wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「篠田節子」で検索した結果

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  • 篠田節子
    篠田節子 長編小説 絹の変容 1991 贋作師 1991 ブル-・ハネム-ン 1991 変身 1992 アクアリウム 1993 神鳥(イビス) 1993 聖域 1994 夏の災厄 1995 美神解体 1995 カノン 1996 ゴサインタン ~神の座~ 1996 斎藤家の核弾頭 1997 ハルモニア 1998 弥勒 1998 第4の神話 1999 百年の恋 2000 インコは戻ってきたか 2001 妖櫻忌 2001 コンタクト・ゾーン 2003 逃避行 2003 砂漠の船 2004 ロズウェルなんか知らない 2005 マエストロ 2005 讃歌 2006 Χωρα ― 死都 2008 仮想儀礼 2009 薄暮 2009 廃院のミカエル 2010 銀婚式 2011 ブラックボックス 2013 長女たち 2014 インドクリスタル 2014 中・短編集 愛逢い月 1994 死神 19...
  • 秋の花火
    秋の花火 秋の花火 題名:秋の花火 作者:篠田節子 発行:文藝春秋 2004.07.10 初版 価格:\1,619  秀逸な短編集だと思う。一つ一つが独立した作品であるばかりではなく、独特の個性に切り取られ、篠田節子という作家の多面性をよくぞ出していると感心もする。篠田ファンは是非とも手にとって頂きたいし、篠田節子って誰? って思われている方には、この作品集を入門編として試食してみては如何かと思う。  篠田節子作品のジャンルを分類すると、ホラー、音楽など芸術家小説、女の自立小説、異国での革命巻き込まれ小説、『ゴサインタン』など文明史観的視点で描かれた作品群などがあって、これらの要素が微妙にカクテルされていることが多い。  本書でも、『観覧車』『灯油の尽きるとき』などは女性の自立小説的色合いが強く、『ソリスト』『秋の花火』は芸術家ものでありながら、...
  • ハルモニア
    ...ハルモニア 作者:篠田節子 発行:マガジンハウス 1988.1.1 初版 1988.1.21 2刷  価格:\1,800  篠田節子の数多いジャンルの引き出しの中で、けっこう初期の頃からしぶとく書き続 けているのが芸術もの。絵画や音楽に関しての奇妙な感触の小説はけっこう多く書いて いる。そうした芸術を題材にした作品群の中でもとりわけ優れた一冊が本書。  『ゴサインタン』や『弥勒』のような秘境神秘譚に比べると物語の運び方は軽くてス ムースなんだけど、それなりの興味を引き起こす起点といったものの据え方が超一流で ある。  篠田節子は非常に整合性の取れたプロットを、やわらかい文体で綴る作家だ。そうい う意味ではこの作品は篠田節子の一方の代表作と言えるし、直木賞以降の作品に賭ける 意気込みが感じ取れさえするような、秀逸な心のこもった本であるとも言える...
  • 夜のジンファンデル
    ...ファンデル 作者:篠田節子 発行:集英社 2006.08.30 初版 価格:\1,500  いろいろな作風を持つ篠田節子だが、本来興味を持ってしまうのは不思議小説家としての篠田節子である。ジャンルで言えばホラーとなるのだろうが、とりわけホラー小説が好きなわけでもない。感染の恐怖と役所の取り乱し様を描いて楽しかった『夏の災厄』は、ホラーでもなんでもないし、まるでクメール・ルージュなみの革命に巻き込まれた日本人主人公が『キリング・フィールド』なみの脱出に挑戦する『弥勒』、超常能力を持ったネパール人花嫁をテーマにした『ゴサインタン -神の座-』にしたって。しかし、いずれも異常な小説であることには変わりがない。やっぱり不思議小説作家としての篠田節子。いつも何を書いても「異彩を放つ」という表現がこれほど似合う作家は、なかなかいない。  そういう作家であればこそ、短編の味わ...
  • 寄り道ビアホール
    ...ビアホール 作者:篠田節子 発行:朝日新聞社 1999.11.1 初版 価格: \1,300  朝日新聞家庭欄でのコラムを中心とした篠田節子の第二エッセイ集。他に旅のエッセイ、エッセイ自体について論じ合う重松清との対談などがあり、それなりに篠田節子の作家的スタンスが明らかになって興味深い。  対談の中で「この際カミングアウトしてしまうと、私、エコロのフェミなんです」という下りがある。エコロジストでありフェミニストなんだそうだ。ぼくは彼女の作品に触れるときいつも彼女独特の「文明観」といったものを思い描いていたものだ。その「文明観」の現実への着地点が「エコロでフェミ」であったのかもしれない。  多くの事象を新聞コラムという形でエッセイにするとき、彼女の見つめる姿勢は、前エッセイ集『三日やったらやめられない』と基本的に変わらない。大人の女性が、前向きにバイタリ...
  • 逃避行
    逃避行 逃避行 題名:逃避行 作者:篠田節子 発行:光文社 2003.12.20 初版 価格:\1,500  隣家の幼児を噛み殺してしまったゴールデンレトリーバー。思わず老犬とともに家を飛び出して逃避行を始めてしまう五十歳の主婦。こう書くと、犬とおばさんの冒険物語、という風味だが、そこは篠田節子、犬をきっかけに女の自由を取り戻そうとするヒロインの決意、そしてずっと主婦であったからこそ生まれる苦労の数々がリアルで切ない。もちろん冒険もたっぷりなので、あっという間の一気読み本であったりもする。  車の運転もできず、体力もなく、若さも美貌も容姿も誇れず、家族のために奉仕した人生から背を向けて目指す場所すら掴めない。五里霧中、四面楚歌といった状況下で、愛犬のポポが活躍を見せる。犬と主婦との間に流れる互いへの惜しげもない交情が、ピュアで何とも言えない。そして人間の生...
