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第十五話・贖罪 - (2006/05/24 (水) 02:04:08) の1つ前との変更点

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*第十四話・テンプルナイツ 【投稿日 2006/05/10】 **[[第801小隊シリーズ]] ゴウン・・・。ゴウン・・・。 宇宙ドッグ『ビッグサイト』の艦船港にて盛大な起動音が鳴り響く。 今まさに、一機の艦船が星の海への航海に乗り出そうとしていた。 「旧式とはいえ、こんなたいそうな代物よく使わせてもらえるよな。」 艦長席の前、言ってみれば副官席のような場所にマダラメは座っていた。 彼の呟きはもっともであった。 宇宙専用とはいえ、MSを6機まで収容可能という連盟でもかなり貴重な艦船だ。 通常、小隊に支給される艦船で3機なのだから、規模の違いを伺えるだろう。 「でもさー、それだけ期待が掛かってるって事じゃん?」 何も考えていないような声を出し、ケーコがそう返す。 彼女は通信席に座り、操作をおさらいしているようである。 「でもな、妹さんよ、我々の任務は上層部からは感知されていないも同然なんだぞ。」 「妹さんって・・・。まあいいけど。でも、私たちはこれに乗ってるじゃん。」 「・・・もっともだわ。あまり考えんようにしとくか。」 そういってふんぞり返るマダラメ。右手は、動く。宇宙について早一週間が経過していた。 その間、MSのテスト、新しいメンバーとのあわせなど、色々と忙しかった。 幻痛にも悩まされていたが、今ではずいぶんと収まった。 「・・・あのオーノさんの昔馴染み、いい腕してるわ・・・。」 テストで模擬戦を行った時に、その腕に感心させられた。 (特にあのアンジェラって方・・・。あの動き、かなりの死線を潜って来たに違いない。  スーって方は・・・。なんか不思議な動きしとったなあ・・・。あの武器、役に立つんかね?) しかしながら、強力な仲間を得たことに間違いはない。 連盟の主力部隊は行程の半分を終える頃だ。 途中何度かの小規模の戦闘があったようだが、そこはあの第100特別部隊がいるわけだ。 あっさりとはいかずとも、潜り抜けているようだ。 「・・・さーて、そろそろかね?」 「そろそろだね。」 「うわっ!」 気付くと後ろの艦長席に大隊長の姿があった。ケーコもそちらのほうを見ながら目を丸くして驚いていた。 「い、いつの間に・・・。」 「今だよ。・・・皆準備できたみたい。出港だね。」 「・・・分かりました。ふう、宇宙・・・か。」 宇宙の海は、何も見えず、何も感じさせない。 そこには、何の感情もなく・・・。善意も悪意さえも感じさせない「無常」が漂っている。 思えば人は、なぜ宇宙に飛び立とうとしたのだろうか。 巣から飛び立つ雛鳥のように・・・。いつかは飛び立たなければならない運命だったのだろうか。 しかし、その飛び立ちが宇宙に住む人々と、地球に住む人々に溝を作り・・・。 いや、人とは溝を作らなければ生きていけないのかもしれない。 実際問題、宇宙に飛び立つ前にも、地球上で戦争はいくらでもあった。 それが・・・。更なる大規模な溝になったに過ぎない。人は、歴史から何も学んでいない。 そんなことをぼんやり考えるにいたり、 宇宙に初めて出た頃のワクワク感はもはやないことをタナカは実感していた。 「・・・クガヤマ・・・。間に合わなかったか・・・。」 この一週間でシャトルの一機でも飛んでくるだろうと思っていたのだが、来なかった。 通信はスパイ傍受される可能性があるため、強力な電波で行うことが出来ない。 そのため、地上・宇宙間の連絡は手紙などに頼らざるを得ない。 「・・・大丈夫・・・だろ。」 心配していても仕方がない。しかし、長い付き合いの三人である。 マダラメも、心配しているんだろうな、と一人整備場で考えつつ。 「タナカさん、一休みされたらどうです?」 「オーノさん・・・。すまんね。」 気付くと隣に立っていたオーノが作業をしている田中に向かって、コーヒーを差し出す。 もちろん、働いている重力は大きくないため、カップではなくチューブである。 「最近、根詰めすぎじゃありませんか?」 「んー?そうでもないよ。いつものことだって。」 そういって受け取ったコーヒーをすすりながら、答えるタナカ。 オーノは、心配そうな表情をしながらその姿を見る。 「ただ、新型機が多くて、やらなければならないことも多くてね。」 「それならいいんですが・・・。」 そういって、タナカの横に座るオーノ。 「・・・なに、もうすぐ終わるさ。それまで、頑張ればいいんだから。」 「・・・そうですね。あともう少し・・・。ですね。」 「戦争ももうすぐ終わる。そうしたら・・・軍を辞めようかと思ってるんだよね。」 「えっ・・・!」 「まあ、ずいぶん前から考えてたことではあったんだけど・・・。  戦争が終われば、軍は縮小するだろう。そうなると、自分の好きな仕事が出来るとも限らないしね。」 そういって、タナカは少し寂しそうな顔をして宇宙を眺める。 「そうなんですか・・・。」 「・・・だからさ。一緒に来ない?」 「え・・・?」 驚きを隠せない顔をするオーノの方に顔を向けて、タナカは笑う。 「知り合いの工場が、もう使わなくなるらしくてね。そこで、整備工場でも開こうかなって・・・。」 「わ、私も行っていいんですか?」 「うん・・・。人手は多いほうがいいし・・・。その・・・。」 少し恥ずかしそうに顔を背け、少し黙る。 「・・・俺が来て欲しいってだけだから・・・。」 「タナカさん!」 そう声を上げると、オーノはタナカに抱きつく。 「絶対生きて帰りましょう!私たちだけじゃなく、皆!」 「う・・・、うん。」 オーノの大きな胸に顔をうずめながら、顔を赤らめるタナカ。 宇宙に戻ってきて良かったと思った。