wiki クライムウェイヴ(Sysop読書録 活字をめぐる冒険) 内検索 / 「高く孤独な道を行け」で検索した結果

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  • 高く孤独な道を行け
    高く孤独な道を行け 題名:高く孤独な道を行け 原題:Way Down On The High Lonely (1993) 作者:Don Winlow 訳者:東江一紀 発行:創元推理文庫 1999.6.25 初版 1999.7.16 2刷 価格:\740  恥ずかしながらこの作家のこのシリーズを、ぼくは1999年の夏まで知らなかった。畳みかけるようなペースで1999年という年をこの作家が邦訳されることがなかったら、ぼくもこの作家の本を手に取っていたかどうか怪しいところである。ちなみにぼくは『ボビーZの気怠く優雅な人生』を人に勧められて読んでカルチャー・ショックを受け、続いてとにかく立て続けになっていたこの本も読んでしまった。シリーズであることを無視して。  シリーズである作品を最初から読まずに、いきなり途中から読むということに関してはぼくは比較的批判...
  • ストリート・キッズ
    ...  それをぼくは『高く孤独な道を行け』の後に読んでいるのだ。こんなに悲しいことは滅多にない。たいしたシリーズじゃないと高を括っていたわけではないけれど、これほどの傑作シリーズと知らなかったのは事実。衝撃は大きく、悲しみは深い。  活劇という意味では『高く孤独な……』に負けるけれど、内容的にニールという独自な主人公設定に最も重心を置いた作品である。だからこそ……なのであった。こんな失敗は犯してはいけない! (2000.01.16)
  • ドン・ウィンズロウ
    ...992 東江一紀訳 高く孤独な道を行け 1993 東江一紀訳 ウォータースライドをのぼれ 1994 東江一紀訳 砂漠で溺れるわけにはいかない 1996 東江一紀訳 ブーン・ダニエルズ・シリーズ 夜明けのパトロール 2008 中山宥訳 紳士の黙約 2009 中山宥訳 ベン&チョン&O・シリーズ 野蛮なやつら 2010 東江一紀訳 キング・オブ・クール 2012 東江一紀訳 ノン・シリーズ長編 ボビーZの気怠く優雅な人生 1998 東江一紀訳 歓喜の島 1997 後藤由季子訳 カリフォルニアの炎 1999 東江一紀訳 フランキー・マシーンの冬 2006 東江一紀訳 サトリ 2011 黒原敏行訳 報復 2014 青木 創・国弘喜美代訳 失踪 2014 中山宥訳
  • 仏陀の鏡への道
    ...これを読んで初めて『高く孤独な道を行け』における中国でのプロローグの意味がわかった。やはりシリーズ物は順番どおりに。  ニール・ケアリー・シリーズの二作目は重厚感。何が重厚といって中国現代史の重厚が凄い。アメリカ人の作家でここまで中国の歴史に凝った人というのはあまりいないのではないだろうか。地理的説明も歴史的背景も独特のブラックな語り口で切り裁いてみせるが、ある意味でニールのこの種の彷徨の過程をディテールから描写してゆく作法は、このシリーズに共通したものかもしれない。  一作目がロンドン、本作が中国、三作目が北米中西部と、活劇の舞台の激変ぶりにも驚愕させられるのだが、こうした距離感のある設定こそがニールの辿る一筋縄では行かない裏街道人生の魂の遍歴のために用意された旅程表であるのかもしれない。本作での"Trail"、次作での "Way&qu...
  • 孤独な場所で
    孤独な場所で 題名:孤独な場所で 原題:In A Lonely Place (1947) 作者:ドロシイ・B・ヒューズ Drothy B. Hughes 訳者:吉野美恵子 発行:ハヤカワ・ミステリ 2003.06.30 初版 価格:\1100  ひさびさのポケミス名画座である。  映画そのものはハンフリー・ボガートが気に入ったストーリーということで製作および、なんとシリアル・キラーとしての主演を果たしているらしい。ただし日本でその映画が公開されたのはおよそ半世紀近く経った1996年。監督はかのニコラス・レイ。ポケミス名画座としては取り上げて当たり前のような作品でありながら、ボギーの殺人者、しかも病的なサイコ野郎とあっては配給会社も二の足を踏んできたというわけだろうか。  原作が未訳であったことは、そうした映画作品の不遇についてもさることながら...
  • 孤独なき地 K・S・P
    孤独なき地 K・S・P 孤独なき地 K・S・P(Kabukicho Special Precint) 題名:孤独なき地 K・S・P 作者:香納諒一 発行:徳間書店 2007.03.31 初版 価格:\1,800  何となく、予想通りの本だった。香納諒一としては、流行の警察小説を書きたかったのか、それとも徳間書店の得意なハードロマンとかハードアクションという売りのB級アクションの書き手として中堅プロフェッショナリズムを発揮したかったのか、ちと不明。しかしこういう刑事アクションを単純に息抜きとして読みたい読者層が存在していることも事実。そういう読者層は、通常の香納諒一作品を読むとは限らないから、この手の娯楽に徹した小説で釣っておくということも、作者・出版社などの間では意識すべきところなのか。  香納諒一と言えば、主人公の心情に痛いほど迫るために、キャラクターに...
