wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「獣たちの庭園」で検索した結果

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  • 獣たちの庭園
    獣たちの庭園 獣たちの庭園 (文春文庫) 題名:獣たちの庭園 原題:Garden Of Beasts (2004) 作者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:土屋 晃 発行:文春文庫 2005.09.10 初版 価格:\905  逢坂剛が得意なのは、トリックを煮詰めることではなく、描写によって読者の眼を欺くことである。『百舌の叫ぶ夜』の帯には「トリックからプロットへ」という表現がなされていて、それがどういう意味なのか、何が斬新なのかと考え悩んでしまったことがあるが、その作品がエンターテインメントとして実に成功した作品で、本当に読者としてころりと騙されてしまった記憶がある。  しかし後になって考えてみるとプロットをしっかり練って、あとは描写によってある部分を隠すことが読者を欺くという、この技法は、難しいトリックに頼るよりもずっと...
  • 獣たちの墓
    獣たちの墓 題名:獣たちの墓 原題:A WALK AMONG THE TOMBSTONES (1992) 作者:LAWRENCE BLOCK 訳者:田口俊樹 発行:二見書房 1993.11.25 初版 価格:\1,900(本体\1,845)  スカダー・シリーズは事件そのものよりも、遥かにスカダーという男の重荷を扱った点で世に評価されてきたのはよくわかるけれど、それだけではこうまでシリーズ全体の人気は出なかっただろうと思う。それほどまでに『八百万……』以前の作品は、やり切れない暗さを持っていた。ネクラ探偵マット・スカダーなんて呼ばれていて、そんなキャッチフレーズが、本当に本の売上に通じるものとは、ぼくは到底思えなかった。  ぼく自身マット・スカダーの悩める魅力につきあって来た点では、ほぼ同じだけど、それだけがすべてではないという点では、ぼくのスカ...
  • ジェフリー・ディーヴァー
    ...001 土屋 晃訳 獣たちの庭園 2005 土屋 晃訳 追撃の森 2008 土屋 晃訳 007 白紙委任状 2011 池田真紀子訳 限界点 2015 土屋 晃訳 オクトーバー・リスト 2013 土屋 晃訳 中・短編集 クリスマス・プレゼント 2005 池田真紀子訳 ポーカー・レッスン 2006 池田真紀子訳 フル・スロットル トラブル・イン・マインドI 池田真紀子訳 死亡告知 トラブル・イン・マインドII 池田真紀子訳 共著 ショパンの手稿譜 2007 土屋 晃訳 死者は眠らず 2011 北村あかね訳 ジェフリー・ディーヴァー他26人の作家
  • 流星たちの宴
    流星たちの宴 題名:流星たちの宴 作者:白川道 発行:新潮社 1994.9.20 初版 価格:\1,800(本体\1,748)  一言で言うなら、これはぞくっとする本であった。高村薫や花村萬月に会ったときの電撃感覚を受けた。ただものではない人の、あとがきから類推するなら、かなり私小説的な特殊な人間による特殊なドラマが、この一冊に込められている。ぼくの(ゾクッ)は、この密度の濃さから来たんだと思う。ある程度人生の過程を辿って見ている人でなければ書けない大人の小説、というものに出会うと、時にこのような嬉しい電撃ショックに、ぼくは見舞われる。  ドラマがバブルを背景にした株操作にあり、そこにアメリカン・ドリームと比較したらいいのではないかと思われるような、日本的瞑さを備えた夢見草が生えている。この本はイメージを流星、銀河、月世界といった宇宙に見て、地を這う...
  • 天使たちの場所
    天使たちの場所 天使たちの場所 (集英社文庫) 天使たちの場所 題名:天使たちの場所 作者:香納諒一 発行:集英社 1998.02.28 初版 価格:\1,700  今夜は帯広郊外にある十勝川温泉のホテルの一室にて本書を読み終え、これを書いている。露天風呂やビールの日々が続いているし、先週は道北への二度の往復でウニ、カニその他を食べまくっている。なのに痛風の薬を切らしているので再発発作に脅えながら今日もエビを食べ、ビールを飲んで、今宵の至福にだけ賭けている思い。まあそんな環境でこの短編小説集を読んだのだと思っていただいて構わない。  こんな環境が明日も明後日もその後もずーっと続くわけもなく、今宵一夜の充足は今宵限りのものでしかない。それが旅であり、非日常的な落ち着きのない、あるぼくの断片なのだ。  この小説集は、どれも海外でのそうした断片を捉え...
  • 刑事たちの夏
    刑事たちの夏 題名:刑事たちの夏 著者:久間十義 発行:日本経済新聞社 1998/7/24 初版   価格:¥1,800  本は、人を繋いでしまう不思議な接着作用を持つ。この本はぼくの通っていた居酒屋の店主から「これ、いいよ」と頂いたもので、ぼくは当時、花村萬月の『たびを』という自転車で日本一周してしまう自伝的小説を店主にお貸ししたそのお礼みたいなもので、ぼくはお返し頂いたが、店主は差し上げますとプレゼントしてくれた。返さないで良いということが結局は仇になり、四半世紀も経ってから今頃この作品を読んでいるのだった。ぼくの不義理にも関わらず、この作品は決して錆びることのない20世紀最後のまさに世紀末的混沌を刑事小説という側面から抉り出した傑作小説なのであった。版元が日経というところでもこの作品の品質が伺えようというものだ。  大蔵省のキャリアの飛び降り自殺...
