音楽ツクール かなでーる2
【おんがくつくーる かなでーるつー】
ジャンル
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音楽製作ソフト
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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アスキー
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開発元
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サクセス
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発売日
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1998年3月12日
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定価
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5,800円
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プレイ人数
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1人
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廉価版
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廉価版:2000年5月2日/2,800円
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判定
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なし
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ポイント
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前作の問題点を概ね解消し正当進化 音楽データはRPGツクール3で使用可能
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ツクールシリーズリンク
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概要
前作『音楽ツクール かなでーる』の発売から2年経たないうちに発売された、PS用音楽製作専用ソフトである。
なお次作『音楽ツクール3』では「かなでーる」という固有名がなくなっており、「かなでーる」としては最後の作品である。
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前作同様、純粋に音楽の「打ち込み」を行うゲームソフトである。音楽の教則の要素はなく、楽譜や音楽理論の理解は前提である。
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本作の音楽は『RPGツクール3』『サウンドノベルツクール2』で使用可能。
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別売のメモリーパックを必要としたSFCの前作に対し、本作はPSであり一般的なメモリーカードのみで流用ができるため、素材として使用するハードルが大きく下がった。
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廉価版は基本的に初期版と同内容だが、今作の公式コンテスト入賞作が追加サンプルデータとして収録されているほか、一部のバグが修正されている模様。
特徴
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全16パート構成、最大同時発音数24音
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各パート内で最大6和音まで使用可能
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分解能32分音符まで
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105音色搭載
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打ち込みは前作同様スコアエディタ(譜面入力)のみ。ピアノロール画面はない。
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全体エフェクトを複数のリバーブ・コーラスの中から選択可能になった。パートごとの強度設定も可能。
評価点
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前作で指摘された問題点の多くを解消している。
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音色バリエーションの大幅な拡充
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GM規格で標準とされた128音色にまでは到達できなかったが、一般的なDTM用途で求められる音色はたいてい揃っている。
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メモリーカード採用による、保存曲数制限の撤廃。
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曲中の転調が可能に。
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ヘ音記号が選択可能となり、低音パートの譜面が見やすくなった。
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楽曲途中からのプレビュー再生が可能に。
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操作性の改善。
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画面下のツールボックスと楽譜画面を容易に行き来できる、音符種別をボタンでトグルできたりなど。
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ジュークボックスにおける歌詞表示の改善。
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前作の「音符と同時に1文字ずつ表示される」ではなく、「まとまって表示された文字が、音符と同じタイミングで色づいていく」という、一般的なカラオケに近い表示法となった。
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自動演奏機能が選択可能になった。
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楽曲ファイル作成時に「16パート全て打ち込みパートにする」モードか、「8パートだけ打ち込みにし、残り8パート分を自動演奏パートに割り当てる」モードかを選択可能。
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自動演奏モードは、コードとリズムを指定するだけで伴奏を自動的に生成してくれる簡易シーケンサーモードである。ゼロからの打ち込みを負担に感じる人でも、主旋律とコードさえなんとか入力できれば楽曲を成立させることが可能であり、1曲完成のハードルが大きく下がった。
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2パート同時表示が可能に。パート間の関係性を把握しやすくなった。
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前作同様、収録サンプル曲が高品質である(一部除く。後述)。
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前作で好評だった「20世紀最後のダイアモンド」(ファイル名「ダイヤモンド」)、「Day Dream」(ファイル名「デイドリーム」)」の2曲はそのままの譜面で収録されている(ただし後述の通り今作の仕様とバグにより、前作と表現が異なる箇所がある)。
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今作で新たに収録された「Exciting!!」(ファイル名「エキサイティング」)、「水色の人」(ファイル名「みずいろのひと」)、「ワルツ1996」の3曲はいずれも前作『かなでーる』の公式コンテストの入賞作。
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これらの質は非常に高く、「制約の大きいSFC版『かなでーる』ですらここまでできたのか」と多くのプレイヤーを驚愕させた。
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当然これらの曲は前作ソフトで再現入力が可能である。今作収録のものも良曲だが当然前作とは音色が異なる。前作のプラットフォームで再現してみることで作者が表現したかった通りの音色を聴くことができ、かつ制約がより大きかった前作での打ち込みの苦労を追体験でき、そこで初めて真の凄さを理解できるという意見もある。
