wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「砂の女」で検索した結果

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  • 砂の女
    砂の女  人間の存在基盤にある方法で具体的に迫ってゆく作品。サスペンス小説、というよりは、ホラーに近い部分がある。だれが読んでも面白いであろうと思える。娯楽小説として読めるということ。特に、ラストが衝撃的である。 (1992.07.19)
  • 安部公房
    ...他人の顔 1961 砂の女 1962 榎本武揚 1964 人間そっくり 1967 燃えつきた地図 1967 夢の逃亡 1968 箱男 1973 密会 1977 友達 1967 幽霊はここにいる 1971 笑う月 1975 方舟さくら丸 1984 カンガルー・ノート 1991 中・短編集 水中都市・デンドロカカリヤ 1949 壁S・カルマ氏の犯罪 1951 R62号の発明・鉛の卵 1956 無関係な死・時の崖 1964 友達・棒になった男 1967 カーブの向う・ユープケッチャ 1966 緑色のストッキング・未必の故意 1989 飛ぶ男 1994 戯曲 幽霊はここにいる・どれい狩り 1958 エッセイ、評論、その他 砂漠の思想 1965 内なる辺境 1968 反劇的人間 ドナルドキーン対談 1979 死に急ぐ鯨たち 1986 安部公房の劇場7年の歩み 1979 裁かれ...
  • 海燕ホテル・ブルー
    ...命の翻弄。安部公房『砂の女』を思わせる虜囚感覚。いくつもの愚かさ。そういったすべてが船戸の優れた物語作家としての資質ゆえに、日本というある具体的で読者の側によく知られた場所で、読者をどれだけぐらりと揺すってみせるか。それが最大の関心……と。  船戸の新たなマイルストーンとしての奇妙な味わいのこの作品。いつもの長大さの感じられない少しコンパクトな印象のスケールではあるけれど、ページターナーであることは保証できる。特に船戸ファンたちのいろいろな評価を聞きたくなるような一冊である。 (1998.08.07)
  • 熱砂の果て
    熱砂の果て 題名:熱砂の果て 原題:Off The Grid (2016) 著者:C・J・ボックス C.J.Box 訳者:野口百合子 発行:創元推理文庫 2023.6.16 初版 価格:¥1,300  前作では、病院のベッドに身を横たえていたネイト・ロマノウスキーが、本作では熱砂の砂漠で銃を構えて登場する。迫りくる敵。空を旋回するネイトの鷹たち。砂塵を巻き上げて迫る脅威。そんな緊迫したシーンにスタートする本書は、全編この手のアクション満載の読み逃せない一作だ。本作ではネイトと本編主人公であるジョー・ピケットとのそれぞれのドラマが、ラスト近くで交錯する。言わば、二つの冒険小説を楽しめるばかりか、それらの合体するラストシーンの豪華さを味わうことができるのだ。  ぼくは、インターネットが普及する前に、パソコン通信Nifty-Serveで冒険小説&ハードボ...
  • 砂の狩人
    砂の狩人 題名:砂の狩人 上/下 作者:大沢在昌 発行:幻冬舎 2002.9.25 初版 価格:各\1,667  主人公は違うけれど、脇役となる佐江という刑事は『北の狩人』でも同様の役を当てられているらしい。そちらは未読なので、そんなことが巻半ばほどで判明してしまったときに、シリーズものは最初から読まないと蕁麻疹が出るという性格のぼくはひどく哀しんだ。救いだったのは蕁麻疹が出るほどのシリーズではなく、どうもかなり独立した作品だということだ。先日、高野和明の『グレイヴディッガー』には、『13階段』と同じ人物が登場したね、と人に言われるまで気づかなかったときにも似たようなむず痒い感覚を覚えた。『13階段』は確かに読んでいたのに、全然気づかなかったからだ。  しかし、待てよ、『砂の狩人』と言い、『グレイヴディッガー』と言い、どちらかと言えば激走...
  • 砂のクロニクル
    砂のクロニクル 砂のクロニクル〈上〉 (新潮文庫) 砂のクロニクル〈下〉 (新潮文庫) (↑アマゾンにて購入) 題名:砂のクロニクル 著者:船戸与一 発行:毎日新聞社 1991.11.30 初版 価格:\1,750(本体\1,699)  さて気合の入った一冊を気合を入れて読んできたけど、とても時間がかかった。何せ13ヶ月も週刊誌に連載されたばかりか、その上に400枚の加筆を加えたという作者入魂の作品だ。さっと読むのは惜しまれたし、さっと読めるほど軽い本では到底なかった。しかしぼくにとっては案の定文句なしに1991年のベスト1作品になった。  最初200ページまではそれぞれの章があまりにかけ離れた話で、全体の像を結ぶことができない。これはこの作品の唯一最大の欠点だと思った。のっけから読者を食ったような緊迫した話で始まるのはいつものことだが、序章を終...
  • 幻の女
    幻の女 幻の女 (角川文庫) 幻の女 題名:幻の女 作者:香納諒一 発行:角川書店 1998.6.25 初版 価格:\2,000  懲りに凝ったプロット、原りょう以来の丁寧に書かれた和製ハードボイルド、男の情感、暗闇の深さ、謎の深さ、事件のスケール。どれを取っても、ははあ、これまで三冊も短編集ばかり読まされてきたのは、この作品に打ち込んでいたせいなのだなと思わせられる。それほどに優秀な作品であると思う。北上次郎も新聞で絶賛したはず。  しかし香納諒一という作家は、いつも一枚何かが足りない荒削りと言われてきた。それはテクニックだったのかもしれない。プロットでのもうひとひねりであったのかもしれない。作家はこうした疑問に真っ向から答えるようにこの作品に取り組んだのかもしれない。だからそれなりの完成度の高い作品にはなっていると、ぼくも思う。  しかし、...
