wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「仕切られた女」で検索した結果

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  • 仕切られた女
    仕切られた女 題名:仕切られた女 ウラジオストク花暦 作者:高城高 発行:藤田印刷エクセレントブックス 2020.2.16 初版 価格:¥2,000  これまで誰も書かなかった世界を描いた川越宗一『熱源』もそうだったが、維新以降の日本における北海道の国際的位置は、個人的にとても興味深い。高城高は北海タイムズ(現北海道新聞)の記者、日本ハードボイルド作家という二つの顔を持った昭和の作家である。北の国のブン屋、そして日本ハードボイルドの嚆矢という二つの顔を持った極めて珍しい書き手の眼差しが、その人生の円熟期になって探っているテーマが実に、面白みに満ちているのである。  仙台と釧路での記者経験を元に、シリーズものを初めとしたハードボイルド短編で、光るものを見せてきたこの作者。生まれは函館だと言う。その函館の開港間もない明治の時期の警察官を描いた『函館水上警...
  • 高城 高
    ...女 2018.03 仕切られた女 2020.02 黒服・黒頭悠介シリーズ 夜明け遠き街よ 2012.08 夜より黒きもの 2015.05 短編集 X橋付近 2006
  • 閉じ込められた女 THE MIST
    閉じ込められた女 THE MIST 題名:閉じ込められた女 THE MIST 原題:Mistur (2017) 作者:ラグナル・ヨナソン Ragnal Jonasson 訳者:吉田薫 発行:小学館文庫 2021.07.11 初版 価格:¥960  終わったところから始まる物語。時間を逆行して発表されてきた女刑事フルダのシリーズ三部作、早くもその完結編である。  これを読んだのは、北海道までをも巻き込んだ猛暑のさなかだったのだが、作品世界は雪に閉じ込められたアイスランドの一軒家である。とりわけ、三人だけの登場人物による恐ろしい駆け引きの第一部は、大雪で閉じ込められ、血も凍る恐い心理小説なのである。まさに猛暑対策にはこの上ない一冊なのだった。  アイスランドという国、その特色を生かした寂しさと孤独と、辺縁の土地を襲う暴風雪。それらが重なるだけでも...
  • 冬を怖れた女
    冬を怖れた女 冬を怖れた女 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション) 題名:冬を怖れた女 原題:IN THE MIDST OF DEATH ,1976 作者:LAWRENCE BLOCK 訳者:田口俊樹 発行:二見文庫 1987.12.25 初版 定価:\410(本体\398)  残念ながらこっちが二作目。前に挙げた二作に較べればストーリーの面白さ(不眠度)はワンランク下かなと思われる。この作品でやっと気づいたのは、スカダーが拳銃を持たないということ。このこと自体彼のトラウマと関連するのだろうが、けっこうコワモテらしい彼の風貌から、拳銃の存在自体を、読者としてあまり意識に昇らせることがなかったのだ。しかし、本作ではアル中はけっこう描かれていると思う。四六時中バーにばかり入って、酒ばかり飲んでいる様子がよく出ている。つられてショットバーを探してバーボンを生で何杯...
  • 嘘に抱かれた女
    嘘に抱かれた女 題名:嘘に抱かれた女 原題:Little Grey Mice (1992) 作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle 訳者:染田屋茂 発行:新潮文庫 1995.11.1 初版 価格:\800  極秘情報に接近できるいわゆるオールドミスでとっても気弱な女性秘書に、彼女の昔の恋人に似ているというだけで選ばれたロシアからのスパイが近づき情報を得ようと努力する。筋立てはこんなものなのだけど、フリーマントルは、ぼくは常々言っているように、その語りの巧さで引っ張ってゆく作家だと思う。こういうシンプルなストーリーがなぜこんなに分厚い本になるんだろうか、というむしろ即物的なミステリアスな心境もぼくの読書的好奇心をいつも満たしてくれている。  その好奇心に見合うだけの内容と作品世界の深み、リアリティ、同時代性など様々な点で優れて...
  • 秘められた貌
    秘められた貌 題名:秘められた貌 原題:High Profile (2007) 作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:山本 博 発行:早川書房 2007.09.15 初版 価格:\1,900  世の中にシリーズを書く人がいて、それを読む、シリーズ読者というものが存在する。シリーズ読者の内容については、ついぞ分析したことがないのだが、誰かがいつかどこかで分析してくれれば、それなりに興味深く感じることができると思う。  シリーズは一作目から順番に読んでいるのか、否か。前作までのストーリーやキャラクターについてしっかりと覚えているのかどうか。もし、覚えていない場合、前作などを読み返すのか、はたまた忘れていてもどうでもいいのか。それとも、シリーズのどこからでもランダムに一作の独立した長編作品として読むということに抵抗を覚えな...
  • 血塗られた一月
    血塗られた一月 題名:血塗られた一月 原題:Bloody January (2017) 著者:アラン・パークス Alan Parks 訳者:吉野弘人 発行:ハヤカワ文庫HM 2023.06.25 初版 価格:¥1,420  訳者で本を選ぶ。ぼくにとっては珍しくないことだ。翻訳家の方は依頼されて訳す仕事もあれば、翻訳者自らが押しの作品を出版社に提案することで自分の仕事を作ることもあるらしい。本書の訳者である吉野弘人氏と言えば、ロバート・ベイリーの胸アツ作品群で知られる方なので、遅まきながら気になった本書を手に取る。  本書はグラスゴーを舞台にしたスコットランド・ミステリー。背カバーには<タータン・ノワール>とあるが、タータンとはタータンチェックのことなのだね、なるほど。舞台も1973年と半世紀前なのである。アイルランドを舞台にしたエイドリアン・マッキン...
