wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「震える山」で検索した結果

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  • 震える山
    震える山 題名:震える山 原題:Out Of Range (2005) 作者:C・J・ボックス C.J.Box 訳者:野口百合子 発行:講談社文庫 2010.04.15 初版 価格:\819  自然を背景にしたバイオレンスってことで馳星周の『沈黙の森』を読んだあとは、やはり自然を背景にしたあちらの小説を読んでみた。ちょうど新刊が立て続けに二冊も出たのだが、そのうちワイオミングの猟区管理官ジョー・ピケットを主人公にしたシリーズの最新刊『震える山』を読了。  『沈黙の森』とは同名の作品でもっとずっと(って書くと馳さんに失礼になるかもしれないが、事実なんだから仕方がない)深く感銘を受けたC・J・ボックスの『沈黙の森』は凄かった。というか、このシリーズは凄いのだ。どれをとっても。  いや、むしろシリーズ外作品である『ブルー・ヘブン』も凄くって、こちら...
  • C・J・ボックス
    ...04 野口百合子訳 震える山 2005 野口百合子訳 裁きの曠野 2006 野口百合子訳 フリーファイア 2007 野口百合子訳 復讐のトレイル 2008 野口百合子訳 ゼロ以下の死 2009 野口百合子訳 狼の領域 2010 野口百合子訳 冷酷な丘 2011 野口百合子訳 鷹の王 2012 野口百合子訳 発火点 2013 野口百合子訳 越境者 2014 野口百合子訳 嵐の地平 2015 野口百合子訳 熱砂の果て 2016 野口百合子訳 長篇小説 ブルー・ヘヴン 2006 真崎義博訳 さよならまでの三週間 2008 真崎義博訳
  • バサジャウンの影
    バサジャウンの影 題名:バサジャウンの影 原題:El guardián invisible (2012) 作者:ドロレス・レドンド Dolores Redondo 訳者:白井貴子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2016.12.15 初版 価格:\1,900-  ちょうどポケミスで手に取った本書がスペインのミステリという珍しいものだったので、一月のスペイン旅行の間に読むという計画を立てたのだったが、観光とアルコールと時差呆けなどで毎日が睡魔との闘い、1/4程度しか読めずに持ち帰ることになる。  バスク地方のバスタン渓谷で、次々と少女の死体が見つかり、その捜査責任者に任命された女性捜査官アマイア・サラサスは、暗い想い出の残る故郷エリソンドの町に戻ってこの捜査に当たる。  捜査そのものでぐいぐい進むのかと思いきや、快調なストーリーにブレーキをかけるかの...
  • ウィリアム・ケント・クルーガー William Kent Krueger
    ウィリアム・ケント・クルーガー William Kent Krueger コーク・オコナー・シリーズ 凍りつく心臓 1998 狼の震える夜 1999 煉獄の丘 2001 月下の狙撃者 2003 二度死んだ少女 2004 闇の記憶 2005 希望の記憶 2006 血の咆哮 2007 長編小説 ありふれた祈り 2013 宇田川晶子訳
  • 宮部みゆき
    宮部みゆき 前畑滋子シリーズ 模倣犯 2001 楽園 2007 杉村三郎シリーズ 誰か Somebody  2003 名もなき毒 2006 ペテロの葬列 2014 希望荘 2016 昨日がなければ明日もない 2019 長編小説 魔術はささやく 1989 東京殺人暮色 1990 レベル7 1990 龍は眠る 1991 スナーク狩り 1992 火車 1992 長い長い殺人 1992 蒲生邸事件 1996 理由 1998 クロスファイア 1998 模倣犯 2001 R.P.G. 2001 ブレイブ・ストーリー 2003 ICO ~霧の城 2004 英雄の書 2009 小暮写眞館 2010 ソロモンの偽証 2012 悲嘆の門 2015 過ぎ去りし王国の城 2015 連作短編集 ステップファザー・ステップ 1993 淋しい狩人 1993 短編集 我らが隣人の犯罪 1990 返事は...
  • それまでの明日
    それまでの明日 題名:それまでの明日 著者:原尞 発行:早川書房 2018.3.15 初版 価格:¥1,800-  こんなに長い間待っていた作品は他にない。  外れのない正統派和製ハードボイルドの書き手による、シリーズ長編第5作。前作から実に14年。時に書けない時もあったろう。書けなかった事情もあったろう。そもそも一行一行に重みのある文体である。正統派チャンドリアンを自称する作家である。簡単に軽い作品を量産されても困るが、こんなに待たされるのはやっぱりやきもきする。だから新作が出るぞ、という噂だけで、ぶるっと震えた。  1988年に『そして夜は甦る』で、驚愕のデビューを果たした。その後、第二作『私が殺した少女』で当然のように直木賞を受賞。短編集『天使たちの探偵』を挟んで、次の長編まで5年のブランクがあって『さらば長き眠り』、次は9年のブランクを置いて...
  • 卒業生には向かない真実
    卒業生には向かない真実 題名:卒業生には向かない真実 原題:As Good As Dead (2021) 著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson 訳者:服部京子 発行:創元推理文庫 2022.7.14 初版 価格:¥1,500  二作目を読むのに一作目を前もって読んでおく必要があると強く感じたのと同様に、本作を楽しむには一二作目をどちらも読んでおかないと、まず人間関係がわからない。ぼくはどちらも読んでいたけれど一年に一作ずつという発刊ペースでは、もちろん前作までの人間関係は記憶から消去される。この三部完結シリーズを真に娯しむためには、三作を続けて一気に読むほうが良いだろう。  これから『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』を読んで、本作に取り組む方は幸せな読者である。何故なら一作一作がどれも面白いから。そして一作が次の一...
