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ソッツィ・アーペィ - (2013/10/24 (木) 23:54:59) の1つ前との変更点
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白き廃塔 ソッツィ・アーペィ/The White Ruin:Sotsi➗Ahpeh
[[ユナート]]へと移る前に、ある[[ドワーフ]]の集団が建築し住んでいたという寂れた塔。
塔の内部は荒廃しきっており、僅かにドワーフ達が使っていた鍛治場などの残骸が残っているばかり。
人が足を踏み入れない、踏み入れられない下層へ下がる程に、
飢えた凶暴な獣が跋扈する迷宮でもあり、最下層には[[魔物]]も巣食っている。
上層へと上がってくることは塔の構造上物理的に不可能なので襲われる心配はないが、
万一中央を貫く大穴に落ちてしまえば、生きては帰れないだろう。
「『ほう。中々深いな』
名も知らぬ道連れが、深淵を覗き込む。
巫山戯ているのだろうか、呑気にそこへ声を張って、暫くしてから反響してくるのを楽しそうに聞いている。
しかし、私が見ているのに気付くと慌てて取り繕った。
後から恥ずかしがるならやらねば良いのに……やはりまだまだ子供らしい部分が残っているな。
こうして彼女と会うのも何度目か。始めて会ったのは、確かあの[[大聖堂>ニル]]だった筈だ。
兎に角彼女とは行く先々で会うのだ。
それも、私がまさか先客はいないだろうと思ったところに限ってだ。
先だって、[[久平]]の小群島を巡っている時に、
ある無人島へ渡る為の地元の船の上で出会った時には肝を冷やした。
別段一神教の信者という訳でもないが、神の思し召しとかいう類のものはこういうものなのかとも思った。
考えながらも、不注意に穴を覗き込んだことに対して、先達として彼女に忠告をした。
『気を付けたまえ。そこは比喩ではなく、本当に地獄への入り口だぞ』
『言われなくても百も承知だ』
些か赤らんだ顔を背け、そんな風に彼女は言う。
しかし、どうも心配だ。
出自を少し聞いたので、冒険に心焦がれる気持ちは分からないでもないが、
それが逸っていつか大きな失敗をしそうな気がしてならない。
それに、彼女もうら若い乙女。
語り口や知識、そして行動力という点では大の大人も顔負けだが、
根本的には年相応の――二十歳にも満たぬ子供だ。
今でこそこんなことをしているが、何れは落ち着いてくれればよいのだが。
そこまで考えて、自分の思考がまるで我が子を思う親の様なものである様に感じられて、苦笑した。
妻帯する前に子を持つとは、何とも可笑しな感覚だな。
『……っあぁっ』
ふと聞こえた声の方向を見ると、彼女が尻餅をついて倒れていた。
大方、周りを見るのに夢中で転けたのだろう。
再び浮かんだ苦笑を噛み殺しながら、彼女の元へ歩み寄る。
『どれ。気をつけたまえと言った筈だかね』
『……済まないね』
差し出した手を彼女が捕まえたのを見てから、引っ張りあげる。
バツの悪そうな顔で、またそっぽを向いた。
こうしてみると、中々いじらしいところもあるではないか。
そうして、暫く微笑みながらじっと見つめていると、羞恥に耐えきれなくなったか、
彼女は視線を外してスタスタと歩き始めてしまった。
『早く行こう。何処か適当な場所を見つけて野営地を作らないと』
『まぁ待て。そんなに急ぐと――』
転けるぞ、と言い切るまでもなく、彼女はまた転けた。
全く、予想を裏切らない子だ。
薄々分かってはいたが、これでは彼女と一緒にいるうちは目が離せないな。」
―――[[探検家ゴッヘルザッホ]]の手記 [[シュニッツラー]]への未送付文より
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白き廃塔 ソッツィ・アーペィ/The White Ruin:Sotsi・Ahpeh
[[ユナート]]へと移る前に、ある[[ドワーフ]]の集団が建築し住んでいたという寂れた塔。
塔の内部は荒廃しきっており、僅かにドワーフ達が使っていた鍛治場などの残骸が残っているばかり。
人が足を踏み入れない、踏み入れられない下層へ下がる程に、
飢えた凶暴な獣が跋扈する迷宮でもあり、最下層には[[魔物]]も巣食っている。
上層へと上がってくることは塔の構造上物理的に不可能なので襲われる心配はないが、
万一中央を貫く大穴に落ちてしまえば、生きては帰れないだろう。
「『ほう。中々深いな』
名も知らぬ道連れが、深淵を覗き込む。
巫山戯ているのだろうか、呑気にそこへ声を張って、暫くしてから反響してくるのを楽しそうに聞いている。
しかし、私が見ているのに気付くと慌てて取り繕った。
後から恥ずかしがるならやらねば良いのに……やはりまだまだ子供らしい部分が残っているな。
こうして彼女と会うのも何度目か。始めて会ったのは、確かあの[[大聖堂>ニル]]だった筈だ。
兎に角彼女とは行く先々で会うのだ。
それも、私がまさか先客はいないだろうと思ったところに限ってだ。
先だって、[[久平]]の小群島を巡っている時に、
ある無人島へ渡る為の地元の船の上で出会った時には肝を冷やした。
別段一神教の信者という訳でもないが、神の思し召しとかいう類のものはこういうものなのかとも思った。
考えながらも、不注意に穴を覗き込んだことに対して、先達として彼女に忠告をした。
『気を付けたまえ。そこは比喩ではなく、本当に地獄への入り口だぞ』
『言われなくても百も承知だ』
些か赤らんだ顔を背け、そんな風に彼女は言う。
しかし、どうも心配だ。
出自を少し聞いたので、冒険に心焦がれる気持ちは分からないでもないが、
それが逸っていつか大きな失敗をしそうな気がしてならない。
それに、彼女もうら若い乙女。
語り口や知識、そして行動力という点では大の大人も顔負けだが、
根本的には年相応の――二十歳にも満たぬ子供だ。
今でこそこんなことをしているが、何れは落ち着いてくれればよいのだが。
そこまで考えて、自分の思考がまるで我が子を思う親の様なものである様に感じられて、苦笑した。
妻帯する前に子を持つとは、何とも可笑しな感覚だな。
『……っあぁっ』
ふと聞こえた声の方向を見ると、彼女が尻餅をついて倒れていた。
大方、周りを見るのに夢中で転けたのだろう。
再び浮かんだ苦笑を噛み殺しながら、彼女の元へ歩み寄る。
『どれ。気をつけたまえと言った筈だかね』
『……済まないね』
差し出した手を彼女が捕まえたのを見てから、引っ張りあげる。
バツの悪そうな顔で、またそっぽを向いた。
こうしてみると、中々いじらしいところもあるではないか。
そうして、暫く微笑みながらじっと見つめていると、羞恥に耐えきれなくなったか、
彼女は視線を外してスタスタと歩き始めてしまった。
『早く行こう。何処か適当な場所を見つけて野営地を作らないと』
『まぁ待て。そんなに急ぐと――』
転けるぞ、と言い切るまでもなく、彼女はまた転けた。
全く、予想を裏切らない子だ。
薄々分かってはいたが、これでは彼女と一緒にいるうちは目が離せないな。」
―――[[探検家ゴッヘルザッホ]]の手記 [[シュニッツラー]]への未送付文より
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