  • 青らむ空のうつろのなかに
    ...ろのなかに 作者:篠田節子 発行:新潮エンターテインメント倶楽部SS 1999.3.25 初版 価格:\1,600  篠田節子という作家は、いつも最終的には庶民の話を書いていると思う。しかしただ庶民の話を能天気に書いてはいない点こそが、篠田節の魅力なのだと思う。彼女の視点はそこに時代相というか、文明批判的な視点が関与していて、常に過酷なまでに冷徹かつアイロニカルなのである。  災害、食物、経済、住宅、夫婦、家族、介護、虐待……テーマや題材は最も「今」の問題ばかりであり、まぎれもなく日本、そして今ぼくらの身近にあって身を潜めたり、正体を隠して表面を取り繕っているさまざまな汚れた諸々のことであったりする。  だからこそ、何かを問題として抱えさせられたときに、むき出しになった憎悪や自我がとても怖く、篠田節子という作家はこうしたことをさまざまな形で描き出してしま...
  • インドクリスタル
    ...クリスタル 作者:篠田節子 発行:角川書店 2014.12.30 初版 価格:\1,900  デビュー当時は、面白い作家が出てきたと思って出る作品を次々と読んだものけれど、『女たちの聖戦(ジハード)』で直木賞を獲った辺りから、久しくこの作家から足が遠のいていた。  大体この作家のジャンルが、およそわかって来て、小説自体も新しみが失われてきたばかりか、ストーリーにダイナミックさがなくなって堅実になったというか、もともとこの作家にぼくが求めていた面白さは、むしろ逆方向なわけで、人の向かないところに興味を見出すというところに魅力を感じていたので、それがある程度読めてきてしまうと、自然とこだわるべき理由がまくなったように感じられたというわけだ。  この作家のジャンルは広く、ホラー、芸術家小説、ホームドラマ、国際冒険小説と、ぼくは無理やり大別してしまうのである...
  • ゴサインタン
    ...-神の座- 作者:篠田節子 発行:双葉社 1996.9.25 初版 価格:\1,800  篠田節子の文章というのは読みやすい。またストーリーテリングについて言えば、今の日本のエンターテインメントを書ける女性作家では一二を争うものがあるとさえ思っている。なぜこの人が直木賞作家ではないのか、いつも疑問だけど、もしかしたら彼女の選ぶ題材の辺境性というあたりに原因があるのかもしれない。  彼女の選ぶ題材は、世の日常の隙間にひそむ穴ぼこのようなものが多い。もともとが市役所勤めをしていた篠田節子にとって福祉関連の話題がテーマになることはままあるのだが、そのあたりの過去の経験が、市役所という日常の代表のようなものからこぼれ落ちてゆくような、個人的な、しかし普遍的でさえありそうな物語を、彼女の中で選ばせるものなのかもしれない。  だからこのような日常からこぼれ落ちてゆき...
  • 愛逢い月
    ...:愛逢い月 作者:篠田節子 発行:集英社 1994.7.25 初版 価格:\1,400(本体\1,359)  恋愛小説短編集、というだけで尻込みしそうなのだが、そこはさすがに篠田節子で、初めて恐る恐る開いて見た短編の世界、この人巧いのであった。中年以上の女性でなければ書けない二十代の世界、といったものもある。ある種の修羅を創造できる年齢に達した作家でなければ、こういう世界は書けないのだ。  小説家は若い時期にしか書けない作品というものもあると思う。若くして傑作をものにした山田正紀などは、ぼくはその代表格だと思う。逆に年齢を経ないと出てこない面白さというのもきっとあるのだ。篠田節子の作品集の面白さというのは、そういう種類のものだと思う。  とりわけ男女の機微みたいなものを、汚らしい現実の中で、熱帯魚のように動かしてみたとき、それを日常から少し逸脱した形で、...
  • イビス
    ...(イビス) 作者:篠田節子 発行:集英社 1993.8.25 初版 価格:\1,400(本体\1,359)  今、絶滅に貧している朱鷺を題材に、明治時代の画家の朱鷺の絵の謎を、作家、イラストレCターコンモェ追跡するニいう、少し『聖域』の構図に似た過去の人物の追跡調査ドラマである。ぼくは『聖域』よりはこちらの方が好きなんだけど、現実との兼合いということを重視するなら『聖域』、ホラー的要素でややストーリーが子供地味てきても、なおかつ面白さを選ぶ・・・・ というなら『神鳥 (イビス)』ということか。  またもう一つこちらの作品の方が・・・・ とぼくがいうのは、心に妥協を秘めて生きてきた主人公らの再生を賭けた戦いにもなっているヒューマンな点。いつも篠田節子の話は人生とか文明とか死といった大きなテーマに収斂されてゆくのだけど、この作品はそういう意味でも非常にうまくコンパ...
  • 第四の神話
    ...第4の神話 作者 篠田節子 発行 角川書店 1999.12.10 初版 価格 \1,600  篠田節子の分野については、かねがねぼくは、ホラー、ネパール・ヒマラヤもの、社会VS個人の葛藤もの、そして芸術ものの4つと分けている。おおよそどの作品がどのジャンルに分けられてゆくかは、篠田ファンであればだいたい想像がつくのではないかと思う。もちろん互いに同じ作者から産み出される作品たちである以上、重複は避けられないとは思うけれども、便宜的にとりあえず分類しておくということでは、今のところこんな仕方でいいのではないかな、と密かに思っている。  ぼくのその暫定的な規範に従うなら、この作品は篠田作品の一つの得意芸である「芸術もの」に分類される。これまで音楽、美術に関しての作品が多かったけれども、小説という題材を直接的に扱うのは、篠田節子としては初めての試みなのではないかと思う...
