wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「暁に立つ」で検索した結果

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  • 暁に立つ
    暁に立つ 題名:暁に立つ 原題:Split Image (2010) 著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:山本博訳 発行:早川書房 2010.12.15 初版 価格:¥2,000  パラダイス警察署長ジェッシィ・ストーンのシリーズと女性探偵サニー・ランドルのシリーズが、本書で合流する。無念なことに、パーカーはこの作品を最後に他界してしまったので、どちらのシリーズにとっても、この作品が最終作となってしまった。逆に言えば、ここで二つのシリーズが合流しておいてよかったと言えるかもしれない。特に最終章を読み終わるときに、ぼくはそう感じた。突然死と伝えられる作者であるが、無意識のうちに、作家の魂がシリーズを閉じようとしていたのかもしれない。  ジェッシィもサニーも、恋愛と結婚については今一つうまくゆかず、ともにカウンセラー...
  • 十字路に立つ女
    十字路に立つ女 十字路に立つ女 (講談社文庫) 題名:十字路に立つ女 作者:逢坂剛 発行:講談社<推理特別書き下ろし> 1989年2月28日 初版 定価:\1,240(本体\1,204)  短編集『幻のマドリード通信』でお馴染みの、私立探偵もどき・岡坂神策を主人公に据えた長編作品。私立探偵もどきというのは彼の構えているのが「岡坂探偵事務所」ではなく「現代調査研究所」であるからだ。何を研究しているのかよくわからないながらも、とにかく何でも屋みたいなもので、自分の全能力を駆使してとにかく職業化しようという試みであることは間違いないみたいだ。岡坂神策は私立探偵と呼ぶにはインテリであり、スペイン現代史のアマチュア研究家という一面も持ち、時にはその種の研究書に原稿を寄せたりもする。探偵の仕事を請負いながら、翻訳もやるし執筆もやるという奇妙な職業なのだ。税務署へは著述業で...
  • ロバート・B・パーカー
    ...2009 山本 博 暁に立つ 2010 山本 博 サニー・ランドル・シリーズ 家族の名誉 1999 奥村章子 二度目の破滅 2000 奥村章子 束縛 2002 奥村章子 メランコリー・ベイビー 2004 奥村章子 虚栄 2006 奥村章子 殺意のコイン 2007 奥村章子 コール&ヒッチ・シリーズ アパルーサの決闘 2006 山本 博 レゾリューションの対決 2007 山本 博 ブリムストーンの激突 2008 山本 博 フィリップ・マーロー・シリーズ プードル・スプリングス物語 1989 菊池 光 夢を見るかもしれない(文庫化に際し『おそらくは夢を』に改題) 1991 石田善彦 その他 銃撃の森 1979 菊池 光 愛と名誉のために 1983 菊池 光 過ぎ去りし日々 1994 菊池 光 ガンマンの伝説 2001 菊池 光 ダブルプレー 2004 菊池 光 われらがアウルズ ...
  • 探偵、暁に走る
    探偵、暁に走る 題名:探偵、暁に走る 作者:東 直己 発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2007.11.15 初版 価格:\2,000  『ライト・グッドバイ』で、もしかしこれにて、ほぼ終わっちまったのか、と思えたのが、本シリーズへの不安だった。三つのシリーズを交錯させて終焉を迎えさせた感のあるサイコ事件、そして道警腐敗神話。もうすべて終わっちまったんだな、という印象が。  しかし畝原シリーズも本シリーズも、この2007年という同年に、新たな形で世に出してしまった東直己。かつての一作産むのに苦労していた時代とは違うのか。誰がどう見てもペースの速まっているように見える彼の創作態度に、著しい昨今の変化を感じないものはいないだろう。  娯楽小説としての手抜きのあり方を覚えたというのもあるのかもしれない。手抜きというと語弊があるが、ある程度、別ジ...
  • ハポン追跡
    ハポン追跡 ハポン追跡 (講談社文庫) 題名:ハポン追跡 作者:逢坂剛 発行:講談社 1992.9.30 初版 価格:\1400(本体\1,359)  短編集『クリヴィツキィ症候群』、長編『十字路に立つ女』でお馴染みの現代調査研究所の調査員・岡坂神策のシリーズで、今度もまた短編集。作者は当分、この人物をシリーズ化してゆくに違いない。スペイン現代史に造詣が深く、フラメンコ・ギターのレッスンに通い、御茶水に事務所と塒(ねぐら)を構え、古書店巡りと来ているので、まあ作者にとっても読者にとってもなかなか親しみの沸く人物ではあるのだ。  短編集の感想は難しいのだけど、ぼくのように気に入った作家の本は全部読みたい、だから読んじゃう、という趣向の人でなければ、好き好んで短編集なんかに手を出さないのかもしれない。まあ、そういう意味では逢坂剛という比較的短編の名手と言...
  • 死者の日
    死者の日 死者の日 題名:死者の日 原題:Dia De Los Muertos (1997) 作者:Kent Harrington 訳者:田村義進 発行:扶桑社 2001.09.30 初版 価格:\1,524  『転落の道標』を読んだときには、エルロイとトンプスンの中間地点に立つ作家と感じていたケント・ハリントン。しかし本作を読んでみてこうも印象が違うと、まだまだこの作家の才能は出尽くしてはいないのだとの期待感が募ってくる。本書はよりエルロイに近い熱気を感じさせる作品。  舞台はメキシコのティファナ。破滅への秒読みを開始した麻薬取締官の24時間が始まる。最悪に最悪を重ねるなかで、ピュアな純愛を持ち続ける男。よりリアルで偶像にはなり切れない、弱さだらけの女。何とも距離感がありながら、情念と人生が絡まり合う関り方だ。皮肉で過酷で人生そものの男女関係だ。これ...
