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小説に挑戦③ - (2016/02/27 (土) 21:37:31) のソース

*パンドラ・ワールド


***序章

この世には開けてはならないパンドラの箱がある。箱の中には無数の厄災が入っていると言われている。 
それは、病気、悪意、妬み、憎しみ、偽善、保身、悲しみ、飢え、暴力、狂気・・・ 
そして「希望」 
希望という、あるかないかわからないその厄災によって、人々は数々の苦痛に向き合い続けなければならない。 
大昔、神話で開けられて、そして閉じられたその箱は今どこにあるのかは誰も知らない。 
存在するか、しないか、どこにあるのか、再び開けられることがあるのか。 
そして本当の中身は何なのか。 
人々に忘れられたその箱は世界の片隅でじっと開けられる瞬間を待っているのかもしれない。そして、ふとした瞬間にその箱を開けてしまうのはあなたかもしれない。 

「ようこそパンドラの世界へ」 


***1 再開

高校生の藤枝柊が目を覚ましたのは夏休み真っ只中の午後2時すぎだった。クーラーは壊れ、たいした風の来ない扇風機だけがカラカラと回り続けている。 
「あっちー。どうなってんだよ今年の夏は」 
冷蔵庫で冷やしておいたサイダーを一気飲みながら柊は呟いた。 
この殺風景な部屋で唯一まともにあるテレビを付けるとちょうど猛暑についてのニュースをやっていた。 
「今年の夏は例年より5度ほど暑くなり、各地で最高気温の更新が続いています。しっかり水分を取り、外出は控え熱中症に注意してください。」 
その後熱中症による患者数のグラフに画面が変わった。 
柊が住んでいるこの町の気温も毎年30度前後なのだが、今日は38度と体が溶けそうな暑さである。アニメでお気に入りのキャラが「体がアイスになっちゃうよー」と言っていたときは中々いいものだと思ったのだが、実際その暑さになってみると地獄そのものである。  
心の中でアニメのキャラに謝罪をしながら、とりあえず着替えて出かける準備をする。 
昨日調子に乗って朝までゲームをしてしまった。そのせいか体と気持ちが重いが、こんな家にいたらいつ死んでもおかしくない。とりあえずクーラーのある場所に避難しなければ。 

全く手を付けていない夏休みの宿題と筆箱、財布、スマホをもって柊はとりあえず家を出た。「もう、今年の夏が熱いのがいけないんだからねっ!夏のバカ!」 という、ツンデレキャラがいいそうなセリフを頭に思い浮かべながら、日差しを反射して、すでに熱い鉄板となっているアスファルトの上を自転車でこぎ続け た。夏に避難するとなると図書館かファミレスか、はたまたゲームセンターか。そんなことを思い浮かべていると会いたくない顔が視界に入った。「危なっ」と 思って急ブレーキをかけ方向転換したが遅かった。 
幼馴染である小日向翔香はこっちに気がつき声をかけてきた。 
「やあ!柊じゃん、ひっさー。どうしたのそんな青い顔して。食べ物でもあたった?それとも心配事?」 
どうやら彼女は青ざめているのが自分の原因だと気がついていないようだ。 
「今日マジで熱いよね~。外でてる私が言うのもなんだけどこんな日は家の中でごろごろしてたほうがいいんじゃね?もしかして家のクーラーが壊れたとか?まさかそんなことあるわけないよねっ!」 
怖い。彼女は何か心を読む特殊能力を持っているのじゃないかと思ってしまう。なるべく悟られないように平然な顔で答えた。 
「そんなわけないじゃん、親に買い物頼まれてさー。こんな暑い日なのにー。ははは・・・」 
「え、てきとうに言ったのに図星!?うわっクーラー壊れるとかありえねー。というか柊って今一人ぐらしでしょ?」 
不覚。とっさに嘘をついたのでぼろが出てしまった。やっぱりこの女嫌いである。かかわりたくない。さっさと別れよう。 
「ちょっと急いでいるから、そろそろ行きたいんだけど・・・・」 
「えっ、あんたが急ぐ用事なんてなくない?いつも暇じゃん。クーラー壊れたから涼みに行くだけでしょ?」 
訂正しよう。この女は大っ嫌いだ。いや、言っていることは全てあっているのだけど。クーラーが壊れたことを知っているのならば「クーラー壊れちゃったの? じゃあ私の家に涼みに来る?というか来て!」とかギャルゲーでありそうなセリフを言えばかわいいものなのに。やはり3次元はくそである。2次元最高!!!!!!! 
「だれがあんたにそんなセリフ言うかよ!」 
やはりこの女怖すぎる。20分前の自分に電話ができるなら、今日はその地獄みたいに暑い家から一歩も出るな。と声をかけるのに。Z軸のある女には期待をしてはいけない。と心に刻んだ。ついでに3次元なんて滅びろと。 
「まあ、どうせ図書館かファミレスかゲームセンターに行こうなんて考えていたんでしょ。いいよ、うちにこない?」 
前言撤回。3次元もなかなか捨てたものじゃない。でもさすがにこの年になって家に上がるのは気まずいので丁重にお断りしよう。というかあの女といたらこっちの体と心が持たない。さっさと別れて、一生会わないように立ち回ろう。そう心に誓って柊は翔香に向かって言った。 
「いいの!サンキュー!助かった!!!」 
&nowiki(){・・・・・己の敵は己ただ一人というのはこのことか。いや違うけど。 }
ついに心と体が別々に動くようになってしまったらしい。いや、心の奥底では実は家に上がりたかったとか思っていたとかそういうわけじゃないのだが。なんというかここで断ったらかわいそうというか?失礼というか?下心なんて全くなかったんだからね! 
そんな柊の考え事とは関係なく翔香はなんか安心したような、そんな表情を浮かべていた。 

