wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「散る花もあり」で検索した結果

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  • 散る花もあり
    散る花もあり 散る花もあり (講談社文庫) 題名:散る花もあり 作者:志水辰夫 発行:講談社文庫 1987.6.15 初刷 価格:\400(本体\388)  競馬シリーズの合間を縫いながらも、C君の志水辰夫評に感化され、読み残していたこの作品を手に取ってみたのだ。読み残していたのはこの本がなかなか手に入らなかったからで、実は最近入手したばかりである。『行きずりの街』があれだけ話題になった中で、見直されるべき志水初期作品を再版する気もないのなら、さっさと版権手放してしまえばいいのだよなあ>講談社(;_;)  それにしても、本書の解説は関口苑生氏の手になっていて、去年の夏ぼくらFADV有志が海水浴付き大宴会に繰り出した和歌山の屋敷のことや、そこで出会った志水辰夫氏の思い出等が書かれていて、なんか身近なんですね、この本(^^;)  さて今回はひさび...
  • 志水辰夫
    ...ちが上海 1984 散る花もあり 1984 尋ねて雪か 1984 背いて故郷 1985 狼でもなく 1986 オンリィ・イエスタデイ 1987 こっちは渤海 1988 深夜ふたたび 1989 帰りなん、いざ 1990 行きずりの街 1990 花ならアザミ 1991 夜の分水嶺 1991 滅びし者へ 1992 冬の巡礼 1994 あした蜻蛉の旅 1996 情事 1997 暗夜 2000 ラスト ドリーム 2004 約束の地 2004 負けくらべ 2023 時代小説 青に候 2007 みのたけの春 2008.11 つばくろ越え 2009 引かれ者でござい 蓬莱屋帳外控 2010.8 夜去り川 2011 待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控 2011 疾れ、新蔵 2016 新蔵唐行き(とうゆき)2019 短編集 カサブランカ物語 1989 いまひとたびの 1994 虹物語 1995 きみ去り...
  • いまひとたびの
    ...りは列車での別れ。『散る花もあり』『尋ねて雪か』で見せた、一流の別れのシーンが、ここにあった。当然、泣けます。 (1995.01.11)
  • 滅びし者へ
    ...  それと以前『散る花もあり』で気になった会話の臭みが、 今回の場合かなり減っている。 主人公が若いせいもあってか、とてもリアルな会話が多い。 教団の年寄り連中の荒唐無稽で大時代な口調との対比が、むしろ意識的な配置を思わせてなかなかのものがあった。 個人的にはこの種の半荒唐無稽的作品は好きじゃないんだけど、 この手の娯楽物語にももっと手を染めて欲しいような気がするのは何故であろうか?(^^;)  ちなみに主人公が奥多摩側に下った沢をおそらくぼくは沢登りで歩いたことがあります。 日本の自然と地形をとことん調べ、利用しようとする志水アクションの姿勢も、ぼくはとても買っている。 (1992.09.23)
  • 負犬道(まけんどう)
    ...辰夫『尋ねて雪か』『散る花もあり』など、ぼくの好きな作風に似ていること。またそれら名作に比肩し得る作品であるということ。また基礎となる文体がさすがにしっかりしていること。そして何よりもぼくの愛してやまなかった一連の東映映画作りにおいて、その一角を担ってきた人がこの本の作者であること。松田優作、村川透との三角関係において、常に、荒々しくも、詩情溢れるB級映画を生み出してくれた、かの丸山昇一であること。  そのシナリオにも独創性がある。あの鳴海昇平の遊戯シリーズ中でも丸山昇一脚本の『処刑遊戯』だけが異彩を放っていたりするのだが、何といっても『野獣死すべし』や『探偵物語』での、松田優作の側の積極的な着想とのコンビネーションであったろう。これを村川透いうブルーな演出で映像化したものが、いつも斬新でエネルギッシュで、しかし低予算で、ぼくの心を捉えていたのだ。ぼくは真夜中の映画館でラムや...
  • 冬に散る華 函館水上警察
    冬に散る華 函館水上警察 題名:冬に散る華 函館水上警察 作者:高城高 発行:創元推理文庫 2013.04.26 初版 価格:\740  『ウラジオストクから来た女 函館水上警察』文庫化に当たって、書き下ろし短編『嵐と霧のラッコ島』を付け加えた一冊である。オリジナル単行本に、微妙なかたちでおまけをつけて、読者の散財を促すのが商法であるならば、これには賛成できかねるが、こと高城高の短編一つが加わるのであれば、ぼくにとってはそこには市場価格では測れない価値があるとしか言いようがないので、出版社の目論見通りになるのは悔しいのだけれど、この作家の短編一つに740円、別に決して、惜しくはないのである。  さて本書全般の詳細は『ウラジオストクから来た女』のレビューをご参照願うとして、ここで付け加えられた短編『嵐と霧のラッコ島』についてであるが、これは函館という...
  • godbrase
    ゴッド・ブレイス物語 作者:花村萬月 発行:集英社 1990.2.25 初版 価格:\1,000(本体\971)  第二回小説すばる新人賞受賞作ということで長編というには足りない表題作に、書下ろし作品『タチカワベース・ドラッグスター』を付け加えての一冊。いわゆる花村萬月のデビュー作ということなんだろうか? このところ手に入った花村作品を次々に読んでいるので、花村萬月作品を連続して紹介したいと思っている。ただし冒険小説とかハードボイルドとひとことで言い切れるのは『なで肩の狐』(紹介済み)と『眠り猫』だけで、あとはどちらかというと青春小説というようなジャンルに当たるのかもしれない。でも、どの本もぼくのような世代にとっては、ジャンルの隔壁を作りたくなくなるような、ある熱い匂いに充ち充ちている。  『ゴッド・ブレイス物語』  花村作品にある種共通のテーマともなっ...