  • 追いつめられた天使
    追いつめられた天使 題名:追いつめられた天使 原題:Stalking The Angel (1989) 作者:ロバート・クレイス Robert Crais 訳者:田村義進 発行:新潮文庫 1992.2.25 初版 価格:¥480  翻訳ミステリだけに絞っている読書生活であるにせよ、続々出る新刊に追いかけられる強迫観念は決して消えない。かつて、よまずに積ん読本を老後の楽しみとか言っていたが、今は十分老後みたいなものではないか。なのに積読が増えるのも辛い。新刊を読み逃すのも辛い。老後の楽しみなんて、話が違う。  それでも新刊の合間に古本を読まねば積読本が消化できないのである。えてして積読本は兼ねてより期するところがある作品が多い。いつかは読む。死ぬまでには読む。でもこのままだと、という延々と新刊ラッシュに追いかけられる生活に反省を感じ、時には古本を引っ張...
  • ざわめく傷痕
    ざわめく傷痕 題名:ざわめく傷痕 原題:Kisscut (2002) 著者:カリン・スローター Karin Slaughter 訳者:田辺千幸 発行:パーカーBOOKS 2020.12.20 初版 価格:¥1,360  本書はグラント郡シリーズ『開かれた瞳孔』に続く第二作である。現在の人気シリーズであり今も続くウィル・トレントのシリーズに、三作目から登場しレギュラーとなっている医師サラ・リントンの過去の、それも二十年前ほども前の過去シリーズなのである。このグラント郡シリーズは、第一作『開かれた瞳孔』が先年改めて再登場したということで、過去シリーズも改めて翻訳されるようになった珍しい運命を持つシリーズなのである。  年間、二、三作品の勢いで、過去作と新しい作品が邦訳出版されている海外作家は、あまり思い当たらない。翻訳作品は、売れる見込みがなければ打ち切...
  • ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
    ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 題名:ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 原題:The Crime of Julian Wells (2012) 作者:トマス・H・クック Thomas H. Cook 訳者:駒月雅子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.2.15 初版 価格:\1,700  トマス・H・クックは、人間の内面に旅する物語が多いせいか、空間よりも時間を縦に穿孔してゆく作品が多い。それも鋭い鋼のメスでではなく、浸透する雨垂れの一滴一滴で、静かにしっとりと穿ってゆく文体で。  なので本書の内容には驚かされた。クックという、心を描くことでファンを掴んできた作家が、このように歴史や国や時代としっかり結びついた長大なスケールの物語を書いたということに対して。初めての試みに巨匠と言われる作家が取り組みを見せたことに対して。  そう言えば...
  • 届けられた6枚の写真
    届けられた6枚の写真 題名:届けられた6枚の写真 原題:In The Lake of The Moon (1988) 作者:David L. Lindsey 訳者:山本光伸 発行:新潮文庫 1996.3.1 初版 価格:\720  翻訳の順番がめちゃくちゃなのが本当に残念。『悪魔が目をとじるまで』以外の本書を含む5作がどれも、スチュアート・ヘイドンという特異な刑事のシリーズのものでありながら、そのヘイドンの物語をないがしろにされたこのシリーズのランダムな邦訳ぶりは、熱烈な読者としては本当に残念でならないのだ。  というわけでこの作品は、『拷問と暗殺』に継ぐハズだった。昨年翻訳され衝撃を与えた『狂気の果て』に先んずるはずだった。この辺りシリーズ中でもかなり重要な時期に値するのだが、邦訳はこのような順序となってしまった。  もっともこうした順序...
  • 夜 訪ねてきた女
    夜 訪ねてきた女 夜 訪ねてきた女 (文春文庫) 題名:夜 訪ねてきた女 原題:NIGHT SECRETS (1990) 作者:THOMAS H. COOK 訳者:染田屋茂 発行:文春文庫 1993.7.10 初版 価格:\600(本体\583)  この本も当然前作と繋がっている。ファルークはファルークであり、クレモンズは相変わらず誠意に溢れている。事務所前の階段に陣取る老女に対するクレモンズの態度を見るだけで、ぼくはこの私立探偵が好きになれる。  昼に、正式な依頼で人妻の素行調査を行ない、残った夜の時間を、ジプシー女性殺人事件の捜査に当てる。不眠症で眠れない中年男が二人、ニューヨークの昼と夜をクルージングする物語だ。  この手の構成は『87分署』を想起させ、独特の読書リズムというようなものを生み出してくれるのだが、もちろん手が合わないという人...
  • ラグナル・ヨナソン Ragnar Jonasson
    ラグナル・ヨナソン Ragnar Jonasson ダーク・アイスランド・シリーズ 雪盲 SNOWBLIND 2010 吉田薫訳 白夜の警官 BLACKOUT 2011 吉田薫訳 極夜の警官 NIGHTBLIND 2015 吉田薫訳 フルダ三部作 闇という名の娘 THE DARKNESS 2016 吉田薫訳 喪われた少女 THE ISLAND 2016 吉田薫訳 閉じ込められた女 THE MIST 2017 吉田薫訳
  • 念入りに殺された男
    念入りに殺された男 題名:念入りに殺された男 原題:Son Autre Mort (2019) 著者:エルザ・マルボ Elsa Marpeau 訳者:加藤かおり 発行:ハヤカワ・ミステリ 2020.06.15 初版 価格:¥1,700  書評家筋で評価が良さそうだったので読んでみたが、珍しくぼくの予想は裏切られ、惨憺たる読後感に終わった一冊。  出だしこそ、小説家志望の女性とその家族、そこにお忍びで訪れる有名作家という、文学の香りを散りばめたシチュエーションが素敵であり、本好きの読者は即刻物語の重厚さに引き込まれると思う。  しかし、いざ事件が起こり、その結果をノワール風に展開する段になると、あまりの力技的プロットにその時点からついてゆきにくくなってしまった。文学的な手段を用いてゆくにしても、スタート時ほど表現として入れ込んでくれないのが残念...
  • ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
    czzzzz*ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle チャーリー・マフィン・シリーズ 消されかけた男 1977 稲葉明雄訳 再び消されかけた男 1978 稲葉明雄訳 呼び出された男 1979 稲葉明雄訳 罠にかけられた男 1980 稲葉明雄訳 追いつめられた男 1981 稲葉明雄訳 亡命者はモスクワをめざす 1985 稲葉明雄訳 暗殺者を愛した女 1987 稲葉明雄訳 狙撃 1989 稲葉明雄訳 報復 1993 稲葉明雄訳 流出 1996 稲葉明雄訳 待たれていた男 2000 稲葉明雄訳 城壁に手をかけた男 2001 稲葉明雄訳 片腕をなくした男 2009 戸田裕之訳 顔をなくした男 2012 戸田裕之訳 カウリー&ダニーロフ・シリーズ 猟鬼 1993 松本剛史訳 英雄 1994 松本剛史訳 爆魔 2002 松本剛史訳 プロファイリング・シリーズ 屍泥...
  • 悪い男
    厳寒の街 題名:悪い男 原題:Myrká (2008) 著者:アーナルデュル・インドリダソン Arnaldur Indriðason 訳者:柳沢由実子 発行:東京創元社 2024.01.19 初版 価格:¥2,200  『湿地』以来、いずれも高水準を保っているこのアイスランド・ミステリーは『エーレンデュル捜査官シリーズ』として出版社より紹介されてきたが、本書では当のエーレンデュル主任警部が不在というシチュエーションで女性刑事エリンボルクが初の主演を果たす。時に助け役なのか邪魔する役なのか判断が難しいかたちで三人目の刑事シグルデュル=オーリが登場するが、こちらも友情出演程度の顔出し。本書は、一作を通じてあくまでエリンボルクを主役とした作品なのだ。  序章にして既にトリッキーである。まず女性にデートドラッグを飲ませレイプするという目的を持つ病的な犯罪者が一...
  • 過去を失くした女
    過去を失くした女 過去を失くした女 (文春文庫) 題名:過去を失くした女 原題:FLESH AND BLOOD (1989) 作者:THOMAS H. COOK 訳者:染田屋茂 発行:文春文庫 1991.1.30 初版 価格:\600(本体\583)  『熱い街で死んだ少女』と同年発表。なるほどな、と思わされる。クックの過去への旅路である。それとともに、現状に幻滅し、別れを告げてゆくクレモンズが歯がゆいのだが、人の矛盾さはこうであると思う。都合よくいかない歯がゆさが、クレモンズの生真面目さに繋がっているし、手抜きのできない性格、人と調子を合わせて上辺だけをかすりながら生きて行くことのできないクレモンズの容赦のなさを、ぼくはハードボイルドのストイシズムに連結させて読むことができた。多分多くの読者が嫌悪を持って眺めるクレモンズの方に、ぼくは近いような気がしてしまっ...
  • 我が名は切り裂きジャック
    我が名は切り裂きジャック 題名:我が名は切り裂きジャック 上/下 原題:I, Ripper (2015) 作者:スティーヴン・ハンター Stephen Hunter 訳者:公手成幸 発行:扶桑社ミステリー 2016.5.10 初版 価格:各\900-  あまりにも有名な殺人鬼<切り裂きジャック>について書かれた本をぼくはこれまで読んだことがない。特に読まなかったことの理由はない。ほとんどの作品を読んでいるはずのパトリシア・コーンウェルが『切り裂きジャック』を書いた時にもなぜか食指が動かなかった。  ほとんどの作品を読んでいるこの作家スティーヴン・ハンターの本書にしても買ってすぐに手に取ったわけではない。半年以上経った頃になってようやく、それもどちらかと言えば気が向かぬままに手に取った。  古いロンドンの街を脅かした切り裂きジャックが有名...
  • 変身
    変身 変身 題名:変身 作者:篠田節子 発行:角川書店 1992.9.10 初版 価格:\1,600(本体\1,553) これは音楽小説? ひょっとして悩める女性の誤った人生を描くような何となく女性版『青春の瑳跌』かあ、などとその前半のつまらなさに、不安に駆られていたのだが、そこは篠田節子、裏切られませんでした、結局。  他のパニックものとか恐怖小説群に較べるとちと冗長だけど、振り返ってみると、なんとこういう登場人物たちの癖の多さを描くことによって、プロットを組み立てちゃったわけかあ、と思わせる錯綜の結末。  脇役男性の行く末に関しては少し強引かなあと思ったくらいだけど、とにかくこの人は修羅場を描きたいのだ、修羅場を作るような心を持った女の破滅を描きたいのだなと妙に納得してしまう。そういう説得力のある描写といっていいのだろう。  本当にこんな...