  • 贋作師
    ...名:贋作師 作者:篠田節子 発行:講談社文庫 1996.1.15 初刷 価格:\580  一時篠田節子を読み漁ったときに、どうしても手に入らなかった読み残し二冊のうちの一冊。ちなみにもう一冊は『アクアリウム』。たまには読み残すということも「残り物に福」で、今回は、作者が文庫化に当たってきちんと加筆修正しているものであるとのこと。なるほど、デビュー作『絹の変容』の次作にしては、少しも作品が古臭く感じられない。ばかりか、むしろいい新作に出くわした感覚で一気読みだった。  この作品は絵の修復家が主人公ということで『変身』などの芸術小説につながるのかと思いきや、むしろ『美神解体』につながるホラーっぽさを骨子にしたミステリー。もちろん作者の最低の作品とあえて呼んでしまう『美神解体』に較べればはるかに優れものの一冊。  例によってぶっきらぼうな中年独身女性が主役で、...
  • 三日やったらやめられない
    ...められない 作者:篠田節子 発行:幻冬舎 1998.11.15 初版 1998.12.1 2刷 価格: \1,500  日経新聞連載コラムを中心にした、エッセイ集。  ぼくは、好きな作家の本であれば、エッセイでも何でも読んでみたいという傾向があって、とにかく網羅しなければ気がすまない。篠田節子はそうした作家の一人なので 一冊も欠かさずとにかく読む。  篠田節子という人は作風もそうなのだけれど、とにかく発想玉手箱みたいな人だと思える。お役所勤めから小説家になった女性作家であり、その作風は男勝りであり、エンターテインメント性には事欠かない。とにかく興味の尽きない作家の一人。  そういう作家が小説から少し離れて、現実との接点の多い立場で文章を綴ったものがエッセイであるから、それなりに作品の裏の顔であるとか、作家的興味の向かう方向であるとか、そうしたこ...
  • 美神解体
    ...:美神解体 作者:篠田節子 発行:角川ホラー文庫 1995.8.10 初版 価格:\470  ホラー文庫からの出版だからここに書くけれど、これがホラーだなんて言ったらここの会議室を楽しんでいる人たちはおこっちゃんではないかな、と心配されるほど、ホラーという形容が似合わない一冊、のような気がする。  暗い劣等意識から屈折した変身(いわゆる美容整形である)を遂げた女主人公が、つくられた仮面のような顔を、自分のものにしてゆく過程を描く、いわゆる女性成長期としてしまえば、それなりに篠田節子らしい屈折した表現方法になったなと思われる。だがやはりホラーではないと思う。  敵側から見ても、小池真理子『夜ごとの闇の奥底で』に似た設定のサイコと呼ぶにもおこがましい変態漢小説としか言い様がないのは、肝心の恐怖の提供者が幼稚であるからだと思う。  女性作家はこのような...
  • アクアリウム
    ...クアリウム 作者:篠田節子 発行:スコラ 1993.3.8 初刷 価格:\1,600  ぼくの篠田節子最後の読み残しである初期長編。粒揃いの作品が多い中でもこれは上々の一作。まず発想がいいし、イメージが素晴らしい。この人の最大の長所は、ジャンルに捉われることのないその主題の独自性だと常々思っているだけに、この作品の独自性がまたひときわなので、嬉しくなってしまう。  導入部からもう異常小説の始まりって感じで、ジャンルを素早く逸脱して行くその離れ業とイメージの豊富さにただただ度肝を抜かれる。文章が流麗で読みやすいのもこの人の特徴。これと言って奇を衒っていないだけにこういうのが巧い文章なのだなと、改めて納得させられること頻り。  地底湖へのスキューバ・ダイビングと、そこで出会う死体、魚たち、不思議な象徴的な生き物たち、そして秩父スーパー林道建設と国策、エコロジ...
  • コンタクト・ゾーン
    ...・ゾーン 作者:篠田節子 発行:毎日新聞社 2003.04.30 初版 価格:\1,900  篠田節子の久々の剛球ストレートの勝負球が出たぞ、という凄玉作品。『弥勒』『インコは戻ってきたか』と、海外革命巻き込まれ型小説を数年に一度の割合で書いてきた作者だが、正直『弥勒』の迫力に比べて『インコは……』は質量ともに衰えたか、と心配になるような物足りなさを感じたものであった。生真面目に書かれた作品ではあってもエンターテインメント性に欠けるし、何よりも冒険小説と呼び切れない部分が寂しかった。  その意味では本書は今年一番の国産冒険小説とての面白さを孕んでいると言いたい。  あの『弥勒』が帰ってきた。しかも『弥勒』を超える面白さとスケールを携えて。 超弩級の力作、超大作。あの『弥勒』に唸った経験のある読者であれば、この『コンタクト・ゾーン』を読まない手はないだろ...
  • 弥勒
    ...題名:弥勒 作者:篠田節子 発行:講談社 1988.9.20 初版   価格:\2,100  進境著しい篠田節子のまたもや驚天動地の新作。篠田節子は、まさに予測不能のポテンシャルを秘めていて、その引き出しの多さに、毎度毎度驚かされるというのが、ぼくの場合の篠田読書の楽しみなのだが、この作品は、前作『ハルモニア』とはがらりと変えた作風の硬質な異国譚となっている。  日本でのプロローグを経て、物語はパスキムというヒマラヤ山中の小国に飛ぶ。『ゴサインタン』以上にスケールの大きな、秘境の政変に材を取った壮絶な小説である。何をもって壮絶と言うか人の感覚はさまざまだと思うが、まさにこういう話こそを壮絶と表現するのだろうとしか言いようがない。  原始共産主義的な理想郷を求める一派がヒマラヤの王国を理想のためのまな板に変える。それは完璧な理屈と統治が実行されているように...
