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小説に挑戦③ - (2016/02/25 (木) 21:53:43) の編集履歴(バックアップ)


パンドラ・ワールド


序章


この世には開けてはならないパンドラの箱がある。箱の中には無数の厄災が入っていると言われている。
それは、病気、悪意、妬み、憎しみ、偽善、保身、悲しみ、飢え、暴力、狂気・・・
そして「希望」
希望という、あるかないかわからないその厄災によって、人々は数々の苦痛に向き合い続けなければならない。
大昔、神話で開けられて、そして閉じられたその箱は今どこにあるのかは誰も知らない。
存在するか、しないか、どこにあるのか、再び開けられることがあるのか。
そして本当の中身は何なのか。
人々に忘れられたその箱は世界の片隅でじっと開けられる瞬間を待っているのかもしれない。そして、ふとした瞬間にその箱を開けてしまうのはあなたかもしれない。

「ようこそパンドラの世界へ」

1

高校生の藤枝柊が目を覚ましたのは夏休み真っ只中の午後2時すぎだった。クーラーは壊れ、たいした風の来ない扇風機だけがカラカラと回り続けている。
「あっちー。どうなってんだよ今年の夏は」
冷蔵庫で冷やしておいた四ツ谷サイダーを一気飲みながら柊は呟いた。
この殺風景な部屋で唯一まともにあるテレビを付けるとちょうど猛暑についてのニュースをやっていた。
「今年の夏は例年より5度ほど暑くなり、各地で最高気温の更新が続いています。しっかり水分を取り、外出は控え熱中症に注意してください。」
その後熱中症による患者数のグラフに画面が変わった。
柊が住んでいるこの町の気温も毎年30度前後なのだが、今日は38度と体が溶けそうな暑さである。アニメでお気に入りのキャラが「体がアイスになっちゃうよー」と言っていたときは中々いいものだと思ったのだが、実際その暑さになってみると地獄そのものである。
すまなかった。アイスになったら美味しいのかなとか考えてしまって。
心の中でアニメのキャラに謝罪をしながら、とりあえず着替えて出かける準備をする。
昨日調子に乗って朝の5時までゲームをしてしまった。そのせいか体と気持ちが重いが、こんな家にいたらいつ死んでもおかしくない。とりあえずクーラーのある場所に避難しなければ。

全く手を付けていない夏休みの宿題と筆箱、財布、スマホをもって柊はとりあえず家を出た。「もう、今年の夏が熱いのがいけないんだからねっ!夏のバカ!」という、ツンデレキャラがいいそうなセリフを頭に思い浮かべながら、日差しを反射して、すでに熱い鉄板となっているアスファルトの上を自転車でこぎ続けた。夏に避難するとなると図書館かファミレスか、はたまたゲームセンターか。そんなことを思い浮かべていると会いたくない顔が視界に入った。「危なっ」と思って急ブレーキをかけ方向転換したが遅かった。
幼馴染で腐れ縁である小日向翔香はこっちに気がつき声をかけてきた。
「やあ!柊じゃん、ひっさー。どうしたのそんな青い顔して。食べ物でもあたった?それとも心配事?」
どうやら彼女は青ざめているのが自分の原因だと気がついていないようだ。
「今日マジで熱いよね~。外でてる私が言うのもなんだけどこんな日は家の中でごろごろしてたほうがいいんじゃね?もしかして家のクーラーが壊れたとか?まさかそんなことあるわけないよねっ!」
怖い。昔から思っていたのだが何か心を読む特殊能力を持っているんじゃないかと思う。なるべく悟られないように平然な顔で答えた。
「そんなわけないじゃん、親に買い物頼まれてさー。こんな暑い日なのにー。ははは・・・」
「え、てきとうに言ったのに図星!?うわっクーラー壊れるとかありえねー。というか柊って今一人ぐらしじゃん!」
不覚。とっさに嘘をついたのでぼろが出てしまった。やっぱりこの女嫌いである。かかわりたくない。さっさと別れよう。
「ちょっと急いでいるから、そろそろ行きたいんだけど・・・・」
「えっ、あんたが急ぐ用事なんてなくない?いつも暇じゃん。クーラー壊れたから涼みに行くだけでしょ?」
訂正しよう。この女は大っ嫌いだ。いや、言っていることは全てあっているのだけど。クーラーが壊れたことを知っているのならば「クーラー壊れちゃったの?じゃあ私の家に涼みに来る?というか来て!」とかギャルゲーでありそうなセリフを言えばかわいいものなのに。やはり3次元はくそである。2次元最高!!!!!!!
「だれがあんたにそんなセリフ言うかよ!」
やはりこの女怖すぎる。20分前の自分に電話ができるなら、今日はその地獄みたいに暑い家から一歩も出るな。と声をかけるのに。Z軸のある女には期待をしてはいけない。と心に刻んだ。ついでに3次元なんて滅びろと。
「まあ、どうせ図書館かファミレスかゲームセンターに行こうなんて考えていたんでしょ。いいよ、うちにこない?」
前言撤回。3次元もなかなか捨てたものじゃない。でもさすがにこの年になって家に上がるのは気まずいので丁重にお断りしよう。というかあの女といたらこっちの体と心が持たない。さっさと別れて、一生会わないように立ち回ろう。そう心に誓って柊は翔香に向かって言った。
「いいの!サンキュー!助かった!!!」
・・・・・己の敵は己ただ一人というのはこのことか。いや違うけど。
ついに心と体が別々に動くようになってしまったらしい。いや、心の奥底では実は家に上がりたかったとか思っていたとかそういうわけじゃないのだが。なんというかここで断ったらかわいそうというか?失礼というか?下心なんて全くなかったんだからね!
そんな柊の考え事とは関係なく翔香はなんか安心したような、そんな表情を浮かべていた。