  • 斧(おの)
    斧(おの) 斧 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-19) 斧 (1979年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 斧 (1964年) (世界ミステリシリーズ) 題名:斧(おの) 原題:Ax (1964) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:高橋泰邦 発行:ハヤカワ文庫HM 1979.11.15 1刷  斧での殺人というのはどうもいやだ。生理的にいやだ。日本ではこれが斧ではなく鉈となる。ぼくがまだ小学校の低学年だったころ、同じ学校の隣のクラスの生徒が小学校のグランドで異常者に追い回され鉈で三度後頭部を切られた。軌跡的に命をとりとめたその友人とは、中学に入ってから、おたがい転校先で知り合うという出会いをしたのだった。事件のあったのは、ぼくが転校してすぐのことで、ニュースになったときに両親が騒いでいたから知っていた。まさかそのときに鉈で殴られた子と、あ...
  • 発火点
    発火点 題名:発火点 作者:真保裕一 発行:講談社 2002.7.15 初版 価格:\1,900  何故か真保裕一という作家の作品は、ぼくにとって好悪がはっきりしているところがある。『奪取』や『ホワイトアウト』など、娯楽性を追及した作品はドライに楽しめる部分があるのと、その道具立てや下準備にすごく感心したくなるところがあって、そういう部分でのプロ的な職人芸としての小説作りは大変に好きな部分である。  一方で『奇跡の人』『密告』などのどちらかと言えば深刻で暗く、煮え切らない主人公が腹の中に、ほの熱い塊のようなものを抱えつつ、どろどろと悩む内面形のストーリーとなると、途端に投げ出したくなる。  そもそもスーパーマンではなく小市民的な人間の造形に長けた作家だ。タフな悪党やでかい組織を相手に、いわゆるフツーのどこにでもいそうな人が大活躍したり意地を見...
  • ローマで消えた女たち
    ローマで消えた女たち 題名:ローマで消えた女たち 原題:Il Tribunale Delle Anime (2011) 作者:ドナート・カッリージ Donato Carrisi 訳者:清水由貴子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.6.15 初版 価格:\1,900  無国籍のエンターテインメント大作『六人目の少女』で凄まじいデビューを飾ったイタリア人作家カッリージの長編第二作である。のっけからあれほどのアイディアを詰め込んでしまった彼が、第二作をどのくらいの意欲と自負とで書き始めたのか想像もつかないが、大抵の作家であればあのデビュー作を超える二作目というだけで、恐怖に震えそうだ。  そうした周囲の期待を背負って作り上げねばならなかった本書は、作者がそうした期待にしっかりと応えるこれまた印象的な作品であり、さらに作者があとがきで書いているよ...
  • 行きずりの街
    行きずりの街 行きずりの街 (新潮文庫) 題名:行きずりの街 作者:志水辰夫 発行:新潮ミステリー倶楽部 1990.12.01 初版 価格:¥,1400  今年最後の感想は相変わらずの志水節で締めくくろう。本年の国産冒険小説ではナンバー1を谷甲州『遥かなり神々の座』と争うであろうとの内藤陳会長下馬評付きの本書であったが、まあやはり基本的にはぼくは『遥かなり・・・』のほうが遥かに上を行っている、この『行きずりの街』にあの作品を覆す力はまずなさそう、というのが正直なところなのだ。  まずその最大の原因はストーリーのスケールの問題である。本書で最も物足りなく思われるのは、主人公が捲き込まれる謀略そのもののスケールがまるで小さいことだろう。故に主人公が挑戦する状況はかなり切羽詰まったものであるには違いないのだが、相手が小さいということ。このへんが志水作品のい...
  • 隠れ家の女
    隠れ家の女 題名:隠れ家の女 原題:Safe Houses (2018) 作者:ダン・フェスパーマン Dan Fesperman 訳者:東野さやか 発行:集英社文庫 2020.02.25 初版 価格:¥1,400  660ページ。分厚い作品である。内容も決して軽くはない。それなのに、何故かページが進む作品である。原文、訳文が読みやすいとも考えられるけれど、やはりストーリーテリングが秀逸なのだろう。耳に心地よい物語の如く、読んでいて快適な作品なのである。  王道スパイ小説×謎解きミステリーの合体といったアピールの帯が巻かれているが、その上に加わわった作品の構成とテーマと題材、などのも面白さに推進力を加えた重要な要素なのだろう。  まずは、二つの時代を交互に行き来するという構成の妙。1979年東西冷戦下のベルリンを舞台に描かれた女性情報職員ヘレン...
  • 特捜部Q -カルテ番号64-
    特捜部Q -カルテ番号64- 題名:特捜部Q -カルテ番号64- 原題:Journal 64 (2010) 著者:ユッシ・エーズラ・オールスン Jussi Adler-Olsen 訳者:吉田薫訳 発行:ハヤカワ・ミステリ 2013.05.15 初版 価格:\2,000  シリーズ第4作。情報の少ない海外小説を読む場合、巻末解説はぼくにとって非常に重要なのだが、やはり一つ重要なことが記されていた。本<特捜部Q>のシリーズは、10作を予定しているという。一作一作、極めてダークで印象的な悪党どもとの闘いを余儀なくされている地下室の特捜部だが、気になるサイド・ストーリーの解決の方向性がこれで見えたか、といった嬉しい予感に震撼しそうなニュースだ。  カール・マークはおそらくエド・マクベインの87分署シリーズのキャレラのようにあるときから年をとらなくなる...