  • 逢坂剛
    リンク名 逢坂 剛 公安警察シリーズ 裏切りの日日 1981 百舌の叫ぶ夜 1986 幻の翼 1988 砕かれた鍵 1992 よみがえる百舌 1996 鵟の巣 2002 岡坂神策シリーズ クリヴィツキー症候群 1987 十字路に立つ女 1989 ハポン追跡 1992 あでやかな落日 1997 カプグラの悪夢 2001 墓石の伝説 2004 牙をむく都会 2006 イベリア・シリーズ イベリアの雷鳴 1999 遠ざかる祖国 2001 燃える蜃気楼 2003 暗い国境線 2005 鎖された海峡 2008 ウエスタン アリゾナ無宿 2002 逆襲の地平線 2005 禿鷹シリーズ 禿鷹の夜 2000 無防備都市(禿鷹の夜 2) 2005 禿鷹狩り 2006 ノンシリーズ長編 スペイン灼熱の午後 1984 カディスの赤い星 1986 さまよえる脳髄 1988 斜影はるかな...
  • 限界集落株式会社
    限界集落株式会社 題名:限界集落株式会社 作者:黒野 伸一 発行:小学館 2011.11.30 初版 2012.2.5 4版 価格:1,600  限界集落とは、人口の50%以上が65歳以上の高齢者で構成され、運営維持が困難となった集落のことを指す。かつては過疎という一言で人口のみに注目されていたが、現在では国家規模での高齢化・少子化に伴って、人口のうちの年齢分布に焦点を当て、未来への維持存続可能性というところに注目した観点であろうと思われる。  実は北海道で住んで頃は、この概念はごく当たり前に道新紙面に日常的に登場していた。実際、北海道の山野を走ると、ときどきこうした限界集落に行き当たる。疎らに建つ崩れかけたような古い農家と、人っ子一人歩いていないアスファルトに、鳥や蝉のかまびすしい声。めまいがするほど静かでひそやかな村に、細々と営まれる畑地。極度な寒...
  • 花村萬月
    花村萬月 <性と暴力の極北に立つ文学>  血と暴力。発情と性交。男と女。国家を越え、法を越え、表現の極北に迫る作家。唯一無二。今、日本で最もやっかいなものごとを表現し尽くしている作家が、花村萬月である。一度、ファンとして氏と話す機会を得たことがある。北海道のこと。旅のこと。ブルース・ギターのこと。そしてそれらを題材にした作品のこと。誰の胸にもある混沌を、惜しげもなく表情に出してしまう人だなとの印象がある。作家に見えない。それでいて、最高の文章を駆使する人である。現代日本の頂点に立っている作家だと、ぼくは確信しているのだが。 王国記シリーズ ゲルマニウムの夜 1998 王国記 1999 汀にて 2001 雲の影 2003 青い翅の夜 2004 午後の磔刑 2005 象の墓場 2006 神の名前 2008 風の篠 2010 百万遍シリーズ 百万遍 青の時代 20...
  • 判決破棄 リンカーン弁護士
    判決破棄 リンカーン弁護士 題名:判決破棄 リンカーン弁護士 上/下 原題:The Reversal (2010) 作者:マイクル・コナリー Michaeel Connelly 訳者:古沢嘉通 発行:講談社文庫 2014.11.14 初版 価格:各\830  リンカーン弁護士も第三作目。一作目が時を経ず映画化されたことで、ミッキー・ハラーについては、売れっ子男優マシュー・マコノヒーの顔がイメージされるようになってしまった。ちなみに、ハリー・ボッシュの方は今春ようやくドラマ化が決定とのことで、映画には一本もなっていないのが不思議であるが、ぼくはボッシュの顔は最初からマイケル・ダグラスでイメージしている。ボッシュ第一作『ナイトホークス』の刊行が1992年だったから、おそらく1989年の映画『ブラック・レイン』あたりの印象がぼくの中でマッチしたのである。...
  • 魔術師の夜
    魔術師の夜 題名:魔術師の夜 上/下 原題:Shell Game (1999) 作者:キャロル・オコンネル Carol O Connell 訳者:務台夏子 発行:創元推理文庫 2005.12.28 初刷 価格:各\800  キャロル・オコンネルの作風はリアリティとはおよそ縁がない。むしろ現実世界から、どこまで遠くに飛ぶことができるかを、いつも実験しているように見えるところがある。  二作前でいきなり姿をくらました現職刑事のマロリーは、前作では故郷で一つの町を文字通り壊滅に追い込み、今また本作で都市の元の部署に帰ってきている。公務員とは思えぬ自由奔放振りが羨ましいが、元ストリート・チルドレンであり、善悪の彼岸に立つというヒロインの魅力は、そもそもそこにある。  これまでのどの作品も多くの点で、魔術・奇術・トリック・仕掛け・装置といったもの...
  • ブロッサム
    ブロッサム ブロッサム (ハヤカワ・ミステリ文庫―アウトロー探偵バーク・シリーズ) ブロッサム (Hayakawa Novels) 題名:ブロッサム 原題:BLOSSOM (1990) 作者:ANDREW VACHSS 訳者:佐々田雅子 発行:早川書房 1992.5.31 初版 価格:\1,900(本体\1,845)  『ミステリ・マガジン』(1992年7月号)のブック・レビューで関口苑生氏が散々にこき下ろしているのがこの作品なので、それほど望みのない作品なのかと疑心暗鬼でこの本を手に取ったのだが、なんとまあ、大変重要な、バーク・シリーズの転機になる作品じゃあございませんか?  というのはバークがニューヨークから離れて独りでタフ・ガイみたいに事件にわりあい積極的に挑んだりするってこともあるかもしれない。お偉いさんや写真の売人を手玉に取って世のために...
