えたまま通り過ぎて行く者たちの夏は一度幕を閉じた。  そして本作。ダラスへ向かう者の登場。若造。父の差し金。クランとマフィアとヴェガスの物語が火を噴き始める。殺人と買収と裏切りの時代が、ぎりぎりと軋み始める。前作以上の密度で。重さで。風圧で。  ジ...
  • 午後の行商人
    午後の行商人 午後の行商人 午後の行商人 (講談社文庫) 題名:午後の行商人 作者:船戸与一 発行:講談社 1997.10.15 初版 価格:\2,100  鮮度が落ちた頃に読んだのだけど、何と、この物語の時期はツパクアマルによるペルーの日本大使館占拠事件の前後。旧い話どころか記憶に新しい事件ではないか。船戸の得意とする南米より少し北にずれた中米はメキシコが舞台。ペルーとは政治的な意味でも陸続きの中米、メキシコ南部のゲリラ地帯は、アウトローや政治分子の暗躍する血と硝煙の土地であったのだ。  船戸の辺境ルポルタージュものと言える『国家と犯罪』に多くのページを裂かれているメキシコの暗部を、物語の形で紡ぎ出したその力量は相変わらずだし、彼の一貫性のある作家的姿勢を見つめ続けてきた読者には、裏切られる事のないひさびさの大作であろう。  タランチュラと言わ...
  • キューバ・リブレ
    キューバ・リブレ 題名:キューバ・リブレ 原題:Cuba Libre (1998) 作者:エルモア・レナード Elmore Leonard 訳者:高見 浩 発行:小学館文庫 2007.11.11 初版 価格:\781  クライム・ノヴェルの名手と言われるエルモア・レナードが初めて挑戦した時代活劇小説が本書。もともと少しレトロ風味がかったレナードの世界に、さらにセピアのフィルターをかけて、時間軸を巻き戻してあげたような、それはそれは味わいのあるビターなドリンクに仕上がっている。もともとクーバリブレというカクテルが、本書のタイトルだ。ぐっと一息に飲み干すがいい。  米西戦争として知られる1898年のエポックを背景に、例によって一筋縄では行かないパーソナリティの数々が、騙し合い、化かし合い、殺し合い……といったレナードならではの本領を発揮し合う。史実に即...
  • ジェンダー・ファッカー
    愚者と愚者 下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ 愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ 題名:愚者と愚者 下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ 作者:打海文三 発行:角川書店 2006.09.30 初版 価格:\1,500 【ネタバレ警報:本書のネタバレではなく、本感想により、やむなく前作『裸者と裸者 下 野蛮な許しがたい異端の』の重要な結末に触れています】  カイトは、死と闘いを纏うことによって兵士の(孤児部隊の)最上階に登り詰めた。上巻がカイトという男の子の物語であるのと対照的に、下巻は常に少女たちの物語だ。九竜シティの少女マフィア団パンプキン・ガールズの首領である椿子の半身・桜子は、前作『裸者と裸者 下 野蛮な許しがたい異端の』 のラストにてテロルの犠牲となった。  本書は遺され生き残った椿子を主役に据えた物語。黒い旅...
  • コンタクト・ゾーン
    コンタクト・ゾーン [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response {...
  • 血路
    血路 (「バトル・ダーク」へ改題) 題名:血路 作者:今野敏 発行:祥伝社ノン・ノヴェル 1995.4.30 初版 価格:\780(本体\757)  今度は都市ゲリラ対策っていうことで、サバイバル、対決などの要素は前作までとそのままに、話はより過激に、大掛かりになってゆき、作者の冒険小説的な懐の深さを感じる。『蓬莱』ではこういうシリーズを書いているっていう雰囲気がなかっただけに、けっこう驚きなのである。  一作目は環境破壊、二作目は自然、三作目では都市における危機管理、とそれぞれに、娯楽性だけでは収まらないなにかしらのテーマを抱えたところ、ぼくは作者の書き甲斐みたいなものを感じてしまう。ぼくが日本の作家に常々求めているものは、そういう意識的な「書きたい衝動」みたいなもので、それがある作家は小説の遊び方もよく知っているという気がする。  だか...
