H17. 6.20 名古屋高等裁判所金沢支部 平成15年 (ネ) 第142号 損害賠償等請求,精算金請求控訴事件

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H17. 6.20 名古屋高等裁判所金沢支部 平成15年 (ネ) 第142号 損害賠償等請求,精算金請求控訴事件 - (2005/08/22 (月) 13:35:25) の1つ前との変更点

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判示事項の要旨: コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においてフランチャイザーからフランチャイジーに提供された売上予測等情報が適正なものでなかったことを理由として,フランチャイジーからの適正な情報提供義務違反を内容とする不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容するとともに,フランチャイザーからの精算金請求を上記情報提供義務違反を理由として信義則により一部棄却した事例 主    文 1 本件各控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 2 控訴人会社は,被控訴人Aに対し,285万2680円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人らは,控訴人会社に対し,連帯して,303万7260円及びこれに対する平成9年12月11日から支払済みまで日歩5銭の割合による金員を支払え。 4 被控訴人Aのその余の請求及び控訴人会社のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,第1,2審を通じて,控訴人会社と被控訴人Aとの間に生じた分を10分し,その1を控訴人会社の負担とし,その余を被控訴人Aの負担とし,控訴人会社と被控訴人Cとの間に生じた分を4分し,その1を控訴人会社の負担とし,その余を被控訴人Cの負担とする。 6 この判決第2,3項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人会社の控訴について (1) 控訴人会社 ア 原判決を次のとおり変更する。 イ 被控訴人らは,控訴人会社に対し,連帯して,800万1479円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで日歩5銭の割合による金員を支払え。 ウ 被控訴人Aの請求を棄却する。 エ 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 オ 仮執行宣言 (2) 被控訴人ら ア 控訴人会社の控訴を棄却する。 イ 控訴費用は控訴人会社の負担とする。 2 被控訴人Aの控訴について (1) 被控訴人A ア 原判決中,被控訴人Aの請求に関する部分を次のとおり変更する。 イ 控訴人会社は,被控訴人Aに対し,3228万4583円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人会社の負担とする。 エ 仮執行宣言 (2) 控訴人会社 ア 被控訴人Aの控訴(当審で追加された請求を含む。)を棄却する。 イ 控訴費用は被控訴人Aの負担とする。 第2 事案の概要 1 訴訟とその経過 (1) 本件は,脱退会社との間でコンビニエンスストアのフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結した被控訴人Aが,脱退会社に対し,脱退会社が被控訴人Aに対して適正かつ合理的な情報(売上予測及び利益予測)を提供すべきであるのにこれを怠ったとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,また,脱退会社から提供された上記情報が適正かつ合理的なものであると誤信して本件契約を締結したとして,同契約の錯誤無効による不当利得返還請求権に基づき,それぞれ,被控訴人Aの損害又は損失の合計3228万4583円及びこれに対する平成9年4月17日(y店の営業廃止の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた訴訟(原審平成11年(ワ)第641号。以下「甲事件」という。)と,脱退会社が,本件契約に基づき,被控訴人らに対し,中途解約に伴う精算金800万1479円及びこれに対する平成9年4月17日(本件契約解約日の翌日)から支払済みまで日歩5銭の割合による約定遅延損害金の連帯支払を求めた訴訟(原審平成12年(ワ)第183号。以下「乙事件」という。)が併合審理された事案であるが,これら訴訟が原審に係属中,脱退会社が,その商号を「E株式会社」から「株式会社F」に変更した上,その営業全部(コンビニエンスストア経営事業)を承継させるために商法373条に基づく新設分割により控訴人会社(商号:O株式会社)を設立したため,脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社が甲事件及び乙事件について訴訟引受けをして,脱退会社は脱退した。 (2) 原審は,甲事件について,被控訴人Aの控訴人会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求を133万9000円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余を棄却し,乙事件について,控訴人会社の請求を棄却したが,これを不服とする控訴人会社及び被控訴人Aがそれぞれ控訴を提起した。 (3) 被控訴人Aは,当審において,脱退会社が本件契約上の信義則に基づき負担する客観的で適正な情報を提供すべき義務を履行しなかったことを理由として,債務不履行による損害賠償請求を選択的に追加した。 (4) 略語は,原判決に準じるものとする(ただし,引用する原判決中の「清算金」,「清算」を,それぞれ「精算金」,「精算」と改め,「引受承継人」を「控訴人会社」と,「脱退当事者」を「脱退会社」と読み替える。)。 2 前提事実 以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) (1) 原判決3頁3行目の「甲16」を「甲16,17,24」と改め,同4行目の「20,」の次に「23,」を加える。 (2) 原判決3頁21行目と22行目の間に次のとおり加える。 「エ 脱退会社は,平成13年7月2日,その営業全部(コンビニエンスストア経営事業)を承継させるために商法373条に基づく新設分割により控訴人会社(商号:O株式会社)を設立し,控訴人会社が,脱退会社の権利義務を承継した。」 (3) 原判決5頁7行目の「賃貸して」を「賃借して」と改める。 (4) 原判決12頁25行目の「オープン後」から同末行の「行い」までを「オープン当初の数日間は脱退会社の社員が多数派遣されたが,その後は,特に応援もなく」と,同末行の「その間の」を「オープンした同年7月30日及び翌31日の売上高は50万4102円(日額約25万円)にとどまり,8月中の売上高も565万6463円にすぎず,平均」と,それぞれ改める。 (5) 原判決14頁12行目の「位置し,」から同13行目末尾までを次のとおり改める。 「位置しているものの,片側2車線の幹線道路を挟んだ反対側にある上,y店よりもはるかに多数の車両が駐車できる敷地を有するため,p金沢店との比較において,片町方面から来る車両にとっての利便性が高く,また,上記幹線道路がp金沢店側との徒歩による消費者の行き来を困難にしているため,上記幹線道路の上記新店舗側の住民にとっての利便性が格段に高くなることも併せると,上記新店舗はy店とは異なる商圏を持つものであった(甲29,乙23)。」 3 争点 (1) 被控訴人Aの損害賠償請求権の成否(不法行為責任及び債務不履行責任に共通。争点1) ア 脱退会社に情報提供義務違反が認められるか イ 被控訴人Aの損害額 ウ 消滅時効の成否(当審での新たな争点) (2) 被控訴人Aの不当利得返還請求権の成否(争点2) ア 被控訴人Aの本件契約締結の意思表示は錯誤によるものか イ 被控訴人Aの損失及び脱退会社の利得の有無 (3) 控訴人会社の精算金請求の成否(争点3) ア 被控訴人Aの本件契約締結の意思表示に錯誤があるか イ 控訴人会社のP勘定残高の請求が信義則違反ないし権利濫用か ウ 控訴人会社の約定解約違約金の請求は公序良俗違反ないし信義則違反かエ 被控訴人Aの解約についてやむを得ないと認められる特別な事由があっ たか 4 当事者の主張 (1) 争点1(被控訴人Aの損害賠償請求権の成否) ア 被控訴人Aの主張 (ア) y店の売上予測及び利益予測の問題点 以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の2(1)ア(ア)a(原判決14頁18行目から同16頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決14頁末行の「年間消費支出」から原判決15頁1行目の「とすること」までを「消費年間支出を9億円とすること,その7パーセントである6300万円をシェアとして基礎数値とすること」と改める。 (イ) 脱退会社の情報提供義務違反 a 以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の2(1)ア(イ)(原判決17頁6行目から同18頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決17頁16行目の「加盟店の募集に際し」を「加盟店を募集し,フランチャイズ契約を締結するに際し」と改め,同19行目の「信義則上の義務」の次に「(これは,フランチャイザーが,そのフランチャイザーとフランチャイズ契約を締結しようとするフランチャイジーに対して同契約上の信義則に基づき負担する義務でもある。)」を加える。 b そうすると,脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社には,被控訴人Aの被った損害について,不法行為に基づき又は債務不履行に基づきこれを賠償すべき責任がある。 (ウ) 損害額の算定 被控訴人Aは,脱退会社の上記情報提供義務違反行為がなければ,本件契約を締結することはなかったから,本件契約の締結によって同被控訴人が支出した次の金員は,上記情報提供義務違反行為によって同被控訴人が被った損害である。 a 脱退会社に対して交付した預託金   303万9000円 なお,原判決は,加盟証拠金50万円について,被控訴人Aがその返還請求権を有することを理由として,同被控訴人の損害と認めなかったが,控訴人会社は,加盟証拠金の返還を拒否しているから,これも損害として認めるべきである。 b 初期投資            合計 208万3970円 以下の合計金額である。 ① 電話敷設費用     16万8750円 (内訳)一般通話用(1回線)    7万2000円 本部連絡用(ISDN1回線)9万6750円 ② 保健所届出費用     5万0900円 ③ 備品消耗品費用    60万3600円 (内訳)有線            8万円 床下金庫         10万円 殺虫器           8万4600円 ストアコンピューター用机  2万5000円 ステンレスラック      9万4000円 クリンスター       22万円 ④ ビデオ設置工事費用 126万0720円 (リース料として支払分) c ロイヤルティ          2792万2333円 (a) 以下の合計金額である。 平成5年      420万6445円 平成6年      710万3952円 平成7年      775万4903円 平成8年      585万7844円 平成9年      299万9189円 (b) 控訴人会社の売上予測は外れ,y店の売上は開店早々から低迷した。そのため,ロイヤルティの負担は重く,最低保証金が支払われても,アルバイト従業員の人件費や水道光熱費,消耗品代,清掃費等を控除すると,被控訴人Aの生活費すら賄えなかった。かかる多額のロイヤルティの負担は損害と認めるべきである。 