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宇宙プロジェクト1 コンバットスーツ誕生秘話 - (2007/12/03 (月) 02:01:13) の編集履歴(バックアップ)


=『銀河を掛ける一筋の流れ星』 =

==~コンバットスーツ誕生秘話~ ==


 アイビー星天国デパートは売り場面積二十二兆坪、実像空間売場としては銀河連邦随一を誇る巨大店舗だ。文字通り虫ピンから宇宙ロケット、切手から惑星改造ボーリングマシンシロンの花から魔神ガロンまで、戦闘用兵器と不動産を除くありとあらゆる商品が販売の対象となる。この4月、新たに星雲大学に入学した新入生たちが、生活に必要な家財道具を揃えようと、大挙して押し寄せる。銀河連邦随一の広さを誇る天国デパートアイビー星中央店が、人の津波でごった返すのだ。

:質問 「お目当ての品は何ですか?」
:学生A「実験用施設の装備された移動式住宅です」
:学生B「多分探検実習もあルんで、適応服転送装置のアる移動住宅でスね」
:学生C「搭載作業艇の転送ができるタイプが欲しいんす」

 天国デパートアイビー星中央店の営業主任・ザムディッシュ氏に話を聞いた。

:ザムディッシュ「旧式タイプのベース円盤ジュピターⅡ?タイプのギラン円盤に替わって、ここ数年ではスペースコロニーが最も売れるタイプの移動住宅ですじゃ。ご存知の通り、移動住宅は宇宙船の機能を備えた多重環境適応型の住居ですが、環境適応服や搭載作業艇の転送装置を備えた、1人用、ないしは2~3人用のタイプ が最も売れとりますわい。様々な意味で、宇宙刑事の活躍のお陰ですな」

 ザムディッシュ氏の言う『宇宙刑事の活躍のお陰』とは3つの意味がある。
 第1は銀河連邦の治安がかってないほど安定していることだ。第2はスペースコロニーの技術が銀河連邦警察からもたらされていること、そして3つ目に、文字通りの意味だ。宇宙刑事たちの活躍は転送タイプの環境適応服の一大ブームを巻き起こした。万能空間対応型移動住宅の最新モデル『スペースコロニー』には、『馬上試合』と呼ばれる格闘スポーツ用の防具・ウォーリアースーツの転送装置がオプションとして装備可能なのだ。

:ザムディッシュ「ほとんど取り付け希望ですな、もう標準装備も同然ですわい」

 ほくほく顔で語るザムディッシュ氏の含み笑いが印象深い。

:学生D「宇宙刑事みたいで格好イイじゃないスか。僕もレポート実習には持ってくつもり スよ。現地でニック先輩みたいに『ましんま』になって活躍するんですははは」

『ましんま』の意味は不明だが、やはり宇宙刑事への憧れはかなり根強い様だ。

 第87ブロック銀河連邦警察機構の戦闘要員たち…。
 彼らは通称『宇宙刑事』と呼ばれている。閃光を放って金属色の鎧に身を固め、光の剣を片手に超次元戦闘母艦を駆る彼らは銀河連邦の一般市民にとっては平和の守り神であり、銀河の秩序に仇なす宇宙犯罪者にとっては地獄からの使者でもある。
 イガ星区担当宇宙刑事シャリバンは、『太陽の子⑰』と呼ばれる、転送式装甲装備宇宙刑事の第1期生の一員だ。暗黒銀河戦争⑱、フーマ大戦⑲を経て、現在もそのまま赤射タイプのコンバットスーツを用い続けている、数少ない現役の『太陽の子』でもある。
シャリバン「最初は無我夢中でしたよ、隊長⑳とリリー○が二人掛かりでガンガン特訓す るんだもの、苦労を共にした戦友のイメージですかね。例の件○で試作モデルを着 たこともあるけど、瞬間装着タイプには通常装着タイプにはない爽快感があります ね。今はもう大切な相棒ですよ。生涯現役ですね、きっと」
 シャリバンは獣星帝国マクーとの戦いで負傷し、その縁で銀河連邦警察に採用された変わり種の宇宙刑事だ。訓練校出身者以外では、唯一の赤射タイプスーツ装着者である。