  • ジヴェルニーの食卓
    ジヴェルニーの食卓 題名:ジヴェルニーの食卓 著者:原田マハ 発行:集英社文庫 2022/6/15 18刷 2013/3 初版 価格:¥600  美術を言語化したり、美術評論を書くことはとても難しいことだと想像できるが、美術や画家の個性を一般の美術オンチの方でも読めてしまうような普遍化された物語に変えることができる人はとても少ないだろう。  何故なら画家やその作品に命を吹き込む作業というのは、さらに特殊な知識の習得と、作品毎の下調べに要する時間が、相当に必要だろうと容易に想像できるからだ。また、それらをクリアしてなお一般の読者に提供してゆくには、それなりの自信や意志が必要だろう。  本書は短編四編で構成された一冊である。どの作品も、実在した有名な画家たちをモデルとし、彼らに対する語り手もしくは近しい人を主人公として用意している。  マ...
  • 私の庭 蝦夷地篇
    私の庭 蝦夷地篇 題名:私の庭 蝦夷地篇 作者:花村萬月 発行:光文社 2007.01.25 初版 価格:\2,400  浅草篇を読んだのが随分昔なので、多くの詳細は忘れてしまった。覚えているのは、権介が士農工商のヒエラルキーから外れた存在の記録されない無宿人であるということ。そんな権助が幕末の浅草で、刀の修行だけを研ぎ澄まし、人斬りになって、縄張りを後にしたところで浅草篇が終わったということだけである。  なのでいきなり蝦夷地篇を開いたものの、過去の人物、十郎だとか爺だとか夢路だとかが、誰だったのかを確認する為に、何度か浅草篇のページをぱらぱら繰り直さねばならなかった。  しかし、本書は浅草篇という過去を引きずりはするものの、権介以外の登場人物は一新している。舞台だって津軽から海峡を渡り、渡島半島のどこかの浜に漂着するところから始まる、い...
  • 夜よ鼠たちのために
    夜よ鼠たちのために 題名:夜よ鼠たちのために 作者:連城三紀彦 発行:宝島社文庫 2014.9.18 初版 価格:\730  縁あって二十年来、宝島社の『このミステリーがすごい!』のアンケートに投票させて頂いている。2014年版(即ち2013年の12月発行)の『このミス』で、復刊希望!幻の名作ベストテンの第一位に輝いたのが本書。  実のところ、『このミス』に投票しながら、ぼくの好みと『このミス』のアンケート集計結果が年々乖離するようになり、いささか居心地が悪くなっている。ぼくが冒険小説やハードボイルドの畑にあるにも関わらず、アンケートの対象となる作品は広義のミステリーで構わないという主旨に多分に甘えさせてもらっていることから、純粋にミステリ・ファンとしての投票者たちとは大きく読むジャンルが異なるという結果にならざるを得ないのがその結果として表れてしま...
  • 悪党たちのジャムセッション
    悪党たちのジャムセッション 悪党たちのジャムセッション (角川文庫) 題名:悪党たちのジャムセッション 原題:Nobody s Perfect (1977) 作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake 訳者:沢川 進 発行:角川文庫 1983.5.10 初版 1998.5.25 改版初版 価格:\880  ドートマンダー・シリーズ第4作。これは1977年の作品だが、別名義で続けているもう一つのシリーズ『悪党パーカー』のように永い中断期間もなく、未だに新作が発表され続けていることがある意味奇跡的でもある。  というのは、ドートマンダーにしても、パーカーにしても、非常にシンプルな設定で、しかもその設定には決定的なほどに縛りが多いからだ。よくぞここまで連続してこの縛りの中で手を変え品を変え、新作を書いてゆけるものだと、そのアイデ...
  • 私の庭 北海無頼篇
    私の庭 北海無頼篇 題名:私の庭 北海無頼篇 作者:花村萬月 発行:光文社 2009.09.25 初版 価格:\2,700  『王国記』もそうなのだが、花村萬月作品の最近の傾向は、物語が進むにつれどんどん現実離れして神話化してゆくように変化してゆくように見える。娯楽要素の強い戦後のヤクザ小説である(と言い切るのも失礼な気がするが)『ワルツ』なども、戦後の雑踏という地面からの目線で書かれた小説としてスタートする中で、徐々に主人公が超人となってゆき、とても透き通った純な存在として生死を超越してゆく様が描かれていたような気がする。  この『私の庭』では暴力の象徴としての刃を手にした名もなき浅草の浮浪児が、人を斬り、強くなってゆく中で徐々にその野生を研ぎ澄まして、ついには津軽海峡を渡り、蝦夷地に辿り着くや否や、アイヌの生活に身を任せ、漂白と言ってもいいような人生を...
  • 氷結の森
    氷結の森 氷結の森 題名:氷結の森 作者:熊谷達也 発行:集英社 2007.01.30 初版 価格:\1,900  仙台在住のこの作者は、独特の土俵で勝負をしている。他の人が書かないこと、書けないこと、そして作者自身が書きたいこと、好きなこと、それを徹底している立場の作家として、ある固定層の読者を掴んで離さないはずである。  動物小説『ウエンカムイの爪』から、動物ミステリー『漂泊の牙』と始め、最初は日本のシートンを目指すかと思われた。いわゆる戸川幸夫の正統派継承者である。 しかし、作者の視点はその後獣たちを狩る側の狩猟民族に方向を向けた。もちろん『山岳巨人伝』のように戸川幸夫にも<鉄砲撃ち>の小説はある。野生動物を追えば、必ず彼らを刈る者たちにも出くわすのが定めだ、とでも言わんばかりに。  歴史上森の中で野生動物を狩る者たちが、歴史に捉えられ...
