第2章(20-98)

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第2章(20-98) - (2013/12/17 (火) 23:51:28) の1つ前との変更点

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<p class="AlignJustify"><a href="http://www59.atwiki.jp/haohao/pages/6.html"><font face="メイリオ">戻る</font></a></p> <p class="AlignJustify"> </p> <p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">20:ゆき<br />  学園への入学を終え、俺は学園寮で寝食を共にすることとなった。担任の宇乃坂に連れられ案内された寮であったが、寮とは名ばかりのリアル幽霊屋敷であった。<br /> 床には埃が積もり、天井にはクモの巣が張り巡らされ、日が暮れると決まってカラス達が賑やかに集会を始める。ここを住まいとするにはあまりにも不気味であり、ひとたび夜になれば<br /> 百鬼夜行御一行も喜んで一泊すること請け合いであろう。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">21:SDT<br /> 「こ、こんなところに住むのか…」と俺が途方に暮れていると、「じゃ、後は若い人たちでよろピク☆」と言って宇乃坂は去ってしまった。なんて薄情な…あいつの給料が国税から支払われていると思<br /> うと、真面目に納税する気も失せるというものだ。だがしかし、どんな恨み言を言っても目の前の状況が変わるわけではない。まずはこの"寮のような何か"をどうやって住める形にするかが重要だろう<br /> 。幸いなことに、ここで暮らすことになったのは俺一人というわけではない。「あっ、あの…」「…なるほどな」「あひゃひゃひゃ!クモが、クモが…笑」「ブタ小屋ですの?」「いや~キツいっス…<br /> 」この学園は寮に入ることが義務づけられているわけではないが、実際のところはほとんどの生徒が寮に入るのだ。朝は早くから夜は遅くまで過酷な訓練を強いられるというのに、移動に時間を割いて<br /> などいられないからな。さて、ザッと見たところ、このクラスメイトたちには"協調性"というものが存在しない。ここは一つ、俺がリーダーシップを発揮するしかないだろう。「おーい、聞いてくれ!」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">22:ダイヤ<br /> 「まずは、学園寮の構造がどうなっているか見て行く。構造を確認した後、部屋割りをしていこうと思う。」グヘヘ・・その後は言いくるめて、アトオイやサファリナと一緒の部屋にして、「よからぬ<br /> ことをしようじゃないか・・グヘヘ。俺もついに童貞じゃあなくなるのか・・ヘヘ」と俺はリーダーらしい発言をするのだが、クラスメイトの様子がおかしい。「ぶぶふぅっ!風太郎君…笑」「いや~<br /> その発言はナイッス…」「君は本当にダメな奴だよ…」「不潔ですわ」となぜか協調性のなかったクラスメイトが全員俺の方を見ていて、こりゃダメだという顔をしている。一体何をしたんだというん<br /> だ。すると、金次が急に変な動きをしてくる。自分の頭にひとさし指を指したり、ひとさし指を唇に触れた後、はなしたりしていり、触れたりしている。これはきっとジェスチャーだ。一体何を伝えた<br /> いのだろうか。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">23:カイロ<br /> ああ、そうか。こいつは人の心を読めるんだったか。そこから察するにジェスチャーの意味はあまり考えずとも理解できるな。「悪いな、金次」「・・・いや、気にするな」金次はぶっきらぼうに返して<br /> くる。「俺、男はちょっとな・・・」手をお嬢様笑いの如く口元に当てながら俺は申し訳無さそうな表情をする。一部の女子達から残念そうな声が聞こえた気がした。「いや、そうじゃない」ハハハ、<br /> 隠すな隠すな。「さて、お喋りはこれくらいにして、まずは保健室と体育館倉庫の位置を確認しに行くとしようか、皆」 いつの間にやらさっきまで協調性ゼロだったクラスの皆が同じような視線を俺<br /> に向けてくれている。とても冷たい視線を。「ホホホ、やはりこのようなお馬鹿さんに団体の指揮など任せて置くべきではありませんね! ここはこの私が皆様を先導して差し上げますわ! 」<br /> さあ、ついていらっしゃいと叫び、寮の中へと入っていく。他のみんなもそれに続いていく。ああもう、なんだよ、クソッ。大事だろ、保健室も体育館倉庫も。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">24:ウツケ<br /> しかし、早くも絆の輪っかから切り離されそうな俺はやはりしぶしぶオヒメサマによるカリスマの船に乗っかっていく。遅刻だどうだで慌てていた意味が皆無の悪目立ちっぷりだ。こんなはずでは……。<br /> 「おう、元気ねぇな。まーな、ドンマイだ。」何者かに肩を叩かれ、うなだれていた顔を上げると厳つい顔つきの大男が眼前に現れる。「え……と、」「左門だ。左門頼人(サモンライト)。てめーに<br /> 正直なのはいーが、やっぱ言うところは気ィ付けねーとな。何。こっから取り返しゃいーんだ。」顔は怖いがどうやら良い奴らしい。「あぁ、悪い……」一方、ルーブルベイン一行は目に入った扉を<br /> 次々とハデに開けていく。「ここは……ゴミ捨て場ですわね!」「物置だな」「またゴミ捨て場!」「リネン室よ」「豚小屋ですわ!」「ここが寮か」「鶏小屋!」「トイレ」「ここが寮室ですわ!」<br /> 「食堂だね」「ぶっひゃひゃ!マリー様っヒヒヒ!」ことごとく突っ込まれる姫。しかし、次の部屋で少しだけ空気が変わる。「ん、こちらは」「……模擬戦闘場。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">25:SDT<br /> 俺はゲーム好きなので、部屋のド真ん中に置かれている機械が何なのか知っている。要するに、安全に殺し合いのシミュレーションをするためのものだ。「ちょうどいい…おい、まな板!」俺が声を張<br /> り上げると、全員が黒葛の方を見る。しかし、肝心の黒葛は知らんぷりだ。「おい、黒葛!お前だよ!」「なんだ、私のことを言っていたのか。あいにくサル語には疎くてな…」よく言うよ。まな板っ<br /> て言われたとき、ピクッて反応したくせに。「…俺とこいつで勝負しろ。どっちが猿かハッキリさせてやるぜ」俺は機械をバシバシと叩きながら、黒葛を挑発する。すると、黒葛も「断る。君の実力は<br /> 既に見切った。私の相手ではない」と挑発し返してきた。これは面白くなりそうだと思ったが…「はいはい、痴話喧嘩は後にしてくださいな!それともお二人はホコリの布団でお眠りになりたいんです<br /> の?」いいところで姫が止めに入ってきてしまった。確かに、黒葛とじゃれあうのは後でも出来る。それより、今は探索や掃除を行うべきだという姫の主張はもっともだ。俺はその意見を尊重すること<br /> にした。「…命拾いしたな、黒葛」「………」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">26:ダイヤ<br /> 黒葛に対して挑発をしたというのに、黒葛がだんまりしていたのは気になった。だが、今はそんなことを考えるより探検の方が優先だ。「もうすぐ、日がくれてしまいますわ!」と姫が言う。確かに、<br /> 窓を見てみると、太陽が沈んでいるのかもう外は暗くなりかけていており、学園寮全体がさらに暗くなっている。本当に鬼や妖怪の大部隊に遭遇してしまいそうだ。それを利用してなのか皿井は、さき<br /> がけや黒葛のこっそりと後ろに近づいてから、まるでお化けと言ってもいい声を出して驚かしていて、あひゃひゃと笑っている。さきがけはきゃあああ!と女らしくない声をあげ、あらゆる方向にパニ<br /> ック状態になって走っている。胸がたゆんたゆんと揺れているので、もう最高である。だが、凝視してしまうと、全員から冷たい目で見られるので、そのようなことはできない。黒葛はビクビクと震え<br /> 上がってしまって、それを見た皿井は流石に、ごめんね小雪ちゃんと謝っていた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">27:カイロ<br /> 探索で思い出したが入学式の前に気になる部屋を見つけていた事を思い出す。そう、実験室だ。あの時は急いでいた事もあってあまり中をよく確認できなかったが今になってあの部屋が気になりだして<br /> しまった。あの部屋はそもそも何の"実験"をするための部屋だったのか、今更ながらに考え出してしまう。だが窓の外の暗さから察するにもうすぐ夕飯の時間と言ったところだろうか。今更学校へ戻る<br /> と言うわけにもいかないか。 まあ、別に今すぐ行かなくちゃならん訳でも無し、明日の休み時間にでもその辺の奴らを誘って行けばいい話か。「・・・でさー、ソイツがいきなりご飯にザバーッっと<br /> かけちゃったのよ、ソレ」「ええっ、わっ、私、それはちょっと、変だと、思うっ・・・」「えー? 自分は全然アリだと思うッスよー? 」 どうやら女子の内一部は既に探索よりもおしゃべりと<br /> 言った感じになり始めている。明日からは屍共と戦う為の訓練も始まる事だろう。探索は一旦ここらでやめて、明日に備えて今日は早い内に体を休ませておくべきなのかもしれない。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">28:ウツケ<br /> 「おーい、とりあえず空き部屋も把握したし、食堂で飯でも食おうぜ。それからみんなで部屋わり、を……」よもやリーダーシップなど欠片も発揮し得ないことを確信した瞬間だった。<br /> 「親睦を深めるためにも、な?」「う、うん。そうだね。」「腹も減ったしな……」完全な同意を得るまでに少し時間がかかってしまった。何がそんなにイヤだって言うんだ。<br /> そしてこの後はきっと大欲情タイム、もとい大浴場タイムが待っている……うむ我ながら上手いぞ。することは当然……「ククッ」思わず笑みがこぼれてしまった。これはキモい。自分でもわかる。<br /> ますます辛い空気が俺を襲う。どうして……どうしてこうなった……。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">29:SDT<br /> い、いやいやいや!さすがにこれ以上俺の信用を落とすわけにはいかない。大欲情タイムはいつかのお楽しみにとっておこう。それより、何か名誉を挽回する手立てはないか…と考えていると、「…み<br /> んなで飯はいいんスけど、食堂に行っても何もないんじゃないっスか?」阿倍野がそう言い放った。場の空気が一気に凍る。確かに、この寮はほんの数時間前までただのゴミ屋敷だった。