  • カノン
    ...名:カノン 作者:篠田節子 発行:文藝春秋 1996.4.25 初刷 価格:\1,600  帯にはホラーなんてあるし、説明のつかない幽霊が出てくるような話ではあるのだけれど、やっぱりこれはホラーでもSFでもないと思う。じゃあなんだ? と聴かれていつも困るのが篠田ワールドであったりする。  これは人生の半ば40歳に達した男女の、今を振り返る小説であると思う。ちょうどぼくは作者と同世代なので、こういう年齢の読者が読むとしみじみ心に入ってくるような話ではあるけれど、そうでない人にはどうか?  『テロリストのパラソル』が賛否両論に分かれたのも、この辺りの世代の問題が大きかったように思う。小池真理子の『恋』も同音異曲といったところがあり、そして彼らの少し下の世代に当たる篠田節子とぼくのような読者。小説なんてそもそも客観的に味わうような種類のものではないのだ。 ...
  • ブルー・ハネムーン
    ...ハネムーン 作者:篠田節子 発行:光文社カッパ・ノベルス 1991.12.25 初版 価格:\730(本体\709)  デビュー作の冷たく硬質な世界とは一変して、コミカルで陽気な面を全面に出した楽しい作品がこちら。驚いたことに美貌の娘を主人公とする、洒落たコンゲーム・ミステリー。これだけ読むとまるで別の作家の作品のよう、かもしれない。  それだけに軽い感じがするのは否めないが、よくまとまって良く練られたプロットを楽しそうに書き上げた作品だなあ、と思う。できのいい作家がノベルスに向かうときの、いわゆる正しい姿勢であるような気がする。ブロックが暗く重みのあるスカダー・シリーズから離れて、楽しそうな短編に向かった時と同じような、愉快なムードと才気を感じさせる一冊だと思う。  これだけは書店で見つけました。一応、手元の篠田節子作品はこれで品切れ。彼女の他の作品を...
  • 夏の災厄
    ...:夏の災厄 作者:篠田節子 発行:毎日新聞社 1995.3.25 初版 価格:\2,000(本体\1,942)  不思議な作家なので、続けて読んでいますが・・・・。これはあまり奇をてらわない正攻法の作品であるような第一印象。今まで感染ものといえば和洋問わずにけっこう傑作が出ていると思っていたから、敢えて書店で買おうという気にはならないでいたのだけど、世の中が篠田節子篠田節子とあまり話題にするようだから、図書館で見つけたのを期に、読んでしまったもの。そしたら、まあ、リアリズム溢れる正統派感染サスペンスでありながら、これだけ面白いとは・・・・。  『聖域』よりはぼくはこちらですね。何と言っても主人公不在という離れた視点から描いた埼玉県昭川市の物語である点に注目したい。川田弥一郎の『白い狂気の島』は狂犬病が猛威を振るった離島の前半が良かったのだが、後半は単なる推理ド...
  • 絹の変容
    ...:絹の変容 作者:篠田節子 発行:集英社 1991.1.25 初版 価格:\1,200(本体\1,165)  小説すばる新人賞受賞作ということで、要するにデビュー作でしょう。200ページに満たない小じんまりした作品だけど、贅肉のない、スピーディでサスペンス満点の展開のパニック小説であった。 一番似ている作品は『夏の災厄』。むしろ『夏の災厄』よりはるかに皮膚的な生理的嫌悪感を感じてしまう内容。  と言っても表現はエグいわけじゃなく、むしろ格調高い。『夏の災厄』のようなコミカルなゆとりみたいなところ、明るいキャラクターたちがほとんど登場せず、どちらかというと冷たく、離れた視点で描かれた、硬質のパニック・サスペンスと言っていい。  それなりに非常に奇怪な世界を作っているのは、さすが篠田節子の原点ともいうべきで、モダンホラーの亜流といっていいだろう。 (...
  • 妖櫻記
    ...名:妖櫻忌 作者:篠田節子 発行:角川書店 2001.11.30 初版 価格:\1,400  あたしゃ痩せても枯れてもホラー作家だ。そう豪語した篠田節子のインタビュー記事をこの作品が出た時期に、ぼくは新聞で読んだ。頼もしいと感じるより先に、おお、久々にホラーを書いてくれたかとの期待の大きさがあった。  ぼくは篠田作品を大抵3つか4つに分類している。こんな具合に。 1.パニック、ホラー(『絹の変容』『イビス』『聖域』『夏の災厄』等) 2.異国、異文化(『ゴサインタン』『弥勒』等) 3.天才芸術家モノ(『カノン』『第四の神話』等) 4.女性小説(『女たちのジハード』等)  だから久々に1の範疇にあたるピュアなホラーが読めると期待していたのだ。篠田節子はベテランになって文章がどんどん上手くなってきている。しかしそれとともに、これらのカテゴリーが互...
  • 変身
    変身 変身 題名:変身 作者:篠田節子 発行:角川書店 1992.9.10 初版 価格:\1,600(本体\1,553) これは音楽小説? ひょっとして悩める女性の誤った人生を描くような何となく女性版『青春の瑳跌』かあ、などとその前半のつまらなさに、不安に駆られていたのだが、そこは篠田節子、裏切られませんでした、結局。  他のパニックものとか恐怖小説群に較べるとちと冗長だけど、振り返ってみると、なんとこういう登場人物たちの癖の多さを描くことによって、プロットを組み立てちゃったわけかあ、と思わせる錯綜の結末。  脇役男性の行く末に関しては少し強引かなあと思ったくらいだけど、とにかくこの人は修羅場を描きたいのだ、修羅場を作るような心を持った女の破滅を描きたいのだなと妙に納得してしまう。そういう説得力のある描写といっていいのだろう。  本当にこんな...