  • 孤独な鳥がうたうとき
    孤独な鳥がうたうとき 題名:孤独な鳥がうたうとき 原題:Peril (2004) 作者:トマス・H・クック Thomas H. Cook 訳者:村松 潔 発行:文藝春秋 2004.11.10 初版 価格:\2,300  何だか似たような雰囲気の小説を読んだことがあると思った。はっきりとストーリーは思い出せないのだが、クリスマスの夜のある一日だけを描いてとてもお洒落だったミステリー、エド・マクベインの『ダウンタウン』である。包装紙は要らないから、そのまま直接カバーにリボンをつけてクリスマス・プレゼントにしたいような本であり、それもクリスマス直前に(イブだったかどうかは記憶にない)、出版されたものだったと思う。  エド・マクベインならこのような本はお手のものだと思う。そんなお洒落で軽妙なミステリーを、それでいて人生の艱難辛苦を舐めた人でなくては決して...
  • ボビーZの気怠く優雅な人生
    ボビーZの気怠く優雅な人生 題名:ボビーZの気怠く優雅な人生 原題:The Death And Life Of Bobby Z (1997) 作者:Don Winslow 訳者:東江一紀 発行:角川文庫 1999.5.25 初版 価格:\780  スラップスティックな味わいのピカレスク・アクションとでも分類したいような気がするが、多くの傑作がそうであるように分類しきれない部分がこの本にも当然多々存在する。  現在形の文体による疾走感は、あるところではドタバタ感であり、あるところではむしろハードボイルドでさえある。正体の掴み難い作品ではあるが、より大きな分類である「エンターテインメント」の名がこれほど相応しい本というのはあまり世の中に存在していないかもしれない。  どちらかと言えばじっくりと主人公まわりを描きこむ力作タイプの探偵ニール・ケアリ...
  • 極大射程
    極大射程 極大射程〈上巻〉 (新潮文庫) 極大射程〈下巻〉 (新潮文庫) 題名:極大射程 上/下 原題:Point Of Impact (1993) 作者:Stephen Hunter 訳者:佐藤和彦 発行:新潮文庫 1999.1.1 初版 価格:各\667  ハンターの作品をして、「アメリカ死闘小説」の新しい潮流……のように表現しておいてつくづく良かった……と感じさせられるこの一作。本国では『ダーティホワイトボーイズ』より以前に上梓されていた作品でありながら、さらにスケールの大きな作品に仕上がっている。この作品、ボブ・リー・スワガー初登場の野心作に比べると、ボブの起源とも言える『ダーティ……』は、けっこうくつろいで書かれた寓話のようにも思える(読んだ直後はあれほど圧倒されていたというのに……)。  日本人である我々にとって、先に邦訳された『ダーティ...
  • 虚の王
    虚の王 題名 虚の王 作者 馳星周 発行 光文社カッパ・ノベルス 2000.3.30 初版 価格 \933  内容としては、短編集『M』と通底するテーマを追いかけた長編と言うべきところだろうか。短編集よりは内容構成が複雑で、人間関係もじっくり読めるためにしっくり馴染むことができる。一応出会いから始まっての紆余曲折があるために、短編のようにどこを切っても同じようなシーンの金太郎飴小説、とはならずに済んでいる。海外のノワールによく馴染んだ作家馳星周はやはり長編向きの作家なのだとつくづく思う。  何となく滑り出し、奇妙な人物たちが出会い、奇妙な行動と軋轢の中で暴力と性とを営んでゆく様は、花村萬月『二進法の犬』を想起させるものがある。馳星周もそれだけ上手い作家なのだということだ。それでも萬月の世界に辿り着かないものは、やはりどこか成熟していないように見える作...
  • 遊戯
    遊戯 題名:遊戯 作者:藤原伊織 発行:講談社 2007.07.25 初版 価格:\1,500  絶筆となり、途中で終わってしまう連作短編集、ということを覚悟で読むしかない。藤原伊織は5月に亡くなったため、この連作で現れる自転車に乗った謎の人物が主人公である二人の男女に対し、何を想い、何を目論んでいたのか知る術はない。もちろん物語は解決を見ないし、この本では雑誌発表された5作の連作短編が、全体の8割であるのか、それとも3割に過ぎないのかすら、判断することができない。いろいろな意味でフラストレーションを覚悟で取り組まねばならない本であるということだ。  しかし、人の死は、神でもない限り止めることができないものであり、彼が最後の最後まで書こうとしていた小説のなかで、活き活きと謎に挑み、孤独から抜け出そうとする人間の生きる本能的な性質、人と繋がってゆ...
  • tabiwo
    たびを 作者:花村萬月 発行:実業之日本社 2005.12.20 初版 価格:\2,800  まるで弁当箱。1000ページの著者最大長編作品が登場した。執筆は中断を挟んで9年半、編集担当者は四人を数えるという小説作成としては相当のスケールを持つ作品である。  一言で言うならロード・ノベル。著者が小説デビューに前旅専門誌に紀行文を寄せるライターであり、かつバイク乗りであることはよく知られているが、その著者の生身の原点に迫った作品としての渾身の書きっぷりからすると、本書はある意味でこの作家の金字塔であり、なおかつ亜流でもあるのかと思われる。  著者はバイオレンスとセックスの描写でエキセントリックな人であり、それを展開する土壌としてミステリ畑やノワールな風土に、著者の本意ではなくても結果的に顔が知られた人である。そうした過激さが売りである著者が、自分の体験...
  • ねじれた文字、ねじれた路
    ねじれた文字、ねじれた路 題名:ねじれた文字、ねじれた路 原題:Crooked Letter,Crooked Letter (2010) 作者:トム・フランクリン Tom Franklin 訳者:伏見威蕃 発行:ハヤカワ文庫HM 2013.11.15 初版 価格:\940-  短編集『密漁者たち』で、この作家をマークするようになり、妻べス・アン・フェンリイとの共著『たとえ傾いた世界でも』で、ミシシッピ川の歴史に残る氾濫を背景に壮大南部冒険小説を書き上げたことにも心打たれたと言うのに、ブラインドスポットに入ってしまったために恥ずかしながら長らく気づかなかった作品。それが本書。2011年ゴールド・ダガー賞とLAタイムズ賞を受賞しているというのも、読めば頷ける。  徹底して南部の田舎を生き生きと描く作家というと、そう多くは思い浮かばないものの信頼に値する...
