wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「昭南島に蘭ありや」で検索した結果

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  • 昭南島に蘭ありや
    昭南島に蘭ありや 昭南島に蘭ありや 昭南島に蘭ありや (C・NOVELS―BIBLIOTHEQUE) 昭南島に蘭ありや〈上〉 (中公文庫) 昭南島に蘭ありや〈下〉 (中公文庫) 題名:昭南島に蘭ありや 作者:佐々木譲 発行:中央公論社 1995.8.7 初版 価格:\2,000(本体\1,942)  戦時中、シンガポールが日本の占領下に置かれ昭南島と呼ばれていたことも知らない読者であるぼくが、初めて触れる史実・・・・という意味では非常に重いものを感じてしまった。ましてや華僑虐殺に至っては、『蝦夷地別件』と繋がる日本という国家の変わらぬ素顔を見た思いがして、重い気分になりもした。  でもどう読んでも『蝦夷地別件』との格差を感じるのは、この歴史を小説に置き換える作業でのイージーな(船戸と較べちゃっているので少々不利かもしれないが)プロット・・・・...
  • 佐々木譲
    ...は還らず 1994 昭南島に蘭ありや 1995 総督と呼ばれた男 1997 ワシントン封印工作 1997 ステージドアに踏み出せば 1998 鷲と虎 1998 北帰行 2010 カウントダウン 2010 密売人 2011 回廊封鎖 2012 犬の掟 2015 抵抗都市 2019 ホラー小説 そばにはいつもエンジェル 1984 死の色の封印 1984 白い殺戮者 1986 ハロウィンに消えた 1991 牙のある時間 1998 企業小説 屈折率 1999 疾駆する夢 2002-ユニット 2003 連作短編集 廃墟に乞う 2009 短編集 鉄騎兵、跳んだ 1980 きみの素敵なサクセス 1987 いつか風が見ていた(「タイム・アタック」へ改題) 1985 マンハッタンの美徳 1989 サンクスギビング・ママ 1992 きょうも舗道にすれちがう 1994 飛ぶ想い 1995 ...
  • 真夏の島に咲く花は
    真夏の島に咲く花は 真夏の島に咲く花は 題名:真夏の島に咲く花は 作者:垣根涼介 発行:講談社 2006.10.10 初版 価格:\1,700  『ゆりかごで眠れ』に続き、今年二作目の長編となる本書。この二作品の温度差にまず驚いてしまった。同じ作者のものだとは到底思えないほど、異なる二冊。かたや血の抗争を繰り広げるコロンビア・マフィアの血と死闘の生涯。かたや南国フィジーに起こった無血革命の影響下、不安定な状況下で揺れ動く男たち女たちの恋のやりとりをトレンディー・ドラマのように生ぬるく掻き回したようなこの作品。  この作家がクライム・ノベルの書き手だなどという頭がこちら側に最初からなかったら、本書はもしかしたらそう悪くない作品であるのかもしれない。しかし生憎私は垣根涼介という作家をクライム・ノベルの書き手として高く評価しているので、本書は悪くないどころか、あ...
  • 血霧
    血霧 題名:血霧 上/下 原題:Red Mist (2011) 作者:パトリシア・コーンウェル Patricia Cornwell 訳者:池田真紀子 発行:講談社文庫 2012.12.14 初版 価格:各\905  いよいよエンジンが、かかってきたかなと思われるこのシリーズ、何といっても前作から一人称でのケイの視点で記述される文体に戻したことが効果的な結果をもたらしていると言っていい。前作は実は完結していなかったという内容の本作。どの作品にも続編や後作の伏線であったりするのが本シリーズの特徴ではあるのだが、一旦シャンドン・シリーズに決着を見てからの新スタートとしての一人称文体、前作の続編として完全に捉えることのできる本書『血霧』も、なかなかスピーディで読みごたえがあっていい感触。  前作までで何とか捕獲した犯罪キャラクターたちが軒並み謎の死...
  • 散る花もあり
    散る花もあり 散る花もあり (講談社文庫) 題名:散る花もあり 作者:志水辰夫 発行:講談社文庫 1987.6.15 初刷 価格:\400(本体\388)  競馬シリーズの合間を縫いながらも、C君の志水辰夫評に感化され、読み残していたこの作品を手に取ってみたのだ。読み残していたのはこの本がなかなか手に入らなかったからで、実は最近入手したばかりである。『行きずりの街』があれだけ話題になった中で、見直されるべき志水初期作品を再版する気もないのなら、さっさと版権手放してしまえばいいのだよなあ>講談社(;_;)  それにしても、本書の解説は関口苑生氏の手になっていて、去年の夏ぼくらFADV有志が海水浴付き大宴会に繰り出した和歌山の屋敷のことや、そこで出会った志水辰夫氏の思い出等が書かれていて、なんか身近なんですね、この本(^^;)  さて今回はひさび...
  • 壊れた世界で彼は
    壊れた世界で彼は 題名:壊れた世界で彼は 原題:The Eastar Make Believes (2017) 著者:フィン・ベル Finn Bell 訳者:安達眞弓 発行:創元推理文庫 2022.5.31 価格:¥1,040  『死んだレモン』で衝撃的翻訳デビューを果たしたフィン・ベルは、作風もオリジナリティ豊か、発想も豊かだが、相当に毛色の変わった作家である。1978年アフリカ生まれ。ふうむ、若い! 法心理学者で受刑者のカウンセラー。ふうむ、やるな。ニュージーランドへ移住。思い切った人生転換。毛色の変わった作家だが、『死んだレモン』も電子書籍で自費出版したと言う。コロナの時代、作家になるのも新手の手法が出現しているとは驚愕の至り。それでもニュージーランド国内のミステリー文学賞を受賞しているのだ。強引だが個性的な作品が受けたのだろう。本業の知識経験ももちろ...