 現在の宇宙刑事らの強さの秘密は掛かってコンバットスーツ(以下CSと表記)の利便性と万能性に起因する。現在銀河連邦の治安は歴史上かつてないほど安定したレベルにあるが、それは全てCSの功績だと言っても大袈裟ではないのだ。
 だがCSは宇宙刑事の標準装備としては、けして新しいものではない。
 以下は、CS開発に掛けた人間たちの記録である。

 CS導入以前、当時の銀河連邦は『悪』に満ちあふれていた。暗黒銀河には犯罪結社『暗黒星団D』①と『獣星帝国マクー』②が勢力を争い、ソンブレロ星雲③の『銀河王』④や『シャイン』⑤ら宇宙海賊ギルド、復活後急速に勢力を伸ばしていた『幻夢界マドー』⑥の他にも、小さな犯罪組織は数知れず。合併や吸収を繰り返していた。
 一方の銀河連邦警察側の装備は貧弱であり、希に強力な火器が配備されることがあっても、戦闘には効果が上がらないことが多かった。捜査中の宇宙刑事は概ね素手か、軽装で行動するのが常だったからだ。宇宙刑事の過酷な任務における、機動性の確保と大火力の携帯は両立しがたい現実として長い間議論の的となっていた。

 無論、銀河連邦警察機構も手をこまねいていたわけではない。
 武装宇宙船の性能は、この100年に限っても格段に向上し、同性能で小さく、同規模なら性能は向上し、あらゆる環境に対応できるようになってきている。特殊環境装備にしても、追跡用小型デバイス⑦、ドリル戦車⑧、大口径砲撃艦⑨、兵員輸送艦⑩など、あらゆる場面に対処するだけの装備が揃っていたのである、大規模戦闘においては。
 そう、現場で必要とされたのは、むやみに兵器を派遣することができない捜査段階でも充分使用できる個人装備だったのである。
 当時使用されていたCSは戦闘装甲服と呼ばれるパワードスーツであり、装着に時間が掛かるために緊急時の役には立たなかった。逆に装着が容易なCS・環境適応服は大規模な装着専用装備が必要な上、装備条件に一定の制約があることが多く、実戦投入は困難が伴った。パートナー制度に基づいて、捜査要員とCS要員を分けるシステムも試験的に導入されたが、その場合は経験の浅い中堅宇宙刑事に圧倒的に殉職者が多かった。

 この時、開発局の局長に就任したコム(現銀河連邦警察長官)はこの状況を打破するために、様々なプロジェクトを立ち上げた。無人戦闘兵器ドル計画⑪、多機能小火器バードニアブラスターの開発⑫、超次元高速母艦グランバードタイプの建造⑬など、多岐に渡るそれらの計画の中に、瞬間装着型のコンバットスーツ開発計画⑭があった
コム局長(当時)「瞬間装着式CSの発想は、私の親友⑮・ボイサー刑事⑯からだった。ボ イサーがとある保護惑星⑰に赴任した時、任務に協力してくれた特殊部隊⑱が装備 していたのが、瞬間装着型の強化スーツだったんだ」

 当時保護惑星となったばかりの地球で、異次元腐食生命体⑲追討の任に当たっていたボイサー刑事に協力したのは、3000年前に該当惑星・地球に移住したバイオ星人⑳の子孫たちだったと言われている。彼らはデンジスーツと呼ばれる瞬間装着式の強化スーツを装備し、捜査や護衛、調査などのあらゆる場面にその強化スーツを持ち込むことが可能だった。
 その後、地球ローカルの防衛組織『地球平和守備隊』が創設した特殊部隊に受け継がれたそのノウハウは、銀河連邦警察にももたらされた。ボイサーの依頼で『地球平和守備隊』との折衝を担当するためにもう一人の宇宙刑事が地球に派遣された。
 この折衝はこの上なく成功し、『地球平和守備隊』からは強化スーツの瞬間装着システムのみならず、個人武装、機動兵器や戦闘用母艦の設計、運用などあらゆるノウハウがもたらされることとなった。
 『地球平和守備隊』との交渉を相棒の宇宙刑事に任せて再び異次元腐食生命体追討の任に戻ったボイサーが何の前触れもなく消息を絶つと、そのボイサーに代わって地球担当宇宙刑事として着任したのは、すでに『地球平和守備隊』との折衝のために派遣されていたベテラン宇宙刑事・ハンターキラー○であった。保護惑星に宇宙刑事が常駐するなどということは本来考えられないことだったが、地球はすでに単なる保護惑星という枠を越えて、銀河連邦警察にとって重要な惑星となっていたのだ。

