wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「真保裕一」で検索した結果

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  • 真保裕一
    真保裕一 長編小説 連鎖 1991 取引 1992 震源 1993 ホワイトアウト 1995 朽ちた樹々の枝の下で 1996 奪取 1996 奇跡の人 1997 密告 1998 ボーダーライン 1999 黄金の島 2001 ダイスをころがせ! 2002 発火点 2002 誘拐の果実 2002 繋がれた明日 2003 真夜中の神話 2004 栄光なき凱旋 2006 最愛 2007 追伸 2007 アマルフィ 2009 デパートへ行こう! 2009 ブルー・ゴールド 2010.09 連作短編集 ストロボ 2000 中短編集 盗聴 1994 防壁 1997 トライアル 1998 灰色の北壁 2005 時代小説 覇王の番人 2008 紀行、エッセイ クレタ、神々の山へ 2004 夢の工房 2004
  • トライアル
    トライアル 題名:トライアル 作者:真保裕一 発行:文藝春秋 1998.7.30 初版 価格:\1,238  公営ギャンブルはスポーツでありながら、最後のところでスポーツではない。ちょっとした楽しみ以外にも、社会の膿、欲による破滅、多くの暗い面を抱えてもいて、これに主催者側は頬かむりする。でも頬かむりしきれずに、社会のあくのようなものを滲み出させ、これがこれらの物語を生み出して行く。  公営ギャンブルを、取材魔・真保裕一がどのように切るのか、ひとつの楽しみだったが、残念なことに三つの物語において、プロットもテーマも似通っていた。兄、妻、父……役どころこそ違え、かけがえのない人間たちとの疑惑と絆。ギャンブル界に関わるがゆえの葛藤。アンチ・スポーツ・ライクなこと……。  ミステリアスな最終話『流れ星の夢』が毛色を変えてけっこう生けた。  ...
  • アマルフィ
    アマルフィ 題名:アマルフィ 作者:真保裕一 発行:扶桑社 2009.04.30 初版 価格:\1,500  真保裕一はその後どうなっているのだろう。しばらくご無沙汰してしまった作家である。ある時期とても気に入っていたのに、一作ごとに猫の目のように変わる作風と、テーマの変遷に少し疲れてしまい、その後追いかけるのをぱたっとやめてしまった作家、というと失礼かもしれないけれど、ぼくの側の真実だ。  最後に良かったと思ったのは『発火点』『誘拐の果実』『繋がれた明日』と、読んできて、ああ、最早、ぼくの求める娯楽小説のジャンルではないかなと思い始めてしまったのだ。人間を描きたいというのは作家として必然だし、ぼくの方だって人間を読みたい。だけど上の三作を通じて得たものは、薄っぺらな道徳小説みたいな人間だった。誰もがいい子ちゃん過ぎる、というのが真保裕一の弱点ではな...
  • 黄金の島
    黄金の島 題名:黄金の島 作者:真保裕一 発行:講談社 2001.5.25 初版 価格:\2,000  次に何を書くか予想もできないジャンル無用の作家・真保裕一。これだけはイメージ外と言っていいだろうアジアン・ノワールに今回は何と挑戦してくれた。常に読者をいい意味で裏切るという冒険的取り組みをその姿勢に示す作家だから、まあこういうのも行ってしまうのか、と納得できるのだが、読み進むにつれて明らかになってゆくその骨太なストレートさ。けれん味のない、直球勝負ではないか。  「ヴェトナム戦争」という単語でしかぼくは知らないヴェトナム。戦争以降のヴェトナムの状況について、これほど掘り下げて描いてくれた娯楽本いうのは、初めての体験であるかもしれない。ましてや日本作家では。ボートピープルの質が、いつかしら政治亡命から、経済的な種類のものに変わってきていること...
  • デパートへ行こう!
