| モノローグ | 藤が帰った後、変わったコンビが店に来た。 |
| 魔法使い | グリーンティーとアブラカタブラが一緒に来るなんて、なんだか不思議な感じがするね。 |
| グリーンティー | あら?魔法使いさん?どうしてここに? |
| アブラカタブラ | 奇遇ね、魔法使い。 |
| アブラカタブラ | あと、訂正するけど、このレタスと一緒に来たわけじゃないわよ。たまたま偶然同時にこのお店に足を踏み入れただけ。 |
| グリーンティー | だれがレタスですって?! |
| グリーンティー | まあいいでしょう。今日は特別な日ですし、いちいち目くじらを立てたりしませんわ。 |
| 魔法使い | グリーンティーもバレンタインデーのプレゼントを買いに来たの? |
| グリーンティー | ええ、そうですわ。 |
| グリーンティー | 私は皆様に愛されていますから、こういう日にはたくさんプレゼントをいただきますの。 |
| グリーンティー | 愛をいただいたら、私からもちゃんとお返しをしなければいけませんわ。私も、皆様を愛していますもの。 |
| グリーンティー | プレゼントももらえない、ひねくれたツンデレ女とは違いますのよ。 |
| アブラカタブラ | な、何を言ってるのかしら!?私はそんなの気にしないわ! |
| アブラカタブラ | 特別な日にもらうプレゼントなんて、形式的なものにすぎないわ。あなたみたいな甘ちゃんのお嬢様だけが本気にするものよ。 |
| 魔法使い | ん?アブラカタブラはプレゼントをもらえなかったの? |
| アブラカタブラ | そうじゃなくて、私は別に欲しくないと言っているの! |
| アブラカタブラ | もう、魔法使いまでなんでレタスと同じことを言うのよ……。 |
| アブラカタブラ | 普段と何も変わらないお菓子や花なのに、特別な日に贈ったからというだけで、それ以上の意味でもつくわけ? |
| アブラカタブラ | だいたい、「愛」だなんて私は気にしないの。だって―― |
| アブラカタブラ | 皆の前で踊っているだけで、そんなのいくらでも感じられるもの。 |
| 魔法使い | えっと、じゃあアブラカタブラはどうしてこのお店に? |
| アブラカタブラ | えっ? |
| アブラカタブラ | ただここのお菓子が好きなだけだけど?! |
| アブラカタブラ | 今日が特別な日だからって、お気に入りの店に行けないなんてありえないじゃない。 |
| アブラカタブラ | それにどこかのレタスが、プレゼントをもらえなくて落ち込んで、仕事に支障が出るのも面倒でしょ? |
| グリーンティー | ふぅん?アブラカタブラはそんなにも私のことを思ってくださっているのですね。感動してしまいますわ。 |
| モノローグ | グリーンティーが私たちのところに来る。彼女は私とアブラカタブラがおしゃべりをしている間に、すでに買い物を終えていた。 |
| アブラカタブラ | だから―― |
| アブラカタブラ | ん? |
| モノローグ | アブラカタブラが何か言い返そうとしたその時、グリーンティーが小さな箱を彼女の手に握らせた。 |
| アブラカタブラ | ど、どういうつもり?! |
| グリーンティー | プレゼントですわ。 |
| グリーンティー | こんなアブラカタブラに対しても、私は愛を出し惜しみしたりしませんの。 |
| グリーンティー | 私は、皆様を愛しているんですもの。 |
| グリーンティー | あ、こちらは魔法使いさんへのプレゼントです。どうぞ。 |
| 魔法使い | 私にもあるんだ?ありがとう! |
| アブラカタブラ | あ、あなた―― |
| アブラカタブラ | 私に情けをかけているつもり?!そんなものいらないわよ! |
| グリーンティー | あら?アブラカタブラはこのお店のお菓子が好きだったのではありませんの? |
| アブラカタブラ | 好きは好きだけど―― |
| グリーンティー | ただのプレゼントだと思って、素直に受け取りなさいな。 |
| グリーンティー | それとも、アブラカタブラはやっぱり……これは「愛」を示すものだとでも思っていらっしゃるのかしら? |
| アブラカタブラ | わ、私は―― |
| アブラカタブラ | もう!もらってあげればいいんでしょ!そうよ!ここのお菓子は好きだもの! |
| アブラカタブラ | ああもう、これと、これと……それからそれも!店主!それもあれも全部ちょうだい! |