そんなわけで何年ぶりかに翔香の家に上がることにした。翔香の親ってどんな顔だったけーと思い浮かべながら「お土産もってこなくて大丈夫だったかな?」と彼女に聞くと、彼女はかぶりを振ってこたえた。 
「今日は誰もうちにいないから、そうじゃなきゃ家に来ていいなんて言わないよ」 
信用されているのかされていないのかよくわからないが、まあ家に入れてもらえるというからそれなりに信用されているのだろう。それより家に一人で男子をあがらせるのは不用心すぎるんじゃないか。 
翔香の家に入ると、なんとなく懐かしい匂いがした。昔はよく遊び行ったのだが、年齢が上がるにつれて恥ずかしくなり高校生になってからは全くというほど会わなかった。 
「洗面所そのドアだから、あと私の部屋は2階にあがったとこの右ね。昔よく遊んだの覚えている?」 
友達が少なかった柊に声をかけて一緒に遊んでくれたし、さすがに細かいことは覚えていないが、翔香は昔からお転婆だったことぐらいは覚えている。そういえば昔はよくプロレスの技とか言って関節技をかけられていたっけ・・・と思い出したくないことまで思い出してしまった。 
「まあ昔のことだし覚えてないっか。私は何か食べられるものを探してくるから先に部屋に行ってて」 
彼女はそういうとリビングの奥の方にすがたを消してしまった。 
階段を上がる途中壁にへこみ傷がついているのが見えた。そういえば昔翔香が階段から思いっきり落ちて大騒ぎになったっけ。意外と覚えているもんだなと思いつつ彼女の部屋のドアを開けた。 
部屋に入るとすっかり女子の部屋って感じがしてなんとなく居心地が悪かった。目のやり場所がなく視線を彷徨わせていたらつけっぱなしのPCが目に入った。 
彼女がつけっぱなしにしていたPCを覗くと、2ちゃんの都市伝説のページだった。すこし罪悪感を感じながらもそのページをスクロールしていくとこういう話だった。 
&nowiki(){・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・} 都市伝説を語るスレ 
<291>名無しさん:とあるパソコンのゲームをプレイすると異世界に飛ばされるって話みなさんは知っていますか? 
<292>名無しさん:↑うわっ 嘘っぽすぎwww 
<293>名無しさん:↑↑釣り乙 
<294>ペリー提督:↑↑↑kwsk 
<295>名無しさん:いや、俺も聞いた話だから詳しく知らないんだけど、なにかのゲームをやった友人が急に行方不明になったって話だったと思う。 
<296>名無しさん:あやふやすぎワロス 
<297>名無しさん:私もそれ聞いたことあります! 
<298>名無しさん:↑自演乙 
<299>ペリー提督:もうちょっと情報ないのかなあ?せめてどんなゲームだったとか・ 
<300>名無しさん:すいません。たしか無料ゲームだった気がするんですが・・・パンドラの箱みたいな名前だったかも。 
<301>通行人R :ペリーさんそいつの言うこと信じないでいいですよwそいつほかの場所でも荒らししているやつだと思いますからw 
<302>ペリー提督:そうなの? 
&nowiki(){・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・} 「ちょっと!!なに勝手に人のパソコン見てるの!ほんっとありえない!!!!」 
「ご、ごめん。つい気になっちゃって・・・悪かった。」 
翔香が急に泣き出しそうな顔をしながら聞いてきた 
「どう思う?」 
「どう思うって何が??」 
「この都市伝説のことをどう思うってこと。」 
「ん、よくあるてきとうに作った噂の一つなんじゃない?まず異世界って時点でありえないし・・・あまりにもてきとうに作りましたって感じの都市伝説だね」 
実際だれでも思いつきそうな話だったし。ほかにもエレベーターに乗って異世界に行く方法など異世界に行くという嘘の話は数多くあった。それなのに翔香が悲しそうな顔をしているのが分からなかった。翔香はゆっくりと前置きを置いてこう言った。 
「あのね、本当に意味の分からない話だから聞き流してもいいんだけどね、自分でもあまり信じられないのだけど。私の友達がこの前急に行方不明になったの。」 
翔香から聞いた話はとても信じがたく、なにかのドッキリなんじゃないかと思ってします話だった。 

