| モノローグ | 春がやって来た。目覚めたばかりの森には、普段とは違う生命力が溢れている。 |
| モノローグ | 森の奥に、ある妖精がいた。傍らに置かれた大きなバスケットには、綺麗な柄が刻まれた「卵」が入っている。 |
| モノローグ | 周囲をきょろきょろと見回す彼は、どこかそわそわしているように見えた。誰かを待っているのだろうか。 |
| モノローグ | 程なくして、別の妖精がそこに走ってきた。彼の前で一礼するその妖精は、メイド衣装に身を包み、一挙一動もかなり優雅である。 |
| ネザー | あなたさまが、この度わたくしを雇ってくださった方ですか? |
| イースターエッグ | ああ、僕がイースターエッグ。君がえっと―― |
| ネザー | はい!メイドのネザーでございます。なんなりとご用命をば! |
| イースターエッグ | うん、来てくれてありがとう。約束の報酬もちゃんと用意してあるから。 |
| イースターエッグ | 君に頼みたい仕事は、このイースターエッグを草むらに隠すことなんだ。 |
| ネザー | それだけですか? |
| ネザー | かしこまりました!お任せください! |
| ネザー | このネザー、必ず発見されぬよう、丁重にお隠しいたします! |
| イースターエッグ | いや、そこまでしなくてもいいんだけど……。 |
| ネザー | え?イースターエッグさまは、わたくしの能力に疑問をお持ちですか? |
| ネザー | メイドたるもの、ご主人さまの命令を完璧にこなすのは当たり前のことです。「イースターエッグを隠せ」というのがご主人さまの願いであれば……、 |
| ネザー | 自分でも探し出すことができなくなるほど、完璧に隠してお見せします! |
| イースターエッグ | あ、いや……つまり……そんなことはしなくていいって意味なんだけどね……。 |
| イースターエッグ | 君……蘇生祭のことは知らない? |
| ネザー | 蘇生祭? |
| ネザー | あらまぁ。わたくしはメイドとして、ご主人さまのことしか存じませんので。 |
| イースターエッグ | ……。 |
| ネザー | まさか、それがイースターエッグさまと関係あることだと? |
| ネザー | そういうことでしたら、すぐに情報を収集してまいります!このネザー、必ずや最速で蘇生祭のプロとなってみせましょう! |
| イースターエッグ | いや、それもいいから。とにかく―― |
| イースターエッグ | 蘇生祭っていうのは、ここの伝統的なイベントなんだ。春になると万物は目覚め、地脈に眠る魔力も活発になる。だから、春は新しい妖精が生まれやすい季節なんだ。 |
| イースターエッグ | 昔はよく、妖精たちが生まれてくる妖精を探し、魔力で繭を作ってあげて保護していた。 |
| イースターエッグ | 生まれてくる妖精が見つかることは、幸運の象徴だと考えられていたんだ。見つかれば見つかるほど、運もよくなるって。 |
| イースターエッグ | だけど……色々と事情があってね。今の妖精たちはプレゼントの入っている「イースターエッグ」を生まれてくる妖精の代わりにしているんだ……。 |
| イースターエッグ | イースターエッグの妖精たちは、「イースターエッグ」を草むらに隠すんだけど……手が足りなくてさ、それで君を雇うことにしたってわけ。 |
| ネザー | なるほどです!さすがはご主人さま!素晴らしい責任感です! |
| イースターエッグ | え?そ、そんなことないよ……。 |
| イースターエッグ | まあ、理解してくれたなら、そろそろ―― |
| ネザー | お任せください! |
| ネザー | 優秀なメイドとして、業務を遂行してまいります! |
| イースターエッグ | えぇ……いや、ふたりで一緒にやろうかなと思ってるんだけど……。 |
| ネザー | ああ!なんというお優しさ!ここまで優しくしてくださったのは、ご主人さまが初めてです! |
| イースターエッグ | ……。 |
| イースターエッグ | じゃあ、僕はあっちの方をやるね。そっちの方をお願いできるかな……? |
| ネザー | 承りました!ご安心を! |
| モノローグ | …… |
| イースターエッグ | はあ、やっと終わった。 |
| イースターエッグ | ネザーはうまくやっているかな……。 |
| イースターエッグ | 彼女は初心者だし、慣れてないところもあるかもしれない。手伝ったほうがいいかどうか、早めに見に行っておこう。 |
| モノローグ | 心配になってネザーのところに向かったイースターエッグは、想像もしていなかった場面を目の当たりにした。 |
| モノローグ | ネザーの隣には、2つ開封されたエッグがあった。そしてネザーは、エッグの中身を取り出し観察している。 |
| イースターエッグ | ……なんの真似? |
| ネザー | イースターエッグさま?まあ、あなた様のご指示に従い、みなさまにサプライズを用意しようとしているところです。 |
| イースターエッグ | え?だから隠してたんだけど、なんでエッグを開けるの? |
| ネザー | 優秀なメイドは、ご主人さまの仕事を期待以上にこなすべきなのです! |
| ネザー | イースターエッグさまは、隠すだけでいいとおっしゃいましたが……。 |
| ネザー | ですが、さらなるサプライズも用意してほしいと思われていることでしょう! |
| イースターエッグ | それは否定しないけど……でも……、 |
| イースターエッグ | それが、今やっていることと関係があるの? |
| ネザー | もちろんです! |
| ネザー | メイドとして、ご主人さまの願いを完璧に叶えた上で―― |
| ネザー | その先のこともこなさなければなりません! |
| ネザー | ご主人さまがベッドルームを掃除してほしいと仰せであれば、リビングルームまで綺麗にするのは当然のことでしょう! |
| ネザー | ご主人さまが洗濯をしてほしいと仰せであれば、お屋敷にある全ての服を洗濯するのも当然でございます! |
| ネザー | ご主人さまが朝食に目玉焼きを所望されたなら、昼食と夕食も一様に用意しなければならないのです! |
| ネザー | それこそが完璧な、プロのメイドがやるべきことなのです! |
| イースターエッグ | いや、だから、それと君がやっていることとなんの関係が!? |
| ネザー | もちろんあります! |
| ネザー | イースターエッグさまがみなさまにサプライズをもたらしたいというのであれば、メイドとして―― |
| ネザー | わたくしも勿論、今までにないサプライズをご用意いたしませんと! |
| ネザー | つまり、わたくしがそのエッグを少々調整させていただいたのも、そのためなのです! |
| イースターエッグ | そ、そうなの? |
| ネザー | ええ!ここまでの成果をお見せしましょう! |