d 総計                3304万5303円 (エ) よって,被控訴人Aは,控訴人会社に対し,不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき,3304万5303円のうち3228万4583円及びこれに対する平成9年4月17日(y店の営業廃止の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (オ) 控訴人会社の主張(エ)に対して 消滅時効の起算点は現に権利行使が可能な時期であるべきところ,被控訴人Aが脱退会社による情報提供義務違反行為に基づく損害賠償請求権を現実に行使することが可能となった時期は,本訴提起時(平成11年12月7日)又はその直前であった。したがって,被控訴人Aの本訴提起により控訴人会社主張の消滅時効の進行は中断した。 イ 控訴人会社の主張 (ア) y店の売上予測及び利益予測が適正かつ合理的であること 原判決の事実及び理由の第2の2(1)イ(ア)aないしd(原判決18頁24行目から同21頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決19頁16行目の「通行車両も」を「通行車両も合算する。」と改める。 (イ) 適正な情報提供 上記(ア)のとおり,本件売上予測等は,客観的な情報に基づく適正なものであるから,脱退会社に情報提供義務違反の事実はない。 売上予測等はあくまで「予測」であって,法的義務として一層の厳密さを求めることは無理な要求であるから,売上低迷から直ちに売上予測の不適正,更には過失を推定するのは経験則に基づかないものというべきである。 (ウ) 損害額に対する反論 a 預託金について (a) 被控訴人Aが控訴人会社に預託した303万9000円(消費税3パーセント込み)の内訳は,加盟証拠金50万円,開業準備手数料100万円(消費税別),研修費用30万円(同),商品代金120万円,消費税3万9000円であり,加盟証拠金は,後記(3)アの精算金を算定する上で,既に被控訴人Aに返還した形となっている。加盟証拠金以外は,現にその目的に従って使われた費用であって,本件契約に基づく被控訴人Aによるy店経営の成果として同被控訴人がこれを享受しているから,同被控訴人に損失ないし損害はない。 (b) 加盟証拠金に係る被控訴人Aの主張は争う。 b 初期投資について (a) 電話敷設費用の一般通話用回線は既設電話加入権を移転させたにすぎず,別途出費されたものではない。また,本部連絡用回線は権利買取代金であり,電話加入権として被控訴人Aの資産となっているから,損害とはならない。 (b) 保健所届出費用のうち,平成5年の新規申請時の費用は,コンビニエンスストアとして飲食店営業,乳類・食品・魚介類販売業のために必要なものであったし,平成8年継続申請時の費用は,初期投資とはいえないものである。 (c) 備品消耗品の費用は,「什器・営業器具買取 14万0820円」として後記(3)アにより既に精算済みである。 (d) ビデオ設置工事費用は,平成5年9月から平成10年8月までの60か月間の毎月のリース料であって,初期投資ではないし,被控訴人Aは,y店明渡時,ビデオ類一式を全て運び出している。 c ロイヤルティについて 原判決の事実及び理由の第2の2(1)イ(ウ)c(原判決21頁25行目から同23頁4行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。 (エ) 消滅時効の援用 a 原審が,不法行為による損害賠償請求において被控訴人Aの損害として認めた133万9000円は,開業準備手数料(103万円)及び研修費用(30万9000円)であり,本件契約が締結された平成5年7月8日に支出されたものであるところ,同日から既に3年を経過したことで,上記損害賠償請求権は時効により消滅した。控訴人会社は,平成16年1月9日の当審第3回口頭弁論期日において,上記消滅時効を援用した。 b 被控訴人Aの脱退会社に対する債務不履行による損害賠償請求権は,上記契約締結日である平成5年7月8日から既に5年が経過したことで,時効により消滅した(商法522条)。控訴人会社は,平成16年3月15日の当審第4回口頭弁論期日において,上記消滅時効を援用した。 (2) 争点2(被控訴人Aの不当利得返還請求権の成否) ア 被控訴人Aの主張 (ア) y店の売上予測及び利益予測の問題点 上記(1)ア(ア)のとおりである。 (イ) 錯誤無効 被控訴人Aは,本件売上予測等が適正かつ合理的なものであると誤信し,実際に営業を開始すれば,様々な不確定要因のために予測どおりの売上額が得られないとしても,これに近い売上額があるものと考えて本件契約を締結したが,かかる誤信がなければ,被控訴人Aは本件契約を締結しなかったし,一般人であっても締結しなかったと考えられるから,本件契約は,被控訴人Aの錯誤により無効である。 (ウ) 被控訴人Aの損失及び脱退会社の利得 被控訴人Aの損失及び脱退会社の利得は,上記(1)ア(ウ)のとおりである。 (エ) よって,被控訴人Aは,脱退会社の地位を承継した控訴人会社に対し,不当利得返還請求権に基づき,3304万5303円のうち3228万4583円及びこれに対する平成9年4月17日(y店の営業廃止の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ 控訴人会社の主張 (ア) y店の売上予測及び利益予測が適正かつ合理的であること 上記(1)イ(ア)のとおりである。 (イ) 錯誤のないこと 本件売上予測等は,客観的な情報に基づく適正なものであるし,脱退会社が本件売上予測値を保証するものでないことは,被控訴人Aも理解していたから,被控訴人Aに錯誤はない。 (ウ) 被控訴人Aの損失及び控訴人会社の利得に対する反論 上記(1)イ(ウ)のとおりである。 (3) 争点3(控訴人会社の精算金請求の成否) ア 控訴人会社の主張 以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の2(2)ア(原判決23頁7行目から同24頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決23頁10行目の「引受承継人」を「脱退会社」と,24頁3行目の「引受承継人」を「脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社」と,それぞれ改める。 