これで自分に決着がつけれそうだから。 「はーい、カナコ、ここー?」 そこにやってきたのはアンジェラだった。中の状況を見て、笑う。 「アラ・・・。ごめんなさいね。お楽しみ中だったかしら。」 「・・・いや、そうでもないよ、はは・・・。」 「もう、アンジェラ、何の用?」 手をタナカから離すと、アンジェラのほうに向き直る。 「ん、まあ、話し相手もいないからさ。」 「・・・ああ、そうか、まあそうだよな。」 そういって、椅子に座るよう合図を送るタナカ。 「どう?この小隊は?」 オーノの問いに、アンジェラは楽しそうに話し出した。 「いいね。特にあの隊長さん・・。いい動きしてるよ。」 アンジェラは心底楽しそうな笑顔を浮かべる。 「あの接近戦での腕前は並じゃないよ。  コーサカやササハラも悪くないけど、腕前じゃダントツだね。」 「そう?てっきりコーサカさんの方がいいんだと思ってた。」 「彼は・・・なんていうか遊びに走りがち。満点は出せるけど平均以下の時もある。  特に宇宙はトリッキーな動きが出来るから、色々試しちゃうんでしょうね。」 「まあ、それがコーサカの強みでもあるし、あのMSの特徴でもあるんだけどな。」 「サシ勝負なら一番強いのは隊長さんだね。うーん、しびれる~。」 そういいながら興奮した様子で体に腕を巻きつけて体を震わせる。 「ササハラさんはどう?」 「分かりやすいというか、教科書どおり。常にアベレージは出せるけど満点は出せない。  まあ、あのシステムっての?のせいで先読みされちゃうんだけど・・・。」 「それもまたササハラのいいところだ。あいつは自分をわきまえているからな。」 「そうね、だから、隊としてはすごく良いんじゃない?  今まで参加した事のある隊の中じゃ三本の指に入るわ。」 「アンも、スーも、溶け込めてる?」 「それは問題じゃないよ。私たちはあくまで傭兵。  あんたたちのうまいように使ってくれればいいのさ。捨て駒としてでもね。」 その捨て駒、という響きに、顔をしかめるオーノ。 「そんなことしないわよ!」 「でもね、はっきりいえば私たちは部外者だよ。一番切り易いのは私たちでしょ。」 その言葉にタナカは苦笑いする。 「んー・・・。まあ、普通の部隊ならそうだわな。」 「?ここはそうじゃないっていうの?」 アンジェラは不思議そうな顔をする。 「ま・・・実際出撃してみれば分かるさ。」 「ふー・・・ん。ま、別にされても恨みはしないけどね。」 「アン・・・。」 不満そうなオーノの顔を見て、アンジェラは少し笑って言う。 「カナコ、私たちにとってはそれが普通だってこと。  別にね、それでいいって訳じゃないけど、それが仕事なんだよ。」 ブーブーブーブー・・・・。 警報が鳴る。その音に、一斉に立ち上がる三人。 『敵の強襲だ。すぐにパイロットはMSへ。急げ!』 マダラメの声である。緊迫した空気が流れ出す。 「ラッキーだね。ここならすぐに乗り込める。」 「アン・・・。頑張って。誰も死んで欲しいなんて思ってないんだから。」 「カナコ・・・。OKOK。大丈夫だよ。」 そういって笑顔を作ると、すぐさま自分のMSへと向かう。 「・・・大丈夫さ。マダラメたちもいるんだ。」 「そうです・・・けど。少し、変わったかな・・。アン・・・。」 タナカとオーノはその後姿を見つめるしかなかった。 そこに、走ってきたコーサカと、ササハラ。 「タナカさん、問題ないっすよね!」 「行って来ます。」 口々にそういうと、二人ともそのまま止まらず自分の機体へ。 「おう!頑張れよ~!」 「・・・ふう、厄介なこった。おう、これから出る。」 現れたマダラメは、なにか不安そうな表情だ。 「・・・どうかしたのか?」 「ん、まあ、こんなところに現れる奴らなんてどんな奴らだよ、と思ってな。  普通、連盟の領地に堂々と侵入してこんだろ。」 「自信の表れってことか?」 「・・・一筋縄じゃいきそうにないのは確かだわな。ま、勘だが。」 そういうと、ゲルググへと向かうマダラメ。 「・・・頑張ってください!」 そのオーノの声に、背中を見せたまま手を上げて振るマダラメ。 「あいつ・・・。珍しく緊張してるな。宇宙・・・だからか。」 「・・・かもしれませんね・・・。ってスーは?」 緊急警報に気付いていないのかと思い、あたりを見渡す。 「・・・もう、座ってるよ。」 スーのMSの方を見やると、その姿はすでにあった。 「・・・いつの間に・・・。不思議な子だね、本当に。」 「・・・見られてるでありますな・・・。」 クチキは敵機の様子を大型ディスプレイで確認しながら舵を取っていた。 睨み合いが始まってすでに30分が経過しようとしていた。 「クチキくん、油断はしないでね。」 クチキに向かって、大隊長が言葉をかける。 「分かってるであります!」 油断するなんて考え付くはずもなかった。 実際、ここまでの行程、クチキはしっかりと舵を取ってきた。 「・・・あの艦船のフォルム・・・。どこかで見た気がしたんだけど・・・。」 ケーコが頭を抑えて、考え込む。 「本当、知ってるの?」 隣に座っていたサキが、ケーコに向かって聞く。ケーコは少し考えたあと手を叩く。 「・・・そうだ!え、でもちょっと待ってよ!そんなこと!」 「な、なんなのよ!」 「・・・あれ、第13独立部隊・・・。テンプルナイツだ・・・。」 その言葉に、びくっとするクチキ、そしてサキ。 「ま、まさか・・・。」 「嘘でありますよね・・・?」 「いや・・・。まえ、仕事で・・・。見たことがあるんだ。」 第13独立部隊、通称テンプルナイツ。連盟の優秀な部隊を数多く壊滅させた悪魔の部隊。 連盟の奇跡、第100特殊部隊と数多くの死闘を繰り広げたとして有名な部隊だ。 「見間違うはずもないよ。あの、蛇の尻尾を二本にしたような形、他にあるわけがない。」 確かにディスプレイには二尾の蛇、といってもいいフォルムをした艦船が映っていた。 「・・・当たりだよ。」 