  • dirty_sally
    ダーティ・サリー 原題:Dirty Sally (2004) 作者:マイケル・サイモン Michael Simon 訳者:三川基好 発行:文春文庫 2006.08.10 初版 価格:\857  不覚だった。『このミス』の投票前に読んでおけば、間違いなく今年の三本指には入れていた。エルロイとロバート・B・パーカー絶賛という帯の言葉を素直に信じておけばよかった。まさにエルロイ好みと思われる渾身の警察小説ではないか。例えば、マイクル・コナリーを初めて読んだときのヒット感に共通するものがあるのだ。  一向に事件の全容が見えてこない謎の奥深さが、例えようもなく魅力だ。被害者たちのあまりに惨たらしい死に様は驚愕のインパクト。バスに轢かれてに切り離されてしまう死体。その事故を捜査している間に、もう一つのブラック・ダリアとも言うべきダーティ・サリーを発見してしまう主役...
  • ドロシイ・B・ヒューズ Drothy B. Hughes
    ドロシイ・B・ヒューズ Drothy B. Hughes 長編小説 堕ちた雀 1942 北村栄三訳 影なき恐怖 1943 平井喬訳 デリケイト・エイブ 1944 平田次三郎訳 情熱の殺人 1946 邦枝輝夫訳 孤独な場所で 1947 吉野美恵子訳

  • 罪 題名:罪 原題:Sluld (1998) 作者:カーリン・アルヴテーゲン Karin Alvtegen 訳者:柳沢 由美子 発行:小学館文庫 2005.6.1 初刷 価格:\600  スウェーデン作家というだけで珍しいが、『喪失』で描かれた女性ホームレスの印象が強く、ミステリとしても極上の味を持っていたため、その反響を待って、デビュー作である本書も邦訳の光を浴びる結果になったのだと思う。  驚いたのは、二作目である『喪失』以上に、本書の完成度の高さと、人間の心を抉るメスの切れ味といったところか。  今でも記憶に新しい、警察が訴えをまともに取らなかったゆえに発展してしまった上尾市のストーカー殺人。そのケースに酷似した被害者の側の、食い荒らされる日常の描写は凄まじい。贈られて来るプレゼントが、足の小指で、それはストーカーが自分の指を自ら...
  • デイヴィッド・マレル
    デイヴィッド・マレル David Morrell ランボー・シリーズ 一人だけの軍隊 1972 沢川 進訳 ランボー2/怒りの脱出 1986 沢川 進訳 ランボー3/怒りのアフガン 1988 沢川 進訳 ソール&ドルー三部作 ブラック・プリンス 1984 山本光伸訳 石の結社 1985 山本光伸訳 夜と霧の盟約 1987 山本光伸訳 ノンシリーズ長編小説 トーテム 1979 喜多元子訳 血の誓い 1982 佐宗鈴夫訳 螢 1988 山本光伸訳 テロリストの誓約 1991 山本光伸訳 偽装者 1993 山本光伸訳 暗殺 -究極の否定 1996 山本光伸訳 真紅のレクイエム 1994 山本光伸訳 ダブル・イメージ 1998 山本光伸訳 赤い砂塵 2000 山本光伸訳 ブラッド/孤独な反撃 2002 山本光伸訳 廃墟ホテル 2005 山本光伸訳 短編集 苦悩のオレンジ、狂気のブル...
  • 神の街の殺人
    神の街の殺人 題名:神の街の殺人 原題:Tabernacle (1983) 作者:Thomas H. Cook 訳者:村松 潔 発行:文春文庫 2002.4.10 初版 価格:\638  トマス・H・クックと言えば、最近ではすっかり<あの記憶シリーズの作家>として定着している観がある。ぼくはこの人の比較的旧い作品も好きなので、三作目にあたる本書はデビュー作『鹿の死んだ夜』に続いての今になって翻訳された作品であり、クック・ファンとしてはそれなりに垂涎ものといったところに位置する作品でもある。  ユタ州ソルトレイクシティと言えば、まず想起するのがモルモン教の街である。死刑囚ゲイリー・ギルモアの恐るべきあのドキュメント『心臓を貫かれて』の街でもある。多くの戒律に縛られた街で生じる連続殺人事件。  主人公であるトム・ジャクソンは、フランク・クレモン...
  • サイレンズ・イン・ザ・ストリート
    サイレンズ・イン・ザ・ストリート 題名:サイレンズ・イン・ザ・ストリート 原題:The Sirens I The Street (2013) 著者:エイドリアン・マッキンティ Adrian McKinty 訳者:武藤陽生訳 発行:ハヤカワ文庫HM 2018.10.25 初版 価格:¥1,180  北アイルランドはベルファスト北隣の田舎町キャリック・ファーガス署勤務のショーン・ダフィ巡査部長を主人公としたシリーズ第二作。時期を待たず次々と三作まで翻訳が進み、出版社・翻訳者の意気込みを感じさせる、何とも心強いシリーズである。  ショーンは、巡査部長と言いながらその実は私立探偵と変わらぬ孤独なメンタリティの持ち主である。警察内マイノリティであるカトリック、大学卒という二点により、組織人でありながら孤独なヒーローという特性を持たせるという本シリーズならではの...