  • 野蛮な飢えた
    愚者と愚者 上 野蛮な飢えた神々の叛乱 愚者と愚者 (上) 野蛮な飢えた神々の叛乱 題名:愚者と愚者 上 野蛮な飢えた神々の叛乱 作者:打海文三 発行:角川書店 2006.09.30 初版 価格:\1,500  男の子である海人(カイト)は、女の子たちのマフィアであるパンプキン・ガールズに比べてずっと素直でストレートだ。邪気はなく、飢え、生きるために必死に闘うことで、育ち、鍛え抜かれ、そうして強かさを獣のように身に着けてゆく。  そうしたカイトの世界を上巻に据え、パンプキン・ガールズのリーダーである椿子・桜子の世界を下巻に据えた構成は、第一部作とも言える『裸者と裸者』以来、全く変わっていない。変わってしまったのは、主人公カイトの世界観である。  首都圏を戦場に変えた内戦は、常陸軍、宇都宮軍、仙台軍による分割統治という危うい体制を作り出した。本書では...
  • 砂のクロニクル
    砂のクロニクル 砂のクロニクル〈上〉 (新潮文庫) 砂のクロニクル〈下〉 (新潮文庫) (↑アマゾンにて購入) 題名:砂のクロニクル 著者:船戸与一 発行:毎日新聞社 1991.11.30 初版 価格:\1,750(本体\1,699)  さて気合の入った一冊を気合を入れて読んできたけど、とても時間がかかった。何せ13ヶ月も週刊誌に連載されたばかりか、その上に400枚の加筆を加えたという作者入魂の作品だ。さっと読むのは惜しまれたし、さっと読めるほど軽い本では到底なかった。しかしぼくにとっては案の定文句なしに1991年のベスト1作品になった。  最初200ページまではそれぞれの章があまりにかけ離れた話で、全体の像を結ぶことができない。これはこの作品の唯一最大の欠点だと思った。のっけから読者を食ったような緊迫した話で始まるのはいつものことだが、序章を終...
  • 河畔に標なく
    河畔に標なく 河畔に標なく 題名:河畔に標なく 作者:船戸与一 発行:集英社 2006.03.30 初版 価格:\1,900  船戸与一といえば、真っ先にアメリカ大陸に材を取る作家との印象が強かった。南米三部作と呼ばれたのは『山猫の夏』『神話の果て』『伝説なき地』だった。どれもが最も脂の乗り切った時期の作品と言えた。  北米を舞台にしたものもたっぷりある。『非合法員』に始まり、『夜のオデッセイア』『炎流れる彼方』『蟹喰い猿フーガ』など、娯楽要素に満ち溢れた傑作が今もなお印象的である。  前述の、脂の乗り切ったという言い方には、実は語弊がある。船戸の類い稀、かつ旺盛な作家活動の履歴を、今振り返ってみても、息抜きはどこにも見られないし、そのいずれの時期にも、旬と言える作品を、ある一定の気圧で世に噴出させてきたことは、きっと誰が見ても間違いないからだ。 ...
  • 蛮族ども
    蛮賊ども 蛮賊ども (角川文庫) 題名:蛮賊ども 著者:船戸与一 発行:角川文庫 1987.12.20 再版 / 徳間文庫 1993.4.15 初刷 (初刊行は1982年) 価格:\460  船戸初期長編。舞台はアフリカ大陸、ローデシアから黒人革命のなったジンバブエ。黒人からの搾取で丸々と肥え太った金満家が、法に国外持ち出しを禁じられた自らの財産を秘密裡に傭兵を使って鉄路で運びだそうという計画。主役は9人の傭兵たち。そしてこの計画が黒人ゲリラ組織に洩れ、一方で金塊掠奪を企むプランが進む。またこれらすべてを阻止しようとする政府情報組織。すべてが列車と共にアフリカの大平原を疾走する物語だ。  文句なしに面白く、ちなみにぼくは百ページほど読んで床に就き、そのまま残り二百数十ページを読破、興奮してとうとう一睡もできず徹夜してしまったという凄玉娯楽大作なのである。相...
  • ニューヨーク地下共和国
    ニューヨーク地下共和国 題名:ニューヨーク地下共和国 上/下 作者:梁 石日 発行:講談社 2006.09.11 初版 価格:各\1,800  あの9・11当日の朝、ニューヨークに居合わせた作家・梁石日が、大仕事をやってくれた。  アメリカの大儀。真っ向からぶつかるイスラム原理主義。世界構図に翻弄される多くの国々の国民たち。そうした世界の現在を、在日作家である梁石日が偶然居合わせたことから、創り上げた大作小説である。  本書には、日本人もも朝鮮人も登場しない。そこに登場すのは、すべてアメリカ人たちだけである。舞台はすべてがニューヨークである。  そう、アメリカにはイスラム圏の人々もれっきとしたアメリカ人として居住している。9・11後に彼らがどのような肉体的・精神的な暴力に晒されたかを、ぼくはあまり知らない。いや、知らなかった。 ...