  • 緑衣の女
    緑衣の女 題名:緑衣の女 原題:Grafarþögn (2001) 作者:アーナルデュル・インドリダソン Arnaldur Indriðason 訳者:柳沢由美子 発行:東京創元社 2013.07.12 初版 価格:\1,800  北欧ミステリを読むにつれ、どんどんその魅力にはまりつつあるのが最近の私的読書傾向。独自の気候風土が持つ異郷としての魅力に加え、警察小説として修逸である作品がこれほど多いのには驚かされる。世界的に翻訳され、海外小説にはいつも分の悪い日本であれ、最近はどんどん翻訳が進められ(数少ない北欧言語の翻訳家は大変だろうと思う)、我々の手に触れるようになったことは喜ばしい限りである。  日本の書店を賑わして最近とみに注目されるようになっているのが、北欧五ヶ国で最も優秀なミステリに贈られるという『ガラスの鍵』賞ではないだろうか。本書のアーナ...
  • わらの女
    わらの女 題名:わらの女 原題:La Femme De Paille (1954) 著者:カトリーヌ・アルレイ Catherine Arley 訳者:橘明美訳 発行:創元推理文庫 2019.07.30 新訳初版 価格:\1,000  偶然にも生まれる前の小説を続けざまに読んでいる。こちらはピエール・ルメートルの訳者・橘明美による新訳がこのたび登場。古い作品ほど、新鮮に見えてくるこの感覚は何なのだろう?  1960年代にフレンチ・ノワールが日本の劇場を席巻したのも、下地としてこのように優れた原作があったからなのだろう。少年の頃に劇場や白黒テレビで触れたそれらの映画を、大人になって改めて映画、小説などでノワール三昧の一時期を送ったものだ。本書はノワールでありながら、それだけではない。言わばノワール・プラス・アルファな作品なのである。ノワールの特徴である...
  • 魔力の女
    魔力の女 題名:魔力の女 原題:Sleep No More (2002) 作者:グレッグ・アイルズ Greg Iles 訳者:雨沢 泰 発行:講談社文庫 2005.11.15 初刷 価格:\1,086  グレッグ・アイルズの小説としては、極めて異色だとしか言いようがない。歴史に材を取ったり、精緻なサイコ・スリラーを描いたりと、どれをとっても凝りに凝った仕掛けと精密なプロットで読者を唸らせてきた作家である。その彼が、たいへん自由度の高いテーマに手を出した。どちらかと言えばスティーヴン・キング系の「あれ」である。  ミシシッピ州ナチェズで石油試掘地点を投資家に助言する仕事をしている主人公ジョン・ウォーターズの前に、突然謎の美女が現れる。ナチェズの不動産会社を営むイヴ・サムナーである。彼女は徐々に接近を迫り、挙句に、自分はジョンの死んだ恋人マロリー・...
  • 隠れ家の女
    隠れ家の女 題名:隠れ家の女 原題:Safe Houses (2018) 作者:ダン・フェスパーマン Dan Fesperman 訳者:東野さやか 発行:集英社文庫 2020.02.25 初版 価格:¥1,400  660ページ。分厚い作品である。内容も決して軽くはない。それなのに、何故かページが進む作品である。原文、訳文が読みやすいとも考えられるけれど、やはりストーリーテリングが秀逸なのだろう。耳に心地よい物語の如く、読んでいて快適な作品なのである。  王道スパイ小説×謎解きミステリーの合体といったアピールの帯が巻かれているが、その上に加わわった作品の構成とテーマと題材、などのも面白さに推進力を加えた重要な要素なのだろう。  まずは、二つの時代を交互に行き来するという構成の妙。1979年東西冷戦下のベルリンを舞台に描かれた女性情報職員ヘレン...
  • Qrosの女
    Qros(キュロス)の女 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:Qros(キュロス)の女 作者:誉田哲也 発行:講談社 2013.12.12 初版 価格:\1,500  10月にプルーフ本の形で読み終わったのだが、どうも今ひとつ乗り気になれない小説だった。誉田哲也はいわゆるあざと...
  • 新車のなかの女
    新車のなかの女 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:新車のなかの女 原題:La Dame Avec Des Lunettes Un Fusil (1966) 作者:セバスチャン・ジャプリゾ Sébastien Japrisot 訳者:平岡 敦 発行:創元推理文庫 2015/7/31 初版 ...
  • 活動寫眞の女
    活動寫眞の女 題名:活動寫眞の女 作者:浅田次郎 発行:双葉社 1997.7.25 初版 価格:\1,700  ページを開いた途端に現実からがたりと乖離できるような、こうした読書感覚を覚えさせてくれる本が、いったい今の世の中にどれくらいあるだろう。ぼくの方の感性が鈍り始めているかもしれないことをこの際差し引いても、今の書店には、ぼくが青春時代よく足を運んだ図書館や書店のような、本たちの向こう側にある奥行きというようなものが、あまり深くは感じられなくなっているような気がする。  かつて国内産ミステリーというものがそんなに多くなかった時期、ぼくらは数は少ないながら、もっと多くの浪漫性のある作品に触れていたような気がする。我々の日常生活とはかなり隔たった時空の物語たちであるゆえに、我々の日常にまで深く深く侵入してくるような何ものかを孕んでいた物語たち...