 地球からもたらされた技術を下敷きに、銀河連邦警察の開発局に協力し、実際のCS開発に尽力したのは、星雲大学の名誉教授であり、悪魔博士と異名をとる銀河連邦警察開発局特殊顧問、天才・奇才のDr.ジーナス○であった。

 ジーナス着任前に集められた開発チームは、コム局長(当時)の示した要求スペックを聞いて、当初唖然としたという。スタッフの一部からはお伽噺①じゃないとの声も聞かれたというから洒落にならない。開発スタッフは何処から手を着けて良いか判らず、ジーナスがチーフとして赴任するまでの間、ずっと頭を抱え続けていたらしい。
ジーナス「なかなか面白いテーマをもらってね、スタッフの諸君も頑張ってくれた」
 現在アンドロメダ第3惑星『トランター』で暇つぶしに忙しい②ジーナスは、当時を振り返ってそう述懐する。ジーナスは一歩づつ課題をクリアしていった。

 スタッフがまず躓いたのは、『ふるへっへんど(この意解せず③)』であった。もともとCSの前身である通常装着タイプでも、旧式のGタイプや大柄なKGタイプは特に『ふるへっへんど』に弱く、小さな『ふるへっへんど』にも躓きが生じて、前のめりに転んでしまうのだ。これに対してジーナスは…以下四行解読不能…を解消した。その結果CSの靴底には溝が切られ、まさに『あーんてれっけん(この意解せず)』であったと言える。

 戦闘時には白兵戦を基本とするCSには、白兵戦専用の兵器が装備されることとなる。
 その参考になったのも『地球平和守備隊』の個人装備だった。彼らの用いる戦闘技術にバリツ④と呼ばれる格闘技術がある。多くのスォードを用いる戦闘技術は力任せに叩き壊す技が多いが、バリツではサムライスォードと呼ばれる特殊な片刃のスォードを用いて、相手を斬って倒すのである。スピードとタイミングに充分以上の訓練が必要ではあるが、力任せにならない分、周囲への余分な被害は減少する。その点が評価され、宇宙刑事はスォードを標準装備することが現場段階からの提案で決定された。この時開発されたのが、ダイナミックレーザー⑤誘導型ブレード、通称レーザーブレードである。コム局長(当時)が地道に収集した武器データが功を奏し、ライトサーベル⑥、アランブレード⑦、太陽剣⑧などの技術を寄せ集めて、全く新しい概念の携帯武装が開発されたのだ。そしてレーザーブレードは宇宙刑事のトレードマークとなる。

 だが全てが順調だった訳ではない。課題は山積みだった。
 最も重要な難点はスーツの素材であった。
 当時から電送移動に関して最も進んでいたテクノ惑星リゲル⑨では、瞬間装着型CSの構想を聞いて、成功すると考えた者は皆無だったという。転送に耐え、しかも装甲服として使用しうるほどの強度を持つ金属はグラヴィウム⑩しか存在しなかった。当たり前の話だが、均一の素材だけでは、回路が生じる訳がない。
ジーナス「無垢の金属鎧を転送するだけなら、私が赴任してから15分で成功したんだがね」
 また、試作された転送装置は桁違いに巨大で、収納にはマーカライトジャイロクラスのギラン円盤⑪が使用された。試作二号機は大幅に小型化されたが、標準クラスのギラン円盤の収納能力ぎりぎりの大きさとなり、転送プラントが巨大すぎて、武装が不可能という奇妙な事態に陥ってしまった。
コム局長(当時)「武装のないギラン円盤では小型宇宙船の集中攻撃を受けたらひとたまり もない。我々は何とかして機動性をあげ、武装を組み込むべく努力したのが、結局 最も頼りになるのはアクティブレーザーセンサー⑫だという情けない状態だった」

 また他にも、運用コストが膨大で量産が難しいこと、メンテナンスの自動化に技術的困難がある⑬ことなどが、実戦配備には大きな壁となって立ちはだかった。
 その上、提唱者のボイサーが赴任先で行方不明になり、その一方で『地球』との技術提携の立て役者・ハンターキラーが正式に導入反対の立場を表明したため、銀河連邦警察上層部でも計画見直しの気運が高まった。コム局長(当時)はじっと耐えるしかなかった。
 テストパイロットに抜擢された新任宇宙刑事(当時)ギャバンはこう語っている。
ギャバン「特別捜査局6課に抜擢って聞いて、やった!って気持ちと、何それ?って疑問 が同時に頭に発生してさ、頭ごちゃごちゃになっちゃった」
 特捜6課…コム局長(当時)の肝煎りで急遽設立された実験部隊⑭だ。