  • 群狼の舞 満州国演義 III
    群狼の舞 満州国演義 III 題名:群狼の舞 満州国演義 III 作者:船戸与一 発行:新潮社 2007.04.20 初版 価格:\1,800  前作、上海事変を受けて、ラスト・エンペラー溥儀の擁立と傀儡化、満州国建設と国際連盟脱退、熱河侵攻までを描く本シリーズ第三弾である。  時代が早足で駈けて行く足音を、スーパー・ウーハーの低音で響かせる船戸の文章リズムは、相変わらず圧巻だ。それは時には遠い砲声であり、時には地吹雪の吼え声であり、時には馬群が蹄を踏み鳴らす音である。  そんな抗いようのない時代の重低音の上で、敷島四兄弟は、懊悩し、彷徨い、闘い、足掻いてゆく。それぞれの運命が均一でないばかりか、運命により変調してゆくところこそ、船戸の叙事詩作家たる所以である。  前作では試練を受けての変貌が目立ったのは馬賊の次郎だったが、...
  • DC-3の積荷
    DC-3の積荷 DC‐3の積荷〈上〉 (新潮文庫) DC‐3の積荷〈下〉 (新潮文庫) 題名:DC-3の積荷 (上・下) 原題:A Hooded Crow (1991) 作者:クレイグ・トーマス Craig Thomas 訳者:田村源二 発行:新潮文庫 1994.3.25 初版 価格:各\560(本体各\544)  昨年の読み残しを片付ける意識で読んだ作品。クレイグ・トーマスという人の本は、これ全部シリーズものと言っていいので、どこかで過去の作品とのつながりを残しながら常に新しい作品へと移動してゆく。そういう作りだから、どうしても順番にこの人の作品を辿っている読者は、スパイ・マスター、ケネス・オーブリィとの工作員たちの未来を次の作品、次の作品へと求めてゆくことになる。途中で抛り出すことのできないシリーズ、ですね、つまり。  ヒギンズがナイーブな一本...
  • 凍れる森
    凍れる森 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:凍れる森 原題:Winter Kill (2003) 作者:C・J・ボックス C.J.Box 訳者:野口百合子 発行:講談社文庫 2005.10.15 初版 価格:\781  素晴らしい! の一言に尽きる一篇。たとえ『このミス...
  • はなればなれに
    はなればなれに 題名:はなればなれに 原題:Fools' Gold (1958) 著者:ドロレス・ヒッチェンズ Dolores Hitchens 訳者:矢口誠 発行:新潮文庫 2023.3.1 初版 価格:¥750  ぼく自身が生まれた1950年代後半の作品。トリュフォーが愛し、彼に勧められてゴダールが映画化したという肝入りの映画の、しかも映画より面白いとの噂の原作が登場。このところ古い未訳作品に取り組む翻訳者の皆さんに感謝する機会が実に多い。本書はトリュフォーやゴダールの逸話がなければぼくらが読む機会は決して与えられなかったろう。ノワールな名監督たちに感謝。そして何よりもその名すら知らないでいたことに罪悪感さえ覚えてしまう原作の女流作家ドロレス・ヒッチェンズの異才ぶりに拍手を送りたい。  映画版が青年たちの人生の脱線とアイロニーを、(観て...
  • キング・オブ・クール
    キング・オブ・クール 題名:キング・オブ・クール 原題:The King of Cool (2012) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:東江一紀 発行:角川文庫 2013.8.25 初版 価格:\952  映画版『野蛮なやつら』をまだ見ていない。ラップミュージックで刻んだ詩のような小説原作がとても印象的かつ唯一無比のウィンズロウ節であまりの個性にぶっ飛びそうになっただけに、それの映画版を観るのがどうやら怖いらしい。言葉で刻まれたテンポ良いクライム小説を映画版で見るべきなのかどうか迷っているらしい。美しくも残酷極まりない血と硝煙の物語を叙情味たっぷりに描いた傑作小説が映像化されることによってどのくらい変容されてしまうものなのかを検証するのが耐え難い。それほどにぼくは『野蛮なやつら』という作品に魅せられたのだ。  しかしそろそろ気を...
  • 凍える牙
    凍える牙 題名:凍える牙 作者:乃南アサ 発行:新潮ミステリー倶楽部 1996.4.20 初刷 価格:\1,800  主題は新らしめだけど、小説作法は古め……そんな印象で『旬の一冊』入りは却下してしまった。この作家初めて読む女流作家で、ルーキーの女性刑事が初老のベテラン刑事と組んで特殊な犯罪に挑むという筋立て。  女流作家だなあと思わせる部分が女性刑事が刑事らしくなく、すっごく背伸びして難事件に挑んでいること、またベテラン刑事とのちぐはぐな捜査ぶりなどなど。この辺好みの人にはかえって受ける素材であるのかもしれないが、どこかホームドラマじみた匂いを感じさせ、これだけの酷薄な事件でありながら、緊張感を感じさせないところが、どうもぼくには残念。  動物を使った犯罪と言えば、ポーの頃からの古い題材ながら、女主人公のバイクとのクライマックス...
