第2話 ヘルメスの家へ
(村の外れにあるヘルメスの家に向かう)
ニギは農業の村。それゆえに土地が広大にある。その多くが畑や田の農耕地に使われている。
だが、今俺たちがいるここにそんな様子は見られない。
「ここはニギ…だよな?」
煙の上がっている方へ来てみれば、原因であろう天井に穴が開いている家がひとつあり、その周りには田畑はなく、荒野があるばかりだ。煙の家に近づいて壁を見てみると何やら数式や何かの設計図らしき絵が描かれている。
「なんでしょう、これ?」
ティアが壁近くに置いてある樽を見つけた。中を覗くと、砂や土、他にも鉄の塊といったどうみても農業とは関係なさそうなモノばかりだ。
ある程度周りを調べた後、家の扉の前までやってくる。瞬間、又爆発が起きた。さっきより小さな音だ。
二回目まで聞くと、もはや本当にこの村ではこれが日常茶飯事なのだろうと思えてきた。
ティアが心配をそのまま顔にでもしたかのような顔で扉と俺の方を見た。俺も不安な気持ちを抱えたままドアノブに手を掛けた。
(選択肢)
中に入りますか?
▶はい→(ストーリー進行)
▶いいえ→(何も起きない)
ドアを開けて中に入ってみると乱雑にモノが置かれた、汚らしい部屋が目に飛び込んできた。床にも机の上にも何があるのかわからないくらいだ。しかも何とも言えないにおいの煙が充満して空気が悪い。
「…ん、ああ。客か?」
煙の中から男が姿を現した。ロングコートを着ている。しかし煙でまだはっきりと顔が見えない。
「え、ええと…」
「ああ、これじゃ見えねぇな。ちょっと待ってろ」
そういうと男は何かを取り出して、その蓋を開けた(ように見える)。
「スプライト、掃え!」
その叫びと共に小さな光が霞む空気の中を漂った。
瞬間、部屋の空気が透き通るような感じがする。そして視界が晴れた。
「よし、これでいいな」
男性は何やら小さな人のような見たこともない生き物をフラスコの中にしまう。よく見ればこの男は、綺麗な顔つきをしている。今はちょっと煤がついているが。ティアも少し驚いた様子で男性を見ていた。
男の視線が俺たちを捉えると男はその眼を大きく開いた。
「お、お前ら、誰だ!?」
顔をこわばらせて、後ろにたじろぐ。
「俺たちはこの村にいるっていう賢者を…」
「ギャーーーーー!!」
今度は耳を塞いで、奇声を発する。
「と、とりあえず落ち着いて下さ…」
「あああああああああああ!!!!」
「人の話を…」
「いやああああああああああああああ!!!!!!!!」
「うるさいっ!!」
拳を男の腹部にめり込ませる。だってうざかったんだから、仕方ないよな?身長は同じ男の方が数センチ高いくらいで殴るのにちょうどいい。男は殴られた衝撃で腹を抱えて涙目で咳き込んだ。
「げほっ、げほっ…。もうなんなんだよお前ら…」
「俺たちこの村の賢者ってのを探している」
「へぇ」
リアクションは薄い。こいつも知らないのかな。
「それで誰かご存知ないですか?」
「そうだな~、その賢者を見つけたら何すんの?」
「訊きたいことがあるんです」
「なるほどね~。何を訊くの?」
「もういいだろ。知っているのか知らないのか?」
いい加減反応がうざく感じ始めたので口を出させてもらった。もちろん、拳を作ってだ。
「わ、わかったよ。賢者だろ?賢い者って奴だろ」
「そうだ。その賢者だ」
「ならそりゃ俺だ」
「え?」
今こいつ何て言った。賢者は誰だって?