  • ありふれた祈り
    ありふれた祈り 題名:ありふれた祈り 原題:Ordinary Grace (2013) 作者:ウィリアム・ケント・クルーガー William Kent Krueger 訳者:宇佐川晶子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.12.15 初版 価格:\1,800  アメリカには少年の冒険小説がよく似合う。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンに始まった少年が冒険する物語は、少年向けの小説であったとして、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』やロバート・マッキャモンの『少年時代』などなぜかホラー作家の正統派少年小説として、かつて少年であった大人たちに読まれ、評価された名作として知られている。  時を経て、リーガル・サスペンスの巨匠、兼売れっ子作家であるジョン・グリシャムですら、『ペインテッド・ハウス』というジャンル外の傑作をものにしている...
  • 人生教習所
    人生教習所 題名:人生教習所 著者:垣根涼介 発行:中央公論新社 2011.9.30 初版 価格:¥1,700-  この小説は作者の心象風景のようなものなのかな。ふとそう思った。いや。小説というものは、すべからく作者のなかに生まれた心象風景なのかもしれない。そうした心象風景を、不特定の見知らぬ読者たちに表現として受け渡す方法こそが小説、であるのかもしれない。  本書は小笠原で行われる人間再生セミナーを三人の男女の視点で描いた長編小説である。思考や五感は主人公らに委ねられ、その中で参加者たちの実像が明らかになってゆく。同時に三人も自分たちを新たな眼で見つめなおしてゆく。読者は、時系列に従ってセミナーをシミュレートする。変わった小説である。物語は、ここにはない。むしろ主人公らの回想の中に物語が存在する。出会う人たちの中に物語が存在する。  島に暮ら...
  • 二十五の瞳
    二十五の瞳 題名:二十五の瞳 作者:樋口毅宏 発行:文藝春秋 2012.5.30 価格:\1,400  やっぱりやってくれた、この作家。鬼才、あるいは奇才などという表現ではまだ足りない。美しくもおぞましい物語の数々を書き続け、常に読者の側の予測を拒むアイディアに満ちた、異郷や異形の樋口ワールドといった、如何にもケレン味たっぷりの一冊が、またもここに登場した。  読書当時、ぼくは二度ほど小豆島を訪れることになっていた。小豆島の知識を仕入れるのに通常の観光本を思い描く前に、読み残しのこの一冊が念頭にあった。果たして小豆島の、文字通り「豆」知識の役に立つかどうかは期待の埒外に置くとして。  内容を見て驚く。私小説? と思わせるプロローグに始まるが、それはエピローグとともに、四つの短編小説を挟む作者のモノローグ。ローグ、ローグと、五月蝿くなってしまい...
  • 夜に生きる
    夜に生きる 題名:夜に生きる 原題:Live By Night (2012) 作者:デニス・ルヘイン Dennis Lehane 訳者:加賀山卓朗 発行:ハヤカワ・ミステリ 2013.03.10 初版 価格:\1,800  例えば『ミスティック・リバー』、『シャッター・アイランド』、そして本書と、時代に沿ってこの作家の代表作を読んでみて欲しい。あるいは、作者名を伏せて、この三作を誰かに読ませてもらいたい。この三作に、果たして共通項があるだろうか? 同じ作者の作品であると、誰もが目をつぶって当てることができるだろうか?   少なくとも、ぼくはできないだろう。上記のような覆面作家ごっこをさせられ、作家当てクイズを出された場合、ぼくはどの作家も違う作家だと答えてしまうような気がする。  『ミスティック・リバー』は、悲劇に向かう運命、人の抗えない定め...
  • 宣告
    宣告  これは加賀版『死刑囚の記録』。彼がドストエフスキィに惹かれたのもうなずけます。日本では未だにぼくの中でこの作品を陵駕するものは現われない。そう、ぼくが無人島に持っていく一冊はこの本です。  当時<日本文学大賞>ができて第一回受賞が晩年の小林秀雄『本居宣長』第二作が埴谷雄高、『死霊』と続いて、大方の予想の元に『宣告』は第三回受賞作になった(ように記憶してます)。主人公は東大出のインテリ死刑囚。その犯罪の章のピカレスクだけでもすぐれものだし、恋愛小説としてはこれ以上の極限の愛はないかもしれない。  どこを切っても極北にあるような優れもの小説というしかないのです。 (1992.07.19)  我が生涯のお薦め作品。  ぼくは発刊当初、学生時代に読んだのだと思います。「新潮」に連載されている当時から、そのテーマの大きさに気づい...
  • tabiwo
    たびを 作者:花村萬月 発行:実業之日本社 2005.12.20 初版 価格:\2,800  まるで弁当箱。1000ページの著者最大長編作品が登場した。執筆は中断を挟んで9年半、編集担当者は四人を数えるという小説作成としては相当のスケールを持つ作品である。  一言で言うならロード・ノベル。著者が小説デビューに前旅専門誌に紀行文を寄せるライターであり、かつバイク乗りであることはよく知られているが、その著者の生身の原点に迫った作品としての渾身の書きっぷりからすると、本書はある意味でこの作家の金字塔であり、なおかつ亜流でもあるのかと思われる。  著者はバイオレンスとセックスの描写でエキセントリックな人であり、それを展開する土壌としてミステリ畑やノワールな風土に、著者の本意ではなくても結果的に顔が知られた人である。そうした過激さが売りである著者が、自分の体験...
  • 受験生は謎解きに向かない
    受験生は謎解きに向かない 題名:受験生は謎解きに向かない 原題:Kill Joy (2021) 著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson 訳者:服部京子 発行:創元推理文庫 2024.1.12 初版 価格:¥800  昨年読んだピッパ三部作の後に、すべての前日譚とも言える本書が書かれるとは、さすがに想像外である。解決していない事件を夏休みの自由研究課題の題材として選んでしまったところから始まる三部作と、そのヒロインである推理能力に抜群のセンスを発揮する若きヒロインの女子高生ピッパの物語は、始まったところから話題性に富む外連味たっぷりの小説であったように思う。  その後の三部作はいずれも連続して読むべき物語であり、途中参加はあまりオススメできない。それぞれの作品を通して人間関係がいろいろ変化を遂げたり、その間のやりとりが前後の関係性をけっこ...