  • 闇の中から来た女
    闇の中から来た女 闇の中から来た女 題名:闇の中から来た女 原題:WOMAN IN THE DARK,1933 作者:DASHIELL HAMMETT 訳者:船戸与一 発行:集英社 1991年4月25日 初版 定価:\1,200(本体\1,165)  白状しますが、ぼくはハメットの作品はこれまで読んでいない。ジュニア版で『マルタの鷹』を読んだのは中学生になり立ての頃のことだが、当時はアイリッシュのスリラーやカーやクイーンの推理小説の方が面白く、ハードボイルドは少しも面白く感じなかった。しかし二十歳を越えるとさすがにチャンドラーやスピレインの虜となった。虜となりながら、チャンドラー、スピレインでさえ、十分古臭さを感じているのに、ハメットではさらに古典だからかび臭いんだろうな、という意識が強く、そのまま読む機会を逸してしまっているのだ。  だからこの作品はぼ...
  • 復讐者の帰還
    復讐者の帰還 復讐者の帰還 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション) 題名:復讐者の帰還 原題:COMES THE DARK STRANGERS (1962) 作者:JACK HIGGINS 訳者:槙野香 発行:二見文庫 1991.9.25 初版 価格:\480(本体\466)  去年の秋に出たヒギンズ作品の読み残し。極々初期作品であるが、内容はハードボイルドに近い。ショッキングで意味深な出だしといい、街中が敵に回ったような過酷な状況下での、ハードな聞き込み捜査といい、初期作品にしてはよくやっている。雨は墓地にずっと降り続けてているし、朝鮮戦争で記憶を失っていた帰還兵という孤立無縁の主人公は、なかなかヒギンズのハードな部類の作品に迫っている。  ただ問題は、状況が過酷なせいもあるが、サービスが過ぎて、バイオレンス・シーンや裏切られたり捕獲されたり、銃口を...
  • 報復
    報復 題名:報復 原題:Retribution (2004) 作者:ジリアン・ホフマン Jilliane Hoffman 訳者:吉田利子 発行:ヴィレッジブックス 2004.11.20 初版 価格:\903  『このミス』にアンケート回答を寄せたり、フォーラムの新刊情報を頂いているからだと思うだが、出版社が格別に力を入れた新作などを、ぼくはたまに寄贈いただくことがある。ヴィレッジブックスとして製本前の状態でいただいたのは初めてだから、これが格別な作品なのだろうということは想像が着く。10月中に頂いていたのだが、11月以降の発売作品ということで本年度『このミス』の対象作品としては間に合わなかったことになるが、もし間に合っていれば少々衝撃的な作品になっていたかもしれない。  しかし本書の骨格はサイコ・スリラーである。<史上最凶>を謳い文句にするくらい...
  • 午後の行商人
    午後の行商人 午後の行商人 午後の行商人 (講談社文庫) 題名:午後の行商人 作者:船戸与一 発行:講談社 1997.10.15 初版 価格:\2,100  鮮度が落ちた頃に読んだのだけど、何と、この物語の時期はツパクアマルによるペルーの日本大使館占拠事件の前後。旧い話どころか記憶に新しい事件ではないか。船戸の得意とする南米より少し北にずれた中米はメキシコが舞台。ペルーとは政治的な意味でも陸続きの中米、メキシコ南部のゲリラ地帯は、アウトローや政治分子の暗躍する血と硝煙の土地であったのだ。  船戸の辺境ルポルタージュものと言える『国家と犯罪』に多くのページを裂かれているメキシコの暗部を、物語の形で紡ぎ出したその力量は相変わらずだし、彼の一貫性のある作家的姿勢を見つめ続けてきた読者には、裏切られる事のないひさびさの大作であろう。  タランチュラと言わ...

  • 狗 題名:狗 作者:小川勝己 発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2004.07.31 初版 価格:\1,700  鬼才・小川勝己による第二短編集は、悪女をモチーフにして纏められた。元々がタフな女の物語でスタートを切った作家である。『葬列』で両手にピストルを持ち容赦なくぶっ放す娘を描いて、まず読者を掴んでみせた登場の仕方であった。最近では『まどろむベイビーキッス』で、怖い女を描いて読者を震え上がらせた。だから当然の帰結として、悪女列伝をものにするとなれば作者の独壇場なのだと言える。  女性の怖さというのは、男から見て怖い、という主観によるものと、客観的に異常で怖いというものと二種類いるのではないかと思う。前者に関しては世の男性諸君が日頃ナチュラルに感じたりしているところの女性の怖さ。二面性。タフネスぶり。豹変。嘘を見抜く千里眼。その他。ともかく世の...
  • 僕を殺した女
    僕を殺した女 題名:僕を殺した女 作者:北川歩実 発行:新潮ミステリー倶楽部 1995.6.20 初刷 価格:\1,400  小説にはいろいろな面白さと言うのがあるけれど、やっぱり最初から思い切り人の関心を引っ張ってしまうというのは、エンターテインメントの鉄則と言ってもいいのかもしれない。  朝起きると自分が違うなにものかになっている、と言えばカフカの『変身』、もっと遡ればガリバーの時代からの衝撃のスターティングなのだが、最近では北村薫『スキップ』などはその亜流として記憶に新しいところ。もっとも刊行時期はこちらの方が少しだけ古いか。  この小説では主人公の少年が朝起きてみると美女になっている。しかも五年という時間が経過している。謎を詰めてゆくと自分が他にいることがわかる。単純に言えばこういうとんでもない話である。確かに殺人や謀略はその陰にあ...