  • インコは戻ってきたか
    ...ってきたか 作者:篠田節子 発行:集英社 2001.6.30 初版 価格:\1800  キプロスで小さな紛争に巻き込まれる日本人中年男女の6日間。篠田節子には文化・宗教・政治などの民族対立を描く作品があるけれど、これはそのカテゴリー。イスラムとキリスト教の対立の構図は、この時点ではキプロスという地中海上の小さな島を舞台にしており、今世界を震撼させているマンハッタン島のテロなんてことは、さすがにスケールの大きな作家・篠田節子でも思いついていなかっただろう。  日常を背負った日本人女性が、生命の危険を感じつつもとことん企業の一員で在り続ける姿は、ワールド・トレーディング・ビルで今なお安否不明の企業重役たちとダブってくる。普通の日常の重さが、事件現場付近で、家族たちが、行方不明者の写真を掲げて探す姿の中にようやく見えてくる。  一方で男の方はフルー・カメラマン...
  • 死神
    ...題名:死神 作者:篠田節子 発行:実業之日本社 1996.1.25 初版 価格:\1,600  市の福祉事務所に勤めるケースワーカーたちを主役に据えた連作短篇集。もともと作者自信が市の職員で福祉事務所にも勤務していた経歴。だから『夏の災厄』などに見られるように、市の職員という立場のキャラクターが主役に据えられるのは当然と言えば当然なのだろう。  もっともぼくの場合、卒中から身障者となった母親を身近に抱えているせいで、この種の職員の方々には日頃から一方ならぬお世話になっている。自分の仕事との繋がりも全くないわけではないこともあり、ケースワーカーとの相談に始まり保健婦さん、民生委員、と日本の地域医療、福祉行政の生々しい姿にある意味で接点を持っている。だからもう読み始めの時点から、構えてしまって読みにくいったらないのだが、なんとあとがきでは作者が、書きにくい作品だった...
  • さ行作家
    ...沢木冬吾 雫井脩介 篠田節子 島田荘司 志水辰夫 白川 道-- 翔田 寛 新堂冬樹 真保裕一 末浦広海 鈴木光司 瀬名秀明
  • 純愛小説
    純愛小説 題名:純愛小説 作者:篠田節子 発行:角川書店 2007.05.31 初版 価格:\1,400  これは俗に中編小説集、というのか。昔から、短編と中編の区別がつかない。実際のところ厳密に何ページを越えると短編が中編になってしまうのか、というようなことは聴いたことがない。だからもちろん中編と長編の境目も定かではない。出版社が、中編といえば中編なのかな。短編といえば短編なのかな。  そんな定義はどうでもいいことのようだが、やはり短編と中編の間には、読者の側にも何となく、短編らしいという手ごたえもあれば、少し中編としての複雑さが感じられるものなど、どことなく違いは感じ取ることができる場合がある。その意味では、この作品集は、まぎれもなく中編小説集なのだと思えなくもない。  作品そのものが、短編小説の長さでは描ききれない部分までを照準に収め...
  • 静かな黄昏の国
    ...な黄昏の国 作者:篠田節子 発行:角川文庫 2007.03.25 初刷 価格:\590  これは傑作である。2002年10月に単行本で出版された中短編集なのだが、どれもが静かでゆっくりとした終末や破滅を描いたものとして、独特の味わいを残す作品ばかりである。根にあるものは、『絹の変容』の頃と少しも変わらない篠田ホラーである。  いつも感じるのだが、一作ごとに異なる小説世界を展開しつつも、文明に対する警鐘、存在の危うさ、人間のアンバランスな特性などを浮き彫りにして、大人のホラー、いわゆるソシアル・ホラーといった奥行きを見せる辺りが流石だと思う。  本書で最も印象に残ったのは、タイトル作『静かな黄昏の国』だったが、高齢化の進む日本というだけで大騒ぎしている現状なのに、作品世界では、経済的破産によりアジア各国の属国となり、自然を切り売りしてすっかりコンクリート化...
  • レクイエム
    ...レクイエム 作者:篠田節子 発行:文藝春秋 1999.1.30 初版 価格:\1,619  6作の短編に敢えて独特の編集を施し、一冊の本としての価値を新たに持たせた幻想小説集、とでも言おうか。全体的に幻想的とかSF的とかいう言葉を冠したいような種類の作品群を集めたもので、数ある篠田節の中では、少し奇妙な味わいが勝っている印象がある。  現実と超現実の間を行き来しているような作品がほとんどで、それらの作品群の中ではこの世とあの世の境界すら定かではない。夢の中。とりわけ奇妙な悪夢の中に、篠田の文明観やいやに覚めたレアリスムが見え隠れしている。  後半に差しかかると、短編集『死神』の福祉シリーズを思わせるような少女虐待ものを一篇挟んで、とりわけ衣食住の文化についての女性ならではの視点での鋭い文明批評的なアイロニカルな小説が二篇。昭和史を遡る老人たちの独白が、不...
  • 砂漠の船
    砂漠の船 砂漠の船 題名:砂漠の船 作者:篠田節子 発行:双葉社 2004.10.20 初版 価格:\1,600  篠田節子が今回挑んだテーマは家族。団地に住む何の変哲もない夫婦と高校生の娘の三人家族の日常を淡々と描いて、その裏に潜むそれぞれの修羅を抉り出す。浮浪者の不審な死と、それがこの家族に偶然関わってくる因縁。そのあたりの偶然性に疑問符を投げかけてもいいのかもしれないが、それ以上にいやらしいほど現実味たっぷりの日常の重みが作品全体に、黒い影を投げかけて、こちらの世界を捕まえにくる。  淡々とした家族の日常と、会社、団地という集団、娘の秘密など、父の視点から描き出してゆくのだが、女流作家が父親の視点から母娘を描くという作品そのものの奇抜にまず驚く。女性たちの心情を女性の側から描くのではなく、男の側から描き、女性たちの見えない部分への不安、怯え、距離感...