    ...へ行こう! 作者:真保裕一 発行:講談社 2009.08.25 初版 価格:\1,600  真保裕一の原点かもしれない。デパートという題材の庶民性。少なくとも都会に住む人の思い出のなかにはデパートという名の、高級で煌びやかで、ちょっと手が届かないフロアの一角に、屋上遊園地やデパ地下の試食コーナーなど、庶民が入り込める余地がある。買い物に出かけるにしても、きちんと身奇麗にして出かけてゆかねばならない少し気取った、それでいて少し幸せと夢の溢れる場所。  そんなデパートが今、日本各地で倒産し、閉店し、テナントビルやモールに変わろうとしている。こうした時代背景に対し、デパートが生んだ多くの人物への記憶や物語を、真保裕一は、たった一夜の深夜の老舗デパートに展開してみせた。寓話のような、童話のような、レトロでノスタルジー豊かな物語に。  この作家、『誘拐の果実』『繋...
  • 防壁
    防壁 題名:防壁 作者:真保裕一 発行:講談社 1997.10.10 初版 価格:\1,600  ある種命がけの公務に携わる職業を中核の題材に、例によって取材をもとにした中・短編集である。一般市民の及びもつかぬところで「この職業への誇り」という非常に抽象的なものに、私生活や生命の犠牲を惜し気もなく払う男たち……とでも言おうか。  サラリーマンもいろいろな犠牲を強いられてはいると思うが、この本の男たちはさらに強烈なプレッシャー下で生きている。SP、海難救助員、爆発物処理班、消防士と言った四つの職業に関わる物語。どの物語も、それら職業的真実をおろそかにせず完結させていて、読み応え十分、味付け十分。真保裕一はつくづく巧い作家である。  ぼくはサラリーマンだけれども、この種の職業の人たちに少しだけ関わる商売もしているので、とりわけ救命や救助の必要な現...
  • ストロボ
    ストロボ 題名:ストロボ 作者:真保裕一 発行:新潮社 2000.4.20 初版 2000.7.10 3刷 価格:\1,400  日本では多くの作家が、短編集を多く発表しているけれど、藤田宜詠、香納諒一、そして真保裕一ってところは、短編集もきちんと意識して色揃えをしてゆく几帳面な作家という印象がある。中でも連作短編集は長編小説のように人物描写がきちんとしていて、読者としてもキャラに対し馴染んでしまうので、短編とは言え、決して馬鹿にできないものがある。  本書は一人の写真家半世紀を遡行的に綴った、味わいある連作短編集。主人公の50代の物語に始まり、40代、30代、20代と徐々にエピソードを綴ってゆく形式が変わっている。次々と遡ってゆく一人の人生。強烈なエピソードの数々。それはまるで、ストロボで照射して切り取るように。記憶のレンズがフラッシュ・バックして...
  • 光源
    ...  そう言えば真保裕一『ストロボ』にもどことなく似ている作品だなあ。真保裕一もたまにジャンルという荒れ地を彷徨い出してしまいそうな作家ではあるけれど。 (2001.03.18)
  • ボーダーライン
    ...ダーライン 作者:真保裕一 発行:集英社 1999.9.10 初版 価格:\1,700  ハードボイルドと最も縁のない作家だと思っていた。どちらかというと優しさ方面ばかりが目立つそんな真保裕一が真っ向から挑んだ正統ハードボイルドの雄編。  真保らしさと言えば、舞台をアメリカに持って行った上で銃を所持するための法的条件、そして探偵ライセンスを所持するための論理的展開、このあたりのリアリスムへの周到な準備と言ったところだろうか。日本作家でも有数の準備調査作家である真保の真保たる由縁が作品のこうしたところにある。  作品へのきめ細かなそうした愛情は相変わらずで好感が持てる。何よりも舞台を真保らしからぬアメリカに持ち込んでメキシコ国境地帯のきな臭い土地に、銃をぶっぱなすことに抵抗や違和感を覚える日本人調査員を立たせたという、この作家的冒険心にこそぼくは拍手を贈り...