食べ物がある<br /> としても、せいぜい缶詰くらいだろう。…これは俺にとってピンチではない。それどころか、チャンスですらあった。「よし、俺が飯を作ろう!」ここぞとばかりに宣言すると、全員が「は?」と言っ<br /> た面持ちでこちらを見る。くそ、つくづく信用がないな。しかし、「料理だけは本当に自信があるんだ!頼む!」……と必死に頼み込むと、ひとまず俺が飯を作ることには皆が同意してくれた。そもそ<br /> も、クラスメイトの中でマトモに料理が出来るのは俺と月道と黒葛くらいだったので、その3人が食事当番ということになる。俺たちは適当に買出しをすませ、3人で仲良く(?)飯を作ることにした。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">30:ダイヤ(やり直し)(2回目)<br /> 料理をする三人以外は食堂の掃除をすることになり、掃除をしていない三人は今すぐにもスーパーで買い出しをしてからここに戻り、料理を作らなければならない。だが、買い出しに行く前に一応する<br /> べきことが一つある。それは食材の確認だ。先ほどは食堂には食べ物がないと考えていたが、よく考えると我が家はいつだって、冷凍の飯が保存されていたから、この大規模な生徒数の料理を作らなけ<br /> ればならないこの食堂には冷凍の飯くらいはあるだろう。今回は俺が一番得意なチャーハンを作ることになったのだから、ご飯は必ず必要だ。なので、食堂の冷蔵庫や冷凍庫があるキッチンに入った。<br /> 中に入ると、薄暗くて、キッチンの銀メッキが目立って見えている。誰もいる様子はない。ここに女子でもいたら、またよからぬことをしていると勘違いをしてしまいそうだからよかった。安心して冷<br /> 蔵庫や冷凍庫の所に行き、まず冷凍庫を開けようとしたら、冷凍庫の影から、人影が見える。「ここは誰にも見えないところだからって不純異性交遊をしようっていうのはないッスよー」と阿倍野はわ<br /> ざと声を大きめにして言った。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">31:カイロ<br /> 俺はすかさず阿倍野の言葉に軽い冗談で返してやる。「悪いな子猫ちゃん。今は君の相手をしてる時間は無いんだ、また今度な? 」人差し指を1文字に立て、ウインクもキメる。阿倍野は犬の糞でも<br /> 踏みつけてしまったかの如く不快そうな表情を見せてくる。「うえー、食後に聞いてたら吐いてるとこッスよ」酷い言われ様だ。だがしかしさっきまでの俺の言動を顧みると言葉を返してくれる分<br /> いくらかマシかもしれない。「おっとっと、こんな無駄話をしてる時間は無いんだった」俺はあくまでチャーハンの材料を探しているだけなのだ。冷蔵庫の扉に手をかけさっと開ける。米と油と卵、<br /> それから肉さえあればそれらを鍋にぶちまけて焼いてやれば簡単かつ手軽に美味い食事ができる。そんなチャーハンは学生の味方と呼ぶに相応しいと俺は思う。なお、ネギは俺が嫌いなので入れる<br /> つもりは無い。「・・・駄目だこりゃ。なんもねーや」残念な事に冷蔵庫の中には何も無かった。・・・正確に言うと大量のカビらしき物が付着した謎のタッパーがいくつか入ってはいたが数には入れず<br /> ともいいだろう。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">32:ウツケ<br /> 「お、おおっおおおーっ。あったっスね!食べられそうなの!」「うおい待て待て!」阿倍野がすかさず玉手箱に手を掛けるのだから冷や汗をかいた。「えーっ良いじゃないスかー冷蔵庫に入ってる物<br /> はいつになっても食べられるんスよー」「それは冷凍庫の話だ!」今まで生きてこれたのが不思議なくらい恐ろしい感覚の持ち主だ。こんなもん食ったら腹壊す……どころか絶対命に関わるだろう。<br /> 「どうだった。カゼエロウ」「風太郎だ。」月道輝夜(ツキミチカグヤ)は潔癖症らしく、どこで出したかマスクやゴーグルはもちろんゴム手袋にエプロン、左に洗剤、右に雑巾の完全武装だ。<br /> 「こりゃ全部ダメだ。冷凍庫もゲテモノしか入ってない。」「全く酷い寮に入れられた物ね。もう帰りたい。」喋りながらも雑巾がけの手を全く止めていない。凄まじい徹底ぶりだ。<br /> 「帰るっつっても、寮に来てるんだから通うのは厳しいんだろ?」「そりゃあね。通学時間だけでもやることなさすぎて死にたくなるもの。……食器も調理器具もダメね。間に合わせでも揃えないと」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">33:SDT<br /> …というわけで、3人で調理器具も含めての買出しということになった。月道は俺の半径3m以内には絶対に入りたがらないものの、普通に話してはくれる。しかし、黒葛のほうは取り付く島もない。「<br /> 黒葛、料理なんて出来るのか~?カップ麺は料理じゃないぞ!ははは!」などと軽い調子で話しかけてみても、ぷい、と顔を背けたままだ。「…はぁ。とんだ貧乏クジを引かされたわね」月道も、ケン<br /> カ中の二人の間に放り込まれて辟易している。「巻き込んで悪かった」「あら?謝る相手が違うんじゃないの?」「…そうだな」今にして思えば、黒葛との仲が険悪になった原因はすべて俺にあった。<br /> 初対面でコンプレックスを指摘してしまったこともそうだし、黒葛の趣味をタマ潰しにしてしまったこともそう。あいつは何も悪くなかった。「………………謝ろう」俺の口から、自然に言葉が流れ出<br /> る。冗談や欺瞞ではない。心からの、本当の気持ちだ。「ん、なかなかいい顔になったじゃない。ほら、行きなさいな」「ありがとう、月道」俺は月道に背中を押され、意を決して黒葛に話しかける。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">34ダイヤ<br /> 「黒葛、俺が悪かった」開口一番にそう言うが、「・・・・・・・」黒葛は沈黙を保ったままである。おそらく、俺が本気で謝っているとは思っていないのだろう。そもそも黒葛は何に対して怒って<br /> いるのか・・ああ、そうか。黒葛はコンプレックスについて怒っているのではなくて、俺が悪口のように言ったことに対して怒っているんだ。黒葛は早歩きで淡々とスーパーに向っていて、<br /> 話しかけてもこちらを見てくれない。……だが、こんなことで諦めてたまるか!この機会を逃したら、きっと俺はいつまで経っても黒葛に謝罪できないままだ。「黒葛!!」俺は黒葛の肩を掴むと、<br /> 強引にこちらを向かせる。黒葛は少しムッとした様子だったが、俺の目を見ると、どうやら"本気"であることを悟ったらしい。「…何だ?」と、俺と話す意思を見せてくれた。「黒葛、本当に<br /> 悪かった。黒葛がそこまで胸について悩んでいるとも知らず、俺は何回も胸が小さいとバカにしてしまった。これからは黒葛に対しては胸が小さいということは絶対に言わないようにする。黒葛は<br /> “胸”が小さくても可愛いからな」"胸"という単語が聞こえるたびに何かしらの反応をしていた黒葛は、俺の話を聞き終えると、もはや唖然として「君が本気で謝っているのは分かるが、その発言<br /> だと君は私に対して謝っているのか、またけなしているのかわからない。」と言う。?…なにが言いたいんだ、こいつは。後ろを振り返ってみると、月道は「なんでそんなこと言うのよ…」とでも<br /> 言いたそうな表情をしていた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">35:カイロ<br /> あー、そうか。胸が小さい胸が小さい連呼してるからか。そりゃ確かにいかんよな。だが俺は紳士なのですぐさま訂正する。「悪い悪い。お前のおっぱいは全然小さくないさ。むしろFカップくらいは<br /> 絶対あるもんな」うん、我ながら完璧なフォローだと褒めたくなる。実際のところ黒葛の胸は平坦であったがこちらは現在謝罪している立場なのだから、やはり多少のお世辞は必要であろう。俺なりに<br /> 気を利かせたつもりだったのだが。「・・・なるほどな。つまり、君は、謝るつもりなど毛頭無かったわけかな? 」黒葛の表情がみるみるうちに鬼ないし般若のような表情へと変わっていく。しまった、<br /> これじゃあ今朝と何ら変わらない展開じゃないか。「ま、待てつづおうふ」今の言葉を取り消そうと口を開いた途端に顔を殴られた。黒葛の拳は以外にも重く、すぐさま口の中に鉄の臭いが広がって<br /> くる。「ふふ、いい気味だ」黒葛はいじめっ子のような笑みを浮かべながらこちらを睨んでくる。だがその黒葛のすぐ後ろに、奴がいた。 そう、屍が。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">36:ウツケ<br /> 「つ、ツヅラァ!うしろぉー!!」"入学式"の時みたいなザコとは違う人型の大物だった。どろりとした全身を震わせ、何かしようとする素振りが手に取るようにわかる。だがわずか手が届かない。<br /> すかさず一歩踏み込んでツヅラの手を思い切り引っ張ったが――間に合わない!「……?」屍の動きは思ったよりも緩慢だった。いや違う。それ以上動けなかったんだ。「網引き(あびき)の相……<br /> 間に合ったっ!」何をしたのかはわからなかった。しかしどうやらツキミチの仕業らしい。「でかしたツキミチ!」体勢を立て直し俺は刀の柄を構えるが「まっ待つんだ!殺すのはっ」柄にもなく焦る<br /> ツヅラが横やりを入れてくる。「ハァ!?今そんなこと言って、どうすんだよ!」「……逃げる。」「お前っ」やってる場合じゃないケンカが始まると思ったのかツキミチは「だったらこれなら……」<br /> ツキミチが無数の細い棒をばらまき内1本を選び取る。「発衝き(たづき)の相!どうよ!」突如屍の脇腹がべこんとへこんだかと思えば彼方へと吹っ飛んでしまった。「ハァ、上手くいったわぁ」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">37:SDT<br /> チャンスだ。俺は瞬時にそう判断した。今ならば、あの大物をこの手で屠れるかも知れない。「おい、何をしてる!早く逃げるぞ!」。「………」「おい!」「…でもな、あいつを野放しにしといた<br /> ら、一体どれだけの人が死ぬ?あの生きてるんだか死んでるんだかわからない"何か"は、人の命よりも大切なのか?」「それは…」黒葛が問いに困窮する。だが、答えを待っている時間はない。こう<br /> している間にも、奴は必死に体制を立て直そうとしているのだ。「…すまん、黒葛」俺は黒葛にそう告げ、全力で走り出す。あーあ、これでもう、仲直りは無理だな。「!?待てっ…ダメだ!」目標<br /> まで、残り10歩、9歩、8歩、7歩…刀を抜く。6歩、5歩、4歩…3歩!両脚に魔力を込め、跳躍する。刀を振り下ろし、屍の首に切りかかろうとした、その瞬間!「死ね。」ザシュウウゥウッ!!<br /> 俺ではない。何者かが、屍を一刀のもとに切り捨てる。ザシュ、ザシュザシュザシュザシュザシュウゥゥウッ!!シュウウゥウ……巨大だった屍は見る見るうちに解体され、消失した。