  • 光源
    ...りこの作家はこうして篠田節子風味のジャンルを選ばない作家という顔は似合わない。強い女や捨て身の男たちを描いて、ミステリーあるいはハードボイルドという元の踏み台に戻ってきて欲しいのである。  そう言えば真保裕一『ストロボ』にもどことなく似ている作品だなあ。真保裕一もたまにジャンルという荒れ地を彷徨い出してしまいそうな作家ではあるけれど。 (2001.03.18)
  • 聖域
    ...題名:聖域 作者:篠田節子 刊行:1994.4.20 価格:\1,800(本体\1,748)  気になっていたのでずっと本屋で探していたのだが、本当に見つからない。ついに市の図書館カードまで作って借りてくることにして読んでしまった。ついでにこの作者の本他にも借りてきたので、どんどん読んでしまおうかと思う。  読み終えてみて、一言で言えば評判ほどのものとはぼくは感じ得なかったこと。やはり全体的に物量不足というか、小じんまりとまとまってはいるものの、パワーと詳述に欠ける、という気がした。  このジャンル不問の興味ある話題=イタコの口寄せ、新興宗教、死と霊魂の世界、未完の傑作小説の作者を追う……といった主題自体に引っ張られて楽しく読めるのだが、中島らもが『ガダラの豚』に費やしたような労力やパワーは、同じような闇のものを扱っていながら今一つ不足した感じだった。 ...
  • ストロボ
    ...で読んだ同シリーズは篠田節子『青らむ空のうつろのなかに』、花村萬月『守宮薄緑』。新潮エンターテインメント倶楽部……短編の叢書ながら、きちんと壷を押さえているところはけっこう憎い。  だからこそこの作品集は大人の物語である。今頃になって映画化され世を騒がせている『ホワイトアウト』の原作者として有名になってしまった真保裕一。『ホワイトアウト』からはずいぶんと距離を稼いで歩いて来たように見えるのだけれど。しかし映画というメディアはいつもいつも原作の視点から観ると、驚くほど遅く、驚くほど注目を浴びるものなのだろう。 (2000.11.05)
  • 深夜にいる
    ...うに思う。藤田宜永、篠田節子、高村薫、志水辰夫といった短編の好手が、揃って、残酷であるよりもシミジミ方面に向かっている。そしてそのシミジミという部門が、現在はひどく厳しいハイテク世界なのである。なかなかそこらのシミジミ程度ではぼくらもおいそれとは共感してやらない。まあ、香納諒一は、そうした厳しい小説作法に挑む姿勢というのは、おそらく作家を志した当初から持っている人なのではないだろうか? ぼくがずっと追いかけているのは、実はその一点だったのではないのだろうか?  そういう意味ではこの二冊の短編集によって香納諒一はその魅力をいかんなく発揮したと思う。次なる長篇がいまから楽しみだ。 (1997.11.25)
  • Χωρα(ホーラ) 死都
    ...ラ) 死都 作者:篠田節子 発行:文藝春秋 2008.04.10 初版 価格:\1,476  どう読み解いたらいいのだろう、という本には滅多に巡り合わないのだけれど、この本は、その滅多に巡り合わない類いの物語であった。幻想小説とでも言うのだろうか。恋愛小説であることは間違いないのだと思う。    主人公は不倫相手の男性と二人でロンドンからギリシアへ向う。裏道に密やかにたたずむ楽器店で、バイオリン奏者を生業とするヒロインに、男は珍しいバイオリンをプレゼントする。二人はバイオリンを持ち、キプロスに隣接しているあたりの島へ渡るが、それは沈没船から引き揚げられた呪いの楽器のようである。    島は季節外れであり、二人は長い不倫の果ての別れを予感しつつ、異邦人(エトランジェ)として、エキゾチックな奇妙の世界に迷い込んでゆく。山上の廃墟の跡に、決して存在しないは...
  • ダナエ
    ...賞出身者=花村満月、篠田節子、佐藤賢一、村山由佳、熊谷達也、荻原浩等々。  藤原伊織はいわゆる『テロ・パラ』以来、そこそこの読者を獲得。短編集においても『雪が降る』は秀逸な作品群として、私の周辺の硬派な読書人たちからは高い評価を得ていた。長編では、『てのひらの闇』、『蚊トンボ白髭の冒険』、『シリウスへの道』など、いずれも私には愛着が残るような快作である。  その作家が59歳にして癌で亡くなったのはこの2007年5月17日。あっという間の10年間に書き上げた長編はたったの5作。あとは中短編ばかりだが、短い間に印象的な飛翔を遂げた作家ならではの密度に約束されたどれも読み応えのある、手抜きのない作風で、きりっと締まる。  本書はこの1月に発行された中篇であるタイトル作1作と、短編2作。闘病生活があったろう。死への覚悟があったろうと思う。人が死んでもその後に残るのが作...
  • 義弟(おとうと)
    ...子が違う。桐野夏生や篠田節子のように、どこか包帯を巻いたような薬品臭を感じさせる精神のアンバランスが心に奇妙な反響を与えてくる。タイトルやタイトルカバーからして、健康的な作品ではないだろうと想像できたものの、この作家までがこうした病んだ世界に入ってしまうのか、と少し「らしくなさ」に戸惑いを覚える。  姉と弟が交互に主役を果たす連作短篇小説である。最初に弟が両親と住む家に火をつけようとして灯油を撒いてゆくシーンで物語は幕を開ける。つまり最初において病んでいるのだ。  連れ後同士で再婚した二人の親。血のつながりのない姉と弟の間に流れる不思議な連帯感は、二人ともが、あまりに身勝手でエゴむき出しの親との生活の中で互いに孤独に苛まれていたのだ。一つの家族で「自分だけではない」との思いから、二人は奇妙な互助関係を築き上げる。  永井するみには女の成長を描いてゆく『グラデー...