  • ありふれた祈り
    ありふれた祈り 題名:ありふれた祈り 原題:Ordinary Grace (2013) 作者:ウィリアム・ケント・クルーガー William Kent Krueger 訳者:宇佐川晶子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.12.15 初版 価格:\1,800  アメリカには少年の冒険小説がよく似合う。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンに始まった少年が冒険する物語は、少年向けの小説であったとして、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』やロバート・マッキャモンの『少年時代』などなぜかホラー作家の正統派少年小説として、かつて少年であった大人たちに読まれ、評価された名作として知られている。  時を経て、リーガル・サスペンスの巨匠、兼売れっ子作家であるジョン・グリシャムですら、『ペインテッド・ハウス』というジャンル外の傑作をものにしている...
  • 後催眠
    後催眠 題名 後催眠 著者 松岡圭祐 発行 小学館 2000.10.20 初版 価格 \1,400  催眠シリーズ前夜の物語。というより催眠の主人公たちはちょい役で、他のヒーロー&ヒロインの物語を中心に据えているから、催眠の番外編と言い切っていいと思う。  いや、むしろエピソード1とでも言ったところだろうか? 催眠の持つ毒性のようなものを削って、あくまで美しい物語性に重心を置いて、ある意味松岡圭祐の作家的資質の面目躍如とも言うべき佳品である。  内容としては恋愛小説でもあり、一方ファンタジィでもありと、とにかくこの作者には珍しく叙情的な物語が、催眠という道具立ての上を走ってゆく不思議。  次に何を書くのかわからないところ、何を書いてもそれなりに面白く読者を惹きつけるところが、この作者の技量を物語っているような気がする。...
  • 完全なる首長竜の日
    完全なる首長竜の日 題名:完全なる首長竜の日 作者:乾 緑郎 発行:宝島社文庫 2013.05.03 8刷 2012.01.27 初刷 2011.01初版 価格:\562  2009年に『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したと聞いて、え? と思った。先にこの本を読んでいる妻に、確認する。----この本って、ミステリなのか? ----ミステリ? えーと何をもってミステリって言うの? ----えーと犯罪の有無かな。すくなくともアメリカのミステリを毎年選んでいる超有名なアンソロジストであるオットー・ペンズラーはそう言っている。  正確にはこうだ。「犯罪か犯罪の脅威がテーマかプロットの核をなす作品」。その唯一の条件さえクリアしていれば、どんなに広義の解釈であろうと構わない。仮に時代物だってSFだっていいんだろうな、多分。それなのに、妻はこう答えた。--...
  • 焔火
    焔火 題名:焔火(ほむらび) 作者:吉村龍一 発行:講談社 2012.1.5 初版 価格:\1,500  本作は第6回小説現代長編新人賞受賞作であり、選考委員である花村萬月・角田光代という両作家のコメントが本の帯に印刷して巻かれている。さらに帯の正面に太文字で描かれたセンセーショナルな言葉『生きることは殺すこと』。  そもそもが書店で手にとったのは、新作の『光る牙』。日高を舞台に羆との対決を描いた山岳小説とのお触れだったので興味を引かれのだっがが、自衛隊出身の肉体派作家を売り物にしたこの新人作家がそもそもどうやって出てきたのかというところで、このデビュー作からしっかり読んでみようと思ったのだ。  というわけで本書を紐解くと、「生きることは殺すこと」と能書きを与えるほどには、強烈なバイオレンスに彩られた作家ではなかったので、安心した。むしろ昭和初...
  • 涼子点景1964
    涼子点景1964 題名:涼子点景1964 作者:森谷明子 発行:双葉社 2020.1.25 初版 価格:¥1,600  東京オリンピックに沸く戦後日本を舞台に、涼子という謎の少女に絡んだいくつもの家族の物語を大小の入れ子構造のミステリで紡ぐ不思議な味わいのある作品。  不思議の中でも、最たるものは、涼子という謎めいた少女。その存在感。どう見ても悪女の印象ではなく、むしろ聖女として、良い意味で人々の記憶に残る存在としての涼子。彼女に関わった人々のそれぞれのエピソードは、いずれも小さな独立短編と見立てることもできるし、全体の流れの仲間に見え隠れする涼子という美しい少女そのものが謎であり、一つ一つの独立した章は涼子という大きな存在へ通じるいくつもの扉に用意された鍵とも言える。  振り返れば連作短編小説のようにも見える。しかし全体は長編小説のようにも...
  • 遥かなり神々の座
    遥かなり神々の座 題名:遥かなり神々の座 作者:谷甲州 発行:早川書房 1990.8.31 発行 価格:本体\1,650  ぼくは山やの側からこの作品に出会ったのですが、ぼくのまわりでこの作品に惚れ込んだ人のほとんどは山を経験したことのない人でした。また山岳文学や登山記録など、確かに専門用語の多いものでも、ぼくは山と無縁の人に、単に読書好きだからという理由で本を進めたこともあります。すべてとは言いませんが、絶賛を受けたものもあります。モーリス・エルゾーグの『処女峰アンナプルナ』(白水社)などは、読んだ方から悪評を聞いたことがありませんでした。  ぼくがここでぜひとも補足しておきたいのは、谷甲州『遥かなり神々の座』は、山を登る人だけが楽しんだ本ではないものであるということです。山を登らない読者には総じてつまらないもの、というわけではないらしいということな...
