TRICK×LOGIC

【とりっく ろじっく】

ジャンル アドベンチャー(ヒラメキ発見ミステリ・ノベル)

対応機種 プレイステーション・ポータブル
発売元 ソニー・コンピュータエンタテインメント
開発元 チュンソフト
発売日 2010年7月22日
定価 UMD版(シーズン1,2):各2,980円
DL版シーズン1:2,380円/ファイルNo.6-10:各400円
判定 良作
チュンソフトサウンドノベル関連作品リンク


概要

  • 小説を読み、文章のキーワードから事件の犯人を推理する新感覚ADV。
  • シナリオは本業の推理小説作家である我孫子武丸、竹本健治、大山誠一郎、麻耶雄嵩、黒田研二、綾辻行人、有栖川有栖ら7人が担当している。
  • 前後編(シーズン1・2)に分けて販売された。総シナリオ数は10編(チュートリアルは除く)で、各シーズンに5話のエピソードが収録されている。
    • 販売形態はパッケージ版とDL版の2種類あるが、内容の違いはない。

ストーリー

何者かにビルから突き落とされて瀕死の重傷を負った主人公「芳川樹(よしかわいつき)」は、
何の因果か、意識だけが肉体を離れて冥界に落ちる。

冥界には、現世で未解決となっている事件の記録書である「アカシャ」があり、
それを管理・解読している閻魔大王の「ヤマ」がいた。
芳川は現世への復帰を条件に、ヤマに代わってアカシャを読み解く事となる。

システム

基本構成

  • 1本のシナリオは「推理編」と「解決編」の2編で構成される。個々のシナリオは独立していて、好きな順番でプレイ可能。
    • とはいえ、時系列的にはNo.順に進むし、推理難度も概ねNo.の大きいものほど上がる。「好きな作家の作品しかプレイしたくない!」と言うのでない限り、No.順に進めるべきだろう。
  • ゲームの流れ
    • ミステリーADVは数多く存在するが、本作のシステムは少し独特である。
      ここから先については、公式サイトを参照するのがより具体的だろう。それでも直感的には理解しにくいので、チュートリアルの「練習問題」(DL無料)のプレイを推奨する。
+ 推理編と解決編の内容

推理編

  • これがゲーム本編。事件の内容について記された本「アカシャ」はいわゆる推理小説のような体裁をしていて、選択肢などといったインタラクティブな要素の無い、素の「文章」である。これを読み解いて犯人とトリックを特定する事が主人公の目的。
  • ナゾとヒラメキ
    • 文章中の語句の一部は赤い太字で表示される。これが「キーワード」である。
    • プレイヤーにはキーワードを保管するスロットが5つ与えられている。ここにキーワードをストックして「推理実行」コマンドを選択すると、特定の組み合わせで2つのキーワードが含まれていた場合、その二点間に存在する疑問・矛盾の内容が「ナゾ」として生成される。
    • ナゾは、それを解決しうるキーワードと更に組み合わせる事で「ヒラメキ」となる。このヒラメキは、後述する「調書」を作成する際に必要。
+ キーワードからヒラメキに至るまでの一例

チュートリアルシナリオの事件から例を示す。

  • 事件現場の描写では、「被害者は何やら不自然な姿勢で死んでいたが、手掛かりになりそうな物は特に無かった」との状況が示される。
    そこで、文中から「何かを書き残そうとした」「右手人差し指がガラス面に…」というキーワードを引いてきて組み合わせると、「そこにはダイイングメッセージが書かれていたのかもしれない。何故今は何も無いのか?」といった内容のナゾが生まれる。
    • これだけでは、そこに指があったというだけの事実から曖昧な可能性を指摘するに留まり、それ以上の何物でもない。しかし、このナゾと「部屋の空調が壊れていた」という別の事実を示すキーワードを組み合わせると…
      何らかのメッセージが残っていない理由であり、事件発生直後と死体発見時ではガラス面の状態が変わっていた事の説明にもなる「ドアのガラスが曇っていた」というヒラメキが生まれる。
    • ガラスが曇っていたからどうだというのか? あるいは、全く別の事実を示すヒラメキを出せるならそちらの方が正解なのかも知れない。それはプレイヤーの推理展開次第である。調書を完成させるには、これ以外にも多くのヒラメキが必要となるだろう。
  • アカシャの記述には、一定のルールが存在する。以下は、新しいシナリオに挑戦する前に必ずヤマの口から説明される事柄であり、アカシャを読み解くための絶対的な前提条件となる。