そう呟く大隊長に、皆の顔から血の気が引く。ブリッジに、重い空気が流れる。 「何でそんなやつらがこんなところにいるでありますか!」 「・・・大丈夫、彼らなら。きっと切り抜けてくれる。」 いつもの表情は崩さずに、大隊長は言葉を続ける。 「・・・ミノフスキー粒子散布。彼らの邪魔にならないよう、射程からは離れて。」 「「「了解!」」」 「よし、全員準備は良いか?」 『OKOK。頑張っていきましょ、隊長さん。』 マダラメの通信に答えて、アンジェラが一番に答える。 すでに全員がノーマルスーツを着込み、準備は万端だ。 『大丈夫です。』 『同じく、です。』 『・・・大丈夫・・・。』 その言葉が出揃ったところで、マダラメはいつもの掛け声を上げた。 「よし、第801小隊出撃するぞ!全員、生きて帰るぞ!」 『生きて・・・?』 その言葉に反応するアンジェラ。 『まあ、私たちの部隊の決まり文句なんですよ。』 「隊長命令だ。守ってもらうぞ、全員な。」 ニヤリとディスプレイに映るアンジェラとスーの方を見るマダラメ。 『・・・OK。』 『・・・了解・・・。』 そう呟くアンジェラ。そしてスー。 「よし、行くぞ!」 ゴウン・・・。ゴウン・・・。 タナカがMS格納庫の外から、MSの誘導を行う。 空気が、流れ出す。宇宙への道が開けた証拠だ。 「よし、マダラメ、ゲルググ、出る!」 バシューン!! 景気のいい音と共に発射台がMSを外に押し出す。 次々と出撃するMSたち。宇宙は、彼らを包み込む。 「・・・来るぞ。気をつけろ!すでに、向こうはMSを・・・。  いや、ありゃなんだ!!?」 マダラメが声を上げたのも仕方がない。 向こうに佇んでいたのは、まるで大きなカニの化け物・・・。 「MAってやつか!!厄介なこったぜ!」 それが二機。青いカラーと、赤いカラー。 そしてその真ん中には、騎士を思わせるフォルムをしたMS・・・ギャンがいた。 「ちぃ、ギャンかよ・・・しかも普通のとまた違うじゃねえか・・・。」 その三機が動く。早い。急速にこちら側に接近してくる。 「くそ!ギャンはコーサカ、任せた!アンジェラ、スー、俺と一緒に青いのをまずやるぞ!  ササハラ、こっちが済むまで、赤いの牽制しとけ!」 『『『『了解!!』』』』 五機のMSはみな、自分の役目のために移動していく。 まず、スーが牽制のためにバックパックから小さなボールを・・・それでも直径2Mはあるが・・・ 射出し、宇宙に浮かせる。それはまるで意思があるかのように敵に向かって突き進む。 十数個あるそのボールは、青いそのMAに向かい、ぶつかっていく。 スーの機体は、ジムをベースとしており、白を基調にピンクで彩られている。 また、体に似合わない大きなバックパックを背負っており、 そこに、多くのビットと呼ばれる小型サイコミュ(脳波制御)兵器が搭載されている。 これはNT専用試験機であり、ジャグラーと呼ばれた機体の発展機なのである。 しかし、そのビットは脳波制御システムを搭載するのが限界であった。 つまりは、ボールを投げつけてるだけのような兵器になってしまったのだ。 盛大にぶつかるボールに、少々戸惑ったのか、青いのの動きが滞る。 そこに、大きなビームが打ち込まれていく。 アンジェラだ。ある程度の距離から、ビームバズーカを撃ち込んでいる。 うまく避けた青いのだが、ボールの衝突がやはり足かせとなっているのか動けない。 アンジェラの機体は、青をベースに黄色のカラーリングをしたジム。 肩部に大きなバズーカ砲二門装備しているのが特徴で、 ジム・バズーカと呼んで過言ではなく、基本この兵装しかない。 なぜなら、ビームサーベル用であるバックパックのエネルギー射出部を、 バズーカ用に転用してしまっているからだ。接近戦では頭部バルカン以外に兵装はないのである。 「よし、いいぞ!」 そういいながら、マダラメはゲルググを駆り、青いMAへと向かう。 両手のビームナギナタを回転させ、接近する。しかし、大きなそのアームで弾かれる。 「うおっと!」 マダラメのゲルググもまた、極端な兵装をしていた。 両手のナギナタ以外に兵装がないのである。 遠距離をあまり良しとしないマダラメ用に、ライフル等の兵装はカットされていた。 その代わり、そのエネルギーをブースタ出力などに転用しているのだが。 一方、コーサカは、ギャンと五分五分の勝負をしていた。 「・・・中々やるな!」 そういいながら右手にしまっていた鎖を射出し、敵に向かって巻きつけるように動かす。 しかし、宇宙では上下の移動がたやすく、あっさり抜け出されてしまう。 「面白いな・・・。」 コーサカの駆るガンダムは、前大破されたガンダム・クラフトをベースに、 そのMk-2ともいえる機体である。宇宙用にチューンアップされている。 黒い機体のそこかしこにギミックが仕掛けられているのである。 ギャンが下方から接近してくる。ガンダムはそれに対し、右膝から白い目潰しを射出する。 ミノフスキー粒子の広がる宇宙空間では、視界が大きなファクターとなっている。 それを潰し、狙いを定め、ビームサーベルを振るうガンダムであったが、かわされてしまう。 かわしたギャンはそのまま突進し、ガンダムと切りを結ぶ。 ビームの弾けあう音が響いたように思える。実際は宇宙で音は伝わらないが。 そして、ばっとお互い距離を開ける。 「・・・中々・・・一筋縄じゃいきそうにない相手ですよ、隊長!」 そういって、高坂は少し笑みを浮かべた。 ササハラはひたすらに逃げるように動いていた。 彼のジム・コマンドは、平均的に能力が高い汎用機である。 この赤いMAを倒そうとするのならば、おそらく無理。 しかし、ただ引きつけておくだけ・・・。というのならば難しくはない。 「・・・相手が意外と単調で良かった・・・。」 相手のパイロットが直情的なのか、単調な攻撃が繰り返されている。 メガ粒子砲を放ったかと思うと、避けたところへアームで攻撃。 それをただひたすらに繰り返しているのであるが。 