  • イタリアン・シューズ
    イタリアン・シューズ 題名:イタリアン・シューズ 原題:Italienska Skor (2006) 著者:ヘニング・マンケル Henning Mankell 訳者:柳沢由実子訳 発行:東京創元社 2019.4.26 初版 価格:¥1,900  作家が58歳の時に、66歳の主人公の小説を書くということはどんな感覚なのだろうか。既に人生を終えつつあるが、死ぬことは恐怖であり、外科医であった人生にある大失敗を犯し、世間からも自分からも罰せられ地の果てのような孤島に世捨人のような人生を送る主人公を。  一年で最も夜が長いスウェーデンの冬至を孤独に過ごしていた彼のもとを、過去に無言で別れてしまった女性が訪れる。2歳年上で、氷の上を歩行器で歩いてきて、しかも末期癌を患って。  孤独な15年にも渡る孤島での一人暮らしの中で、出会う人間は数日おきにやって来...
  • 垣根涼介
    垣根涼介 長編小説 午前三時のルースター 2000/04 ワイルド・ソウル 2003/08 クレイジーヘヴン 2004/12 ゆりかごで眠れ 2006/04 真夏の島に咲く花は 2006/10 月は怒らない 2011/06 人生教習所 2011/09 狛犬ジョンの軌跡 2011.09 ヒート・アイランド・シリーズ ヒート・アイランド 2001/07 ギャングスター・レッスン(連作短編集) 2004 サウダ-ジ 2004/08 ボーダー リストラ請負人・村上真介シリーズ(連作短編集) 君たちに明日はない 2005/03 借金取りの王子 2007/09 張り込み姫 君たちに明日はない 3 2010/01 張り込み姫 君たちに明日はない 3 2010/01(再読) 勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4 2012/05(後に『永遠のディーバ 君たちに明日はない 4』へ改題) 迷子の王様...
  • 狙われた楽園
    狙われた楽園 題名:狙われた楽園 原題:Camino Winds (2020) 著者:ジョン・グリシャム John Grisham 訳者:星野真里 発行:中央公論新社 2021.9.25 初版 価格:¥1,800  最近は文庫化された邦訳本がほとんどだが、その中身は、相変わらず充実したリーガル・スリラー。一方で時々、毛色の変わった作品を書くこともあるジョン・グリシャムは、らしくない(?)ジャンル外エンターテインメントで楽しませてくれることも多い。本書はその手の最新シリーズの一つ、本好きミステリー『「グレート・ギャッツビー」を追え』の続編である。  前作と同じキャラクターたちの上に、さらに興味深い登場人物を増強。前作でおなじみの架空の高級リゾート地であるフロリダ州楽園カミーノ・アイランドは、本作では予想を超える規模の巨大ハリケーンの上陸と、全米スケール...
  • 捜査官ポアンカレ 叫びのカオス
    捜査官ポアンカレ 叫びのカオス 題名:捜査官ポアンカレ 叫びのカオス 原題:All Cry Chaos (2013) 作者:レナード・ローゼン Leonard Rosen 訳者:田口俊樹 発行:ハヤカワ・ミステリ 2013.8.10 初版 価格:\1,900  小説を読むとは大なり小なり痛みを伴うものだ。もちろんどの小説もというわけではないだろうけれど、ミステリ読みのぼくにとっては、殺人や暴力が扱われることにより犠牲者の痛みを洞察せざるを得ない機会が少なくない。痛みを余儀なくされるという意味では、この作品ほど痛切な鋭さを持って読者に挑戦してくる小説は他に類がないような気がする。  インターポールの捜査官という主人公設定は珍しいのでないだろうか。アメリカ小説でありながら、独特のヨーロッパの深みを与えた世界を描き切っている作者の腕が見事である。捜査官ポ...
  • イベリアの雷鳴
    イベリアの雷鳴 イベリアの雷鳴 (講談社文庫) イベリアの雷鳴 題名:イベリアの雷鳴 作者:逢坂剛 発行:講談社 1999.6.14 初版 価格:\2,200  歴史上の大物暗殺をめぐる物語というのは、ある意味では冒険小説の王道をゆくものだと思う。ドゴール暗殺を扱う『ジャッカルの日』、チャーチル暗殺を扱う『鷲は舞いおりた』に代表されはするが、けっこう国内の歴史小説などでも信長、秀吉、家康あたりの暗殺ものというのは多いのではないだろうか。  しかしあくまで暗殺そのものを一つの作戦として展開させるところに、冒険小説としての醍醐味があるのだと思う。作戦はターゲットが大きければ大きいほど胸踊るものなのであり、そこに至る緻密な戦略が実に遠まわりであっても、ストーリーとしては一本の野太い線が常に引かれているわけである。  そこへゆくと本書は版元と作者の折り合...
  • 代官山コールドケース
    代官山コールドケース 題名:代官山コールドケース 作者:佐々木譲 発行:文藝春秋 2013.8.30 初版 価格:\1,850  『地層捜査』に続く水戸部警部補のコールドケース・シリーズ第二弾。今度は代官山に舞台を移すが、前作と同様、この土地の狭い部分だけに集約した物語に展開する現在と過去の事件を、今のDNA技術が結んでしまうことが、捜査の発端となる。警視庁と神奈川県警が犬猿の仲であるらしいことは、これまでいくつもの警察小説が取り上げてきた状況背景で何となく周知のことのようにされているが、今回も、そのへんの村社会的な官僚警察の見栄やらプライドやらが水戸部という反骨の警察官を捜査に向かわせるところが、相変わらず佐々木譲のソウルフルなところなのかな。  ただし前作でも言えたことだが、水戸部警部補の反骨精神はまだ十分に書き切れているわけではなく、少し個...