  • セメントの女
    セメントの女 題名:セメントの女 原題:The Lady In Cement (1961) 作者:マーヴィン・アルバート Marvin Albert 訳者:横山啓明 発行:ハヤカワ・ミステリ 2004.04.15 初版 価格:\1,000  博打でまきあげたクルーザーに暮らし、ダイビングを楽しむ私立探偵トニー・ローム。舞台はマイアミ、きちんと事務所も用意しているのに、とてもラフな遊び人探偵。そんな陽気な明るい雰囲気のシリーズは、現代でも通用しそうなくらい、テンポのいい軽ハードボイルドの傑作だった。  事務所で大人しくしているタイプではなく、本当にじっとしていられないたちの探偵だということがわかる。負けず嫌いで、へそ曲がりであり、へらず口を叩くよりも手が出ているタイプなのだろう。若いし、体力もあり、よく走り、よく泳ぎ、よく殴られる。満身創痍の体を引きず...
  • ミリオンカの女
    ミリオンカの女 題名:ミリオンカの女 うらじおすとく花暦 作者:高城 高 発行:寿郎社 2009.07.15 初版 2009.10.05 再版 価格:¥2,200  創元推理文庫で全4巻に渡る高城高全集が再発掘された時の衝撃はけっこう大きかった。戦後復興の時代に創始された国産ハードボイルドの嚆矢として仙台、札幌、釧路と、作家が新聞記者として渡り歩いた街の当時の独特の空気感を題材に短編作品を紡いだものだ。  その全集により高城高の名前がぼくらの世代にも知られるようになったためか、四十年以上の沈黙を破り、高城高は新しい世界の構築を始める。一つはバブルに沸くすすきのの黒服の男を描くハードボイルドで、これらはかつての短編世界を継ぐものと言っていい。しかしもう一つの函館水上警察シリーズは、開港間も無くの函館に材を取った歴史ハードボイルドと言うべき、独自でありなが...
  • ブルー・ドレスの女
    ブルー・ドレスの女 ブルー・ドレスの女 (ハヤカワ・ミステリ文庫) ブルー・ドレスの女 (ハヤカワ ポケット ミステリ) 題名:ブルー・ドレスの女 原題:DAVIL IN A BLUE DRESS (1990) 作者:WALTER MOSLEY 訳者:坂本憲一 発行:ハヤカワ・ミステリ 1993.9.30 初版 価格:\950(本体\922)  原題は『ブルー・ドレスの悪魔』なんだけど、まあそれほど悪女ものという印象はなかった。むしろ 1948 年という、ぼくの生まれる以前の、いわゆる大戦後に時代を設定した点が珍しい。また作者のモズレイは自分と同じ黒人を主人公に据えているばかりか、舞台となるほとんどの場所が、プロレタリアートの黒人街であるから、それなりの特殊な凄味というものが全編を覆っていることになる。  CWA、 PWA 処女長編作...
  • その女アレックス
    その女アレックス 題名:その女アレックス 原題:Alex (2011) 作者:ピエール・ルメートル Pierre Letmaire 訳者:橘明美訳 発行:文春文庫 2014.09.10 初版 2014.10.20 3刷 価格:\860  パリ発のミステリを新作で読めるなんて一体何年ぶりだろうか。ジャン・ボートラン『グルーム』とか、セバンスチャン・ジャプリゾの『長い日曜日』以来だろうか。  近年北欧ミステリが欧米のそれを凌駕するくらい大量に翻訳されるようになり、ヨーロッパの娯楽小説が見直されてきているが、そういう潮流に、本来の文芸王国であり、フィルム・ノワール、ロマン・ノワールのお膝元であるフランスがこういう作品をきっかけに日本の書店にも並んでくれると有難い。一昨年、フランスを旅行したときに、あちこちの店で目に付いたのがダグラス・ケネディだったことを思...
  • 特捜部Q -檻の中の女-
    特捜部Q -檻の中の女- 題名:特捜部Q -檻の中の女- 原題:Kvinden I Buret (2008) 著者:ユッシ・エーズラ・オールスン Jussi Adler-Olsen 訳者:吉田奈保子訳 発行:ハヤカワ文庫HM 2013.02.25 2刷 2012.10.15 初刷 2011.6 初版 価格:\1,000  週刊ブック・レビューに参加していた中江有里が、児玉清『ひたすら面白い小説が読みたくて』の紹介をしている番組を、先週見た。紹介された本は児玉清の文庫解説を集めて編纂した本なのだが、中江有里は、本は解説から読むという。解説を読んで買ったり読んだりするかどうかを決めることは多い、と言っていた。ぼくも実は同じ傾向があり、決め打ちの作家は別として、書店で手にとった本の巻末解説などには必ずと言っていいほど眼をやり、それによって読む本を選択することは多い。...
  • 死者の日
    死者の日 死者の日 題名:死者の日 原題:Dia De Los Muertos (1997) 作者:Kent Harrington 訳者:田村義進 発行:扶桑社 2001.09.30 初版 価格:\1,524  『転落の道標』を読んだときには、エルロイとトンプスンの中間地点に立つ作家と感じていたケント・ハリントン。しかし本作を読んでみてこうも印象が違うと、まだまだこの作家の才能は出尽くしてはいないのだとの期待感が募ってくる。本書はよりエルロイに近い熱気を感じさせる作品。  舞台はメキシコのティファナ。破滅への秒読みを開始した麻薬取締官の24時間が始まる。最悪に最悪を重ねるなかで、ピュアな純愛を持ち続ける男。よりリアルで偶像にはなり切れない、弱さだらけの女。何とも距離感がありながら、情念と人生が絡まり合う関り方だ。皮肉で過酷で人生そものの男女関係だ。これ...