  • 堕天使は地獄へ飛ぶ
    堕天使は地獄へ飛ぶ (文庫化時『エンジェル・フライト』へ改題) 題名:堕天使は地獄へ飛ぶ 原題:Angels Flight (1999) 著者:マイクル・コナリー Michael Connelly 訳者:古沢嘉通 発行:扶桑社 2001.9.30 初版 価格:\2095  本書がボッシュ・シリーズであったことにほっとする。ボッシュ・シリーズは二年ぶりだろうか。だからボッシュに関する大抵のことはぼくは忘れている。でもボッシュの本質的なところはあまり忘れていないと思える。だからボッシュとの再会は、ぼくの中で眠っていた彼の世界の再構築に始まる。でもそれにしてはあまりにも重く暗い作業であった。でもそれこそが、この本の中の真実の部分。  ボッシュは闘う。警察官を監査する警官たちと闘う。人種差別主義者たちが巣食う警察という組織の息苦しさと闘う。表面に浮...
  • 熊の皮
    熊の皮 題名:熊の皮 原題:Bearskin (2018) 著者:ジェイムズ・A・マクラフリン James A.McLaughlin 訳者:青木千鶴 発行:ハヤカワ・ミステリー 2019.11.15 初版 価格:¥1,900  圧倒的な自然描写力、とはこういう本のことを言うのだろう。作者はヴァージニア州の山の中で育ち、ヴァージニア大学で法学と美術額を修め、ネイチャー系のライターをしながらこの初の創作に取り組んだそうである。  主人公は作者の想いを乗せたワイルドな主人公。メキシコ国境の砂漠での密売人の過去を振り捨てて偽名でアパラチア山脈で自然保護管理の職につき世捨人同然の孤独な生活を送っている。発端となったのは熊の死骸だった。皮をはがされ、熊胆(くまのい)や熊の手が取り出された残虐な殺戮。甘い蜜の罠に、犬たちの首輪に仕掛けられたGPS。現代の山の中での...
  • ローレンス・ブロック
    ローレンス・ブロック Lawrence Block マット・スカダー・シリーズ 過去からの弔鐘 1976 田口俊樹 冬を怖れた女 1976 田口俊樹 一ドル銀貨の遺言 1977 田口俊樹 暗闇にひと突き 1981 田口俊樹 八百万の死にざま 1982 田口俊樹 聖なる酒場の挽歌 1986 田口俊樹 慈悲深い死 1989 田口俊樹 墓場への切符 1990 田口俊樹 倒錯の舞踏 1991 田口俊樹 獣たちの墓 1992 田口俊樹 死者との誓い 1993 田口俊樹 死者の長い列 1994 田口俊樹 処刑宣告 1996 田口俊樹 皆殺し 1998 田口俊樹 死への祈り 2001 田口俊樹 すべては死にゆく 2006 田口俊樹 償いの報酬 2011 田口俊樹 石を放つとき 2018 田口俊樹 泥棒バーニー・シリーズ 泥棒は選べない 1977 田口俊樹 泥棒はクロゼットの中 1978...
  • 彼女たちの山 平成の時代、女性はどう山を登ったか
    彼女たちの山 平成の時代、女性はどう山を登ったか 題名:彼女たちの山 平成の時代、女性はどう山を登ったか 作者:柏澄子 発行:山と渓谷社 2023.3.30 初版 価格:¥1,870  この本の著者は、大学山岳部の後輩である。ぼくの時期はほとんど大学山岳部ではなく自分たちで作った山の愛好会だったのだが、山岳部を継ぐ部員の激減による存亡の危機に晒されたため、メンバーの多いぼくらの山の会は山岳部に移籍合流した。著者の柏は、ぼくの卒業次年度に山岳部に純然と入部してきた生粋のクライマーである。  在学時期は重なっていなかったが、山の繋がりは一生である。人生の折々に会ったり話したりの付かず離れずの関係が他のどのメンバーとも続くので死ぬまで終わることはないのだと思う。ぼくが4年前に病気になって死にそうになった(と思わされた)とき、病室(それも無菌室)に柏澄子は...
  • 殺人鬼オーストゥンに帰る
    殺人鬼オーストゥンに帰る 題名:殺人鬼オーストゥンに帰る 原題:The Devil Went Down To Austin (2001) 作者:リック・リオーダン Rick Riordan 訳者:伏見威蕃 発行:小学館文庫 2006.07.01 初刷 価格:\800  テキサスを舞台にしたウエスタン・ハードボイルド。あるいはハードボイルド・ウェスタンでもいい。ジェイムズ・クラムリーやサム・ペキンパーが好んで止まない土地を、そのまま現在に持ってきて、巨匠たちの魂を受け継いだハードボイルド・シリーズを描くとすれば、こうなるという見本のようなシリーズである。  若き私立探偵でありながら、大学で英文学の非常勤講師も勤める。フィリップ・マーローと競り合わせたいくらいのへらず口の大家でありながら、カンフーの使い手でもある。優しげな表情の内側で、向こう気だけは誰...
  • ジェンダー・ファッカー
    愚者と愚者 下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ 愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ 題名:愚者と愚者 下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ 作者:打海文三 発行:角川書店 2006.09.30 初版 価格:\1,500 【ネタバレ警報:本書のネタバレではなく、本感想により、やむなく前作『裸者と裸者 下 野蛮な許しがたい異端の』の重要な結末に触れています】  カイトは、死と闘いを纏うことによって兵士の(孤児部隊の)最上階に登り詰めた。上巻がカイトという男の子の物語であるのと対照的に、下巻は常に少女たちの物語だ。九竜シティの少女マフィア団パンプキン・ガールズの首領である椿子の半身・桜子は、前作『裸者と裸者 下 野蛮な許しがたい異端の』 のラストにてテロルの犠牲となった。  本書は遺され生き残った椿子を主役に据えた物語。黒い旅...