  • 誘拐の果実
    ...誘拐の果実 作者:真保裕一 発行:集英社 2002.11.10 初版 価格:\1,900  最近真保裕一作品が楽しめない体質になっているっていうのは、ぼくだけなんだろうか。あの『奪取』から『ホワイトアウト』の頃がやっぱりこの作家のピークだったんだろうか。そんな恐ろしい懐疑を懐に抱いたまま、けっこう困った顔をしてこの作家の本を読んでいる。  なので、この本には相当期待したのだった。ひさびさの真保版クライム・ノベルらしいし、何せ目次を読んだだけで期待できそうだった。「序章 誘拐の萌芽」「第一章 十七歳の誘拐」「第二章 十九歳の誘拐」「第三章 誘拐の接点」「第四章 誘拐の果実」と、なんだか『奪取』以来のわくわく感を持たせるような構成をしているわけで。  ところが特定の主人公らしき人が不在のままで、ああ、集団小説なのかと映画『誘拐報道』らしきイメージの俯瞰視線で...
  • さ行作家
    ...翔田 寛 新堂冬樹 真保裕一 末浦広海 鈴木光司 瀬名秀明
  • ブルー・ゴールド
    ブルー・ゴールド 題名:ブルー・ゴールド 作者:真保裕一 発行:朝日新聞出版 2010.09.30 初版 価格:\1,600 今日は昨秋に買ってあったのに読まずにいた真保裕一『ブルー・ゴールド』読了。こんなに時間を空けるのなら七里図書館で予約すればいいのだ。近くにもっと図書館がいくらでもあるのだろうけれど、札幌でも麻生あたりの図書館にゆかず、石狩図書館に車を走らせていたぼくは、ひっそりとした郊外にいきなりにょきっと生えてきてしまったような図書館が好きなのかもしれず、だからこちらでは七里図書館のカードを作ったのである。  そんな風に田園環境下で育ったぼくは自然大好き、都会大嫌いの性格なのだが、環境小説のような顔をしているけれども、実際には少しもエコでもなんでもなく、どんでん返しのプロットばかりを見せつけるような本書のような小説は、あんまり身が入らないのだっ...
  • 発火点
    発火点 題名:発火点 作者:真保裕一 発行:講談社 2002.7.15 初版 価格:\1,900  何故か真保裕一という作家の作品は、ぼくにとって好悪がはっきりしているところがある。『奪取』や『ホワイトアウト』など、娯楽性を追及した作品はドライに楽しめる部分があるのと、その道具立てや下準備にすごく感心したくなるところがあって、そういう部分でのプロ的な職人芸としての小説作りは大変に好きな部分である。  一方で『奇跡の人』『密告』などのどちらかと言えば深刻で暗く、煮え切らない主人公が腹の中に、ほの熱い塊のようなものを抱えつつ、どろどろと悩む内面形のストーリーとなると、途端に投げ出したくなる。  そもそもスーパーマンではなく小市民的な人間の造形に長けた作家だ。タフな悪党やでかい組織を相手に、いわゆるフツーのどこにでもいそうな人が大活躍したり意地を見...
  • ホワイトアウト
    ...イトアウト 作者:真保裕一 発行:新潮ミステリー倶楽部 1995.9.20 初版 価格:\1,800 (本体\1,748)  この作家の本を手に取るのは実のところ初めてなのだけど、けなし批評が全くアップされていないのも肯けました。自分は雪山経験が多いのでこの手の、雪を素材にした冒険小説が、新田次郎の山岳小説みたいなノンフィクションではない形でいつか日本に現われないものかと期待していたのだけど、これはその記念すべき作品の一つと言っていいのじゃないだろうか。  以前より某読者と志水辰男の『飢えて狼』の第二章は素晴らしいですねと誉め湛え合っていたのだが、あれがいわゆる冒険行の細部を描く日本小説の金字塔であったと未だに思えている。そしてこの細部を描く冒険行ということでは谷甲州の『遥かなり神々の座』が素晴らしかった。雪や岩や山岳ゲリラとの逃避行だけで成り立っているような非...