  • 勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4
    勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4 題名:勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4 著者:垣根涼介 発行:新潮社 2012.5.20 初版 価格:¥1,500-  小説の中に自分がいる。そんな気持ちにさせられるのがこの連作中短編集『君たちに明日はない』シリーズである。リストラ請負人・村上信介が現れると、短編毎にサブ主人公となる各種職業の誰かは、仕事と人生の見直しを強いられることになる。自分の生活の中で果てしなく続くかに見えた日常が、危うく儚いものとなり、自分自身と改めて向かい合うことになる。  小説中のキャラクターたちが自らの人生を問うとき、自分はどうだったろうか、どうなのだろうか? と問いかけざるを得なくなる。あるいは自分に類似する部分を登場人物に発見する時の驚き。人間の個性とは? 人間の選択肢とは? いろいろなことに向き合うことで、より正しい自分...
  • 北の狩人
    北の狩人 題名:北の狩人 作者:大沢在昌  発行:幻冬舎 1996.12.17 初版 価格:\1,751  『砂の狩人』に触発されて読んだ本。というより、『砂の狩人』は軽いアクション・ノベルだけれど、その中で佐江という、鮫島よりはよほど新宿の匂いが染み付いている刑事の存在が気になって、彼の登場する前作というのを読みたくなってしまったのである。  そしてこちらは第一弾らしくやはり『砂の狩人』よりずっと密度の濃い面白さを感じさせ、なおかつ設定も独特だった。12年前の事件の秘密を暴くと同時に、現在進行形で張り詰めてゆく新宿支配の構図変換点。そこに現れてしまったのが、秋田県警から休暇を使って個人的に12年前の父の死の秘密を探しにやってきた25歳のタフガイ。  なんと言ってもこの主人公は阿仁マタギの末裔であり、爺ちゃと一緒に何度も山に入り...
  • 幻夜
    幻夜 題名:幻夜 作者:東野圭吾 発行:集英社 2004.01.30 初版 価格:\1,800  一年前に図書館に予約していた本が今ごろになって読める。人気作家とは言えなぜこれほどと思うのだが、内容が分厚く、しかもじっくり読むタイプの大河ミステリといったところに原因があるのかもしれない。  『白夜行』の味を忘れられない方にもう一冊といったかたちの、非常に似通った物語であるが、阪神淡路大震災を発端に、どこから現われたかわからない謎の美女に弄ばれる数奇な人生というのが、この作品のメイン・ストーリーである。戸籍を消したり、他人に成り代わったりする話と言えば、松本清張の『砂の器』が有名だが、戦後の混乱期ではなく災害にその起点を持ってきたわけだ。現代のわれわれが読む新しい『砂の器』として人間の心の底に息づく暗渠の深さだけは、変わることがなく徹底して恐ろしい。...
  • 火車
    火車 火車 (新潮文庫) 火車 題名:火車 作者:宮部みゆき 発行:1992.7.15 初版 価格:1,553円  凄い作家がいたものだ。これがぼくの読了後の第一の感想。あまりのインパクト故、この本に関する他の人の感想をすぐさま見直してみたのですが、うーむ、いろいろ感慨深いものがあるのですね、これは。  まず読みつつ思っていたのは松本清張。これは五条氏も書いていますね。しかも連想された作品は『砂の器』。まず何故松本清張かと言うとこれは社会派の追跡推理小説であるということ。カード破産を主題としていること(タイトルはまさに<火の車>のことですからね)。ま、そこまでは大方の意見の一致するところでしょう。単細胞さんなどはこのへんに程度問題での不満さえ憶えているわけですね。ううむ、それもまたなんとまあ欲の深い感想であることかと感じました(^^;)  ★★こ...
  • 流沙の塔
    流沙の塔 流沙の塔〈上〉 流沙の塔〈下〉 流沙の塔〈上〉 (徳間文庫) 流沙の塔〈下〉 (徳間文庫) 題名:流沙の塔 上/下 作者:船戸与一 発行:朝日新聞社 1998.5.1 初版 価格:上\1,800/下\1,700  これは同じ作者のルポもの『国家と犯罪』と合前後して読んだ本だが、『午後の行商人』で取り上げたメキシコの後は、必然中国に目が向けられることは、ルポものの行方から想像ができていた。『流砂の塔』は、船戸が初めて書いた中国中央アジア国境地帯の物語である。  小説的な構成は、これまで以上に娯楽性を生かした、船戸作品では意外に少ない「三人称複数」。章毎に入れ代わる複数の人間たちが、どこでどう繋がってゆくのかが、まず興味の焦点。とは言えフォーサイスのように三人称をどこまでも広げてゆくのではなく、4つの視点をローテーションさせた章分け形式である...
  • 黄色い蜃気楼
    黄色い蜃気楼 黄色い蜃気楼 (双葉文庫) 題名:黄色い蜃気楼 作者:船戸与一 発行:双葉社 1992.9.25 初版 価格:\1,800(\1,748)  船戸ワールドの集大成とも言えた前作『砂のクロニクル』に較べると、この本はまず主張が少なく、 とってもエンターテインメントに徹した新作であった。 中でも目立つのは、構成の妙で、これが物語をとっても読みやすくしている。 ぼくはぐいぐいとカラハリ砂漠の熱砂の中へ引きずり込まれてしまったのである。  89年に『小説推理』に連載開始されたものでありながら、 作品は92年に幕を開けるので、 すぐに大幅に加筆され、全体の構成も組み直されたものであることがわかる。 船戸作品に共通するメリットは、この辺の完全主義ではないだろうか?  仕上げの丁寧さではないだろうか? 全体を叙事詩のように見せてしまう手腕は前作からきっちり...