『・・・油断はしないほうが良いですよ?』 そういった会長の声に、少々気を引き締める。その矢先。 辺り一体を電磁波の渦が襲う。間一髪そこから逃れる。 やはり音は聞こえていないのだが、振動が伝わってくる。 「こいつは・・・。プラズマ!!なんていうもん隠してるんだよ・・。」 『やはり油断大敵でしたね・・・。』 その会長の言葉に苦笑いし、ササハラは再び牽制を開始した。 青いMAは、中々隙を見せてくれなかった。 遠距離からアンジェラとスーが牽制しながら動きを規制し、 そこにマダラメが攻撃を仕掛けるというパターンを徐々に読み始めていた。 実際、スーの攻撃は破壊力に乏しく、MAの装甲をへこますに留まっている。 また、アンジェラの攻撃も当たればダメージは免れないだろうが、そこはしっかり避けてくる。 なんとも冷静に判断を下しているのである。 「敵ながら・・・。感心するぜ・・・。」 仲間の援護も期待できず、囲まれた状況でありながらもしっかりとした判断が出来る。 戦いとは、腕や火力だけでなく、こういう精神が大きな要素なのである。 『・・・隊長さん、私が囮になるわ。うまく狙って。』 アンジェラがそう、マダラメに伝えてきた。 「ちょっとまて!そんなこと・・・!」 言うが早く、アンジェラは青いMAの接近する。 MAも、これが好機とみなしたのか、足並みが乱れた部隊へ攻撃を仕掛ける。 アンジェラのジムを、MAの両のアームが狙う。 それをかわし損ね、アンジェラは敵のアームの虜となる。 『くぅ!いまだよ、隊長さん!』 敵の接近武器はアームのみであり、ここで接近すればおそらく仕留められる。しかし。 「それではお前がやられるだろうが!」 例え、攻撃がうまくいってもMAが機能停止するよりも早くジムのコクピットは粉砕されるだろう。 『いいのさ。さっさとやっちゃってよ。』 「くっ!!」 接近するゲルググ。MAは、アームをはずすことが出来ず、そのまま動く。 しかし、二体分の重量を動かすにはパワーが足りず、接近を許す。 「うおりゃ!」 マダラメのナギナタは、アームを見事に切り落としていた。 そこに、MAがメガ粒子砲が放射しようとする。 『何を!!これじゃ共倒れだよ!』 アンジェラの悲鳴が響く。 しかし、放射される前に、MAの方向が変わる。あさっての方向へ放出されるメガ粒子砲。 スーのビットが、MAに衝撃を与え向きを変えたのだ。 「・・・生きて帰ってもらわにゃ、寝覚めが悪いからな。」 そこで、均衡していた戦いに終焉が来た。 相手の三機が急に戦闘宙域を離脱し、艦船へと帰っていく。 「何だ・・・?」 『さあ・・・。』 『・・・深追いは・・・やめときますか。』 「だな。艦船も去っていくようだし・・・。よし、帰還するぞ!」 ふぅ、と大きな溜息をついた隊長は、久々の宇宙戦が無事終わり、ほっとした。 「・・・なんであそこでMA本体を狙わなかったの?」 「だから何度も言ってるだろう。死んでもらっちゃ寝覚めが悪いってな。」 帰還したあとのMS格納庫のすぐ外、整備室にて、口論が起こっていた。 詰め寄るアンジェラに苦笑いを浮かべながらマダラメは何度も繰り返した言葉をまた述べる。 「あのままじゃ共倒れだったじゃない。」 「・・・それでも助けられそうな仲間をほっとくことは出来ねえよ。  生きていることが一番大事だ。・・・そうだろ?」 そういって、俯くとすぐに顔を上げ、廊下の方へと向かう。 「ちょっと手が痛んできた。カスカベさんに見てもらうわぁ。」 右手を回しながら、ゆっくりと歩いていく。その姿が消えた後。 「・・・変わってるだろ?あいつ。」 タナカが、アンジェラのほうを見ながら、苦笑いする。 「変わってるというか・・・。あんな人もいるんだね、連盟軍には。」 「まあ、色々あったんだよ。情けないとか言わないでやってくれ。」 遠い目をするタナカ。しかし、アンジェラは体を震わしながら。 「最高!あんな隊長今まで会った事ないわ!気に入ったわ!」 笑顔を振りまきながら、スキップをして廊下の方へと向かう。 「・・・なんなんですか、あの人。」 「・・・・・・でも、昔はああいう感じだったんですよ。色々、アンにもあったんだろうなあ・・・。」 ササハラの苦笑い交じりの言葉に、オーノも笑顔を見せる。 「・・・みんな、生きて帰れた。よかった。」 スーの言葉に、コーサカが笑う。 「そうだね。やっぱり、生きているのが一番いい。隊長の言うとおりだ。」 少しの間のあと、皆で声を出して笑った。 「あっはっはっは。やってくれるよあの部隊。久々に楽しめた。」 一方、テンプルナイツの艦船内では、少年のような男の笑い声が響く。 「・・・アレックス大佐、笑いすぎです。」 「まあ、そういうなよホシノ。俺は今機嫌がいいんだ。  ガンダムタイプにああいうのもいたとはね。非常に面白かった。」 そして再びクックックッと笑う。 「仲間を犠牲にしない戦い方は好感持てましたけどね。」 「おい、アーム直すの面倒じゃねえか、全く。」 「・・・すまん、ツカハラ。」 ホシノと呼ばれた青年は作業員風の眼鏡をかけた青年に声をかけた。 「でもさ、私もしかして遊ばれてた!?相手全く攻撃してこなかったんだけど!」 「・・・今気付いたのか?ネギシ。だから俺とホシノは安心して専念できたんだが。」 「ネギシさん、いくらなんでも気付くの遅すぎです。」 「・・・!!うるさい!」 バシィ!盛大なビンタがホシノを襲う。 「おいおい、ネギシ。」 「うー・・・。ならあいつ無視して二人の加勢すればよかった!」 「いや、そうしたら後ろからあのジムに狙われてましたよ。・・・気付かなくてよかったです。」 「・・・ま、本気で倒すつもりはなかったんでしょ、大佐~?」 そうネギシにいわれ、アレックスはニヤリと笑う。 「まあな。俺達はあくまでテンプルナイツ。軍の命令に従うのが目的じゃない。  あくまで、王家の護衛。まあ、今じゃその守るべき相手もいないわけだがな。  