  • ギフト
    ...配がする……と書くと真保裕一『奇跡の人』みたいでもあるが、もちろん似て非なるストーリーである。タイトルの『ギフト』というのが、ラストで、大向こうをうならせる。やるなあ、と言わせしめる力業は、見逃せないところだと思う。  でも、なぜ、この作品、ホラー文庫なんだろう? (2001.01.02)
  • 繋がれた明日
    ...がれた明日 作者:真保裕一 発行:朝日新聞社 2003.05.30 初版 価格:\1,700  はっきり作風が変わったのだとわかる。かつての神保裕一はクライム・ノベルの書き手であったと思う。あくまでミステリーの範疇でとりわけ犯罪を物語の中心に置き、そしてカテゴリーはエンターテインメントだった。ここ二年ほど、つまり具体的には『黄金の島』を最後に、神保裕一はクライム・ノベルというところからは身を引いたと言っていい。  いつまでも未練たらしく追いかけていても割りが合わない。そのことを確信させてくれるここのところの三作だ。具体的には『発火点』『誘拐の果実』そして本書『繋がれた明日』。どれも犯罪そのものの分析行為を通して、現代の青春の難しさ、生きにくさ、といったところを描き、何らかの道標を示すという説教臭い小説なのである。どれも悔恨に貫かれ、どれもある種の美談。本書だって...
  • 密告
    密告 題名:密告 作者:真保裕一 発行:講談社 1998.4.6 初版 価格:\1.800  『防壁』に見られる公務もの最前線、と言ったシリーズの中に位置付けていい作品なのかもしれない。警察官でありながら、五輪を目指すスポーツ選手として射撃に生きがいを見いだしていた主人公。早く言えば彼の挫折後日譚という形。  でも、よく見えないのである。警察内部の灰色の部分を作者はテーマにしたかったのか。それとも男女の情念を描くための舞台装置にしたかったのか。読後感は後者だけど、読書中は前者の感覚。こんな風に作品への目線が微妙にずれてしまったのは、この作品だから。これと言ったアクセントが描き切れていないし、どちらにしても中途半端な印象が強いのだ。  男女の情念と言うにはあまりにも薄いし、なんだか清純と言うには女性の側も誰も子供ではない。プロットの運び、驚きの...
  • 赤き馬の使者
    ...いいのではないか? 真保裕一があとがきで書いているけれど、ブームに一年早かったゆえに埋もれていた作品なのだと感じた。  おまけに札幌在住の私としては嬉しいことに、この物語は北海道に始まり北海道に終わる。札幌に始まるストーリーが、鹿討という架空の町(どう見ても鹿追町がモデル)で展開されて、網走の能取岬の対決に向かってゆく。前作では設定されたTVでお馴染みのキャラクターたちは電話線の向こう以外、ほとんど登場しない。まさに完全小説版の工藤俊作登場といったところだ。赤いスカイラインで荒野を駆る工藤探偵というのは、TVにはなかった独特の味わいである。  テンポの良いストーリー運びと、癖のある人物たち。リアリティのある舞台設定。そして何よりもハードボイルドの鉄則に基!づいた決意と行動。ハメットの『赤い収穫』を髣髴とさせられるかもしれない。スタークのバイオレンス・アクションを思い出...
  • 奪取
    奪取 題名:奪取 作者:真保裕一 発行: 1996.8.20 初版 価格:\2,000  偽札作りのリアリティってことで、書店でぱらぱらしただけで買ってなかったのがこの本。しかし評判を聞きつけて改めて購入し読んでみると、何と締め切り前に読んでいれば『このミス』アンケートで必ず登場していた作品であったのだ。ああ、『神々の座を越えて』に次ぐ悔恨の念!  ぼくはこの作者は『ホワイトアウト』しか読んでいないので、この作品のような比較的明るく遊びの多い作品に触れるのは初めてである。主人公のストレートさ、そして何度でもめげずにしつこく食らいついてゆく心意気などなかなか魅力的であった。しかもそれを知で乗り越えてゆこうというところに、この小説の魅力のすべてがある。  いわば面白い小説というのはままあるけれど、魅力的な小説というのはそれに決して比例するほ...
  • 奇跡の人
    奇跡の人 題名:奇跡の人 作者:真保裕一 出版:角川書店 1997.5.25 初版 1997.6.25 3版 価格:本体\1,700  高校を出た頃に書いた自分の習作小説を思い出してしまった。必ずしも似た設定とは言いがたいけれど、こんなプロットであった。  ある青年が、見知らぬ女に呼び止められ、瓜二つの恋人と間違えられ、その女性との新生活を唐突に始めてしまう。その間記憶を失ったふりを続け、綱渡り的なあやうい日常を開始する。ところがやがて真相が発覚してしまい、それと同時に青年は事故に遇う。そして本当の記憶喪失になって別の女性との新しい生活を始めるところで終わる……というシロモノだった。  その青年の核となる元々の自分はどこに行ったのか? どこへゆくのか? というのがそのとき書いているぼくの最大のテーマであり命題であったのだが、それにしても偶然性...