  • ウィルバー・スミス Wilbur A. Smith
    ウィルバー・スミス Wilbur A. Smith 長編 密猟者 1968 小菅正夫訳 ゴールド 1970 池央耿訳 ダイヤモンドハンター 1971 林太郎訳 二人の聖域 1974 名取光子訳 虎の眼 1975 飯島宏訳 熱砂の三人 1976 田中靖訳 灼熱戦線 1976 熊谷鉱司訳 飢えた海 1978 飯島宏訳 無法の裁き 1979 飯島宏訳 闇の豹 1984 山本光伸訳 アフリカの牙 1991 田村義進訳 リバー・ゴッド 1993 大澤晶訳 秘宝 1995 大澤晶訳 ネプチューンの剣 上野元美訳
  • 森 詠
    森 詠 燃える波濤 燃える波濤 第一部 1982 燃える波濤 第二部 1982 燃える波濤 第三部 1982 燃える波涛 明日のパルチザン 第4部 1988 燃える波涛 冬の烈日 第5部 1989 燃える波涛 烈日の朝 第6部 1990 キャサリン・シリーズ さらばアフリカの女王 1979 風の伝説 1987 陽炎の国 1989 横浜狼犬(ハウンドドッグ)シリーズ 青龍、哭く 1998 横浜狼犬(ハウンドドッグ) 1999 死神鴉 1999 警官嫌い 横浜狼犬エピソード〈1〉 2000 砂の時刻 横浜狼犬エピソード〈2〉 2001 オサム・シリーズ オサムの朝(あした) 1994 少年記―オサム14歳 2005 革命警察軍ゾル 革命警察軍ゾル〈1〉分断された日本 2006 続 七人の弁慶 七人の弁慶 2005 続 七人の弁慶 2006 長編小説 黒い龍 小説...
  • C・J・ボックス
    C・J・ボックス C.J.Box 森林管理官ジョー・ビケット・シリーズ 沈黙の森 2001 野口百合子訳 逃亡者の峡谷  2002 野口百合子訳 凍れる森 2003 野口百合子訳 神の獲物 2004 野口百合子訳 震える山 2005 野口百合子訳 裁きの曠野 2006 野口百合子訳 フリーファイア 2007 野口百合子訳 復讐のトレイル 2008 野口百合子訳 ゼロ以下の死 2009 野口百合子訳 狼の領域 2010 野口百合子訳 冷酷な丘 2011 野口百合子訳 鷹の王 2012 野口百合子訳 発火点 2013 野口百合子訳 越境者 2014 野口百合子訳 嵐の地平 2015 野口百合子訳 熱砂の果て 2016 野口百合子訳 長篇小説 ブルー・ヘヴン 2006 真崎義博訳 さよならまでの三週間 2008 真崎義博訳
  • 白夜行
    白夜行 題名:白夜行 作者:東野圭吾 発行:集英社 1999.8.10 初版 1999.8.28 2刷 価格:\1,900  松本清張の『砂の器』などを読むと、罪を犯してしまう犯罪者以上に、犯人を育んだ時代そのものの屈折を感じる。『砂の器』ではハンセン氏病患者への差別ということから暗い旅を強いられる主人公の姿が鋭利に描かれていた。  松本清張の新作を楽しみにしていたが殺人事件の発生によって休暇を奪われた刑事……という書き出しには、巨匠の踪跡を追うかのような東野圭吾自身の意気込みを感じた。  そしてこの作品は犯罪者そのものの屈折を描き出しながら、そうした犯罪者を生み出した時代そのものの屈折とそこに蠢く人間たちの姿をまるで悪の年代記のように衝撃的に綴ってゆく。時代そのものの悪というものがあまり感じられないのは、清張の時代とは違って、高度成長期か...
  • 龍神町龍神一三番地
    龍神町龍神一三番地 龍神町龍神一三番地 題名 龍神町龍神一三番地 著者 船戸与一 発行 徳間書店 1999.12.31 初版 価格 \1,800  現代の日本を舞台にする船戸作品というのは極めて希で、これも大方不評であった『海燕ホテル・ブルー』以来。同じイメージで現代の日本を舞台にするというだけで船戸ファンの多くのクレームが聞こえてくることは予想されるところだけれど、ぼくは船戸は海外のものにしてもストーリー自体は主としてこんなところだと思っている。  海外を舞台にした作品がほとんどだと言える船戸作品においては、民族主義的な船戸的歴史観を軸に読むというケースが多いとは思うのだけど、傑作と呼ばれる『猛き箱船』や『山猫の夏』は、実は歴史性や社会性のカラーが薄いタイプの娯楽色の強い作品である。  独自の文化で糾われている現代日本のルーツを軸に据えてなどいない...
  • 時の渚
    時の渚 時の渚 (文春文庫) 時の渚 題名:時の渚 作者:笹本稜平 発行:文藝春秋 2001.5.15 初版 価格:\1,524  通常なら見逃した作品だったろう。昨年のサントリーミステリー大賞受賞作なんてなかなか読まない。一つには行きつけの店のマスターに最後が泣けるいい作品だと進められたこと。一つには最近では珍しい本格的な山岳冒険小説『天空への回廊』が読みたいので、その下準備的に、新人作家のデビュー作しかも受賞作を読んでおこうと思ったこと。  正直読後三ヶ月経った今、既に内容を忘れてしまっており、あちこち斜め読みして、複雑な事件の謎にもう一度挑戦しなければならなかった。だからと言って読後に放り出した本というわけでもなかった。むしろ良質の捜査小説であった。  印象はいい作品だった、ということ。何十年も昔に遡らねばならない宿命という風土の上で、砂の...