  • 地獄までドリブル
    地獄までドリブル 地獄までドリブル (光文社文庫) 地獄までドリブル (TENZAN SELECTION) 題名:地獄までドリブル 作者:藤田宜永 発行:光文社文庫 1994.12.20 初刷 価格:\540(本体\524)  この人の小説は、佐々木譲とならんで、ぼくは大変読み進みやすい。この本も題材はフランス暗黒復讐小説みたいなもので、その錯綜した筋運びのわりに軽々とページを繰れるんだけど、それは文体のピッチのせいなんだろうか?  とにかくあっという間に読み終わってしまったけれど、タイトルやカバーにつられたサッカーそのものは案の定あまり表面に出てこず、サッカー界の黒い金の流れみたいなもの (これも現実の重みはあるんだけど) を追求するに留まっているのであった。プロサッカー・チームの監督が陰謀に一枚噛んでいるらしいところなどは、Jリーグから非常に離れた感...
  • 嵐の眼
    嵐の眼 題名:嵐の眼 原題:EYES OF THE STORM (1992) 作者:JACK HIGGINS 訳者:黒原敏行 発行:早川書房 1994.2.15 初版 価格:\1,900(本体\1,845)  フォーサイスの『神の拳』に続いての湾岸戦争もの、ということで、イギリスの巨匠ふたりが同じ一つの記憶に新しい戦争をどのように料理して見せてくれるかが期待された。フォーサイスは真っ向から湾岸戦争の内幕を時系列的に展開して見せてくれたのに対し、娯楽的要素だけを劇画チックに散りばめて構成したのがヒギンズというところか。  かつてのヒギンズにはフォーサイス的下調べの要素が十分にあったので、未だにこうして現実の出来事にインスピレーションを得て、小説を仕立てるという癖が残っているようなのだが、いかんせん下手屋の腕も落ちてきているのは否めない。  今回...
  • なぎらツイスター
    なぎらツイスター 題名:なぎら☆ツイスター 作者:戸梶圭太 発行:角川書店 2001.6.30 初版 価格:\1600  『ギャングスター・ドライブ』に続く戸梶風味ドタバタ・ヤクザ・アクションの第二弾とでも言うべきか。群馬県にある那木良町という片田舎の町に都会のヤクザ二人が一千万円を抱えて失踪した部下二人の消息を求めて訪れるシーンから物語は始まる。なんだかこたえられないスタートっぷりだ。  『Twelve Forces』でたっぷりと見せてくれたキャラクター作りが、本書ではまたまた爆発している。少しだけずれているだけにけっこうリアルで可笑しい奇人たち。この作家が大学で心理学を専攻していたというわけではないのだろうが、彼らの心理描写が実に客観的に見ていて可笑しく、悲しく、笑える。  地に堕ちたようなちっぽけな欲望を巻き散らかす男たちと、ヤクザとい...
  • 昭南島に蘭ありや
    昭南島に蘭ありや 昭南島に蘭ありや 昭南島に蘭ありや (C・NOVELS―BIBLIOTHEQUE) 昭南島に蘭ありや〈上〉 (中公文庫) 昭南島に蘭ありや〈下〉 (中公文庫) 題名:昭南島に蘭ありや 作者:佐々木譲 発行:中央公論社 1995.8.7 初版 価格:\2,000(本体\1,942)  戦時中、シンガポールが日本の占領下に置かれ昭南島と呼ばれていたことも知らない読者であるぼくが、初めて触れる史実・・・・という意味では非常に重いものを感じてしまった。ましてや華僑虐殺に至っては、『蝦夷地別件』と繋がる日本という国家の変わらぬ素顔を見た思いがして、重い気分になりもした。  でもどう読んでも『蝦夷地別件』との格差を感じるのは、この歴史を小説に置き換える作業でのイージーな(船戸と較べちゃっているので少々不利かもしれないが)プロット・・・・...
  • 悪党パーカー/電子の要塞
    悪党パーカー/電子の要塞 題名:悪党パーカー/電子の要塞 原題:Firebreak (2001) 作者:リチャード・スターク Richard Stark 訳者:木村二郎 発行:ハヤカワ文庫HM 2005.2.15 初版 価格:\760  旧作にまだまだ読み残しがあるというのに、新作が出れば出たですぐに読みたくなる。もっとも今回の場合は紆余曲折があって、『怒りの追跡』『掠奪軍団』の後日談として引き受けている本編ゆえに、先にこの二作を事前準備的に読んでおいた。格別それらを読まなくても本書そのものは十分に楽しめる構成になってはいるが、『怒りの追跡』で初登場した個性的な悪漢どもに後日談があるという楽しみはシリーズ読者の宿命として味わえるものは何でも味わいたい。単独ではなくシリーズとして、というのが人情。  さて本書ではいよいよパーカーもデジタルで防御さ...
  • カルニヴィア 1 禁忌
    カルニヴィア 1 禁忌 題名:カルニヴィア 1 禁忌 原題:The Acomination (2013) 作者:ジョナサン・ホルト Jonathan Holt 訳者:奥村章子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2013.9.15 初版 価格:\1,800  最近はポケミスでも、相当数、新時代のエンターテインメントと思われる小説が多く散見されるようになった。アメリカの作家であっても、米国国内舞台に限らず、かと言って国際冒険小説というジャンルでもなく、東西ヨーロッパや中南米などを舞台に異国人を主人公にした作品などを果敢に綴ってゆく作家が多くなったように思う。  その背景としては異国の状況や歴史が調べやすくなった情報社会の進歩ということが十分に考えられると思う。図書館で文献を検索しなくてもあるレベルのものまでであれば、ネットを検索してみるだけでも一通りの情報が得ら...