<br /> ―――名人芸を披露したその人物に、俺は見覚えがある。「お前、帯刀…」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">38:ダイヤ(ウツケによりちょっと手直し)<br /> なんで、こんなところに……」「黒葛小雪の監視をしていた。」とトーンの低い声でヲビナタは言う。すると、屍はもう消え去ったというのになぜか日本刀を抜いて構える。彼が持つ日本刀の刀身に<br /> 彫られた溝はとても美しく弓なりに曲がっており、その部分は夕暮れを反射した光で華やかに輝いている。「屍との共存、そんな世迷い言は――肯定できない」ヲビナタが話していくにつれて、刀の<br /> 発する橙色をした妖しい輝きがゆっくりとツヅラの方へ向く。「忠告だ。黒葛」ヲビナタの表情を見ると、とても冗談で言っているとは思えない冷静な感情が分かった。このまま、ツヅラが屍との共存<br /> という考えを改めなければ、場合によって始末をするということだ。ツヅラは遠くにいるが、ヲビナタの意図を理解したらしく、少し怯えつつも構えを取る。「何言ってんだ帯刀!お前にとっても、<br /> 黒葛はクラスメイトの一員だろ!?」とヲビナタに訴えたが、黙ったまま去ってしまった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">39:カイロ<br /> 黒葛はまだ震えている。月道が駆け寄り、手を貸そうとするが黒葛はそれを拒否し自分の力で立ち上がりはしたものの、顔は俯きがちになり足はまだ少し震えが収まらないようだ。てっきりこいつは、<br /> こういう事になるのはある程度わかっていて、あえてあのような自己紹介をしたのかと思ったが、この反応を見るとそうでもないようだ。「・・・すまない。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。・・・<br /> 買出しの途中だったな。必要な物を買ってすぐ帰らないとだな」心配しなくていいとは言うがその声は震え、見せた笑顔もどこかぎこちない。「あ、ああ、そうだよな!帯刀も腹減ってイライラしてた<br /> だけだろうし、気にする事ないよな! 」俺もひとまず黒葛に合わせる。月道も俺に続く。「・・・うん、そーだね。お腹減ってるとヤな事ばっか考えちゃうもんね」今さっき起きた出来事を忘れよう<br /> とするかのように俺達はスーパーへ急ぐ。「ほら行くぞ黒葛!元気出せって!」黒葛の背中をバシバシと叩いて元気付けてやる。さりげなくケツも触ってやると、無言で即座に足を踏みにじられた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">40:ウツケ<br /> ――「うっひゃひ!得意とか言ってチャーハンって!」「でも確かに美味いな。七百円までなら店で出せる」「ちゃあはん、って言うんスか?これすっごいウマイっスよぉ」<br /> 「君チャーハン知らないんです?サファリナとかならわかりますケド……」「どういう意味ですの?」「うめえ!やるじゃあねーか風太郎!おかわり!スープもな!」<br /> 「あっあっ、私もこの杏仁豆腐、おかわり!」急ごしらえの割には好評なようで何よりだ。献立はメインにチャーハン、そして野菜たっぷりなあっさりスープとデザートの杏仁豆腐を用意した。<br /> 体裁はせいぜい大衆食堂ってところだが、その取っ付きやすさが幸いしたか朗らかな笑顔で溢れ返っている。「ごちそーさん。」あのぶっきらぼうなアミガサでも少し満足げな顔をして席を立つ。<br /> ただ、ヲビナタ……奴だけはあの冷徹な顔を被ったままだ。あれから無事買い出しは済ませたものの、奴の敵意を目の当たりにしてから気が気でならなかった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">41:SDT<br /> まあ、俺がそんなことを気にしていても仕方ないか。片付けも終わったことだし、今日のところは何も考えず自室でゆっくり休むとしよう。幸い、この寮は部屋数だけは多いので、全員が自分の個室<br /> を持てたのである。プライベートなスペースがあるのはいいことだ。もし左門のようなムサ苦しい男と相部屋になってしまったら…想像するだけでゾッとする。 「ふ~~」俺は申し訳程度に掃除さ<br /> れた自室に入ると、真っ先にベッドへ体を投げ出す。それにしても、今日は色々なことがあったな。たった一日のはずなのに、まるで何週間も経ったかのようだ。さすがの俺も、今日は女どもの風呂<br /> を覗きに行く気分にはなれないぞ。「9時か………」ボーッと時計を眺めていると、凄まじい眠気が襲ってくる。いや、まだ寝るつもりは無い…無いのだが……「ぐぅ…」………<br /> ――――「…おい、起きろ!何時だと思ってる!」…あぁ?何時かって…9時ぐらいだろ?……「おい!7時だぞ!」……7時?……「起~き~、ろって!」 バッ!!誰かが、俺の布団をひっぺがし<br /> た。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">42:ダイヤ(ウツケがちょい手入れ)<br /> それにより、すってんころりんとおにぎりのように床に落ちる。これを見たのか、「君は情けないな…」と誰かが発言する。起きた間もないので、視界はぼやけてみえるが、胸の部分が平べったいの<br /> が分かるので黒葛だとすぐに分かる。袴の中を見たかったが、同じ事を繰り返したくなかったのですぐに立ち上がり、「それは、勢いよく引っ張るのが悪いんだろう」と言うが、「私が何回も起<br /> こしても、君が起きようとしなかったからだ。私がここまで大きな声で言っても起きないから私自身が恥ずかしかったじゃないか」と言い返される。今思うと、黒葛にしては鋭い声であった。こちら<br /> としては何も口答えすることはできない。「それよりも、早く行かないと宇乃坂先生は遅刻した生徒にはお仕置きするといっていたからな……」と少し遠い目をしながら洩らす。ケンカ中である黒葛<br /> までもが、心配してここに来るということはどのようなお仕置きをさせられるのかが心配になってきた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">43:カイロ<br /> お仕置きかぁ、お仕置きと言えばやはりアレだよな、おしりペンペン。パンツをおろされて直接ケツを叩かれる訳だな?「わかった。それじゃ俺は先に行くから黒葛はちょっと遅刻してくれ」「ああ、<br /> また君は下らない事を考えているのかな」黒葛は呆れたとでも言いたげな表情でこちらを見ている。ジョークはこれくらいにして教室へ行く準備をしないとな。「悪い悪い、冗談だよ。俺、朝の一発が<br /> あるから、ちょっと部屋の外で待っててくれ」「・・・一発?」少し間を空けて黒葛が意味が解らないと言いたげに聞き返してくる。「・・・いや、着替えるって意味だよ。見たけりゃ見せてやるけど」<br /> 流石に寝巻きで学校は行けんし、ちょっとした冗談を交えつつ一旦退出してもらおうと思ったが、やはり女子にはあまり通じないネタだったか。いや、通じられても困るしむしろ助かったのだが。<br /> 「あ、ああ、すまない。気が利かなかったな・・・」少し顔を赤らめ、黒葛は部屋の外へと出て行く。それを確認し俺は素早く寝巻き姿から制服へ着替え、トイレに向かった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">44:ウツケ<br /> ――――「遅かったな。」「時間掛かるのが女だけと思うなよ?」うーむ、跡追の豊満なバスト・ヒップがありながらくびれた腰のその肢体は素晴らしいのに、如何せん妄想するには顔が厳しいか。<br /> 10分もかかってしまったぞ……「全く……ほらこれを食べろ。」呆れ顔のツヅラの手にある風呂敷から、1個のパンが差し出された。「かたじけねぇ」手のひら大のそれを頬張ると焼きたての温もり<br /> が残っていて、口中には餡の濃い甘みが広がる。「うまい。あんぱんか。」「それじゃあ、調理場の皿洗いは任せたよ。」何、学舎へ行くのではないのか。「君がいないから私と月道だけで朝ごはん<br /> を作ったんだ。文句は言わせないぞ。もちろん、遅刻もなしだ。」しまった。俺達3人に調理と給仕全て任されたのをすっぱり忘れていた。まだ7時だったというのに遅刻だどうだと騒いで何事か<br /> と思えば、そういうことだったか。始業時間は、7時40分。現在は、7時20分。うんピンチだ。「ちょ、ちょーっと待て!」「寝坊した君が悪いんだよ。それじゃあ私は急ぐから。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">45:SDT<br /> それだけ言うと、黒葛は足早に去ってしまった。くそ、薄情な奴め。もっとも、口を聞いてくれなかった時期のことを考えれば、これでも十分優しいとは言える。「さて…」遅刻したらおしおきだ。<br /> 急いで皿を片付けるとしよう。「うおおおおお!!!」シャカシャカシャカシャカシャカ!!俺は、もはや音速に到達するかのごとき速さで、一瞬の内に皿洗いを終わらせた!時刻は7時半。よし、<br /> 余裕で間に合うぞ!―――――「ハァ、ハァ…お、オハヨウゴザイマス……」だが結局、俺が教室に着いたのは8時。既に1限の授業が始まっている。地図も持たずに寮を出た俺は、初日のように<br /> 学園内を彷徨うことになってしまったのだった。「…一柳クン。チミはそんなにお仕置きが好きなのかな?」「ハァ、ハァ、す、す、すびません…」「う~ん。まあ、いいよ。座りなさい」ラッキー。<br /> なんだかんだ言っても、宇乃坂は甘い。もしかしたら俺に惚れているのかも知れないな。そんなことを考えていると、編笠が「ぶっ!!」と吹き出していた。…あいつ、やっぱり心が読めてるんじゃな<br /> いか。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">46:ダイヤ(やり直し)<br /> しかし、気にせずに着席する。宇乃坂は教壇の上に立ち、教育方針や授業について長ったらしい説明を始めた。そんな説明に時間をつぶすより、宇乃坂でも見ながら妄想でもしよう。年齢は多分20代<br /> だと思うのだが、学校から無料で配布されている制服のようなものを改造して着ているので、高校生のように見える。ついでに、クラスメイトが制服を着ていない理由は、着用は自由でかっこ悪いから<br /> 着ていない。容姿はきれいというよりもかわいらしい。そして一番大事なことだが、黒葛ほどではないが胸が小さい。だが、別に貧乳だったらダメだなとは思わないな。だって、それはそれで需要はあ<br /> るからだ。俺は女性を見るだけで何カップなのかが分かる特技があるが……宇乃坂のために測るのはやめておこう。「ところで一柳クン…私をじろじろと見てどうしたのかな?」と宇乃坂が唐突に聞い<br /> てきた。しまった!もう学校では変なことはばれないようにするって決めたのに!</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">47:カイロ<br /> だがバレてしまっては仕方が無い。