  • 贄の夜会
    贄の夜会 贄の夜会 題名:贄の夜会 作者:香納諒一 発行:文芸春秋 2006.05.30 初版 価格:\2,857  香納諒一が、がらっと変わった。文章を読み出しても、あるいは本書を読み終えても、どこにも過去の香納諒一がいない感覚がある。一人の作家の大きな変化があるとすれば、それは香納諒一の場合、この作品となるだろう。今、それに立ち合っているのだとの実感を感じながら、本書を丹念に読むこととした。  まず、殺人事件。推理小説に近い構成。両手首を切り落とされた死体と、目撃者として殺された死体。残虐な骸。フーダニット。三人称による複数主人公の物語。いつも主観を移動させることのなかった作家が、神の視点で書き綴る客観的な事件の俯瞰に、どうしても戸惑いを禁じ得ない。  今は多くの作家が警察小説を書くようになった。犯罪を通して警察官の人間模様を書く例が増えている...
  • トマス・H・クック
    トマス・H・クック フランク・クレモンズ・シリーズ だれも知らない女 1988 丸本聰明訳 過去を失くした女 1989 染田屋茂訳 夜訪ねてきた女 1990 染田屋茂訳 記憶三部作 死の記憶 1993 佐藤和彦訳 夏草の記憶 1995 芹澤恵訳 緋色の記憶 1996 鴻巣友季子訳 その他、長編 鹿の死んだ夜 1980 染田屋茂訳 神の街の殺人 1983 染田屋茂訳 熱い街で死んだ少女 1989 田中靖訳 闇をつかむ男 1991 佐藤和彦訳 夜の記憶 1998 村松潔訳 心の砕ける音 2000 村松潔訳 闇に問いかける男 2002 村松潔訳 テイクン 2002 富永和子訳 レスリー・ボーエム原案 孤独な鳥がうたうとき 村松潔訳 2004 蜘蛛の巣のなかへ 2004 村松潔訳 緋色の迷宮 2005 村松潔訳 石のささやき 2006 村松潔訳 沼地の記憶 2008 村松潔訳 ローラ・...
  • 地上九〇階の強奪
    地上九〇階の強奪 地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫) 題名:地上九〇階の強奪 原題:THE BOOSTER ,(1989) 作者:EUGENE IZZI 訳者:朝倉隆男 発行:ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1992.9.30 初刷 価格:\580(本体\563)  なるほど、これは文句なしのイジー最高作でありましょう。とりわけハードボイルド嫌いの方にもこちらは冒険小説の味つけがたっぷり足してありますからオススメさせていただきます。サンシャイン60よりさらに50階も高い110階建超高層ビルディング。季節はシカゴの二月。記録ものの吹雪が連日吹き荒れ、耐寒温度は零下70度を越える空。癌に侵された老金庫破りとその若き弟子は90階の窓を破って、マフィアの札束に挑む。ううむ。申し分ないじゃないかあ!  どうも邦訳タイトルのおかげで損をしているなどと...
  • 忘れたとは言わせない
    忘れたとは言わせない 題名:忘れたとは言わせない 原題:Rotvälta (2020) 著者:トーヴェ・アルステルダール Tove Alsterdal 訳者:染田屋茂 発行:早川書房 2022.8.31 初版 価格:¥2,200  スウェーデン南部オンゲルマンランド地方クラムホシュ。主人公の若き女性警察官エイラ・シェディンが暮らす町である。  深い森や峻嶮な峡谷を、海に流れ出る川のうねりが削る場所。河岸の古い巨大工場の跡地には、麻薬やフリーセックスに夢中になる若者たちの痕跡が残される。  憂鬱になるほど暗く寂しい地方の片田舎で、13年前に発生した少女行方不明事件。その少女を殺害した容疑で刑務所に入れられた孤独な若者ウーロフ。彼が出所するとほぼ時を同じくして、ウーロフの父親が殺害されて発見される。ウーロフには無実の可能性があり、シェディンは1...
  • 第四の闇
    第四の闇 題名:第四の闇 作者:香納諒一 発行:徳間書店 2007.03.31 初版 価格:\1,800  どうも、ここに来て、香納諒一が滑っているという印象が拭えない。酷評した『孤独なき地 K・S・P』でも、面白かったという読者が沢山いるみたいだから、そういう読者を想定して書いてゆくというのなら、私のような古い香納ファンはこのまま失望を継続することになるのかもしれない。  そんな暗澹たる思いを噛み締めなきゃならなかったのが本書。もちろん、サイコ畑、ミステリー畑の読者ならば、こういう作品は、文章もプロットも大変丁寧に練られているし、上質の、密度濃いエンターテインメントというような評価をするのかもしれない。かくいう私だってサイコ畑でミステリ畑でもあるのだから、これが香納諒一ではないどこかの新人作家の仕事ということであるなら、そこそこに評価することが...
  • スリープウォーカー
    スリープウォーカー 題名:スリープウォーカー マンチェスター市警エイダン・ウェイツ 原題:The Sleepwalker (2019) 著者:ジョセフ・ノックス Joseph Knox 訳者:池田真紀子 発行:新潮文庫 2021.09.01 初版 価格:¥1,050  警察小説でありながら組織臭を全く感じさせない一匹狼の刑事エイダン・ウェイツ三部作の掉尾を飾る作品である。一作目を書くのに八年を費やして作家デビューとなったジョセフ・ノックスは英国作家でありながら、相当にパルプ・フィクションのサイドに位置する作家であるように思う。ノワールの系列。  交代制ではない夜間勤務刑事というエイダンの所属する警察の職制にも驚かされる。ずっと、ずっと夜勤なの? という設定が英国では普通なのだろうか? 待てよ、そういえば、マイクル・コナリーのボッシュの最近のシリーズ・ヒ...