イ 被控訴人らの主張 原判決の事実及び理由の第2の2(2)イ(原判決24頁8行目から同25頁19行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 甲事件における被控訴人Aの請求について (1) 被控訴人Aの控訴人会社に対する損害賠償請求権の成否 ア 脱退会社の情報提供義務違反(争点1ア)について 当裁判所も,脱退会社には,信義則上の提供義務違反行為があったものと判断するが,その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3の2(原判決27頁24行目から同35頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。控訴人会社が当審で提出した証拠(乙91,93,乙94の1,2,乙95,96,乙97の1ないし8,乙98ないし100,102)は,上記判断を左右するに足りない。 (原判決の補正) (ア) 原判決28頁9行目の「上記の情報と」を「上記の情報が」と改め,同11行目の「できる。したがって,」を次のとおり改める。 「できるし,フランチャイザーとしても,フランチャイジー候補者が有する「当該店舗でどの程度の収益を得られるか」という切実な問題意識に対し,売上予測等を提供する以上,フランチャイザーは,フランチャイジー候補者がそれを信頼性の高い数値であると考えることを期待しているものというべきである。このことは,売上予測に反して経営が不振であった場合には,フランチャイザーの負担において,フランチャイジーを救済しようとする最低保証制度(本件契約の契約書34条)を設けることによって,売上予測等に対する自信を示し,もって,フランチャイジー候補者の売上予測等に対する信頼性を高めてその不安を和らげようとすること(Hによる被控訴人Aに対する説明もこれに沿うものであったと認められる。被控訴人Aの供述調書62頁)からも明らかである。 したがって,」 (イ) 原判決28頁12行目の「適正な予測」を「より確度の高い売上予測等を得るために,客観的で合理的な方法に則って行われた適正な予測」と改める。 (ウ) 原判決29頁12行目冒頭から同14行目の「ところで,」までを次のとおり改める。 「することは何ら不当ではないし,むしろ,H自身が,被控訴人Aに対し,本件売上予測等が必ず達成できる信頼性の高いものであると考えて(同人の証人調書29頁),フランチャイズ契約を締結させようとしていたのだから,このような記載があるからといって,上記の信義則上の情報提供義務に違反する本件売上予測等を提供したことによる損害賠償責任の有無を左右したり,これを免れさせたりするものではないというべきである。 これに対し,控訴人会社は,本件売上予測等はあくまで予測にすぎず,結果には責任を負わない旨主張する。しかし,そのような無責任なデータであるならば,そもそもフランチャイジー候補者に対してその旨明確に説明する必要があるのであり,被控訴人Aによる「儲かるのか」との質問に対しては,「それは分からない。」,「売上予測等はあくまで予測であって,実際とは異なることもある。」と明確に回答すべきであって,「最初の2,3年は大変だ」などというあいまいな回答(2,3年後には利益が期待できるかのような印象を与える。)をすべきではないのである。しかも,本件契約に関しては,H自身が上記のとおり本件売上予測等が信頼性の高いデータであると信じ,それに基づいて被控訴人Aを勧誘,説得しているのであるから,控訴人会社の上記主張は到底採用できるものではなく,脱退会社は,本件売上予測等については,情報提供義務の前提として,客観的で合理的な方法に則り,周到な調査を行った上で,適正な数値を求める義務があったものというべきである。 そうすると,」 (エ) 原判決29頁18行目の「推定する」から同22行目末尾までを「推認するのが相当である。」と改める。 (オ) 原判決31頁末行冒頭から同32頁1行目の「その間」までを「オープン後1か月間」と,同14行目の「推定」を「推認」と,それぞれ改める。 (カ) 原判決32頁15,16行目の「脱退当事者に過失がなかったと認められるか否か」を「脱退会社の過失の有無」と改める。 (キ) 原判決34頁7,8行目の間に次のとおり加える。 「 控訴人会社は,「p」と競合しない旨縷々主張し,証拠(乙96,控訴人会社担当者Jの陳述書)を提出する。しかし,Jがy店と「p」の各顧客の動向等に関して調査をした形跡は全くなく,同陳述書は何らの裏付けのない推論に終始している上,「p」と競合しないとしながら,「p」の営業時間外におけるy店の有用性を強調するにとどまり,営業時間内における競合状態につき何らの合理的な説明がない(Hは,軽食関係がコンビニエンスストアに有利と証言するが,具体的な根拠は全く示していない。)。そうすると,控訴人会社の上記主張は理由がなく,「p」を競合店として考慮しなかったHの上記売上予測は到底合理性のあるものとはいえない。」 (ク) 原判決35頁3行目の「これが」から同6行目の「べきである。」までを次のとおり改める。 「確度の高い売上予測等をする上で当然考慮されるべき要素を考慮せず,慎重な検討もしないまま,フランチャイジー候補者が契約を締結するか否かを判断する上で極めて重要な判断材料である本件売上予測等をしたものと推認されるから,脱退会社には,本件売上予測等が適正でなかったことについて過失があったものというべきである。」 イ 損害額の算定(争点1イ)について (ア) 当裁判所も,被控訴人Aが脱退会社との間で本件契約を締結し,それに基づいて被控訴人Aが支出した金銭を,上記情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認めるものであるが,そのように判断した理由は,原判決の事実及び理由の第3の3(1)(原判決35頁11行目から同25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (イ) 損害額の検討 a 脱退会社に対して交付した預託金(認容額133万9000円) 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,本件契約締結に際し,脱退会社に対し,預託金303万9000円(内訳 加盟証拠金50万円,開業準備手数料100万円,研修費用30万円,商品代金120万円,消費税3万9000円)を交付したこと,上記消費税は,上記の開業準備手数料及び研修費用の合計130万円に対するものであったこと,被控訴人Aは,本件契約締結後,脱退会社から,上記商品代金に相当する商品を受領したことが認められる。 