  • 聞いてないとは言わせない
    聞いてないとは言わせない 題名:聞いてないとは言わせない 原題:Dust Devils (2007) 作者:ジェイムズ・リーズナー James Reasoner 訳者:田村義進 発行:ハヤカワ文庫HM 2008.06.15 初版 価格:\680  原題のダスト・デヴィルズとは、アメリカ西部で頻発する荒野の小さなつむじ風。一瞬空に向けて砂塵が舞い上がり、竜巻のように天に向けて立ち上がったかと思うと、あっという間に、崩れて消え去ってしまう、とても儚い自然現象のことである。こうした原題であるが、邦題は「聞いてないとは言わせない」。  主人公の青年は、自分を捨てた母への復讐の旅に出るが、母と思われた女性は、母に成り済ましていた銀行強盗一味の中年女性だった。青年は、彼女の元で働き手として雇われるうちに恋に落ちるが、かつての強盗団仲間が彼女の命を狙い始めた途端...
  • ビー・クール
    ビー・クール [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:ビー・クール 原題:Be Cool (1999) 作者:エルモア・レナード Elmore Leonard 訳者:高見 浩 発行:小学館文庫 2005.9.1 初版 価格:\838  思えば原作の方の『ゲット・ショーティ』は、映画...
  • 犬の力
    犬の力 題名:犬の力 上/下 原題:The Power Of The Dog (2005) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:東江一紀 発行:角川文庫 2009.08.25 初版 価格:\952  ドン・ウィンズロウ!  なんて、久しぶりなんだ。  ニール・ケアリー・シリーズがなんだか呆気なく幕切れとなってしまった(らしい)シリーズ最終作『砂漠で溺れるわけにはいかない』以来の日本お眼見えだったか。それが1996年の作品。本作は2005年の作品。ウィンズロウの上にその間9年の時間が経過していたのか。なんと!  だからというのじゃないだろうけれど、ニール・ケアリーのシリーズとはまた違った空気。違いすぎるくらいに。作者名を伏せたらすぐに回答が出ないくらいに。その代わり全部読み終えたら、何となくわかりそうな気もす...
  • 藤田宜永
    藤田宜永 私立探偵・相良治郎シリーズ(連作短編) 理由はいらない 1996 動機は問わない 1996 モダン東京シリーズ 蒼ざめた街(「モダン東京物語」改題) 1988 美しき屍(「モダン東京小夜曲(セレナ-デ)」改題) 1988 哀しき偶然 1996 堕ちたイカロス 1989 私立探偵・竹花シリーズ 探偵・竹花とボディ・ピアスの少女 1992 失踪調査 1994 私立探偵・鈴切信吾シリ-ズ 野望のラビリンス 1986 標的の向こう側 1987 長編小説 ラブ・ソングの記号学 1985 瞑れ、優しき獣たち 1987 影の探偵 1988 ダブル・スチール 1988 怨霊症候群(シンドロ-ム) 1988 タイホされたし度胸なし 1988 還らざるサハラ 1990 奇妙な果実殺人事件 1990 過去を殺せ 1990 遠い殺人者(「明日なんて知らない ノ-ノ-ボ-イ’69」改題...
  • 闇の子供たち
    闇の子供たち 題名:闇の子供たち 作者:梁 石日 発行:解放出版社 2002.11.20 初版 価格:\1,800  梁石日にしては珍しく物語の舞台はほとんど全面的にタイ。北部山岳地帯の貧村から買ってきた幼児を売買するマフィアのルートと、これに対抗するボランティア組織の社会福祉センターのスタッフがスラムで日々幼児売買と闘う。  ニュースでも雑誌でもしばしば取り上げられる売買→売買春→臓器売買といったこの世における最も悪魔的な所業である闇のシステムに真っ向から挑んだのが本書。ノンフィクションではなくいつもながらの非情極まりないタッチで梁石日が今回抉ってみせたのは、子供たちの生ける地獄の数々。  不毛なタイの土壌の上に泥まみれ、糞尿まみれで飼育され、売買される子供たち。腎臓を売って小金を稼ぐ親たち。センターの協力者に紛れ込むマフィアの手先。薬物...
  • ネヴァダの犬たち
    ネヴァダの犬たち [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:ネヴァダの犬たち 原題:Stray Dogs (1997) 作者:ジョン・リドリー John Ridley 訳者:渡辺佐智江 発行:早川書房 1997.07.31 初版 価格:\1,600  簡単に言えば映画『Uターン...
  • 男殺しのロニー
    男殺しのロニー 題名:男殺しのロニー 原題:Man Eater (2003) 作者:レイ・シャノン Ray Shannon 訳者:鈴木 恵 発行:ヴィレッジブックス 2005.9.20 初版 価格:\850  LAを舞台に、わけありの男や女が複雑に絡み合い、サバイバルを繰り広げる展開は、まさにエルモア・レナードを髣髴とさせる作品である。レナードに少し湿り気を与えて、よりバイオレンスを強調した世界と言ってもいいかもしれない。  女性映画プロデューサーのロニーは、とあるバーで、凶暴な殺し屋ニオン叩きのめしてしまった。一方で、仮釈放中のエリスは、メキシコ人ギャングのアヤラ兄弟に立ち向かい、二人を病院送りにしてしまう。復讐と殺意に燃える二組の悪漢と、わけありの過去を持て余す女と男。  さらに多くの人間たちを巻き込んで、LAに血の嵐が吹き荒れる。...