翔香の話をまとめるとこうだ。 
夏休みになって友達で集まって怪談大会をやろうということになった。 
言い出しっぺの梨乃の家に集まり翔香と梨乃を入れた5人で怪談を始めた。 
そして最後が梨乃の番だった。彼女が話したのはあるネットゲームの話。そのネットゲームを始めてしまうと、最後この現実の世界に帰ってこられないというお 話。それっぽいページを見つけたから今から試してみると言って。彼女は自分のPCを開いた。もちろん全員がどうせ都市伝説でしょと信じていなかった。そして梨乃がそのゲームの開始ボタンを押した。その瞬間目の前が真っ白になって気を失った。 
次に翔香らが目を覚ましたとき梨乃は家にいなかった。家の中を見ても鍵は全てしまっていたのに。最初は梨乃がふざけてみんなを脅かそうとしているんだよ。と思った。しかしいつまでたっても現れない。そして梨乃の使用したPCも一緒に消えていた。 
次の日にも次の次の日にも梨乃は現れない。そうしてもしかして都市伝説が本当なんじゃないかとPCで調べたけど、手掛かりはほとんどなかったという話だ。 

翔香と出会ったとき翔香のテンションが高かったのは心配の裏返りだったらしい。本当はどうすればいいかわからなくて途方に暮れていた。「いつもはあんなにテンション高くないからね。幼馴染の顔をみてなんか安心しちゃって」翔香は恥ずかしそうに言った。 
柊はこの都市伝説をちょっと可愛くなっていた翔香と調査すると決めた。 
彼はすでにパンドラの箱に引き寄せられていたとは知らずに。 