| ルビーチョコ | まいどあり〜。 |
| グリーンティー | それでは、お先に失礼しますわ、魔法使いさん。 |
| モノローグ | グリーンティーは微笑みながら私にお辞儀すると、お店を出ていった。アブラカタブラは自棄を起こしたのか、お菓子を爆買いし始める。そしてぷりぷりと怒りながら、グリーンティーの後を追って店を出た。 |
| モノローグ | 彼女らが去った後、ブラックチョコは眉間にしわを寄せ首を傾げた。 |
| ブラックチョコ | わからない……あの緑のお嬢さんは、プレゼントをたくさんもらえると言っていたけど、それはなぜ? |
| ルビーチョコ | あぁ、ブラックチョコさんは知らないよね。あのグリーンティーさんは有名なモデルなんだ〜。とっても人気なんだよ。 |
| ルビーチョコ | こういう日にはね、みんなが愛を表現するプレゼントを、好きなアイドルや歌手に贈るんだよ〜。 |
| ブラックチョコ | えっ。そういうのも、「愛」なのか……? |
| ルビーチョコ | ん?なにかおかしい? |
| ブラックチョコ | いや、だって……「愛」をそんなに軽々しく、他者にあげてしまうなんて、そんなことをしていいのか? |
| ピンクローズ | まぁ、あなたは「愛」をちょっと重く見過ぎているかもしれないわね。 |
| ピンクローズ | 「愛」にはね、「こういうものだ」なんて、明確な基準があるわけじゃないのよ。 |
| ピンクローズ | 何をあげて、何をもらうかとか。そんなのも別に決まっていない。自分が誰かに深く惹かれていると感じたら、それはもう「愛」と呼べるものよ。 |
| ピンクローズ | 何かを愛しているからとか、愛されているからとかじゃない。彼女たちは愛する相手のためにというより、「愛」そのもののために努力をしているのね。 |
| ピンクローズ | 「愛」とはそういうもの。人や妖精を強くしてくれるものなのよ。 |
| ブラックチョコ | やはり……私には分からない……。 |
| ピンクローズ | 大丈夫。いつかあなたにもわかるようになるわ。 |
| モノローグ | その会話を聞いていた私は、カウンターの上に精巧で小さな箱があるのに気づいた。 |
| 魔法使い | これは……アブラカタブラがお会計する時に持っていたものだったはず。忘れ物だろうか? |
| 魔法使い | 大事なものだと思うし、早く渡しに行くべきだろう。 |
| モノローグ | そう思い、私は箱を手に取るとすぐさまお店を出た。 |
| モノローグ | お店のすぐ近くで、彼女たちの姿を見つける。 |
| 魔法使い | 見つけた!アブラカタブ―― |
| モノローグ | とっさに呼びかけようとしたものの、目の前の意外な光景に動きを止めてしまった。 |
| モノローグ | アブラカタブラがグリーンティーに丁寧に包まれた箱を渡している。グリーンティーは一瞬キョトンとしたが、それを受け取った。 |
| アブラカタブラ | ……。 |
| アブラカタブラ | あげるわ。 |
| グリーンティー | これは? |
| アブラカタブラ | いい?別にこれは、あなたのために買ったってわけじゃないから!本当に! |
| グリーンティー | ……ええ、知っていましたわ。やっぱりアブラカタブラは、私を愛していますのね。 |
| アブラカタブラ | だからそうじゃなくて!ただ、これは、なんだかレタスの葉っぱとお似合いな気がしただけで! |
| モノローグ | その状況に、声をかけていいのか迷っていると、アブラカタブラが私に気づいた。 |
| アブラカタブラ | 魔法使い?!えっと、これは、だからその―― |
| 魔法使い | あ、えっとね……これを、忘れていったのに気づいただけで……。 |
| モノローグ | 私が持っている箱を見て、彼女の顔がみるみる内に赤くなる。 |
| アブラカタブラ | あなた、バカなの?! |
| モノローグ | なぜかアブラカタブラは怒ってしまい、小走りで去って行ってしまった。私は、渡せなかった箱を手にしたまま茫然と立ち尽くす。追いかけるべきなんだろうか。 |
| グリーンティー | それは、魔法使いさんへのプレゼントですわ。 |
| 魔法使い | えっ?!私に? |
| グリーンティー | はぁ、アブラカタブラったら。もう少し、素直になったらいいと思うのですけど。 |
| モノローグ | 逃げるように去るアブラカタブラを見ていたグリーンティーは、私に微笑んでみせる。そして、彼女の背中を追いかけていった。 |