  • 藪枯らし純次
    藪枯らし純次 藪枯らし純次 題名:藪枯らし純次 作者:船戸与一 発行:徳間書店 2008.01.31 初版 価格:\2,100  船戸の小説は現実に材を取ったものが多い。しかも現代のリアルタイムな紛争地帯に赴き、取材や調査を綿密に行うことで、その地帯の真実を小説という形で熱く謳い上げる。彼の作品をすべて、叙事詩、と呼びたくなる由縁である。  しかし、彼は、時折り、そうした時代の代筆者という立場から離れて、黒澤映画のような娯楽色の強い純エンターテインメントを創出することがある。『夜のオデッセイア』『山猫の夏』『碧の底の底』『炎流れる彼方』、いずれも常なる歴史観や辺境ルポルタージュといった主題から離れた純然たる娯楽小説であった。  舞台設定こそ異郷に求めてはいるが、その物語は、人間たちの欲望や狂気がもたらす謀略と破滅の物語であり、血と冒険を求め...
  • 燃える波濤
    燃える波濤 「燃える波涛1」 「燃える波涛2」 「燃える波涛3」 「燃える波涛 第4部 明日のパルチザン」 「燃える波涛 第5部 冬の烈日」     (以上徳間書店)  とぶっ続けに読んでみた。  いつも森詠を読んで、感じるのはこの作家の良心ということだ。 「振り返れば、風」に顕著だが、ジャーナリスト時代からのの批評精神をうちに秘めており、そこには強烈な社会風刺精神が見え隠れしている。  1-3巻に関しては、相当練り上げた構想なのだろう、日本が2.26事件まがいの軍事クーデーターによって急速右旋回するまでの、巨大なスケールの話である。主役級のキャラクターが、ここで3人出てくる。  そのひとり枚方俊次が、フランス外人部隊の傭兵上がり。ひたすら家族の仇を追って行動する。天城徹は、新設情報局のエリート。その親友風戸大介は、もっか記憶喪失中の一匹狼パイロット...
  • 魔女の組曲
    魔女の組曲 題名:魔女の組曲 上/下 原題:M éteins Pasla Lumière (2014) 著者:ベルナール・ミニエ Bernard Minier 訳者:坂田雪子訳 発行:ハーパーBOOKS 2020.01.20 初版 価格:各¥1,000  セルヴァズ警部シリーズ第三作ということだが、前二作が未読でも楽しめる、とのお墨付き作品。並みいるレビュワーらも一押し。そうした傑作の予感に押され、本書を開く。結果、評判は嘘ではなかった。ページを開いた途端、その瞬間から、物語の面白さに、ぼくは捕まってしまった。  期待のセルヴァズ警部は、何と心を病んで療養休職中。彼の元に届けられる荷物も、こわごわと紐解く警部だったが、送られてきたのは高級ホテルのカードキー。その客室は、何と一年前に女性写真家が凄惨な自殺を遂げた現場であった。セルヴァズ警部は、休職...
  • 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
    砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 題名:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 作者:桜庭一樹 発行:富士見書房 2007.03.10 初版 価格:\1,400  最初にこの小説、在りき……、だったようだ。  2004年11月、富士見ミステリー文庫という少女向けシリーズで登場した本作が、徐々に口コミで広がり、それをきっかけにライト・ノヴェル作家から一躍直木賞作家までの道を彼女は走り出した。  それにしても、読んでみて唖然とする。これが少女向け作品なのか。これがミステリーなのか。いや、違う、これはまぎれもない暗黒小説の部類ではないのか。  もちろんぼくは、まだまだこの作者の初心者である。『私の男』しか、今のところ比較できる材料はない。それにしても共通点はいくつか見つけることができた。海野藻屑という名の不思議少女が、山陰の田舎町の中学に転校してくる...
  • ロスト・アイデンティティ
    ロスト・アイデンティティ 題名:ロスト・アイデンティティ 原題:East Of Hounslow (2017) 著者:クラム・ラーマン Khurrum Rahman 訳者:能田優 発行:ハーパーBOOKS 2022.3.20 価格:¥1,300  イギリス在住の作者クラム・ラーマンはパキスタンはカラチ生まれ。一歳で英国移住、ロンドン育ちの現在はIT企業会社役員、という珍しい肩書の新人作家だ。本書は、作者お馴染みの、ロンドン西部の移民率が高い自治区にあるハウンズロウに育ったムスリムの青年たちの日常からスタートする。  主人公のジェイ・カシームは麻薬の売人だが、友人の一人は警察官、もう一人はテロリストキャンプにまで参加する民族主義者。再婚相手ができたばかりの母は冒頭からカタールに引っ越ししてしまい、父なし子のジェイは、初めての独り立ちを迎える。 ...
  • 三時間の導線
    三分間の空隙 題名:三時間の導線 上/下 原題:Tre Timmar (2018) 著者:アンデシュ・ルースルンド Anders Roslund 訳者:清水由貴子・喜多代恵理子 発行:ハーパーBOOKS 2021.05.15 初版 価格:各¥1,040  グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズ三部作も、いよいよ大団円を迎える。  『三秒間の死角』が、作品の完成度やインパクトのわりに正当な評価を得ていなかったものの、アンデシュ・ルースルンドの名は、元囚人の肩書きステファン・トゥンベリとの共著『熊と踊れ』二部作により、一気にエース級作家として知れ渡り、それを受けてか、『三秒間の死角』も『THE INFORMER/三秒間の死角』のタイトルでNYを舞台にストーリーもシンプル化した形に差し替えられたものの、ともかく映画化された。 ...