  • 天空への回廊
    天空への回廊 天空への回廊 (光文社文庫) 天空への回廊 題名:天空への回廊 作者:笹本稜平 発行:光文社 2002.3.5 初版 価格:\2,000  何年か前のぼくであれば、文句なしにこの作品を一位に選んでいただろうなと思う。  何よりスケールが大きい。冷戦時代の宇宙兵器まで巻き込んだテロ絡みの国際謀略小説であり、舞台は世界最高峰という申し分なさ。エベレストの頂上近辺ばかりがほとんどのこの作品の舞台であり、それだけ山岳アクションとして特化した部分が評価されても不思議ではない。  主人公は日本人クライマー。世界の諜報員とゲリラと軍隊に囲まれて孤立無援のダイハードを演じる我らがヒーローは軽く『ホワイトアウト』あたりを凌駕する。何年か前なら、少なくとも『ホワイトアウト』以前であれば、あるいは『神々の山嶺』以前であれば、あるいは『遥かなり神々の座』以...
  • 虹の谷の五月
    虹の谷の五月 虹の谷の五月 虹の谷の五月 上 (集英社文庫) 虹の谷の五月 下 (集英社文庫) 題名 虹の谷の五月 作者 船戸与一 発行 集英社 2000.5.30 初版 価格 \1900  フィリピン/セブ島。フィリピンと日本の混血少年(ジャピーノと呼ばれる)を主人公に、彼の13歳から15歳への成長の三年を、三部形式しかもすべて五月の出来事だけで綴られた物語。文明に取り残されたような村でありながら、現在の世界時間に組み込まれているがために、血と暴力の数々がこんな小村にも呼び込まれてしまう。  リアルタイムの2000年5月で幕を閉じ、出版が5月、というのは読者としてはこのうえない好企画。でもそれが、その完全主義こそが船戸なのかもしれない。  ここのところ日本を舞台にした小説の数作によって、新しい船戸世界の構築に作家自らが苦しんでいるようなとこ...
  • ザ・カルテル
    ザ・カルテル 題名:ザ・カルテル 上/下 原題:The Cartel (2015) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:峯村利哉 発行:角川文庫 2016.4.25 初版 価格:各\1,200-  戦争というのは通常報道されている軍隊やゲリラによる国レベルのものと考えるのが一般的だと思う。しかしここで取り上げられるのは麻薬戦争である。麻薬との戦争に巨額の資金や武器を投じながらも、アメリカが密輸された麻薬に高額の金銭を支払っている事実を見つめ、大統領に麻薬の合法化を陳情までしたドン・ウィンズロウの問題意識は、実際に麻薬カルテルの戦争に巻き込まれて亡くなったジャーナリストたち(4ページに渡る)に本書を献じていることでもわかる。  世の中が狂っている。麻薬カルテルも狂っている。それを追う捜査官も狂っている。ならその全貌をここで見せ...
  • ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
    ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 題名:ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 原題:The Crime of Julian Wells (2012) 作者:トマス・H・クック Thomas H. Cook 訳者:駒月雅子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.2.15 初版 価格:\1,700  トマス・H・クックは、人間の内面に旅する物語が多いせいか、空間よりも時間を縦に穿孔してゆく作品が多い。それも鋭い鋼のメスでではなく、浸透する雨垂れの一滴一滴で、静かにしっとりと穿ってゆく文体で。  なので本書の内容には驚かされた。クックという、心を描くことでファンを掴んできた作家が、このように歴史や国や時代としっかり結びついた長大なスケールの物語を書いたということに対して。初めての試みに巨匠と言われる作家が取り組みを見せたことに対して。  そう言えば...
  • ホワイトアウト
    ホワイトアウト 題名:ホワイトアウト 作者:真保裕一 発行:新潮ミステリー倶楽部 1995.9.20 初版 価格:\1,800 (本体\1,748)  この作家の本を手に取るのは実のところ初めてなのだけど、けなし批評が全くアップされていないのも肯けました。自分は雪山経験が多いのでこの手の、雪を素材にした冒険小説が、新田次郎の山岳小説みたいなノンフィクションではない形でいつか日本に現われないものかと期待していたのだけど、これはその記念すべき作品の一つと言っていいのじゃないだろうか。  以前より某読者と志水辰男の『飢えて狼』の第二章は素晴らしいですねと誉め湛え合っていたのだが、あれがいわゆる冒険行の細部を描く日本小説の金字塔であったと未だに思えている。そしてこの細部を描く冒険行ということでは谷甲州の『遥かなり神々の座』が素晴らしかった。雪や岩や山岳ゲリラ...
