| モノローグ | 時間はとても貴重なもの。長い寿命を持つ妖精でも、真理の探究のためには時間を大事に使わなければならない。これは、妖精の学者たち共通の認識である。 |
| モノローグ | だが、期待の新星・ラズベリーは今、見知らぬドアの前でうろつき、貴重な時間を無駄にしていた。 |
| ラズベリー | ……はぁ。 |
| ラズベリー | チームでの自由研究など……本当に存在価値があるのか……? |
| ラズベリー | ここに来たのは、チャリティーバザーとパーティーをやるためだったのか……? |
| ラズベリー | 霊禍の後、他の学校は全て閉まっていった。そうでもなければ、ここに来ることなど――チッ。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | ……。 |
| モノローグ | 目の前のドアを見て、ラズベリーはため息をまた一つ。 |
| ラズベリー | まさか今回、我がライバルと組まなければならなくなるとは……なんという屈辱……。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | ふむ、だが逆に考えれば、彼女も僕としか組めないという訳だ……。うん、それなら、まあ構わない。 |
| ラズベリー | リンゴ、いるかな?僕はラズベリーだ。今回の自由研究、よろしく頼むぞ。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | リンゴ、いるか? |
| ラズベリー | おかしいな、もしかしていないのか?すでに通達は行っているはずだが……。 |
| モノローグ | 彼が不思議に思っていると、ドアが唐突に開いた。 |
| リンゴ | ……。 |
| ラズベリー | ! |
| ラズベリー | い、いたのか! |
| リンゴ | 自由研究……うん、たしかにそんなことがあったね……今日……。 |
| リンゴ | 忘れるところだった……ふぁぁあ……うん?あなたが今回のパートナーさん?よろしくね。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | 君はもしかして……僕のことも覚えていないのかな? |
| リンゴ | ……。 |
| リンゴ | もちろん覚えているよ、あなたはその―― |
| リンゴ | クラスメイトじゃん。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | まあいい。もう時間だ……そろそろ手続きをしにいくぞ。 |
| リンゴ | ふあ―― |
| リンゴ | そだね、いこ。 |
| モノローグ | ……。 |
| ラズベリー | 手続きも済んだ。これで僕たちは正式にパートナーだな。 |
| ラズベリー | ライバルだった僕たちが、今回はパートナーとなった。いきなりで慣れないことも多いと思うが、今回は競い合いではなく、共に―― |
| リンゴ | うん?何か難しそうな作業でもある感じ? |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | 舐めないでいただきたい。この学院のレベルで、難しいことなんてそうないだろう。 |
| ラズベリー | もしかして君は怯んでいるのかな?それなら、研究の内容は君が選んでいいぞ。僕はなんでも構わない。 |
| ラズベリー | それでも選びにくいというなら、くじ引きでも――って、もう計画書を提出したのか!? |
| リンゴ | うん、ついでにね。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | よいことだ。やっと時間の重要性を理解しているパートナーができたなんて。 |
| ラズベリー | それでは、早速始めよう。 |
| ラズベリー | どんな内容にしたのかな?魔法薬の分類?それとも先生の植物の世話?あるいは、授業のTAかな? |
| リンゴ | ん、そうだね。社会調査をして、レポートを出すことだよ。 |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | 「社会調査」とは? |
| リンゴ | 要するに、妖精社会のある現象について、その特性を分析し―― |
| ラズベリー | いや、そういうことではない。 |
| ラズベリー | 僕たちがクラスメイトだということを覚えているのなら、同じ魔法薬の研究をしてきた者同士だということも分かっているよね? |
| ラズベリー | なぜ社会調査とやらにしたのだ? |
| リンゴ | ん?ああ、無駄になることが嫌いなんだ。 |
| リンゴ | 魔法薬に関するものは授業でやればいいんだし、せっかくの自由研究は、他の分野のこともやってみなきゃ。 |
| リンゴ | それと、あなたもなんでもいいって言ってくれたからね。だから、決めさせてもらっちゃった。 |
| リンゴ | そうだね……魔法薬に関することじゃなきゃ困るっていうなら……私の一存だったし、私が責任を持って完成させるよ―― |
| ラズベリー | この僕が困るはずないだろう。ただ、君の発想が少々不思議に感じられただけだ。 |
| ラズベリー | ただ、君の挑戦心には感心したよ。さすがは我がライバルだ。 |
| ラズベリー | よかろう。このような研究に触れたことはないが、僕の能力をもってすれば、社会調査などお安い御用だろう。 |
| ラズベリー | 研究内容はもう決まったのかな? |
| リンゴ | うん……「妖精の村における売店の経営形態および成因の分析」、というタイトルでやろうと思っているの。どう?すごそう? |
| ラズベリー | ……。 |
| ラズベリー | この研究内容にした理由を聞かせてほしい。 |
| リンゴ | え、前に似たような研究をしたことがあったりした? |
| ラズベリー | いや、まったく。 |
| リンゴ | うん、私もないよ。 |
| リンゴ | とにかく頑張ろうね。 |
| ラズベリー | ……。 |
| リンゴ | うん?パートナーさんは無理だと思ってるの?それなら、私が―― |
| ラズベリー | いや、心配ない。 |
| ラズベリー | 僕はただ、君の挑戦心と勇気に感心しているだけだ。 |
| ラズベリー | さすがは我がライバル、というべきなのだろうな。 |