  • ロンリー・ファイター
    ロンリー・ファイター 題名:ロンリー・ファイター 原題:BackSpin (1997) 著者:ハーラン・コーベン Harlan Coben 訳者:中津悠 発行:ハヤカワ文庫HM 1999.8.31 初版 価格:¥840  一二年前からの新人コーベン・ファンなので、新作の合間に古いマイロン・ボライター・シリーズを当たって読む。この作品もその一つ。だが、今回は少し趣が異なる。それは、二か月前に25年ぶりのシリーズ・スピンオフ『WIN』を読んだばかりだということ。その『WIN』は、マイロンの盟友である王子ウィンザー・ホーン・ロックウッド三世を主人公として25年後の2021年に刊行された準シリーズ作品。現在のウィンは40代となり、所有する不動産のマイロンの事務所であったオフィスは、秘書とスペースをウィンがそのまま別目的で使用しているが、ことあるごとにマイロンの不在を...
  • 危険な蒸気船オリエント号
    危険な蒸気船オリエント号 題名:危険な蒸気船オリエント号 原題:Danger On The SS Orient (2016) 著者:C・A・ラーマー C.A.Larmer 訳者:高橋恭美子 発行:創元推理文庫 2022.12.9 初版 価格:¥1,100  先月の翻訳ミステリー札幌読書会で取り上げられた『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』の続編は、何と、全編、豪華客船オリエント号内での物語。偶然とはいえ、数日前に、妻から世界一周の豪華客船での100日クルーズなる提案資料を受け取ったばかりのぼくは、偶然とはいえ、豪華客船の旅を読書体験で味わうことになってしまったのである。  但し、本書でのクルーズはオーストラリアのシドニー~ニュージーランドのオークランドまでの5日間。そこに集まるはわれらがブッククラブの面々。今回はアンダースが本業の医師の仕事としてクル...
  • 熱い街で死んだ少女
    熱い街で死んだ少女 熱い街で死んだ少女 (文春文庫) 題名:熱い街で死んだ少女 原題:STREETS OF FIRE 作者:THOMAS H.COOK 訳者:田中靖 発行:文春文庫 1992.4.1 初刷 価格:\640(本体\621)  クックは評判を聞いていたのでいずれは読まなくてはと思っていたのだけど、シリーズ外作品として、まず手始めに読んでみたのがこれ。そして、ぼくは何故これまでこの作家の本を手に取りもしなかったのか、と大きく悔いることになった。簡潔に言っちゃうと、この本は、内外合わせての今年のぼくのベスト1。どうです? わかりやすい誉め方でしょう。しかも迷いのないベスト1であるところに、この作品との出会いの真価があるのです。  すごいな、と思ったのは、公民権運動が渦を巻いていたアラバマ州バーミングハム1963年5月というところに、作品を...
  • cold survices
    冷たい銃声 題名:冷たい銃声 原題:Cold Service (2005) 作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:菊池 光 発行:早川書房 2005.12.15 初版 価格:\1,900  アメリカが銃による解決という方法をやめることがない限り、私立探偵のシリーズのどこかで、私立探偵、もしくは関係者の誰かが、ある日、撃たれて死ぬ、あるいは負傷するということはあるわけで、ロングセラーのシリーズになれば、大抵誰かがいつかどこかで撃たれることになることも決して不自然なことではない。むしろこの衝撃を題材にして、作家は一巻を華々しく綴ることができるし、読者にとってみれば、それなりに話題となりやすい。言わば、誰かが撃たれる作品は、シリーズの花、アクセント、刺激である。  87分署ではスティーヴ・キャレラ刑事がシリーズ三作目の『麻薬密...
  • 朗読者
    朗読者 題名:朗読者 原題:Der Vorleser (1995) 作者:Bernhard Schlink 訳者:松永美穂 発行:新潮クレスト・ブックス 2000.4.25 初版 2000.7.5 9刷 価格:\1,800 うーん、これは純文学の側に属する作品なのだろうか。あるいは、まずもって読むことのあまりないドイツの小説ということだからだろうか。自分の手慣れたリズムによって読み進めることができずに、けっこう苦労してしまった。  特に話のツカミが悪く、最初の段階で、ああ、エンターテインメント性がないぞ、と空気を求める金魚のように、本から浮上して浮き世に戻ってきてしまう自分を感じてしまった。ああ俺はもう純文学を漁っていた10代の頃のあの無垢な(ほんとか?)自分ではないのだなあ、としみじみ世の無常を感じてしまったのある。  それでも後半に入ると...
  • 花々
    花々 題名:花々 著者:原田マハ 発行:宝島社文庫 2009/03 初版 2012/7/19 文庫化 2021/6/9 4刷   価格:¥692  『カフーを待ちわびて』のスピンオフ作品。この作品単独でも楽しめるとも思うけれど、あの鮮烈なデビュー作とペアで読んで頂くと、物語の時代や地平が陸続きで繋がるので、ダブルどころかそれ以上に楽しむことができると思う。単純な1+1ではなくて4倍にも16倍にもなるかもしれない立体感覚である。  ちなみに陸続きというのは言葉の綾で、孤島の物語がメインの舞台となるところは元作品と同じ。但し、この本の登場人物は旅人ばかりなので、一つ所にとどまらない。ゆえに複数の孤島が別の舞台として登場する。本土の街だって舞台の一つとなる。モデルとなる島や場所はあっても、すべて架空の設定となっているので、ドラマ『Drコトー診療所』と同じイ...
