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心の在り処 - Ⅰ歯車編


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*1.出発

-1347年7月11日 午前9時

 商品は問題無し! 委託物も問題無し! よしッ、確認OK! 
この業界に入って15年。荷物の確認は、もう手慣れたものだ。
額にうっすら滲ませた汗を無意識のうちに腕で拭いながら、荷車を降りる。
 ふと見上げると、視界いっぱいに蒼が広がる。遠く南方には入道雲が空高く立ち込めている。
「もう夏か…」思わずそんなことを呟く。

 「商人さ~ん、準備終わりました~?」
見ると20代くらいの若い青年が、紙切れを片手に役場の方から駆けて来た。
あれは山岳横断証明書だろうか。
「お、手続きしてきたのか。俺はちょうど今終わったところだよ。」
「相変わらず手際がいいですね~。じゃ、僕も荷物確認しますね!」

 彼の名は、レジェール・グラン。ヒェイン~トリル山岳横断ルートの先導人だ。
インディゴブルーの短く纏まった髪と背の高いスラっとした細身が印象的な青年だ。
彼曰く、先導人を始めて今年で5年らしい。
俺もここ2、3年で何度かこのルートを通る機会があり、その度に会っている。
彼とはちょっとした友人みたいな関係だ。

 「そういえば、出発は10時で合ってるかい?」
「そうですよ、10時です!」
時計台に目をやると、まだ40分くらいは時間がある。
せっかくヒェインの町に来たのだし、ちょっとは観光していくか。
「じゃあ俺はちょっと街中歩いてくるわ。」
「分かりました!時間までには戻ってきてくださいよ~。」
「オーケーオーケー。分かってる。」
そう言いつつ俺は、街中へと歩き出した。

―――――――――

  ついつい夢中になって街を回ってしまっていた。
ふと時計台を見ると、長針はちょうどXを指している。
そろそろ戻らねば。俺はやや小走りで広場へと向かう。
 「戻ってきましたか!もうすぐ出発するので乗ってください~。」
俺は客車に乗り込む。
客車の中には、すでに6人乗っていた。
ん、その中に一人、見覚えのある顔が・・・。

 「ああっ、ヴァルムさん! 今回もお仕事ですか?」
彼女の名はレヴォルテ・ルント。帝国直轄の騎士団員。現在はトリル支部所属だ。
その可愛らしさは、彼女が騎士団員であることを忘れさせられるかのよう。
濃紅で肩に少しかかるくらいのさらさらとした髪は、彼女の可愛さをより引き立てている。
そんな容姿からは想像出来ないが、彼女は武術に長けており、
特に剣術の腕前は帝国ベスト8に入るほどだと言われている。
恐らく彼女は今回も、先導者の護衛としてついていくのだろう。
グラン同様、何度か会っているのでその辺りは察しがつく。
 「そうだ。トリルまでな。
最近は特にロコス地方特産の磁器は西方で人気らしくてな。
親方から命を受けて運んでる最中だ。」
「確かに最近は“ロコスの青白磁”って言って人気がありますね~。
白磁器独特のてかてかに、うっすら透明感のある青みが加わって、なんとも美しい色合いを醸しだしているんですよね! 
私もけっこう好きですよ、ああいうの!」
ふむ。話を聞く限りでは、トリルだけでも予想以上に人気が出ているらしい。
これは、いくらで売るか再度吟味しなければ・・・。

 「ではそろそろ出発ですが、その前にいくつかの注意事項を説明しますね!」
いつもの説明だ。俺自信、この注意事項は何度も聞いているので、もう覚えてしまった。
確か―――
一.先導者の指示があれば、それに従うこと
二.もし何か緊急の用があれば、先導者もしくは同乗している騎士団員に言うこと
三.身勝手な行動は自身の死につながるので注意すること
だったか。

「・・・・・・トリルの町には2週間で到着予定です。
途中には温泉スポットがありますので、皆さんがよろしければそこで泊まっていくことも出来ます。
説明は以上です。それでは、出発しますねー!」
こうして、グラン率いる馬車は、ゆっくりゆっくりと進み始めた。








かきかき中

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