 連日の他部局からの突き上げに辟易していたコム局長(当時)の元に朗報が届いた。開発チームがグラビウムを用いたコンピューターチップの開発に成功したのだ。さらにエネルギー源となる新合金グラビウムΔ…通称バードニウムが開発され、停滞していた転送型のCS開発は一気に進むことになった。
 また、この時期地球から新たな技術のデータがもたらされた。
後に『星野システム』の名で知られるようになるそのエネルギー変換システムは、銀河連邦の技術力すらはるかに越えて①おり、CSの転送技術に新たな革命をもたらすかと思われた。だが『星野システム』の全貌はとあるトラブルでバード星には届かなかった。
 トラブル…、そう、それはまさにトラブルだった。

 第4号の試作転送型CSで転送実験が成功したその日、銀河連邦警察最高顧問会議は転送型CSの開発の中止を決定した。地球技術不要を提言するハンターキラーのレポートを根拠として、サハラ長官(当時)②を始めとする最高会議は全員一致でその決定を下した。コム局長(当時)は強行に抗議したが、決定が覆ることはなかった。
 決定を知ったDr.ジーナスはイオン星③の実験基地からバード星のサハラ長官を訪ねて真意を質したが、結局対立は激化、ジーナスはその場で辞表を提出した。特捜6課はそのまま事後処理を拝命し、失意のうちに完成したばかりのギラン円盤の解体に取り掛かった。
 地球は保護惑星指定の取り消し検討の対象となり、総ては終わったかに見えた…。

 だが事態は劇的に変化した。
 星雲大学のタカセ教授④が第4次太陽系発掘の研究報告⑤を発表したのだ。
 詳細は略すが、そのレポートによれば、地球には『伝説母星』直系の『原型人類』⑥が生き残っていたのである。その他にも最初にボイサーと接触した特殊部隊がバイオ星人でなく伝説の民族・デンジ星人⑦だったことや、その他にも暗黒銀河の暗黒勢力に滅ぼされたと言われる宇宙民族が多数子孫を残している⑧ことが判明したのだ。
 そして事態の変化に銀河連邦最高顧問会議が結論を出す間もなく、第二の報告が入った。消息を絶っていた宇宙刑事ボイサーからの第1級緊急連絡⑨が回収されたのだ。その記録からボイサーの動向の総てが判明した。それによれば、ボイサーの宇宙船『アラーの使者』⑩が破壊されたのは、ハンターキラーからボイサー行方不明の報告が入った時点より、かなり後⑪であった。つまりボイサーが地球上で活動しているにもかかわらず、ハンターキラーはボイサーが行方不明であると報告したことになる。さらに『アラーの使者』を攻撃したのは獣星帝国マクーの機動部隊であることも判った。それは地球がマクーの攻撃を受ける可能性が高いこと、そしてマクーに『アラーの使者』の性能を教えた⑫者がいることを示していた。その疑念を証明するように、ハンターキラーが姿を消し、その直後、彼がマクーの親衛隊の指揮を執っていることが判明した…。
 当然の話だが、銀河連邦警察は大混乱に陥った。特に最高顧問会議の受けた衝撃は激しかった、ハンターキラーの進言を受けて重大な決定を下した直後だったからだ。
 特命を受けた特捜1課⑬の捜査官が急遽地球に派遣され、ボイサー、ハンターキラーの両名を捜索したが、手がかりはほとんどなかった。それでも以下の点が明らかになった。
 1つ、ハンターキラーは『地球平和守備隊』からの情報を止めていた。
 1つ、ボイサーはバード星との連絡を完全にハンターキラーに委ねていた。
 1つ、ボイサーは『星野システム』と呼ばれるオーバーテクノロジーを追っていた。
 1つ、地球にはすでに獣星帝国の先遣隊が潜入していた。
 1つ、ハンターキラーから銀河連邦警察の武器データが漏洩した⑭。

 ハンターキラーは次期銀河連邦警察長官の最有力候補でもあった。そのハンターキラーが造反したのである。銀河連邦警察は上を下への大騒ぎとなった。
 特に親友二人を同時に失ったコム局長(当時)の落胆は激しかったという。
 だがこの事件がコム局長(当時)と転送型CS開発チームにとっては朗報となった。