  • 冒険の蟲たち
    冒険の蟲たち 題名:冒険の蟲たち 【新装版】 作者:溝渕三郎・與田守孝・長篠哲生共著 発行:白山書房 2018.6.25 初版 価格:¥1,700-  登山の好きな者ならば、誰もが憧れの場所を持っている。憧れの山やルート。胸のうちに育て、その山行をを実現するために、日常生活の中では密かにその夢という卵を暖め、少しずつでもその準備を進めてゆこうと思うだろう。  その夢の困難度やスケールは、人によって違っていい。自分を取り巻く状況。自分にフィットした計画。例え難しかろうと、実現が不可能ではなく、手繰り寄せることのできるもの。  また、それが、若いうちであればどうだろう。時間と体力はあるが、金や恐怖心はない。そんな充実した青年期であればどうだろう。その時期にしか見られない夢。実現させるべき夢。それらを大切に抱えて、残りの人生を生きて行ける礎...
  • 男たちは北へ
    男たちは北へ 男たちは北へ (ハヤカワ文庫JA) 男たちは北へ 題名:男たちは北へ 作者:風間一輝 発行:早川書房 1989.4.15 初版 価格:\1,300(本体\1,262)  もう一年以上前になるが、風間一輝『地図のない街』をめぐって、大方のひとが批判的であり、ぼく一人、面白い作風との出会いを喜んでいたのだが、とりあえずの旗色はひどく悪かった。そんなおり、バンディーダこと馳星周から、つべこべ言わずに『男たちは北へ』を読んだらどうだ?  との意見をたまわった。『男たちは北へ』を書けるような作家だからこそ、この程度の作品では満足できない、というのがその理由であったようだった。まあ、そういう意味で因縁を感じ、本屋漁りをしたのだが、御茶水に出ないとやはりなかなか手に入らなかったハードカバーである。まずカバーがいいですね、この本は。  そしてこの五月北海道...
  • 密猟者たち
    密猟者たち 題名:密猟者たち 原題:Porchers (1999) 作者:トム・フランクリン Tom Franklin 訳者:伏見威蕃 発行:創元コンテンポラリ 2003.06.13 初版 価格:\660  アメリカ小説ってたいていこんなもんだよな、と今まで翻訳小説で慣れ親しんでいた方に是非とも紹介したい本がこれ。少なくともぼくはこういう作品を読むと、現代アメリカ小説という世界の懐の深さを改めて思い知らされるからだ。アメリカ小説を、いや、アメリカという国をでもいい、知った風な顔をした通(つう)という奴に出くわしたなら、ぼくはその人間の傲慢さに対しこの作品をぶつけてやりたい。  それがこの本の価値であると思う。思いもかけないアメリカがあって、アメリカがヨーロッパではなくアメリカで在り続けたその存在の根本を考えさせられるようなある種、力を蓄えた作...
  • 張り込み姫 君たちに明日はない 3 (再読)
    張り込み姫 君たちに明日はない 3 (再読) 題名:張り込み姫 君たちに明日はない 3 (再読) 作者:垣根涼介 発行:新潮社 2010.01.15 初版 2010.1.25 2刷 価格:¥1,500  重たい海外小説の後に本棚から取り出して読み始めた。未読だと思っていたが、9年前にしっかり読んでいた。レビューまでしていた。まあ。いいかと内容を全く忘れたままで読み始めたところ、NHKでドラマ化されたものを見た記憶が蘇ってきた。田中美佐子と堺正章の脇役陣は想い出したが、坂口憲二の主役はあまり印象にない。ぼくの中でこの小説の主人公は、フィットしていなかったのだろう。坂口憲二では少しイケメン過ぎる。  アウトソーシングでリストラを請け負う会社、というのがバブル崩壊後のこの時期には売り上げを伸ばしていて、資本金が勧めの涙みたいなこの小さな会社を舞台に、仕事の退職や...
  • 疾走
    疾走 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:疾走 作者:東 直己 発行:角川春樹事務所 2008.4.8 初版 価格:\1,900  もう東直己の本は読まない、という声を聴くことがある。なぜ? と聞いてみると、もう東直己はネタが尽きているだろうと言う。新興宗教法人の無差別テロ、道警の...
  • ローマで消えた女たち
    ローマで消えた女たち 題名:ローマで消えた女たち 原題:Il Tribunale Delle Anime (2011) 作者:ドナート・カッリージ Donato Carrisi 訳者:清水由貴子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.6.15 初版 価格:\1,900  無国籍のエンターテインメント大作『六人目の少女』で凄まじいデビューを飾ったイタリア人作家カッリージの長編第二作である。のっけからあれほどのアイディアを詰め込んでしまった彼が、第二作をどのくらいの意欲と自負とで書き始めたのか想像もつかないが、大抵の作家であればあのデビュー作を超える二作目というだけで、恐怖に震えそうだ。  そうした周囲の期待を背負って作り上げねばならなかった本書は、作者がそうした期待にしっかりと応えるこれまた印象的な作品であり、さらに作者があとがきで書いているよ...
  • エド・マクベイン
    エド・マクベイン Ed McBain / エヴァン・ハンター Evan Hunter / カート・キャノン Curt Cannon 《87分署シリーズ》は1956年生まれだ。ぼくの誕生年がちょうど同じその年である。それからぼくがずっと生きてきた間じゅうずっと、このシリーズは続いてきている。ひとりの作家が成し遂げた仕事としてみれば、これは驚くベき偉業であるように思われる。  このシリーズは、今、その最初の作品から読み始めたとしても、面白さが時間の経過により損なわれるということはあまりないだろう。確かにその時代、時代の特色というのは背景として伺うことができるものの、人がやらかすこと、ましてそれが犯罪であったり男と女の愛憎のもつれであったりする場合には、時代がどんなに移って文明が進歩したとしても、それほど大きな変化はないものである。 とりわけそれが大都市のことであればなおさらだ。...