  • 戸梶圭太
    戸梶圭太 長編小説 闇の楽園 1999 溺れる魚 1999 レイミ 聖女再臨 2000 ギャングスタードライブ 2000 赤い雨 2000 The twelve forces 2000 なぎらツイスター 2001 湾岸リベンジャー 2001 未確認家族 2001 牛乳アンタッチャブル 2002 アウトリミット 2002 燃えよ!刑務所 2003 ドクター・ハンナ 2003 CHEAP TRIBE―ベイビー、日本の戦後は安かった 2003 あの橋の向こうに 2003 天才パイレーツ 2004 自殺自由法 2004 クールトラッシュ―裏切られた男 2004 ビーストシェイク―畜生どもの夜 2005 グルーヴ17(セヴンティーン)  2005 嘘は止まらない 2005 東京ライオット 2005 ちぇりあい 2006 宇宙で一番優しい惑星 2006 もっとも虚しい仕事―ブラッディースクランブル...
  • 危険なやつら
    危険なやつら 危険なやつら (扶桑社ミステリー) 題名:危険なやつら 原題:The Shark-infested Custard (1993) 作者:Charls Willeford 訳者:浜野アキオ 発行:扶桑社ミステリ 1996.02.29 初版 価格:\600  あんまり巡ってこない2月29日という日にわざわざ発行日を持っていったのは、日常とか常識とか言ったレールから敢えてはみ出してゆくようなズレた感覚を持った本書のような作品にまつわる洒落の一種なのだろうか? そう、うがちたくもなるほどにオフビートという言葉が似つかわしい一冊。ある種デカダンで刹那的な男たちの奇妙な物語だ。  タランティーノが自分の映画はウィルフォード似だと豪語するように、確かにこの小説の感覚はメインストーリーからの脱線感覚が全編を貫いている。その倦怠に彩られた全体像を、時折り何...
  • 光る牙
    光る牙 題名:光る牙 作者:吉村龍一 発行:講談社 2013.3.6 初版 価格:\1,500  デビュー作『焔火』のある意味でセンセーショナルと言うばかりの舞台設定、時代設定を試み、東北の山岳地帯に神話的世界を構築してみせた、吉村龍一の第二弾。いい意味で裏切られた感じはするが、現代社会を舞台にした山岳小説である。  もちろんこの作家特有の異色さは全面に出ているけれども、むしろ巨大羆との死闘というシンプルな物語こそが、透徹した文体を武器に持つ吉村龍一という作家にはとてもフィットした感があって、前作ほど異形の者たちが多数出現することもなく、よってデビュー作の空気中に漂っていた毒気の類は、むしろ凛とするばかりの冬山の自然の透明さの中で、濾過され浄化され、神の領域に一歩近づいた気配さえ醸し出される。  一方でとても人間の領域に近づいた部分もある。主人...
  • 地下道の少女
    地下道の少女 題名:地下道の少女 原題:Frlickan Under Gaten (2007) 著者:アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ Anders Roslund Börge HellstStröm 訳者:ヘレンハルメ美穂 発行:ハヤカワ文庫HM 2019.2.25 初版 価格:¥1,160  現実に即して書こうと意図した作品には、すっきりした終わりはない。小説題材となる現実を、普遍的な形として世界の記憶に留めようと意図する作家は、読者が求める単純化に応えることは容易にはできない。何故なら現実が抱える問題は、今もなお解決を見ることなく、ずっとそこにあり続けるものであるからだ。だからこそ、この種の作品はどこかで必要とされ、そして誰かに読まれる時を待つ。  これは子供たちの物語だ。家族に捨てられたり、家族から逃げ出したり。ストリート...
  • 王とサーカス
    満願 題名:王とサーカス 作者:米澤穂信 発行:東京創元社 2015.7.31 初版 価格:\1,700  本作は、ぼくにとっては、篠田節子『インドクリスタル』に続く、日本作家による今年のアジアン・エンターテインメント第二弾。アジアンの小説という点で言えば、まず読み手が書き手のようにはその舞台となる国を理解していないこと。なので、まず何が起こっても、それが起こり得そうなものなのか作家の独壇場でしかないのか、検証しようがなく、正直よくわからない舞台設定ということになってしまう。  なので、リアリズムを追及する作家はその国の現状を、しっかりとキャラクターに見聞させ、感じさせ、語らせようとする。その国家背景については、メインストーリーの面白さとは別に、プラスしてそれなりに興味深く読み手に訴えてゆかねば娯楽小説として成立しない。読み手はその国に何の興味もない...
  • キャロル・オコンネル
    キャロル・オコンネル Carol O Connell キャッシー・マロリー・シリーズ 氷の天使(『マロリーの信託』改題) 務台夏子訳 1994 アマンダの影(『二つの影』改題) 務台夏子訳 1995 死のオブジェ 務台夏子訳 1996 天使の帰郷 務台夏子訳 1997 魔術師の夜 務台夏子訳 1999 吊るされた女 務台夏子訳 2002 陪審員に死を 務台夏子訳 2003 ウィンター家の少女 務台夏子訳 2004 ルート66 務台夏子訳 2007 生贄の木 務台夏子訳 2011 ゴーストライター 務台夏子訳 2013 修道女の薔薇 務台夏子訳 2016 ノン・シリーズ長編 クリスマスに少女は還る 1998 愛おしい骨 2008
  • 死者との誓い
    死者との誓い 題名:死者との誓い 原題:THE DEVIL KNOWS YOU RE DEAD (1993) 作者:LAWRENCE BLOCK 訳者:田口俊樹 発行:二見書房 1995.1.25 初版 価格:\1,900(本体\1,845)  PWA賞受賞作品なのでそれなりに期待して読んだわりには、期待を裏切られた感のある作品かなあ、と思う。地味なストーリーにスカダーの近況報告みたいなものが重なって相乗効果の悩める日々……といったものが描かれてゆくのだけど、賞を取るような作品でもないと思う。初期の『過去からの弔鐘』『冬を怖れる女』あたりへ戻ったかなあ、という程度のロー・トーンな空気であるように思える。  この本でシリーズとしての一種のエポックとなっているのは、いっときスカダーのいい伴侶と思えたあのジャン・キーンをめぐるサブ・ストーリー。ぼく自身...