  • 雪月夜
    雪月夜 題名:雪月夜 作者:馳星周 発行:双葉社 2000.10.5 初版 価格:\1,900   馳星周のストーリーテリングの醍醐味が溢れる作品でありながら、作品の基調を成す人間という素材において相変わらず救いがない。つまりせっかくのロシア-日本の国境地帯である根室という半島を舞台にしていながら、そこで紡ぎ出されるのがやり切れぬ憎悪、救い得ぬ滅びでしかない。  馳星周はあるテレビ番組の取材で国境地帯としての根室を訪れ、新宿歌舞伎町に通じる異国との接点、その距離のなさに驚いていた。放映されたのは二年くらい前だったろうか? 根室の漁業、地場産業レベルでの国交という現状を見聞する馳には紛れもない作家の表情が浮かんでいたように思う。格好の題材を得て好奇心をあらわにする作家の鋭い表情をぼくは未だに覚えている。  だからこそ、結果的にはいつもの滅びの...
  • 二十五の瞳
    二十五の瞳 題名:二十五の瞳 作者:樋口毅宏 発行:文藝春秋 2012.5.30 価格:\1,400  やっぱりやってくれた、この作家。鬼才、あるいは奇才などという表現ではまだ足りない。美しくもおぞましい物語の数々を書き続け、常に読者の側の予測を拒むアイディアに満ちた、異郷や異形の樋口ワールドといった、如何にもケレン味たっぷりの一冊が、またもここに登場した。  読書当時、ぼくは二度ほど小豆島を訪れることになっていた。小豆島の知識を仕入れるのに通常の観光本を思い描く前に、読み残しのこの一冊が念頭にあった。果たして小豆島の、文字通り「豆」知識の役に立つかどうかは期待の埒外に置くとして。  内容を見て驚く。私小説? と思わせるプロローグに始まるが、それはエピローグとともに、四つの短編小説を挟む作者のモノローグ。ローグ、ローグと、五月蝿くなってしまい...
  • 殺人者の手記
    殺人者の手記 題名:殺人者の手記 上/下 原題:En Helt Annan Historia (2007) 著者:ホーカン・ネッセル Håkan Nesser 訳者:久山葉子 発行:創元推理文庫 2021.04.23 初版 価格:各¥1,040  的確かつ良い邦題、と思う。まさに本書は殺人者の手記によってスタートするからだ。(ちなみに原題は「まったく違った物語」)  まず、この手記が実に手ごわい。謎めいた文章の向こう、やがて明らかになる過去の犯罪。この手記だけで終わるノワールであっても構わないように思う。ここまで文章に拘った、ある種芸術的とまで呼べる手記であるのなら。  しかしこの不気味な手記に、登場する人物たちが5年後、殺人の標的にされ、その殺害予告が次々とある刑事の自宅に届くことで、物語は立体的な複合構造を呈し始める。現在と過去。現...
  • 孤影
    孤影 孤影 (ヴィレッジブックス) 題名:孤影 原題:The Upright Man (2002) 作者:マイケル・マーシャル Michael Marshall 訳者:嶋田洋一 発行:ヴィレッジブックス 2007.1.20 初版 価格:\940  何と言っても前作『死影』のインパクトの強さが忘れられない。熾火のように灼熱をたくわえ残しながら、一年半というもの、このシリーズを待ち続けた。三人の主人公、一人の狂った殺戮者。この追走と逃走のゲームは、三部作を手にするまで、終わることがない。  前作では、ウォード・ホプキンス(CIA)とジョン・ザント(刑事)の二つの違ったストーリーが、殺戮のクロスファイアの中で合流するまでのミステリアスな緊張が、何と言っても印象に残る。二つの流れに絡んでゆく女性捜査官ニーナの存在がクールで魅力的である。  本作でも、三...
  • それを愛とは呼ばず
    それを愛とは呼ばず 題名:それを愛とは呼ばず 作者:桜木紫乃 発行:幻冬舎 2015.02.13 初版 価格:\1,400  桜木紫乃はぼくの分類ではノワール作家である。釧路出身の作家というだけで興味を覚えるのは、高城高という釧路に生まれた和製ハードボイルド作家の作風を想起できるからだろう。実際に、似ている部分がなくもない。時代を違え、性別を超えても、なおかつ似ているのは、釧路という土地のもたらす地の果てのような孤立した寂しさと、霧や寒さを携えてなおも独歩し得るだけの魂の強さ、そして物語としての陰影の濃さ、等々、であろう。  本作では桜木紫乃得意の釧路、という風土は、わずかな部分でしか使われていない。しかし、釧路の風土をインスピレーションさせるような、もう一方での土地としての新潟、さらに新千歳空港からさほどの距離にもないのだが、湖畔に立つ荒れた別荘...
  • toropique
    倒錯の罠 女精神科医ヴェラ 女精神科医ヴェラ 倒錯の罠 (文春文庫) 題名:倒錯の罠 女精神科医ヴェラ 原題:Tropique Du Pervers (2000) 作者:ヴィルジニ・ブラック Virginie Brac 訳者:中川潤一郎 発行:文春文庫 2006.09.10 初版 価格:\781  いやはや、最近の小説は屈折した犯罪を描くものが多いが、ここまでストレートに屈折した世界を抉り出すようなクライム・ノヴェルは少ないのじゃないか。グロテスクということであれば最近はとんと麻痺してしまうほど、大量生産されている犯罪の重度化傾向にあるのだが、今さらこの王道を進んでなお印象的な作品を生み出す作家というのはやはり相当の力量を感じさせれくれる人が多い。  単純な捜査サイド・ヴァーサス・犯罪者サイドという図式を破壊しての、正邪入り乱れるサバイバル・ゲームと言...