  • 大沢在昌
    大沢在昌 新宿鮫シリーズ 新宿鮫 1990 毒猿 新宿鮫2 1991 屍蘭 新宿鮫3 1993 無間人形 新宿鮫4 1993 炎蛹 新宿鮫5 1995 氷舞 新宿鮫6 1997 灰夜 新宿鮫7 2001 風化水脈 新宿鮫8 2000 狼花 新宿鮫9 2006 絆回廊 新宿鮫X 2011 暗約領域 新宿鮫XI 2019 黒石(ヘイシ) 新宿鮫XII 2022 狩人シリーズ 北の狩人 1996 砂の狩人 2002 黒の狩人 2008 雨の狩人 2014 冬の狩人 2020 佐久間公シリーズ 標的走路 1980 感傷の街角 1982 漂泊の街角 1985 追跡者の血統 1986 雪蛍 1996 心では重すぎる 2000 天使の牙シリーズ 天使の牙 1995 天使の爪 2003 BDTシリーズ B・D・T 掟の街 1993 影絵の騎士 2007 いやいやクリスシリーズ(短編...
  • シャーロック・ホームズ対伊藤博文
    シャーロック・ホームズ対伊藤博文 題名:シャーロック・ホームズ対伊藤博文 著者:松岡圭祐 発行:講談社文庫 2017.6.15 初版 価格:\679-  シャーロック・ホームズは中学生の頃に全作読んでいるはずなのに、さすがにホームズのことを思い出すことは少ない。しかし、成長期に読んだ本の印象だけは最近読んだ本よりも何故か残る。ホームズを描写するワトソンとホームズの探偵事務所の情景はいつも思い出すことができる。当時、表紙などろくに付いていなかった文庫本を手に取って、子ども小説から卒業して大人の時代に自分は突入するとの自覚をもって開いたのがホームズの短編集だった。  そのホームズのシリーズをまさか松岡圭祐の著書として読むことになろうとは! しかもエキセントリックなタイトル。歴史の中に実在の人物と架空のヒーローを織り交ぜて何位をしようというのか?  ...
  • 鋼鉄の騎士
    鋼鉄の騎士 題名:鋼鉄の騎士 作者:藤田宜永 発行:新潮ミステリー倶楽部 1994.11.25 初版 価格:\3,000(本体\2,913)  ノベルスであれば全 5 巻ほどの分量になる書き下ろし作品を、このような形で意地で一冊にまとめちゃった新潮社は偉いんだけど、寝床で持ち上げながら読む身になってみればこれはまるで本というよりバーベルであったかもしれない。まあこんな分厚い本を読んだのは生まれて初めてであった。  自分は自動車というものに毎日お世話になっているせいか、自動車にも自動車レースにもさして感興を抱かない一人なので、こういう風にもろに自動車レースの本だと宣伝されているものが、どうして冒険小説でありうるのか、といささかの不審不安を伴いながら手に取ったのだが、何の何の、これは自動車レース以上にスパイ冒険小説の要素が強く、そのスケールと原初的なエ...
  • 天国への階段
    天国への階段 題名:天国への階段 上/下 作者:白川道 発行:幻冬舎 2001.3.10 初版 2001.3.25 5刷 価格:各\1,700  北海道浦河町、絵笛。   ぼくはこの本を浦河への旅行に携行して行った。馬に乗り、牧柵越しに仔馬たちを見て、風と陽光とを感じた五月。小川のきらめきがあった。海の青があった。空の広さと、牧草のなびきを感じた。絵笛というこの物語の核を成す美しい土地はそこに実在していたし、ぼくはその空気の中を通り抜けて来た。深々と風景と物語とを呼吸し、味わう確かな時間の奥行きがそこには存在するかに思えてならなかった。  これは、牧場を乗っ取られ単身上京した少年の一生を賭した壮大な復讐劇である。現代版レ・ミゼラブルと帯に書かれている。白川道は『流星たちの宴』で自身の経験に基づいて栄光と失墜を描き、凄まじいまでの欲望とエ...
  • 船戸与一
    船戸与一 <血と硝煙の世界……国境の向うの叙事詩>  船戸与一は、異色だ。早稲田大学探検部出身の彼が、モスクワ経由でソ連入りして国後島のチャチャヌプリを登ったという記事を読んで、彼は小説を書くために、現地踏査を厭わない人だと実感した。未だソ連邦崩壊前夜のことである。彼はその探検行を元に後に『蝦夷地別件』を創り上げた。  豊浦志朗の名義で『叛アメリカ史』を書いた彼は、先住民族とそれを虐げてきた略奪者たちの構図、その上に成り立った現代史の上に皺ぶく闘争と不条理の歴史に、小説という弾薬をもって風穴をあけようと試みてやまない。恩讐と欲望の果てに沸き起こる血と硝煙の宴を、彼のペンは日本冒険小説の名の下になぞってゆく。他の誰もが決してやろうとはしない世界の果てを自ら旅し、取材し、調査し、彼なりの咀嚼を施す。  われわれが目撃するのは小説作品というかたちに昇華された彼なりの叙...
  • 無頼の掟
    無頼の掟 題名:無頼の掟 原題:A World Of Thieves (2002) 作者:ジェイムズ・カルロス・ブレイク James Carlos Blake 訳者:加賀山卓朗 発行:文春文庫 2005.1.10 初版 価格:\771  微熱のように残る作品である。多かれ少なかれ、現代という都市性に委ねられた我々の日常生活から、いかに遠い隔たった場所へ連れて行ってくれるかというあたりは、小説というスタイルの醍醐味であるが、それこそこの物語は1920年代、禁酒法時代のテキサス。ジャズの街、ニューオーリンズから、荒くれた無法地帯である西部油田地帯へ、ロード・ノヴェルと、過去へのフェイド・バックを交えながら、丹念な歴史絵のタペストリーの如く紡ぎ出されてゆく。  『ワイルド・バンチ』を意識させるような、冒頭の銀行強盗シーンに始まる衝撃のストーリーは、過...