 地球での調査を終えた特派捜査員の報告に、銀河連邦警察最高顧問会議は激しく紛糾した。事態のあまりの深刻さと、最高顧問会議の権威を地に落とすような判断ミスに、調査結果の発表を見送ろうという意見が大勢を占めたのだ。だが事態はそんな最高顧問会議の思惑など軽く吹き飛ばしてしまった。
 暗黒銀河で三つどもえの戦いを展開していた銀河連邦警察特捜4課①と犯罪結社『暗黒星団D』が相打ちの形で全滅②し、その結果『獣星帝国マクー』の勢力が飛躍的に高まったのだ。さらに銀河連邦警察の暗黒銀河方面の防衛拠点である宇宙ステーションTRC③からバード星の宇宙保安庁に連絡が入った。獣星帝国の移動首都・魔空城が暗黒銀河の『ソンブレロ星雲』を離れ、オリオン椀辺境へ向かったというのだ。最高顧問会議は戦慄する、魔空城の目的地は明らかに地球だった。
 ハンターキラーがスパイの正体が露わになることを省みずに確保しようとした地球…。
 そう、地球技術を手にした組織が銀河宇宙の覇者となることは明らかだった。
 事実の隠匿はそのまま銀河連峰警察の滅亡につながる……、そう判断したサハラ長官は否も応もなく地球への宇宙刑事の派遣を決定した。

 銀河連邦警察上層部は当初、魔空城に対抗できる戦力を暫定的に引き抜いて、地球の軌道上に貼り付けようと考えていた。だがそれだけの戦力を保有し、しかも移動可能な銀河連邦警察の宇宙拠点というと、特1の宇宙ステーションSS④、特3の宇宙ステーションTRCなど、どれも巨大すぎて魔空城に先んじて地球に到達するのは不可能だった。サハラ長官は銀河連邦軍⑤を動かし、宇宙要塞『ネヴュラ71』による狙撃⑥まで検討した。
 だが結局、保護惑星『地球』へ大部隊を展開する許可⑦は出なかった。
 派遣可能な人員は最大でも1~2名、隠密捜査を行い、同時に最悪の場合は魔空城を中心とする『獣星帝国マクー』の兵力と正面から戦って、最低でも援軍が地球に到着するまで防戦できねばならない。そんな矛盾する要求を、それもごく緊急に満たす戦力など、銀河連邦警察のみならず、宇宙の何処にも存在しなかった。
ジーナス「それは違うね、存在する寸前で破棄されていたんだよ」

 土壇場で転送型CS実験部隊は蘇った。地球への転送型CSの派遣が決まったのである。
 CS転送用ギラン円盤は解体の始まる前日だった。再整備が始まった。
 緊急事態にスタッフも呼び戻されたが、Dr.ジーナスは戻らなかった。サハラ長官自らがアイビー星に赴いたが、ジーナスは研究旅行に出てしまっていて留守であり、長官以下の上層部はさらに面目を失った。とにかくジーナス抜きで出撃準備を整えねばならない。
 出撃は10日後と決定されたが、問題は山積みだった。
 普段なら何日も掛けて検討される事態がほとんどコム副長官(突然昇進した)の独断で決定されることになった。もちろんその総てが追認された。
 派遣される宇宙刑事はテストパイロットのギャバンがそのまま抜擢された。
 ギャバンは偶然にも地球の出身者であり、地球についての知識も豊富、地球人に混じって捜査を行うにも、地球人と交渉するにも、一般社会にとけ込むにも、これ以上に適した人材は当時の銀河連邦警察には他にいなかった。
 武装を施す余裕もないスタッフに、コム副長官(当時)はこれも廃棄処分が決まっていた、無人自動戦闘ユニット『電子星獣ドル』を与えた。これなら戦闘力は抜群だ、問題となる制御についても、近距離ダイレクトコントロールを用いれば問題ない。急遽カリント新星⑧から機械生命人工知能が輸送され、ドルには機械生命としての個性とアイデンティティ、さらにはギャバンの助手として宇宙刑事の資格も与えられた⑨。無論、ギラン円盤には大急ぎでドルユニットとのドッキングベイが増設された。
 超次元高速機ドルギランの誕生である。
 試験飛行もそこそこに、地球担当宇宙刑事・ギャバンはバード星を出撃した。
 同日サハラー長官を始めとする最高顧問会議メンバーは全員辞表を提出し、銀河連邦警察38代長官には、コムが任命された。