  • 脅える暗殺者
    脅える暗殺者 脅える暗殺者 (扶桑社ミステリー) 題名:脅える暗殺者 原題:Menaced Assassin (1994) 作者:Joe Gores 訳者:三川基好 発行:扶桑社ミステリ 1997.7.30 初版 価格:\724  今では巨匠の一人として挙げたいジョー・ゴアズの新作。前作『狙撃の理由』から何とも7年半ぶんりの再会で、とにかくそれだけでぼくは嬉しい。手にとって大切に読みたい作家の一人なのである。  そして読んでみて幸福感にとらわれ、それが読書中ずっと続き、最終ページを閉じてまたも充実。うーん、やはり最後までゴアズであった。こう書いていながら特にぼくはゴアズの良い読者ではなないのである。良い読者というのは全作読んで良い読者だと思っているので、ダン・カーニィ・シリーズも『ハメット』も蔵書していながら読んでいないぼくは、罪悪感を感じてすらいる。 ...
  • よみがえる百舌
    よみがえる百舌 よみがえる百舌 (集英社文庫) よみがえる百舌 題名:よみがえる百舌 作者:逢坂剛 発行: 1996.11.30 初版 価格:\1,900  逢坂剛のこのシリーズは、何を書くか、そして何を書かないのか、という描写の谷間にトリックを潜めさせていることが多い。そしてそのトリックそのものは本格推理とは別次元のサスペンスフルな文体のみで運んでゆく、その技。これが百舌シリーズの魅力であった。  一作目の『百舌の叫ぶ夜』はその意味で歴史的とも言える逢坂サスペンスの名篇だと認識しているし、この流れに初期サスペンス短編集(『情状鑑定人』など)があり、長編『さまよえる脳髄』などがある。これはいわゆる逢坂スペイン冒険小説とは異なる分野にあるものである。  あくまでも娯楽に徹し、謎に徹し、サスペンスに徹しというものがこの百舌シリーズで、いかに作者が長い...
  • さまよえる脳髄
    さまよえる脳髄 さまよえる脳髄 (集英社文庫) 題名:さまよえる脳髄 著者:逢坂 剛 発行:新潮社 1988.10 初版  あまりの面白さに300ページを一気に一晩で読んでしまった本である。読み始めたら止まらなくなる本というのはあるけれど、これがそのひとつであることは間違いない。  逢坂心理サスペンスの極地でもある。精神心理学的見地から、また脳外科分野からサスペンス・ストーリーを構築するする腕では、国内では文句なしに最高峰の作家であろう。『百舌』シリーズでは記憶喪失やロボトミーなどが駆使されたが、本書では二重人格がモチーフとなっている。それも並大抵の二重人格ではない。  「右脳と左脳の連絡橋の役割を果たしている脳稜断裂」による右半身左半身の分裂やら、幼児的トラウマから虹や色彩に反応して起こる殺人。フェティシズムから発展する殺人。さまざまな狂気が...
  • プリズンホテル冬
    プリズンホテル冬 題名:プリズンホテル冬 作者:浅田次郎 発行:徳間書店 1995.9.30 初版 価格:\1,500  前作に比して物量的には小さくまとまったシリーズ第三作だが、見所は『きんぴか』で印象に強いナース・血まみれのマリアの復活と、そのど迫力。また新たなキャラクター武藤嶽男なる山男の存在と、ホテルの厨房中心に造られたアジサイ山岳会等々、楽しさの爆裂に相変わらずの一気読み。  谷川岳をモデルにした峻険な冬山を背景にした生と死、相変わらずの小説家の母と子の苦悩、愛憎の葛藤など、辛口の問題が、笑いに満ちたホテルというオブラートの中できらめいている。巧さに満ちた作家の、味わい深い文体による、一つの完成された世界とも言えるこれはそういう作品だ。  シリーズは小説家の主人公の救済をクライマックスに持って行きたいところだが、そう容易に辿り着ける...
  • 炎の色
    炎の色 題名:炎の色 上/下 原題:Couleurs De L incendre (2018) 著者:ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre 訳者:平岡敦訳 発行:ハヤカワ文庫HM 2018.11.25 初版 価格:各¥740  カミーユ・ヴェルーヴェン警部のシリーズ)で一気に燃え上がった感のある作者ピエール・ルメートル。あちらは文春文庫。第一次大戦に纏わる物語を描いた『天国でまた会おう』は早川書房でハードカバーと文庫版の同時刊行。この作者特有の、とても奇妙な主人公の人生を描き、ゴンクール賞(フランスの芥川賞)・英国推理作家協会賞を受賞し、国内でも話題を読んだ(ルメートルはどの作品でも話題を呼んでしまうのだが)。本書は『天国でまた会おう』の続編ではあるが、一部登場人物が重なることと、時制が前作を引き継いでいることの二点だけであり、前作が未読...
  • 燃える地の果てに
    燃える地の果てに [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名 燃える地の果てに 著者 逢坂 剛 発行 文藝春秋 1998.8.10 初版 価格 \2,095  冒険小説と言うジャンルは廃れているのだろうか? あるいはエンターテインメントと言うジャンルは? 結論から言うと...
  • 神奈備
    神奈備 題名:神奈備 著者:馳 星周 発行:集英社 2016.06.10 初版 価格:\1,600-  『蒼き山嶺』の原点はこちら。二年前の作品で山岳小説としては粗削りだが、『蒼き山嶺』のように国際冒険小説というのではなく、薄幸な少年の眼を通して神様の宿ると言われる山岳信仰の山・御嶽山のみが救いのように見えたというところに本作品の出発点がある。  彼を取り巻く環境はおとぎ話のように薄幸でたまらないけれども、そういう家庭もあるのだろうなという想像は容易につくから、想像上だけの出来事でもないと思う。  現実に涸沢にボッカしている時中学生くらいの独り旅の男の子に会って、何も装備していない事情などを聴いて説教したことがあるけれど(現実にはぼくではなく女子の先輩が心配してあれこれ問い詰めたのだが)、なぜこんな少年が穂高なんかに来てしまっているんだろうという...