  • 特捜部Q -自撮りする女たち-
    特捜部Q -自撮りする女たち- 題名:特捜部Q -自撮りする女たち- 原題:Selfies (2016) 著者:ユッシ・エーズラ・オールスン Jussi Adler-Olsen 訳者:Jussi Adler-Olsen訳 発行:ハヤカワ・ミステリ 2018.01.15 初版 価格:¥2,100  スウェーデンを中心とする北欧ミステリだが、デンマーク発のミステリと言えば、このシリーズだろう。第3作までは映画化されたものをWOWOWで観ているが、第四作『カルテ番号64』は今年になっての上映。映画化されたものに比べて、作品はカール・マークの独白による描写が多く、リズミカルでコミカルで明るいイメージが強い。息詰まるような暗い犯罪を解決する捜査官としては、このくらい明るくなくてはやってられない、ような気がする。  そして、特捜部Qシリーズも、いよいよその第七作に...
  • 張り込み姫 君たちに明日はない 3
    張り込み姫 君たちに明日はない 3 題名:張り込み姫 君たちに明日はない 3 作者:垣根涼介 発行:新潮社 2010.01.15 初版 2010.1.25 2刷 価格:\1,500  『君たちに明日はない』の一巻目が出てから早や5年。2.5年ぶりに出た三冊目のシリーズ作品集は、ちょうど本シリーズがテレビドラマ化される機会に合わせて出版されたものなのだろう。なので、第二巻では『借金取りの王子』以外に副題がなかったのだが、本書ではテレビドラマで作品に馴染んだニューカマーをしっかり捕まえようと、ドラマと同じ副題がしっかり接続された。  小説では顔などのはっきりしなかった人物たちにテレビドラマでは、顔が与えられてしまうのだが、これを無視して読んでも、意識に取り込んで読んでもそれは読者の勝手である。ドラマを気に入るかどうかがポイントかもしれない。ぼくはこのドラマが気...
  • 荒野
    荒野 題名:荒野 作者:桜庭一樹 発行:文藝春秋 2008.05.30 初版 価格:\1,680  ファミ通文庫より2005年と2006年に出ている『荒野の恋』第一部と第二部に、書き下ろしの第三部を付け足して、ソフトカバーとして改めて纏められた一冊。桜庭のニュー・ファンとしてはファミ通文庫の二冊を買ったり読んだりしていなくて幸いである。一気に読んだ方が、きっと座りのいい作品だから。  一部は、少女・山野内荒野12歳、中学一年の入学式の朝に始まる。二部は、13-14歳、中二から中三。三部は15-16歳で高一から高二。一人の少女の12歳から16歳。子供から大人になりかけてゆく、多分人生で最大に多感で微妙な時間を、切り取って永遠に焼きつける作業、というのが桜庭一樹がこの小説で(いや、この小説でも)やりたかったことなのではないだろうか。  北...
  • 迷子の王様 君たちに明日はない 5
    迷子の王様 君たちに明日はない 5 題名:迷子の王様 君たちに明日はない 5 著者:垣根涼介 発行:新潮文庫 2016.11.01 初刷 2014.05 初版 価格:¥550-  2000年から12年間にわたり書き継がれてきたリストラ請負会社・村上真介シリ-ズ『君たちに明日はない』の最後の一冊である。12年の間、沢山の企業から依頼され、数多くのリストラ対象の人々との面談を果たし、あまりにも多くの人生を見聞きし、かつ多くの人を人生の岐路に立たせてきた職業。その当事者たちとの間には、良い出会いも、悔いの残る出会いもあったろう。しかし多くの場合、良い出会い、印象に残る出会いが村上真介にはあった。それが多くの場合良い作品となっている。それがなければ、バブル崩壊後の日本経済を背景にした、人切りというネガティブな仕事を、小説として昇華させることなんて、とても考えられない。...
  • the Twelve Forces
    the Twelve Forces 題名:the TWELVE FORCES     ~海と大地をてなづけた偉大なる俺たちの優雅な暮らしぶりにに嫉妬しろ! 作者:戸梶圭太 発行:角川書店 2000.12.5 初版 価格:\1,600  ドタバタ冒険コメディに活劇をプラスして、どこまでも男たちの冒険と勇気と正義とを描いた、この作者にしては珍しいほどに、とても素直で、しかも人間味に溢れる優しきヒーローたちの物語。  ホラー路線ではこれでもかと言うほどに残酷になれる作者だけれど、この本では地球環境の破壊、いや地球の滅亡と闘う一握りの勇者たちの愛と冒険を笑いの渦の中に描いてしまう。こういう作品に接すると、まだまだこの作者の振り子は大きく振れるみたいである。  愛すべきキャラクターたちのそれぞれの描き分けがとりわけ秀逸で、そのいちいちがデフォルメされ過ぎ...
  • 札幌のカラス 札幌のカラス2
    札幌のカラス 札幌のカラス2 題名:札幌のカラス 作者:中村眞樹子 発行:北海道新聞社 2017.10.25 初版 2017.11.30 2刷 価格:¥1,400 題名:札幌のカラス2 作者:中村眞樹子 発行:北海道新聞社 2018.10.24 初版 価格:¥1,400  札幌に限らずカラスは全国津々浦々に生息して、我々人間と棲む世界を共有していると思うが、本書は札幌でカラスを愛し研究している作者によるカラス関連エッセイともいうべき人気本である。  作者はNPO法人札幌カラス研究会の主宰として、日々、カラスに人生を捧げる人である。何よりも感じられるのはカラス愛! そしてこの本は俗に嫌われ者の印象が強いカラスを扱いながら、何と札幌の書店でベストセラーの売り上げを記録し、ついに続巻まで出版される運びとなったのである。  カラスは思えば...