 間一髪だった。
 衛星軌道上に地球守備隊が建造していた宇宙開発基地スカイフォース『天界』が暗黒銀河の連合軍に攻撃され、撃墜された①。ドルギランが太陽系宙域にワープアウトしたのは、連合軍が引き上げようとしている局面だった。暗黒銀河の連合軍は見たこともない大型艦の出現に肝を潰した。一方ギャバンは地球のマスコミを傍受して、現状を把握していた。典型的な遭遇戦ではあったが、情報量は銀河連邦警察側に軍配が上がり、それがそのまま勝敗の帰趨を制することとなった。無秩序にドルギランを攻撃した暗黒銀河宇宙海賊連合軍はアクティブレーザーセンサーの直撃を食らって壊滅、『天界』襲撃の主力となった宇宙海賊『銀河王』はこれ以降消息を絶った②。この地球軌道上の戦いで暗黒銀河連合軍は撤退、地球進出を断念し、その後も地球に執着したのは獣星帝国マクーだけだった。

 ギャバンとマクーの戦いについて、多くを述べる必要はあるまい。
 宇宙刑事ギャバンの輝かしい成功については子供向けの絵本にまでなっている。

 有用性が証明された瞬間装着型CSは直ちに後継機の開発が始まった。
 実験部隊特6には大幅な増員と予算アップがあり、さらに宇宙刑事訓練学校に瞬間装着型CSコースが新設された。訓練所の卒業生からも通常任務の宇宙刑事たちからも瞬間装着型CSの要員志願者が特6に殺到し、その中から第1期CS要員候補生60名(初期は全て男性・通称太陽の子ら)が、引き続いて40名の第2期CS要員候補生(通称太陽のあいつ)が選抜され、厳しい訓練の後に第1期21名、第2期8名の瞬間装着型CS要員が誕生した。暫定的CS要員に任命された7名を加え、幻夢界マドーの再侵攻の際には36名の瞬間装着型CS要員が宇宙の各地に派遣された。彼らはマドー壊滅時には激戦の末、半数が生き残っていた。無論、銀河連邦警察はその後も積極的に瞬間装着型CS要員の養成を続け、第3期からは女性志願者によるCS候補生(通称太陽の天使、30名)も誕生した③。
グレアード「誇りですよ、俺たち宇宙刑事の誇り」
ヴァーリィ「(訓練が)きつかったのは間違いないけどね、アタシにとっちゃ朝飯前よ」

 獣星帝国マクーとの死闘の末、銀河連邦警察には『星野システム』のノウハウがもたらされた。星野太陽博士が開発した『星野システム』は恒星の発するあらゆる光エネルギーを転換し、任意のエネルギー単位として使用することができる、画期的なエネルギーシステムだ。ベリリウム結晶球体触媒型の流体無限エンジンジェネレーターよりも効率が良く、しかも様々な方面の応用が利くことが判明していた。
 効率の良いエネルギー収集、短距離のエネルギー転送、そして変換定数の変更で自由に転送するエネルギーを変化させることができる『星野システム』は、まさにCSの転送にうってつけだった。研究チームはジーナスが残した試案の一つを再浮上させ、急ピッチで新たな転送型CSを試作した。それが現在赤射タイプと呼ばれるCSだ。
 赤射蒸着は、蒸着と名付けられてはいても、試作機ギャバンタイプとは明確に違う構想で設計された転送システムを備えている。ギャバンタイプのCSはギラン円盤内に格納され、常にメンテナンスを受けている。一方赤射型CSはソーラーシステムスパーク転換装置から転送されたソーラーメタルが、転送先であらかじめ入力された設計図通りに実体化することで完成する。だから赤射蒸着型CSは、システムが起動して初めて実体化し、戦闘や救助などのミッションが終了すると同時に『使い捨て』されるのである。

 前述の通り、赤いグラヴィウム、通称ソーラーメタルを主な素材として形成される赤射タイプCSは、ギャバンの用いた最初の実戦投入CSとは設計思想からまるで別物だったから、試作中だった蒸着母艦の計画は総て白紙撤回されることになった。通常蒸着用のCS転送装置と赤射蒸着用のソーラーメタル転換装置とでは規格が全く違ったからだ。ソーラーメタル転換装置を平常稼働させるためには太陽エネルギー収集のための場を展開する必要がある。蒸着母艦は実験機をベースに設計され、すべて厚みのあるギラン円盤型だったため、必要な面積の太陽エネルギー集積場を確保するのが困難だったのだ。