  • 残夢の骸 満州国演義 9
    残夢の骸 満州国演義9 題名:残夢の骸 満州国演義9 作者:船戸与一 発行:新潮社 2015.02.20 初版 価格:\2,200  船戸与一自らの手による「あとがき」の付いた作品なんてまるで記憶にない。しかし、この10年に渡って書き続けられてきた船戸一世一代の大作『満州国演義』の完結編なのだ。日本冒険小説界の誇る巨匠のライフワークの最後に、膨大な量の文献と、長大な作品に対してあまりに謙虚な2頁の「あとがき」が加えられるのは妥当と言えばあまりに妥当のように思える。  世界中の国の基盤に潜む暗渠のような秘密を探り当てては、大衆読物としての小説という形で常に語り部たる立場を取ってきたこの作家にとっては、もちろん日本とは最も書かれるべき問題に満ちた祖国であるに相違ない。早稲田大学の探検部OBとして、船戸はヨーロッパ経由で国後島のチャチャヌプリに登っている。...
  • 続・用心棒
    続・用心棒 題名:続・用心棒 原題:The Hard Stuff(2019) 作者:デイヴィッド・ゴードン David Gordon 訳者:青木千鶴 発行:ハヤカワ・ミステリ 2021.4.15日 初版 価格:¥1,900  『用心棒』というだけで怪しげな邦題のジョー・ブロディ・シリーズ第二作。『続・用心棒』とは、何だか昔の時代劇映画みたいだ。マカロニ・ウェスタンの『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』が「続」とか「新」とか、まるで別の作品なのに、タイトルで売れっ子俳優クリント・イーストウッドの二番煎じ三番煎じを狙ったという当時の映画界事情が思い浮かぶ。  いかがわしさ満載のこの作品は、あの毒々しい当時の映画看板を思い出させ、何だか汗臭く、昭和っぽく、やたらと懐かしい。ぼくは仕方なく、C・イーストウッドのイメージでジョーを思い描くことにしています。 ...
  • 死んだレモン
    死んだレモン 題名:死んだレモン 原題:Dead Lemons (2017) 作者:フィン・ベル Finn Bell 訳者:安達眞弓 発行:創元推理文庫 2020.07.31 初版 価格:¥1,200  七月の目玉となった作品。個性がいくつもある。一つにはニュージーランド発ミステリー。作者は、法心理学者としての本業の傍ら、小説は電子書籍でしか契約しないという欲のない姿勢を貫いているが、この通り、内容が素晴らしいため、作者の意に反して紙のメディアでも世界中に翻訳され、売れっ子となりつつある。  ページを開いた途端、絶体絶命の窮地にある主人公の現在が描写される。いきなりの海岸の崖に車いすごと足が岩に引っかかって宙ぶらりん。ぼくはこの作品の前に、クレア・マッキントッシュの『その手を離すのは、私』という本を読んでいて、その最終シーンが海辺の崖の上での意味深...
  • aihamuzukasi
    愛は、むずかしい 作者:花村萬月 発行:角川書店 2006.02.28 初版 価格:\1,400  花村萬月が『夕刊フジ』に連載していた曰くありげなエッセイを纏めたものである。曰くありげというのは、何しろ、女そのものをテーマにして、シモの話題あれこれに関して萬月が、豊富な自己体験に基づき(?)自信たっぷりの女性学を披露してみせる本であるから。  第一章「愛とヒモ」では、男がヒモになるというある種特異な状況を分析する。ヒモの定義、ヒモになりやすい男たちのパターンなどなど。  第二章「売る女、買う女」では風俗最前線の女たちの実態、そして男の側から女を買う論理とは何かを改めて分析。結婚は売春の一つの形で、女は皆快感を売り物にする売春婦で、男は皆金でそれを買い取る客であると豪語する、ある意味とても危険な論理。  第三章「男の躯、女の躯」ではまさに身体...
  • 完全なる首長竜の日
    完全なる首長竜の日 題名:完全なる首長竜の日 作者:乾 緑郎 発行:宝島社文庫 2013.05.03 8刷 2012.01.27 初刷 2011.01初版 価格:\562  2009年に『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したと聞いて、え? と思った。先にこの本を読んでいる妻に、確認する。----この本って、ミステリなのか? ----ミステリ? えーと何をもってミステリって言うの? ----えーと犯罪の有無かな。すくなくともアメリカのミステリを毎年選んでいる超有名なアンソロジストであるオットー・ペンズラーはそう言っている。  正確にはこうだ。「犯罪か犯罪の脅威がテーマかプロットの核をなす作品」。その唯一の条件さえクリアしていれば、どんなに広義の解釈であろうと構わない。仮に時代物だってSFだっていいんだろうな、多分。それなのに、妻はこう答えた。--...
  • 川崎警察 下流域
    川崎警察 下流域 題名:川崎警察 下流域 作者:香納諒一 発行:徳間書店 2023.01.31 初版 価格:¥2,000  泥臭いタイトル! というのが本を手に取った瞬間の感想。でも、わかる。香納諒一の匂いが、最初からする。香納作品の基本として大事な要素の一つとしてぼくは挙げたい。それは物語が展開する舞台としての土地勘なのだ。そう。もともとが具体的な実在の地名を多用する作風。しかし、そこに半世紀前というさらなる設定を加えるとは驚きであった。  舞台となる町や川とその流域。それらを大事にする作者は、他にもいる。ぼくは海外小説を多く読むせいか、小説の中の地理地形に実際にであれ情報的にであれトリップするタイプなので、そこが行ったことのある場所であれば自分の記憶をまさぐるし、行ったことのない場所であれば今度是非行ってみたい、と読書中にググりを重ねつつ旅行計画の...