  • そして夜は甦える
    そして夜は甦える 題名:そして夜は甦える 作者:原 りょう 発行:早川書房 1988.04.30 初版 価格:\1,300  やっと読みました。この完全にチャンドラー志向の小説。う~ん、100%ハードボイルド小説であったなあ。  この本はぼくが前にいったあるひとつのことを実践している。それは何かというと、アイデア主体でなく、状況を変化させることで新しい味わいを持たせてしまう種類の本ということだ。もちろんアイデアもあり、プロットもある。元ジャズ・ピアニストで、射撃の名手という殺し屋の設定なんて、たまらないではないか。しかしこの本は、基本的にチャンドラーの模倣といって言いほどに、徹底して皮肉のスパイスを利かせた文体で成りたっている。しかし模倣は、舞台を東京というわれわれが見慣れ聞き慣れた土地に展開されるのであって、LAではない。この点で、私立探偵が西新宿に事務所...
  • 狼の領分
    狼の領分  なで肩の狐 II 狼の領分 (新潮文庫) 狼の領分―なで肩の狐〈2〉 (トクマ・ノベルズ) 題名:狼の領分 作者:花村萬月 発行:徳間書店 1994.12.31 初版 価格:\1,500(本体\1,456)  『なで肩の狐』の続編。前作の終了直後、札幌からそれは始まる。ある意味で前作を引きずっている。けれど、また新しい旅と闘いが、この小説で展開する。前作より倍増した愛と暴力が凄まじい。  なんと言ってもフィジカルな小説だと思う。性も暴力もフィジカルなんだけど、ほとんどその二つでしか表現することのできない屈折した男たちが出会う時、さらに不条理な火花が散ってしまう。理不尽な死がいくつも必要とされる。理屈に合わない感性を描かせたら花村萬月はぴか一だなと思う。  木常と蒼の海のコンビは相変わらずでこぼこで楽しいんだが、木常は本作ではとっても...
  • 燃える波涛 第六部 烈日の朝
    燃える波涛 第六部 烈日の朝 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:燃える波涛 第六部 烈日の朝 作者:森詠 発行:徳間書店 1990年9月 初版 価格:¥1200(本体¥1165)  森詠入魂のポリティカル・アクション巨編第六弾。タイトルに第六部とあるが、実際に内容を整理してみる...
  • 贖いの椅子
    償いの椅子 償いの椅子 (角川文庫) 償いの椅子 題名:償いの椅子 作者:沢木冬吾 発行:角川書店 2003.04.25 初版 価格:\1,900  骨のあるクライム・ノヴェルである。この新鋭の作品は『愛こそすべて、と愚か者は言った』(新潮ミステリー倶楽部)に続く長編第二作。1970年生まれの若手作家であることが信じられないほどに内容が濃くて太い。導入部の文章では若書きの印象が強いのだが、書き進むうちにどんどんこなれてゆくばかりか、読者を唸らせるような言葉が頻出して来る。書き進むうちにも作家的進化が窺えるほどに、今後の成熟が楽しみな作家だと思う。  五年ぶりに車椅子に乗って姿を現わした能見亮司。五年前に彼とともに死んだ秋葉は実は生きているのか? 五年前のつけを清算しに戻ってきたのか? 警察内にある特殊チームと民間から徴用されたメンバーたち。能見を中心に...
  • 光る牙
    光る牙 題名:光る牙 作者:吉村龍一 発行:講談社 2013.3.6 初版 価格:\1,500  デビュー作『焔火』のある意味でセンセーショナルと言うばかりの舞台設定、時代設定を試み、東北の山岳地帯に神話的世界を構築してみせた、吉村龍一の第二弾。いい意味で裏切られた感じはするが、現代社会を舞台にした山岳小説である。  もちろんこの作家特有の異色さは全面に出ているけれども、むしろ巨大羆との死闘というシンプルな物語こそが、透徹した文体を武器に持つ吉村龍一という作家にはとてもフィットした感があって、前作ほど異形の者たちが多数出現することもなく、よってデビュー作の空気中に漂っていた毒気の類は、むしろ凛とするばかりの冬山の自然の透明さの中で、濾過され浄化され、神の領域に一歩近づいた気配さえ醸し出される。  一方でとても人間の領域に近づいた部分もある。主人...
  • 風の王国
    風の王国 風の王国 第一巻 翔ぶ女 風の王国 第二巻 幻の族 風の王国 第三巻 浪の魂 題名:風の王国 第一巻 翔ぶ女 第二巻 幻の族 第三巻 浪の魂 作者:五木寛之 発行:アメーバブックス 2006.12.20 初刷 価格:各\1,000  クリスマス・プレゼントなどに似合いそうな赤・青・緑というスタイリッシュな装丁の3巻セットだ。横組での製本は「若い世代にも読みやすい」ためだそうだ。若い世代ではない私には、教科書を読んでいるようで、正直、かえって読みにくいくらいだった。しかし、作品の内容はとりわけクリスマス・プレゼント向きでもなければ、特別若い世代向きというわけでもない。  テーマは、むしろ大きく、重い。一言で言うなら、サンカ、あるいは山窩と呼ばれる漂泊の民にフォーカスした物語である。映画では萩原健一・藤田弓子主演の『瀬降り物語』で取り上げられ...