  • ダブル・イメージ
    ...\733  真保裕一『ストロボ』でも扱われた写真家が主人公。当然料理の仕方は全然違うけれども。  全体にはストーカーを題材にした物語。しかしハードなこわもての復讐者の暗躍する前半は快調。しかし作者の狙いである方の後半のミステリアスな部分は、前半と完全に断裂してしまい、バランスは悪い、話はつまらなくなる、プロットに無理がありすぎると、三段拍子にいやになっていってしまった。  上巻1/3だけ楽しめばいいかなと思われた作品である。マレルの二見文庫というのも珍しいが、この作品に限って新潮が手を出さなかったのも何となく肯けるのである。  昔のマレルの面影がかなり少ない(どこにもないとまでは言わないけれども)凡作。あの『ブラック・プリンス』『石の結社』『夜と霧の盟約』での神がかっていたマレルの凄みは、一体どこに置いて来てしまったのか?  (2000.11....
  • 新宿鮫 風化水脈
    ...も見え隠れしていた。真保裕一などはこの下調べの凄さで有名になっているが、『新宿鮫』シリーズも参考文献の多さではのっけから負けてはいなかった。  本書では、新宿学の教本とも言いたくなるところが目を引く。新宿史における蘊蓄をベースにしているのだ。もちろん新宿鮫シリーズの凄さは、そうした蘊蓄学を利用しながらも、独特のリズム・語り口でもって読者を虜にしてゆくストーリー展開の面白さにある。本書でもドラマチックな母娘の歴史、拳銃を盗まれた警察官(黒沢明映画『野良犬』を思い出していただきたい)のその後の半生など、人間の奥行きに届いてゆくような、ある意味とても大人な物語を紡いでくれている。  ぼくはもともとあまり蘊蓄が好きではないということが前提にあって、どんな本でも蘊蓄でだめになってゆくタイプではある。警察の使命についてあれこれ考えていないとやっていられない鮫島という警部の心情につ...
  • ジャンキー・ジャンクション
    ...ことが難しいと思う。真保裕一の『ホワイトアウト』のような素材としてのアルピニズムはともかく、山をテーマに冒険小説は成り立ちにくい気がする。  かつてこの谷甲州が『遥かなり 神々の座』で大成功を収めたのは、あくまで冒険小説としての背景の上に冒険のディテールを再現してみせたからだと思う。『凍樹の森』の第一部の凄みも然り。本書でも心鳴らせる冒険小説のディテールはふんだんに盛り込まれているのに、なぜかそれがドラマとして伝わってくれないのは大変に歯がゆい。  山という冒険を知った人間が山をいかに冒険小説に仕上げたところで現実の冒険を超えることができない。そんなジレンマを読んでいて感じざるを得なかった。ぼくは山岳冒険小説を読むたびに、モーリス・エルゾーグの『処女峰アンナプルナ』(白水社)という本を思い出す。ああいう現実の凄みを山岳冒険小説というジャンルは決して超えることができない...
  • マジシャン
    ...まりないのだけれど、真保裕一『奪取』などは偽札作りを材料にしながらも、コンゲームの楽しさを満載した作品としての傑作であったと思う。でも他にあまり記憶にない。特に日本では。要するにコンゲーム小説を作るというのは結構大変なことなのだ。だから実際にはあまり出回っていない。  さて、だからこの本『マジシャン』がコンゲーム小説なのかと言うと、そうではない。何せ詐欺そのものと真っ向から対決してゆく捜査官たちの物語だからだ。捜査官の方は騙すのではなく、詐欺やマジックを学びながら真相に迫ってゆくからだ。犯人側は記述を悪用した詐欺犯グループ。だから言ってみれば逆コンゲーム小説。どんな手口で犯人たちは詐欺を実行しているのか? その謎を解いてゆく物語なのである。  こういう小説外ネタモノ、薀蓄モノ、舞台裏モノを書かせると右に出る人がいないのがこの作家。怪しげな題材を一般読者に展開して見せる...