  • ねじれた文字、ねじれた路
    ねじれた文字、ねじれた路 題名:ねじれた文字、ねじれた路 原題:Crooked Letter,Crooked Letter (2010) 作者:トム・フランクリン Tom Franklin 訳者:伏見威蕃 発行:ハヤカワ文庫HM 2013.11.15 初版 価格:\940-  短編集『密漁者たち』で、この作家をマークするようになり、妻べス・アン・フェンリイとの共著『たとえ傾いた世界でも』で、ミシシッピ川の歴史に残る氾濫を背景に壮大南部冒険小説を書き上げたことにも心打たれたと言うのに、ブラインドスポットに入ってしまったために恥ずかしながら長らく気づかなかった作品。それが本書。2011年ゴールド・ダガー賞とLAタイムズ賞を受賞しているというのも、読めば頷ける。  徹底して南部の田舎を生き生きと描く作家というと、そう多くは思い浮かばないものの信頼に値する...
  • 鷹の王
    鷹の王 題名:鷹の王 原題:Force Of Nature (2012) 著者:C・J・ボックス C.J.Box 訳者:野口百合子 発行:講談社文庫 2018.11.15 初版 価格:¥1,100  猟区管理官ジョー・ピケットシリーズにこれまで濃い陰影で奥行きと謎深さをもたらしてきたもう一人の魅力的なキャラクターネイト・ロマノウスキが、とうとうこの作品でベールを脱いだ。  ウォルター・モズリーのイージー・ローリンズシリーズにはマウス、アンドリュー・ヴァクスのバークシリーズには音無しマックス、ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズにはホーク。いつだって探偵のシリーズには、バイオレンスのサイドに生きる影のような存在が付きまわる。ヒーローのやれない力を悪の側から行使して、主人公の存在をより複雑にしてみせる。  本シリーズでは、まさにネイトロ...
  • 輪違屋糸里
    輪違屋糸里 題名:輪違屋糸里 上・下 作者:浅田次郎 発行:文藝春秋 2004.05.30 初版 価格:各\1,500  新選組ものは大抵読んでいるが、ひねくれ流浅田新選組に関しては、同系列ではなく別の読み方で迎えたほうが正しいかもしれない。『壬生義士伝』を書いた浅田節は、涙を誘う田舎侍の哀感溢れる物語で、中でも故郷を思うノスタルジーと戦火の残酷が対比され、どちらも国の貧しさの中から立ち昇った運命ともいえる世界構造の中で、選択の余地なきにわか侍の、翻弄され、人間らしくあり続けようという無力ばかりが目立ってならなかった。  その同じ浅田節が今度はどのような唸りをあげるか楽しみにしていたが、こちらでは新選組と関わってゆく女たちの視線で、壬生の初期時代を描いている。女性小説と読めないこともないくらいに、女の人生観からフィルタリングされた幕末史な...
  • シーズ ザ デイ
    シーズ ザ デイ 題名 シーズ ザ デイ 著者 鈴木光司 発行 新潮社 2001.4.10 初版 価格 \1,800  鈴木光司もマルチジャンル作家であるなあ、とつくづく思う。この作品は作者の趣味の一つであるらしいヨットを材料にして、世界への冒険の夢や、家族や仲間たちとの絆、そして15年前に主人公を襲った遭難の謎に迫るミステリーとを、綯え合わせたような長編である。  この作者、驚いたことに先の展開を決めずに書き始めてしまうらしい。文章が、平易でわかりやすく、なおかつ表現力に優れているという点にプラスして、書きたいことが作者のうちにきっちりとあることで、初めて実現される、得意なテクニックだと思う。  数人の女性が登場するのだが、これでもかこれでもかと言わんばかりに最悪の性格を見せつける女性キャラが、読んでいて本当に許せな...
  • rasha1
    裸者と裸者 上 孤児部隊の世界永久戦争 作者:打海文三 発行:角川書店 2004.09.30 初版 価格:\1,500  昨年末に作者が言っている。『裸者と裸者』という全十巻くらいの大作を書いてゆくつもりだということ。第一作は「無学で粗野な孤児兵の視点で北関東の戦場を」と。  しかし予想と違ってこの『裸者と裸者』は上下巻という二作だけで上梓された。しかしながら、二作は時間軸と地平は同一線上のものであって、登場人物らもかぶるものでありながら、実は別の主人公による別々の独立した物語である点、最初の構想と同じものである。  作者がインスピレーションを受けたのはニューヨーク9・11の同時多発テロであると言う。日本が内戦と暴力の国家になったことを仮定して書かれたこの近未来の物語は、俗に言う戦争シミュレーションというものとは一歩かけ離れたところにある。残酷な世...
  • 鈴蘭
    鈴蘭 題名:鈴蘭 作者:東 直己 発行:角川春樹事務所 2010.6.8 初版 価格:\1,900  「札幌での題材がなくなって書けなくなったんだよ」  ある時期、東直己がワイドショーのゲストコメンテーターばかりやって、ちっとも新作を出さなかった時期に、いきつけの酒場のマスターは、ぼくの「東直己本出さないねえ」という問いかけに対し、そう答えた。東直己がサイトにコラムを書いている寿郎社の社員とカウンターに隣り合わせたのもその頃。マスターに新作を提供するのだが、駄目だよ、金払って買ってもらわなきゃ、って思っていたのは、ぼくの頭の中の声。好きな作家のためには本は買わなきゃ。  その後、無事、ばりばりに復帰した東直己は年間に何作もシリーズ新作をかっ飛ばすようになった。寿郎社でのコラムもやめたし、TV出演もなくなり、作家らしい生活リズムを刻み始めたように思...
  • 死角 オーバールック
    死角 オーバールック 題名:死角 オーバールック 原題:The Overlook (2008) 作者:マイクル・コナリー Michael Connelly 訳者:古沢嘉通 発行:講談社文庫 2010.12.15 初刷 価格:\790  ボッシュ・シリーズなのだが上下巻に分かれるわけでもなく、一冊だなんて珍しいなと思ったら、ニューズウィークのウィークリーマガジンに字数制限で連載された、いわゆる書き下ろしではないものだそうである。それでも改訂を重ね、ラストシーンは4版とも異なるなどの諸事情は訳者解説に詳しい。  国内では雑誌連載の作品が主流であり、書き下ろしはやや貴重な傾向があるのだが、海外では作家たちは十分に時間をかけて一作一作に集中した執筆活動を続けているのだろうと思うと、ちと羨ましくなる。  されマガジン連載用だからというわけではなかろうが...