  • 泥棒はスプーンを数える
    泥棒はスプーンを数える 題名:泥棒はスプーンを数える 原題:The Burglar who Counted The Spoos (2013) 作者:ローレンス・ブロック Lawrence Block 訳者:田口俊樹   発行:集英社文庫 2018.9.25 初版 価格:¥1,100  物凄く久しぶりのブロック。マット・スカダーのシリーズでハードボイルドの真髄を描き、殺し屋ケラーのシリーズではブラックユーモアの味を存分に出し、短編集ではニューヨーカーならではのお洒落な短編やスラップスティックで遊んだり、そして小説の書き方を出版したり、真の意味での巨匠。  そしてマットとケラーの中間地点(少しケラー寄り?)に位置しそうなのが、この泥棒バーニーのシリーズ。ユーモア・ミステリというと良いだろう。そしてお洒落なニューヨーカー・ノヴェルとしての味わいもたっぷり...
  • 密猟者たち
    密猟者たち 題名:密猟者たち 原題:Porchers (1999) 作者:トム・フランクリン Tom Franklin 訳者:伏見威蕃 発行:創元コンテンポラリ 2003.06.13 初版 価格:\660  アメリカ小説ってたいていこんなもんだよな、と今まで翻訳小説で慣れ親しんでいた方に是非とも紹介したい本がこれ。少なくともぼくはこういう作品を読むと、現代アメリカ小説という世界の懐の深さを改めて思い知らされるからだ。アメリカ小説を、いや、アメリカという国をでもいい、知った風な顔をした通(つう)という奴に出くわしたなら、ぼくはその人間の傲慢さに対しこの作品をぶつけてやりたい。  それがこの本の価値であると思う。思いもかけないアメリカがあって、アメリカがヨーロッパではなくアメリカで在り続けたその存在の根本を考えさせられるようなある種、力を蓄えた作...
  • 降臨の群れ
    降臨の群れ 降臨の群れ 題名:降臨の群れ 作者:船戸与一 発行:集英社 2004.6.30 初版 価格:\1,900  船戸与一にいよいよ飽きが来たのかな、と自問するのは、最近彼の新作が出ると、全作完読する読者であるぼくとしては、とりあえず購入までは躊躇わないのだが、すぐに読もうという気が起こらないからなのだ。  ある意味で、彼の作品は舞台装置が変わっても、その作品がある程度想像しやすいということが、そのひとつの理由にもなっていると思う。紛争のある国際舞台のどこかで、宗教や民族の長く血塗られた歴史の果てに、現代もなお、欲望と憎悪と復讐にうずく一群のキャラクターたちが、血と硝煙の宴を繰り広げるというものである。  その予測は大抵の場合、裏切られることがなく、またどれも水準以上の面白さを保っているのだから、ある意味でとても信頼に値するのが船戸ブランドな...
  • 夜の分水嶺
    夜の分水嶺 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 夜の分水嶺  G君(現・吉野仁)情報では、志水さんの無自信作だそうなのだが、何の、面白いではないの。ここのところ鳴りを潜めていた大がかりなアクション・シーンが復活して、志水作品にしては初期の頃を思わせるサービス振り。だから最近の心理サスペンス的なものを...
  • 終わりのないブルーズ
    終わりのないブルーズ 題名:終わりのないブルーズ 原題:Robbers (2000) 作者:クリストファー・クック Cristopher Cook 訳者:奥田祐士 発行:ヴィレッジブックス 2002.02.20 初版 価格:\900  長い長いロード・ノヴェル。でも旅は全然終わらない。エディはブルーズをプレイし続け、その演奏はやむことがない。時計を巻き忘れたような世界、アメリカの病葉とも言うべき、イースト・テキサスを舞台に、無意味な殺しを重ねるアウトローと、追跡者たちとのそれぞれの道ゆきを、重量感たっぷりに描き出した非常に読みごたえのある一冊。ぼくはこういう作品にはとことん目がないのだ。まいった。  「ふたりのナチュラル・ボーン・キラー」と帯にあるようにエディとレイ・ボブは刹那的な殺しを続ける。これを追うのが、理由のない疲労を抱えてどこか病んでい...
  • 狼が来た、城へ逃げろ
    狼が来た、城へ逃げろ 狼が来た、城へ逃げろ (1974年) (世界ミステリシリーズ) 題名:狼が来た、城へ逃げろ 原題:O Dingos, O Shateaux (1972) 作者:ジャン=パトリック・マンシェット Jean-Patrick Manchette 訳者:岡村孝一 発行:ハヤカワ・ミステリ 1974.10.31 初版 価格:\420  30年前にはポケミスは、こんな値段だったんだなあ。今ではほとんどポケミスは1000円を越えてしまい、和製ハードカバーとさして変わらない価格になってしまった。ポケットに入らないばかりの厚さになったものも多く、ポケットマネーでは購入意欲に少し足りないくらいの勿体ぶった叢書になっちまった感がある。  でもこの420円の本は、実は絶版本でなかなか手にすることができない。4000円以上でネット古書店から仕入れるしかなく...