***2 都市伝説

都市伝説の話は調べてもあまりそれっぽいものは見つからなかった。翔香が嘘をついているわけではないのだろうが、ないのだから仕方がない。柊はキーボードをたたくのをやめて呟いた。
「その梨乃って子がどこからその情報を得たのかが分かればなあ。そういや翔香たちもそのPCの画面は見たんだよね?少しでいいからどんなのだったか覚えていない?」
「ごめん、どんなページだったかほとんど覚えていない」
翔香は申し訳なさそうに小さな声で言った。
「べつに謝ることはないって。だれだってそんなことがあれば忘れちゃうよ。そういえば失踪したことはもう公になっているの?」
翔香は少し動揺したように見えた。そして少し間を置いてこう言った。
「いや、まだ。梨乃は一人暮らしだし、友達はもし5日しても現れないなら警察に相談するって決めたから・・・・」
「まあ消えた状況が状況だからね。大人に相談しても取り合わせてくれないかもね」
そう答えて、続けて聞いた。
「ほかの友人が何か手がかりを知っている可能性は?もしかしたらページを覚えている子がいるかも」
しかし翔香は即否定した。
「それはない。梨乃が消えたときにみんなで話し合ったけど誰一人ページのことは覚えていなかった。」
「そっか、それなら手掛かりはほぼ0だなあ。」
「そもそもその都市伝説があるかどうかも分からないもんね・・・・」
翔子と会話をしながら時間はゆっくりと過ぎて行った。外は昼の快晴から一変、夕立がきて空は一面灰色で埋まっている。理由は分からないが、この天気がなんともいえない恐怖を呼び起こさせる。
翔子とよくここで遊んだというのに、なぜだか過去の記憶とこの部屋が結びつかなかった。何かが足りない気がする。きっと部屋の雰囲気が変わったからだろうと柊は結論づけた。

いつの間にか日が暮れていた。これ以上お邪魔すると翔香の親が帰ってくるかもしれないので、柊は帰ることにした。翔香とは「お互い進展があったら連絡するようにと」連絡先だけ交換して、その日は別れた。

夜は昼間の暑さを忘れるほどに冷え込んだ。きっと今日体調を崩す人は多いだろう。そんなことを思いながら柊は毛布を着込み、自分のノートパソコンを広げた。そして今のところ唯一の情報源であろう2チャンのスレッドを検索した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<319>名無しさん: 新宿駅の××線のホームの下で、工事中に事故で死んだ人がいるらしいですよ。職員通路を使わないといけない場所だけど幽霊の目撃談が絶えず、この真上にあたる××線ホームでは、飛び込み自殺が異様に多いらしい。幽霊に背中を押されて線路に落ちそうになった人もいるって話です。
<320>名無しさん:↑怖っ
<321>名無しさん:このコメントは違法行為により取り消しされました。
<322>名無しさん:>>319 おい、明日から××線使えねえじゃないかwwwww 
<323>名無しさん:そういえば今日も××線が人身事故で止まってましたね・・・・
<324>名無しさん:>>323 俺も朝それで会社に遅刻したわ
<325>名無しさん:>>323 >>324  やめれwwwwww
<326>ペリー提督:もっとおらに都市伝説を教えてくれー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柊はなんか場違いだなあと思いつつ掲示板に書き込んだ。
<327>冬木のドラえもん:>>291,295 >>297 俺の友達もそんなこと言ってたのですが、情報源ってどこだか分かります?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<328>名無しさん:またこの話かよ。帰れ。
<329>名無しさん:聞いたら死ぬと言われているこの歌 https://www.abc.com/?gl=JP =w1&qo 閲 覧 注 意
<330>名無しさん:>>329 本当だ、聞いたら死んでしまったぜ!
<331>名無しさん:なんだ・・・・と・・・・
<332>名無しさん:>>329 特に何も起きないが。
<333>名無しさん:芸能人の深山ひかる あの美貌で38歳!!
<334>名無しさん:↑なんの関係があんだよw
<335>名無しさん:>>333 それは「歳」伝説。
<336>名無しさん:>>335 ツッコミありがとう!!!
<337>名無しさん:わかりづれーよwwwwwwwwwwww
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最初から期待はあまりしていなかったが、どうやら情報は一つもないらしい。明日からどうやって調査しようかと考えながら、そろそろ寝ようとベッドに入り込んだときその書き込みがあった。
<341>名無しさん:>>327 たぶんこのページのことだと思います。http://game.com/yume4 /hakoworld.cgi

