第4話 ティアの旅のはじまり

(ヘルハウンド戦後)


 ヘルハウンドが力尽き、地面に倒れこむ。ティアと俺は(ボスの名前)に近づいて村人に証明する ための証拠を取ろうする。

(「黒妖犬の爪」を入手)

「さて、目的は果たしましたから帰りましょう」
「ちょっと待ってくれ」

 しゃがみこんでヘルハウンドの左腕に巻かれた包帯を見る。常に外にいたからかボロボロになっ てはいるがおそらくここ何年かに巻かれたものと思える。こんな魔物でも誰かに手当てされていた ということだ。そうなるとこいつは誰に怪我を治してもらったのか。オカミツハ(ティアの村)にこいつを庇う奴はいないはずだ。彼らはヘルハウンドに迷惑していたのだから。

「エイルさん?」

 ティアは俺がボーっとしていたのが気になり声をかけてきた。

「悪い。戻ろうか」

 たぶんあの包帯に特に深い意味はないだろう。

 俺たちはヘルハウンドの死骸をあとにしてオカミツハに帰ることにした。



 村に着くと初めてここに来たようにティアの両親が心配そうに待っていた。だが今回は二人の他 にも何人かの村人もそこにいた。両親は俺たちに気づくと安心したように笑った。

 ティアはそれを見て両親に駆け寄っていった。

「ただいま」
「おかえりなさい、ティア」

 母親はティアの頭を撫でる。くすぐったいよ、と娘が言っても彼女は止めない。父親も娘と妻を 抱きしめる。

 ある程度落ち着いたところでティアはヘルハウンドから取った「黒妖犬の爪」を村人たちに見せ る。

「これ」

 それを見るとみんな驚いた顔で口々に声を上げる。

「おお」「確かにあれは」「ティアがやったのか?」「横の少年も一緒だろ」「だとしてもこれで 薬草がもっと取れるぞ」「そうだそうだ」

 全員上げるのは喜びだ。そこには悲しみや怒りなんてものはなさそうだ。やはりこの中にヘルハ ウンドを治療していた者はいなさそうだ。

「みなさん!」

 ティアが村人に呼びかける。

「私は兄を、レピオスを探しに行きたいんです」

 ざわざわとみんな小さく騒ぎ始める。

「ティア。やっぱり…」
「なんと言われようと私は決めたんです。私はもう子どもじゃない。それを証明するためにヘルハ ウンドを倒したんです」
「でも一人だけというわけには」
「わかっています。だからエイルさんの旅についていきます。今回、あいつを倒せたのもエイルさ んがいたからですから、その恩返しも兼ねて私はエイルさんに協力しながら旅をするつもりです」

 ティアは親に打ち明けたように村人全員に言った。

 少女の言葉に誰もいうことは出来なかった。なぜなら彼女の目が真剣そのものだったからだ。
 最初に口を開いたのはティアの父親だった。

「わかった。その代わり、こいつを持っていけ」

 父親は一冊の本を取り出した。その本を俺に渡す。それは厚く重みがあった。
「なぜ俺に?」
「これはレピオスの持っていたモノだ。あいつに会ったら渡してくれ」

 なんで俺にかは答えてくれないんですか。

「わかりました」

 レピオスさんと会える見込みは今のところないが、異世界の情報を探すと同時にレピオスさんの ことも訊いてこう。俺は本を受け取る。

「それじゃあ、行ってきます」

 ティアがそういうとみんな、「レピオスをよろしくな」「ティアを頼んだぞ」「時々は手紙とか 送れよ」「元気でな」と俺たちを見送ってくれる。ティアの母親だけは少し泣いていたが、父親が 彼女を抱きしめていた。

 こうして俺たちの旅が始まった。

最終更新:2014年07月03日 02:15