上記事実によれば,上記預託金303万9000円は,被控訴人Aが,本件契約を締結したことにより支出した金額であり,本件契約の締結がなければ支出しなかった金額であるというべきであるが,同被控訴人は,上記商品代金120万円に相当する商品を受領したのであるから,その分については損害が生じていないものとして,これを除く183万9000円を同被控訴人が上記情報提供義務違反行為により被った損害として認めることとする(なお,被控訴人Aは,本件契約(甲1)14条2項により,加盟証拠金50万円については,脱退会社及びその権利義務を承継した控訴人会社に対してその返還を求める権利を有するものというべきであるが,同返還請求権があるからといって,加盟証拠金50万円について上記情報提供義務違反行為という不法行為により同被控訴人が被った損害として発生していないということはできない。)。 もっとも,上記加盟証拠金50万円の損害賠償請求権については,被控訴人Aの脱退会社に対する本件契約14条2項による返還請求権が,後記2(5)のとおり,P勘定により控訴人会社が被控訴人Aに対して有する債権と差引計算されて消滅したため,実質的にその損害が填補され,損害としては現存しないものというべきである。 したがって,上記預託金に係る損害賠償請求権の残額は133万9000円となる。 b 電話敷設費用(認容額0円) 証拠(甲32,33)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,y店経営のために,一般通話用及び本部連絡用の2回線の電話を敷設したことが認められるが,いずれも電話加入権として資産性を有するものであるから,それらの支出によって,直ちに,被控訴人Aが損害を被ったとは認められない。 c 保健所届出費用(認容額5万0900円) 証拠(甲32,34)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,本件契約を締結してy店の営業を開始するに当たって,所轄保健所に対して飲食店営業等に関する新規申請を行う必要があり,同申請等費用として上記金額を負担したことが認められるから,上記金額は,同被控訴人が本件契約締結によって支出を余儀なくされたものであり,上記情報提供義務違反行為という不法行為により同被控訴人が被った損害として認められる。 d 備品消耗品費用(認容額46万2780円) 証拠(甲32,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,本件契約を締結してy店経営のための備品等として,有線(8万円),床下金庫(10万円),殺虫器(8万4600円),ストアコンピューター用机(2万5000円),ステンレスラック(9万4000円)及びクリンスター(22万円)を調達等するための出費をしたことが認められるから,これらの金額合計60万3600円は,同被控訴人が本件契約締結によって支出を余儀なくされたものであり,上記情報提供義務違反行為という不法行為により同被控訴人が被った損害として認められる。 もっとも,後記2(5)のとおり,本件契約の終了に伴って上記備品消耗品が脱退会社に買い取られ,被控訴人Aの脱退会社に対する買取代金請求権14万0820円が発生したが,同買取代金請求権は,P勘定により,控訴人会社が被控訴人Aに対して有する債権と差引計算されて消滅したことが認められるから,上記備品消耗品費用60万3600円の損害賠償請求権については,そのうち上記買取代金請求権14万0820円の範囲で,実質的にその損害が填補され,同範囲で損害として現存しないものというべきであり,したがって,上記備品消耗品費用にかかる損害賠償請求権の残額は46万2780円となる。 e ビデオ設置工事費用(認容額100万円) 証拠(甲2,32,35)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,本件契約を締結してy店経営のための備品として,平成5年7月20日,同店の防犯を目的として,リース期間を同日から5年間,リース料を総額126万0720円とするリース契約により,防犯用ビデオ装置一式を設置したこと,同被控訴人は,平成9年4月16日をもって同店の営業を廃止して,翌17日に同店を脱退会社に明け渡したため,その際,同ビデオ装置一式を同店から撤去して搬出したこと,同被控訴人は,上記リース契約に基づくリース料として126万0720円を支払ったことが認められる。 しかし,上記リース契約については,リース期間の途中でリースを受けている側の都合でリース契約が終了した場合における残リース料支払義務の帰趨,リース物件の処理とリース会社がリース物件の返還を受けた場合の精算義務の有無等に関する合意内容が証拠上不明であり,また,上記撤去時におけるビデオ装置一式の価格についても証拠上不明であるから,被控訴人Aが支払った上記リース料126万0720円の全額をもって,同被控訴人が本件契約締結によって支出を余儀なくされた,上記情報提供義務違反行為という不法行為により同被控訴人が被った損害とみることはできないものの,上記証拠によれば,上記リース契約において規定損害金の逓減月額は1万6700円とされていたこと,上記撤去当時の残リース期間は約9か月であることが認められるから,上記リース料126万0720円のうち100万円の範囲で上記情報提供義務違反行為という不法行為により同被控訴人が被った損害と認めるのが相当である。 f ロイヤルティ(認容額0円) (a) 被控訴人Aは,脱退会社に対して支払ったロイヤルティが損害である旨主張するが,ロイヤルティは,被控訴人Aが本件契約を締結し,y店を経営したことによって取得した売上金の一部であり,本件契約を締結しなければ,被控訴人Aはそのような売上金を取得することがなかったのであるから,上記支払に係るロイヤルティ自体を損害として認めることはできない。 (b) なお,被控訴人Aは,脱退会社から最低保証金が支払われても,ロイヤルティを脱退会社に支払わなければならないため,店舗の売上金と最低保証金の合計額だけでは,アルバイト従業員の人件費や水道光熱費,清掃費等の諸経費のみならず,自身の生活費すら賄うことができず,同被控訴人は人件費節減のために過酷な労働を強いられた旨主張しており,損害費目としてロイヤルティを計上した趣旨は,ロイヤルティそのものではなく,むしろ,ロイヤルティを脱退会社に支払うことによって,売上金と最低保証金の合計額では賄えない,犠牲を強いられたことを損害として主張するものと解されないではない。 