ここは素直に謝るとしよう。「ヘヘヘすいません。先生の胸とケツに見とれてました」後頭部に右手を当てながら謝る。・・・だがこんな台詞を放っては折角俺が昨日<br /> 築き上げた皆との信頼が崩れ去ってしまうのではないか?とも思ったのだが、思いの外皆の反応は薄かった。もしかして、俺はこういうキャラだと定着してしまったのか?「・・・まあ、うん。程々に」<br /> 宇乃坂はなんとも微妙な反応を返してくる。しまったな、俺は本来学級委員とかみたいなクラスのリーダー的ポジションが似合うってのによもやこんなド下野郎扱いとは・・・トホホだ。顔が俯き、<br /> 自然と溜息が出てしまう。・・・ふと横に視線をやると、皿井が必死に笑いを堪えながら俺に小さく折り畳まれた紙を渡そうとしてくる。皿井の身振り手振りから察するに俺宛てらしい。まったく、<br /> 小学生かよと思いつつ紙を広げて中を読む。シンプルに一文、『ホモ?』とだけ書き記されていた。―――このままだと、駄目だ。 授業くらいは真面目に受けねば・・・</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">48:ウツケ<br /> しかし、そんなことよりも宇乃坂が男だったのは何よりもショックだ。確かに男か女かわからんような見た目と声をしているがそれがまさかこの俺に見破れんとは……!<br /> 「それじゃっ今日は一日目ってことで特別編成授業だ!体力測定、やるよー!次は皆、体育館にィ、シュー・GO!!」なんだこの痛すぎる台詞は。しかし、これはチャンスかもしれない!昔っから<br /> 体力だけは自信がある。ここで他の奴らと差を付ければ少しは皆も見直してくれるはず……!と思うとツキミチが手を上げて立ち上がる。「あのう、先生。私たち、まだ着替えがないんですけど……」<br /> はっ!そうだ体育と言えばお着替えタイムが……いやよそう。「んーいや、着替えはいらないよん。」「えっでも体操服とかないと動きづらそうだし、汗とかかいちゃうし……」<br /> 「その制服は戦闘服も兼ねててねっ。しかも汗かいてもすぐ乾くハイスペック制服なんだよー?」「そ、そうなんですか……わかりました。」ほら見ろ、くだらん野望はすぐさま砕け散った。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">49:るんこ<br /> しかしそんな失望などなんてことはない。俺には体力測定がある!期待に胸を踊らせ、走ったり、跳ねたりしながら、学園の敷地の一角にある体育館へと向かった。昨日の探索では時間がなくて、外観<br /> しか確認できなかった。一番乗りして、なかを見て回ろう。――そう思っていたところへ、全速力で後ろから走ってきて、俺を追い抜いた奴がいた。左門頼人だ。その上「おせえな、一柳!」などと言<br /> って煽ってきた。・・・コノ野郎!これが俺の全力だとでも思ってんのか?―――「いいだろう!全力を出してやる!!」と叫び、こちらも全速力で左門を追いかける。じりじりと距離が縮まる。が、<br /> なかなか相手も速い。このままでは体育館に着くまでに追いつけない。焦る俺。「仕方ねえ、限界の更に上をm――と、独り言をつぶやいた瞬間、迂闊にも段差に躓いてしまった。「 あっ 」 激し<br /> く後悔したが、遅かった。凄まじい勢いで宙をすっ飛び、上半身を、嫌というほど地面に打ち付け、8mほど転がって壁に激突した。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">50:SDT<br /> 「い、いっってぇ~~!!!」痛みに耐えかね、叫び声を上げる。なんて堅い壁なんだ。俺が全力で体当たりしても壊れなかった壁は、お前が始めてだぜ。…などと壁の健闘を称える余裕があったはず<br /> もなく、俺はその場で、ただただ悶え苦しむのみ。「大丈夫か!?」左門が慌てて駆け寄ってくる。「だ、大丈夫じゃねぇ…骨が折れたかも…」嘘ではない。本当に脚に違和感がある。「あぁ!?見せ<br /> てみろ!…ふ~む、まったくわからん」「おいィ!?」「何事ですの~?」俺と左門が小芝居をしていると、姫をはじめとした何人かの女子が様子を見に来てくれた。俺の叫び声を聞きつけたのだろう。<br /> 「いやな、骨が折れたらしいんだが」「見せてごらんなさい。カゼタロー、少し触りますわよ」そう言うと、姫が俺の脚を触診し始める。ナデナデ…い、いかん。さすがに今勃起するのはマズイ。耐え<br /> ろ俺、耐えろ俺…「ふんっ!!!」バキャ!!「ぎゃあああ!!」またもや、声を上げるほどの痛み。「骨折ではなくて、脱臼ですわね。治してさしあげましたわ。さ、体育館に向かいますわよ」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">51:カイロ<br /> サファリナはそのまま様子見の女子達と共に去ってしまう。「だ、大丈夫かよほんとに」左門は俺を心配して声をかけてくれるが俺は度重なる激痛に悶えしばらく返事が返せない。治療自体には感謝<br /> してはいるのだがいくらなんでも力技すぎやしないか? 「し、心配するなって。平気だよ。つい最近もっと辛いの経験してっからな」立ち上がる。さっきの痛みはまだ残っているものの脚部の違和感は<br /> 消えているし、特に問題も無く動く。「・・・はたから見ててもかなり痛そうだったが。あれより辛いってどんくらいだよ」「ははは、泣いてはいないさ」冗談を返しつつ進み始める。またどこかに<br /> ぶつかりでもして姫の治療を受るハメになっても困るので気持ちゆっくりと歩いていく。 ―――「えー、それでは、第一回体力測定テストを始めまーす。どんどんぱふぱふー」全員が体育館に集まった<br /> 所で宇乃坂が告げる。「第一回って事は二回三回もあるのか・・・?」「あー、ノリで付けてみただけだかんね。そんな気にしなくていいよ」宇乃坂が素早く俺の独り言に反応してくる。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">52:ウツケ<br /> 「それじゃーまず、100メートル"とう"から行ってみようかーっ!」「100メートル……」「……とう?」……やはり魔ヶ原学園の体力測定、タダでは済まないようだ。「みんなーっ位置に<br /> ツイてぇーー」位置って何処だ。何やら宇乃坂は巻物のような物を懐から取り出した。ロクな説明もなく始まった謎の競技に皆も困惑しつつ、警戒しつつ、それぞれ身構えていく。「よーーーーいっ」<br /> 巻物は紐解かれ、腕いっぱいに広げられた。一瞬の静寂が体育館の天井を低くしたかのように重圧としてのしかかってくる。……くる!「ドン!」「グルルゥオアアアアアアアアアアア!!!!」<br /> 「うわああああああああああああああああ!!!!」その場にいた全員の視線が宇乃坂に集中していた。だがしかし、誰もがその瞬間何が起きたかわからない。そう、現れたのは巨大な"屍"。<br /> にも関わらず、真下の宇乃坂はにこやかに佇んでいる。俺も腰を抜かしそうになるが持ち堪え、大きく息を吸い込んだ。100メートル"逃"。やることは決まっている。「みんな、逃げろォ!!!」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">53:るんこ<br /> 「逃げろって、お前はどうすんだよ?その足じゃ無理だろ。」左門の言う事はもっともだ。幸い、屍はまず女子たちの方へ狙いを定めたようだ。俺は足を引きずりながら屍からはなれるようにして<br /> 目立たない壁際へ移動した。「そうだ。だから俺は戦うよ。」左門は驚愕と猜疑の混ざった表情を浮かべた。「なに!?本気か?あんな規格外の化け物に太刀打ちできるのか?」「正直自信は無い。<br /> でも、逃げてもどうせ、すぐにやられるだろ。それなら特大の一発をお見舞いして派手に散る(笑)」奴はすこし躊躇っていたが、やがて諦めたような微笑みを湛え言った。「ふふん、お前面白いな。<br /> その賭け、俺も乗った!」その申し出は嬉しかったが受け取るわけにはいかない。「やめておけよ。あいつの一撃、間違いなくキツイぜ。お前は逃げられるんだから・・・」説得を試みるも左門の<br /> 意思は固いようで、折れる気配がなかった。俺はあきれながら、諦めて渋々承諾した。そうと決まればちんたらしてはいられない。すぐに作戦会議だ。「いいか、俺が最強のルーン魔術をぶっ放す。<br /> こいつは発動までにすこし時間がかかる。そこらへんの草や木、動物たちから少しづつエネルギーを集めなきゃいけないからな。そんで俺の攻撃でひるんだところを、お前が追撃してくれ。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">54:SDT<br /> 「わかった!よ~し、やってやろうじゃねぇか!」左門は拳と手の平をバチンと合わせ、気合いを入れた。案外、こいつとは仲良くやっていけるかも知れないな。もっとも、それはこの場を生きて<br /> 切り抜けられたら、の話だが。「さて…始めるか。邪魔するなよ」「おう!!」幸い、屍はまだ俺たちの存在に気づいておらず、女子たちと追いかけっこをしている。魔術を発動するまでの時間は<br /> 十分にありそうだ。「すぅーーーー………」俺は目を閉じて、大きく息を吐く。何も考えるな。心を、ただ無に保つ。……しばらくすると、俺の体に足りない酸素を補うために、エーテルの風が吹いてくる。<br /> 森羅万象と一体になったかのような感覚。いや、現実にそうなっているのだ。今だけは、俺の体は宇宙と同義。息を吐けば吐くほど、魔力が体に満ち満ちていく…「マズい、気づかれた!?」<br /> 左門の言葉は、俺には届かない。屍がドシン、ドシンと近づいてきているのも構わず、無言で集中を続ける。「クソッ!戦うしかねぇな」攻撃に備え、左門がバットを構えた。次の瞬間――</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">55:カイロ<br /> 「ウオオアアァァ―――ッ!!」咆哮し、俺のカラダ全体へと魔力がチャージされる。数分間だけではあるが、俺の体の強靭度は修羅さえ軽く超え、神の領域とほぼ同一の物となることが出来るのだ。<br /> 体から溢れ出る魔力の一部が空気に触れるたびバチバチと音を鳴らしている。「待たせたな、左門!」本当はこの大技、あまり使いたくは無かった。序盤から本気でかかるのは噛ませ犬みたいで嫌だ<br /> というのもあるが、タイムリミットが過ぎると体全体が砕けそうな激痛に襲われるのだ。だから、決着は迅速に付けたい。俺は素早く巨大屍の背面へと回り込む。巨大な背中が視界をいっぱいにする。<br /> その巨大な背中へと俺は両腕を突っ込み、体内の何か硬い物―――多分骨だろうか―――をがっしり掴み思い切り踏ん張る。そのまま逆エビの如く反り帰りブリッジの体勢へと移る!「落ちろぉッ!」<br /> 俺の魔術を駆使した強烈なジャーマンスープレックスだ!巨大屍はそのまま床へと叩きつけられる!「・・・一柳」左門がこっちへ駆け寄ってくる。「おう、どうした左門」「・・・刀は使わないのか?」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">56:ウツケ<br /> 俺はフッと笑ってみせた。「なぁに、こいつはそれだけじゃあないってだけだよ。」「ヤベェーッス!カゼタロー!!見損なったッス!!」「うおあ!」<br /> 突然アベノが抱きついてくるものだから危うくバランスを崩しかけた。とりあえず見直した、と言いたかったのはわかる。ふと見回すと大勢の呆然とした視線を確認できた。<br /> そして数人が駆け寄ってくる。「凄い凄い!今のどうやったの!?」「なかなか美しいスープレックスでしたわ!わたくしの覇道にカゼタローも」「ね、ねぇ!風太郎君も変身できるの!?」<br /> はっはっはよせよせ――計 画 通 り――「で、こいつはどうするんだ。まだ息があるぞ。」編笠の声だ。彼の目はピクピクと痙攣した屍の頭の方へ向けられている。<br /> やはり足の怪我が響いたか。道理で手応えはイマイチだった。「それホント!やー良かったねぇペクレルぅ。よーしよしよし」ひょこっと現れた宇乃坂に編笠は仰天している……。</font></p>