ちょっと恩を売るつもりで動いたが、思わぬ収穫だったよ。楽しめた。」 『大佐。『茸』、やっぱり『サン・シャ・イン』に向かってるらしいね。』 アレックスはそこに入ってきた連絡にニヤリと口の端を上げる。 「さっきの通信どおりか!ご苦労、メグロ。それが我らの最優先事項だからな。」 「ヨーコちゃーん、それじゃこのままそっちに向かうって事?」 『そうなるんじゃない?あ、それと『無敵の零式』さんが加勢にきてくれるって。』 「え、姉さんがですか!」 驚きの表情を浮かべるホシノに、アレックスの笑いは止まらない。 「よし、全速転回!最短距離を通って敵の真正面へと向かうぞ!  これで最後だ!あの白いのとケリをつけなきゃなあ!!」 「・・・そうですか・・・。わかりました。申し訳ありませんでしたな。  いや。ああ。頑張ってください。ああ・・・。」 通信が切れる。荒野の鬼の顔はさえない。 「まさか・・・。テンプルナイツですら退けるとは・・・。」 思ってもなかった事態。あともう一つ仕掛けているとはいえ・・・。 「どうした?じい、顔色がさえないぞ。」 横にはニヤリと口の端をゆがめたナカジマが立っていた。 「・・・なんでもありません。どうかなさいましたか?」 「フフフ・・・。心強いパートナーの誕生だ。」 ナカジマの見つめるほうに目を向けると。 そこには。 氷のように冷たい目をしたオギウエが立っていた。 次回予告 後の記録に記されない噂話がある。 地球圏において、皇国軍の一個大隊が、一日にして壊滅したというのである。 なぜそこに大隊があったのか、そして、誰が壊滅させたのか。 流れる噂、黒い悪魔の存在。 連盟がその脅威性を恐れ、隠した一つの戦いがあった。 次回、「贖罪」 お楽しみに。
*第十五話・贖罪 【投稿日 2006/05/24】 **[[第801小隊シリーズ]] その日、マコト=コーサカは、ふとした違和感に気付いた。 皆の輪から外れ、一人MS格納庫のササハラと話をしに行こうとしていた矢先である。 テンプルナイツとの小規模な激突から約3日が経っていた。 遡ること3日前、丁度その戦闘が終了した矢先、一つの連絡が入った。 それは、マダラメらの過去の戦友、ヤナギサワ大尉からもたらされたものであった。 それらしい基地が発見され、地球圏により近い破棄された人工衛星群に紛れるように存在し、 今まさに活動をしようと活発に物資が運び込まれているという。 そこに目的の兵器、そして目的の人物がいる可能性が100%とはいえないが、 それしか手がかりがない以上、彼らは進路をそこに進めるしかなかった。 その行程は順調であり、特に問題もなかった。 ササハラはよく一人で訓練(正確にはシミュレート)を行っていたが、 マダラメは副官席で眠るフリをしていたり、 スーは一人様々な場所に出没しては人を驚かせたり。 サキやオーノ、タナカ、アンジェラ、ケーコなどは、 緊張感を紛らわすかのようによく談笑をしていた。 コーサカも、その輪の中によくいた。 緊張感が取れないのは誰もが同じであった。 その解決法が、人によって違うだけで。 このまま進めばあと24時間以内にはそこに到着するだろう。 徐々に高まる緊張感と高揚感。 そのためだろうか。 いつもより勘の冴えていたコーサカは、それに気付いた。 変哲もない、移動用ベルトのある廊下。 そこに、扉が隠されていることに気付いたのである。 だが、それが何なのかまでは掴めなかった。 彼は持ち前の好奇心と物怖じしない性格から、その扉を開けた。 その先には、彼が思いもしない光景が広がっていた。 扉を開けるまでは、彼自身思っていなかっただろう。 ・・・・・・運命とは、ちょっとしたきっかけで変わるもの。 彼は、一つの決心をすることになるのである。 「・・・ここは?」 コーサカは始めて見る情報集積回路に驚いていた。 「ここまでのものがこの船に・・・?」 自分が働いていたあの最先端のドッグにも、ここまでのものはなかった。 一面見渡す限りの機械群。それが、暗がりの中不気味に光を放っていた。 「・・・何のために・・・。」 疑問は尽きない。とりあえず、奥へと進む。 そこで見たのは大きなディスプレイであった。 地球を中心に、周囲のコロニーの所在、それに加え・・・。 「連盟、皇国の軍隊配備が全て載っている!?」 ディスプレイの前のマウスを操作し、カーソルを合わせると、細かな情報も現れた。 自分らのいる辺りには、『the 801st platoon(第801小隊)』の文字が現れていた。 「・・・これか。大隊長の情報源は。」 おそらく、あの基地にも存在していたのだろう。 正確には、存在していたものを積んでいるのであろう。 どういうルートでかは分からないが、あらゆる情報を収集していたのだ。 大隊長が、なぜああも自由に行動できたのかを理解した。 そのまま、情報の探索に移る。 ヤナギサワ隊のいる位置、そして、その近くにある基地の規模。 さらに、そこにある兵力の大きさ。 「・・・これは・・・!」 顔をしかめるコーサカ。 「・・・これは廃棄されたはずだったのでは・・・。」 予想だにしていなかった情報を得たのか。その顔は冴えない。 「・・・!これは!」 またもコーサカ驚愕の表情を浮かべる。 「まさか、ここまでの兵力を向わせているなんて・・・。」 「そうだね。」 コーサカがその声に振り向くと、そこには大隊長が立っていた。 暗がりの中、いつもと変わらない表情を浮かべながら。 「大隊長・・・。この機械群は・・・。いや、今はそんなことどうでもいい。  この情報は確かなんですか!?」 いつもの笑顔はすでにない。コーサカは少し語気を荒げながら話す。 「・・・確かだ。紛れもない、ね。」 「・・・どうするつもりですか。」 視線を離さず、コーサカは少し興奮している様子だ。 「・・・正直、どうしようか迷っていた。」 「迷う?」 「方法はある。これを切り抜けるためのね。