  • カメレオンの影
    カメレオンの影 題名:カメレオンの影 原題:The Chameleon s Shadow (2007) 作者:ミネット・ウォルターズ Minette Walters 訳者:成川裕子 発行:創元推理文庫 2020.04.10 初版 価格:¥1,400  実に5年ぶりのお目見えとなる作品。値段の割に邦訳が遅いのが気になる。この作家を思い出すのに、以下の前作『悪魔の羽』についての我がレビューを少し振り返りたい。 (以下前作レビュー) { 中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。  事件そのものは『遮断地区』でも特に...
  • 捜索者
    捜索者 題名:捜索者 原題:The Searcher (2020) 著者:タナ・フレンチ Tana French 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ文庫HM 2022.4.25 初版 価格:¥1,620  タナ・フレンチを初読。アメリカ生まれのアイルランド在住の女流作家。ダブリン警察殺人課のシリーズ作品が主流なのだそうだが、未訳も多く、ぼくは読んでいない。本作は捜査小説というよりも、ヒューマンな色合いと、文明論、人生の深みといった本質部分を突いた完全独立作品である。  シカゴ警察を退職し、家族と別れ、人生を取り戻すためにアイルランドの片田舎に独り移住したカル。古い建物を修復しつつ、生活を再建させようとしていた彼は、頭を剃り上げた子どもトレイと出会い、その行方不明となった兄の捜索を出来る範囲でとの条件で引き受ける。  大都会シカゴから、大自然の真...
  • 死者の日
    死者の日 死者の日 題名:死者の日 原題:Dia De Los Muertos (1997) 作者:Kent Harrington 訳者:田村義進 発行:扶桑社 2001.09.30 初版 価格:\1,524  『転落の道標』を読んだときには、エルロイとトンプスンの中間地点に立つ作家と感じていたケント・ハリントン。しかし本作を読んでみてこうも印象が違うと、まだまだこの作家の才能は出尽くしてはいないのだとの期待感が募ってくる。本書はよりエルロイに近い熱気を感じさせる作品。  舞台はメキシコのティファナ。破滅への秒読みを開始した麻薬取締官の24時間が始まる。最悪に最悪を重ねるなかで、ピュアな純愛を持ち続ける男。よりリアルで偶像にはなり切れない、弱さだらけの女。何とも距離感がありながら、情念と人生が絡まり合う関り方だ。皮肉で過酷で人生そものの男女関係だ。これ...
  • ナイン・ドラゴンズ
    ナイン・ドラゴンズ ASINを正しく入力してください。 (right,4062777894) 題名:ナイン・ドラゴンズ 上/下 原題:Nine Dragons (2009) 作者:マイクル・コナリー Michael Connelly 訳者:古澤嘉通 発行:講談社文庫 2014.3.14 初版 価格:各\850  ヒエロニムス・ボッシュ、通称ハリー・ボッシュの警察小説シリーズは、常にボッシュの内面と行動とを交互に描きつつ、そのたぐいまれなる刑事ボッシュの行動の原理・理由・動機・目的・性格などをおろそかにはせず丹念にいくつもの事件という表現を使いつつ描き続けているシリーズである。  一作一作に外れがない、それぞれに常にツイストの利いた作品でありながら、長いスパンで見るとボッシュという苦難に満ちた道を辿る人生の孤独な魂と、その内に蹲る愛や友情の...
  • カットグラス
    カットグラス (『星が降る』へ改題) 題名:カットグラス 作者:白川道 発行:文藝春秋 1998.7.20 初版 価格:\1,429  アウトロー作家が流行っていると最近思いませんか? 世界でも、日本でも。  そうしたアウトロー作家の中でも、比較的頭脳的な経済アウトローとでも言うべき白川道のギャンブル的短編小説集が、これ。のっけから『病葉流れて』の原形的作品でスタートするこの作品集を読んでいると、どうしてもまともな暮らしに背を向けてしまう彼の作家的傾向というのが感じられてくる。  作品はやはり作家の生を映す鏡で、平凡な道を歩いては来なかったぎりぎりの人生観の中で、生れる一瞬のドラマを、彼は短編という形で刻んで残している。こういう人が作家になって作品を書いてくれてよかったと思う。  比較的まともで常識的な世界におとなしく住んで、暴力や博...
  • ドッグ・イート・ドッグ
    ドッグ・イート・ドッグ 題名:ドッグ・イート・ドッグ 原題:DOG EAT DOG 作者:EdwardBunker (1996) 訳者:黒原敏行 発行:ハヤカワ文庫NV 1997.7.31 初版 価格:¥700  ノワールの王道を行くような作品。犯罪者生活からまさに作家になることで足を洗うことのできた元囚人エディ・バンカーの尊顔を、ぼくは昨日ようやく映画『レザボア・ドッグス』で確認することができた。うーむ、渋い。  そういう人の手になるにしては、この作品はノワールの王道を行っているのだ。刑務所を出た途端に次の仕事にかかり始める主人公とムショ仲間たち。一見更生して見えるのに、ダチの誘いには攻し切れず簡単に家族に背を向けてしまう"ビッグ・ディーゼル"っていかにもリアルな存在だ。仲間なのに何をやらかすかわからないサイコ野郎の"...