  • 許さざる者
    許さざる者 題名:許さざる者 作者:笹本稜平 発行:幻冬舎 2007.12.05 初版 価格:\1,600  この作家にとって原点回帰と言える作品なのかもしれない。江戸川乱歩賞に較べるとだいぶ知名度が低いかもしれないサントリー・ミステリー大賞・読者賞をダブル受賞した『時の渚』を彷彿とさせる作品である。『時の渚』はデビュー二作目とは言え、笹本稜平名義としては、初となる。処女作は阿由葉稜名義での『暗号―BACK‐DOOR』である。こちらは、後に『ビッグ・ブラザーを撃て』と改題、改めて笹本稜平名義で文庫化されている。  いずれも名義に稜線の「稜」の字を使っている。ぼく自身、山をやっていた経緯から小説を書いてペンネームをつけるならば「稜」の字は外せない、などと長年思っていたという恥ずかしい経緯などもあり、何となく自分的には素直にこの作家が好きになり切れない...
  • ペインテッド・ハウス
    ペインテッド・ハウス 題名:ペインテッド・ハウス 原題:A Painted House (2001) 作者:ジョン・グリシャム John Grisham 訳者:白石 朗 発行:小学館 2003.11.20 初版 価格:\2,400  リーガル・スリラーの書き手、しかもスタイリッシュでモダンな作品を次々とベストセラーとして世界に送り出し、そのほとんどの作品が映画化されて売れに売れているトップランナーとも言える作家。だからこそ、このグリシャムという人が、南部作家であったかという点について今さらながら、あっと思わせられる。そう言えばデビュー作である『評決のとき』はまさに人種混淆の南部を舞台とした差別に真っ向から挑んだ作品であった。しかしそれにしても、この作家が今アメリカから次々と送り出されている南部の書き手であるというところまでは、正直思い至ってもいなかっ...
  • 闇夜に惑う二月
    闇夜に惑う二月 題名:闇夜に惑う二月 原題:February's Son (2019) 著者:アラン・パークス Alan Parks 訳者:吉野弘人 発行:ハヤカワ文庫HM 2023.10.25 初版 価格:¥1,600  ダーティな訳あり刑事ハリー・マッコイを主役としたシリーズの第二作早くも登場である。お次の第三作も既に出版されたばかりなので、遅れを取っているぼくは慌てて本作を手に取る。500ページを超える長尺の作品だが、スタートからぐいぐい牽引される、心地良いまでの読みやすさだった。  アナーキーな印象の刑事マッコイに、年下なのに面倒見の良いワッティー、上司にはタフでハードでおっかないのだがどうにも面倒見の良いマレーという捜査トリオがとにかく良い。前作を引き継いで読んでゆくとレギュラー出演組の個性がそのまま増幅されるほどにシリーズの魅力...

  • 狗 題名:狗 作者:小川勝己 発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2004.07.31 初版 価格:\1,700  鬼才・小川勝己による第二短編集は、悪女をモチーフにして纏められた。元々がタフな女の物語でスタートを切った作家である。『葬列』で両手にピストルを持ち容赦なくぶっ放す娘を描いて、まず読者を掴んでみせた登場の仕方であった。最近では『まどろむベイビーキッス』で、怖い女を描いて読者を震え上がらせた。だから当然の帰結として、悪女列伝をものにするとなれば作者の独壇場なのだと言える。  女性の怖さというのは、男から見て怖い、という主観によるものと、客観的に異常で怖いというものと二種類いるのではないかと思う。前者に関しては世の男性諸君が日頃ナチュラルに感じたりしているところの女性の怖さ。二面性。タフネスぶり。豹変。嘘を見抜く千里眼。その他。ともかく世の...
  • 大地の牙 満州国演義6
    大地の牙 満州国演義6 題名:大地の牙 満州国演義6 作者:船戸与一 発行:新潮社 2011.04.30 初版 価格:\2,000  三、四年の間、すっかり無沙汰にしていた満州国演義シリーズを久々に手に取る。冬場でオフシーズンで仕事が暇なんだからちょうどいいや。冬の北海道旅のあいだも、このお弁当箱みたいに重たい本を持って歩いたけれど、外は吹雪いていることも多く、電車であれバスであれホテルの窓辺であれ、ガラス越しに感じられるのは零下の真冬。モノトーンの昼と真っ暗な夜ばかりだ。だからこの本の舞台背景になっている満州は、とても身近に感じられる。嘘だと思うのなら、船戸ファンよ、このシリーズを読むに最適なる白い北海道へお越し頂きたい。そしてこの重量級の作品を、冬の泣き叫ぶような風の音に耳を傾けながら、活字を追ってもらいたい。正統派船戸満州読書術です。  満州国...
  • 英雄
    英雄 ブライアン・フリーマントル 『英雄』 題名 英雄  上/下 原題 No Time For Heroes (1994) 著者 Brian Freemantle 訳者 松本剛史 発行 新潮文庫 2001.1.1 初版 価格 上\705/下\667  フリーマントルのキャラクターには若さはまずない。その代わり、毎度と言っていいほど必ず見られるポイントは、百戦錬磨の権謀術策、派閥争い、騙し合い。大なり小なりの腹の探り合い。化かし合い。はったり、罠、組織のなかでのサバイバル。そうした人間界の業(ごう)ともいうべき静かで神経質な組織内闘争に、一方で起こる国際的事件が絡んで、ミクロ&マクロのシームレスな葛藤こそが、泥濘のように粘っこく執拗に纏わりつくように描写されてゆく。  本書は米露それぞれの捜査官を主人公に据えてのダニーロフ&カウリー・シ...