一気に感情が高まった。柊はそのページのURLをクリックした。一見ふつうのゲームのように見えたが、念のためゲームは開始しないことにした。今すぐにでも翔香に連絡を取りたかったがもう1時を回っていたので明日にしようと決めた。柊はノートパソコンを閉じ、電気を消して、今日一日のことを思い返した。
何年振りかに翔香に会い、そして翔香の家に行くことになり、たまたまPCを見てしまった。そして翔香から信じられないような話を聞き、それに協力することになり、ついにその事件の始まりであるだろうインターネットのページを見つけた。
柊は達成感と同時になにかうまく行き過ぎているような、そんな不安を感じた。まるで誰かが柊たちを誘導しているんじゃないかと思ってしまうほどに。そしてそのまま柊は深い眠りについた。

翔香が泣いている。一人で誰にも見られないように隅で縮こまりながら。その様子に柊だけが気付いている。遠くからその様子を眺めている。翔香のもとに行かなければならない。なのに心とは裏腹に柊の体は翔香から遠ざかっていく。やがて翔香の姿は見えなくなった。

柊は目が覚めた。昨日と違って涼しい朝だったが、柊はびっしょりと汗をかいていた、とりあえず昨日分かったことを翔香に報告した。
「件名 サイト見つけた! 本文 昨日の夜、都市伝説のページを見つけました。昨日翔香が見ていた掲示板なんだけど、もう確認したかな?もし見てなかったら確認しといてください。これからどうする?俺は最後まで手伝いたいんだけど。」
改めて文にするとなにかムズムズとした恥ずかしさが込み上げてきた。
シャワーを浴び、着替えている最中に翔香から返信が来た。
「差出人:翔香  件名:今日の予定 本文:サイト確認しました!もしかして冬木のドラえもんって柊!? (柊→木冬→冬木 ドラえもんは分からん) 間違っていたらゴメンネ^^;。よかったら今日もうちに来る?やっぱ一人だと心配だし、柊が良ければだけど。今来たら朝食もごちそうできるよ☆」
柊は迷った。翔香が料理をするなんて想像がつきにくい。なにしろおにぎりさえ作れなかったのだから。昔、料理ができないはらいせに、柊が食べようとしたカレーにこっそりタバスコを大量に入れられて、そのカレーを何も知らずに食べてしまったことを思い出した。うん、やめとこう。翔香のとんでも料理を食べて死ぬなんて最後は嫌だ。柊は翔香の朝食のお誘いを丁重にお断りする文を送った。
「件名:え、翔香って料理作れたの!?ちょっと食べてみた△×$%&#! 本文:朝食の件について」
送信ボタンを押してから文がおかしいことに気がついた。
「しまったーーーーーーーー」
どうやら翔香が料理を作るというのを聞いて予想以上に混乱してしまったようだ。包丁を料理で使うのより武器で使うほうが似合っている。今からでも訂正の文を送らなければ。
しかし、訂正の文を送るよりも先に返信が来てしまった。
「差出人:翔香 件名:日本語でOK? 本文:ちょっと文がおかしいけど、これは食べてみたいです。よろしくお願いします。ってことでいいのかな? もう二人分つくり始めているから絶対に来てね。じゃあまたあとで」
地獄だ。地獄である。これで柊の運命は2択になった。
1.料理と呼べないものが出てきて、食べる羽目になる。2.料理を食べないで、柊が料理される。
柊は苦渋の決断で1を選択した。「二人分」つくると言っているのだから食べれるものが出てくる可能性もあるかもしれない。柊は急いで出かける準備をし、家を出た。
翔香の家のインターホンを押すと、エプロン姿の翔香が出てきた。
「もうすぐできるよ。入って入って」
柊がリビングを見渡すと、昔あった壁や棚に飾ってあったものは一切なくなってさっぱりとした感じになっていた。たしかここに作者は忘れたが、有名な絵が飾ってあったっけと思いにふけっていると、翔香がキッチンから料理をもって出てきた。
「おまたせ。朝が遅かったせいであんまり手の込んだものはできなかったけど。」
柊はびっくりした。翔香が作った料理は普通のおいしそうな料理だった。
「え、普通のおいしそうな料理なんだけど!?」
声に漏れていたらしい。翔香は一瞬冷たい目線を送って、その後にっこりと笑ってこう言った
「どうせ料理が全くできないと思っていたんでしょ。あれからもう何年もたっているんだから少しぐらいできるようになってるよ」
「そっか、てっきり翔香は一生料理ができないだろうと思ってた。ごめん」
「何それ失礼すぎるでしょ!」
翔香の料理はとても美味しかった。もちろんタバスコなんかは入っていなかった。
「先に2階に行ってて、私は少し片づけをするから」
柊はなんで翔香と遊ばなくなったのかを考えていた、家に行ったり遊んだりはしなくても、翔香を避けようとしなくてもよかったんじゃないかと。
柊は階段を上り、左側の部屋のドアを開けた。そしてその部屋が翔香の部屋じゃないことに気がついた。しかしそれならばここの部屋は何の部屋だろう。部屋の中には物が一つもなかった。たしか昔は、翔香の親のどっちか、またはその両方が使っていた部屋だったっけ。
柊はドアを閉め、反対側の翔香の部屋に入った。
しばらくすると翔香も部屋に入ってきた。
「おまたせ」
柊は朝食を食べていた時から気になっていた質問をした。
「目の下にくまができているけど、昨日はあんまり寝なかったの?」
翔香は少し目を泳がせながら、「うん、ちょっと不安で寝れなかった」と言った。
きっと何か触れられたくないことがあったのだろう。柊は「そう」と短く答え、本題に入った。
「掲示板に貼ってあったゲームのサイトみた?」
「うん、ちょっと待ってね。今そのページを開くから」
翔香はそういいながらパソコンを立ち上げて、キーボードを打ち始めた。
「あった、このページでしょ?」
そういって、昨日柊がみた何かのゲームっぽい画面こっちに向けた。
その画面にはこう書いてあった