・・・だが、それは痛みを伴う。コーサカ君・・・。」 「・・・なるほど。」 1を聞いて10を理解した、と言う様子でコーサカは視線を落とす。 大隊長の調子は相変わらずだ。 「・・・君が決めるといい。この方法は、君の意思によるんだ。」 「・・・・・・はは。選択権はないじゃないですか。」 「そんなことはない。皆で戦えばそれでも道は開けるかもしれない。」 「・・・そうですが・・・。それでも、おそらくそれよりは、今考えてる方法のほうが・・・。」 「その通りだ。だから、君が決めていい。」 静寂が訪れる。少しの間。機械の音が静かに鳴り響く。 コーサカは決心したように視線を上げる。 「やります。」 「・・・本当にいいんだね?」 「ええ。僕には・・・。罪があります。皆さんを欺いた罪が。」 「・・・知っていたよ。」 「もちろん、大隊長さんは・・・。」 「僕だけじゃない。マダラメ君も、タナカ君も、クガヤマ君も。  ササハラ君や、ケーコ君ぐらいだろう、気付いていないのは。」 「!!そんな・・・。」 「・・・彼らはね、それでも、君を信用したんだ。」 「・・・それなら、尚更です。」 「そうか・・・。」 「では、行って参ります!」 そういいながらコーサカはいつもの笑顔を取り戻し、外へ駆けていく。 「・・・すまん。無事を祈る。」 大隊長は寂しそうな顔をして、その後姿に敬礼を送った。 廊下を急ぐコーサカ。 「・・・急がなくちゃ。確か・・・。」 ブツブツ呟きながら移動するコーサカの前に、マダラメとサキが現れる。 「おう、どうしたよ、コーサカ。」 「・・・ええ、ちょっと。二人は?」 「え?いつもの検診さ。それよりも・・・なに、隠し事?」 言葉の詰まるコーサカに、怪訝な表情を浮かべる二人。 いつもならさらっとかわしそうなコーサカが、少し動揺している。 「・・・なんだ。なんか重要なことじゃねえだろうなあ?」 「いえ、何でもありませんよ。ちょっとササハラ君に呼び出されまして。  MS格納庫のほうに。」 とっさについた嘘。しかしもっともらしい内容だ。 「ふー・・・ん。でも、おかしくねえか?」 「何がですか?」 相変わらず怪訝な表情のマダラメは言葉を続けた。 「ササハラ、俺の事呼んでんだよ。『二人でシミュレートしましょう』って。」 その言葉に表情を少し変えるコーサカ。 「おい、本当に何でもねえのか?はっきりしろ。」 「ははは、何でもありませんよ、本当に。」 どうしてか、マダラメは妙に引っ掛かりを感じていた。 いつもと違うコーサカの雰囲気に気付いたのだろうか。 サキも、その雰囲気に気付いている様子だ。 「・・・おい、話せねえのか。」 「・・・何でもありませんから。」 そういいながら、立ちふさがるマダラメの横に移動する。 「・・・おい!コっ・・・。」 ドンッ!コーサカがマダラメのボディに拳を入れる。 「・・・すいません。・・・サキちゃんをよろしくお願いします。」 「・・・っな・・・、おま・・・。」 その耳元にコーサカが呟いた。そのまま落ちるマダラメ。 無重力のため、マダラメの体が宙に浮く。 「!!なにを!!」 そのコーサカの行動にサキは驚き、詰め寄る。 「何してんのさ!!」 コーサカの胸倉を掴む。 「・・・ごめん。こうするしかなかった。  隊長、変なところで勘がいいからさ。」 「何を言って・・・。」 「・・・サキちゃん、僕らがここに来た理由、覚えてる?」 「・・・・・・何をいまさら・・・。」 その言葉に顔を曇らせるサキ。 「・・・やっぱりサキちゃんがいってたことは間違いじゃなかったよ。  人を実験に使うなんて、まともじゃない。」 「でも、それは!」 サキが何かをいおうとするのを手で制し、首を振るコーサカ。 「うん。結果は良かった。でも、僕には罪がある。」 「それは私だって一緒だ!」 叫ぶサキ。しかし、コーサカは優しく微笑んだままサキを抱きしめる。 「サキちゃん。君がいてくれてよかった。」 「・・・なに、お別れみたいなこと言ってんのさ・・・。」 「君と再会できて、あの事件があって、この隊に来れて・・・。  もちろん、この隊の皆にも感謝はしてる。  だけど・・・。僕を一番助けてくれたのはやっぱりサキちゃんだ。」 そして、肩を持ち距離を置くと、そのままキスをした。 顔を離すと、コーサカはまた言葉を続けた。 「・・・きっと戻ってこれるとは思う。けど・・・、もしも・・・。」 「もしもってなんだよ!いつも勝手に話を進めて!  小さい頃からいつもそうだ!勝手だよ、勝手だよあんた!」 気付けばサキは泣いていた。 「・・・ごめん。幸せになってね、サキちゃん。」 コーサカはそういうと、サキの首に手刀を入れ、気絶させる。 「・・・バ・・・カ・・・。」 サキはコーサカの思い、そしてこの先するであろう行動に気付いたのだろう。 「・・・本当に、ごめんね・・・。」 優しくサキを横にすると、コーサカは再びMS格納庫へと進む。 「・・・馬鹿・・・。」 寝言だろうか。サキの呟きが聞こえた。 「まだかな、隊長・・・。」 いつものように、MS格納庫横の整備室にてシミュレーターをいじくるササハラ。 「一人で続けるのも限界あるしなあ・・・。  これにどの程度効果があるかもわかんないけど・・・。」 そろそろ来るはずなのに、来ないマダラメに、怪訝な表情をする。 「どうかしたのかな・・・。」 もう一度呼びにいこうとササハラが立ち上がると、コーサカが入ってきた。 「?コーサカ君?どうかした?」 「・・・いやなんでもないよ。マダラメ隊長待ってるんでしょ?」 「・・・まあ、そうだけど・・・。来るまで、ちょっとやらない?」 そういってシミュレーターを指差すササハラ。 「・・・いや、僕はちょっとMSに用事があってね。」 「そうなんだ。もうちょっと待てば来るかな?」 「うん、来るよ。」 そういって、笑顔を向けたままMS格納庫へ入っていくコーサカ。 そこで、ササハラは違和感に気付く。 「・・・なんでノーマルスーツ着てるんだ?」 