  • 松岡圭祐
    松岡圭祐 催眠シリーズ 催眠 1997 催眠 特別篇 2000 後催眠 2000 カウンセラー 2003 ブラッドタイプ 2006 千里眼シリーズ(ハードカバー) 千里眼 1999 千里眼 ミドリの猿 2000 千里眼 運命の暗示 2000 千里眼 洗脳試験 2001 千里眼の瞳 2001 千里眼のマジシャン 2003 千里眼の死角 2003 ヘーメラーの千里眼 2004 千里眼 トランス・オブ・ウォー 2004 ブラッドタイプ 2006 千里眼シリーズ(文庫化改訂版) 千里眼 メフィストの逆襲 (「千里眼の瞳・上半部」改訂) 2002 千里眼 岬美由紀 (「千里眼の瞳・下半部」改訂) 2002 千里眼 マジシャンの少女 (「千里眼のマジシャン」改訂) 2002 千里眼とニュアージュ  2005 千里眼 背徳のシンデレラ 2006 千里眼 ブラッドタイプ (「ブラッドタイプ」...
  • ゴルディオスの結び目
    ゴルディオスの結び目 題名:ゴルディオスの結び目 原題:Die Gordische Schleife (1988) 作者:ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink 訳者:岩淵達治、他 発行:小学館 2003.08.20 初版 価格:\1,714  ワールド・カップやその他の国際試合でドイツ代表の試合を見ると、とにかく細かいテクニックではなく、気力と体力で闘志を剥き出しにした勝負強さというのが目立つ。ブラジルあたりと対戦すると、片や人間離れした技術力で魅せに魅せるというブラジルに対して、ドイツは常に無骨な力業で勝負を挑み、それでいて結構な戦績を挙げている。  ベルンハルト・シュリンクがゼルプ・シリーズのようなハードボイルドや本書のような冒険小説に挑むとき、ぼくはやはり、ははあドイツ人だなあ、って微笑んでしまいたくなることが多い。 ...
  • ただの眠りを
    ただの眠りを 題名:ただの眠りを 原題:Only To Sleep (2018) 著者:ローレンス・オズボーン Lawrence Osborne 訳者:田口俊樹 発行:ハヤカワ・ミステリー 2020.01.15 初版 価格:¥1,700  いつまでも語り継がれ、愛される私立探偵フィリップ・マーロー。またの名をハードボイルドの代名詞。卑しき街をゆく騎士道精神。作者チャンドラー亡き後、遺構を引き継いだロバート・B・パーカーの二作『ピードル・スプリングス物語』、『夢を見るかもしれない(文庫版で『おそらくは夢を』と改題)』、ベンジャミン・ブラックによる『長いお別れ』の続編『黒い瞳のブロンド』。そこまではマーローを如何に復活させるかを意図して書かれたもの。しかし本書は少し違う。  老いたマーローの活躍をえがく本書では、マーローは72歳。足を悪くし、杖を突く。一...
  • ファミリー・ポートレイト
    ファミリー・ポートレイト 題名:ファミリー・ポートレイト 作者:桜庭一樹 発行:講談社 2008.11.20 初版 価格:\1,700  出た! って、感じの、銃口桜庭ワールド。「重厚」って書こうと思ったところ誤変換してしまったのだが、むしろこのままでいいような……。  まさに読者に向けられた銃口を覗いているような作品……だから。  まずはこの1000枚の大作が書き下ろしであることが嬉しい。この本を出すために書いたのだという小説は、雑誌刊行の都度、途中発表を余儀なくされる長篇小説が多い中で、とても読者のために誠実であるように感じられるからだ。そしてこの手の集中力を要する作品は、作品そのものの創作過程のためにこのような書き下ろしという形態が最良である。  それゆえに生まれるアンバランスさ、作者の側の自由度というものが何よりも嬉しい。自...
  • 八千万の眼
    八千万の眼 八千万の眼 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-24 87分署シリーズ) 八千万の眼 (1967年) (世界ミステリシリーズ) 八千万の眼 (1980年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 題名:八千万の眼 原題:Eighty Million Eyes (1966) 著者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:久良岐基一 発行:ハヤカワ文庫HM 1980.04.30 1刷  小さな事件がニ件。一つは八千万の視線が集まるブラウン管の向こうにおけるコメディアンの死。八千万の目撃者の前でのアリバイ、という難問。もう一つの事件は、ちょっとした異常者が若い独りの女をつけ狙うというもので、ぼくにはこちらのほうが面白かった。この若い女というのは『10プラス1』でお馴染みの心理学専攻の学生である。『10+1』からちょうど三年が経った。  三年は、ぼくの...
  • OUT
    OUT 題名:OUT 作者:桐野夏生 発行:講談社 1997.07.15 初版 価格:\2,000  四十代の普通の主婦をしている日本の女性でありながら、最もかっこよく描かれたヒロイン大賞というようなものがあるならば、間違いなく『OUT』のヒロイン雅子は、その最優秀ヒロイン大賞を獲得することができるだろう。  最近に限らず女性作家は女性の自立した姿を小説で表現するというのが、当然至極になっている。タフな女私立探偵ものはぼくの場合あんまり読んでいないのだが、P・コーンウェルの女検屍官シリーズのケイ・スカーペッタなどは、旧来の冒険小説に出てくるような「可憐で男まさり」なんていう姿とは程遠く、死体をけろりと捌いてシニカルに判断できるような性格のきついキャリア・レディであり、それなりに印象の強いキャラクターと言えるだろう。いやな女だなあと思いつつ...