賛否両論点
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音符と休符の並び方の仕様変更。
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前作が小節の頭を基準に音符と休符の並び順により1小節を構成していたのに対し、今作は指定した位置に音符を配置し、空白は強制的に休符扱いになるという仕様となっており、入力感覚は大きく異なる。
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小節の中で休符が必要な箇所には入力しなければならなかった前作と異なり、意図した箇所に適切な音符を入力すれば休符の入力を省略できるため、負担の軽減に繋がる。
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一方、同じ長さの音符が連続するような単純なパートの入力では、前作の方がカーソルの水平移動を省略しやすく楽だったなど、良し悪しである。
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楽器名が英語表記になった。慣れるまで何の楽器か理解しづらい。
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一方、本格的なDTMでは当然すべて英語であり、DTM入門用ソフトとしてむしろ学習の機会とはなる。
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各音色は非常にシンプルなものが多く、鳴らすだけで様になるような「豪華な音」はない。音色自体の質だけならSFCレベル。
問題点
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打ち込み方法がスコア入力のみ。
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ピアノロールは本作にはない。当時の大半のDTMソフトに標準搭載であり、そろそろ搭載してほしかった。
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曲中の変拍子は依然不可能。
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前作同様あくまで表示上の話で、自分で音符の位置を微調整すればサウンド自体は表現可能。ただし先述の通り前作と異なり「余白に強制的に休符が配置される」仕様のため、音符の位置を相対的に変える操作(小節内の全ての音符を8分音符1つ分だけ繰り上げる、など)は前作以上に困難である。
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ピッチベンド(鳴っている最中の音の高さをなめらかに変えるパラメータ)に非対応。
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ギターやベースの「チョーキング」、ブラス演奏、弦楽器などの豊かな打ち込みには必須のパラメータである。
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SFCの音楽でも採用しているソフトは普通にあった。PSの今作で採用されなかったのは残念。
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そのため「スラー」は演奏機能としては未実装だが、入力はできてしまう。
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記号自体は「タイ」として必要なものである。説明書にスラーとしては機能しない旨の記載がある分、親切ではある。
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前作でできた楽曲中でのテンポチェンジが、今作ではなぜかできなくなってしまった。
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ベースの音色が、本来鳴るべき音より1オクターブ高くなっておりわかりづらい。
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ドラムキットに関する複数のバグ。
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ドラムキットの中に、存在するはずの音色が一部収録されていない。
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『RPGツクール3』用のデータコンバート時、ドラムパートの音のマップが1オクターブずれて保存される。
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楽曲完成後、コンバート前に予めドラムパートだけ1オクターブ逆にずらしておくことで対応は可能。しかし煩雑なうえ、規則性に気づかず単に「ドラムの音が滅茶苦茶になった」としか理解できなかった人はコンバート自体を諦めたことだろう。
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前作から同じ譜面で続投された人気サンプル曲「20世紀最後のダイアモンド」が、これまでに記載した様々な仕様とバグによって表現が前作より大幅に劣化してしまっている。
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ベースの音が1オクターブ高い。しかも音色は前作のロックベースと大きく異なるフレットレスベース。音程、音質、サステインの長さ、どれをとっても楽曲に全く合っていない。
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ドラムパートの音色欠落により一部のパーカッションの音符データが存在するのに鳴らない状態となっている。中でも非常に重要なアクセントになっていたトライアングルやクラッシュシンバルの欠落はリズム感を乱しており、原曲を知らない人にも大きな違和感を与えるレベル。
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テンポチェンジ不可となったことでエンディングのリタルダンドが表現できなくなっている。明らかにリタルダンド前提の譜面であり、本作では曲のラストが異様なスピードで演奏されるきわめて不自然なものとなってしまっている。
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プレイヤー自身である程度調整することで前作と全く同じとはいえないまでも近い雰囲気にすることはできる。
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前作にあった繰り返し記号(「・/・」等。直前の特定の小節を繰り返し演奏する意味)の削除。
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リズムパートなどの繰り返し入力時、1小節だけ打ち込んであとはこの記号にしておけば入力も楽なうえ、その後の修正も初めの1小節だけ直せばよく大変便利であった。
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今作では繰り返し入力時に手動でのコピー&ペーストが必須であり、手間がかかるうえ、修正時に全箇所の再修正または再コピペが必要となり負担が大きい。
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(通常版のみ)サンプル曲に「ちょうちょ」がやたら多い。
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前作にもシンプルな童謡バージョンが1つ収録されていたが、今作には自動伴奏機能を使った「ちょうちょ」がなぜか4バージョンも収録されている。当然のように需要はなく、個々のアレンジも取り立てて質が高くなく、不評であった。
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自動伴奏の豊富なバリエーションを示したかった意図を汲めなくはないが、正直どれを聞いても「ちょうちょ」でしかなく、「アレンジ次第で化ける」ような他曲を選んだ方が効果的だっただろう。
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廉価版では、今作の公式コンテストの入賞作へと置き換わっている。
総評
本作が発売された1998年は、DTMが前作の頃に比べてより普及しつつあった時代ではあった。
しかし当時のDTMはまだ入門するだけでも非常に高額な機材を必要とするニッチな趣味であり、初心者へのハードルは依然として高かった。
そんな中、操作性や表現の幅などDTMソフトに比べれば荒削りな部分も残る本作ではあるが、
細かいことを問わなければPSソフト1本で打ち込みが楽しめる、コストパフォーマンスに優れるDTM入門ツールとして十分な存在感を示した一作と言えるだろう。
中でも「ハードルの低さ」という一点に限ればPC・コンシューマー機含む他の同類ソフトにない独自性があり、後に発売される次作をも上回っていると言える。
メモリーカードが一般化した環境であったことも手伝い、『RPGツクール3』用の音楽製作ツールとして見ても概ね実用可能なものであった。
本作はコンシューマー向けDTMソフトのパイオニアシリーズとして、前作を正当に進化させあるべき方向性を決定づけた作品と言えるだろう。
最終更新:2020年11月24日 11:24