  • グロテスク
    ...作家、という意味では篠田節子以上の振幅を秘めている。純文学の色彩が濃いためにエンターテインメントの側からは近寄り難い感のある頑迷な筆致。  ミステリーを広義に定義すれば「犯罪を題材にした小説」だと言う。犯罪さえ扱えばすべてはミステリー。そういう意味では本書もミステリー。ただし辺境に立っている。今にも倒壊しそうな危ういバランスを保ちながら、作者の頑固さだけが推し量られる。読者へのこびは全く見当たらず、突きつけられてゆく大いなる疑問符。ゴシックであり、ハードであり、ホラーでさえある。  世にもグロテスクなキャラクターに変わってゆく女たちの中に息づく、美醜の概念、加齢への恐怖と孤独、社会の中で存在することへの不安と不確かさ。そうしたすべてを複眼的に抉り出した、まさに美醜綾なすグロテスクな物語だ。 (2003.09.21)
  • OUT
    ...振幅の大きさなどは、篠田節子とはほんの少し違っている。そうして読んでいるうちに、展開は『エイリアン』シリーズみたいな、闘う強い女の物語にいつの間にか質を変えてきているのだ。  警察やマスコミからの追求がやけに甘く感じられ、ややお伽噺めいた現実感の伴わない社会からの反応といったところが少々鼻につくのだが、ふとした甘さに背を向けて、厳しい方の道だけを辿ろうとするヒロインの、これまでの生活への決別の意志などは、男でも見習いたいほどの、しかし男ではここまでクールになれないぞ、と言いたいほどの、女ならではのタフさこそが、最後まで素晴らしく活写されているように思う。  『このミス』で取り上げられなければ読むこともなかった作家だが、それなりの決意の込められた作品というのは、やはりそれなりにきちんと評価されるものなのではないだろうか。ホラー的期待で読み始めたのだが、むしろ違った収穫が...
  • ガリレオの小部屋
    ...横山秀夫、藤原伊織、篠田節子、そしてこの香納諒一である。それにも関わらず、この人の短編集を開くのは、『タンポポの雪が降ってた』を2001年に読んで以来のこと。『タンポポ……』と『アウトロー』に関しては、読んでいるはずなのに感想を書いていないので、どんな作品集だったかを、今、記憶の底にまさぐることができない。  本書を読んで改めて確認できたことは、やはり香納諒一の短編集は格段の味わいがあるという事実だった。多様性、アイディアそういったものの他に、読後感の確かさというものが必ずあるのだ。短編集はどちらかと言えばインスタントに読み終わってしまう部類のものだ。雑誌に掲載され、お手軽に読み流され、あるいは通勤後には読み捨てられる部類の商品だ。かつてのジュンブンガクであればいざ知らず、現代日本ではそういった作品の氾濫を止めることができない。  だから自然と必要とされるのがアンソロ...
  • 東京島
    ...ており、宮部みゆき、篠田節子、桜庭一樹といった名前は、男作家たちを喰う勢いで、保守という言葉に無縁な冒険心旺盛というイメージを感じさせてくれている。さらにまたその筆頭に立つ旗手のような役割を果たしているのが、この桐野夏生という作家ではないだろうか。  通り一遍の評価を受けることで満足することなく、次から次へと異色の作品を出し続け、いい意味で読者の予想を裏切り続ける女流作家としては、トップ・ランナーであると言っていいだろう。前作『メタボラ』でも、今までの女性悪漢小説とは異なったカラーを出してきたのだが、本書ではさらに吃驚! ついに無人島漂流記を書いてしまったのである。  漂流ものと言えば、最近では海外TVドラマの『LOST』だろう。冒険小説フォーラムの歴史においては文芸評論家・関口苑生がFMラジオで紹介した『悪夢のバカンス』(シャーリー・コンラン著)が、一気にフィーバー...
  • 煉獄の使徒
    ...でもないだだろうが、篠田節子『仮想儀礼』はこの作家にしては久々の大作である。書店でぱらぱらとやってみたら、オウムではなく、オウムを参考にビジネスとして意図的にスタートさせたカルト教団が、徐々に本物のカルトへと逸脱してゆくような物語みたい(間違っていたらごめんなさい)。カルトものでは  一方で村上春樹の『1Q84』もカルトを背景にした物語であるし、何より村上春樹は『アンダーグラウンド』というルポルタージュで、実際に地下鉄サリン事件の被害者から長大なインタビューを収集したその人である。  そこへゆくと、村上の真摯さとは違う方向で、己の小説の切っ先をより現実の方向に近寄せてなおかつ尖らせようと試みたのが、この馳星周版カルト・ノワールなのだろう。ジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』に被れた勢いで書いてしまった『不夜城』の流れそのままのエルロイ風体言止め文体は、今になって...
  • 王とサーカス
    ...は、ぼくにとっては、篠田節子『インドクリスタル』に続く、日本作家による今年のアジアン・エンターテインメント第二弾。アジアンの小説という点で言えば、まず読み手が書き手のようにはその舞台となる国を理解していないこと。なので、まず何が起こっても、それが起こり得そうなものなのか作家の独壇場でしかないのか、検証しようがなく、正直よくわからない舞台設定ということになってしまう。  なので、リアリズムを追及する作家はその国の現状を、しっかりとキャラクターに見聞させ、感じさせ、語らせようとする。その国家背景については、メインストーリーの面白さとは別に、プラスしてそれなりに興味深く読み手に訴えてゆかねば娯楽小説として成立しない。読み手はその国に何の興味もない方がほとんどだと思うし、説明そのものがつまらなくいつまでも興味を引かないとすると。ページを繰る手が止まるかもしれない。  ちなみに...