  • kawaki
    待っていた女・渇き 作者:東 直己 発行:ハルキ文庫 1999.12.18 初刷 価格:\914  私立探偵畝原のシリーズのどちらも絶版であった初短篇と初長編を組合わせて改めて登場した文庫一冊なのだが、東ファンにはどんなにか有り難いことか。短篇『待っていた女』は1995年『野性時代』に掲載。畝原の初登場作である。『渇き』は勁文社より1996年と1999年に発行されている長編作品。  これを読むと、東直己のススキノ探偵シリーズに比べて、畝原のシリーズが如何に生真面目な熟成された和製ハードボイルドであるかがよくわかるし、まず畝原との出会いには誰しも東直己ファンですら驚く。ここまで直球勝負ができる作家だったのか? と。  誰もが東直己ファンであれば感じることだと思うのだが、すすきの探偵はやはり若かった作者の等身大であり、畝原は中年を過ぎ行く地点に立つ作者の...
  • ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門
    ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門 題名:ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門 原題:Telling Lies for Fun Profit (1981) 作者:ローレンス・ブロック Lawrence Block 訳者:田口俊樹・加賀山卓朗  発行:原書房 2003.01.29 初版 価格:\1,500  巨匠ブロックの小説入門ということで、役に立つかどうかはともかく、どんな内容なのだろうと最初のページを繰ってみた。するとスー・グラフトンによる序文がまずあり、これを読んだだけで、本書がとても面白そうだと感じ、読み始めたのだが、あまりの内容の面白さと読みやすさ(流石!)に脱帽しつつ、尊敬する世界レベルのエンターテインメント作家の抽斗を覗かせてもらった。  小説家をめざす本ではあるものの、むしろ活字中毒者であれば誰が読んでも楽しめる内容...
  • らせん階段
    らせん階段 題名:らせん階段 原題:Some Must Watch (The Spiral Staircase) (1933) 作者:エセル・リナ・ホワイト Ethel Lina White 訳者:山本俊子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2003.9.30 初版 価格:\1,200  1946年に公開されたアメリカ映画『らせん階段』(ロバート・シオドマク監督、ドロシー・マクガイア主演)の原作だそうだが、本よりも映画の方が人気が高かったのかもしれない。ポケミス名画座でも、翻訳要望の強さでは『ハイ・シエラ』に続いて第二位という強力さである。しかもその後TVドラマを含めれば三度もリメイクされている。個人的には1975年の劇場版リメイク作品を見てみたい気がしている。ジャクリーン・ビゼット主演だから。  なぜさほどに人気が高いかという理由の一つに、当時ヒッチコック...
  • 笑う山崎
    笑う山崎 笑う山崎 (ノン・ポシェット) 笑う山崎 (ノン・ノベル) 笑う山崎 題名:笑う山崎 作者:花村萬月 発行:祥伝社 1994.3.6 初版 価格:\1,500(本体\1,456)  連作短編集……と言うけれど、 結果的には長編小説だな、 これは。最初の一作『笑う山崎』50枚のみを書いたつもりの作者が、編集さんに言われて続編を連作形式で書いて行ったらしい……とあとがきに書いてある。作者にとっては最初の一作だけで十分、あとは付け足しだって言うけれど、ぼくみたいな読者は、ストーリーのない短編はお手上げだから、連作になってよかった (^^;)  しかも途中からはもう完全に続き物で、一作一作が短編だなんてとても思えないよお。その上、作者の折り紙が付いてないのだけど一作目より面白くなってしまうところが、「娯楽に堕した」のかもしれない。それならば、ぼくは...
  • リンカーン弁護士
    リンカーン弁護士 題名:リンカーン弁護士 上/下 原題:Lincorn Lawyer(2005) 作者:マイクル・コナリー Michael Connelly 訳者:古沢嘉通 発行:講談社文庫 2009.6.12 初刷 価格:各\790  リーガル・サスペンスは法曹界に身を置く人により副業として書かれ、それが成功に結び付けば作家業として転身、というパターンが多いように思う。だからこそ、業界に身を置かぬが既にプロである犯罪小説作家が、このジャンルに手を付けるというのは、対本職という意味でのハンディを負っており、それゆえに相応の決意と準備とが必要とされるものだと思う。  アメリカン・クライム・ノヴェルの現役頂点に立つ作家と言って過言ではないコナリーでさえ、本書の執筆に5年を費やしたそうである(ボッシュものだと通常執筆にかける時間は2年)。法曹界もののス...
  • 軋み
    軋み 題名:軋み 原題:Marrið í stiganum (2018) 著者:エヴァ・ヴョルク・アイイスドッティル Evu Björg Ægisdóttur 訳者:吉田薫 発行:小学館文庫 2022.12.11 初版 価格:¥1,060  アイスランド発ミステリが翻訳されるのは実は奇跡的なことである。アイスランドと言えば、ラグナル・ヨナソンがここのところ沢山邦訳されてきたことで注目される。新たな北欧ミステリーの産出国としてその活躍が目立ち始めた国である。  アイスランド国民は36万人しかいないので、アイスランド語での小説では食ってゆけないそうである、それゆえ、英国のミステリー賞を獲得することで英語に翻訳されるところから小説家としてのスタートを切れることになる。世界への拡散のスタート地点に立つことが何よりも肝心なのだ。おそらく突破すべきは狭き門だと想...