  • オロマップ
    オロマップ 題名:オロマップ 森林保護官 樋口孝也 作者:吉村龍一  発行:講談社 2014.06.19 初版 価格:\1,500  『焔火』『光る牙』の長編二作で、引き締まった文体と骨太なストーリーを見せつけてくれた新人作家吉村龍一は、自衛隊出身の硬派な作家として今後も期待される。山形県生まれということで東北や北海道の厳しい自然を好んで舞台にしてゆく傾向もあり、北方至高のぼくのような読者には嬉しい限り。  本書はその吉村龍一初の連作短編集となる。初のシリーズ・キャラクター造形でもあり、今後長編かも期待されるどっしりした筋構えの一冊だ。六編の長編から成るが、半分は『小説現代』掲載、半分は書き下ろしと、意欲作であることが見て取れる。  主人公の樋口孝也は日高の森林保護官として、先輩職員の山崎とふたり、この広大な山岳に起こる様々な事件と取り組んでゆ...
  • ノー・セカンド チャンス
    ノー・セカンドチャンス 題名:ノー・セカンドチャンス 原題:No Second Chance (2003) 著者:ハーラン・コーベン Harlan Coben 訳者:山本やよい 発行:ランダムハウス講談社文庫 2005.9.13 初版 価格:上¥750/下¥780  ずっとマイロン・ボライター・シリーズを書いてきたハーラン・コーベンは、21世紀に入ってから、馴染みのシリーズを離れ、がらりと作風を変えた単独ミステリーに傾注してゆく。その現象が、後から顧みて、どうも不思議である。どちらかと言えば陽気でユーモラスで、軽妙で、それでいながら血が熱くなるような、人間の内側に潜り込んで書いていたようなウェットな作家だったように思うが、本書を見る限りはスリルとサスペンスという物語の側に軸を移し、より過激に、より血腥く、そしてよりエンターテインメント色を強めるよう意識し...
  • 榎本武揚
    榎本武揚 榎本武揚 (中公文庫)  著者には珍しい時代物と言えそうですが、二つの時代を交互に描く手法で、やはりとても実験を凝らした作品。函館五稜郭戦争の革命の親玉で北海道に独立構想を立てた人物でありながら、維新後なおも政府から徴用され続けたのは何故か? その疑惑に、太平洋戦争後逃げまどう憲兵の姿を重ねて描く二重奏。間違いなく素晴らしい小説です。  読みだしたら止まらない面白本でもあります。 (1992.07.19)
  • 藪枯らし純次
    藪枯らし純次 藪枯らし純次 題名:藪枯らし純次 作者:船戸与一 発行:徳間書店 2008.01.31 初版 価格:\2,100  船戸の小説は現実に材を取ったものが多い。しかも現代のリアルタイムな紛争地帯に赴き、取材や調査を綿密に行うことで、その地帯の真実を小説という形で熱く謳い上げる。彼の作品をすべて、叙事詩、と呼びたくなる由縁である。  しかし、彼は、時折り、そうした時代の代筆者という立場から離れて、黒澤映画のような娯楽色の強い純エンターテインメントを創出することがある。『夜のオデッセイア』『山猫の夏』『碧の底の底』『炎流れる彼方』、いずれも常なる歴史観や辺境ルポルタージュといった主題から離れた純然たる娯楽小説であった。  舞台設定こそ異郷に求めてはいるが、その物語は、人間たちの欲望や狂気がもたらす謀略と破滅の物語であり、血と冒険を求め...
  • 卒業生には向かない真実
    卒業生には向かない真実 題名:卒業生には向かない真実 原題:As Good As Dead (2021) 著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson 訳者:服部京子 発行:創元推理文庫 2022.7.14 初版 価格:¥1,500  二作目を読むのに一作目を前もって読んでおく必要があると強く感じたのと同様に、本作を楽しむには一二作目をどちらも読んでおかないと、まず人間関係がわからない。ぼくはどちらも読んでいたけれど一年に一作ずつという発刊ペースでは、もちろん前作までの人間関係は記憶から消去される。この三部完結シリーズを真に娯しむためには、三作を続けて一気に読むほうが良いだろう。  これから『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』を読んで、本作に取り組む方は幸せな読者である。何故なら一作一作がどれも面白いから。そして一作が次の一...
  • 満願
    満願 題名:満願 作者:米澤穂信 発行:新潮社 2014.12.10 17版 2014.03.20 初版 価格:\1,600  今、最も話題となっているのがこの本ではないだろうか。『このミス』『週刊文春』ともに2014年の第一位に選ばれた傑作短編小説集。TVでも結構取り上げられており、「王様のブランチ」「ZIP!」などでも取り上げられ、凄い一冊とのメディアでの露出度ピカイチ、というくらいに取り上げられている。  それらマスメディアが、実はあまりにも地味である読書(しかもミステリという狭小な分野だ)という個人趣味の対象である一冊の本に集中することは、そう多くないと思う。村上春樹関連は別として。もちろんマスメディアは本の売れ行きを加速させるので作者にとって決して悪いことはないと思うが、逆にあまりに褒められると、そのこと自体は相当のハンディをぶら下げてしまう...