  • 香納諒一
    香納諒一 川崎警察シリーズ 川崎警察 下流域 2023/01 川崎警察 真夏闇 2024/01 K・S・Pシリーズ K・S・P 孤独なき地 2007/03 K・S・P II 毒のある街 2008/09 K・S・P 噛む犬 2011/01 K・S・P 女警察署長 2012/07 K・S・Pアナザー 約束 2015/09 警視庁捜査一課シリーズ 刹那の街角 1999/05 贄の夜会 2006/05 無縁旅人 2014/03 刑事群像 2015/02 砂時計 警視庁強行犯係捜査日誌 2023/10 辰巳翔一シリーズ 無限遠/「春になれば君は」改題1993/12 蒼ざめた眠り/「虚国」改題  2010/03 さすらいのキャンパー探偵 降らなきゃ晴れ 2019/08 さすらいのキャンパー探偵 水平線がきらっきらっ 2019-09 さすらいのキャンパー探偵 見知らぬ町で 2019-10...
  • 秘めた情事が終わるとき
    冷めた情事が終わるとき 題名:秘めた情事が終わるとき 原題:Verity (2018) 作者:コリーン・フーヴァー Colleen Hoover 訳者:相山夏奏 発行:二見文庫 2020.01.15 初版 価格:¥1,180  ロマンス小説のように見えるタイトルとカバーに騙されてはいけない。これは二重三重の罠の張り巡らされたサスペンスであり、上質なミステリーである。なぜならこの作品は、作家の際立った文章力がなければ完成されるとこはないからだ。  交通事故で全身麻痺状態となった人気女流作家のシリーズの続きを書くために雇用されたローウェンは売れない作家。人づきあいが下手で、孤独で、自信もなく、ただ生活のためにライターとして生きようとしているところに転がり込んできたチャンスは、その後の彼女を暗闇の世界に引き込む招待状のようなものだった。  ローウ...
  • ローンガール・ハードボイルド
    ローンガール・ハードボイルド 題名:ローンガール・ハードボイルド 原題:Sadie (2018) 作者:コートニー・サマーズ Courtniy Summers 訳者:高山真由美 発行:ハヤカワ文庫HM 2020.11.25 初版 価格:¥1,280  エドガー賞YA部門受賞作品。アメリカではYA部門にこんなに残酷な作品があるのかと知ってまずは驚愕。  原題は"Sadie"。この物語の主人公である19歳の少女の名前が<セイディ>。なので、このエキセントリックとも言える邦題は、多分に営業的な目論見、かつ内容にも即したものであるとの自信の表れか?  少し内容や雰囲気を説明したような邦題と思って頂けるとよいのかも。  妹マティが殺されたので姉が復讐のため殺人者と目される義父を追跡する旅に出る。ティーンエイジャーの娘セイディの一人...
  • mayonakanoinu
    真夜中の犬 作者:花村萬月 発行:光文社 カッパ・ノベルス 1993.2.28 初版 価格:\760(本体\738)  花村萬月が、またやらかしてくれた。前作『ブルース』に較べたら斬新さは思い切り薄れるけれど、満月ワールドにはもしかしたら斬新さは要らないのかもしれない、とまでぼくは今回、感じてしまった。作家自らが白状しているように、彼の作品はひたすら深い愛情の、捻じくれた物語であるのだろう。  出版前は『黄昏れた犬』とのタイトルをお聞きしていたのだが、当の「黄昏れた」という表現はある場面で出て来るだけ。もっとわかりやすい「真夜中の」に変わった理由はぼくは知らない。  解説で関口苑生氏がこの作品を花村ワールドの集大成だと言っている。先に読み終えていたらしい五条 弾氏も同様のセリフを言っていたが、彼らの言う集大成の意味が何となくわかった。  これ...
  • 訣別の森
    訣別の森 題名:訣別の森 作者:末浦広海 発行:講談社 2008.08.06 初版 価格:\1,600  ここ5年くらい、江戸川乱歩賞受賞作品を追いかけることをしていなかった。受賞作のレベルが少し落ちてきたのではないかという声が囁かれたこともあるが、正直自分の側に新人作家を迎え入れるだけの余裕がない、ということもあるのかと、自省してみることのほうが正解だろう。  今年の乱歩賞は二作が受賞ということになった。書店で手に取った限りでは二作ともが魅力的な題材と感じた。北海道を舞台にしたミステリーなら何でも、というわけではないが、北海道人としてのぼくは、つい地元びいきになりがちである。いや、むしろ北海道に在住する前から、このロマン多き土地を舞台にしたエンターテインメント作品に惹かれ続けていたと言っていい。  本書は、知床を舞台に、環境問題を絡めたミス...
  • イタリアン・シューズ
    イタリアン・シューズ 題名:イタリアン・シューズ 原題:Italienska Skor (2006) 著者:ヘニング・マンケル Henning Mankell 訳者:柳沢由実子訳 発行:東京創元社 2019.4.26 初版 価格:¥1,900  作家が58歳の時に、66歳の主人公の小説を書くということはどんな感覚なのだろうか。既に人生を終えつつあるが、死ぬことは恐怖であり、外科医であった人生にある大失敗を犯し、世間からも自分からも罰せられ地の果てのような孤島に世捨人のような人生を送る主人公を。  一年で最も夜が長いスウェーデンの冬至を孤独に過ごしていた彼のもとを、過去に無言で別れてしまった女性が訪れる。2歳年上で、氷の上を歩行器で歩いてきて、しかも末期癌を患って。  孤独な15年にも渡る孤島での一人暮らしの中で、出会う人間は数日おきにやって来...