  • 銀河の壺なおし
    銀河の壺なおし 題名:銀河の壺なおし 原題:Galactic Pot-Healer (1969) 著者:フィリップ・K・ディック Philip K. Dick 訳者:大森望訳 発行:ハヤカワ文庫SF 2017.10.30 新訳 価格:¥820  翻訳ミステリ札幌読書会に初めて参加させて頂く機会を得たのだが、最初の課題本が何とこれ。ミステリでもなければ、ディックの代表作品でもなく、どちらかと言えばゲテモノ扱いされる異色作。  初めて会う方ばかりだったが、ぼくのテーブルにはロバート・クレイスの翻訳者である高橋恭美子さんや、ヒギンズの大ファン氏でありながら何故かディックにも詳しい方がおひとりいて、この作品の位置づけを教えて頂けた。  どちらかと言えば、傑作を二つ三つものにした後の疲労回復のために肩の力を抜いて書いた作者のお遊び的作品なのではないか...
  • 孤独な鳥がうたうとき
    孤独な鳥がうたうとき 題名:孤独な鳥がうたうとき 原題:Peril (2004) 作者:トマス・H・クック Thomas H. Cook 訳者:村松 潔 発行:文藝春秋 2004.11.10 初版 価格:\2,300  何だか似たような雰囲気の小説を読んだことがあると思った。はっきりとストーリーは思い出せないのだが、クリスマスの夜のある一日だけを描いてとてもお洒落だったミステリー、エド・マクベインの『ダウンタウン』である。包装紙は要らないから、そのまま直接カバーにリボンをつけてクリスマス・プレゼントにしたいような本であり、それもクリスマス直前に(イブだったかどうかは記憶にない)、出版されたものだったと思う。  エド・マクベインならこのような本はお手のものだと思う。そんなお洒落で軽妙なミステリーを、それでいて人生の艱難辛苦を舐めた人でなくては決して...
  • ハンティング・タイム
    ハンティング・タイム 題名:ハンティング・タイム 原題:Hunting Time (2022) 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 発行:文春文庫 2023.9.30 初版 価格:¥2,800  ディーヴァーの主力シリーズのリンカーン・ライムが、全身麻痺で動けないヒーロー(現代版アームチェア・ディテクティヴ)であるのに対し、近年になって登場したコルター・ショウはひとところに落ち着くことのない動く探偵である。初期シリーズであるジョン・ペラムに似ているが、そちらはロケ・ハンターという職業で、本シリーズ同様、米国内のあちこちに活躍の舞台を移していた。作者としてはペラムの進化型として、コルター・ショウのようなひとところに定住しない放浪型主人公を新たに生み出したのではないだろうか。  当初三部完結と言われた本シリーズ...
  • 愛情
    愛情 愛情 題名:愛情 作者:花村萬月 発行:文芸春秋 2007.06.30 初版 価格:\1,790  花村萬月という作家の本は、重たいと思われるものが多いのだが、時に、さりげなくこういう本が世に出ることがある。昔はこうしたものを短い長編作品でスピーディに作っていたこともあったのだが、最近は、最低限の極みという気配をどの書物にも忍ばせている。それは本書のような連作短編小説集でも同様の、この作家の姿勢だ。ぼくにはその姿勢が真摯すぎて、いつも眩しい。  変わった構成である。すべては女性を主人公とした一人称短編小説。全八篇。その女性たちの誰もが、「情さん」と呼ばれる作家とのひと時の交情を語る。交情そのものが小説のメインテーマであることもあれば、交情は(あるいは「性交は」と言い直してもいい)作品のほんの副材料であって、そうでない独白部分のほうが主軸、と読み取れる作...
  • エウスカディ
    エウスカディ 題名:エウスカディ 上/下 作者:馳 星周 発行:角川書店 2010.9.30 初版 価格:各\1,800  日本冒険小説協会ができた頃、その名の通り、日本では冒険小説の名が一躍読書会を賑わした。これまでとはスケールを異にした日本の作家による世界を舞台にした冒険小説が次々と書かれ、時代の寵児とも言われるべき作家の精鋭たちが登場したのだ。  船戸与一、逢坂剛、佐々木譲、森 詠、いずれの作家もその後日本のエンターテインメントを代表するような活躍を見せ、確かにあの時代に金字塔を掲げて今、さらに題材を求め、語り部の術に磨きをかけ冒険小説を追求する道を選ぶ者もあれば、異なるジャンルや時代のニーズにフィットして自分を変えてゆく道を選ぶ者もあったろう。  その日本冒険小説協会の会長にはハードボイルド芸人・内藤陳が会長となったわけだが、彼が...
  • 硝子の太陽 R -ルージュ
    硝子の太陽 R -ルージュ 題名:硝子の太陽 R -ルージュ 著者:誉田哲也 発行:中央公論新社 2016.5.15 初版 価格:\1,500-  『ジウ』のシリーズ自体が、現実性に乏しい歌舞伎町封鎖という事態まで風呂敷を広げてしまったものなので、その続編がその影響を受けて軽めになってしまうのも仕方ないと思うが、事実続編として次々と作品を上梓してゆかなければならいのも、作者、あるいは版元の方向性によるものだろう。一旦完結したかに見えた『ジウ』シリーズの続編として『歌舞伎町セブン』が書かれた時点で、何もシリーズに無理やり繋げることはなかったように思うし、『国境事変』その他でこのシリーズに着き居続けた東刑事が、ここで姫川玲子のシリーズに交わることで、『ジウ』シリーズ生き残りの主要キャラクターが、同じ地平に立つことになった。  『ジウ』シリーズは大がかりな事...
  • 斜影はるかな国
    斜影はるかな国 斜影はるかな国 (朝日文芸文庫) 斜影はるかな国 斜影はるかな国 文春文庫 斜影はるかな国 (講談社文庫) 題名:斜影はるかな国 作者:逢坂剛 発行:朝日新聞社 1991.07.01 初版 定価:\1,650(本体\1,602)  さて悪評高い本書。バンディーダ(馳星周)・五条(吉野仁)・関口さん(関口苑生)という黄金トリオが口を揃えて「今度の作品はねー」というのだから、なかなか読む気が起こらなかったのも当たり前と言えば当たり前。でも600ページを越える逢坂の最新長編小説で、しかもスペインを舞台にした冒険小説とくれば、どんなに前評判が悪くても書店の軒先を見ただけで手が延びてしまう。買ってしまう。読んでしまう。これまでの逢坂剛は何といってもそれに値する作家であったからなのだ。  さて感想。まあまあ読ませる冒険小説ではあると思う。...