  • 容疑者
    容疑者 題名:容疑者 原題:Suspect(2013) 著者:ロバート・クレイス Robert Crais 訳者:高橋恭美子訳 発行:創元推理文庫 2017.12.8 4版 2014.9.19 初版 価格:¥1,260  犬が登場する小説は多分にあれど、犬の心を描く小説というのはそう多くはない。西村寿行や稲見一良、日本のシートンと言われた戸川幸夫の名作『牙王物語』などなど。アメリカ探偵小説では、ロバート・B・パーカーやアンドリュー・ヴァクスのどちらも家から一歩も出ない巨犬がいるが、犬の心は描写されない。  心や感情の描写をしないのがハードボイルド、であるけれど、本書は犬の感覚での喜怒哀楽まで含めた描写が最初から際立っている。犬と日頃ともに生活しているわけではないぼくのような人間でも、愛着を覚えたくなるような、それは優しく、かつ特殊能力を備えた危険な犬で...
  • 炎の回廊 満州国演義IV
    炎の回廊 満州国演義IV 題名:炎の回廊 満州国演義 IV 作者:船戸与一 発行:新潮社 2008.06.20 初版 価格:\2,000  満州国建国後、なお拡大し行く抗日運動。蒋介石を中心とする国民党、彼らに追われての敗走を長征と言い換え民衆の心を捉えてゆく天才・毛沢東指揮する中国共産党、彼らを背後からコントロールしようとするスターリンの赤化活動。入植した朝鮮農民らの非政治的抗日活動。ますます見えざる敵による包囲網に曝さた在満州の特務機関は、さらに過激で汚い策略を、秋枯れてゆく大地に展開する。寒風吹きすさぶ荒野で、敷島四兄弟の日々は、まだまだ国家的運命に翻弄され、風雪の中を転がってゆく。  そうした過酷さを描く視点は、常に四人の兄弟の目線であり、生活の中からのものである。登場する無数の民族たち。殺傷される無数の人間たち。裏切りと策略の大地。すべて...
  • 怒り
    怒り 題名:怒り 上/下 原題:Rage (2014) 著者:ジグムント・ミウォシェフスキ Zygmunt Milpszewski 訳者:田口俊樹 発行:小学館文庫 2017.07.11 初版 価格:各¥770  フランケンシュタイン博士。テリー・サバラス。ピーター・セラーズ。これらの有名人を想像させる人物が次々と登場する。軽口を交えながら、どこに向かうのかわからないシャツキ最後の事件を追う。何せポーランドの彷徨えるスター検察官テオドル・シャツキの三部作の最終編なのだ。好奇心の向かう先は、どのようにシリーズを閉じるつもりなのか? この一点に尽きる。  読者のツボを読み取ってであろう。エキセントリックなシーンで始まる序章はこれから始まる物語のクライマックスであろうかと思われる。  続いてシャツキのその後の変化が、語られる。時代は、前作『一抹...
  • テロリストのパラソル
    テロリストのパラソル [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response ...
  • ハートの刺青
    ハートの刺青 ハートの刺青 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-4) 題名:ハートの刺青 原題:The Con Man (1957) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:高橋泰邦 発行:ハヤカワ文庫HM 1976.7.15 1刷  <87分署>シリーズ第4作。このシリーズは今までのところどれも一定の水準に達しているばかりか、はっきりいって安心してその面白さを堪能できる。そうした確信を持つに至ってしまったのだ、ぼくは。しかしとりわけこの第4作は、面白かった。  主題は詐欺である。この本は、大小の詐欺について語られた一冊である。このなかには、わずか5セントを掠め盗る詐欺から、殺人をも容赦なく絡めた詐欺まで、さまざまな犯罪が盛り込まれている。そして、これらが平行に進行してゆき、複数の事件が複数の捜査員の手によって解決してゆく。  最も凶悪...
  • ガダラの豚
    ガダラの豚 題名:ガダラの豚 作者:中島らも 発行:実業之日本社 1993.3.25 初版 価格:\2,000(本体\1,942)  とっても分厚いハードカバー。この本は、このまま武器として使えるかも知れない。抽象的な意味ではなく具体的にそのくらい重みと硬さのある本である。二冊に分けて欲しいとの声も高いのではないだろうか?  んで中身はというと、本の体裁がそのくらいなわけだから、やっぱり中身もすごいのである。重厚壮大で、前に読んだ『今夜すべてのバーで』からは創造もつかないくらいの冒険小説である。本当にいろいろな要素の混在したジャンル分け不明の国際面白恐怖アクション小説なのだ。  絶対にこの本は話題になるべきであるとも思う。『マークスの山』がなければ、この小説を今年のナンバー1に押したいほど、と言ってしまう。ううむ、絶賛してやるのだ。 ...