  • ザ・ドロップ
    ザ・ドロップ 題名:ザ・ドロップ 原題:The Drop (2014) 作者:デニス・ルヘイン Dennis Lehane 訳者:加賀山卓朗 発行:ハヤカワ・ミステリ 2015.03.15 初版 価格:\1,300  一軒の酒場を舞台に、孤独な青年バーテンダー・ボブの周辺に巻き起こる、突風のようなできごと。始まりは、捨て犬との出逢いだった。  アイルランド系移民の集まるボストンの下町は、そのまま社会というボトルの底に沈んでしまったみたいな街であり、夢や救いに見放されたような淀んだ時間に、誰もが人生を弄ばれているかのような土地である。  そこに生きる印象深い人々と目立たぬ主人公ボブを巻き込むトラブル。読む進むうちに、これはスクリーンで観る映画のような物語だな、と思っていたら、なんと本書は、短編『アニマル・レスキュー』(2012年『ミステリ・マ...
  • 無縁旅人
    無縁旅人 題名:無縁旅人 作者:香納諒一 発行:文藝春秋 2014.3.30 初版 価格:\1,600  香納諒一という人が書こうとしているのは、いつも常に人間であるように思う。初期作品の登場人物はストーリーは荒っぽいながらも、舞台設定と男対男の駆け引きの中で忘れ難く魅力的な人物を作り出すところがこの作家の最大の魅力であった。  最近はというと、少しばかりキャラクターたちから個性という部分が少し色落ちしているように思われる。本書は『贄の夜会』のシリーズということで、またサイコ・スリラーかなと思ったので、その意味では当てが外れた。刑事のシリーズというと二作目三作目は必ずしも一作目を引きずらないというものが多いように思われるが、この作者のKSPシリーズなどは、完全にキャラも分署も街も個性に溢れた魅力的なシリーズであるから、人情系はどちら、サイコ系はどち...
  • ケモノの城
    ケモノの城 題名:ケモノの城 作者:誉田哲也 発行:双葉社 2014.04.20 初版 価格:\1,600  誉田哲也という作家は今、すごく売れているんだろうと思う。映画やドラマでは『武士道シックスティーン』から『ジウ』から『ストロベリーナイト』まで。『ジウ』は深夜枠のドラマだったけれど、『ストロベリーナイト』はTV連続ドラマからMovieへ! というまるで作品の赤絨毯みたいな道を通っていった。  何年もかけて一冊一冊、この作家の作品の娯楽性の良さに導かれてはきたけれど、その人気がここまで来てみると、作品を良くしているようには見えない気がする。すくなくともぼくは最近そんな思いでこの作家を案じている。  この作家の娯楽要素はスピーディさと過激さ、そしてヒーロー、ヒロインたちの魅力であろう。特にヒロインたちの等身大な魅力や、逆に影のある魅力(暗い...
  • 約束の森
    約束の森 題名:約束の森 著者:沢木冬吾 発行:角川書店 2012.2.29 初版 2012.4.25 再版 価格:\1,900  今や時代遅れはないのかな、と危ぶまれるのが、ハードボイルドや冒険小説にひたすらこだわり、かつヒューマンをテーマに描くという軸だけは決してぶらさない沢木冬吾という作家である。生真面目で丹念ゆえに、書き込みは確かなのだが、ネット社会を中心とする現代のスピードやアップテンポという「快読感」を持たないところが、この人のいいところでもあり、読まれにくい部分でもあるのではないだろうか。  北の辺境の別荘地を舞台に繰り広げられる秘密組織同士の対決。日本離れしたそんな活劇の設定に、少しそぐわないように見える初老の元刑事。警察組織をベースに、分派し、欲望で集積し合った内なる結社の存在や非存在が、思わせぶりな表現で冒頭から繰り返される。何度...
  • ドルチェ
    ドルチェ 題名:ドルチェ 作者:誉田哲也 発行:新潮社 2011.07.15 初版 価格:\1,476  誉田版<女刑事>第三のシリーズが登場、ということで浮き浮きして読む。  カバーのキャッチコピーは以下の通り。  「練馬署強行犯係、魚住久江、四十二歳。肩身の狭い喫煙者、自分的には独身貴族。不器用なオトナの新ヒロイン登場!」  たまらないコピーに惹かれて相当の気負いを持って挑むと、何と、短編のシリーズである。この作者の短編はあまり心当たりがない。唯一の連作短編集が『ヒトリシズカ』だが、あれは全部合わせての長編作品みたいなものだ。最近『あなたの本』という短編集がようやく出たものの、こうしたしっかりした短編設定のシリーズというのが、今回、とても心憎い方式のように思われる。  だって、海外の作家みたいだからだ。海外の有名どころの...
  • 混戦
    混戦 混戦 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-10)) 題名:混戦 原題:RAT RACE (1970) 著者:DICK FRANCIS 訳者:菊池光 発行:ハヤカワ文庫HM 1977.9.15 初版 1990.11.30 8刷  前作『査問』に較べるとアクション・シーンが多いし、映画的と言えるくらいサービス満点なクライマックスが用意されているので、まあまあだれでも楽しめる作品ではないだろうか。『飛越』以来ひさびさに航空機パイロットを主役に据えているが、今度は競争馬馬輸送機ではなく、騎手、馬主、調教師といった競馬に関わる人々を輸送する仕事だ。  フランシスの航空(フライト)シーンはこれまた体験に基づいたものだから、なかなか読ませるものがあるのだが、この作品もその種の見せ場がある。それでも『飛越』と較べてしまうと若干見劣りするかな? しかし、それは『飛...