 コム長官はここでも鮮やかな発想で課題をクリアした。輸送艦としてロールアウトしたばかりのグランバードタイプの2番艦グランドドルを赤射実験に供与したのだ。
 輸送艦としての大きなペイロードとその幅広の形状は赤射システムの搭載に何の問題もなく、グランバードクラス輸送艦はそのまま赤射母艦として採用されることとなった。
 輸送艦程度の火力では宇宙戦艦として物足りないとのクレームもついたが、ソーラーメタル転換装置は元々星野スペースカノンをベースに開発されている。わずかな改造で、赤射母艦には高出力エネルギー砲を装備することが可能で、打撃力不足の問題点は直ちに解決された。グランバードタイプは設計段階のスペックをクリアしたまま、別の用途の仮設宇宙戦艦として量産にゴーサインが出ることとなった①。
 間に合わせで増設された高出力エネルギー砲の口径は必要最低限でしかなかったが、星野システムのエネルギー量は半端でなく、発射の反動をどう軽減するか、新たな課題となった。スタッフはグランバードタイプに元々備わっていたアーカイブフォーメーション②を利用し、発射時にはその反動が艦体全体に分散するように変形機能に微妙な調整が加えられた。最も大きな改造部分は主翼部分に収納された、主砲を支える大型マニピュレーターアーム③である。ソーラーシステム増幅装置ブロックを上に立て、その左右を主翼で守る一方、主エンジンナセルを下につきだす。これで主砲発射の反動は砲口の上下に重力ブロックを展開することでバランス良く分散させることができるのだ。この形態にはバトルフォーメーション、主砲にはプラズマカノンの名称が与えられ、グランバードタイプ改は暗黒銀河戦争を通じて銀河連邦警察の主力艦となった。

 暗黒銀河戦争勃発当時、特6では設計段階からソーラーメタル転換装置とプラズマカノンを標準装備した新型超次元戦闘母艦として、バビブボクラスの設計を開始していた。この時は2番艦バビロスが実験艦として特6に供与され、赤射システムの搭載と大口径プラズマカノンの搭載実験が行われた。以降2番艦の供与は特6の恒例となっていく。
 バビロスの大口径プラズマカノンは最初の試射で照準が大きく外れ、イオン星そのものに命中④しそうになってしまった。第3試射の後ビッグマグナムと名付けられた大口径プラズマカノンだが、試射を繰り返しても照準性能はなかなか向上しなかった。そんなおり、銀河パトロール隊の隊長として勇名を馳せていたギャバンが実験の視察にやって来た。初代のテストパイロットだったギャバンは特別に第13回目の実験に参加したのだが…。
ギャバン「どうしても自分で撃ってみたくてね、無理に参加させてもらったんだ。ところ が引き金を引く瞬間、的が見えなくなるんだ。これには参ったよ」
 ビッグマグナムの凄まじい反動と放射熱などからブリッジを守る遮断システム自体が、照準に悪影響を与えていたのだ。ギャバンの指摘で構造的欠陥に気づいたスタッフは、遮断システムの改造に取り掛かったが、これは一朝一夕で成功するものではない。暫定的な措置として、レーザーピジョン転換装置とフォログラム投影装置を組み合わせてバーチャル照準機を追加装備することで、外部からビッグマグナムの照準をつけるようにシステム変更された。これもギャバンのアイディアだった。
 赤射母艦バビブボクラスは暗黒銀河戦争終結後にロールアウトし、急場に配属された仮装戦艦であるグランバード改に代えて各地に配属された。そしてフーマ大戦が勃発する寸前、焼結型のCS転送装置が完成し、2番艦バビロスをネームシップとする焼結母艦・バビロスクラスがロールアウトする。
 フーマ大戦の勃発はいきなりだったため、バビロスクラスの焼結母艦はネームシップのバビロスのみの完成⑤に留まっていた。当初バビロスはグランドドル同様記念艦も兼ねてバード星の直衛に用いられる予定だったが、急遽実戦投入される運びとなった。
 丁度赤射母艦⑥を失ったばかりの鮮血の貴公子・宇宙刑事ランディス&鮮血の美姫・宇宙刑事ギャレットのパンサーデュオに与えられたグランドドルは、採算を度外視したスタッフの趣味的な実験で赤射システムが2系統平行して使える特殊機能艦になっていた。
 またバビロスは、激戦区地球の担当になった、後の蒼い閃光・宇宙刑事シャイダーと蒼い狩人⑦・宇宙刑事アニーの学徒出陣⑧宇宙刑事コンビに与えられ、フーマ本隊釘付けの要として活躍することになる。

