<p> <br /> こんにちは、朝比奈みくるです。<br /> 今日は、探索の日なんですけど、わたしはちょっと大きめの鞄を持っています。<br /> なんでかって? それはね、わたしがいつもお世話になっている、大好きなキョンくんにお礼がしたかったの。<br /> だから、今日はお弁当を作ってきたの。探索、一緒になれたらいいなぁ……。<br /> <br /> <br /> 「キョン、遅いっ! 罰金!」<br /> いつものようにキョンくんが遅れてきて、涼宮さんがそれを怒る。<br /> うふふ、進歩してないなぁ……。<br /> 「はいはい、わかってるよ。朝比奈さん、遅れてすみません」<br /> キョンくんはいつも、わたしにだけは遅刻を謝ってくれます。ちょっとだけうれしいです。<br /> いえ、大丈夫です。……えっと、今日もごちそうになりますね。<br /> 「任せて下さい。あいつらに奢るのは気が引けるけど、朝比奈さんなら喜んで」<br /> わたしはキョンくんに微笑みかけて、並んで歩きだしました。喫茶店までの短い時間、ちょっとだけ幸せ……。<br /> <br /> <br /> とっても短い幸せな時間は終わったけど、今度は喫茶店の中で幸せな時間がきました。<br /> 奥の、窓際の席に座るわたし。その横に座るキョンくん。向かいに座る3人……。<br /> <br /> こっち側に二人きりってなんかうれしいです。少し、キョンくんの方に近付いちゃったり……ひゃっ!<br /> キョンくんと手が触れ合って、思わず引っ込めちゃった。<br /> 「あ、すいません」<br /> いえっ、こっちこそごめんなさいっ!<br /> ちょっと照れた感じで笑うキョンくん、かわいいなぁ。もう少しくっついとけばよかった……。<br /> 「ちょっと、キョン! あたしのみくるちゃんに何やってんのよ!」<br /> す、涼宮さんが怒ってます……。あぁ、またやっちゃった。っていうか、『あたしの』って……。<br /> 「何やってるとか言われてもな。ただ、手が当たっただけだ。お前も早く注文を決めろ」<br /> そう言うと、涼宮さんは不機嫌そうな顔をしながら、メニューを開き、選び始めました。<br /> なんだか、キョンくんの涼宮さんのあしらい方が上手になってきてる気がするなぁ……。<br /> そして、待ちに待ったくじ引きの時間。ここでキョンくんとなれなかったら、わたしのお弁当は水の泡。<br /> お願いだから、今日は一緒にしてください……。<br /> 「印付きですね」<br /> 「わたしも」<br /> 「わたしは無印です」<br /> 「俺は……無印だな」<br /> やった! キョンくんと一緒だ!<br /> 「じゃあ決まりね! あたしとみくるちゃんとキョンの組と、有希と古泉くんの組!」 え……? 涼宮さんも一緒、ですかぁ……。しょうがないかなぁ、あんまり無い3人組だし、楽しもうっと。<br /> 「ほらほらっ! 早く行きましょっ!」<br /> わたしは、涼宮さんに引きずられながら店を出ることになりました。うぅ……キョンくん早く止めに来て……。<br /> 「さぁ、今日はどこに行こうかしら! 川で流される? 湖に沈む? ……あ、山に埋めておとりにするのも捨てがたいわ!」<br /> なな、なんでわたしそんな役目なんですかぁっ!?<br /> <br /> 「ふふん、かわいい女の子がそんな目に遭うのは基本よ! そしたら不思議なことの一つや二つ、すぐに出て来るわ!」<br /> じゃあ、自分でやればいいんじゃないですか? ……って言おうと思ったけど、やめました。<br /> 言ったらもっとヒドい目に遭う気がしたから……。あ、でも、涼宮さんはかわいいから、ほんとは代わって欲しいかも。<br /> わたしに着せる衣装を涼宮さんに来て欲しいなぁ……絶対に似合うのに。<br /> 「いーかげんにしろ。朝比奈さんを使わないで、自分でやりやがれ」<br /> と、キョンくんが助けてくれました。やっぱり頼りになるなぁ……。<br /> 「何よ、ムキになって……バッカみたい!」<br /> あぁぁ……、助けてもらったのはうれしいけど、涼宮さんが不機嫌になっちゃったよぅ……。<br /> こんなこと、ほんとは言いたくないけど……頭の中で指令がぁ……。<br /> 「キョンくん! 早く涼宮さんを追ってあげてください! え、えーと……わたしはそこの公園にいますから!」<br /> 「え? で、でも……」<br /> 「いいから!」<br /> すぐにキョンくんは追いかけてくれたけど……けど……。<br /> わたし、何してるんだろう……。やっぱりダメだ。