「その賢者は俺のことだろ。そういえば、六年前くらいに来た男が俺の実験を見て賢者だとか天才だとか言ってたな。まあ実際にそうなんだが」
いやらしい笑みを浮かべて男は言った。俺もティアも呆然と男の顔を見つめる。男はそれを見て、さらにその笑いを深めた。
「じゃあ、あんたが…」
「『ニギの賢者、その名もヘルメス』ってな。ハッハッハ」
ティアは信じられないと手で口を覆い、俺は頭を抱える。
ヘルメスといったか。こんなのが賢者とは世も末か(俺の世界ではないが)。
「で、お前たち…名前なんだ?」
「エイルだ」
「テ、ティアです」
「エイルとティアちゃんは何を俺に訊きに来たのかな~?」
う、うざい。だが、訊かないという選択肢はない。仕方がない。
(選択肢)
▶レピオスのこと→1
▶さっきの生物のこと→2
▶異世界のこと→3
→1
「レピオスって人を知りませんか?」
「レピオス?ああ、あの男か」
「来たんですか?」
ティアが身を乗り出して訊いた
「三年前に来たな。すぐに出ていったけどな」
「どこに行ったかは覚えていますか?」
「さあな。俺が話したのは魔物の生態とかぐらいだったな」
嘘をついているような素振りはない。本当だろう。ティアはそれを聞くと、
「そうですか…」
やはり残念そうな顔をした。
→2
「さっきのアレはなんなんだ?」
「さっきのってこいつか?」
小人のような生物が入ったフラスコを持ち上げた。
「こいつはホムンクルスだ」
「ホムンクルス?」
「人造生物のことだ。元々はとある錬金術師が作ったのが始まりなんだ。ちなみに他にも種類はあるぞ。特に…」
「すまん、その話まだ続く?」
「まあ、詳しくはそこの本を読んでみろ」
そう言って散らかった机の上を指さした。
→3
「ヘルメスは別世界ってのを知っているか?」
「別世界って二次元とか四次元とかのことか?」
「いや、この世界でオミカ・アマラスが考えたとされる『見えない壁』で遮られているという、もうひとつの世界のことだ」
「ああ、そっちか。あれは面白い考えだよな」
「その別世界が存在するかどうか、お前はどう思う」
「ふむ…」
ヘルメスは本の積み上げられた所から一つのファイルを取り出した。
「『全ての世界は繋がっている』。この言葉の通り別世界は存在する」
「なんでそんなことがいえる?」
俺は顔をしかめてヘルメスの答えを待つ。ヘルメスはその若さに似合わずおっさんのように頭を掻く。
「世界が在ることに関して明確な証拠はないな。だが、ここじゃない何処かから来たという人物が居たことは事実だし、おそらく彼らが来たことが原因であろう現象も起きている」
「現象?ティアは知っているか?」
ティアは首を横に振った。
「いえ、知りません」
「そりゃそうだ。俺が調査した結果だからな。このファイルにまとめてある」
そういうと持っていたファイルを元の所に置いた。
「すきに見てろ」
全てを訊くとヘルメスは俺を見て言った。
「それにしても別世界のことを訊くとは珍しいな。お前たち、何を探しているんだ?」
細めたその眼が鈍く光る。さっきまでの雰囲気とは一瞬で変わったようだ。俺はヘルメスから少し身を引いた。言うしかないのか。
「俺は…」
言葉が詰まる。やはり、ためらいが頭の中を駆け巡る。俺は…。
「ま、いいや」
「え?」
ヘルメスは飽きたかのように話題を引いた。
「また今度にでも教えてくれ。それよりも質問料として俺の手伝いをしてくれ」
なるほどな。妙に簡単に質問に答えてくれるのかと思ったらそういうことか。
「何をすればいいんですか?」
「お、ティアちゃんはやる気かい?」
「質問した以上、仕方ありません。ある程度のお礼はしませんと」
ヘルメスはニヤッと笑った。
「ティアちゃんはいい娘だね~。エイルはどうするんだい?」
俺はため息をついて、首を振ってあきらめのポーズをとった。
「やるよ。拒否権なんてないんだろ」
「まあね」
そういって、服の中のガラスの容器をチラッと見せつけてきた。ホムンクルスには攻撃性の高いものもあるのだろう。
「内容は近くにある遺跡にいる奴を倒すのを手伝うという簡単なお仕事だ」
「なんなんだ、そいつは?村に迷惑でもかけているのか?」
一瞬ティアの方をみて、尋ねた。ティアもオカミツハと同じ問題を抱えているかもしれないということに不安の顔色を見せる。
「いや、特にそいつは何もしない。でもこれは村には必要なことなんだ」
ヘルメスは真剣な顔をして答えた。そして家の出入り口を開けてこちらを見た。
「さ、行くぞ」
仕方ないな。俺とティアは賢者の後に続いて家を出た。
最終更新:2014年07月03日 17:02