    1 本に書かれていることはすべて真実
      ただし犯人は嘘をついている可能性がある

    2 動機の強い弱いは重要ではない

    3 トリックや犯人は、超能力や宇宙人など
      超常的な事象によるものではない。
      冥界の住人も現世の事件に一切関与していない

  • この他、シナリオのラストにはたいてい「それまでの記述を元にすれば犯人の特定は可能である」といった旨の文章がある。これについても、上記ルールの[1]条が該当すると考えられる。
  • 調書
    • 推理編の文章は最後まで行っても何度でも読み戻し・読み直しが可能。推理を完成させて犯人とトリックを特定する時は、コマンドメニューから調書を選択して解答欄を全て適切なヒラメキで埋め、解決編へ進まなければならない。
      • 調書の解答欄が足りなくなったり余ったりはしない。規定の枠に収まらなければ、それは推理が間違っている。
    • 調書画面は、推理編を一度読んでキーワードを拾えるようになった直後から参照できる。調書の設問から事件の要点を逆算する方向で推理するのもプレイヤーの自由である。

解決編

  • 推理編で作成した調書を元に、冥界の芳川が事件の全容を検証・解説するパート。推理編配信から少し時間をおいて配信される。
    • 解決編は自動で進む。推理の組み立てに必要な説明手順を1から踏まえ、要所で発生する疑問に対しては調書の内容から芳川が答えていく。脇役たちが細かいポイントにツッコミを入れてくるので、その時は選択肢で解答する。
    • 芳川は調書で示されたヒラメキのみを推理の根拠とする。調書が間違っていた場合はそこで頓挫してしまう。あらゆる角度からの検証に耐えすべての疑問を解明できれば事件は解決し、シナリオクリアとなる。
      • 推理に失敗した場合は、芳川による簡単な反省を参考に、再度推理編のやり直しとなる。
  • 数多く存在するヒラメキには当然ミスリードも含まれている。解答欄さえ埋まっていれば解決編を見る事はできるが、質疑応答のシミュレーションも含めて推理を完成させてからこのパートへ進むのが望ましい。
  • デザイン
    • 推理編は静止の背景画像+全面縦書きテキストのサウンドノベル形式。背景画像は淡い単色で描かれ、BGMも静かな雰囲気のクラシック曲で統一されている。それ以外の映像・音響演出は特に無し。非常にシンプルである。
    • 解決編や芳川に纏わるストーリー部分は、アニメ調の人物立ち絵または一枚絵+メッセージウィンドウというポピュラーな形式を採っている。
  • キャラクター
    • 10編のシナリオ全てで事件に巻き込まれ容疑者の一員となってしまう若くて元気な女性カメラマンの「天野(あまの)つかさ」、その各事件の全てに現場担当として居合わせる恰幅のいい刑事「丸ノ内慶次(まるのうちけいじ)」が主要キャラクター。
    • 冥界パートでは、芳川とヤマの他に、この2人を脇役として加えた4人がレギュラーメンバーとなる。なお、シーズン2の冥界パートでは、つかさに代わって私立探偵「九条薫(くじょうかおる)」が登場する。

その他の特徴

  • 救済措置
    • 難易度の高い本作ではあるが、「解決への糸口」としてヒント機能がついている。解決編の検証失敗を重ねるごとに追加する形で各話10個用意されていて、6項目以降はかなり核心に迫るポイントが提示される。
      • ヒントを閲覧すると、シナリオクリア時の推理ランクが下がる。最高ランクは、1つも見ずにクリアした場合の「S」。
      • 1つヒントを開くごとに1つ「黒のヒラメキ」が手に入る。どうしても推理が上手くいかない場合は、調書をすべてこれで埋めれば正しい道筋での解決編を見ることが出来る。ただし推理ランクはCで固定され、ちょっとしたペナルティもつく*1
    • 厳密な意味での救済措置とは異なるが、つかさ・丸ノ内・薫らがそれぞれ自分なりの推理を披露してくれるミニ討論パートがおまけ要素的についている。その推理内容は当然間違っているのだが、逆にミスリードのストッパーにもなる。
      • 選択肢を選ぶ事で彼らの立証に反論していく形式であり、これ自体をゲームの一部として楽しめる他、表情豊かなキャラクターたちの掛け合いも程よい息抜きになる。また、推理には柔軟な発想や様々な角度からの検証が必要である事を改めて気付かせてくれるだろう。
  • 黒田研二執筆の番外編シナリオ「暴走ジュリエット」がおまけとして収録されていて、事件ファイルをクリアするごとに1章ずつ追加されていく。このシナリオはゲームではなく、純粋に読み物である。
  • 事件ファイルNo.05~No.10のシナリオは、解決編配信前の一定期間内に作成しプレイステーション・ネットワーク経由で応募した調書データでSランクを獲得すると、抽選でプレゼントが当たるというキャンペーンが実施されていた。