自分の気持ちを出せないっていうのは辛いです。<br /> でも、未来からの指示を無視したら、この楽しい生活が終わっちゃいますし……。<br /> もう嫌だよぅ……、自分の気持ちに正直になりたいよぅ……。<br /> そんなことを思いつつ、ベンチに座って、涙を滲ませたり、地面に絵を描いたりしてました。<br /> もう、どのくらい経つかなぁ……。二人とも遅いよぅ……。<br /> 「あ、みくるちゃん……ごめんね、置いてっちゃって」<br /> その時、涼宮さんとキョンくんが二人で帰って来ました。仲直り出来たのが、うれしいような……残念なような……。<br /> 「いえ、いいんです。よかったですね、仲直りできて」<br /> <br /> 「べ、別によくないわよ! 仲直りじゃないわ、キョンが許せって言ったからしょうがなく……」<br /> 「ほほーう。いつ、どこで、どのキョンがそんなこと言ったんだ?」<br /> 「む……う、うるさい!」<br /> このやりとりが一番仲直りしたってわかる証拠なんですよね。<br /> わたしが一人でいた時間は無駄じゃなかったみたい。<br /> 「さ、古泉くんと有希のペアと合流するわよ! ついてきなさいっ!」<br /> 涼宮さんが前を歩いて、わたしとキョンくんが並んで歩く、よくある状態。再び、わたしの幸せな時間です。<br /> 「本当にごめんなさい、朝比奈さん。いつも、俺とハルヒが迷惑かけちゃって……」<br /> キョンくんはいつだってこう。自分は悪くないのに、他人を庇うんです。<br /> ちょっと優しすぎるかな? そこがいいんですけど。<br /> 「今度、何かお詫びしますから」<br /> お詫び……かぁ。涼宮さんに内緒でデートとかしたいなぁ。<br /> う~ん、でも、今の一番の願いは……。<br /> 「はい、どうぞ!」<br /> わたしはキョンくんの手に、作ってきたお弁当を渡しました。<br /> 「え……こ、これ?」<br /> 「キョンくんがいつも頑張ってるご褒美です! 頑張って作ったんですよ!」<br /> <br /> わたしは、胸を張ってそう言いました。だって本当に頑張ったし、自慢じゃないけど、美味しくできたと思うし……。<br /> 「でも、いいんですか? 俺だけこんな……」<br /> う~、なんで気軽に受け取ってくれないかなぁ。もう、しょうがないですね。<br /> 「これを受け取ってくれるのがお詫びです! さぁ、戻りましょう!」<br /> 両手でキョンくんの手と、お弁当を挟んで、わたしは歩き出しました。あ、押しつけたってことでいいです。<br /> もう、嫌だなぁ……。わたしにも、何か幸せなことが降ってこないかなぁ? お願いします、神様……。<br /> 「ありがとうございます、朝比奈さん」<br /> 不意に、キョンくんが笑いかけてくれました。今までで一番カッコいい笑顔で。<br /> ……ちょっとだけ、幸せかもです。<br /> そして、わたしの幸せはこれで終わりだと思ってたんですが、もう一つだけ神様はくれました。<br /> 「印無しです」<br /> 「あ、俺もです」<br /> 午後の探索、キョンくんと二人になっちゃった。神様のおかげかな?<br /> <br /> その時、マナーモードにしてたわたしの携帯が震えだしました。誰だろう……。<br /> <br /> From キョンくん<br /> 作ってくれた弁当、一緒に食べましょう。<br /> <br /> キョンくんの方を見てみると、わたしに向かって微笑んでいました。<br /> なんだか、カッコいいです。ポーッてしちゃう……。<br /> でも、うれしいですね。やっぱり神様に願いが届いてくれたんです。<br /> ついでに、キョンくんとずっといれるようにしてくれないかなぁ? ……望みすぎですよね。<br /> とりあえず、幸せになれそうな時間を貰えたからよかった! 今日は……少し甘えさせてもらおうかな?<br /> もちろん、キョンくんが勘違いしない程度ですよ? わたしはキョンくんと仲良くしすぎちゃダメですから。<br /> 「お待たせしました。さぁ、行きましょう朝比奈さん」<br /> 会計を終えたキョンくんが駆け寄って来ました。その手をわたしは掴んで、指を絡ませて握っちゃいました。<br /> うふふ……これくらい、いいですよね? 神様。<br /> 「行きましょう、キョンくん!」<br /> 幸せな時間に……なりますように。<br /> わたしは、そう空に呟いて、笑顔でキョンくんと歩いていきました。<br /> <br /> <br /> おわり<br /> </p>