  • 輪違屋糸里
    輪違屋糸里 題名:輪違屋糸里 上・下 作者:浅田次郎 発行:文藝春秋 2004.05.30 初版 価格:各\1,500  新選組ものは大抵読んでいるが、ひねくれ流浅田新選組に関しては、同系列ではなく別の読み方で迎えたほうが正しいかもしれない。『壬生義士伝』を書いた浅田節は、涙を誘う田舎侍の哀感溢れる物語で、中でも故郷を思うノスタルジーと戦火の残酷が対比され、どちらも国の貧しさの中から立ち昇った運命ともいえる世界構造の中で、選択の余地なきにわか侍の、翻弄され、人間らしくあり続けようという無力ばかりが目立ってならなかった。  その同じ浅田節が今度はどのような唸りをあげるか楽しみにしていたが、こちらでは新選組と関わってゆく女たちの視線で、壬生の初期時代を描いている。女性小説と読めないこともないくらいに、女の人生観からフィルタリングされた幕末史な...
  • 天切り松 闇がたり 第二巻 残侠
    天切り松 闇がたり 第二巻 残侠 題名:天切り松 闇がたり 第二巻 残侠 作者:浅田次郎 発行:集英社 1999.9.20 初版 価格:\1,500  『天切り松闇語り』が版元を変えて装いも新たに、しかも雑誌連載の続編との二巻本として再登場。二巻目とあって、前作の連作集に加わるまた再びの短編作品群というに過ぎないが、最初に一巻(当時は徳間書店発行でおまけに二巻目の登場は予想の外だった)を読んで早や3年目であったかと思うと、こちら側の月日の経過の速さに改めて驚かされるばかり。  とにかく確約されたロマン、痛快、感動、そして様式美。それらを幻出するのが浅田節とでも言いたくなるほどに綾織られた名文、名文句の数々。世に二人といない文章の手練れが贈る大人のメルヒェン。  この作家はやはり基本はピカレスクにあるのかと、『プリズン・ホテル』の頃が懐かしくな...
  • 天国までの100マイル
    天国までの百マイル 題名:天国までの百マイル 作者:浅田次郎 発行:朝日新聞社 1998.12.1 初版 価格:\1,500  現実と寓話が渾然となった、浅田節の持ち味がきらりと光る、地味~ィな一冊。日常生活に行き詰まった主人公が、周囲とのさまざまな形での絆の中で、大いに葛藤する物語。多くの失敗を重ね、周囲からも軽んじられ、自らも誇りを捨て去ったような生活の中で、中年男が唯一取り戻したのが母へのやさしさだった。  そのやさしさを行動に移すことの難しさ。家族のエゴゆえの抵抗を受けながらも、押し付けられた母の命に、「仁術」を旨とする医師の助言を得て、旅を決行する。  千葉房総の果てにあるという病院は、実際には勝浦にある亀田総合病院をモデルにしているように思う。とんでもないところに位置していながら、心臓外科の手術を得意とし、設備が整った大きな総合病...
  • 沙高樓綺譚
    沙高樓綺譚 題名:沙高樓綺譚 作者:浅田次郎 発行:徳間書店 2002年5月31日 第1刷 価格:1600円  いくら大正やら昭和初期やら、古き良き時代の東京が好きだからって、やはり怪盗団ばかり書いていては息切れがするので、手法を変えての連作短編を今度は作ってみました、いかがなお味ですか? っていうような、得意の口語体浅田節を駆使した次なる作品集がこれだろう。  こんな文体でものを書くというのはいかにも難儀だと思うけれど、完全に言葉を楽しんで使っていると思われるのがいつもの浅田次郎。小説家というよりは講談師の才気か。小説家ほどには長い息が吐けないので、基本が短編集にあって、しかも口語体。浅田の限界でもあり、浅田の面目躍如でもある。どう取るかはこちらの気分次第。  一、二話読んでしくじったかなと思った。落ちも劇的なシーンもなく、浅田があまり得...
  • 王妃の館
    王妃の館 題名 王妃の館 上/下 作者 浅田次郎 発行 集英社 2001.7.30 初版 価格 各\1600  『プリズンホテル』の原点に戻ったようなホテルもの、と言って言えないことはないが、プリズンホテルと違って今度の宿泊先は、フランスはパリ、ルイ14世あやかりの地であるシャトー・ドゥ・ラ・レーヌ。光と影のツアー一行がこの由緒ある歴史的な王妃の館に宿泊ツアーに赴く話とて、舞台はずっとあちらで進行する。プリズンホテルが純和式の最底辺ホテルであるなら、こちらは美と歴史の超ゴージャスホテル。  まずはツアー自体が一種の詐欺で仕掛けがたっぷりでこれからのストーリー展開が期待されるのだが、そこに参加するキャラクターたちが、『プリズンホテル』時代の浅田次郎の復活かと思わせるばかりに、誇張された寓話的な存在で、ある意味、極度の類型パターン。登場人物た...
  • 椿山課長の七日間
    椿山課長の七日間 題名:椿山課長の七日間 作者:浅田次郎 発行:朝日新聞社 2002年10月1日 第1刷発行 価格:1500円  死んでも七日間はまだ霊は現世とあの世との間をうろうろと彷徨っている、なんて言う意味でぼくは初七日というのを理解している。その間に残された遺族の側は、挨拶やら遺言やら届出やらと葬儀の後のあくまで現世的で現実的な経済の仕組みの中でばたばたと慌しく動き回らねばならない。そんな忙しくも圧倒的に感情や理性が沸騰するような七日間の、これは物語である。  ただし主人公(たち)は死者の側。この世にやり残したことがある三人の死者が、姿をうつしみの他人に変えて、死者の弔いの場に現れ、正体を曝すことなく思いを遂げてあの世に帰ってゆくという話である。  死そのものやあの世の描写のあっけらかんとした明るさは、浅田ならではの優しさか。そして...
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