  • 五つの標的
    五つの標的 題名:五つの標的 作者:山田正紀 発行:光風社文庫 1995.4.10 初刷 価格:\500(本体\485)  その昔、山田正紀の書く襲撃小説が好きで、やたら読んだものだが、『火神(アグニ)を盗め』などは未だに印象に深いものがある。主人公たちは素人が多く背景に哀しいまでの庶民性を抱えている。そういう読者に近い立場の襲撃者たちが大きな組織だった標的を襲撃する、これぞ山田正紀の真骨頂であった。  その山田正紀もなんだか徐々に推理小説に目覚めて行ってしまい、戯作性に磨きをかけて、あっという間に大衆の売れっ子作家になっていっちまったのだ。悲しいんだよなあ、これが。昔の山田正紀を知っている読者は、なんと神にさえ戦いを挑む庶民の気概を描いていたんだから、物語そのものの面白さだけに走られちゃうと、もう何とも悔しくてたまらなかった。そうしてぼくは山田正紀を見捨てた。...

  • 穴 穴 (ハヤカワ・ミステリ 1104) 題名:穴 原題:Le Trou (1958) 作者:Jose Giovanni 訳者:岡村孝一 発行:ハヤカワ・ミステリ 1970.02.28 初版 1995.01.31 4刷 価格:\1000  脱獄を扱うエンターテインメントは映画や小説の世界で決して少なくはないだろう。どの作品にも共通するのはこのテーマが奏でる重低音。監禁されることの苦痛。管理された時間の閉塞性。悪党のたまり場であることからの緊張。看守も含めての暴行、懲罰という肉体的苦痛。面会というあまりにも刹那的な娑婆への接点。そうした設定自体が既に読者のサイドにあるからこそ、脱獄というテーマに取り組むとき、なんとなくうなじのあたりががざわめくような異質感を持ってしまう。そうしてページを開き始めるときが、収監のときというわけだ。  ぼくらはしかし、いつで...
  • 神々の山嶺
    神々の山嶺 題名:神々の山嶺(いただき) / 上下 作者:夢枕獏 発行:集英社 1997.9.16 第3版 1997.8.10 初版 価格:各\1,800  ぼくがこの本を読んで痛いほど思い出させられたのは、ぼくの個人史的な次元での、ある一時代のことである。あとさきの人生を構うことなく山に打ち込んでいた頃のこと。夢に山ばかりが出てきていた。つきあっていた女性の気持ちよりも自分の中で山の方が優先されて、お互いに深く傷ついた時代。それでも山を思う心が切ないほど痛かったあの時代。そういう山男の特有の生活そのもの、価値感そのもの。今そこに身を置いていないだけに引き攣れるような感覚で思い出すあの頃の自分が、この本で甦る思いがする。  ぼくにそういう時間を与えてくれたのが、この本。作者がストレートの直球で山岳小説に挑んで出来上がった悔いのない作品だ、...
  • 奇跡のタッチダウン
    奇跡のタッチダウン 題名:奇跡のタッチダウン 報酬はピッツァとワインで 上/下 原題:Playing For Pizza (2007) 作者:ジョン・グリシャム John Grisham 訳者:白石 朗 発行:ゴマブックス 2008.10.10 初版 価格:各\1,800  グリシャムの旺盛な執筆活動がすっかり復活した観がある。ここのところ立て続けに、翻訳も進んでおり、翻訳者の白石朗氏の旺盛かつ質の高い仕事ぶりにも本当に感心させられるばかり。  本来リーガル・サスペンスの巨匠として売れっ子ぶりが注目されたこの作家、頂点を極めたとの印象が強いところで、ぐっと急ブレーキを踏み込んだ。翻訳小説としてしばらく読者の目の前から姿を消していた。ぼくの場合、訳者未詳の超訳といういい加減な仕事に関してははカウントしないので、悪しからず。  頂点を極めた...
  • ローマで消えた女たち
    ローマで消えた女たち 題名:ローマで消えた女たち 原題:Il Tribunale Delle Anime (2011) 作者:ドナート・カッリージ Donato Carrisi 訳者:清水由貴子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2014.6.15 初版 価格:\1,900  無国籍のエンターテインメント大作『六人目の少女』で凄まじいデビューを飾ったイタリア人作家カッリージの長編第二作である。のっけからあれほどのアイディアを詰め込んでしまった彼が、第二作をどのくらいの意欲と自負とで書き始めたのか想像もつかないが、大抵の作家であればあのデビュー作を超える二作目というだけで、恐怖に震えそうだ。  そうした周囲の期待を背負って作り上げねばならなかった本書は、作者がそうした期待にしっかりと応えるこれまた印象的な作品であり、さらに作者があとがきで書いているよ...
  • 駐在刑事
    駐在刑事 駐在刑事 題名:駐在刑事 作者:笹本稜平 発行:講談社 2006.07.27 初版 価格:\1,700  日本の文芸誌を心から嘆きたくなるときがある。  大衆総合誌の場合、その一部で連載される長編小説は一冊にまとまったときにとても高く評価されるものが散見される。有名どころの作家が、シリーズものなどを雑誌連載始めると、出来上がりが待ち遠しくてうずうずする。とは言っても単行本にまとまるまで私は読まないけれど。その理由は、小説を切れ切れに読むなんて芸当はできないからだ。  さて大衆総合雑誌に比べて文芸誌のはどうかというと、有名無名実力の多寡に関わらずとにかく四方八方から短編作品を集めて作っているものがとにかく多いのだ。もちろん雑誌の肝である長編連載はそれぞれに抑えてはいるのだが、短編を中心とした読み切りを売り物にする「別冊」「増刊」などがやたら...
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