ボックス・クエスト
・はじめから
・つづきから
・殿堂入り

「ふつうのRPGっぽいけどなあ。」
柊は思ったことを口に出していった。いかにもしろーとが作ったフラッシュゲームっぽかった。
「殿堂入りって言うのが気になるな。それだけクリアが難しいのかな?」
「ちょっと押してみるね。」
翔香がそういってそのボタンを押すと画面が切り替わった。
~殿堂入り~
慎二
悠輝
清一郎
文恵
怜奈
洋平
そして、梨乃

「間違いない、このページだ。」
翔香は言った。そして柊のほうを向いてこういった。
「ここから先はもしかしたら柊にも危険が及ぶかもしれないから、もし帰りたいと思っているなら帰っていいよ」
「ううん、ここまで来たらもう巻き込まれてるんだよ。だから最後まで付き合う」
「ありがとう。柊ならそういってくれると思った」
翔香は少しほっとしたようにそう言った。
「じゃあいくよ」
翔香は「はじめから」のボタンを押した。

第一プレイヤーの名前「」※本名推奨
第二プレイヤーの名前「」※本名推奨
       OK
翔香、柊と名前を入力して、震える手でOKボタンを押した。
♪てれれってれー
レトロな音楽と一緒にゲームが始まった。ゲーム自体は簡単だった。最後のボックス。パンドラボックスを手にするまで15分とかからなかった。そして翔香は思い出すように頭を押さえながら
「たしか、梨乃は最後にこのボックスを使わなったはず」
とつぶやいた。そしてアイテムボタンを押すとアイテムの解説とコマンドが出てきた。
・パンドラボックス
特徴:世の中の負のエネルギーが詰まっているらしい。しかしその奥には希望も入っているという。絶対に空けてはならない。」
>封印する 
>開ける

>アイテム欄を閉じる
翔香は「思い出した」と言った。そしてマウスカーソルを迷いなく、封印するでも、開けるでもなくその下の空欄に持っていった。翔香がその空欄をダブルクリックすると画面全体が赤くなり、画面中央に「本当に箱の中に入りますか? はい いいえ 」という警告文が出てきた。
「柊。押していい?」
翔香は柊に再度確認してきた。
「うん、いいよ。」
翔香がゆっくりとマウスカーソルを「はい」に持っていき、そのボタンを押した。
その瞬間、柊の視界はぐにゃあと奇妙に曲がり、そのままブラックアウトした。