しかし,仮にそのような趣旨の主張であるとしても,y店における売上不振は,上記のとおり,被控訴人A自身の経営態度にも相当程度起因しているといわざるを得ないのであるから,ロイヤルティを支払うことによるy店の窮状や被控訴人A自身の労苦が,上記の情報提供義務違反行為と相当因果関係のある損害であるとまでは認めることができない。 (ウ) まとめ 以上によれば,被控訴人Aの損害額は,合計285万2680円となる。 したがって,被控訴人Aは,情報提供義務違反行為を内容とする不法行為による損害賠償として,脱退会社に対して上記285万2680円の損害賠償請求権(以下「本件不法行為債権」という。)を取得したものである。 ウ 消滅時効の成否 控訴人会社は,本件不法行為債権は本件契約締結日である平成5年7月8日から行使可能であるから,同日から3年の経過により時効消滅した旨主張する。 そこで検討するに,不法行為に基づく損害賠償債権の短期消滅時効は,権利者が損害及び加害者を知った時から進行するのであるが(民法724条前段),ここに損害及び加害者を知ったというためには,加害者に対する損害賠償請求権の行使が事実上可能な状況の下で,その可能な程度にこれらを知った時をいうものと解すべきであるから,当該不法行為とされた行為が違法なものであることも知っていることを要するところ,上記1(1)で認定した事実並びに証拠(甲16,30,31,乙11ないし13,原審及び当審被控訴人A本人)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,本件売上予測等が信頼に値するものと考えて,脱退会社と本件契約を締結し,平成5年7月30日からy店を開店して営業を開始したこと,ところが,同店の売上高は,本件契約締結に当たって脱退会社から提供された本件売上予測等とは異なって,本件売上予測等に係る売上高の6割台程度に止まり,営業損益は毎月赤字の状態が続くため,同被控訴人は,同店の経営者として,売上の増加と人件費の節約のために店長として長時間労働に従事するなどの努力を続けたが,売上高は容易に増加しなかったこと,そして,そのような状態が継続した中で,同被控訴人は,健康に不安を覚えるような出来事もあって,これ以上同店の経営を続けることを断念して,平成9年4月,本件契約の解約を申し入れて,脱退会社との間で本件契約を合意解約するに至ったことが認められるから,被控訴人Aは,少なくとも平成9年4月に本件契約を合意解約するまでは,脱退会社によって提供された本件売上予測等が客観的かつ適正な情報ではなく,その提供が違法なものであることを知らなかったものと推認することができる。 そうすると,本件不法行為債権は,本件契約が締結された平成5年7月ころに被控訴人Aに支出した金員ないし負担した債務(ビデオ装置一式のリース契約に基づくリース料)に係る損害に関するものであるが,被控訴人Aは,平成9年4月に本件契約を合意解約するまでは,本件不法行為債権の基礎となった脱退会社による本件売上予測等の提供が情報提供義務違反行為を内容とする違法な行為であることを知らなかったのであるから,上記合意解約までは本件不法行為債権の消滅時効の進行は開始しなかったものであるところ,被控訴人Aが,脱退会社に対し,本件不法行為債権に基づく損害賠償金の支払を求める本件訴訟を原審に提起した日が平成11年12月7日であり,同日が上記合意解約から3年経過前に属することは明らかである。 したがって,本件不法行為債権について民法724条前段所定の短期消滅時効が完成していないことも明らかであって,控訴人会社の上記主張は採用できない。 エ まとめ 以上によれば,被控訴人Aは,脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,285万2680円及びこれに対する不法行為としての情報提供義務違反行為の後である平成9年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 なお,被控訴人A主張の債務不履行による損害賠償請求による損害賠償額としても,上記金額を超えるものとは認められない。 (2) 被控訴人Aの控訴人会社に対する不当利得返還請求権の成否 ア 被控訴人Aの控訴人会社に対する損害賠償請求として認められなかった電話敷設費用(上記(1)イ(イ)b),ビデオ設置工事費用の一部(同e),ロイヤルティ(同f)について,不当利得返還請求権を根拠として,各相当額の返還を求めることができるかにつき検討する。 イ 錯誤無効の成否(争点2ア)について 上記1(1)で認定説示したところによれば,脱退会社が被控訴人Aとの間で本件契約締結に当たって同被控訴人に提供した本件売上予測等が客観的かつ正確なものでなかったのであり,被控訴人Aは,本件売上予測等が信頼に値するものと考えて,脱退会社と本件契約を締結したことが認められるが,前記前提事実及び証拠(甲2,16,証人H,原審被控訴人A本人)によれば,脱退会社の従業員Hは,北陸地域における店舗開発を担当していた者であり,本件土地を新規出店候補地として把握し,立地調査を行うなどし,また,本件土地の所有者との間で本件土地の賃貸借に関する交渉等もしていたこと,本件売上予測等を記載した本件利益計画書は,Hが,フランチャイジー候補者に対して説明するための資料として作成したものであり,Hは,コンビニエンスストア経営に興味を示していた被控訴人Aに対し,建築途中のy店に案内してその立地条件について説明したり,また,本件利益計画書を示しながら,本件売上予測等に関する説明をし,さらには,本件契約が定める最低保証制度の内容にも言及して,「万一の場合にはそれで食べていける」とも説明したこと,本件利益計画書には,参考に記載したもので,記載内容を脱退会社が保証するものではない旨の記載があること,被控訴人Aは,Hからの上記説明を受けた際,利益が出るか質問したところ,Hから,「最初の2,3年は大変でしょう。」