評価点

  • 最終ページを見ても犯人やトリックを直接示す記述の無いミステリ小説を読み、そしてプレイヤー自身で推理を組み立てて解決編へ挑む。この斬新なアイデアと独特の娯楽性は評判が良い。
    • 難易度はそこそこ高く、それだけに、調書がきれいにはまった時や検証パートでの反証に耐え切った時の悦びも大きい。
    • また、様々な段階ごとの救済措置が用意されていて、推理の苦手な人でも本作の本質的な面白さに触れる事ができる。
    • 推理編と解決編の配信に時間差が設けられていた事で、リアルタイムでプレイしていたユーザーにとっては、解答待ち中にネットで意見交換などのできる難関推理クイズとして楽しむ事もできた。
  • 担当作家の数が多く、シナリオのバリエーションが豊富。
    • 個別に配信される独立したシナリオから好きなものを選べる形式に魅力を感じ、次の企画に期待を寄せるユーザーも多い。
  • ゲーム画面やBGMなどのプレイ環境はシンプルに構築されているが、雰囲気にはぴったり合っている。背景画像の描き込みも丁寧である。

賛否両論点

  • 「動機の大小を問わない」という前提が確かにあるものの、仔細な後日談はつかず犯人の動機に踏み込む事を本当に殆どやらないので、物語としては消化不良感がある。
    • このドライな姿勢については賛否両論といったところ。

問題点

  • ゲームの要となる「ヒラメキ」のシステムは極めて不評。本作の不評の多くはここに集中している。
    • キーワード→ナゾ→ヒラメキの流れがかなり作業的で、ナゾを見つけるために総当たり的な作業を強いられる事になる。謎解きに詰まった場合の打開が難しいのはもちろんとして、 謎が解けていてもナゾが見つからない と言う事態が頻発する。
    • 特に後半のエピソードでは、「ナゾやヒラメキを見つけにくい」と言う形で難易度を上げているため、こうした事態が起こりやすく、非常にストレスが貯まる。
    • ランクが下がるが「解決への糸口」を見れば、一応多少のヒントは書いてある。だが、全ての解法が書いてある訳ではないので、場合によっては「事件の全貌は完全に把握している上に全てのヒントを見ているのに、ギブアップせざるを得ない」と言う状況に陥る。
  • 主人公である芳川自身の物語があまり深くは掘り下げられない。こちらについては、不満の声がやや大きい。
  • リスキーであったり偶然性が強かったりするトリックが使われる事や、芳川の解読時点では未解決でもいずれ警察の捜査で解決しそうに思える話がある事は、納得しがたい部分があっても本作のルールと割り切る必要がある。
  • オートセーブ機能をつけられない関係で、ヒントを開いた後リセットすればタダ見ができてしまう。
    • クリアランク表示を詐称できるという意味の難点であり、あとはプレイヤー自身のプライドの問題である。
    • ただし、現在は関係ないが、発売当時行われた「ランクSクリアでキャンペーンに応募できる」と言う企画については不正が簡単にできていた。
  • キャラボイスに俳優を使っているため、棒読みで気が抜ける。
    • 特に、主人公である芳川を担当する平岡祐太が一番酷い上に、セリフ量が多いので目立つ。ヤマ役・デーモン小暮閣下などは、評判も悪くないのだが。
  • シーズン1のボリュームが薄い。
    • 全10話中「第5話の問題編」までしか収録されていない(解決編はシーズン2)ので、プレイ出来るのは実質4話まで。しかもシーズン2に収められている後半の話よりも難易度が低い=早目に解ける。よって、プレイ時間はシーズン2に比べて非常に短い。
    • しかも、第5話が問題編しか収録していない事についてはパッケージに記載されていない。「第5話をプレイして、いざ解決編を見ようと思ったら、そこで初めて解決編が収録されていない事に気づいた」と言うプレイヤーも少なからずいる。

総評

本作は、読み手自身で論理を組み立てて犯人を当てるオムニバス推理小説ゲームである。とにかくロジックを重視した新感覚謎解きADVが見事に形になっている事、複数の有名ライターによる事件シナリオを個別配信してクイズキャンペーンを行った事など、新しい試みの数々が評価された。
ただし、小説本来の姿を尊重した地味めな演出やキーワードシステムのとっつきにくさなど、幅広い層へアピールした親切設計とは言えない部分が多い。どちらかというと、推理小説や謎解きADVを元々好きな人がハマるタイプのゲームデザインである。また、一応ノベルゲームに分類される本作だが、(タイトルに暗示されているとはいえ)意外にも「物語を楽しむ作品」ではない。
等々含めて好みには大きく個人差が出るものの、この奥ゆかしくも先駆的な娯楽作品に、とりあえず無料チュートリアルだけでも触れてみて損は無いだろう。


余談

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最終更新:2023年05月14日 11:37

*1 普段は自信に満ち満ちた口調・態度の芳川が、黒のヒラメキ使用時はヨレヨレの風貌で解説する、というもの。