  • 降臨の群れ
    降臨の群れ 降臨の群れ 題名:降臨の群れ 作者:船戸与一 発行:集英社 2004.6.30 初版 価格:\1,900  船戸与一にいよいよ飽きが来たのかな、と自問するのは、最近彼の新作が出ると、全作完読する読者であるぼくとしては、とりあえず購入までは躊躇わないのだが、すぐに読もうという気が起こらないからなのだ。  ある意味で、彼の作品は舞台装置が変わっても、その作品がある程度想像しやすいということが、そのひとつの理由にもなっていると思う。紛争のある国際舞台のどこかで、宗教や民族の長く血塗られた歴史の果てに、現代もなお、欲望と憎悪と復讐にうずく一群のキャラクターたちが、血と硝煙の宴を繰り広げるというものである。  その予測は大抵の場合、裏切られることがなく、またどれも水準以上の面白さを保っているのだから、ある意味でとても信頼に値するのが船戸ブランドな...
  • 苦い娘/ピリオド
    苦い娘(『ピリオド』改題) 原題:ピリオド 作者:打海文三 発行:幻冬舎 1997.10.9 初版 価格:\1,500  打海文三の探偵たちというのは、言わばあの有名な『必殺』シリーズの仕置人たちみたいなイメージがある。最初から普通の民間人とは言えない部分があって、生きる世界は裏稼業に精通していて、命のやりとりを日常的に行うのが当たり前。この稼業のルールは「裏切られた方が悪い」のであって、「殺された方が悪い」のだそうである。 はなっからそのような異質な世界を描こうという姿勢をこの作家は貫いているのであって、決して万人に共通する日常的な共感をテーマなどにはしていない。だからこそ海外小説のジャンルに近い、われわれ日常人との距離感が読書的つかみどころとなっている、この人は日本では希有な作家なのである。  いわゆる小市民文化にあまねくおもねってゆく傾向の強...
  • 砕かれた街
    砕かれた街 題名:砕かれた街 上・下 原題:Small Town (2003) 作者:ローレンス・ブロック Lawrence Block 訳者:田口俊樹 発行:二見文庫 2004.08.25 初版 価格:各\790  9・11ニューヨーク同時多発テロを経験したニューヨークという街に捧げられた作家のオマージュとも言うべき長編ミステリー作品である。『砕かれた街』に副題をつけるとしたら『砕かれた心』だろうか。  同時多発テロで失われた命もあれば、残された命もある。昨夜のニュース番組でも流れた9・11の爪あとは、今朝の朝刊でも、ずっと一生ここに来るだろうという残された家族たちの言葉で締め括られる。  この作品は、ミステリーという形で世界に発信されたものである。当然ミステリーの骨子を備えながら、同時にニューヨークを物語るために多弁であり、多くの...
  • 燃える波涛 第六部 烈日の朝
    燃える波涛 第六部 烈日の朝 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:燃える波涛 第六部 烈日の朝 作者:森詠 発行:徳間書店 1990年9月 初版 価格:¥1200(本体¥1165)  森詠入魂のポリティカル・アクション巨編第六弾。タイトルに第六部とあるが、実際に内容を整理してみる...
  • 冷戦交換ゲーム
    冷戦交換ゲーム 冷戦交換ゲーム (Hayakawa pocket mystery books (1044)) 冷戦交換ゲーム (1968年) (世界ミステリシリーズ) 題名:冷戦交換ゲーム 原題:THE COLD WAR SWAP 作者:ROSS THOMAS 訳者:丸本聰明 発行:ハヤカワ・ポケット・ミステリー 1985.12.15 再版 価格:\742(本体\720)  1966年、ロス・トーマス、デビュー作にして、アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞作品。一体どこが新人なのだと唸らされるプロット。作品全体に流れるいつもながらのたまらなくクールな男臭さ。裏切りと陰謀に満ちた東西緊張のベルリンを舞台にした亡命サスペンスである。  二人のNSA数学者が実際にモスクワに亡命したドキュメントメンタルな事件をもとに練られたプロットだのだが、本作では諜報に...
  • 壊れた世界の者たちよ
    壊れた世界の者たちよ 題名:壊れた世界の者たちよ 原題:Broken (2020) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:田口俊樹 発行:ハーパーBOOKS 2020.07.20 初版 価格:¥1,291  分厚い熱気の塊のような長編小説を書き続ける日々の合間に、作家の中から零れ落ちそうになった別の物語たちを、この機会にきちんとした形で作品化させ、出版させるということになり、本書は登場したという。どこかで零れ落ちそうになっていたこれらの物語を今、6つの中編小説というかたちで読める幸せをぼくは感じる。  それとともに本書はウィンズロウのこれまでの作品の総括であり集大成ででもあるように見受けられる。かつてのシリーズや単発作品の懐かしくも印象深い人物たちがそこかしこで、しかも今の年齢なりに成長したり歳を重ねたりして登場してくれるからだ。読者...