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などいられないからな。さて、ザッと見たところ、このクラスメイトたちには"協調性"というものが存在しない。ここは一つ、俺がリーダーシップを発揮するしかないだろう。「おーい、聞いてくれ!」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">22:ダイヤ<br /> 「まずは、学園寮の構造がどうなっているか見て行く。構造を確認した後、部屋割りをしていこうと思う。」グヘヘ・・その後は言いくるめて、アトオイやサファリナと一緒の部屋にして、「よからぬ<br /> ことをしようじゃないか・・グヘヘ。俺もついに童貞じゃあなくなるのか・・ヘヘ」と俺はリーダーらしい発言をするのだが、クラスメイトの様子がおかしい。「ぶぶふぅっ!風太郎君…笑」「いや~<br /> その発言はナイッス…」「君は本当にダメな奴だよ…」「不潔ですわ」となぜか協調性のなかったクラスメイトが全員俺の方を見ていて、こりゃダメだという顔をしている。一体何をしたんだというん<br /> だ。すると、金次が急に変な動きをしてくる。自分の頭にひとさし指を指したり、ひとさし指を唇に触れた後、はなしたりしていり、触れたりしている。これはきっとジェスチャーだ。一体何を伝えた<br /> いのだろうか。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">23:カイロ<br /> ああ、そうか。こいつは人の心を読めるんだったか。そこから察するにジェスチャーの意味はあまり考えずとも理解できるな。「悪いな、金次」「・・・いや、気にするな」金次はぶっきらぼうに返して<br /> くる。「俺、男はちょっとな・・・」手をお嬢様笑いの如く口元に当てながら俺は申し訳無さそうな表情をする。一部の女子達から残念そうな声が聞こえた気がした。「いや、そうじゃない」ハハハ、<br /> 隠すな隠すな。「さて、お喋りはこれくらいにして、まずは保健室と体育館倉庫の位置を確認しに行くとしようか、皆」 いつの間にやらさっきまで協調性ゼロだったクラスの皆が同じような視線を俺<br /> に向けてくれている。とても冷たい視線を。「ホホホ、やはりこのようなお馬鹿さんに団体の指揮など任せて置くべきではありませんね! ここはこの私が皆様を先導して差し上げますわ! 」<br /> さあ、ついていらっしゃいと叫び、寮の中へと入っていく。他のみんなもそれに続いていく。ああもう、なんだよ、クソッ。大事だろ、保健室も体育館倉庫も。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">24:ウツケ<br /> しかし、早くも絆の輪っかから切り離されそうな俺はやはりしぶしぶオヒメサマによるカリスマの船に乗っかっていく。遅刻だどうだで慌てていた意味が皆無の悪目立ちっぷりだ。こんなはずでは……。<br /> 「おう、元気ねぇな。まーな、ドンマイだ。」何者かに肩を叩かれ、うなだれていた顔を上げると厳つい顔つきの大男が眼前に現れる。「え……と、」「左門だ。左門頼人(サモンライト)。てめーに<br /> 正直なのはいーが、やっぱ言うところは気ィ付けねーとな。何。こっから取り返しゃいーんだ。」顔は怖いがどうやら良い奴らしい。「あぁ、悪い……」一方、ルーブルベイン一行は目に入った扉を<br /> 次々とハデに開けていく。「ここは……ゴミ捨て場ですわね!」「物置だな」「またゴミ捨て場!」「リネン室よ」「豚小屋ですわ!」「ここが寮か」「鶏小屋!」「トイレ」「ここが寮室ですわ!」<br /> 「食堂だね」「ぶっひゃひゃ!マリー様っヒヒヒ!」ことごとく突っ込まれる姫。しかし、次の部屋で少しだけ空気が変わる。「ん、こちらは」「……模擬戦闘場。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">25:SDT<br /> 俺はゲーム好きなので、部屋のド真ん中に置かれている機械が何なのか知っている。要するに、安全に殺し合いのシミュレーションをするためのものだ。「ちょうどいい…おい、まな板!」俺が声を張<br /> り上げると、全員が黒葛の方を見る。しかし、肝心の黒葛は知らんぷりだ。「おい、黒葛!お前だよ!」「なんだ、私のことを言っていたのか。あいにくサル語には疎くてな…」よく言うよ。まな板っ<br /> て言われたとき、ピクッて反応したくせに。「…俺とこいつで勝負しろ。どっちが猿かハッキリさせてやるぜ」俺は機械をバシバシと叩きながら、黒葛を挑発する。すると、黒葛も「断る。君の実力は<br /> 既に見切った。私の相手ではない」と挑発し返してきた。これは面白くなりそうだと思ったが…「はいはい、痴話喧嘩は後にしてくださいな!それともお二人はホコリの布団でお眠りになりたいんです<br /> の?」いいところで姫が止めに入ってきてしまった。確かに、黒葛とじゃれあうのは後でも出来る。それより、今は探索や掃除を行うべきだという姫の主張はもっともだ。俺はその意見を尊重すること<br /> にした。「…命拾いしたな、黒葛」「………」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">26:ダイヤ<br /> 黒葛に対して挑発をしたというのに、黒葛がだんまりしていたのは気になった。だが、今はそんなことを考えるより探検の方が優先だ。「もうすぐ、日がくれてしまいますわ!」と姫が言う。確かに、<br /> 窓を見てみると、太陽が沈んでいるのかもう外は暗くなりかけていており、学園寮全体がさらに暗くなっている。本当に鬼や妖怪の大部隊に遭遇してしまいそうだ。それを利用してなのか皿井は、さき<br /> がけや黒葛のこっそりと後ろに近づいてから、まるでお化けと言ってもいい声を出して驚かしていて、あひゃひゃと笑っている。さきがけはきゃあああ!と女らしくない声をあげ、あらゆる方向にパニ<br /> ック状態になって走っている。胸がたゆんたゆんと揺れているので、もう最高である。だが、凝視してしまうと、全員から冷たい目で見られるので、そのようなことはできない。黒葛はビクビクと震え<br /> 上がってしまって、それを見た皿井は流石に、ごめんね小雪ちゃんと謝っていた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">27:カイロ<br /> 探索で思い出したが入学式の前に気になる部屋を見つけていた事を思い出す。そう、実験室だ。あの時は急いでいた事もあってあまり中をよく確認できなかったが今になってあの部屋が気になりだして<br /> しまった。あの部屋はそもそも何の"実験"をするための部屋だったのか、今更ながらに考え出してしまう。だが窓の外の暗さから察するにもうすぐ夕飯の時間と言ったところだろうか。今更学校へ戻る<br /> と言うわけにもいかないか。 まあ、別に今すぐ行かなくちゃならん訳でも無し、明日の休み時間にでもその辺の奴らを誘って行けばいい話か。「・・・でさー、ソイツがいきなりご飯にザバーッっと<br /> かけちゃったのよ、ソレ」「ええっ、わっ、私、それはちょっと、変だと、思うっ・・・」「えー? 自分は全然アリだと思うッスよー? 」 どうやら女子の内一部は既に探索よりもおしゃべりと<br /> 言った感じになり始めている。明日からは屍共と戦う為の訓練も始まる事だろう。探索は一旦ここらでやめて、明日に備えて今日は早い内に体を休ませておくべきなのかもしれない。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">28:ウツケ<br /> 「おーい、とりあえず空き部屋も把握したし、食堂で飯でも食おうぜ。それからみんなで部屋わり、を……」よもやリーダーシップなど欠片も発揮し得ないことを確信した瞬間だった。<br /> 「親睦を深めるためにも、な?」「う、うん。そうだね。」「腹も減ったしな……」完全な同意を得るまでに少し時間がかかってしまった。何がそんなにイヤだって言うんだ。<br /> そしてこの後はきっと大欲情タイム、もとい大浴場タイムが待っている……うむ我ながら上手いぞ。することは当然……「ククッ」思わず笑みがこぼれてしまった。これはキモい。自分でもわかる。<br /> ますます辛い空気が俺を襲う。どうして……どうしてこうなった……。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">29:SDT<br /> い、いやいやいや!さすがにこれ以上俺の信用を落とすわけにはいかない。大欲情タイムはいつかのお楽しみにとっておこう。それより、何か名誉を挽回する手立てはないか…と考えていると、「…み<br /> んなで飯はいいんスけど、食堂に行っても何もないんじゃないっスか?」阿倍野がそう言い放った。場の空気が一気に凍る。確かに、この寮はほんの数時間前までただのゴミ屋敷だった。食べ物がある<br /> としても、せいぜい缶詰くらいだろう。…これは俺にとってピンチではない。それどころか、チャンスですらあった。「よし、俺が飯を作ろう!」ここぞとばかりに宣言すると、全員が「は?」と言っ<br /> た面持ちでこちらを見る。くそ、つくづく信用がないな。しかし、「料理だけは本当に自信があるんだ!頼む!」……と必死に頼み込むと、ひとまず俺が飯を作ることには皆が同意してくれた。そもそ<br /> も、クラスメイトの中でマトモに料理が出来るのは俺と月道と黒葛くらいだったので、その3人が食事当番ということになる。俺たちは適当に買出しをすませ、3人で仲良く(?)飯を作ることにした。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">30:ダイヤ(やり直し)(2回目)<br /> 料理をする三人以外は食堂の掃除をすることになり、掃除をしていない三人は今すぐにもスーパーで買い出しをしてからここに戻り、料理を作らなければならない。だが、買い出しに行く前に一応する<br /> べきことが一つある。それは食材の確認だ。