  • 屍肉
    屍肉 屍肉 (新潮文庫) 題名:屍肉 原題:DEAD MEAT (1993) 作者:PHILIP KERR 訳者:東江一紀 発行:新潮文庫 1994.11.1 初版 価格:\600(本体\583)  というわけで奇才、フィリップ・カーの、先に翻訳されてしまった五作目。今度のはシリーズではなく、BBCのTVドラマ脚本の原作として書かれたものだそうで、TV局の取材費を使ったのだろうか、現代ロシアを脚で稼いで、またも時代背景をがっしりと描写しまくりつつ、ミステリーを絡めた作品。  主人公「私」は、存在感が薄く、どうやら脇役が主役であることに気づくのに、本当半ば以上かかりました。「私」不在の脇役たちの場面を後で聞いた話として三人称で語る手口なんていうのは、実に珍しくもあり、とっつきにくくもありで、物語世界が希釈されるようでこそばゆかった。何でも取材に当たって作者...
  • 風に舞う
    風に舞う [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:風に舞う 作者:花村萬月 発行:集英社 1994.6.25 初版 価格:\1,400(本体\1,359)  この作者短編小説は正直言って切れが悪いと常々思っているんだけど、この連作短編集を手に取ってみると、ふと思ったのが連作は悪く...
  • 時には懺悔を
    時には懺悔を 作者:打海文三 発行:角川書店 1994.09.25 初版 価格:\1,600  読み遅れてはいたが、読み残さなくて良かったと思った。東直己に続いて遅れ馳せながら打海文三という和製ハードボイルドの書き手を知ることは自分の中で収穫でありながらも、こうした作家を今頃になって褒めるという照れ臭さもあり、で何とも複雑。 ハードボイルド作品のなかで実際に探偵を生業にした主人公というのは、日本では案外に少ないような気がする。日本の事情を考えると、探偵は決してメジャーな商売と言えず、探偵ドラマを持ち出したとしてもどこか舶来の印象が強く無理が出る。探偵が許可証をちらつかせて聞き込みにまわり、行く先々でカクテルを薦められ、関係者に減らず口を叩いて回るという構図は、いかにも日本の精神風土にはフィットしにくい。 そこでハードボイルドの条件ともいえる現実的な側...
  • towanosima
    永遠(とわ)の島 作者:花村萬月 発行:学習研究社 1993.9.20 初版 価格:\1,600(\1,553)  花村萬月はもともとどこかぶっ飛んでいるのだけど、こういう風にぶっ飛ばれても困るなあというのがこの小説。花村萬月というのは、いわばジャンル度外視の作家なんだけど、ここまで破壊的であると、小説としての興味はあっても面白味はなくなるなあ、と感じさせられてしまうのが、この本なのであった。  変な小説である。プロローグさえなければ、最初はバイク小説であるように見える。でも途中からこれは、そんな言葉はないと思うけど「物理学小説」になってしまう。そしていったいなんだ、この話はと思っている間にあっと驚く結末にすかされてしまうのだ。  えーと、何に似ているかと言うと、「浦島太郎」に似ているなあ、この話。現代版竜宮城物語。なんでもありの小説であるから、ぼ...
  • gelmanium
    ゲルマニウムの夜 作者:花村萬月 発行:文藝春秋 1998.9.20 初版 価格:\1,238  れっきとした芥川賞受賞作。何せ発表誌が『文學界』。狙ったな、萬月さん。  これまで萬月作品にジャンル分けなんて無意味だとは感じていながら、彼の作品は天性のハードボイルドだ、などとほざいていた。彼の生き様が、たとえようのないほど「悪」であり、尋常でない道程を経ているから、花村萬月という作家自体にハードボイルドという言葉を当てはめていた。  かつてドラッグをやっていたのに、ある年齢で突然それをやめた。酒、煙草もやめると決断しては、それを実行している意思力。ブルース・ギターはそれで金を取れる腕を持ち、大型バイクで旅をする。そして何と言っても天才的に文章の優れた男。高く細い声、やわらかな言葉遣い、耐えない笑顔……本当に迫力のある人というのは、外観はソフトな人な...
  • 空中ブランコ
    空中ブランコ [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:空中ブランコ 作者:奥田英朗 発行:文藝春秋 2004.04.25 初版 価格:\1,238  よく考えてみればなんて事のない当たり前の話ばかりなのだけれど、普通に作ったら当たらないだろう物語を、奇妙な主人公を軸に据えた連作短編...
  • アフターダーク
    アフターダーク 題名:アフターダーク 作者:村上春樹 発行:講談社 2004.09.07 初版 価格:\1,400  村上春樹を読むときのぼくは、実は自分の読書の原点に回帰してゆくような気がしてならない。あまり普段は意識していないことなのだが、ぼくの圧倒的に好きなタイプの作家は基本的に文章がとても上手で、文体がたまらなく快い作家だということ。国産小説には特にそれを求める気持ちが強いために、どんなにテーマが斬新でアイディアが豊富でストーリーがこまやかであろうと、日本語の美しさにこだわらない作家は自分にとって駄目だということだ。  という原点に立ち返って自分の読書傾向を振り返ると、それはより明白な事実となって浮かび上がってくる。日本語の美しい作家に明らかに傾倒している自分がいるという事実。その意味で純文学からスタートしている自分の読書人生は散文的なもの...
