第1話 小さな村(せかい)の賢者(バカモノ)
「ニギという村に賢者と言われる男がいるそうだ。彼なら異世界のことを知っているかもしれんな」
オカミツハを出発する前に俺たちはそんな話を村人から聞いていた。
「賢者か…。実際にそんな人いるのかな…」
「そんな消極的に考えたらダメですよ。可能性は捨て切れませんから」
そうだな、と返してニギに向かって足を進める。途中、魔物に遭遇しながらも倒し、逃げ、どうにかしてきた。
「それにしても多いですね、魔物」
「そうなのか?」
「はい。前はこんな確率で遭うことはなかったです」
「へぇ」
もしかしたら異世界と繋がりが生まれたせいでこの世界に影響が出ているのかもしれない。この先にいる「賢者」ならわかるのかもしれないな。
「早く行きましょう。日が暮れる前に」
「ああ」
ニギに向かって俺たちは急ぐことにした。賢者とはどんな奴なのだろうか。
「こんな所に賢者なんて大層な人物がいるのか?」
ニギに着くとついそんな言葉が漏れた。
村の至る所に田畑が在り、村人はそこで農作業をしていた。
とても、というか、滅茶苦茶に平和な村だ。
「聞いてはいましたがここまでのどかとは…」
ティアも同じことを考えているようだ。俺とティアはとりあえず今日の宿を探しに居住地区に向かう。この村は入って数百メートルの間は田畑が続いており、その先に村人の家や店があるようだ。途中、村人に話しかける。
「こんにちは」
「こんにちは。ん?あんたら、旅の者か?」
「ああ。訊きたいことがあるのだが、この村に賢者がいると聞いたのだが」
「賢者?」
じいさんはキョトンとして聞き返した。
「そう、賢者」
「知らないなぁ。この村にそんな奴いたかな」
首を捻ってわからないことをアピールする。
「いや…賢者といえば…あいつが…」
「どうした?」
「いや、何でもない」
そういうと何でもない顔をして作業に戻っていった。
その後、宿までに何人にも訊いて回ったが、みな曖昧なこたえを返すばかりだ。
「…諦めようかな」
つい、弱音を吐いてしまう。もう、探すのやめようかな。
「だ、大丈夫ですよ。どこかにいますよ。ほ、ほら、村長さんに訊いてみましょうよ」
「そうだな…」
村で一番大きな家に大体そこの長は住んでいる。ということで俺たちは村で他よりもいかにも土地を使ってそうな家に向かう。実際は家自体が大きいのではなくて、村の農作物を収めるための倉がその横にあるため土地を多く使っているのだ。
村長は家の前に居た。おそらく誰かから俺たちが村にやってきたことを聞いて待っていたのだろう。
「私はここの村長をやっている者だ。何か探しているようだね」
「ああ、この村に賢者がいると聞いて」
「賢者か…」
村長も同じように思い当たる節がなさそうだ。本格的に諦めようかな、と頭の中で考える。
「悪いな。うちの村にそんな奴はいな」
ドゴオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!
「いな」
「待て、今の音はなんだ!?」
村長のセリフの間に爆発音が聞こえた。同時に地面も揺れた。よく見れば背景の村長宅の先から煙が上がっている。
「気にするな。いつものことだ。…たくっ、あの馬鹿者が!」
笑ってはぐらかしたが、すぐに小声で悪態をついた。どうやらここには「賢者」はいないが「馬鹿」はいるそうだ。
「どうします、エイルさん?」
「ああ…」
こんな平和な村で爆発が起きるとは可笑しな話だ。しかもそれが「いつものこと」とはより可笑しな話だ。
「その馬鹿者とやらの所に行ってみようか」
「はい。私も気になりますし」
煙のある方に何があるだろうか。確かめに俺たちは向かった。
最終更新:2014年07月03日 17:01