との返答があったことが認められるから,被控訴人Aにおいては,本件売上予測等があくまでも売上及び収益についての予測に過ぎないものであることはこれを知っていたもので,脱退会社との間に本件契約を締結してy店を経営することで必ず本件売上予測等のとおりの売上及び収益が実現できるものとまでは考えていなかったものと推認することができるのであり,このことに,被控訴人Aが工作機械の製造業の会社の経営者であり,また,その妻がいわゆるミニコンビニを経営している事実も併せ考慮すると,被控訴人Aにおいて本件売上予測等が信頼に値するものと誤信していたことは,本件契約締結の意思表示をするについて未だ要素の錯誤に当たるとまではいうことができない。 したがって,本件契約の錯誤無効をいう被控訴人Aの主張は採用できない。 ウ 脱退会社の不当利得の有無(争点2イ)について (ア) 電話敷設費用及びビデオ設置工事費用 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,上記各費用は,いずれも,被控訴人Aがy店を経営する過程で費やした経費であり,脱退会社に利得があるとは認められない。 (イ) ロイヤルティ ロイヤルティが控訴人会社の利得として現存するものとは認められないことについては,原判決の事実及び理由の第3の1(2)ウのとおり(原判決26頁21行目から同27頁18行目まで。ただし,原判決26頁末行の「弁論の全趣旨」を「証拠(甲1,乙3,7,78,79)及び弁論の全趣旨」と改める。)であるから,これを引用する。 エ まとめ 以上によれば,情報提供義務違反行為による損害賠償請求において認められなかった電話敷設費用(上記(1)イ(イ)b),ビデオ設置工事費用(同e),ロイヤルティ(同f)については,不当利得返還請求権に基づく請求としても,これを認めることはできない。 (3) 甲事件の結論 被控訴人Aの控訴人会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,285万2680円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余は失当である。 2 乙事件における控訴人会社の請求について (1) 錯誤無効の成否(争点3ア) 本件契約が錯誤無効であるとの被控訴人らの主張が採用できないことは,上記1(2)イに説示のとおりである。  (2) 控訴人会社主張の債権の有無(争点3エ) ア 前記前提事実並びに証拠(乙12ないし14,乙17の1ないし46)及び弁論の全趣旨によれば,脱退会社は,被控訴人Aに対し,本件契約の解約に伴う精算金債権として,次の①ないし⑥に係る債権(合計額528万7241円)を取得したことが認められる。 ① P勘定残高(平成9年4月30日現在)499万0109円 ② BGM使用料6000円 ③ 電気料8万0236円 ④ 消費税支払9万7956円 ⑤ 電話料7940円 ⑥ 閉店手数料10万5000円 イ 控訴人会社主張の解約違約金について検討するに,前記前提事実及び上記1で認定説示したところによれば,被控訴人Aは,y店の営業不振を主たる原因として,本件契約締結後4年経過前の平成9年4月に本件契約について解約の申入れをし,脱退会社との間で解約合意をしたものであるところ,y店の営業不振は,本件売上予測等が適正なものでなかったことと被控訴人Aの経営態度に原因があったものと認めることができるから,本件契約についての上記解約申入れによる合意解約は,本件契約40条2項が準用する39条2項が定める「やむを得ないと認められる特別の事由」がある場合の中途解約に当たるものと解するのが相当であり,これに反する控訴人会社の主張は採用しない。 なお,被控訴人Aが本件契約を中途解約する場合に脱退会社に対して解約金の支払義務を定める上記条項は,その額等に照らすと,公序良俗に反して無効と解することはできない。 そして,前記前提事実並びに証拠(乙14,乙17の1ないし46)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aには,上記場合の中途解約のときには,本件契約40条1項により,平均月額ロイヤルティの2か月分相当額を解約金として,脱退会社に対して支払う義務があること,上記平均月額ロイヤルティの2か月分相当額は,控訴人会社主張の計算の基礎とした年間売上総利益で算出された164万6110円(1936万6000円×0.51×2/12)を下回ることがないことが認められる。 したがって,脱退会社は,本件契約の解約に伴って,被控訴人Aに対し,上記解約金164万6110円の債権を取得したものである。 (3) P勘定残高の請求の許否(争点3イ) 当裁判所は,脱退会社からその権利義務を承継した控訴人会社の被控訴人らに対するP勘定残高の請求は,P勘定残高499万0109円の2分の1に相当する249万5055円を超える分については信義則に反して許されないが,上記249万5055円の範囲では信義則違反及び権利の濫用のいずれにも当たらないため,許されると判断するものであり,その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3の4(原判決36頁19行目から同38頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決37頁19行目から同38頁9行目までを次のとおり改める。 「(3) そして,上記のとおり,被控訴人Aの経営に係るy店の営業不振は,本件売上予測等が適正なものでなかったことと被控訴人Aの経営態度に原因があったものであるから,脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社が,P勘定残高499万0109円のうち本件売上予測等が適正なものでなかったことに係る情報提供義務違反行為により生じたものと認められる分をも被控訴人らに請求することは,その限度で信義則に反するものとして許されないというべきであるところ,既に認定説示したところによれば,P勘定残高499万0109円の2分の1が上記情報提供義務違反行為により生じたものと推認するのが相当であるから,控訴人会社の被控訴人らに対するP勘定残高の請求は,P勘定残高499万0109円の2分の1に相当する249万5055円を超える分については信義則に反して許されないというべきである。 しかし,控訴人会社が,P勘定残高499万0109円のうち上記249万5055円を本件契約及び連帯保証契約に従って被控訴人らに請求することをもって,信義則違反及び権利の濫用とすべき事情を認めることはできない。 したがって,上記争点に関する被控訴人らの主張は,上記の限度でこれを採用し,その余は採用できない。」 (4) 解約違約金請求の許否(争点3ウ) ア 被控訴人らに対して本件契約の中途解約の場合において平均月額ロイヤルティの2か月分相当額の解約金の支払義務を負担させる本件契約の条項が公序良俗に反するものでないことは,上記(2)イで説示したとおりである。 イ そして,上記(2)イで説示したとおり,y店の営業不振が本件売上予測等が適正なものでなかったという脱退会社の情報提供義務違反にも原因があったことを考慮して,本件契約についての被控訴人Aからの解約申入れによる合意解約については,本件契約40条2項が準用する39条2項が定める「やむを得ないと認められる特別の事由」がある場合の中途解約に当たるものとした結果,被控訴人らは,そうでない場合には平均月額ロイヤルティの5か月分相当額の解約金の支払義務を負担するが,平均月額ロイヤルティの2か月分相当額の解約金の支払義務を負担するに止まることになったのである。 したがって,脱退会社について上記情報提供義務違反があったことを考慮しても,脱退会社から権利義務を承継した控訴人会社が,被控訴人らに対し,本件契約に従って平均月額ロイヤルティの2か月分相当額の解約金の支払を請求することが信義則に反するものと解することはできず,これに反する被控訴人らの主張は採用しない。 ウ なお,上記(2)アの⑥閉店手数料10万5000円については,その内容(前記前提事実(2)キ(シ))に照して,店舗閉鎖に伴う実費とみるべきものであるから,脱退会社から権利義務を承継した控訴人会社が,被控訴人らに対し,これを請求することが信義則違反又は権利濫用となるものと認めることはできない。 (5) 差引計算 ア 上記(1)ないし(4)によれば,脱退会社は,被控訴人らに対し,次の①ないし⑦の債権を有したものである。 ① P勘定残高249万5055円 ② BGM使用料6000円 ③ 電気料8万0236円 ④ 消費税支払9万7956円 ⑤ 電話料7940円 ⑥ 閉店手数料10万5000円 ⑦ 解約違約金164万6110円 合計(①ないし⑦)443万8297円 イ 他方,控訴人会社は,脱退会社が被控訴人Aに対して次のaないしeの金員に係る支払債務を負担していたことを自認しているが,前記前提事実並びに証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,脱退会社は,本件契約の終了に伴い,被控訴人Aに対して上記各支払債務を負担したこと,なお,aの什器・営業器具買取代金の対象となった物品は,被控訴人Aが甲事件において不法行為に基づく損害賠償請求を求めている備品消耗品費の物品と同一の物品であることが認められる。 a 什器・営業器具買取代金14万0820円 b 上記消費税7041円 c 加盟証拠金50万円 d 公共料金手数料1万8297円 e 修繕積立金取崩73万4879円 合計(aないしe)140万1037円 ウ そして,本件契約が定めるP勘定に関する条項(15条及び16条)によれば,脱退会社と被控訴人Aの間のy店経営に関する取引により生じた債権債務はすべて会計期間の末日(原則として月末であるが,契約の終了に伴う精算の場合には精算完了日)をもって相互の債権債務が一括して差引計算されるものとされているから,上記ア及びイの債権債務は本件契約が合意解約されて終了した平成9年4月16日をもって一括して差引計算されたものというべきであるから,脱退会社の被控訴人Aに対する債務である上記イの債務は全額消滅し,脱退会社の被控訴人Aに対する上記アの債権は,上記差引計算により,残額303万7260円となったものである。 エ ところで,控訴人会社は,上記差引計算残額303万7260円に対する本件契約解約日の翌日から日歩5銭の割合による約定遅延損害金を請求するが,P勘定により差引計算した残債務の支払時期についての主張立証がないから(本件契約17条も,控訴人会社の請求による支払義務を定めるのみである。),弁済期の定めがないものとして,請求をもって遅滞となるものというほかないが,証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,脱退会社は,平成9年12月2日付け書面(乙14)をもって,被控訴人Aの代理人として脱退会社と交渉に当たっていた弁護士Lを通じて,同被控訴人に対して上記差引計算後の残債務の支払請求をした事実が認められるから,遅くとも同月10日までには同書面が同弁護士に到達して,同支払請求の効力が生じたものというべきである。 そして,控訴人会社は,乙事件の訴状の請求の原因三項において,上記支払請求に関する主張をしているものと認めることができる。 (6) 乙事件の結論 以上のとおりであるから,脱退会社の権利義務を承継した控訴人会社は,被控訴人らに対し,303万7260円及びこれに対する支払催告の日の翌日である平成9年12月11日から支払済みまで日歩5銭の割合による約定遅延損害金の連帯支払を求めることができるものである。 3 結論 以上によれば,被控訴人Aは,控訴人会社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,285万2680円及びこれに対する不法行為としての情報提供義務違反行為の後である平成9年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるから,被控訴人Aの控訴人会社に対する不法行為による損害賠償請求を同限度で認容し,その余は失当として棄却すべきである。他方,控訴人会社は,被控訴人らに対し,連帯して,303万7260円及びこれに対する支払催告の日の翌日である平成9年12月11日から支払済みまで日歩5銭の割合による約定遅延損害金の支払を求めることができるから,控訴人会社の請求を同限度で認容し,その余は失当として棄却すべきである。 よって,本件各控訴に基づき原判決を上記趣旨に変更し,訴訟費用の負担を定め,当審で認容した金員支払部分について民事訴訟法310条により仮執行宣言を付して,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部 裁判長裁判官    長   門   栄   吉 裁判官    渡   邉   和   義 裁判官    田   中   秀   幸

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