ばっ、と格納庫のほうを見ると、 コーサカがガンダムに乗り込み、兵装を確認している。 「・・・な、なにしてるんだ、コーサカ君。」 そして、ササハラは気付いた。 この艦に搭載されている最強の兵器であるメガランチャー二門を、 コーサカのガンダムが担いでいることに。 そして、手動で宇宙への扉を開けていることに。その行動の意味を。 「・・・まさか!」 コーサカの行動に、ササハラは、自分もノーマルスーツを着込むために部屋を出た。 ガンダムは宇宙へ降り立った。目標は、この艦を後ろから狙っている一個大隊。 「・・・どこまでやれるかな・・・。」 用意したのはメガランチャー二門と、エネルギータンク一個。 そこに、近づく一機のMS・・・。 「ササハラ君・・・。」 「何をしてるんだよ!勝手に出撃だなんて!」 通信を通して、お互いの顔を確認する二人。 「・・・これは僕の罪滅ぼしなんだよ。」 「・・・・・・何を言ってるのか分からないよ!」 叫ぶササハラ。 「君は、僕がなぜこの部隊に来ることになったのか・・・分かるかい?」 「・・・いや・・・。」 少し、コーサカは微笑むと、言葉を続けた。 「君と離れた後、僕もある部隊へと配属された。  そこでちょっと戦果を挙げすぎてね。NTじゃないか、と噂になった。  軍は、僕をあの研究所に送ったんだよ。サキちゃんと再会したのもそこだ。  NTの実験と称して様々なことをされた。」 遠い目をするコーサカ。 「サキちゃん、乱暴なように見えて面倒見いいから、よく助けてくれたよ。  彼女の実験も手伝ったりしたこともあったな・・・。それなりにうまくやっていたんだ。  だけど・・・。僕は根っから束縛が嫌いみたいで。そこから出たくて仕方がなかった。  そしてある日、事件が起こった。  NTを模したOSシステムの開発。その実験の最中、あるNTの少女が意識を失った。」 ササハラはその言葉にはっとする。 「まさか・・・。」 「そう、君の使っているそのシステム。それだよ。  その少女がその場に居合わせたのは全くの偶然だった。  しかも、その子は軍幹部の娘さんだった・・・。」 顔を伏せるコーサカに、ササハラは言葉が見つからない。 「その子の意識を戻す方法が見つかった。  それはシステムを限界まで使い、使用者と完全に同調させること。  しかし、それには研究室の実験では無理だった。」 そこまで聞いて、ササハラもようやく理解した。 「つまり・・・。実戦を用いた実験だったってこと?」 「そう・・・。不完全なシステムを、使ったね。  危険性も把握した上で、僕はこの機会を利用し、自由になることを考えた。  ・・・その部隊へ赴き、システムの運用を見守ること。  それが僕らの目的だったんだよ。」 「でも!」 ササハラは叫ぶ。コーサカがこの後言うであろう言葉を感じて。 「・・・そう、うまくいった。  よもや君がパイロットに選ばれてるとは思ってなかったけどね。驚いたよ。  NTでは反発が起こるだろうから、よほどそれらしくない人を選んだんだろうけど・・・。」 そういって、コーサカは少し笑う。 「ひどいなあ・・・。」 「ごめん。でも、NTなんていいことないよ。僕はそれを知った。  そのために他人を犠牲にしようと考えていたんだ・・・。  僕はその罪を償わなければならない。」 コーサカの顔が引き締まる。 「この隊にこれてよかった。戦争で戦う事や、自分がNTである意義・・・。  そういうものを、初めて肯定できた気がした。  だから・・・。君達には生き残って欲しいんだ。」 「まさか、コーサカ君!」 「僕らの艦を、後ろから一個大隊が狙っている。  それを・・・僕が抑えてくる。」 ササハラの顔が青ざめる。一個大隊といったら、艦船は5隻以上だ。 MSの数もゆうに20機は越えるだろう。 「無理だ!せめて、俺だけでも!」 「君にはやらなければならないことがあるでしょ?」 コーサカはにっこり笑う。 「でも!!」 「・・・早く戻るんだ。追いつけなくなるよ?」 「・・・力づくでも止める!!」 「・・・そういうと思ったよ。君は昔から変わらないね・・・。」 「コーサカ君もさ。覚えてる?学校の時の・・・。」 「覚えてるよ。先輩に仲間がいじめられた時に、一人僕は仕返しに行こうとした。」 「・・・それを僕は止めた。一人で行っても駄目だって・・・。」 二人は懐かしそうに遠くを見つめる。 「あの時は僕が勝ったんだよね。」 「・・・うん。それで先輩やっつけてたけどね・・・。」 「・・・あの時と、違うかな?」 「・・・・・・ああはうまくいかないよ!止めて見せる!」 ササハラのジムが動く。軌道をこまめにかえ、予測をさせないように。 「・・・うまいね!」 コーサカのガンダムは煙幕をまく。白い煙が一面にたちこめる。 「・・・なんの!会長!!」 『・・・相手は・・・?何故?』 「一人で・・・無茶しようとしてるので!」 『止めるわけですね!』 会長はササハラとの同調で思考を読めるまでになっていた。 同調率が上がる。煙幕の中でも、ガンダムが見える。 「見える!!」 叫ぶササハラ。ガンダムに向って、サーベルを振るう。目標は腕と足。 戦闘力さえ剥げば、向わないだろうという判断からだ。 「当たらないよ!」 コーサカは、すぐさまかわす。こちらも見えている。 「くそ!」 「こっちの番だね!」 そういうと、コーサカはいつものチェーンを繰り出す。 「当たるもんか!」 コーサカのガンダムにどこまでギミックがあるのかは知らないが、 チェーンの使い道は知っている。伸びてくるチェーン。 回転し絡み付こうとするチェーンをかわしたと思ったのだが・・・。 ガチィン! 「!?」 一瞬何が起こったのか分からなかった。 チェーンが、なぜかジムの横腹に引っ付いている。 「・・・なんで!?」 「あの、密林のときのザクが使ってたものを参考にしてみたんだ。」 思い出がまざまざと蘇る。 「く、こんなもの!」 