  • 藪枯らし純次
    藪枯らし純次 藪枯らし純次 題名:藪枯らし純次 作者:船戸与一 発行:徳間書店 2008.01.31 初版 価格:\2,100  船戸の小説は現実に材を取ったものが多い。しかも現代のリアルタイムな紛争地帯に赴き、取材や調査を綿密に行うことで、その地帯の真実を小説という形で熱く謳い上げる。彼の作品をすべて、叙事詩、と呼びたくなる由縁である。  しかし、彼は、時折り、そうした時代の代筆者という立場から離れて、黒澤映画のような娯楽色の強い純エンターテインメントを創出することがある。『夜のオデッセイア』『山猫の夏』『碧の底の底』『炎流れる彼方』、いずれも常なる歴史観や辺境ルポルタージュといった主題から離れた純然たる娯楽小説であった。  舞台設定こそ異郷に求めてはいるが、その物語は、人間たちの欲望や狂気がもたらす謀略と破滅の物語であり、血と冒険を求め...
  • 夜また夜の深い夜
    夜また夜の深い夜 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:夜また夜の深い夜 作者:桐野夏生 発行:幻冬舎 2014.10.10 初版 価格:\1,500  桐野夏生は日本でも珍しい暗黒小説の書き手である。ジャポン・ノワールとでも言おうか。『OUT』を皮切りに女性を主人公にしたノワ...
  • 喪われた少女
    喪われた少女 THE ISLAND 題名:喪われた少女 THE ISLAND 原題:Drungi (2016) 作者:ラグナル・ヨナソン Ragnal Jonasson 訳者:吉田薫 発行:小学館文庫 2020.08.10 初版 価格:¥800  どんどんダーク化が進んでいるラグナル・ヨナソン。その中でもあまりにダークすぎるスタートを切った女性警部フルダ・シリーズ第二作。第一作で読者側の概念をまず思い切りひっくり返すところから始めたヨナソンという作家は、本書でもフルダというダーク・キャラな中年女性警部をヒロインとして、彼女の出生の秘密に迫りながら、複雑に絡み合った人間関係のもたらす二つの事件を描く。  一方で孤立した別荘での殺人事件、さらにフルダが十年後に偶然担当することになった孤島での女性の謎めいた死のあまりに強い関連性に読者は、あっという間に引き...
  • ワルツ
    ワルツ 題名:ワルツ 上・中・下 作者:花村萬月 発行:角川書店 上 2008.09.30 中 2008.10.20 下 2008.11.10 初版 価格:上 \1,700 中 \1,800 下 \1,800  戦後昭和史。いや、戦後昭和暗黒史なのだろうか。花村ノワール満開の、任侠エンターテインメント小説である。  萬月ワールドのテーマである性と暴力を描くには、任侠、極道といった材料はぴったりである。花村萬月の描く人間は、徹底して社会からはぐれた者たちである。疎外され、社会から放り出されたものたち、孤独のやり場に困り果てた者たちである。  義務教育すら十分に受けられなかった作家だからこそ描くことのできる反社会的人間たちの世界であり、ある意味、究極のリアリティである。  在日朝鮮人作家である梁石日は、在日であるゆえに社会から疎外を...
  • 小池真理子
    小池真理子 長篇小説 彼女が愛した男 1986 蠍のいる森 1987 仮面のマドンナ 1987 彼方の悪魔 1987 墓地を見おろす家 1988 プワゾンの匂う女 1988 間違われた女 1988 殺意の爪―比呂子に何が起きたか? 1989 死者はまどろむ 1989 闇のカルテット 1989 無伴奏 1990 柩の中の猫 1990 唐沢家の四本の百合 1991 懐かしい骨 1992 夜ごとの闇の奥底で 1993 ナルキッソスの鏡 1993 死に向かうアダージョ 1994 懐かしい骨 1994 恋 1995 欲望 1997 美神(ミューズ) 1997 水の翼 1998 ひるの幻よるの夢 1999 冬の伽藍 1999 INNOCENT 1999 ノスタルジア 2000 月狂ひ 2000 蔵の中 2000 薔薇いろのメランコリヤ 2001 狂王の庭 2002 虚無のオペラ 2003 浪漫的恋...
  • 民宿雪国
    民宿雪国 題名:民宿雪国 作者:樋口毅宏 発行:祥伝社 2010.12.10 初版 価格:\1,400  装丁、というか、本にかけられた横帯だけで購入意欲が沸いてしまう本というのはあるのではないだろうか。永いことネットで本を買う癖が付いてしまっていたぼくは、ここ数年以来、そういう見逃しがいやで、無情報のまま書店に足を運び入れ、現地にて本を調達するという買い方にきっぱり切り替えた。  あまり冒険を犯して新人を発掘しようとしない自分ではあるけれど、さすがに本書の横帯のアジテーションには惹かれるものがあった。ぼくの気持ちをぐいぐい牽引してしまったそのアジテーションの内容とは、 梁 石日氏絶賛の問題作! 「なみなみならぬ筆力に感服した。人間の底知れぬ業を描き切る」かつてない、刺激的にして衝撃的な読書体験 『さらば雑司ヶ谷』で話題沸騰の著者が昭和史の裏面...
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