先ほどは食堂には食べ物がないと考えていたが、よく考えると我が家はいつだって、冷凍の飯が保存されていたから、この大規模な生徒数の料理を作らなけ<br /> ればならないこの食堂には冷凍の飯くらいはあるだろう。今回は俺が一番得意なチャーハンを作ることになったのだから、ご飯は必ず必要だ。なので、食堂の冷蔵庫や冷凍庫があるキッチンに入った。<br /> 中に入ると、薄暗くて、キッチンの銀メッキが目立って見えている。誰もいる様子はない。ここに女子でもいたら、またよからぬことをしていると勘違いをしてしまいそうだからよかった。安心して冷<br /> 蔵庫や冷凍庫の所に行き、まず冷凍庫を開けようとしたら、冷凍庫の影から、人影が見える。「ここは誰にも見えないところだからって不純異性交遊をしようっていうのはないッスよー」と阿倍野はわ<br /> ざと声を大きめにして言った。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">31:カイロ<br /> 俺はすかさず阿倍野の言葉に軽い冗談で返してやる。「悪いな子猫ちゃん。今は君の相手をしてる時間は無いんだ、また今度な? 」人差し指を1文字に立て、ウインクもキメる。阿倍野は犬の糞でも<br /> 踏みつけてしまったかの如く不快そうな表情を見せてくる。「うえー、食後に聞いてたら吐いてるとこッスよ」酷い言われ様だ。だがしかしさっきまでの俺の言動を顧みると言葉を返してくれる分<br /> いくらかマシかもしれない。「おっとっと、こんな無駄話をしてる時間は無いんだった」俺はあくまでチャーハンの材料を探しているだけなのだ。冷蔵庫の扉に手をかけさっと開ける。米と油と卵、<br /> それから肉さえあればそれらを鍋にぶちまけて焼いてやれば簡単かつ手軽に美味い食事ができる。そんなチャーハンは学生の味方と呼ぶに相応しいと俺は思う。なお、ネギは俺が嫌いなので入れる<br /> つもりは無い。「・・・駄目だこりゃ。なんもねーや」残念な事に冷蔵庫の中には何も無かった。・・・正確に言うと大量のカビらしき物が付着した謎のタッパーがいくつか入ってはいたが数には入れず<br /> ともいいだろう。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">32:ウツケ<br /> 「お、おおっおおおーっ。あったっスね!食べられそうなの!」「うおい待て待て!」阿倍野がすかさず玉手箱に手を掛けるのだから冷や汗をかいた。「えーっ良いじゃないスかー冷蔵庫に入ってる物<br /> はいつになっても食べられるんスよー」「それは冷凍庫の話だ!」今まで生きてこれたのが不思議なくらい恐ろしい感覚の持ち主だ。こんなもん食ったら腹壊す……どころか絶対命に関わるだろう。<br /> 「どうだった。カゼエロウ」「風太郎だ。」月道輝夜(ツキミチカグヤ)は潔癖症らしく、どこで出したかマスクやゴーグルはもちろんゴム手袋にエプロン、左に洗剤、右に雑巾の完全武装だ。<br /> 「こりゃ全部ダメだ。冷凍庫もゲテモノしか入ってない。」「全く酷い寮に入れられた物ね。もう帰りたい。」喋りながらも雑巾がけの手を全く止めていない。凄まじい徹底ぶりだ。<br /> 「帰るっつっても、寮に来てるんだから通うのは厳しいんだろ?」「そりゃあね。通学時間だけでもやることなさすぎて死にたくなるもの。……食器も調理器具もダメね。間に合わせでも揃えないと」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">33:SDT<br /> …というわけで、3人で調理器具も含めての買出しということになった。月道は俺の半径3m以内には絶対に入りたがらないものの、普通に話してはくれる。しかし、黒葛のほうは取り付く島もない。「<br /> 黒葛、料理なんて出来るのか~?カップ麺は料理じゃないぞ!ははは!」などと軽い調子で話しかけてみても、ぷい、と顔を背けたままだ。「…はぁ。とんだ貧乏クジを引かされたわね」月道も、ケン<br /> カ中の二人の間に放り込まれて辟易している。「巻き込んで悪かった」「あら?謝る相手が違うんじゃないの?」「…そうだな」今にして思えば、黒葛との仲が険悪になった原因はすべて俺にあった。<br /> 初対面でコンプレックスを指摘してしまったこともそうだし、黒葛の趣味をタマ潰しにしてしまったこともそう。あいつは何も悪くなかった。「………………謝ろう」俺の口から、自然に言葉が流れ出<br /> る。冗談や欺瞞ではない。心からの、本当の気持ちだ。「ん、なかなかいい顔になったじゃない。ほら、行きなさいな」「ありがとう、月道」俺は月道に背中を押され、意を決して黒葛に話しかける。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">34ダイヤ<br /> 「黒葛、俺が悪かった」開口一番にそう言うが、「・・・・・・・」黒葛は沈黙を保ったままである。おそらく、俺が本気で謝っているとは思っていないのだろう。そもそも黒葛は何に対して怒って<br /> いるのか・・ああ、そうか。黒葛はコンプレックスについて怒っているのではなくて、俺が悪口のように言ったことに対して怒っているんだ。黒葛は早歩きで淡々とスーパーに向っていて、<br /> 話しかけてもこちらを見てくれない。……だが、こんなことで諦めてたまるか!この機会を逃したら、きっと俺はいつまで経っても黒葛に謝罪できないままだ。「黒葛!!」俺は黒葛の肩を掴むと、<br /> 強引にこちらを向かせる。黒葛は少しムッとした様子だったが、俺の目を見ると、どうやら"本気"であることを悟ったらしい。「…何だ?」と、俺と話す意思を見せてくれた。「黒葛、本当に<br /> 悪かった。黒葛がそこまで胸について悩んでいるとも知らず、俺は何回も胸が小さいとバカにしてしまった。これからは黒葛に対しては胸が小さいということは絶対に言わないようにする。黒葛は<br /> “胸”が小さくても可愛いからな」"胸"という単語が聞こえるたびに何かしらの反応をしていた黒葛は、俺の話を聞き終えると、もはや唖然として「君が本気で謝っているのは分かるが、その発言<br /> だと君は私に対して謝っているのか、またけなしているのかわからない。」と言う。?…なにが言いたいんだ、こいつは。後ろを振り返ってみると、月道は「なんでそんなこと言うのよ…」とでも<br /> 言いたそうな表情をしていた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">35:カイロ<br /> あー、そうか。胸が小さい胸が小さい連呼してるからか。そりゃ確かにいかんよな。だが俺は紳士なのですぐさま訂正する。「悪い悪い。お前のおっぱいは全然小さくないさ。むしろFカップくらいは<br /> 絶対あるもんな」うん、我ながら完璧なフォローだと褒めたくなる。実際のところ黒葛の胸は平坦であったがこちらは現在謝罪している立場なのだから、やはり多少のお世辞は必要であろう。俺なりに<br /> 気を利かせたつもりだったのだが。「・・・なるほどな。つまり、君は、謝るつもりなど毛頭無かったわけかな? 」黒葛の表情がみるみるうちに鬼ないし般若のような表情へと変わっていく。しまった、<br /> これじゃあ今朝と何ら変わらない展開じゃないか。「ま、待てつづおうふ」今の言葉を取り消そうと口を開いた途端に顔を殴られた。黒葛の拳は以外にも重く、すぐさま口の中に鉄の臭いが広がって<br /> くる。「ふふ、いい気味だ」黒葛はいじめっ子のような笑みを浮かべながらこちらを睨んでくる。だがその黒葛のすぐ後ろに、奴がいた。 そう、屍が。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">36:ウツケ<br /> 「つ、ツヅラァ!うしろぉー!!」"入学式"の時みたいなザコとは違う人型の大物だった。どろりとした全身を震わせ、何かしようとする素振りが手に取るようにわかる。だがわずか手が届かない。<br /> すかさず一歩踏み込んでツヅラの手を思い切り引っ張ったが――間に合わない!「……?」屍の動きは思ったよりも緩慢だった。いや違う。それ以上動けなかったんだ。「網引き(あびき)の相……<br /> 間に合ったっ!」何をしたのかはわからなかった。しかしどうやらツキミチの仕業らしい。「でかしたツキミチ!」体勢を立て直し俺は刀の柄を構えるが「まっ待つんだ!殺すのはっ」柄にもなく焦る<br /> ツヅラが横やりを入れてくる。「ハァ!?今そんなこと言って、どうすんだよ!」「……逃げる。」「お前っ」やってる場合じゃないケンカが始まると思ったのかツキミチは「だったらこれなら……」<br /> ツキミチが無数の細い棒をばらまき内1本を選び取る。「発衝き(たづき)の相!どうよ!」突如屍の脇腹がべこんとへこんだかと思えば彼方へと吹っ飛んでしまった。「ハァ、上手くいったわぁ」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">37:SDT<br /> チャンスだ。俺は瞬時にそう判断した。今ならば、あの大物をこの手で屠れるかも知れない。「おい、何をしてる!早く逃げるぞ!」。「………」「おい!」「…でもな、あいつを野放しにしといた<br /> ら、一体どれだけの人が死ぬ?あの生きてるんだか死んでるんだかわからない"何か"は、人の命よりも大切なのか?」「それは…」黒葛が問いに困窮する。だが、答えを待っている時間はない。こう<br /> している間にも、奴は必死に体制を立て直そうとしているのだ。「…すまん、黒葛」俺は黒葛にそう告げ、全力で走り出す。あーあ、これでもう、仲直りは無理だな。「!?待てっ…ダメだ!」目標<br /> まで、残り10歩、9歩、8歩、7歩…刀を抜く。6歩、5歩、4歩…3歩!両脚に魔力を込め、跳躍する。刀を振り下ろし、屍の首に切りかかろうとした、その瞬間!「死ね。」ザシュウウゥウッ!!<br /> 俺ではない。何者かが、屍を一刀のもとに切り捨てる。ザシュ、ザシュザシュザシュザシュザシュウゥゥウッ!!シュウウゥウ……巨大だった屍は見る見るうちに解体され、消失した。<br /> ―――名人芸を披露したその人物に、俺は見覚えがある。「お前、帯刀…」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">38:ダイヤ(ウツケによりちょっと手直し)<br /> なんで、こんなところに……」「黒葛小雪の監視をしていた。」とトーンの低い声でヲビナタは言う。すると、屍はもう消え去ったというのになぜか日本刀を抜いて構える。彼が持つ日本刀の刀身に<br /> 彫られた溝はとても美しく弓なりに曲がっており、その部分は夕暮れを反射した光で華やかに輝いている。「屍との共存、そんな世迷い言は――肯定できない」ヲビナタが話していくにつれて、刀の<br /> 発する橙色をした妖しい輝きがゆっくりとツヅラの方へ向く。「忠告だ。黒葛」ヲビナタの表情を見ると、とても冗談で言っているとは思えない冷静な感情が分かった。このまま、ツヅラが屍との共存<br /> という考えを改めなければ、場合によって始末をするということだ。ツヅラは遠くにいるが、ヲビナタの意図を理解したらしく、少し怯えつつも構えを取る。「何言ってんだ帯刀!お前にとっても、<br /> 黒葛はクラスメイトの一員だろ!?」