そんなわけで何年ぶりかに翔香の家に上がることにした。
「洗面所そのドアだから、あと私の部屋は2階にあがったとこの右ね。覚えてる?」
なんとなく懐かしい匂いがした。昔はよく遊び行ったのだが、年齢が上がるにつれて恥ずかしくなり高校生になってからは全くというほど会わなかった。昔はよくプロレスの技とか言って関節技をかけられていたっけ・・・と思い出したくないことを思い出した。
「私は何か食べられるものを探してくるから先に部屋に行ってて」
部屋に入るとすっかり女子の部屋って感じがしてなんとなく居心地が悪かった。目のやり場所がなく視線を彷徨わせていたらつけっぱなしのPCが目に入った。
彼女がつけっぱなしにしていたPCを覗くと、2ちゃんの都市伝説のページだった。すこし罪悪感を感じながらもそのページをスクロールしていくとこういう話だった。
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都市伝説を語るスレ
<291>名無しさん:とあるパソコンのゲームをプレイすると異世界に飛ばされるって話みなさんは知っていますか?
<292>名無しさん:↑うわっ 嘘っぽすぎwww
<293>名無しさん:↑↑釣り乙
<294>ペリー提督:↑↑↑kwsk
<295>名無しさん:いや、俺も聞いた話だから詳しく知らないんだけど、なにかのゲームをやった友人が急に行方不明になったって話だったと思う。
<296>名無しさん:あやふやすぎワロス
<297>名無しさん:私もそれ聞いたことあります!
<298>名無しさん:↑自演乙
<299>ペリー提督:もうちょっと情報ないのかなあ?せめてどんなゲームだったとか・
<300>名無しさん:すいません。たしか無料ゲームだった気がするんですが・・・パンドラの箱みたいな名前だったかも。
<301>通行人R :ペリーさんそいつの言うこと信じないでいいですよwそいつほかの場所でも荒らししているやつだと思いますからw
<302>ペリー提督:そうなの?
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「ちょっと!!なに勝手に人のパソコン見てるの!ほんっとありえない!!!!」
「ご、ごめん。つい気になっちゃって・・・悪かった。」
翔香が急に泣き出しそうな顔をしながら聞いてきた
「どう思う?」
「どう思うって何が??」
「この都市伝説のことをどう思うってこと。」
「ん、よくあるてきとうに作った噂の一つなんじゃない?まず異世界って時点でありえないし・・・あまりにもてきとうに作りましたって感じの都市伝説だね」
実際だれでも思いつきそうな話だったし。ほかにもエレベーターに乗って異世界に行く方法など異世界に行くという嘘の話は数多くあった。それなのに翔香が悲しそうな顔をしているのが分からなかった。翔香はゆっくりと前置きを置いてこう言った。
「あのね、本当に意味の分からない話だから聞き流してもいいんだけどね、自分でもあまり信じられないのだけど。私の友達がこの前急に行方不明になったの。」
翔香から聞いた話はとても信じがたく、なにかのドッキリなんじゃないかと思ってします話だった。

翔香の話をまとめるとこうだ。
夏休みになって友達で集まって怪談大会をやろうということになった。
言い出しっぺの梨乃の家に集まり翔香と梨乃を入れた5人で怪談を始めた。
そして最後が梨乃の番だった。彼女が話したのはあるネットゲームの話。そのネットゲームを始めてしまうと、最後この現実の世界に帰ってこられないというお話。それっぽいページを見つけたから今から試してみると言って。彼女は自分のPCを開いた。もちろん全員がどうせ都市伝説でしょと信じていなかった。そして梨乃がそのゲームの開始ボタンを押した。その瞬間目の前が真っ白になって気を失った。
次に翔香らが目を覚ましたとき梨乃は家にいなかった。家の中を見ても鍵は全てしまっていたのに。最初は梨乃がふざけてみんなを脅かそうとしているんだよ。と思った。しかしいつまでたっても現れない。そして梨乃の使用したPCも一緒に消えていた。
次の日にも次の次の日にも梨乃は現れない。そうしてもしかして都市伝説が本当なんじゃないかとPCで調べたけど、手掛かりはほとんどなかったという話だ。

翔香と出会ったとき翔香のテンションが高かったのは心配の裏返りだったらしい。本当はどうすればいいかわからなくて途方に暮れていた。「いつもはあんなにテンション高くないからね。幼馴染の顔をみてなんか安心しちゃって」翔香は恥ずかしそうに言った。
柊はこの都市伝説をちょっと可愛くなっていた翔香と調査すると決めた。
彼らはすでにパンドラの箱に引き寄せられていたとは知らずに。