  • サイレンズ・イン・ザ・ストリート
    サイレンズ・イン・ザ・ストリート 題名:サイレンズ・イン・ザ・ストリート 原題:The Sirens I The Street (2013) 著者:エイドリアン・マッキンティ Adrian McKinty 訳者:武藤陽生訳 発行:ハヤカワ文庫HM 2018.10.25 初版 価格:¥1,180  北アイルランドはベルファスト北隣の田舎町キャリック・ファーガス署勤務のショーン・ダフィ巡査部長を主人公としたシリーズ第二作。時期を待たず次々と三作まで翻訳が進み、出版社・翻訳者の意気込みを感じさせる、何とも心強いシリーズである。  ショーンは、巡査部長と言いながらその実は私立探偵と変わらぬ孤独なメンタリティの持ち主である。警察内マイノリティであるカトリック、大学卒という二点により、組織人でありながら孤独なヒーローという特性を持たせるという本シリーズならではの...
  • カプグラの悪夢
    カプグラの悪夢 カプグラの悪夢 カプグラの悪夢 (講談社文庫) 題名:カプグラの悪夢 作者:逢坂剛 発行:講談社 1998.5.25 初版 価格:\1,600  逢坂剛の定番といえば、やはり作者等身大の価値観を持った岡坂神策シリーズであろう。その岡坂神策シリーズとしては最新短編集ということで、ひさびさにそのバリエイションを堪能。  逢坂短編はぼくは実は初期の頃からとても好きであり、独特の密度を伴って、ある意味日本的ではない部分大変買っている。だから彼の短編はずっと読んでいきたいと日頃心がけているし、時にはそれはイージィ・リーディングというこちら側の意図を嬉しくも裏切ってくれたりすることだってあるのだ。とりわけ初期短編集はそうした濃いものが多いので、未読の方は講談社文庫、集英社文庫等で取り寄せてお読みになることをお勧めしておきたい。  さて本書も、...
  • 狙撃手ミラの告白
    狙撃手ミラの告白 題名:狙撃手ミラの告白 原題:The Diamond Eye (2022) 著者:ケイト・クイン Kate Quinn 訳者:加藤洋子 発行:ハーパーBOOKS 2012.8.20 初版 価格:¥1,470  現在、現時点で、数少ない正統派冒険小説の担い手のトップ・ランナーは、間違いなくケイト・クインという女性作家である。印象的なヒロインと、緻密な考証に基づいて描かれるスケールの大きな戦争時代の冒険とロマン。かつての冒険小説のほとんどが男性作家であったことを思うと、今、この時代だからこそ、戦争の物語の渦中を駆け抜ける女性たちの存在が際立って見えてくる。  現在の女性であったかもしれない過酷な戦争の時代を生きた女性たちの日々を、この作家はいつも活き活きと力強く描き切ってくれる。そして、ぼくのような男性読者であれ、戦争という最も過酷な状...
  • 甦る帝国
    甦る帝国 題名:甦る帝国 上/下 原題:Spandau Phoenix (1993) 作者:Greg Iles 訳者:中津悠 発行:講談社文庫 1999.8.15 初版 価格:各\1,000  今現在、冒険小説の分野で壮大な叙事詩を書いて最も完璧に仕上げてみせる作家は、このグレッグ・アイルズをおいて他にないと思う。ぼくはこの作家はトマス・ハリス以来の、いわゆる王道をゆく作家であると感じている。同時に天才作家であるとも。  出版順序の逆にぼくは三作を読んでしまったのだが、普通逆行してどんどん面白くなってゆくということは、あまりない。しかもこの作品が彼のデビュー作とは、真に驚愕。西ドイツで少年時代を過ごしたというアイルズだからこそドイツへの造詣が深いのかもしれないが、世界情勢、大戦時の歴史、そういったものをすべて踏まえて、国際関係をもとにしたスパイ小...