  • 加賀乙彦
    加賀乙彦  さて、どのジャンルをひっくるめてもぼくが一番好きな日本作家です。この人は純文ですが、どれも具体的にストーリーを語る作家ですから、もっとも小説らしい小説を書きます。際立った特徴はこの人が精神科医であることです。また刑務所内での勤務経験、若かりし頃のフランス留学経験などがいくつかの小説の題材になっています。同時にドストエフスキイの研究家でもあります。ぼくが世界一好きな作家はドストエフスキィでありますが、加賀乙彦が奇しくもドストエフスキィマニアであったことは、随分後になってわかりました。そこに認められる共通の空気をぼく自身どこかしらで感じ取っていたような気がします。 長編小説 荒地を旅する者たち 1959 フランドルの冬 1968 帰らざる夏 1973 宣告 1979 湿原 1986 錨のない船 1989 海霧 1990 随筆・エッセイ 死刑囚の記録 1980 ドスト...
  • 罪深き誘惑のマンボ
    罪深き誘惑のマンボ 題名:罪深き誘惑のマンボ 原題:The Two Bear Mambo (1995) 作者:ジョー・R・ランズデール Joe R. Lansdale 訳者:蒲田三平 発行:角川文庫 1996.8.25 初刷 価格:\760  ハップとレナードのシリーズでは、本書が初めて邦訳され、日本の読者に紹介されたわけだが、今こうして9年を経た現在読んでみると、当時の読者にとって、本作の面白さは驚愕に値しただろうと想像できるものの、それでも翻訳の順番を違えたことにより、読者が強いられた読書的娯しみの犠牲は大きなものだったと判断せざるを得ない。  とりわけ本書に継いで邦訳された『ムーチョ・モージョ』は、オリジナルでは本書に先駆けて書かれた物語であり、なおかつこの二作には連続性があるというところに、読者の悲劇がある。ましてや本書の事件に乗り出す二...
  • ススキノ ハーフボイルド
    ススキノ、ハーフボイルド ススキノ、ハーフボイルド (双葉文庫) 題名:ススキノ、ハーフボイルド 作者:東 直己 発行:双葉社 2003.07.25 初版 価格:\1,700  『探偵くるみ嬢の事件簿』を思わせる、リラックスした雰囲気のススキノに、例の太った男、通称<便利屋>が絡んで、東直己ならではの夜中のススキノに、人間たちの欲望や哀しみのドラマが展開する。  通常のススキノ便利屋シリーズであれば、それなりの人間的でハートウォーミングなハードボイルドになるところを、今回は敢えて、便利屋シリーズの外伝風に、しかも本来脇役でしかないはずの高校生の視点で捉えてゆく。高校生ならではの一人称の軽いタッチな文体。十代ならではの大人の世界へのドキドキ感が、何となく大人が読み返す自分の若かりし頃のようで、懐かしくもあり、切なくもある。  通常の高校生よりは少しだけ...
  • 催眠 上・下
    催眠 題名:催眠 / 上・下 原題:Hypnotisoren (2009) 作者:ラーシュ・ケプレル Lars Kepler 訳者:へレンハルメ美穂 発行:ハヤカワ文庫HM 2010.7.25 初版 2010.8.25 2刷 価格:各¥880  実は2009年にスウェーデンで書かれ、2010年7月に邦訳出版された時期外れの作品。覆面作家としてデビューしたらしいが邦訳時には既に、他ジャンル(イングマル・ベルイマン監督や実在の天文学者をモデルにした小説等)で売り出していたアレクサンデル・アンドリル、アレクサンドラ・コエーリョ・アンドリル夫妻であることが明らかにされている。思うに、誰かをモデルにした物語よりは、こうした娯楽小説の方が売れるのだろうな。現に本家作品は本作と違って邦訳もされていないわけだし。ましてやこの時期は『ミレニアム』やら、ヘニング・マン...
  • manetuhodan
    萬月放談 作者:花村萬月 発行:KKベストセラーズ 2003.06.10 初版 価格:\1,400  萬月という人は文章は凄いが、会話はというと、本質が照れ屋なのか、あまり達人とは言えない。笑顔で協調性の良さを前面に出してくれるという印象がある。とはいえ、ぼくは30分ほどしかまともに話したことがないし、それは何人もの酔っ払いに囲まれてのだらしのない雰囲気の中であったから、そも本質などとは縁遠い判断であると思うけれども。  ともかくそうした、必ずしも饒舌とは言えない作家が、対談集を出しているということ自体が少し驚きである。彼の書く作中人物が、真剣な場面を平気でおちゃらけさせてしまうことの多い印象は、作家本人とも同一なのであり、それは本書を読んでも一貫して感じられる。要するに、やはり萬月氏は相手の話を引き出し、そこに美味く絡み込むというのではなく、狂言回しであり...
  • ゴルディオスの結び目
    ゴルディオスの結び目 題名:ゴルディオスの結び目 原題:Die Gordische Schleife (1988) 作者:ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink 訳者:岩淵達治、他 発行:小学館 2003.08.20 初版 価格:\1,714  ワールド・カップやその他の国際試合でドイツ代表の試合を見ると、とにかく細かいテクニックではなく、気力と体力で闘志を剥き出しにした勝負強さというのが目立つ。ブラジルあたりと対戦すると、片や人間離れした技術力で魅せに魅せるというブラジルに対して、ドイツは常に無骨な力業で勝負を挑み、それでいて結構な戦績を挙げている。  ベルンハルト・シュリンクがゼルプ・シリーズのようなハードボイルドや本書のような冒険小説に挑むとき、ぼくはやはり、ははあドイツ人だなあ、って微笑んでしまいたくなることが多い。 ...