  • bad company
    背信 題名:背信 原題:Bad Company (2004) 作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:菊池 光 発行:早川書房 2004.12.15 初版 価格:\1,900  「背信」と来れば「横領」と連想される。ましてや原題が「悪い会社」とあれば、企業悪に挑むスペンサーと構図が決まってくるのだが、企業とスペンサー的世界といえば、これほど似合わないコントラストもあまりない。スペンサーに経済が存在するとは思わなかったし、だからこそ経済にがんじがらめの日常生活から抜け出した読者は、現代ボストンに優雅に生きる騎士道精神とグルメな暮らしに憧れ、陶酔するのである。  小説のなかで面白いのは会計士とスペンサーとのやりとりである。逃げ腰で及び腰のスペンサーは、簿記の基礎についてわかりやすい例で聞き取ろうとするが、少し単語が難しいほど...
  • 燃えよ!刑務所
    燃えよ!刑務所 題名:燃えよ!刑務所 作者:戸梶圭太 発行:双葉社 2003.06.05 初版 価格:\1,500  タイトルとこの作者を結びつければ作品への期待度が高まるのは必然。だからこそというのではないのだが、本書は明らかに失敗作、言葉を代えれば手抜きと言ってしまったほうが良さそうだ。戸梶の陥りやすい何でもあり体質の作風が、そのあまりの自由度故に奔放に過ぎ、縛りを持たず、ストーリー破綻に向けて放散することがある。この作品からはぼくは困惑と幻滅しか見つけることができなかった。  まずはタイトルに掲げられた刑務所そのものを、収容人員の増加で飽和してしまったという近未来の架空の社会問題として取り上げることで、半分以上を費やし前振りのようにしていること。この作品の本来の舞台装置であるべき加虐的な刑務所そのものは後半になってようやく出来上がる。それ...
  • 猟鬼
    猟鬼 題名:猟鬼 原題:The Button Man (1992) 著者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle 訳者:松本剛史 発行:新潮文庫 2001.1.1 初版 価格:上\705/下\667  1.フリーマントルが、とうとう新しいシリーズを始めた。  2.しかもエスピオナージュではなく、何と警察捜査小説である。  この二点だけでフリーマントル・ファンならかなり興味をそそられる一冊であろう。実際に、読書を通じてこの新機軸に対する興味ばかりが働いて、何だか邪心ばかりで読んでしまっているような気にさえなってきた。  そうした新機軸でありながら、よくも悪くもフリーマントルの世界には違いなかった。プロフェッショナルとしての仕事の顔を表とすると、悩みやプレッシャーに抑圧されるような重い重い私生活が、男たちの裏の顔で...
  • 催眠 上・下
    催眠 題名:催眠 / 上・下 原題:Hypnotisoren (2009) 作者:ラーシュ・ケプレル Lars Kepler 訳者:へレンハルメ美穂 発行:ハヤカワ文庫HM 2010.7.25 初版 2010.8.25 2刷 価格:各¥880  実は2009年にスウェーデンで書かれ、2010年7月に邦訳出版された時期外れの作品。覆面作家としてデビューしたらしいが邦訳時には既に、他ジャンル(イングマル・ベルイマン監督や実在の天文学者をモデルにした小説等)で売り出していたアレクサンデル・アンドリル、アレクサンドラ・コエーリョ・アンドリル夫妻であることが明らかにされている。思うに、誰かをモデルにした物語よりは、こうした娯楽小説の方が売れるのだろうな。現に本家作品は本作と違って邦訳もされていないわけだし。ましてやこの時期は『ミレニアム』やら、ヘニング・マン...
  • 第三の嘘
    第三の嘘 題名:第三の嘘 原題:LE TROISIEME MENSONGE (1991) 著者:AGOTA KRISTOF 訳者:堀茂樹 発行:早川書房 1992.6.15 初版 定価:\1,600(本体\1,553)  フランス語というのは時制や人称がとてもはっきりしていて淀みや曖昧さのない言語だから、ハードボイルドの文体というのが英米語に較べて非常に取りやすい言葉であるかもしれない。特に本シリーズのように完全な現在形と人称の形に重きを置いた文体で作品を貫こうとする場合にはましてや有効であろう。そんな文体と作品そのものの空気を解け合わせることができたのは、まさに作者の希有としかいいようのない才能ゆえであろうけれども。  さて本書を一作二作と比較してどうこう言おうとはぼくは思わない。ましてや4作目が生まれるかどうかなんで話題にもぼくはおそらくは加わら...
  • 熱き血の誇り
    熱き血の誇り 題名 熱き血の誇り 作者 逢坂剛 発行 新潮社 1999.10.20 初版 価格 \1,900  逢坂標準ってところか? 長い分だけサービスが多いけれど、逢坂作品はサービス過剰くらいでちょうどいいかもしれない。  一つ驚いたのは『静岡新聞』連載作品だということ。いわゆるローカル紙連載なのでそれらしきところが作中に感じられる。描写過剰と言わんくらいに静岡の自然、街を描いている。逢坂剛からサービス精神を取ったら逢坂じゃなくなる、というのがぼくの逢坂論なので、これはうなずける。  タイトルから連想されるのはハードボイルドだけれど、逢坂にハードボイルド作品は似合わない。なんと「血」は仕掛けの一つとして使用されている。奇怪な医療ミステリーの匂い、産廃・医廃に絡む非合法組織、「エホバの証人」の輸血拒否など、社会的な背景を題材にして、強...