  • エリオット・チェイズ Elliott Chaze
    エリオット・チェイズ Elliott Chaze 長編小説 天使は黒い翼をもつ 1953 浜野アキオ訳 キール・セントジェイムズ・シリーズ さらばゴライアス 1983 ミスター・イエスタデイ 1984 ダビデの標的 1985 川上純一訳
  • ケルベロスの肖像
    ケルベロスの肖像 題名:ケルベロスの肖像 著者:海堂 尊 発行:宝島社 2012.07.20 初版 価格:\1,524  最近は、便利なことに海堂尊ワールドに関しては、ネット上で人物関係図や時系列できごと表などを見ることができる。この作家の作品を少し間を置いて読む場合、人物と前後の出来事に関しては失念していることがあるので、けっこう頻繁にこの二つの資料をチェックする作業が欠かせないようになってしまった。やっぱり読書は100%味わうべきものなのである。100%は無理だろうから少しでも完璧に近づける仕事がコストパフォーマンスを挙げる地道な努力というものだろう。  さて、チーム・バチスタ・シリーズだが、主人公は田口・白鳥コンビとしても、やはりこのシリーズは東城大医学部附属病院の主軸となるライン上に物語を展開させたものである。他に、スピンオフ作品やそのまま並行...
  • 稲見一良
    稲見一良 長編作品 ソー・ザップ! 1990 男は旗 1994 短編集 ダブルオー・バック 1989 ダック・コール 1991 セント・メリーのリボン 1993 猟犬探偵 1994 花見川のハック 1994 エッセイ ガン・ロッカーのある書斎 1994 帖の紐 1996
  • 鎮魂のデトロイト
    鎮魂のデトロイト 題名:鎮魂のデトロイト 原題:It All Falls Down (2018) 著者:シーナ・カマル Sheena Kamal 訳者:森嶋マリ訳 発行:ハーパーBOOKS 2019.4.20 初版 価格:¥991  ノラ・ワッツ三部作の第二作。一作目であまりに薄幸ゆえタフでワイルドなサバイバリストに育ってしまった個性豊かなヒロインの登場を描き、生まれてから一度も会ったことのない娘を探す旅に出たヒロインは、謀略を暴き、派手な大団円を迎える。  本作では、父の自殺の謎を追って、父の育った土地デトロイトに向かい、ここでも複雑に入り組んだ人間模様の謎に絡め取られながら、危険に曝される。前作と本作の間で、ノラの周辺環境に大きな変化が起こり、しかもノラはデトロイトで物語を紡いでゆくため、物語は自殺した父、行方をくらました母と二つの人生の秘密を...
  • 猟犬探偵
    猟犬探偵 猟犬探偵 (光文社文庫) 猟犬探偵 (新潮文庫) 猟犬探偵 題名:猟犬探偵 作者:稲見一良 発行:新潮社 1994.5.20 初版 価格:\1,300(本体\1,262)  短編集『セント・メリーのリボン』の表題作の主人公・竜門卓に、本書のような連作短編集の形でふたたび会えるとはよもや思わなかった。どうせなら、前作とともに一作の本にまとめてもらったほうが、よかったような気がしないでもないが、もしかしたら最初は連作にするつもりなど、作者の側にはなかったのかもしれない。  『セント・メリーのリボン』を書いてみて、この主人公の設定に作者は自分の分身としてふさわしいと思われる姿を発見したのかもしれない。  そんな具合に作者と主人公がしっくり合っている。猟犬探し専門の探偵。山小屋に一人暮らし。子供と弱者に滅法弱い。そんなワイルドで心優しい...
  • ルクセンブルクの迷路
    遮断地区 題名:ルクセンブルクの迷路 原題:The Expats (2012) 著者:クリス・パヴォーネ Chris Pavone 訳者:澁谷正子 発行:ハヤカワ文庫NV 2013.02.25 初版 価格:\1,040  どこに向かうかわからない謎めいた書き出し。<本日午前十時五十二分 パリ>。知人女性に街角で呼び止められ動揺する主人公ケイト。そのケイトは、いろいろわけありであるらしいこと。  ストーリーは二年前にフェイドバック。ワシントンDCに暮らす夫婦が、夫の新しい事業のため、ルクセンブルクに移住することになる。ケイトは仕事を辞めねばならない。だが簡単に辞めることができるかどうか不安である。どんな仕事をしてきたのか、どこか意味ありげに語られる。文章の裏側に隠されている真実と、これから読者は無数に対面してゆかねばならない。あまり多いとは言えない登場...