  • あでやかな落日
    ...小説界では、高村薫、真保裕一、香納諒一など活きのいい後継作家がどんどん生まれている。先輩作家が冒険小説作家の引退なんてことを考えていたら読者はもう着いては行かない、と苦言を呈しておきたいところなのである。 (1998.01.24)
  • 動機
    動機 題名:動機 作者:横山秀夫 発行:文芸春秋 2000.10.10 初版 価格:\1,571  『クライマーズ・ハイ』では、作者が1985年の夏に御巣鷹山で目撃した凄惨な<この世の地獄>を小説にしたものなのだが、現実にあった残酷を、小説と言う客観の形に成し得るまでに実に18年を費やさねばならなかったという。さらに、御巣鷹山の現場から離れた部署で活躍する男を主人公に据えて、現実を多くのフィルターで濾過せねば気が済まなかった。  以上は、『日経ビジネス』最新号で、横山秀夫自身が延べていることの意図的な要約、つまり意訳みたいなものだ。いつか書きたい真実の体験と小説と言う普遍的なスタイルを擦り合わせるのに、彼の持つ小説作法はこれだけの歳月を費やした。ある意味無骨、ある意味誠実な作法なのだと思う。  また『日経ビジネス』のインタビューでは、作者が常...
  • 希望
    希望 希望 題名:希望 作者:永井するみ 発行:文藝春秋 2003.12.15 初版 価格:\2,400  最近のミステリーは、犯罪そのものを通したドラマを劇的に描いてゆくというよりも、犯罪を起点としてその周囲の人間たちを、まるで絵模様のように精彩に描いて掘り下げてゆくといった社会派とも呼べるものが増えているように感じるのだが、この作品も実はミステリーという一言では片付けることのできない複数テーマを扱った分厚い物語である。  傾向としては、どうしても宮部みゆきの一連の社会派作品を思い出す。また神保裕一がこだわるところの犯罪者のその後の再生を描こうとした物語を。  今ではすっかりなじみとなった心理カウンセラーを中心に置いて、密室での心の吐露を流し込んでみたかと思えば、意味ありげな各章毎の副題が作品全体に陰影を投げかけており、なおかつインターネット、携...
  • ホット・ロック
    ホット・ロック 題名:ホット・ロック 原題:The Hot Rock (1970) 作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake 訳者:平井イサク 発行:角川文庫 1973.6.20 初版 1998.9.25 改版初版 価格:\780  一つのお宝を盗み出すのにこれほど苦労する物語というのは、数あるクライム・ストーリーでもなかなかお目にかかることはできないだろう。出所したばかりのシリーズ主人公ドートマンダーに、ケルプがある計画を持ちかける。お定まりの仲間集めから開始するが、その仲間たちの一筋縄では行かないこと。でこぼこコンビならぬ滅茶苦茶泥棒チームがこうして出来上がる。これがドートマンダー・シリーズのスタート地点。  恥ずかしながらこんな傑作ストーリーを読んでいなかったし、映画もまだ見ていない。世代的にはハマっていて...
  • リアルワールド
    リアルワールド 題名:リアルワールド 作者:桐野夏生 発行:集英社 2003.02.28 初版 価格:\1,400  この作家に関してぼくはあまり熱心な読者とは言えないのだが、エンターテインメントの能力はけっこう抜きんでているのに、作家としてのスタンスをけっこうふらふらさせてしまうことで損をしているのではないかという印象がどうも強い。  『柔らかな頬』はぼくの好きな作品であるが、その落とし前のつけかたに関しては、どう考えてもエンターテインメントというジャンルに背を向けたように見えたものだった。『光源』ではもうはなからエンターテインメントから距離を置いたところで書き始め、そのまま静かに進みゆく美しい人生小説、という風にぼくには受け取れてしまい落胆させられた。  神保裕一と言い、高村薫と言い、文章表現が美味くなってゆくことで、エンターテインメ...
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