 フーマ大戦終了後、銀河連邦警察の最大の難敵・宇宙海賊ギルド最強のメンバーが連合した超人教団メタギルド①が、突然宇宙刑事狩りを開始した。超人大戦争の勃発である。その頃には、艦内から照準できるように改装されたバビロスⅡクラス、最低限の変形でプラズマカノンを撃てるように設計されたステイブルクラス、救助を主目的とするSSⅠタイプなどが、あるいは完成し、あるいは未完成ながらも強引に運用されていった。
 数多くの転送母艦が宇宙の平和を守る守護神として、バード星軌道のドライドック・ラクチン基地②から旅立っていった。そして今日も転送母艦は宇宙の平和を守り続けている。


 あらゆる意味で銀河連邦警察の生命線になりつつある保護惑星地球、昨今、隠れ里③の存在がクローズアップされた霊峰富士の見える小さな丘に、今ボイサーは眠っている。ボイサーが最も愛した女性、一乗寺民子と一緒に、息子ギャバンに葬られたのだ。銀河連邦警察史上最強の男ボイサー、その墓はその巨大な功績に対してあまりにも小さい④。
ギャバン「親父は生き続けることでその想いをオレたち後輩宇宙刑事に伝えたんだ」

 マクー上層部の権力争いに敗れたハンターキラーは暗黒銀河を仮死状態で漂っている状態で銀河パトロール隊のパトロール艇に発見され、バード星へ保護された。ボイサーがマクーの最終戦略兵器基地⑤に捕らえていることを白状したという噂だが、その後の彼の消息は庸として知れない。裏切りの代償は高くついたと言うことか。
コム長官「マクーの方も、裏切り者を受け入れた報いを受けたと言えるんじゃないかね」
 カタストロフスリーは最後の戦果をあげた⑥のかも知れない。

 超人大戦争においては全面的に銀河連邦警察側の味方をしたDr.ジーナス、瞬間装着式のCS開発の基礎と構想は総て彼が立ててくれたと言っても過言ではない。
ジーナス「私にとっては大したことのない一歩でも、後に続いて一歩を積み重ねようとす る者にとっては、掛け替えのない一歩であることもある。そんなことを学んだ⑦ね」
 現在隠遁生活を送るジーナスの今後の動向が銀河の平和を左右するのかも知れない。

 超次元高速機ドルギランは未だに現役である。
ギャバン「特に性能が劣る訳でもないし、今更赤射タイプや焼結タイプのCSをもらって練習するのも業腹だしね。オレが現役でいる間はこいつと一緒に戦うつもりさ。ドルだってオレから離れたくないって言ってくれてるし、愛着があるんだよ」
 試作第7号にして実戦投入第1号の銀色のCSは、今日も暗黒銀河を縦横に暴れ回っている。ギャバン隊長は銀河連邦警察大運動会⑧のCS部門では連続上位入賞を続けている。新たな性能を持つCSが開発されたとしても、使いこなすのは常に人間である。…宇宙刑事の熱い魂こそが、CSを動かす原動力なのだろう。
ギャバン「そこまで言われると照れるけど…、ま頑張りますよ、これからも」

コム長官「ボイサー、タミコ、ハンターキラー…ここまでの戦いで様々なモノを失ってき ました。でもその分、新たな何かを得ることもできたと思うのです。失うことを恐れず、得るモノの大きさを想って頑張るしかない、と言うのが私の持論ですね」
 最後にコム長官には銀河平和の動向を聞いてみた。
コム長官「個人の意向がそのまま反映できる問題じゃないんですよ、私にできることは、このレベルの平和が一分一秒でも長く続くように、努力することだけです」

 ~終わり~
主題歌⑨:地上の星
 ヘッドライト、テールライト
企 画 :宇宙NHK
制 作 :少年タイムス社⑩