  • 魔女の組曲
    魔女の組曲 題名:魔女の組曲 上/下 原題:M éteins Pasla Lumière (2014) 著者:ベルナール・ミニエ Bernard Minier 訳者:坂田雪子訳 発行:ハーパーBOOKS 2020.01.20 初版 価格:各¥1,000  セルヴァズ警部シリーズ第三作ということだが、前二作が未読でも楽しめる、とのお墨付き作品。並みいるレビュワーらも一押し。そうした傑作の予感に押され、本書を開く。結果、評判は嘘ではなかった。ページを開いた途端、その瞬間から、物語の面白さに、ぼくは捕まってしまった。  期待のセルヴァズ警部は、何と心を病んで療養休職中。彼の元に届けられる荷物も、こわごわと紐解く警部だったが、送られてきたのは高級ホテルのカードキー。その客室は、何と一年前に女性写真家が凄惨な自殺を遂げた現場であった。セルヴァズ警部は、休職...
  • 鉤爪プレイバック
    鉤爪プレイバック 題名:鉤爪プレイバック 原題:Casual Rex (2001) 作者:エリック・ガルシア Eric Garcia 訳者:酒井昭伸 発行:ヴィレッジブックス 2003.01.20 初版 価格:\880  とにかく最初に恐竜探偵というふざけたアイディアを思いついてしまった時点で、この作者は勝ちを呼び込んだ。次に、恐竜探偵という無理をなんとか押し通してしまって作品をちゃんとしたエンターテインメントの形で完成させた時点で、おそらく世界の読者がスタンディング・オベイションに及んだ。少なくともぼくは立ち上がって喝采に加わった。そこまでが凄かったのだと思う。こういう作家が二作目、三作目と書き継いでゆくのは普通ならよほど苦しいことに違いない。  その苦しさが相当に出てしまっているなと思われるのが、二作目の本書。『プレイバック』とは読了後考えて...
  • 闇の楽園
    闇の楽園 題名:闇の楽園 作者:戸梶圭太 発行:新潮社 1999.1.30 初版 価格:\1,800  『弥勒』『屍鬼』と「村」の盛衰を題材にした力作が続いた昨年であったが、この『闇の楽園』はその二作に負けるとも劣らぬ、村の強烈な祝祭の一部始終を描いて、あくまで生き生きと魅力的な作品なのであった。  新人が新潮ミステリー倶楽部賞に応募して見事これを射止めたという作品だけに、荒削りで破天荒で定石を無視したところが、ぼくには負の力ではなく逆に吸引力と映ってならなかった。既存の作家に既に備わってあるものを書く、しっかりした若い力などはぼくはむしろ求めてはいない。過去の蓄積と呼ばれるものを壊し、かつ力強く読者を魅了する作品をこそ、ぼくはやはり求めていたのだなあ、とこの本を読んでつくづくしみじみ感じたくらいだ。  小じんまりとまとまって見た目の良い物語...
  • 田口ランディ
    田口ランディ 長編小説 コンセント 2000 アンテナ 2000 モザイク 2001 7 days in BALI (『オクターブ』2007に改題改稿) 2002  木霊 2003 ひかりのメリーゴーラウンド 2005 短篇集 ミッドナイト・コール 2000 縁切り神社 2001 オカルト 2001 昨晩お会いしましょう 2001 その夜、ぼくは奇跡を祈った 2001 富士山 2004 ドリームタイム 2005 被爆のマリア 2006 ソウルズ 2006 エッセイ スカ-トの中の秘密の生活 1999 もう消費すら快楽じゃない彼女へ 1999 馬鹿な男ほど愛おしい 2000 できればムカつかずに生きたい 2000 からだのひみつ 2000 ぐるぐる日記 2000 根をもつこと、翼をもつこと 2001 こころのひみつ 2002 くねくね日記 2002 ハーモニーの幸せ 2002 田...
  • ナイト・エージェント
    ナイト・エージェント 題名:ナイト・エージェント 原題:The Night Agent (2019) 著者:マシュー・クワーク Matthew Quirk 訳者:堤朝子 発行:ハーパーBOOKS 2020.11.20 初版 価格:¥1,182  冒険小説の時代は終焉したのだと、嫌でも感じさせられる現在のエンタメ小説界で、少数ながら頑張っている作家たちは今も確かにいるのだけれど、かつてのスパイもの、国際謀略ものといった国家レベルの大スケールのものは少なく、巨大犯罪組織とりわけ南米の麻薬ビジネスや、暴力的宗教団体などをテーマにしたスリラーがトレンドになっている気がする。  本書は、そういう意味では昔懐かしい米露間の諜報合戦や、国家的裏切り行為を扱った少し古典的な冒険小説と言える気がする。政府中枢部内での汚職かつスパイ行為に巻き込まれ、知られざる危機に見舞...