  • 警官の血
    警官の血 警官の血 上巻 警官の血 下巻 題名:警官の血 上/下 作者:佐々木 譲 発行:新潮社 2007.09.25 初版 価格:各\1,600  『うたう警官』シリーズ、そして『駐在刑事』と、ここのところ警察小説に新たな才能を遺憾なく発揮している佐々木譲が、その集大成というべき大作として完成させたのがこの作品。戦後三代に渡って警察官を継承した一家の大河小説である。もちろん大きくは戦後史を背景にしたビルディングス・ロマンとしての大きなうねりを読み取れるほどに、作者の小説史のなかで大きなエポックとなる作品であることは確実である。  戦後上野の難民の群れから、朝鮮戦争特需で復興に湧く東京の姿、日米安保協定の時代と全共闘の歴史、さらに現代へと連なる大きな歴史のさなか、二つの未解決殺人事件と駐在警官の謎に満ちた死があった。その息子による真相の追究と、そのさらに...
  • 東京島
    東京島 題名:東京島 作者:桐野夏生 発行:新潮社 2008.05.25 初版 2008.7.20 8刷 価格:\1,400  作家の本分は、いかに人を食った小説を書いてゆくかということに尽きるんじゃないか、と思うことがよくある。馴れ、ということで循環する作家があり、そこに同じように、馴れ、という態度で委ねる読書があってもそれはそれで構わないと思う。お互いの約束事が好きな読者タイプが好きな人もいれば、そういう読書を求めたい、癒されたいと思う気分だって、誰にもないとは言えないだろうから。  しかし、ぼくがリスペクトしたいと思うクリエイターは、どちらかと言えば、馴れ、という領域を逸脱しようと、常にチャレンジする精神を維持し続けている部類の作家である。その意味では、日本の女流娯楽小説というフィールドは、実に作家という素材に恵まれており、宮部みゆき、篠田節...
  • カリ・モーラ
    カリ・モーラ 題名:カリ・モーラ 原題:Cari Mora (2019) 著者:トマス・ハリス Thomas Harris 訳者:高見浩訳 発行:新潮文庫 2019.8.1 初版 価格:\890  ハンニバル・シリーズを完結させてから13年も鳴りを潜めていたトマス・ハリスが帰ってきた。それもレクター博士シリーズのようなサイコ・サスペンスではなく、初期の『ブラック・サンデー』のような国際テロ小説でもなく。作者が現在生活し、その地に魅力を感じてやまないマイアミを舞台として、犯罪者たちの激闘をブラックでアップテンポな筆致で描きつつ、ひとりのニューヒロインを際立たせたエンターテインメント小説という形で。  本書は、『スカーフェイス』でお馴染みの、実在のコロンビア麻薬カルテル王パブロ・エスコバルがマイアミに実際に遺したとされる豪邸が軸となる。現在では何代目...
  • 凍てついた痣
    凍てついた痣 題名:凍てついた痣 原題:A Faint Cold Fear (2003) 著者:カリン・スローター Karin Slaughter 訳者:田辺千幸 発行:パーカーBOOKS 2021.12.20 初版 価格:¥1,360  カリン・スローター作品群は、第一期のグラント郡、第二期の捜査官ウィル・トレントの二本のシリーズとそれ以外の独立作品に分類される。本書は第一期の過去シリーズのグラント郡第三作の本邦初翻訳作品である。  昨年一二期を合体させたミステリー大作『スクリーム』によって、現在のウィルシリーズと過去のグラント郡シリーズが一つになった。二つの時代を股にかける連続殺人事件の存在が明らかとなり、現在と過去が交互に語られる合体作が奇跡のように実現したのである。日本の読者はそれを体験した後で、またゆったりと過去シリーズにお目にかかることに...
  • night passage
    暗夜を渉る 暗夜を渉る―ジェッシイ・ストーン・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:暗夜を渉る 原題:Night Passage (1997) 著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:菊池 光 発行:早川書房 2000.12.15 初版 価格:\1,900  忘れかけていたスペンサー・シリーズをおよそ10年くらいの時間を隔て、ここのところ継続して読んでいる。10年以上昔に初めてパーカーを読んだ時は『儀式』まで一気読みだった。その最中にノン・シリーズで『銃撃の森』を、その後ぽつんと一冊だけ出たときの『過ぎ去りし日々』をぼくは読んだ。特に『過ぎ去りし日々』は、その中身の濃さに驚き、パーカー作品をそんなにも楽しむことのできた自分に少なからず驚きを感じたものだった。  さて今ぼくがなぜスペンサー・シリーズの追いかけを今...
  • 長い長い殺人
    長い長い殺人 題名:長い長い殺人 作者:宮部みゆき 発行:光文社 1992.09.15 初版 価格:\1,400  ある時期に買った本なのだが、しまい込んでしまったまま忘れ去り、それを15年も経ってから取り出して突然読み始める、というようなことをあなたはするだろうか。ぼくは滅多にそんなことはしないで、そのまま読まずに終わってしまうか、そのまま忘れ続けるままか、ということが多いように思う。いずれにせよ、我が家には読まずに置かれている本が山のように眠っている。もしかしたらもう一生本を買わなくても、これらの本だけで足りてしまうのかもしれない。年金生活に備えて、これはこれで持っていても悪いことではないのかもしれない。  さて、そんな眠れる本の一冊が、珍しいことに書棚の奥から取り出されることになった。きっかけは、WOWOWが自社製作で作るドラマWでこの作品...