とヲビナタに訴えたが、黙ったまま去ってしまった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">39:カイロ<br /> 黒葛はまだ震えている。月道が駆け寄り、手を貸そうとするが黒葛はそれを拒否し自分の力で立ち上がりはしたものの、顔は俯きがちになり足はまだ少し震えが収まらないようだ。てっきりこいつは、<br /> こういう事になるのはある程度わかっていて、あえてあのような自己紹介をしたのかと思ったが、この反応を見るとそうでもないようだ。「・・・すまない。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。・・・<br /> 買出しの途中だったな。必要な物を買ってすぐ帰らないとだな」心配しなくていいとは言うがその声は震え、見せた笑顔もどこかぎこちない。「あ、ああ、そうだよな!帯刀も腹減ってイライラしてた<br /> だけだろうし、気にする事ないよな! 」俺もひとまず黒葛に合わせる。月道も俺に続く。「・・・うん、そーだね。お腹減ってるとヤな事ばっか考えちゃうもんね」今さっき起きた出来事を忘れよう<br /> とするかのように俺達はスーパーへ急ぐ。「ほら行くぞ黒葛!元気出せって!」黒葛の背中をバシバシと叩いて元気付けてやる。さりげなくケツも触ってやると、無言で即座に足を踏みにじられた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">40:ウツケ<br /> ――「うっひゃひ!得意とか言ってチャーハンって!」「でも確かに美味いな。七百円までなら店で出せる」「ちゃあはん、って言うんスか?これすっごいウマイっスよぉ」<br /> 「君チャーハン知らないんです?サファリナとかならわかりますケド……」「どういう意味ですの?」「うめえ!やるじゃあねーか風太郎!おかわり!スープもな!」<br /> 「あっあっ、私もこの杏仁豆腐、おかわり!」急ごしらえの割には好評なようで何よりだ。献立はメインにチャーハン、そして野菜たっぷりなあっさりスープとデザートの杏仁豆腐を用意した。<br /> 体裁はせいぜい大衆食堂ってところだが、その取っ付きやすさが幸いしたか朗らかな笑顔で溢れ返っている。「ごちそーさん。」あのぶっきらぼうなアミガサでも少し満足げな顔をして席を立つ。<br /> ただ、ヲビナタ……奴だけはあの冷徹な顔を被ったままだ。あれから無事買い出しは済ませたものの、奴の敵意を目の当たりにしてから気が気でならなかった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">41:SDT<br /> まあ、俺がそんなことを気にしていても仕方ないか。片付けも終わったことだし、今日のところは何も考えず自室でゆっくり休むとしよう。幸い、この寮は部屋数だけは多いので、全員が自分の個室<br /> を持てたのである。プライベートなスペースがあるのはいいことだ。もし左門のようなムサ苦しい男と相部屋になってしまったら…想像するだけでゾッとする。 「ふ~~」俺は申し訳程度に掃除さ<br /> れた自室に入ると、真っ先にベッドへ体を投げ出す。それにしても、今日は色々なことがあったな。たった一日のはずなのに、まるで何週間も経ったかのようだ。さすがの俺も、今日は女どもの風呂<br /> を覗きに行く気分にはなれないぞ。「9時か………」ボーッと時計を眺めていると、凄まじい眠気が襲ってくる。いや、まだ寝るつもりは無い…無いのだが……「ぐぅ…」………<br /> ――――「…おい、起きろ!何時だと思ってる!」…あぁ?何時かって…9時ぐらいだろ?……「おい!7時だぞ!」……7時?……「起~き~、ろって!」 バッ!!誰かが、俺の布団をひっぺがし<br /> た。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">42:ダイヤ(ウツケがちょい手入れ)<br /> それにより、すってんころりんとおにぎりのように床に落ちる。これを見たのか、「君は情けないな…」と誰かが発言する。起きた間もないので、視界はぼやけてみえるが、胸の部分が平べったいの<br /> が分かるので黒葛だとすぐに分かる。袴の中を見たかったが、同じ事を繰り返したくなかったのですぐに立ち上がり、「それは、勢いよく引っ張るのが悪いんだろう」と言うが、「私が何回も起<br /> こしても、君が起きようとしなかったからだ。私がここまで大きな声で言っても起きないから私自身が恥ずかしかったじゃないか」と言い返される。今思うと、黒葛にしては鋭い声であった。こちら<br /> としては何も口答えすることはできない。「それよりも、早く行かないと宇乃坂先生は遅刻した生徒にはお仕置きするといっていたからな……」と少し遠い目をしながら洩らす。ケンカ中である黒葛<br /> までもが、心配してここに来るということはどのようなお仕置きをさせられるのかが心配になってきた。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">43:カイロ<br /> お仕置きかぁ、お仕置きと言えばやはりアレだよな、おしりペンペン。パンツをおろされて直接ケツを叩かれる訳だな?「わかった。それじゃ俺は先に行くから黒葛はちょっと遅刻してくれ」「ああ、<br /> また君は下らない事を考えているのかな」黒葛は呆れたとでも言いたげな表情でこちらを見ている。ジョークはこれくらいにして教室へ行く準備をしないとな。「悪い悪い、冗談だよ。俺、朝の一発が<br /> あるから、ちょっと部屋の外で待っててくれ」「・・・一発?」少し間を空けて黒葛が意味が解らないと言いたげに聞き返してくる。「・・・いや、着替えるって意味だよ。見たけりゃ見せてやるけど」<br /> 流石に寝巻きで学校は行けんし、ちょっとした冗談を交えつつ一旦退出してもらおうと思ったが、やはり女子にはあまり通じないネタだったか。いや、通じられても困るしむしろ助かったのだが。<br /> 「あ、ああ、すまない。気が利かなかったな・・・」少し顔を赤らめ、黒葛は部屋の外へと出て行く。それを確認し俺は素早く寝巻き姿から制服へ着替え、トイレに向かった。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">44:ウツケ<br /> ――――「遅かったな。」「時間掛かるのが女だけと思うなよ?」うーむ、跡追の豊満なバスト・ヒップがありながらくびれた腰のその肢体は素晴らしいのに、如何せん妄想するには顔が厳しいか。<br /> 10分もかかってしまったぞ……「全く……ほらこれを食べろ。」呆れ顔のツヅラの手にある風呂敷から、1個のパンが差し出された。「かたじけねぇ」手のひら大のそれを頬張ると焼きたての温もり<br /> が残っていて、口中には餡の濃い甘みが広がる。「うまい。あんぱんか。」「それじゃあ、調理場の皿洗いは任せたよ。」何、学舎へ行くのではないのか。「君がいないから私と月道だけで朝ごはん<br /> を作ったんだ。文句は言わせないぞ。もちろん、遅刻もなしだ。」しまった。俺達3人に調理と給仕全て任されたのをすっぱり忘れていた。まだ7時だったというのに遅刻だどうだと騒いで何事か<br /> と思えば、そういうことだったか。始業時間は、7時40分。現在は、7時20分。うんピンチだ。「ちょ、ちょーっと待て!」「寝坊した君が悪いんだよ。それじゃあ私は急ぐから。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">45:SDT<br /> それだけ言うと、黒葛は足早に去ってしまった。くそ、薄情な奴め。もっとも、口を聞いてくれなかった時期のことを考えれば、これでも十分優しいとは言える。「さて…」遅刻したらおしおきだ。<br /> 急いで皿を片付けるとしよう。「うおおおおお!!!」シャカシャカシャカシャカシャカ!!俺は、もはや音速に到達するかのごとき速さで、一瞬の内に皿洗いを終わらせた!時刻は7時半。よし、<br /> 余裕で間に合うぞ!―――――「ハァ、ハァ…お、オハヨウゴザイマス……」だが結局、俺が教室に着いたのは8時。既に1限の授業が始まっている。地図も持たずに寮を出た俺は、初日のように<br /> 学園内を彷徨うことになってしまったのだった。「…一柳クン。チミはそんなにお仕置きが好きなのかな?」「ハァ、ハァ、す、す、すびません…」「う~ん。まあ、いいよ。座りなさい」ラッキー。<br /> なんだかんだ言っても、宇乃坂は甘い。もしかしたら俺に惚れているのかも知れないな。そんなことを考えていると、編笠が「ぶっ!!」と吹き出していた。…あいつ、やっぱり心が読めてるんじゃな<br /> いか。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">46:ダイヤ(やり直し)<br /> しかし、気にせずに着席する。宇乃坂は教壇の上に立ち、教育方針や授業について長ったらしい説明を始めた。そんな説明に時間をつぶすより、宇乃坂でも見ながら妄想でもしよう。年齢は多分20代<br /> だと思うのだが、学校から無料で配布されている制服のようなものを改造して着ているので、高校生のように見える。ついでに、クラスメイトが制服を着ていない理由は、着用は自由でかっこ悪いから<br /> 着ていない。容姿はきれいというよりもかわいらしい。そして一番大事なことだが、黒葛ほどではないが胸が小さい。だが、別に貧乳だったらダメだなとは思わないな。だって、それはそれで需要はあ<br /> るからだ。俺は女性を見るだけで何カップなのかが分かる特技があるが……宇乃坂のために測るのはやめておこう。「ところで一柳クン…私をじろじろと見てどうしたのかな?」と宇乃坂が唐突に聞い<br /> てきた。しまった!もう学校では変なことはばれないようにするって決めたのに!</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">47:カイロ<br /> だがバレてしまっては仕方が無い。ここは素直に謝るとしよう。「ヘヘヘすいません。先生の胸とケツに見とれてました」後頭部に右手を当てながら謝る。・・・だがこんな台詞を放っては折角俺が昨日<br /> 築き上げた皆との信頼が崩れ去ってしまうのではないか?とも思ったのだが、思いの外皆の反応は薄かった。もしかして、俺はこういうキャラだと定着してしまったのか?「・・・まあ、うん。程々に」<br /> 宇乃坂はなんとも微妙な反応を返してくる。しまったな、俺は本来学級委員とかみたいなクラスのリーダー的ポジションが似合うってのによもやこんなド下野郎扱いとは・・・トホホだ。顔が俯き、<br /> 自然と溜息が出てしまう。・・・ふと横に視線をやると、皿井が必死に笑いを堪えながら俺に小さく折り畳まれた紙を渡そうとしてくる。皿井の身振り手振りから察するに俺宛てらしい。まったく、<br /> 小学生かよと思いつつ紙を広げて中を読む。シンプルに一文、『ホモ?』とだけ書き記されていた。―――このままだと、駄目だ。 授業くらいは真面目に受けねば・・・</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">48:ウツケ<br /> しかし、そんなことよりも宇乃坂が男だったのは何よりもショックだ。