  • アリアドネの弾丸
    アリアドネの弾丸 題名:アリアドネの弾丸 作者:海堂 尊 発行:宝島社 2009.09.24 初版 価格:\1,429  海堂尊『アリアドネの弾丸』読了。日曜日にあと50ページを残しながら、なかなか読み終わらないのは、遅い帰宅と真夜中近い晩酌、そして訪れる強烈な睡魔のせいだ。ぶつぎりにページを繰ったためこの作品には気の毒だが、トリックの多い本格ミステリに近い作品であるように思えた。宝島大賞で始まったシリーズだけに、宝島社から出る作品は、海堂尊の中でも主流と呼べるものが多く、田口、白鳥の迷コンビを軸に、エンターテインメント性が強い。  一方で『ジーンワルツ』の帝華大シリーズはどちらかと言えば少し生真面目な作風かな。  今回は久々に原点回帰のミステリ、そしてテーマは、作者がこれを現実化するために作家になったとまで言う死後画像診断。警察のサイドで...
  • アンテナ
    アンテナ 題名:アンテナ 作者:田口ランディ 発行:幻冬舎 2000.10.31 初版 価格:\1,500  抽象を具体的なわかりやすいものに変容させて市井に広げるのが小説の一つの役割だとしたら、この本は一体なんだろう。抽象を具体的な事物で表現しようと言うイメージング小説か?  前作『コンセント』から『アンテナ』へ。まるで人間を家電製品やパソコンのように表現しつつ、あくまで他者との接点の妙にこだわる田口ランディが、このたびは家族的無意識という題材を取りあげて、またも悪夢的官能世界へ誘う。  映画にしたら大変に風変わりで前衛的な映像になるのかな。そう思わせるほど、イメージの鋭さに天才を感じさせる作家。  前作では親しい人の突然の死。本作では親しい人の突然の失踪。身のまわりに降りかかってくる突然の厄介な出来事に、主人公は対処できず...
  • 密告
    密告 題名:密告 作者:真保裕一 発行:講談社 1998.4.6 初版 価格:\1.800  『防壁』に見られる公務もの最前線、と言ったシリーズの中に位置付けていい作品なのかもしれない。警察官でありながら、五輪を目指すスポーツ選手として射撃に生きがいを見いだしていた主人公。早く言えば彼の挫折後日譚という形。  でも、よく見えないのである。警察内部の灰色の部分を作者はテーマにしたかったのか。それとも男女の情念を描くための舞台装置にしたかったのか。読後感は後者だけど、読書中は前者の感覚。こんな風に作品への目線が微妙にずれてしまったのは、この作品だから。これと言ったアクセントが描き切れていないし、どちらにしても中途半端な印象が強いのだ。  男女の情念と言うにはあまりにも薄いし、なんだか清純と言うには女性の側も誰も子供ではない。プロットの運び、驚きの...
  • 侵入者 イントルーダー
    侵入者 イントルーダー 題名:侵入者 -イントルーダー- 原題:The Intruder (1996) 作者:Peter Blauner 訳者:白石朗 発行:扶桑社 1997.7.30 初版 価格:\2,381  ストーカーものと出版社は宣伝したいみたいだけど、どちらかというと転落して行くホームレスとブルックリンから這い上がった弁護士との二つの物語を主軸に展開する立体的なサスペンスと言っていいような気がする。「ストーカー」とかタイトルの「侵入者」という面ばかりを期待すると、実際にはちょいと違う味わいになってしまうだろう。  一つ、まずはこの作者の手による人物造形に興味を持った。類型的で両極端な人物のコントラストで物語を進めていながら、どこか巻半ばくらいから陰と陽が逆転してゆくあたりは面白いと思う。手放しで喜ぶようなシーンがほとんどない一方、現実のハ...
  • シャーロック・ホームズ対伊藤博文
    シャーロック・ホームズ対伊藤博文 題名:シャーロック・ホームズ対伊藤博文 著者:松岡圭祐 発行:講談社文庫 2017.6.15 初版 価格:\679-  シャーロック・ホームズは中学生の頃に全作読んでいるはずなのに、さすがにホームズのことを思い出すことは少ない。しかし、成長期に読んだ本の印象だけは最近読んだ本よりも何故か残る。ホームズを描写するワトソンとホームズの探偵事務所の情景はいつも思い出すことができる。当時、表紙などろくに付いていなかった文庫本を手に取って、子ども小説から卒業して大人の時代に自分は突入するとの自覚をもって開いたのがホームズの短編集だった。  そのホームズのシリーズをまさか松岡圭祐の著書として読むことになろうとは! しかもエキセントリックなタイトル。歴史の中に実在の人物と架空のヒーローを織り交ぜて何位をしようというのか?  ...
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