  • カットグラス
    カットグラス (『星が降る』へ改題) 題名:カットグラス 作者:白川道 発行:文藝春秋 1998.7.20 初版 価格:\1,429  アウトロー作家が流行っていると最近思いませんか? 世界でも、日本でも。  そうしたアウトロー作家の中でも、比較的頭脳的な経済アウトローとでも言うべき白川道のギャンブル的短編小説集が、これ。のっけから『病葉流れて』の原形的作品でスタートするこの作品集を読んでいると、どうしてもまともな暮らしに背を向けてしまう彼の作家的傾向というのが感じられてくる。  作品はやはり作家の生を映す鏡で、平凡な道を歩いては来なかったぎりぎりの人生観の中で、生れる一瞬のドラマを、彼は短編という形で刻んで残している。こういう人が作家になって作品を書いてくれてよかったと思う。  比較的まともで常識的な世界におとなしく住んで、暴力や博...
  • 続・用心棒
    続・用心棒 題名:続・用心棒 原題:The Hard Stuff(2019) 作者:デイヴィッド・ゴードン David Gordon 訳者:青木千鶴 発行:ハヤカワ・ミステリ 2021.4.15日 初版 価格:¥1,900  『用心棒』というだけで怪しげな邦題のジョー・ブロディ・シリーズ第二作。『続・用心棒』とは、何だか昔の時代劇映画みたいだ。マカロニ・ウェスタンの『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』が「続」とか「新」とか、まるで別の作品なのに、タイトルで売れっ子俳優クリント・イーストウッドの二番煎じ三番煎じを狙ったという当時の映画界事情が思い浮かぶ。  いかがわしさ満載のこの作品は、あの毒々しい当時の映画看板を思い出させ、何だか汗臭く、昭和っぽく、やたらと懐かしい。ぼくは仕方なく、C・イーストウッドのイメージでジョーを思い描くことにしています。 ...
  • 名もなき毒
    名もなき毒 名もなき毒 題名:名もなき毒 作者:宮部みゆき 発行:幻冬舎 2006.08.25 初版 価格:\1,800  この世界は写実だろうか。それともデフォルメされた寓話なのだろうか? いずれにせよ、宮部みゆきは『模倣犯』以降、暗い現代世相を反映した世界を作品の中に再構築するようになった。  主人公自体は『誰か』に登場した杉村という市井人なのだが、作品は多くの人々の様々な個性によって構成されている。一人称小説でありながら、不思議と群像小説という言葉を想起させる。それは、作品がストーリー以上に世界を描写する傾向にあるからだ。  タイトルの妙は、「毒」という字義の様々な解釈をメタファーとして用いる作者の意図に基づくものだろう。メインの犯罪は無差別毒殺事件でありながら、ストーリーは縦軸を取らず、世界を面で捉えようと趣向を凝らす。  主人公の...
  • 百万遍 青の時代
    百万遍 青の時代 上・下 百万遍 青の時代〈上〉 (新潮文庫) 百万遍 青の時代〈下〉 (新潮文庫) 作者:花村萬月 発行:新潮社 2003.11.15 初版 価格:上\1,800/下\1,900  花村萬月のライフワークとも言うべき大作のスタート。四部からなる構成の予定であり、本書『青の時代』は『百万遍』シリーズの第一部に当たる。第二部は現在も『小説新潮』に連載中。大型連載を複数作続けているその旺盛なワーカホリックぶりは、現在作家自身による公式ホームページ『ブビヲの部屋』に詳しい。第一ここの日記は、相当に読み応えがあって面白い。  日記は作家自身の一人称だが、この小説は三人称で書かれる。主人公は現実の過去を生きた萬月自身をモデルとし、自伝的物語であると言っていい。これまでの作品も自伝的要素の強い花村ワールドではあるけれども、本作は私小説という意味合いにお...
  • デイブレイク
    デイブレイク デイブレイク (幻冬舎文庫) デイブレイク 題名:デイブレイク 作者:香納諒一 発行:幻冬舎 1999.9.30 初版 1999.10.20 2刷 価格:\1,800  自分の求めるエンターテインメントの方向性を探ると、自分が決して銃器や火薬の量の多寡によって小説の重さを量るタイプではないということがよくわかる。この小説は元自衛隊員が拠りどころを失って、札幌の周辺を彷徨っているうちに国絡みの巨大な謀略に巻き込まれているというストーリー。  苫東開発の失敗や拓銀の倒産、シベリア開発など北海道の現在をよく調査して作ってあるプロットには香納諒一の成長がしっかりと感じられるが、ぼくのような札幌市民にとってはあまりにも身近だ。謀略もあり得ないものではないだけにリアルサイズの冒険小説であり、すぐそこにあるハードボイルドという印象が不思議だ。 ...
  • 愛される資格
    愛される資格 題名:愛される資格 作者:樋口毅宏 発行:小学館 2014.12.13 初版 価格:\1,400  樋口毅宏という鬼才の、とても普通でストレートな小説。恋愛小説でもあり青春小説でもある。どちらもこの作家とは一見縁遠そうなジャンル、そしてあまりにも普通すぎる庶民的な作品であるところに、かえって面食らう。  最初は普通の会社勤めをしている主人公であるが、最も嫌いな直属上司の奥さんとの不倫を続けるうちに、行き詰った人生への突破口のようなものを見つけてゆく。日常生活のディテールの中に、不倫という冒険を見出したことにより、緊張感や心の葛藤をこれまで以上に覚えるようになる。そしてさらに多くの周辺登場人物との桎梏を経て、様々な人間模様、その陰と陽、内面の真実といったものに踏み入ってゆくことで、彼自体の青春が徐々に新しい局面へと脱皮してゆく。 ...