  • 私の唇は嘘をつく
    私の唇は嘘をつく 題名:私の唇は嘘をつく 原題:The Lies I Tell (2022) 著者:ジュリー・クラーク Julie Clark 訳者:小林さゆり 発行:二見文庫 2023.3.20 初版 価格:¥1,300  『プエルトリコ行き477便』が、二人の女性の運命の糸がクロスする面白さにツイストを入れて、面白かい読み物だったので、続いての本書も迷わず手に取る。二見書房と言えば女性ロマンス路線の文庫なのだが、この作家は従来の狙い通りの女性読者層はもちろん、さらにすべての読者層に受け入れられておかしくない実力派の書きぶりを見せてくれる。  前作と同様に二人の女性の一人称で語られる二つの世界。一人は、不幸な過去を持つ女性詐欺師で、もう一人は彼女に復讐心を抱く駆け出しジャーナリスト。どちらの一人称もぐいぐい読ませる。その運命の交錯のデリカシーさや、...
  • 死のドレスを花婿に 
    死のドレスを花婿に 題名:死のドレスを花婿に 原題:Robe de marié (2009) 作者:ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre 訳者:吉田恒雄 発行:文春文庫 2015/4/10 初刷 2015/4/20 3刷 価格:\790  今年は昨年の『その女アレックス』の大ヒットを受けて、フランス小説としては異例の翻訳化の嵐が吹き荒れている。年間3作品も翻訳出版されるスピードは、海外小説ということからしても奇異な現象である。何かの受賞作品一作だけで翻訳を見切られる作家も、海外小説という不況市場では珍しくない状況下、このような空前のヒットは歓迎すべきことである。これを機に北欧ミステリに続いてのフランスのミステリ、ひいては海外ミステリの翻訳に順風が吹いてくれることを期待したい。  そのためには一発屋的ヒットではなく、次々と翻訳紹介される作品...
  • 女彫刻家
    女彫刻家 題名:女彫刻家 原題:The Sculptress (1993) 作者:Minette Walters 訳者:成川裕子 発行:東京創元社 1995.7.20 初版 価格:\2,600  面白い! 去年のベストを席捲したミステリーだけにちと気になっていた未読本だったけど、こんなことならきちんと出版時に読んでおいて「このミス」アンケートの上位に入れておくのだった。  何より主人公になる女彫刻家の異常な外観・異常な言動・パワーと知性がいい。まさにレクター以来の刑務所の恐怖役ではないだろうか。こういう人なら「ストーン・シティ」や「グリーンリバー・ライジング」の極悪刑務所の中でも十分異彩を放つんだろうけど、残念ながら女性なんだよなあ。女性と聞いて頭に描くのはFBI心理分析官が言っていた女性の無動機連続殺人鬼のケースは一件もないということ。無動機の...
  • 血と暴力の国
    血と暴力の国 題名:血と暴力の国 原題:No Country For Old Men (2005) 作者:コーマック・マッカーシー Cormac McCarthy 訳者:黒原敏行 発行:扶桑社ミステリー 2007.08.30 初版 価格:\857  何となくノワールの匂いがするので買ってみた本である。この作者がどういうレベルの作家なのか全然予備知識はなかった。  読んでみて、驚いたのは、期待に違わぬノワール。いや、期待を遥かに上回る迫力のノワールと言うべきか。増してや文体は、心理描写、一切ゼロの、純粋ハードボイルド・スタイルである。淡々とテンポよく進んでゆく血の凍るような活劇。タイトルの通り、バイオレンスに彩られた神なき土地に展開する物語である。  秀逸なのは、行動描写と会話だけで表現する、キャラクター造形である。特に死を目前にした者と、...
  • カメレオンの影
    カメレオンの影 題名:カメレオンの影 原題:The Chameleon s Shadow (2007) 作者:ミネット・ウォルターズ Minette Walters 訳者:成川裕子 発行:創元推理文庫 2020.04.10 初版 価格:¥1,400  実に5年ぶりのお目見えとなる作品。値段の割に邦訳が遅いのが気になる。この作家を思い出すのに、以下の前作『悪魔の羽』についての我がレビューを少し振り返りたい。 (以下前作レビュー) { 中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。  事件そのものは『遮断地区』でも特に...
  • 河畔に標なく
    河畔に標なく 河畔に標なく 題名:河畔に標なく 作者:船戸与一 発行:集英社 2006.03.30 初版 価格:\1,900  船戸与一といえば、真っ先にアメリカ大陸に材を取る作家との印象が強かった。南米三部作と呼ばれたのは『山猫の夏』『神話の果て』『伝説なき地』だった。どれもが最も脂の乗り切った時期の作品と言えた。  北米を舞台にしたものもたっぷりある。『非合法員』に始まり、『夜のオデッセイア』『炎流れる彼方』『蟹喰い猿フーガ』など、娯楽要素に満ち溢れた傑作が今もなお印象的である。  前述の、脂の乗り切ったという言い方には、実は語弊がある。船戸の類い稀、かつ旺盛な作家活動の履歴を、今振り返ってみても、息抜きはどこにも見られないし、そのいずれの時期にも、旬と言える作品を、ある一定の気圧で世に噴出させてきたことは、きっと誰が見ても間違いないからだ。 ...
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