言うが早く、ジムが引きちぎろうと動く。 しかし、コーサカはすでに次の行動に移っていた。 「少し苦しいけど、ごめんね!」 チェーンをもったままガンダムを回転させ始めるコーサカ。 「なっ!」 驚いて一瞬の躊躇がいけなかった。回転が軌道に乗ってしまった。 ウォン!ウォン! 回転音がコクピットに響く。遠心力が体に響く。 「ウ・・・ぐぁあああ!!」 宇宙には重力がないため、遠心力がモロに横に掛かる。 そのG(重力単位)は壮絶な値にまで上昇する。 ササハラはコクピットに押されたまま、息が出来なくなる。 「くっ、はぁっ!くそぉおおお!!」 叫びが木霊する。ササハラはそのまま意識を失った。 「ごめん・・・。」 ササハラが気絶したのを見定め、コーサカは回転を止めた。 「・・・頑張ってね。」 そういうと、コーサカはチェーンを外し、艦の進行方向の逆へ踵を返した。 『・・・さん!サ・・ハラ・・ん!ササハラさん!』 会長の声で、意識を戻すササハラ。目を見開き、宇宙を見渡す。 「・・・コーサカ君は!」 しかし、視界にはただ宇宙が広がるのみ。椅子に力なくもたれ呟いた。 「・・・また負けた・・・か・・・。」 コーサカは、一人宇宙を駆けていた。そして、ある位置で停止した。 メガランチャー二門を抱え、一つの方向に狙いを定める。 「情報によれば全部で八隻・・・これで四隻落とせれば勝機はある・・・!!」 その方向には、皇国の一個大隊が進軍しているである。 ランチャーから粒子砲が放たれる。宇宙に、光がきらめいた。 メガランチャーを手放すと、エネルギータンクを接続する。 二発分のエネルギーが元に戻り、ガンダムは息を吹き返す。 「・・・孫子、拙速を尊ぶ・・・。ここが勝機だ。いくぞ!」 ガンダムのテールランプが宇宙に閃いた。 『三隻大破!二隻が中破・・・。』 「何が起こっているんだ!」 コージ=イバト少将は困惑していた。 一隻の艦を後方から攻める任務、簡単なものと安心していたのだ。 旧知の仲である男からの依頼、特にする任務もなかった彼は、 二つ返事で引き受けていた。この事態は予想だにしていなかった。 「気をつけろ・・・とはいわれていたがな・・・。  ・・・しかし、まだMSは15機以上残っているのだ・・・!  すぐに追撃が来る!MS隊出撃せよ!」 叫ぶが早く、周囲にはリック・ドムの部隊が出動する。 少し沈黙が続く。イバトがふと目を横のドムに写す。 「・・・なんだ!!」 その瞬間、一機のドムが大破する。目に見えぬ何かに壊されたかのように・・・。 この後の様子を後にイバト少将はこう語っている。 『黒い何かに、次々とMSが壊されていくんだ・・・。  体中から何かが飛び出してきて・・・。翻弄されてるうちに・・・。  もちろん、奴にダメージを与えられなかったわけじゃない・・・。  ・・・私たちは全滅した。私は・・・。何とか逃げ出すのがやっとだった。  ・・・あれはまるで悪魔だった。黒い、悪魔だった。  ・・・気付くとその姿は無くなっていた・・・。  あれがなんだったのか、いまだによく分からないんだ・・・。』 艦がササハラを拾い・・・気付いたマダラメとサキに状況を説明した後・・・。 一人笹原はコクピットでうなだれていた。 「・・・止められなかった・・・。」 もちろん、止めれば危険は増したかもしれない。 だから、こうなった以上はこのまま進む以外にない。 時間はない。それは、大隊長も言っていたことだ。 「だけど・・・。」 納得は出来なかった。戦争に犠牲はつき物だ。 しかし、コーサカの場合は、何とかならなかったんだろうか。 『ササハラさん・・・。』 「え!?」 スイッチは切っているはずだった。しかし、声が聞こえた。 『徐々に・・・。覚醒しているみたいです。  スイッチが入ってないときでも、意識を外に出すことが出来るようになりました』 「・・・そうですか・・・。」 『コーサカさんが・・・。私に話しかけてくれました。』 「え?」 意外な言葉に、体を起こすササハラ。 『あの後・・・。私はコーサカさんに呼びかけました。彼はこう答えました。  多分、あと少しであなたも解放されます。  もうすぐ自由になれますが、もう少しだけお願いしますね、と。  そして、私の本名を教えてくださいました。』 そこで一旦会長は言葉を切る。 ササハラは言葉を待つ。 『最後に・・・、ササハラ君に、ありがとうと伝えてください、と。』  そういって、あの方は去ってしまいました・・・。』 「・・・コーサカ君。」 『ササハラさん。あなたの目的がなされるまでは共にいます。  ・・・コーサカさんの、願いでもありますから。』 「はい・・・。会長、お願いします・・・。」 拳を握り締めたササハラの目に、再び意思が宿った。 「全滅だと!」 召喚した一個大隊の全滅を聞き、声を荒げる荒野の鬼。 「・・・くそう・・・。なんなんだ・・・。奴らは・・・。」 苦虫を噛み潰したような顔をする男に、女が近づく。 「・・・中佐、ナカジマが呼んでる。」 「オギウエか・・・。」 その言葉に、怪訝な顔をしつつも、鬼はオギウエと共に移動する。 「・・・何をつけている?」 オギウエの胸にぶら下がっているペンダントに興味を持つ鬼。 触ろうとするが、手を強くはじかれる。 「触るな!」 「・・・何なのだ、それは。」 「・・・分からない・・・。けど・・・。うぅ・・・。」 頭を抱えるオギウエに、 「・・・まあ、いい。」 二人はそのまま廊下を進み、どこかの部屋へと消えた。 次回予告 大きな犠牲を払い基地へとたどり着いた第801小隊。 そこで彼らが見たのは巨大なレーザー砲だった。 マダラメは呟く。昔見た光景を思い出すように声を震わせながら。 「あんなもの蘇らせやがったのかよ・・・。」 第801小隊は大量の虐殺を止める事が出来るのか。 次回「蘇る悪夢」

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