  • 熊の皮
    熊の皮 題名:熊の皮 原題:Bearskin (2018) 著者:ジェイムズ・A・マクラフリン James A.McLaughlin 訳者:青木千鶴 発行:ハヤカワ・ミステリー 2019.11.15 初版 価格:¥1,900  圧倒的な自然描写力、とはこういう本のことを言うのだろう。作者はヴァージニア州の山の中で育ち、ヴァージニア大学で法学と美術額を修め、ネイチャー系のライターをしながらこの初の創作に取り組んだそうである。  主人公は作者の想いを乗せたワイルドな主人公。メキシコ国境の砂漠での密売人の過去を振り捨てて偽名でアパラチア山脈で自然保護管理の職につき世捨人同然の孤独な生活を送っている。発端となったのは熊の死骸だった。皮をはがされ、熊胆(くまのい)や熊の手が取り出された残虐な殺戮。甘い蜜の罠に、犬たちの首輪に仕掛けられたGPS。現代の山の中での...
  • 名もなき毒
    名もなき毒 名もなき毒 題名:名もなき毒 作者:宮部みゆき 発行:幻冬舎 2006.08.25 初版 価格:\1,800  この世界は写実だろうか。それともデフォルメされた寓話なのだろうか? いずれにせよ、宮部みゆきは『模倣犯』以降、暗い現代世相を反映した世界を作品の中に再構築するようになった。  主人公自体は『誰か』に登場した杉村という市井人なのだが、作品は多くの人々の様々な個性によって構成されている。一人称小説でありながら、不思議と群像小説という言葉を想起させる。それは、作品がストーリー以上に世界を描写する傾向にあるからだ。  タイトルの妙は、「毒」という字義の様々な解釈をメタファーとして用いる作者の意図に基づくものだろう。メインの犯罪は無差別毒殺事件でありながら、ストーリーは縦軸を取らず、世界を面で捉えようと趣向を凝らす。  主人公の...
  • ハーフムーン街の殺人
    ハーフムーン街の殺人 題名:ハーフムーン街の殺人 原題:The House On Harf Moon Street (2018) 著者:アレックス・リーヴ Alex Reeve 訳者:満園真木 発行:小学館文庫 2020.03.11 初版 価格:¥950  やれやれ、この作家、よくもここまで難度の高い小説を書きあげたものだ。主人公は、体は女性だが心は男性というトランスジェンダー。現代であればありがちな設定なのだろうけれど、なんと舞台は19世紀1880年のロンドン。難度に難度を重ねるチャレンジングな設定。  今年読んだ『探偵コナン・ドイル』の設定が本書とほぼ同時期で、ホームズが登場し、切り裂きジャックが夜を掻き回していた時代であり場所である。同じ、ロンドンの夜は、本作でもかなり手強い暴力や殺意に満ちており、怪しい霧に包まれて真相がなかなか見えないとこ...
  • 彼岸の奴隷
    彼岸の奴隷 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 題名:彼岸の奴隷 作者:小川勝己 発行:角川書店 2001.5.25 初版 価格:\1600  デビュー作『葬列』の最終行の強烈さは日本クライムノベル史に残るのでは、と思ってしまうくらいの印象を見事に残してくれたのだけれど、あの作品で見...
  • 老いた殺し屋の祈り
    老いた殺し屋の祈り 題名:老いた殺し屋の祈り 原題:Come Un Padre (2019) 著者:マルコ・マルターニ Marco Martani 訳者:飯田亮介 発行:ハーパーBOOKS 2021.02.20 初版 価格:¥1,300  どこかかつて観た記憶のある映画のシーンが、深い水の底から浮き上がってくるような感覚。それが本作のいくつかのページで感じられたものである。語り口や物語の進め方が上手いのは、この作家が初の小説デビューにも関わらず、映画の脚本家としてならした経歴の持ち主だからだろう。  作家が自分の物語として作り上げた「老いた殺し屋」オルソのキャラクター作りだけで既に小説を成功に導いているように思えるが、やはり彼の旅程を彩る派手なバイオレンス、また、彼が救い出す母子との交情の陰と陽のようなものが、この作品に、とても奥行きを与えているよう...
  • 喪われた少女
    喪われた少女 THE ISLAND 題名:喪われた少女 THE ISLAND 原題:Drungi (2016) 作者:ラグナル・ヨナソン Ragnal Jonasson 訳者:吉田薫 発行:小学館文庫 2020.08.10 初版 価格:¥800  どんどんダーク化が進んでいるラグナル・ヨナソン。その中でもあまりにダークすぎるスタートを切った女性警部フルダ・シリーズ第二作。第一作で読者側の概念をまず思い切りひっくり返すところから始めたヨナソンという作家は、本書でもフルダというダーク・キャラな中年女性警部をヒロインとして、彼女の出生の秘密に迫りながら、複雑に絡み合った人間関係のもたらす二つの事件を描く。  一方で孤立した別荘での殺人事件、さらにフルダが十年後に偶然担当することになった孤島での女性の謎めいた死のあまりに強い関連性に読者は、あっという間に引き...
  • 雪よ 荒野よ
    雪よ 荒野よ 題名:雪よ 荒野よ 作者:佐々木譲 発行:集英社 1994.10.30 初版 価格:\1,800(本体\1,748)  佐々木譲という人は実にいろいろな種類の作品ジャンルに果敢に挑んで、飽くなき面白さを追求しようと言ういい姿勢の作家だと常々思っているが、この本で試みられていることもその一つ。すなわち『五稜郭残党伝』の流れを汲む日本版西部劇路線だ。  日本版西部劇と言うと小林旭に代表されるような日活無国籍アクション映画路線などを思い出さざるを得ないけど、小説の世界、そして今この時点で試みるには、当時の荒唐無稽なのんびりした雰囲気は全くそぐわないだろう。そういう意味では、西部開拓史の世界を蝦夷開拓史の中に求めてリアリズムからも極端に離脱しない世界を描くという本書のような試みは、ぼくはやはりいい姿勢ではないのかと思う。ましてや日本で本当の意味...
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