  • 張り込み姫 君たちに明日はない 3
    張り込み姫 君たちに明日はない 3 題名:張り込み姫 君たちに明日はない 3 作者:垣根涼介 発行:新潮社 2010.01.15 初版 2010.1.25 2刷 価格:\1,500  『君たちに明日はない』の一巻目が出てから早や5年。2.5年ぶりに出た三冊目のシリーズ作品集は、ちょうど本シリーズがテレビドラマ化される機会に合わせて出版されたものなのだろう。なので、第二巻では『借金取りの王子』以外に副題がなかったのだが、本書ではテレビドラマで作品に馴染んだニューカマーをしっかり捕まえようと、ドラマと同じ副題がしっかり接続された。  小説では顔などのはっきりしなかった人物たちにテレビドラマでは、顔が与えられてしまうのだが、これを無視して読んでも、意識に取り込んで読んでもそれは読者の勝手である。ドラマを気に入るかどうかがポイントかもしれない。ぼくはこのドラマが気...
  • 嘘に抱かれた女
    嘘に抱かれた女 題名:嘘に抱かれた女 原題:Little Grey Mice (1992) 作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle 訳者:染田屋茂 発行:新潮文庫 1995.11.1 初版 価格:\800  極秘情報に接近できるいわゆるオールドミスでとっても気弱な女性秘書に、彼女の昔の恋人に似ているというだけで選ばれたロシアからのスパイが近づき情報を得ようと努力する。筋立てはこんなものなのだけど、フリーマントルは、ぼくは常々言っているように、その語りの巧さで引っ張ってゆく作家だと思う。こういうシンプルなストーリーがなぜこんなに分厚い本になるんだろうか、というむしろ即物的なミステリアスな心境もぼくの読書的好奇心をいつも満たしてくれている。  その好奇心に見合うだけの内容と作品世界の深み、リアリティ、同時代性など様々な点で優れて...
  • 新・探偵物語
    新・探偵物語 題名:新・探偵物語 作者:小鷹信光 発行:幻冬舎 2000.10.10 初版 価格:\1,600  初回の探偵物語はTVと同じ設定である雑踏の都会がその活動の拠点であり、街自体が舞台であった。二作目では北海道の十勝の大平原が広大な舞台となっていた。そして21年ぶりの新作になる本書では、作品の上を同じだけの時間が経過していて、舞台も北米大陸に移っていた。  LAからラスベガス、アリゾナ、デス・バレイへと虚無とともに工藤俊作が旅を重ねる。ハードボイルドの国を舞台にしての、和製ハードボイルド。小鷹信光の傑作がまた一つ。ぼくの揺らぎのない昨年トップ作品である。  アメリカを舞台にしているからには、当然のことながら銃撃戦もカーチェイスもありである。どこかクラムリーの『明日なき二人』(小鷹訳です!)あたりを髣髴とさせる。人生とか時間とかい...
  • 死層
    死層 題名:死層 原題:The Bone Bed (2012) 作者:パトリシア・コーンウェル Patricia Cornwell 訳者:池田真紀子 発行:講談社文庫 2013/12/20 初版 価格:各\1210  カナダの化石現場の動画。耳の断片の写真。二つのファイルがメールに添付されてスカーペッタのもとに送られて来た。古生物学者が行方不明になっている。妻殺しの容疑をかけられた夫がスカーペッタの出頭を要請している。ボストンの海で巨大なウミガメが引き揚げられる。そのロープに女性の死体が絡まっている。一気に様々なことが起こるなか、マリーノが疑いをかけられFBIに引っ張られてしまう。  こうして同時多発的に発生したすべての出来事が何らかの形で一冊の本に集約してしまうのが、パトリシア・コーンウェルという作家の特徴だと言っていい。謎の風呂敷を広げに広げ...
  • 魔弾
    魔弾 魔弾 (新潮文庫) 題名:魔弾 原題:The Master Sniper (1980) 作者:Stephen Hunter 訳者:玉木亨 発行:新潮文庫 2000.10.1 初版 価格:\857  ハンターは今ではすっかり狙撃小説の第一人者といった感があるけれど、本書は最近のハンター作品の復活ブームにあやかって何とか日の目を見るに至ったのだと思う。処女作なので、さすがに作りは少し粗めで、贅肉もあり過ぎる。ナチの時代に材を据えるなど、二作目『さらばカタロニヤ戦線』にも見える作者なりの力瘤が何となく見えて、ある種若く初々しい作品。  何と言っても後にボブ・リー・スワガーによる数々の銃撃数え歌、その元歌とも言えるシーンがこの小説ではしっかりと登場する。残念ながら狙撃手が冷血な悪の側に立っており、読者としては気持ちがその分入りにくい点などは、後の作品『クル...
  • 孤独なき地 K・S・P
    孤独なき地 K・S・P 孤独なき地 K・S・P(Kabukicho Special Precint) 題名:孤独なき地 K・S・P 作者:香納諒一 発行:徳間書店 2007.03.31 初版 価格:\1,800  何となく、予想通りの本だった。香納諒一としては、流行の警察小説を書きたかったのか、それとも徳間書店の得意なハードロマンとかハードアクションという売りのB級アクションの書き手として中堅プロフェッショナリズムを発揮したかったのか、ちと不明。しかしこういう刑事アクションを単純に息抜きとして読みたい読者層が存在していることも事実。そういう読者層は、通常の香納諒一作品を読むとは限らないから、この手の娯楽に徹した小説で釣っておくということも、作者・出版社などの間では意識すべきところなのか。  香納諒一と言えば、主人公の心情に痛いほど迫るために、キャラクターに...
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