確かに男か女かわからんような見た目と声をしているがそれがまさかこの俺に見破れんとは……!<br /> 「それじゃっ今日は一日目ってことで特別編成授業だ!体力測定、やるよー!次は皆、体育館にィ、シュー・GO!!」なんだこの痛すぎる台詞は。しかし、これはチャンスかもしれない!昔っから<br /> 体力だけは自信がある。ここで他の奴らと差を付ければ少しは皆も見直してくれるはず……!と思うとツキミチが手を上げて立ち上がる。「あのう、先生。私たち、まだ着替えがないんですけど……」<br /> はっ!そうだ体育と言えばお着替えタイムが……いやよそう。「んーいや、着替えはいらないよん。」「えっでも体操服とかないと動きづらそうだし、汗とかかいちゃうし……」<br /> 「その制服は戦闘服も兼ねててねっ。しかも汗かいてもすぐ乾くハイスペック制服なんだよー?」「そ、そうなんですか……わかりました。」ほら見ろ、くだらん野望はすぐさま砕け散った。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">49:るんこ<br /> しかしそんな失望などなんてことはない。俺には体力測定がある!期待に胸を踊らせ、走ったり、跳ねたりしながら、学園の敷地の一角にある体育館へと向かった。昨日の探索では時間がなくて、外観<br /> しか確認できなかった。一番乗りして、なかを見て回ろう。――そう思っていたところへ、全速力で後ろから走ってきて、俺を追い抜いた奴がいた。左門頼人だ。その上「おせえな、一柳!」などと言<br /> って煽ってきた。・・・コノ野郎!これが俺の全力だとでも思ってんのか?―――「いいだろう!全力を出してやる!!」と叫び、こちらも全速力で左門を追いかける。じりじりと距離が縮まる。が、<br /> なかなか相手も速い。このままでは体育館に着くまでに追いつけない。焦る俺。「仕方ねえ、限界の更に上をm――と、独り言をつぶやいた瞬間、迂闊にも段差に躓いてしまった。「 あっ 」 激し<br /> く後悔したが、遅かった。凄まじい勢いで宙をすっ飛び、上半身を、嫌というほど地面に打ち付け、8mほど転がって壁に激突した。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">50:SDT<br /> 「い、いっってぇ~~!!!」痛みに耐えかね、叫び声を上げる。なんて堅い壁なんだ。俺が全力で体当たりしても壊れなかった壁は、お前が始めてだぜ。…などと壁の健闘を称える余裕があったはず<br /> もなく、俺はその場で、ただただ悶え苦しむのみ。「大丈夫か!?」左門が慌てて駆け寄ってくる。「だ、大丈夫じゃねぇ…骨が折れたかも…」嘘ではない。本当に脚に違和感がある。「あぁ!?見せ<br /> てみろ!…ふ~む、まったくわからん」「おいィ!?」「何事ですの~?」俺と左門が小芝居をしていると、姫をはじめとした何人かの女子が様子を見に来てくれた。俺の叫び声を聞きつけたのだろう。<br /> 「いやな、骨が折れたらしいんだが」「見せてごらんなさい。カゼタロー、少し触りますわよ」そう言うと、姫が俺の脚を触診し始める。ナデナデ…い、いかん。さすがに今勃起するのはマズイ。耐え<br /> ろ俺、耐えろ俺…「ふんっ!!!」バキャ!!「ぎゃあああ!!」またもや、声を上げるほどの痛み。「骨折ではなくて、脱臼ですわね。治してさしあげましたわ。さ、体育館に向かいますわよ」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">51:カイロ<br /> サファリナはそのまま様子見の女子達と共に去ってしまう。「だ、大丈夫かよほんとに」左門は俺を心配して声をかけてくれるが俺は度重なる激痛に悶えしばらく返事が返せない。治療自体には感謝<br /> してはいるのだがいくらなんでも力技すぎやしないか? 「し、心配するなって。平気だよ。つい最近もっと辛いの経験してっからな」立ち上がる。さっきの痛みはまだ残っているものの脚部の違和感は<br /> 消えているし、特に問題も無く動く。「・・・はたから見ててもかなり痛そうだったが。あれより辛いってどんくらいだよ」「ははは、泣いてはいないさ」冗談を返しつつ進み始める。またどこかに<br /> ぶつかりでもして姫の治療を受るハメになっても困るので気持ちゆっくりと歩いていく。 ―――「えー、それでは、第一回体力測定テストを始めまーす。どんどんぱふぱふー」全員が体育館に集まった<br /> 所で宇乃坂が告げる。「第一回って事は二回三回もあるのか・・・?」「あー、ノリで付けてみただけだかんね。そんな気にしなくていいよ」宇乃坂が素早く俺の独り言に反応してくる。</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">52:ウツケ<br /> 「それじゃーまず、100メートル"とう"から行ってみようかーっ!」「100メートル……」「……とう?」……やはり魔ヶ原学園の体力測定、タダでは済まないようだ。「みんなーっ位置に<br /> ツイてぇーー」位置って何処だ。何やら宇乃坂は巻物のような物を懐から取り出した。ロクな説明もなく始まった謎の競技に皆も困惑しつつ、警戒しつつ、それぞれ身構えていく。「よーーーーいっ」<br /> 巻物は紐解かれ、腕いっぱいに広げられた。一瞬の静寂が体育館の天井を低くしたかのように重圧としてのしかかってくる。……くる!「ドン!」「グルルゥオアアアアアアアアアアア!!!!」<br /> 「うわああああああああああああああああ!!!!」その場にいた全員の視線が宇乃坂に集中していた。だがしかし、誰もがその瞬間何が起きたかわからない。そう、現れたのは巨大な"屍"。<br /> にも関わらず、真下の宇乃坂はにこやかに佇んでいる。俺も腰を抜かしそうになるが持ち堪え、大きく息を吸い込んだ。100メートル"逃"。やることは決まっている。「みんな、逃げろォ!!!」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">53:るんこ<br /> 「逃げろって、お前はどうすんだよ?その足じゃ無理だろ。」左門の言う事はもっともだ。幸い、屍はまず女子たちの方へ狙いを定めたようだ。俺は足を引きずりながら屍からはなれるようにして<br /> 目立たない壁際へ移動した。「そうだ。だから俺は戦うよ。」左門は驚愕と猜疑の混ざった表情を浮かべた。「なに!?本気か?あんな規格外の化け物に太刀打ちできるのか?」「正直自信は無い。<br /> でも、逃げてもどうせ、すぐにやられるだろ。それなら特大の一発をお見舞いして派手に散る(笑)」奴はすこし躊躇っていたが、やがて諦めたような微笑みを湛え言った。「ふふん、お前面白いな。<br /> その賭け、俺も乗った!」その申し出は嬉しかったが受け取るわけにはいかない。「やめておけよ。あいつの一撃、間違いなくキツイぜ。お前は逃げられるんだから・・・」説得を試みるも左門の<br /> 意思は固いようで、折れる気配がなかった。俺はあきれながら、諦めて渋々承諾した。そうと決まればちんたらしてはいられない。すぐに作戦会議だ。「いいか、俺が最強のルーン魔術をぶっ放す。<br /> こいつは発動までにすこし時間がかかる。そこらへんの草や木、動物たちから少しづつエネルギーを集めなきゃいけないからな。そんで俺の攻撃でひるんだところを、お前が追撃してくれ。」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">54:SDT<br /> 「わかった!よ~し、やってやろうじゃねぇか!」左門は拳と手の平をバチンと合わせ、気合いを入れた。案外、こいつとは仲良くやっていけるかも知れないな。もっとも、それはこの場を生きて<br /> 切り抜けられたら、の話だが。「さて…始めるか。邪魔するなよ」「おう!!」幸い、屍はまだ俺たちの存在に気づいておらず、女子たちと追いかけっこをしている。魔術を発動するまでの時間は<br /> 十分にありそうだ。「すぅーーーー………」俺は目を閉じて、大きく息を吐く。何も考えるな。心を、ただ無に保つ。……しばらくすると、俺の体に足りない酸素を補うために、エーテルの風が吹いてくる。<br /> 森羅万象と一体になったかのような感覚。いや、現実にそうなっているのだ。今だけは、俺の体は宇宙と同義。息を吐けば吐くほど、魔力が体に満ち満ちていく…「マズい、気づかれた!?」<br /> 左門の言葉は、俺には届かない。屍がドシン、ドシンと近づいてきているのも構わず、無言で集中を続ける。「クソッ!戦うしかねぇな」攻撃に備え、左門がバットを構えた。次の瞬間――</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">55:カイロ<br /> 「ウオオアアァァ―――ッ!!」咆哮し、俺のカラダ全体へと魔力がチャージされる。数分間だけではあるが、俺の体の強靭度は修羅さえ軽く超え、神の領域とほぼ同一の物となることが出来るのだ。<br /> 体から溢れ出る魔力の一部が空気に触れるたびバチバチと音を鳴らしている。「待たせたな、左門!」本当はこの大技、あまり使いたくは無かった。序盤から本気でかかるのは噛ませ犬みたいで嫌だ<br /> というのもあるが、タイムリミットが過ぎると体全体が砕けそうな激痛に襲われるのだ。だから、決着は迅速に付けたい。俺は素早く巨大屍の背面へと回り込む。巨大な背中が視界をいっぱいにする。<br /> その巨大な背中へと俺は両腕を突っ込み、体内の何か硬い物―――多分骨だろうか―――をがっしり掴み思い切り踏ん張る。そのまま逆エビの如く反り帰りブリッジの体勢へと移る!「落ちろぉッ!」<br /> 俺の魔術を駆使した強烈なジャーマンスープレックスだ!巨大屍はそのまま床へと叩きつけられる!「・・・一柳」左門がこっちへ駆け寄ってくる。「おう、どうした左門」「・・・刀は使わないのか?」</font></p> <hr /><p class="AlignJustify"><font face="メイリオ">56:ウツケ<br /> 俺はフッと笑ってみせた。「なぁに、こいつはそれだけじゃあないってだけだよ。」「ヤベェーッス!カゼタロー!!見損なったッス!!」「うおあ!」<br /> 突然アベノが抱きついてくるものだから危うくバランスを崩しかけた。とりあえず見直した、と言いたかったのはわかる。ふと見回すと大勢の呆然とした視線を確認できた。<br /> そして数人が駆け寄ってくる。「凄い凄い!今のどうやったの!?」「なかなか美しいスープレックスでしたわ!わたくしの覇道にカゼタローも」「ね、ねぇ!風太郎君も変身できるの!?」<br /> はっはっはよせよせ――計 画 通 り――「で、こいつはどうするんだ。まだ息があるぞ。」編笠の声だ。彼の目はピクピクと痙攣した屍の頭の方へ向けられている。<br /> やはり足の怪我が響いたか。道理で手応えはイマイチだった。「それホント!やー良かったねぇペクレルぅ。よーしよしよし」ひょこっと現れた宇乃坂に編笠は仰天している……。</font></p>

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