  • 砂漠の船
    砂漠の船 砂漠の船 題名:砂漠の船 作者:篠田節子 発行:双葉社 2004.10.20 初版 価格:\1,600  篠田節子が今回挑んだテーマは家族。団地に住む何の変哲もない夫婦と高校生の娘の三人家族の日常を淡々と描いて、その裏に潜むそれぞれの修羅を抉り出す。浮浪者の不審な死と、それがこの家族に偶然関わってくる因縁。そのあたりの偶然性に疑問符を投げかけてもいいのかもしれないが、それ以上にいやらしいほど現実味たっぷりの日常の重みが作品全体に、黒い影を投げかけて、こちらの世界を捕まえにくる。  淡々とした家族の日常と、会社、団地という集団、娘の秘密など、父の視点から描き出してゆくのだが、女流作家が父親の視点から母娘を描くという作品そのものの奇抜にまず驚く。女性たちの心情を女性の側から描くのではなく、男の側から描き、女性たちの見えない部分への不安、怯え、距離感...
  • 壊れた世界の者たちよ
    壊れた世界の者たちよ 題名:壊れた世界の者たちよ 原題:Broken (2020) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:田口俊樹 発行:ハーパーBOOKS 2020.07.20 初版 価格:¥1,291  分厚い熱気の塊のような長編小説を書き続ける日々の合間に、作家の中から零れ落ちそうになった別の物語たちを、この機会にきちんとした形で作品化させ、出版させるということになり、本書は登場したという。どこかで零れ落ちそうになっていたこれらの物語を今、6つの中編小説というかたちで読める幸せをぼくは感じる。  それとともに本書はウィンズロウのこれまでの作品の総括であり集大成ででもあるように見受けられる。かつてのシリーズや単発作品の懐かしくも印象深い人物たちがそこかしこで、しかも今の年齢なりに成長したり歳を重ねたりして登場してくれるからだ。読者...
  • 贖罪
    贖罪 題名:贖罪 作者:湊かなえ 発行:東京創元社ミステリ・フロンティア 2009.06.15 初版 価格:\1,400  さすがに三冊目になり、そのどれもがある一定のレベルをキープし、さらにどれもが学園少女小説、かつミステリであるということで、相当の一貫性を印象づけている。書店でもいいコーナーを占有しているところを見ると、そこそこ世間では注目されている新進女流作家であるのだろう。  もちろんデビュー作『告白』が、第6回本屋大賞を受賞したという、いわく書店員の評価をものにしたということで、庶民派の目線からの高い評価が、高座から選別された大概の賞よりもずっと眩しく感じる。  少女たち。それはか弱き者たちである。本書では、ある一人の少女が犠牲になる。その少女がある一人の殺人者に選別され、殺害されたことに対し、当時、一緒にいた同級生たちのその後はそれ...
  • テロリストとは呼ばせない
    テロリストとは呼ばせない 題名:テロリストとは呼ばせない 原題:Homegrown Hero (2018) 作者:クラム・ラーマン Khurrum Rahman 訳者:能田優訳 発行:ハーパーBOOKS 2022.11.20 初版 価格:¥1,430  ジェイ・カシーム三部作の二作目ということである。前作のラストは異様であった。本作はそれを継いで始まる。ぼくは前作で、町の移民である若者ジェイが悪を倒すために国家的組織に利用される構図を、『傷だらけの天使』のヒーロー修とアキラの兄弟に例えてしまったのだが、それは本作でもあまり変わぬ印象のまま。  『傷だらけの天使』という稀代のTVドラマをかつて青春真っただ中で体感したぼくには、木暮修たちは純情なコアの部分を持ちながら青春を精いっぱい生きる若者たちであるにも関わらず、東京という大都市に蠢く大人たちの欲望や...
  • 睡魔
    睡魔 題名:睡魔 作者:梁石日 発行:幻冬舎 2001.4.10 初版 価格:\1,800  いわゆる自己啓発セミナーを伴ったネズミ講、であるところのマルチ商法。具体的には健康マットを販売し一稼ぎ企む男たちの話。と言うととても平板に聞こえてしまうけれども、実は、貧乏とデカダンスな道楽のなかで、明日なき生活を共にする二人の野郎どもの荒稼ぎストーリーは、切なく空しくタフの一言である。『夜の河を渡れ』の延長線上で奏でられた同音異曲と言える作品だろう。  一方で『無間地獄』『カリスマ』の新堂冬樹のように同じ荒稼ぎであっても、稼ぎの手法そのものの持つ圧倒的情報量と社会のひずみに浮き沈みする人々の悲哀などで勝負してくる種類の作品とは一線を画する。梁石日はそうした荒稼ぎ人生そのものにむしろ虚無の風を吹かせ、それでいていつも凄まじくエネルギッシュな生への貪欲を見せる...