  • Z 題名:Z 作者:梁石日 発行:毎日新聞社 1996.7.10 初刷 価格:\1,900  梁石日を読むのはこれが初めてなので、作風などに関する前知識はゼロ。それにも関わらず読み始めるとまもなく強烈な印象を感じさせられるのは、やはりこの作家の持つ個性か。  事業に失敗して大阪を出奔、タクシー・ドライバーを続け、在日朝鮮人の解放闘争に関わりつつ、その人生の後期になって詩人と作家と言う二つの顔で文壇にデビュー。こうした作家の顔が、小説中の分身となって歴史スリラーを紡ぐ。  小説としてはまとまりを欠いた話でありながら、これだけの歴史の残酷に度肝を抜かれる。歴史の残酷というものにはあまり論理性はなく、またその犠牲者にはあまり救いもない、と承知していながら、こういう本に触れると、遣り場のない思いに駆られざるを得ないのが人間というものだと思う。 ...
  • drive
    ドライブ ドライブ (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:ドライブ 原題:Drive (2005) 作者:ジェイムズ・サリス James Sallis 訳者:鈴木 恵 発行:ハヤカワ文庫HM 2006.9.30 初版 価格:\600  本編が180ページに満たない薄さでありながら、無駄なくぎっしりと内容の詰まった高密度な描写。命を賭け金にした騙し騙されの、ぎりぎりの世界。フレンチ・ノワールの美学にも相通じるようなモノトーンの魅力が感じられる。ストーリーのシンプルさ、短さにも関わらず、この作品がひときわ輝いて見えるのは、言葉数の少ない語り口の魅力だろう。  まるで悪党パーカーシリーズの幕開け描写のようだ。いきなり闇のモーテルで三つの死体。広がりつつある血液の流れ。そこで、すぐさま舞台はフラッシュ・バック。どうだろう。これだけでも十分パーカーを想起させないだろ...
  • 黒頭巾旋風録
    黒頭巾旋風録 黒頭巾旋風録 (新潮文庫) 黒頭巾旋風録 題名:黒頭巾旋風録 作者:佐々木譲 発行:新潮社 2002.8.20 初版 価格:\1,700  北海道人である限り北海道そのものへの興味を誰でもいくばくか持っているのだと思う。わずか1世紀ちょっと前まで蝦夷と呼ばれていた真新しい大地であり、今も地名その他でアイヌ文化が残るため、いやでも日本(倭人)の異民族迫害の歴史に目を向けざるを得ない土地。ぼく自身、書棚には多くのアイヌの本、北海道の自然の本があって、手に取ることも多い。購読している北海道新聞には民俗学的な読み物はもとより、今でも少数民族からの抗議の声が届くことが多い。  そうした土壌に美味い水や食材を得て、風土の美しさに目を奪われて生きている人であれば、ましてや佐々木譲のように作家であれば、どこかで北海道という意識に目を背けることができず、何...
  • ソウルケイジ
    ソウルケイジ 題名:ソウルケイジ 作者:誉田哲也 発行:光文社 2007.03.25 初版 価格:\1,600  『ストロベリー・ナイト』の続編、というよりむしろ主任刑事・姫川玲子のシリーズ宣言、と読んだ方がいいかもしれない。一作目ではいきなりの予期せぬ犯人と、いきなりの殉職者という、過激すぎたストーリー設定が、シリーズ化とは別方向を目指した単発作品というイメージが強かったが、『ジウ』のシリーズといい、この作者、美人ヒロインへのこだわりが強いらしく、『ジウ』完結の一方で永く使えるヒロインとして姫川玲子というキャラクターへのこだわりをより深めてきたのかもしれない。  永く持つヒロインは(ヒーローにしても)、87分署シリーズのスティーヴ・キャレラ刑事みたいでなければならないかもしれない。あまり特徴があり過ぎてもいけない。その特徴に引っぱられて、事件そ...
  • 我らが少女A
    我らが少女A 題名:我らが少女A 著者:高村薫 発行:毎日新聞出版 2019.07.30 初版 価格:¥1,800  数十年前の昔、池袋の文芸坐辺りでアラン・レネの映画を観ているときの感覚を想い出す。それは他人の夢を見せられているような感覚である。幾人もの夢のカタログのページをめくるような感覚。移り行く風景。心の変化。場面転換。脳内スペーストラベル。心象から心象への旅を通して、次第に明らかにされてゆく12年前の殺人事件とその真相。  あまりに久々に手に取った高村作品は、やはり巷間に溢れる凡百のミステリーとは格段の別物であった。気高くさえ感じられる文体の凄み。観察眼の精緻。人間内部の幾層もの意識の深部へ沈潜して照射してゆく光の明るさ。彼らを囲繞する世界の仄暗さ。季節の匂い。風の触感。様々な言い尽くせぬ表現方法を総動員した小説作法は、やはり高村流と言うべ...
  • sorahaaoika
    空は青いか 作者:花村萬月 発行:講談社 2005.05.20 初版 価格:\1,500  「小説現代」で二年間に渡り連載していたエッセイを纏めたもの。作中の作者記述によれば、以前は小説を続けざまに書いていたが、小説の合間にエッセイを書くことで、小説とは別次元、つまり現実であり嘘ではないところの文章を書く気楽さを味わい、ふたたび小説という嘘を書くしんどい作業により集中することができるようになったそうである。  エッセイはいわゆる緩衝材みたいな役割を果たしているらしい。それは文章を読んでもわかる。小説の一行一行に込められた緊張からすっと離れたところで、気分の赴くままに書いてしまえるところがあるのだろう。肩の凝らない、オヤジギャグ塗れの、人間・萬月の姿がここにある。  さりとて平均的な日本人とは縁遠い人生を送ってきたこの作家の軌跡を知りたいと思うのは、萬...
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