  • ブリムストーンの激突
    ブリムストーンの激突 題名:ブリムストーンの激突 原題:Brimstone (2009) 著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker 訳者:山本博訳 発行:早川書房 2009.10.15 初版 価格:¥2,000  「ウエスタン」「西部劇」は、今や死後になりつつある。そんなウエスタンを小説で読むぼくは化石のような存在なのかもしれない。そもそも西部劇とは映画のジャンルであって小説ではあり得ないとさえ認識されているかもしれない。でもアメリカではその昔ペーパーバックで西部劇作家が沢山いたのである。最近では、村上春樹がエルモア・レナードの西部劇『オンブレ』を訳したので、ウエスタン・ノヴェルも少しだけ市民権を示すことができたかな? それにしてもエルモア・レナードが西部劇を書いていたなんて、とぼく自身驚いたのは事実。アメリカには、やはりアメリカ文...
  • カフーを待ちわびて
    カフーを待ちわびて 題名:カフーを待ちわびて 著者:原田マハ 発行:宝島社文庫 2022/4/19 12刷 2006/4 初版  価格:¥503  原田マハが小説家デビューを果たした第一回日本ラブストーリー大賞受賞作品とのことだが、読めば、小説を物語る筆力と言い、キャラクターたちの際立った個性と描き分けと言い、舞台となる沖縄の離島のリアルな描写と言い、何とも圧巻の完成度である。  『カフーを待ちわびて』。あまり聴かないが、なぜか気になるこのタイトル。ぼくを含め、古いサッカー・ファンならば、あまりにも有名なあのブラジル代表選手カフーの名とプレーとを今も心に焼き付けていることだろう。しかし彼の物語とは本書は何の関わりもない。  巻頭に説明がなされている。「カフー【果報】与那喜島の方言。いい報せ。幸せ」とある。「与那喜島」自体が架空の島なので、この...
  • 小さい予言者
    小さい予言者 題名:小さい予言者 作者:浮穴みみ 発行:双葉社 2021.10.24 初版 価格:¥1,600  北海道開拓シリーズ三部作いよいよ完結編とのことである。  『鳳凰の船』では函館戦争や開拓使の時代を、『楡の墓』は北海道の中心が札幌に移行しようという時代を、そして本書は、さらに道北、樺太の開拓移住や炭鉱の時代を経て、21世紀のラストシーンで幕を閉じる。  短編作品で作った維新後の北海道サーガと言ってもよい。それぞれの作品は地平で繋がっており、現実に生きた実在の歴史的人物たちによる骨太の物語と、大地に沁み通ったであろう彼らの血や汗の匂いが感じられる、逞しくも温かな三冊であるように思う。  『ウタ・ヌプリ』は、道北の地名・歌登のアイヌ語名称がそのままタイトルとなった。砂金で湧いた枝幸近郊の土地ウソタンナイをめぐる一時代の物語であ...
  • 長い日曜日
    長い日曜日 第名:長い日曜日 原題:Un Long Dimanche De Fiancaille (1995) 作者:セバスチアン・ジャプリゾ Sebastian Japrisot 訳者:田部 武光 発行:創元推理文庫 2005.3.11 初刷 価格:\940  図書館で、ハードカバーを手に取ったことがある。1994年に発刊されたハードカバーだった。いずれ時間の取れたときに読もうと思っているうちに、文庫化されてしまった。文庫化の理由としてはよくあるパターンで、映画化を機にというものだ。映画のタイトルは『ロング・エンゲージメント』。  小説を6作しか書いていないにも関わらず、フランスを代表するミステリー作家として筆頭に立つセバスチアン・ジャプリゾは、出す作品がヒットを飛ばしたり映画になったりするので有名だ。映画のシナリオも手がけているから、ぼく...
  • 自由に至る旅
    『自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ』 自由に至る旅 ―オートバイの魅力・野宿の愉しみ (集英社新書) 題名:自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ 作者:花村萬月 発行:集英社新書 2001.06.20 初版 価格:\740  萬月氏と一度だけ話をしたとき、自然に北海道の旅の話になった。彼は野宿をしながらバイクで日本中を旅する人だってことがわかっていたし、作品からも、北海道にこの種の旅をした人でなければわからないような記述があって、それなりに北海道ファンとしてはそのあたりの共鳴音を聴いていたのだ。同席していたファンが、ぼくも昔ボーイスカウトをしていて……などと話を合わせようとしてくるのが実に鬱陶しかったのを覚えている。  バイクと登山という違いはあれ、自前のプラン(あるいはノープラン)で独り旅を愉しむということに関しては、気が合う、合わ...
  • 国境事変
    国境事変 題名:国境事変 作者:誉田哲也 発行:中央公論新社 2007.11.25 初版 価格:\1,600  つい先だって車検工場のロビーにて、愛車を点検してもらっている間、置いてある雑誌を何気なく開くと、そこには国境の写真が載せられてあった。 国境、と言われても、日本人にはあまりぴんと来ないものだ。 北海道であれば、国後島を眼前に望む羅臼漁港を思い浮かべたりする。あるいは、歯舞諸島への国境の海を、ロシア軍警備艇が、不穏に動き回る根室海峡を、思い浮かべることもできる。 いずれにせよ隣国が見えなければ国境のイメージはない。稚内の高台にある氷雪の門から遥かサハリンが見えるときには、ああ、ここは国境の海なのだなと実感することができる。でも、サハリンが見えないことのほうが多いここは、やはり国境と呼ぶには広漠とし過ぎている。 逆に...