  • 雷鳴
    雷鳴 雷鳴 (幻冬舎文庫 や 3-15) 雷鳴 雷鳴 (徳間文庫 や 18-4) 題名:雷鳴 作者:梁石日 発行:徳間文庫 1998.10.15 初刷 価格:\495  『血と骨』が梁石日の父の生涯の物語だとすると、本書『雷鳴』は母の物語である。梁石日の両者に向けられる愛情の激しい差というものが、この二作品を読むことでよく理解できると思う。  『血と骨』と同じ時代というのではなく、日本へ渡る前、済州島で青春を迎える母の娘の時代の物語。奇麗な海と、神話的な生活。ここを荒らし始める日本人の跳梁。島特有の不合理な慣習の犠牲になる母と、陸地からの差別。日本人の手先となって同胞を裏切る者。島の貧弱な農業。不穏な時代。自然の猛威。まさに雷鳴が轟く空に向けてひたむきにどこまでも生きようとする少女の、読みごたえのある梁石日らしい力作。  『夜を賭けて』『血と...
  • 帰らざる夏
    帰らざる夏  終戦間際の少年たちの物語です。鋭く鋭く研ぎ澄まされた子供たちの感性が終戦という、これまた存在基盤を揺るがすようなショックに崩壊してゆく壮大な悲劇です。これは全編緊迫感漲るストーリー。  加賀版『日本の一番長い日』。 (1992.07.19)
  • 狙われた楽園
    狙われた楽園 題名:狙われた楽園 原題:Camino Winds (2020) 著者:ジョン・グリシャム John Grisham 訳者:星野真里 発行:中央公論新社 2021.9.25 初版 価格:¥1,800  最近は文庫化された邦訳本がほとんどだが、その中身は、相変わらず充実したリーガル・スリラー。一方で時々、毛色の変わった作品を書くこともあるジョン・グリシャムは、らしくない(?)ジャンル外エンターテインメントで楽しませてくれることも多い。本書はその手の最新シリーズの一つ、本好きミステリー『「グレート・ギャッツビー」を追え』の続編である。  前作と同じキャラクターたちの上に、さらに興味深い登場人物を増強。前作でおなじみの架空の高級リゾート地であるフロリダ州楽園カミーノ・アイランドは、本作では予想を超える規模の巨大ハリケーンの上陸と、全米スケール...
  • 輪違屋糸里
    輪違屋糸里 題名:輪違屋糸里 上・下 作者:浅田次郎 発行:文藝春秋 2004.05.30 初版 価格:各\1,500  新選組ものは大抵読んでいるが、ひねくれ流浅田新選組に関しては、同系列ではなく別の読み方で迎えたほうが正しいかもしれない。『壬生義士伝』を書いた浅田節は、涙を誘う田舎侍の哀感溢れる物語で、中でも故郷を思うノスタルジーと戦火の残酷が対比され、どちらも国の貧しさの中から立ち昇った運命ともいえる世界構造の中で、選択の余地なきにわか侍の、翻弄され、人間らしくあり続けようという無力ばかりが目立ってならなかった。  その同じ浅田節が今度はどのような唸りをあげるか楽しみにしていたが、こちらでは新選組と関わってゆく女たちの視線で、壬生の初期時代を描いている。女性小説と読めないこともないくらいに、女の人生観からフィルタリングされた幕末史な...
  • 日輪の遺産
    日輪の遺産 題名:日輪の遺産 作者:浅田次郎 発行:青樹社 1993.8.30 初版 1995.4.15 2刷 価格:\1,800  そろそろアトランタ・オリンピックも終わると、毎年8月の終戦特番でテレビは賑わい始める。そうした時期にぜひ手に取って欲しいのがこの一冊。他の浅田次郎作品とはかなり毛色が異なるのだけど、文体、会話体はいつもの流暢さなので、ぼくは文字どおり一気読みしてしまった。  作者初のシリアスな作品で、なおかつ冒険小説的要素、ミステリー要素の色濃い作品。現代と太平洋戦争末期を行き来する物語に、戦後と原題との不確定な境界のありさまを感じさせられる、少しばかり重い主題。  この作者はいかなる作品においても、その時代時代における世相を背景にして、弱者たちの誠実な生きざまを描こうとしているように思えるのだが、この作品も例に洩れず、そう...
  • ペインテッド・ハウス
    ペインテッド・ハウス 題名:ペインテッド・ハウス 原題:A Painted House (2001) 作者:ジョン・グリシャム John Grisham 訳者:白石 朗 発行:小学館 2003.11.20 初版 価格:\2,400  リーガル・スリラーの書き手、しかもスタイリッシュでモダンな作品を次々とベストセラーとして世界に送り出し、そのほとんどの作品が映画化されて売れに売れているトップランナーとも言える作家。だからこそ、このグリシャムという人が、南部作家であったかという点について今さらながら、あっと思わせられる。そう言えばデビュー作である『評決のとき』はまさに人種混淆の南部を舞台とした差別に真っ向から挑んだ作品であった。しかしそれにしても、この作家が今アメリカから次々と送り出されている南部の書き手であるというところまでは、正直思い至ってもいなかっ...
  • 魔術
    魔術 魔術 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 魔術 (ハヤカワ ポケット ミステリ―87分署シリーズ) 題名:魔術 原題:Tricks (1988) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:井上一夫 発行:ハヤカワ・ミステリ 1989.02.28 初版 価格:\800  久々に緊迫感あふれる一冊。ポイントはまたしても濃縮された時間。ハロウィンの夜の始まりとともに本書は幕を開け、万聖節が明ける深夜のアイソラへと疾走を始める。手に汗握り、不眠の朝を生み出す本とはこういうもののことをいうのだ。もし<87分署>シリーズになにか他の作品で触れてどうしても気に入らなかった人には、本書、あるいは『殺意の楔』をお薦めしたい。なぜならこれらは短い時間に閉じ込められたとても濃密な物語だからだ。  まず冒頭でいきなりいくつもの事件が勃発し始める。バーンズ警部はハロ...
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