  • 警官の条件
    警官の条件 題名:警官の条件 著者:佐々木 譲 発行:新潮社 2011.9.20 初版 価格:¥1,900  『警官の血』続編である。最近、「警官」という文字のついた作品が目立つ佐々木譲であるが、そもそも警察小説の書き手ではない。本来が冒険小説のリーグの若き旗手としてあまりに多くの実績を残した作家である。『エトロフ発緊急電』が当時冒険小説界にもたらした疾風の強さを覚えている人は決して少なくないはずである。日本版『針の眼』と言えるあのエスピオナージュは、今後も永遠の金字塔となるに違いない。  さてその冒険小説作家が昨今凝っている分野が警察小説である。筆頭は『笑う警官』(『歌う警官』改題)に始まる道警シリーズだが、あちらがテンポのある活劇主体のシリーズであるのに対し、この『警官の血』『警官の条件』のシリーズは、日本の歴史にどっしりと根を下ろした太河小説であ...
  • 東 直己
    東 直己  すすきの便利屋、あるいはすすきの探偵、何でも屋、<おれ>という一人称でしか自分を語らないくせに、主義主張だけは頑固に貫き、卑しき街を闊歩する。海外小説の読者を軽く引っ張り込む、日本離れしたハードボイルドのコアにこだわる立脚点。日本の端っこの街札幌すすきのから発信する、探偵のへらず口。豪華で忘れがたい脇役陣を抱えて、素晴らしくピュアな落ちこぼれ探偵の生きざまを描く、国産小説ぴか一の痛快とペーソスとがここにある。  大人の職業探偵・畝原シリーズ、ヒットマン榊原のシリーズと、すべて札幌を舞台にして、東直己世界は裾野を広げている。決して有名な作家ではないかもしれない。しかし強固でかたくなな読者を掴み、離さないでいるのだと思う。深く、濃い、ファンの、ぼくもその一人である。 すすきの便利屋シリーズ 探偵はバーにいる 1992/05 バーにかかってきた電話 1993/01 消...
  • 侵入者 イントルーダー
    侵入者 イントルーダー 題名:侵入者 -イントルーダー- 原題:The Intruder (1996) 作者:Peter Blauner 訳者:白石朗 発行:扶桑社 1997.7.30 初版 価格:\2,381  ストーカーものと出版社は宣伝したいみたいだけど、どちらかというと転落して行くホームレスとブルックリンから這い上がった弁護士との二つの物語を主軸に展開する立体的なサスペンスと言っていいような気がする。「ストーカー」とかタイトルの「侵入者」という面ばかりを期待すると、実際にはちょいと違う味わいになってしまうだろう。  一つ、まずはこの作者の手による人物造形に興味を持った。類型的で両極端な人物のコントラストで物語を進めていながら、どこか巻半ばくらいから陰と陽が逆転してゆくあたりは面白いと思う。手放しで喜ぶようなシーンがほとんどない一方、現実のハ...
  • 魔の山
    魔の山 題名:魔の山 原題:The Goodbye Man (2020) 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 発行:文藝春秋 2021.9.25 初版 価格:¥2,500  失踪人追跡。珍しい職業だが、それこそが本シリーズの主人公コルター・ショウの個性を引き立たせている。本書は三部作の第二作。前作ではゲーム業界を舞台にし、終章で本作への序章を奏でておくという趣向を凝らしていた。連作ものであるがために、三部作を終えないと明らかにならない主人公の真実。あくまで余韻を残し、作品間の連続性を重視している。  さて本作は、カルト教団に潜入する物語なので、全巻、実にスリリングなシーンの連続となる。町で起こった不可解な事件については、前作終盤に予告編のように語られている。その事件からの不可解な若い二人の逃走者たちと、コル...
  • クーデター
    クーデター [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:クーデター 作者:楡 周平 発行:宝島社 1997.2.中旬予定 価格:予価\1,800  前作『Cの福音』でこき下ろした作家楡周平の発行前のワープロ打ち第一稿を、簡易印刷したもの。こういう代物が宝島社から届きましたので、...
  • 3ji_am
    午前三時のルースター 作者:垣根涼介 発行:文藝春秋 2000.04.30 初版 価格:\1,524  こうして『ワイルド・ソウル』の作者のデビュー作を読んでみると、垣根涼介の原風景というものがそこに最初から画然とあるということがわかる。最初の作品は、これだという傑作を先に読んでいる身には、あくまでも振り返りの意味しか持たず、傑作を超えるという期待も結果も伴うことがないとわかってはいるのだが、そこに磨かれぬ前の原石としてのかたちを見出したいと思う気持ちも、読者側には生まれたりする。出くわした傑作が、そこまでの追跡を求めて来るほどに刺激的で、惹くものを持っている場合には。  そうしてこの原石であった時代の作品に触れる場合、たいていはなるほどなと思われる了解事項が多い。この本も同断である。『ワイルド・ソウル』の原風景は、この本では南米アマゾン流域ではなく、ヴェト...
  • 午前三時のルースター
    午前三時のルースター 午前三時のルースター (文春文庫) 午前三時のルースター 題名:午前三時のルースター 作者:垣根涼介 発行:文藝春秋 2000.04.30 初版 価格:\1,524  こうして『ワイルド・ソウル』の作者のデビュー作を読んでみると、垣根涼介の原風景というものがそこに最初から画然とあるということがわかる。最初の作品は、これだという傑作を先に読んでいる身には、あくまでも振り返りの意味しか持たず、傑作を超えるという期待も結果も伴うことがないとわかってはいるのだが、そこに磨かれぬ前の原石としてのかたちを見出したいと思う気持ちも、読者側には生まれたりする。出くわした傑作が、そこまでの追跡を求めて来るほどに刺激的で、惹くものを持っている場合には。  そうしてこの原石であった時代の作品に触れる場合、たいていはなるほどなと思われる了解事項が多い。この...
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